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「皇室典範会議」初会合・女性天皇など検討(2005年01月25日)  皇室典
○女性天皇の是非など皇室典範改正を検討する小泉純一郎首相の私的諮問機関「皇室典範に関する有識者会議」の初会合が25日、首相官邸で開かれ、座長に吉川弘之・元東大学長、座長代理に園部逸夫・元最高裁判事を選出した。同会議は秋ごろに新たな制度について報告書をまとめ、政府は来年の通常国会に皇室典範改正案の提出を目指す。会議で小泉首相は「わが国の象徴である天皇の地位の安定的継承は、国家の基本にかかわる事項だ。国民の関心の高い問題で、十分審議いただきたい」とあいさつ。今後は月1回ペースで会合を開き、皇位継承順位について▽男子優先、女子でも可能とするか▽男女を問わずに長子(第1子)とするか−などを検討する見通しだ。(毎日新聞)

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○いよいよ「皇室典範に関する有識者会議」が始まった。報道での予測では、女性天皇を認める方向で進みそうである。

なぜそう言えるか。そもそもこの会議の目的が、「皇位継承を安定的に維持する」方策を考える点にあるためである。皇室には昭和40年生まれの秋篠宮殿下が誕生して以来、男子皇族が生まれていない。平成13年12月に、皇太子ご夫妻に愛子内親王が誕生したが、今後、第二子が生まれるかどうかは不明な状態になっている。こういった現在の皇室の状況からして、女性天皇を認めない現皇室典範を放置しておけば、いずれ皇位継承者が根絶してしまう。

ただ、この問題は、日本の歴史と象徴天皇制の根幹にかかわる問題だけに、幅広い視点や、国民の声に耳を傾けた慎重な論議が求められる。雑駁ではあるが、浮上しそうな主な論点を整理してみた。

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○現状の憲法規定と皇位継承
日本国憲法は第2条で皇位継承者を「世襲」と規定している。そして、国会の議決した皇室典範によって「皇統に属する男系の男子」と、皇族男子だけに限定している。

日本国憲法
第一条  天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。
第二条  皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。

皇室典範
第一条  皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。

○この皇室典範第2条で皇位継承順位を定めている。これによると、現在の皇室での皇位継承順位は、@皇太子殿下A秋篠宮殿下B常陸宮殿下C三笠宮殿下D寛仁親王殿下E桂宮殿下となる。BからEまでの方々は、いずれも年長であり、皇太子殿下が天皇になれたあとの次の皇位継承者としては、いまの規定のままでは、秋篠宮殿下しかいなくなる。このため、将来的に皇位継承者が不在になることの危惧は、かなり現実問題として深刻である。

第二条  皇位は、左の順序により、皇族に、これを伝える。
一  皇長子
二  皇長孫
三  その他の皇長子の子孫
四  皇次子及びその子孫
五  その他の皇子孫
六  皇兄弟及びその子孫
七  皇伯叔父及びその子孫
2  前項各号の皇族がないときは、皇位は、それ以上で、最近親の系統の皇族に、これを伝える。
3  前二項の場合においては、長系を先にし、同等内では、長を先にする。

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○現法制の構造について
皇室典範とは、皇位の継承順位など皇室制度について定めた「法律」である。大日本帝国憲法下の旧皇室典範は「皇室の家法」とされ、帝国議会は関与できなかった。戦後、公布された日本国憲法は第2条で皇位継承者を「世襲」と規定した。日本国憲法と同時に施行された現皇室典範は、国会で決議が行われる法律として位置づけられ、皇室制度への国民の関与が可能になった。

○皇室典範は、旧時代のものから皇位継承について「男系男子主義」をとり、これは新皇室典範でも継承されて、新旧いずれも「女性天皇」を認めていない。「男系」とは父方の系統を意味し、古代から、皇位継承資格は、父方の血統に天皇を持つ男系であることを大原則としてきた。

