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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
ニッポン放送株問題(2005年02月10日) 相互保有株と商法241条3項/TOB
○インターネット関連会社・ライブドアの堀江貴文社長は8日夕、東京都内で記者会見を開いた。同社が取得したラジオ局のニッポン放送(東京証券取引所2部上場)の発行済み株式の35.0%を「長期保有する」とし、同放送が筆頭株主となっているフジテレビジョン(東証1部上場)を中核とするフジサンケイグループと資本・業務両面で提携して、ネットとテレビ・ラジオを融合したビジネスをめざす方針を表明。同放送を子会社化するために同放送株を公開買い付け(TOB)中のフジテレビは反発しており、フジサンケイグループの経営主導権をめぐる争いが本格化する。(2月8日 asahi. com)
 
○フジテレビは10日、ニッポン放送に対するTOBの買い付け株数を25%超に引き下げるとともに、TOBの期限を21日から3月2日に延長すると発表した。フジテレビの日枝久会長は同日夜、「子会社化の目標は下ろさない」と述べたが、計画は当面棚上げにされそうだ。それでも、フジの境政郎常務は引き下げについて「後退ではなく、TOBの成功を目指す狙い」と強調する。TOBによりフジがニッポン放送株の25%を取得できれば、商法の規定により、同放送が持つフジ株22.5%の議決権が消滅して、ライブドアの支配力がフジに及ばなくなるからだ。ライブドアの大量取得によりニッポン放送株の過半数獲得が困難になる中、フジの経営権に影響する事態は避けたいという強い意思が透けてみえる。(2月10日 日経新聞)

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○興味深い話が飛び込んできた。あの「ほりえもん」こと堀江社長のライブドアがニッポン放送株の5.4%を、さらにグループ企業が東証の時間外取引で29.6%をそれぞれ買い、合計で35%を突然に取得したと発表した。取得資金は、その日に社債発行で調達した800億円のうち700億円を充てたというのである。

35%と言う株式比率は、3分の1の33%を超えるものであるため、合併など経営上の重要事項に「拒否権」を発動できる株数となる。その結果、ニッポン放送は重要な経営方針決定にライブドアの同意が必要となる。

話は、これにとどまらず、ニッポン放送のフジテレビへの出資比率が22.5%であるため、ライブドアはニッポン放送を通じて、間接的な大株主としてフジへの影響力が行使可能な地位になったということから、さらに大きな波紋を呼んでいる。ライブドアは、さらに他の大株主に買い取りの意向を示しているようで、その影響はかなりのものとなる。

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○フジテレビは、慌てふためいたかのように、対抗策を発表した。それが、ニッポン放送に対する株式公開買付け(TOB)の買い付け株数を25%超に引き下げるということと、TOBの期限を2月21日から3月2日までに延長するということである。

フジテレビは、2005年1月17日に、わずか12%余の所有にとどまっていたニッポン放送株へのTOBを発表し、出資比率を50%超にするのをめざし、今月21日まで買い付けを進めていた。これは、フジテレビ株の時価総額がニッポン放送株の3〜4倍でありながら、ニッポン放送がフジテレビ株を22・51%保有する筆頭株主であるという「親子逆転」状況にあるのを解消するためであった。特にフジテレビを焦らせたのは、2003年に、元通産官僚の村上世彰氏率いる企業買収ファンド「M&Aコンサルティング」がニッポン放送株を買い集め第2位の株主になったことからである。

○フジテレビが、ニッポン放送に対するTOBの目標株数を当初の50%超から25%超へ引き下げたのは、フジテレビがニッポン放送の25%を超える株式を所有すれば、商法241条3項により、ニッポン放送の持つフジテレビ株の議決権がなくなって、ライブドアの間接支配から免れるのが目的とのことである。

○この商法241条3項は、「株式の相互保有」に対する制限として設けられた規定の一つである。

○「株式の相互保有」とは、複数の株式会社が相互に相手方会社の株式を保有し合うことをいう。資本的結合による企業結合の方式の一つ。企業の系列化やグループ化、経営支配の手法として機能している。この株式相互保有が行われた場合、会社支配権が歪曲化し、会社資本が空洞化するなどの多くの弊害が生じる恐れが生じる。この恐れを防ぐために商法がいくつかの規制を設けている。

○商法による株式相互保有への規制のひとつは、子会社(A株式会社がB株式会社の総株主の議決権の過半数有する場合のB社をいい、さらにこの場合のA会社の子会社Bが、A社と合計でもしくは単独でC社の総株主の議決権の過半数有する場合のC社はA社の子会社となる)がその親会社(先ほどの例でのA社)の株式を取得することの原則禁止(商法211条の2)である。

○そして、もうひとつが今回話題となった「商法241条3項」である。すなわち、A株式会社がB株式会社の総株主の議決権の4分の1(25%)を超える議決権を有する場合には、B社はA社の株式について議決権を有しなくなるという規定である。この規定は、A社とその子会社の合計保有数が25%を超える場合や、A社の子会社のみで25%を超える場合も含む(商法211条4項による211条の2準用)。

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商法(明治三十二年三月九日法律第四十八号)
第二百四十一条  
各株主ハ一株ニ付一個ノ議決権ヲ有ス但シ一単元ノ株式ノ数ヲ定メタル場合ニ於テハ一単元ノ株式ニ付一個ノ議決権ヲ有ス
2 会社ハ其ノ有スル自己ノ株式ニ付テハ議決権ヲ有セズ
3 会社、親会社及子会社又ハ子会社ガ他ノ株式会社ノ総株主ノ議決権ノ四分ノ一ヲ超ユル議決権又ハ他ノ有限会社ノ総社員ノ議決権ノ四分ノ一ヲ超ユル議決権ヲ有スル場合ニ於テハ其ノ株式会社又ハ有限会社ハ其ノ有スル会社又ハ親会社ノ株式ニ付テハ議決権ヲ有セズ
4 第二百十一条ノ二第四項及第五項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス


第二百十一条ノ二  
他ノ株式会社ノ総株主ノ議決権ノ過半数又ハ他ノ有限会社ノ総社員ノ議決権ノ過半数ヲ有スル会社(以下親会社ト称ス)ノ株式ハ左ノ場合ヲ除クノ外其ノ株式会社又ハ有限会社(以下子会社ト称ス)之ヲ取得スルコトヲ得ズ
一  株式交換、株式移転、会社ノ分割、合併又ハ他ノ会社ノ営業全部ノ譲受ニ因ルトキ
二  会社ノ権利ノ実行ニ当リ其ノ目的ヲ達スル為必要ナルトキ
2 前項各号ノ場合ニ於テハ子会社ハ相当ノ時期ニ親会社ノ株式ノ処分ヲ為スコトヲ要ス株式会社又ハ有限会社ガ子会社トナリタルコトヲ知リタル際ニ親会社ノ株式ヲ有スルトキ亦同ジ
3 他ノ株式会社ノ総株主ノ議決権ノ過半数ヲ親会社及子会社又ハ子会社ガ有スルトキハ本法ノ適用ニ付テハ其ノ株式会社モ亦其ノ親会社ノ子会社ト看做ス他ノ有限会社ノ総社員ノ議決権ノ過半数ヲ親会社及子会社又ハ子会社ガ有スルトキ亦同ジ
4 第一項及前項ニ規定スル議決権ニハ第二百二十二条第四項ニ規定スル議決権制限株式ニシテ議決権ヲ行使スルコトヲ得ベキ如何ナル事項ニ付テモ之ヲナキモノト定メラレタル種類ノ株式及有限会社法第三十九条第一項但書ノ規定ニ依リ定款ヲ以テ議決権ヲ行使スルコトヲ得ベキ如何ナル事項ニ付テモ之ヲナキモノト定メラレタル持分ニ付テノ議決権ヲ含マザルモノトス
5 第一項及第三項ノ規定ノ適用ニ付テハ第二百四十一条第三項ニ規定スル株式ヲ有スル株主ハ其ノ株式ニ付同条第一項ノ規定ニ依ル議決権ヲ、有限会社法第四十一条ニ於テ準用スル第二百四十一条第三項ニ規定スル持分ヲ有スル社員ハ其ノ持分ニ付有限会社法第三十九条第一項ノ規定ニ依ル議決権ヲ有スルモノト看做ス