○憲法は、皇位継承に関する規定は「世襲」と定めているだけなので、皇位継承順位や資格等の規定の変更は、憲法改正ではなくて、皇室典範改正として、国会による法律改正という形になる。

○日本国憲法14条との関係
女性天皇を憲法第14条(平等原則)との関係で、女性にも天皇になる権利があるという論がある。一見もっともらしいが、天皇制を、この面だけで議論するのは、本来は正しくはない。平等原則を持ち出すならば、そもそも、世襲という、国民の平等原則と全く相反する天皇制を根本から否定することとなるからである。また、皇位継承順位は、例えば、長子優先などの優先順を決めることとなるが、それ自体も、平等原則からして大きな例外となる。天皇制自体を憲法に導入する以上、それ自体が平等原則の大きな例外規定を設けるわけで、そこに国民の平等原則を持ち込むと、やや論理矛盾となろう。憲法で天皇制を取り入れるかどうかは、日本の古代からの歴史的経緯を元にした事実を、国民としてどのように維持していくか、という問題に行き着くこととなろう。

ただ、男女平等の基本理念は、現在の国民共通の考え方である。新しい皇室像を形作るにあたっては、できうる限りにおいてその精神を入れていくのが、皇室制度の維持につながる結果となると考える。

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○「女性天皇」について
女性天皇それ自体は、過去の歴史上も存在しており、その導入を否定する意見はあまりないであろう。(その点で議論の中心は「女系」の点であろう)。

○歴史上の女性天皇について
過去、下記に記載したような10代8人の女性天皇がいる。この女性天皇は、いずれも、皇后だった未亡人か、または独身の皇女で、政治的あるいは血縁上の理由から男子の後継者を立てられないために即位した女性たちと言われている。どの女帝も、即位後に子供を出産したりその子供が即位したりした例はなく、退位後の皇位は男系に戻っている。女帝の子が皇位を継いだ例(この時点で皇統は女系に移る)は一度もない。このため、父方の血統に天皇を持つ男系の原則は維持される形で、一時的なものであったとされている。

第33代  推古天皇  
第35代  皇極天皇
第37代  斎明天皇(皇極天皇の重祚)
第41代  持統天皇
第43代  元明天皇
第44代  元正天皇
第46代  孝謙天皇
第48代  称徳天皇(孝謙天皇の重祚)
第109代  明正天皇
第117代  後桜町天皇

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○「女系」について
女性の皇位継承は認められるとしても、問題は「女系継承」を認めるべきかが、これまでの伝統との絡みで議論対象となろう。

前述のとおり、歴史上、女性天皇は十代8人いるが、皇位は父方の血統に天皇を持つ「男系」で継承されという古代からの大原則を変更するかどうかである。この継承概念はほぼ8世紀頃に定着したそうである。この原則が、明治憲法制定と同時に同時に公布された旧皇室典範で成文化されたと言われている。

○「男系の世襲」とは、父方に天皇を持つことを意味する。現在の天皇は125代目である。そして皇太子殿下が天皇となれば126代目となる。もし、愛子内親王が127代として女性天皇となり、父方に天皇を持たない男性と愛子天皇との間に生まれた子が128代目天皇として即位した場合、その天皇が男性であろうが女性であろうが、「女系天皇」となり、皇統が女系に移行したこととなり、皇位は父方の血統に天皇を持つ「男系」で継承されという古代からの大原則を変更したこととなる。

この問題は、戦後の皇室典範改正の際にも、戦後の新憲法制定議会で議論がされていたようであるが、結果的には皇位継承は「男系男子」ということになった。ただ、当時は、男子皇族が多く存在し、「皇統の男系の男子がなくなるような心配はない」(昭和21年の政府答弁)など、女帝を立てる情勢には迫られていなかったことが大きい。ただ、金森徳次郎憲法担当大臣は、「男系でなければならぬということは、もう日本国民の確信であろうかと存じます」と述べながら、「(日本国憲法)第2条で世襲としてあるが、これは必ずしも男系男子を意味するということは決まっていない」とも言っており、時代時代の研究によって世襲は男子のみであるどうか考える余地を残していた。

○いずれにせよ、今回、「女性天皇」を認める場合も、これを一代限りで認めるか、女性天皇の子供も皇位継承者として「女系」そのものも容認するかが大きな論点となる。

○また、「女性」「女系」の双方を認めた場合、男女を問わずに最初に生まれた第一子を優先させるのか(第一子優先)、第一子でなくても男子を優先させるか(男子優先)などの課題もある。

○ヨーロッパの王位継承を見ると、これまでは男子のみが大半であったが、最近は女性容認の傾向にある。ただ、ヨーロッパの王室は、王室同士で婚姻を繰り返してきたため、「男系」で継承してきた日本の天皇制とは大きく異なっている。ちなみに、スウェーデンやベルギー、オランダなどは第一子優先、英国、デンマークなどは男子優先を原則としている。男子優先の英国では、第一子が継承するよう法改正案が議会に提議されたが取り下げられたことがある。

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○皇室典範第1条の改正について
女性天皇誕生のためには、皇室典範第1条の「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。」という条項の改正が必要である。女性天皇を認める場合の、同条の改正パターンは次の可能性があろう。

@「皇位は、皇統に属する男系の男女が、これを継承する。」
(男系の皇族から生まれた者で男女を問わず)
A「皇位は、皇統に属する男女、これを継承する。」
(男系女系かを問わず皇族から生まれた者で男女を問わず)

@とAは、「男系の」を入れるか否かの違いである。@は、女性(具体的な候
補としては愛子内親王)を皇位継承者として入れるだけならばこれで十分である。しかし、もし愛子内親王が天皇に即位した場合に、その子供は女系の皇族から生まれた子供となるため、@の規定であれば、その子は皇位継承ができないこととなる。したがって、愛子内親王の子を皇位継承者に含めるならば、Aの形を導入しておかなければ不都合が生じることとなる。

○いずれの場合も、今年に黒田さんと結婚して皇籍を離脱する紀宮内親王を除けば、現時点では以下の8名の方が新たに該当者となる(すべて女性)。

愛子内親王(皇太子殿下長女)、真子内親王秋篠宮殿下長女)、佳子内親王(秋篠宮殿下次女)、彬子内親王(三笠宮寛仁親王長女)、瑶子内親王(三笠宮寛仁親王次女)、承子内親王(高円宮妃長女)、典子内親王(高円宮妃次女)、絢子内親王(高円宮妃三女)。

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○男子優先か男女別なしか。
さらに、女性天皇を容認して女系を認めた場合、皇位継承で課題になるのは、男女を問わず直系に最初に生まれた子を優先するか(第1子優先)、第1子でなくても男子を優先するか(男子優先)が、大きな問題となる。これは、皇室典範第2条の皇位継承順位の改正につながる。

現在の皇室において、第1子優先方式をとればどうなるか。この場合の皇位継承順位は@皇太子殿下A愛子内親王B秋篠宮殿下B真子内親王C佳子内親王の順となる。この場合、仮に、愛子内親王の弟宮が誕生した場合であっても、皇太子殿下の次の天皇は愛子内親王になり、@皇太子殿下A愛子内親王B【弟宮】となる。ここで「男子優先主義」をとれば、愛子内親王に弟宮が誕生した場合は、前後が逆になり、弟宮が愛子内親王に優先することとなる。

男子優先方式の場合でも、その前に天皇直系を優先するかどうかで、継承順位が変わる。直系最優先方式(直系・男子・長子の順)をとれば、@皇太子殿下A愛子内親王B秋篠宮殿下の順になる。男子最優先方式(男子・直系・長子の順)をとれば、皇位継承順位は@皇太子殿下A秋篠宮殿下B常陸宮殿下C三笠宮殿下D三笠宮寛仁殿下E桂宮殿下の順となり、皇太子殿下が即位し、その後崩御した際に秋篠宮殿下がご健在なら、同殿下が即位、その時点の生存者の状況によってさらに皇位継承者が決まってくる。複雑で将来予測もつきにくい難点がある。