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○このフジテレビの対抗策は、本当に有効なのであろうか。前述のとおり、商法241条3項は、株式を持ち合っている企業のどちらかが25%を超える株式を持つと、両方の議決権を有しなくなると規定している。したがってフジテレビが25%を超えるニッポン放送株を持てば、フジテレビに対するニッポン放送の議決権もなくなる。TOBの新たな目標の25%超は、ライブドアが、ニッポン放送を通じてフジテレビの経営に力を及ばさないようにするぎりぎりのラインとなる。

しかし、フジテレビがニッポン放送株を25%超を取得した場合でも、ニッポン放送がフジテレビ株を25%超を握ればフジテレビもニッポン放送に対して議決権を行使できなくなる。ニッポン放送は、すでにフジテレビ株を22.51%保有しており、フジテレビは東証1部上場であるから、株の流動性が高いため、その達成は容易である。これによって、ライブドアが当初に予定していたニッポン放送への支配権を獲得し、フジテレビの介入なく自由にすることができることになる。役員の選任解任はもちろん、ライブドアとの事業連携はほぼ思うままになる。

さらに重要なのは、ニッポン放送の新株発行ができる点である。新株発行でニッポン放送株をライブドアが大量に引き受けていけば、フジテレビのニッポン放送に対する持ち株比率は減っていき、25%を切らせてしまうことも可能であろう。25%さえ切らせてしまえば、ニッポン放送はフジテレビに対する議決権を復活させることとなり、その時点でライブドアはフジテレビへの支配力を行使できるようになる。

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○フジテレビの対抗策は何か
フジテレビの対抗策として考えられるとしたら、フジテレビの大幅な緊急第三者割当増資であろうか。つまり、緊急に第三者割当増資による新株発行を行い、取引先、自社の役員など縁故者に引き受けを依頼して成功すれば、相対的にニッポン放送の保有株比率が下がり、結果的にライブドアの影響力を削減することが可能となる。

○ただし、この策も、ライブドアとニッポン放送がフジテレビの株を3分の2超を取得すれば、簡単に潰えてしまう。第三者割当増資は、縁故募集などとも呼ばれ、既存株主の利益を侵害する恐れがあるので、新株式を時価ではなく、特に有利な価格で発行する場合には、既存株主の利益を損なわないよう株主総会の特別決議(3分の2以上)を経る必要がある(商法第280条の2、第280条の10等)。したがって、22.5%の株式数を買い増して33%超にしさえすれば、有利発行に関する株主総会で特別決議(3分の2以上)ができなくなり、フジテレビの第三者割当増資を一定限度で阻止できることとなる。

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○TOBとは何か
今回、フジテレビは、ニッポン放送に対してTOBをかけていた。TOBとは、英語の「Take Over Bit」の頭文字を取った略語で、日本語では「株式公開買い付け」と訳す。TOBは、会社の経営権の取得等を目的として、不特定かつ多数の人に対して公告により株券等の買付けの申込み又は売付けの申込みの勧誘をおこない、有価証券市場外で株券等の買付けをおこなう証券取引法に定められた制度である。具体的には、新聞広告などを使って一定の価格で一定の期間に一定の株数を買い取ることを表明し、不特定多数の株主から一挙に株式を取得する。購入希望者にとって使い勝手のいい点は、目的を早期に達成しうるという点と、仮に株数が目標に達しない場合は、買い付けをすべて取り消すことができる点である。

買付者が有価証券報告書の提出会社である会社の経営権の変動につながるような大きな買付け等(「総株主の議決権の3分の1」を超える株式の買付け)を市場外でおこなう場合は、原則としてTOBによらなければならない。買付条件等を事前に公表することによりインサイダー規制を回避できるという理由から、上場会社が自社株式を市場で買い集めて自己株式の償却をしROEの向上を図るケースや、企業の事業再編などで関連会社等の出資比率の引き上げたり、上場企業に対してM&Aを行う場合に使用されたりする。今回のフジテレビのニッポン放送へのTOBは後者のケースになる。このような買付け対象会社の取締役会の賛同を得て行うTOBは友好的TOBというが、全く賛同を得ないで買付会社がTOBをおこなう場合を敵対的買収(Hostile Take Over)という。
                                            弁護士 三木秀夫

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