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○宮家創設問題
皇室典範第1条を、前述のように「皇位は、皇統に属する男女、これを継承する。」とするなど、女性天皇を認める場合は、皇室典範第12条を削除しなければならない。

皇室典範第12条には、「皇族女子は、天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れる」という離脱規定がある。この規定がある限り、皇族というのは、男性、男性の妻および未婚女性の3者しか存在できない。これをそのままにしておけば、上記の8名のうち、結婚で皇族の身分を離脱したもの以外のものとなる。ただ、結婚したら皇族を離脱するこの第12条の規定は、本来男系男子のみを皇位継承者と予定していることからくるものと解されるので、女帝を認めながら、この規定をそのまま置いておくのは、おかしいこととなる。

さらには、皇族の範囲を定めた皇室典範第5条の「皇后、太皇太后、皇太后、親王、親王妃、内親王、王、王妃及び女王を皇族とする。」という規定も改正が必要となる。つまり、皇族女子の夫も皇族の範囲に加えなければならない。その場合の表現はどうなるのか。

このように、女性天皇を認めるためには、これら規定を改正して、結婚後も皇族離脱のないようにする必要がある。しかし、このためには、女性皇族が結婚した後も、新たに宮家を創設していくことが必要となる。その広がりをどこまで認めるかも課題となる。したがって、宮家を創設する皇族女子の範囲をどう規定するか、宮家に支給する皇室費(現在の宮家には、国からおよそ年額3000万円が支給されている)が膨張する問題をどうするかが議論となる。

○このため、政府は(1)世代数で制限する案、(2)第1子のみ宮家継承とする、(3)天皇家の直系の子孫だけを皇族にする、の3通りについてのシミュレーションした系図を作成しているとのことである。

(1)の世代数制限の場合、2世代制限にすれば、1世代の愛子内親王を含めて秋篠宮家の真子内親王、佳子内親王のみとなる。もし3世代までとすれば、上記の8人の女性皇族方はいずれも宮家創設となる。
(2)の第1子のみを宮家継承とする案は、愛子内親王のほか、現在の秋篠宮家では、長女の真子内親王だけが皇族として残り、佳子内親王は皇籍を離脱する。
(3)の直宮の子孫だけを皇族として残す場合は、皇太子一家と秋篠宮一家の子孫のみで皇位が継承されていくこととなる。

このほかにも、女性皇族の結婚相手もやはり皇族として位置づけるのかどうかも、その場合の財政負担とも絡んで問題となる。

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○天皇の配偶者問題
女性天皇を認めた場合、その夫(皇配「プリンスコンソート」というらしい)の選考とその扱いに関して複雑な問題になる。英国やオランダのように、ヨーロッパには、どんな国家でも各王室は同等であるという「同等婚の原則」が整っていて、女王の配偶者に他王家の配偶者を求めるということが可能となるが、日本にはそういう風土がない。このため、女性天皇が立って皇配を迎える際に、一般国民から選ぶとなると、おそらく大変な騒ぎになるのではなかろうか。

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○旧宮家復帰・養子案
男系にこだわる側から、強く出されている案に、旧宮家復帰案や、養子案がある。戦後、山階、賀陽、久邇、梨本、朝香、東久邇、竹田、皆川、伏見、閑院、東伏見の11宮家が、GHQの意向で、皇籍離脱に追い込まれた。このうち、東久邇家、久邇家、朝香家、竹田家などに20から30歳代の独身男子が十数人いるとのことである。有識者会議においては、この旧宮家の男系男子子孫について、当該個人の意向は尊重した上で、@天皇または皇族への養子(婿養子を含む)を容認する案、A皇族に復帰してもらい、新たに宮家を創設する案なども一応は検討候補として入れているという話も伝わっている。

○具体的に、もしこれを導入するならば、皇室典範第9条での「天皇・皇族の養子の禁止」規定、同15条の「皇族以外の者は、女子が皇后となる場合及び皇族男子と婚姻する場合を除いては、皇族となることがない」との皇族範囲規定の改正が必要となる。

○ただ、この案は、実現しないのではないか。そもそも、これら旧宮家は皇籍離脱して約60年もたっている。一般国民として通常の生活に溶け込んでいる者を、急に新たな皇位継承対象者として現れても、国民感情的に受け入れられるとは思えないからである。この案は、あまりに男系男子にこだわっているものであるし、将来的にみても、安定的な皇位継承者維持は難しいといえるからである。

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○庶子を巡る話
庶子とは、正式に婚姻した配偶者でない者との間でできた子をいう。民法では非嫡出子という。旧皇室典範では、この庶子の皇位継承資格が認められていたが、現在の皇室典範ではなくなった。明治天皇の正室である皇后との間には子がいなかったが、明治天皇は多くの側室がおり、それらの間で15名もの子が生まれたそうであるが、そのほとんどは早死にをし、そのうち唯一成人した直系男子が大正天皇であった。

このように、かつての天皇家は、正室のほかに側室を設け、その間の子(庶子)にも皇位継承権を与えていた事実がある。

さすがに、こういった側室制度は、大正天皇以降から無くなり、現代においてその復活はもうありえない。仮に現皇太子に側室などという話が出たら、おそらく女性を中心とした国民からの反発が大きく、皇室の存続にまで影響が出かねない話でもある。ただ、ここで言えることは、男系男子維持の背景には、こういった庶子制度の存在があったといえ、その基盤が無い現在将来において、男系男子の維持自体が困難な一理由といえるであろう。こういった現実も踏まえ、男系にこだわることの困難さがある。

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○染色体「Y1」を巡る話
男系にこだわる側に根強くあるのが、この染色体論である。

遺伝学において、男性の染色体は「XY」染色体で構成され、女性の染色体は「XX」染色体から構成される。

初代天皇の染色体を「X1Y1」とし、その皇后の染色体を「XaXb」とすると、その子が男性の場合は「XaY1」か「XbY1」となり、女性の場合は「X1Xa」か「X1Xb」となる。したがって、男性の場合は、必ず染色体に「Y1」が残るが、女性になればこのY1は消えてしまう。つまり男系で承継される場合は、Y1遺伝子は受け継がれていく。この法則は、125代目まで続いている現在まで不変であるというのが、このことを主張する側の強調点である。つまり、男系で皇統が維持される限り、男性の天皇は初代の神武天皇の「Y1染色体」を必ず持っているというわけである。

この意見は、これを理由に、皇統が女系に移れば、この伝統が消えることを大問題であるということになる。愛子内親王は女性ゆえ、「Y1」染色体を持たない。その配偶者に、全国民にDNA検査でもして神武天皇のYを持っている男系の男子を探し出し当てない限り、この維持は不可能となる。もしそんなこと始めたら、愛子内親王があまりにも可哀想でもある。

○この問題は、かなり科学的であり、ややたじろぎたくなる問題ではある。
ただ、天皇家といえども、継体天皇の際にはかなり傍系より引っ張ってきているなど、途中で血の繋がらない男子が混ざっている可能性もないではない。そういったことを考えれば、「神武天皇以来のY染色体」などを死守する必要はないかのではなかろうか。そもそも、これまで「神武天皇以来のY染色体の死守」を目的とした皇位継承は一切行われていないのも事実である。

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○皇室典範(昭和二十二年一月十六日法律第三号)

第一章 皇位継承
第一条  皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。
第二条  皇位は、左の順序により、皇族に、これを伝える。
一  皇長子
二  皇長孫
三  その他の皇長子の子孫
四  皇次子及びその子孫
五  その他の皇子孫
六  皇兄弟及びその子孫
七  皇伯叔父及びその子孫
2  前項各号の皇族がないときは、皇位は、それ以上で、最近親の系統の皇族に、これを伝える。
3  前二項の場合においては、長系を先にし、同等内では、長を先にする。
第三条  皇嗣に、精神若しくは身体の不治の重患があり、又は重大な事故があるときは、皇室会議の議により、前条に定める順序に従つて、皇位継承の順序を変えることができる。
第四条  天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する。

第二章 皇族
第五条  皇后、太皇太后、皇太后、親王、親王妃、内親王、王、王妃及び女王を皇族とする。
第六条  嫡出の皇子及び嫡男系嫡出の皇孫は、男を親王、女を内親王とし、三世以下の嫡男系嫡出の子孫は、男を王、女を女王とする。
第七条  王が皇位を継承したときは、その兄弟姉妹たる王及び女王は、特にこれを親王及び内親王とする。
第八条  皇嗣たる皇子を皇太子という。皇太子のないときは、皇嗣たる皇孫を皇太孫という。
第九条  天皇及び皇族は、養子をすることができない。
第十条  立后及び皇族男子の婚姻は、皇室会議の議を経ることを要する。
第十一条  年齢十五年以上の内親王、王及び女王は、その意思に基き、皇室会議の議により、皇族の身分を離れる。
2  親王(皇太子及び皇太孫を除く。)、内親王、王及び女王は、前項の場合の外、やむを得ない特別の事由があるときは、皇室会議の議により、皇族の身分を離れる。
第十二条  皇族女子は、天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れる。
第十三条  皇族の身分を離れる親王又は王の妃並びに直系卑属及びその妃は、他の皇族と婚姻した女子及びその直系卑属を除き、同時に皇族の身分を離れる。但し、直系卑属及びその妃については、皇室会議の議により、皇族の身分を離れないものとすることができる。
第十四条  皇族以外の女子で親王妃又は王妃となつた者が、その夫を失つたときは、その意思により、皇族の身分を離れることができる。
2  前項の者が、その夫を失つたときは、同項による場合の外、やむを得ない特別の事由があるときは、皇室会議の議により、皇族の身分を離れる。
3  第一項の者は、離婚したときは、皇族の身分を離れる。
4  第一項及び前項の規定は、前条の他の皇族と婚姻した女子に、これを準用する。
第十五条  皇族以外の者及びその子孫は、女子が皇后となる場合及び皇族男子と婚姻する場合を除いては、皇族となることがない。

第三章 摂政
第十六条  天皇が成年に達しないときは、摂政を置く。
2  天皇が、精神若しくは身体の重患又は重大な事故により、国事に関する行為をみずからすることができないときは、皇室会議の議により、摂政を置く。
第十七条  摂政は、左の順序により、成年に達した皇族が、これに就任する。
一  皇太子又は皇太孫
二  親王及び王
三  皇后
四  皇太后
五  太皇太后
六  内親王及び女王
2  前項第二号の場合においては、皇位継承の順序に従い、同項第六号の場合においては、皇位継承の順序に準ずる。
第十八条  摂政又は摂政となる順位にあたる者に、精神若しくは身体の重患があり、又は重大な事故があるときは、皇室会議の議により、前条に定める順序に従つて、摂政又は摂政となる順序を変えることができる。
第十九条  摂政となる順位にあたる者が、成年に達しないため、又は前条の故障があるために、他の皇族が、摂政となつたときは、先順位にあたつていた皇族が、成年に達し、又は故障がなくなつたときでも、皇太子又は皇太孫に対する場合を除いては、摂政の任を譲ることがない。
第二十条  第十六条第二項の故障がなくなつたときは、皇室会議の議により、摂政を廃する。
第二十一条  摂政は、その在任中、訴追されない。但し、これがため、訴追の権利は、害されない。

第四章 成年、敬称、即位の礼、大喪の礼、皇統譜及び陵墓
第二十二条  天皇、皇太子及び皇太孫の成年は、十八年とする。
第二十三条  天皇、皇后、太皇太后及び皇太后の敬称は、陛下とする。
2  前項の皇族以外の皇族の敬称は、殿下とする。
第二十四条  皇位の継承があつたときは、即位の礼を行う。
第二十五条  天皇が崩じたときは、大喪の礼を行う。
第二十六条  天皇及び皇族の身分に関する事項は、これを皇統譜に登録する。
第二十七条  天皇、皇后、太皇太后及び皇太后を葬る所を陵、その他の皇族を葬る所を墓とし、陵及び墓に関する事項は、これを陵籍及び墓籍に登録する。

第五章 皇室会議
第二十八条  皇室会議は、議員十人でこれを組織する。
2  議員は、皇族二人、衆議院及び参議院の議長及び副議長、内閣総理大臣、宮内庁の長並びに最高裁判所の長たる裁判官及びその他の裁判官一人を以て、これに充てる。
3  議員となる皇族及び最高裁判所の長たる裁判官以外の裁判官は、各々成年に達した皇族又は最高裁判所の長たる裁判官以外の裁判官の互選による。
第二十九条  内閣総理大臣たる議員は、皇室会議の議長となる。
第三十条  皇室会議に、予備議員十人を置く。
2  皇族及び最高裁判所の裁判官たる議員の予備議員については、第二十八条第三項の規定を準用する。
3  衆議院及び参議院の議長及び副議長たる議員の予備議員は、各々衆議院及び参議院の議員の互選による。
4  前二項の予備議員の員数は、各々その議員の員数と同数とし、その職務を行う順序は、互選の際、これを定める。
5  内閣総理大臣たる議員の予備議員は、内閣法 の規定により臨時に内閣総理大臣の職務を行う者として指定された国務大臣を以て、これに充てる。
6  宮内庁の長たる議員の予備議員は、内閣総理大臣の指定する宮内庁の官吏を以て、これに充てる。
7  議員に事故のあるとき、又は議員が欠けたときは、その予備議員が、その職務を行う。
第三十一条  第二十八条及び前条において、衆議院の議長、副議長又は議員とあるのは、衆議院が解散されたときは、後任者の定まるまでは、各々解散の際衆議院の議長、副議長又は議員であつた者とする。
第三十二条  皇族及び最高裁判所の長たる裁判官以外の裁判官たる議員及び予備議員の任期は、四年とする。
第三十三条  皇室会議は、議長が、これを招集する。
2  皇室会議は、第三条、第十六条第二項、第十八条及び第二十条の場合には、四人以上の議員の要求があるときは、これを招集することを要する。
第三十四条  皇室会議は、六人以上の議員の出席がなければ、議事を開き議決することができない。
第三十五条  皇室会議の議事は、第三条、第十六条第二項、第十八条及び第二十条の場合には、出席した議員の三分の二以上の多数でこれを決し、その他の場合には、過半数でこれを決する。
2  前項後段の場合において、可否同数のときは、議長の決するところによる。
第三十六条  議員は、自分の利害に特別の関係のある議事には、参与することができない。
第三十七条  皇室会議は、この法律及び他の法律に基く権限のみを行う。

附 則
1  この法律は、日本国憲法施行の日から、これを施行する。
2  現在の皇族は、この法律による皇族とし、第六条の規定の適用については、これを嫡男系嫡出の者とする。
3  現在の陵及び墓は、これを第二十七条の陵及び墓とする。

附 則 (昭和二四年五月三一日法律第一三四号) 抄
1  この法律は、昭和二十四年六月一日から施行する。
                                            弁護士 三木秀夫

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