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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
フジテレビがソフトバンク側に接近(2005年03月24日)    敵対的買収対
○インターネット関連会社のライブドアが、フジテレビジョン株式の公開買い付け(TOB)を検討していることに対抗して、フジテレビは22日、敵対的買収にさらされた場合、最大500億円分の新株を発行できるようにする新たな防衛策を発表した。新株発行を機動的に行える発行登録制度を活用したもので、TOBをかけてきた敵対的買収者の議決権比率を引き下げる「ポイズン・ピル」(毒薬)の一種だ。フジテレビは大幅な増配に続き、新たな対抗策を打ち出した。(2005年3月23日 読売新聞)

○フジテレビ:ソフトバンク側と接近 「騎士」現れ新局面
新株予約権発行をめぐる司法判断での敗北が決まったばかりのフジテレビジョンが24日、早くも巻き返しに動いた。ニッポン放送が保有するフジの株式を孫正義氏率いるソフトバンクグループのソフトバンク・インベストメント(SBI)に貸し付けたのは、ニッポン放送の筆頭株主であるライブドアがフジ本体の経営へ影響を及ぼすことを遮断するのが狙い。フジに協力する「ホワイトナイト」(白馬の騎士)としてSBIが登場したことで、フジとライブドアの攻防は、新たな局面に入った。(2005年3月24日 毎日新聞)

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○ライブドアとフジの攻防で、ライブドアにソフトバンクグループが参入してきた。仮処分戦略で勝ったものの、新たな第三局面への発展で、今後の動きがさらに見えにくくなってきた。ニッポン放送は、これまで多くのM&Aで巨大化してきたITの二大企業の将来戦略をめぐる決戦場となってきた感がある。

○M&Aとは、Merger(合併)とAcquisition(買収)の略語。「企業買収」という意味に使われるケースが多い。手法としては合併、営業譲渡、株式取得、株式移転、株式交換などによって外部の経営資源に関する支配権を獲得する。

○今回、よく使われた「敵対的買収」という言葉は、買収者が買収対象会社の取締役会の同意を得ないで買収を仕掛けることをさす。今回のニッポン放送のケースで言えば、フジテレビによるTOBはニッポン放送の取締役会でも同意を得て行われている点で「友好的買収」と言われるものであったが、かたやライブドアについては突然に多量の株式を取得してきた点で「敵対的買収」となる。日本ではそれほど見られないケースであるが、海外では事例が多い。日本の事例での最近のケースとしては、2003年の米系投資ファンドによるユシロ化学工業・ソトーに対するTOBなどがあった。このケースの場合、配当の大幅な増額を打ち出すことで買収を回避した。これなどは、株主重視の経営をして株価を高く保つことが最大の対策となることを示したものであった。

○今回のソフトバンク・インベストメント(SBI)への貸株は、ニッポン放送はフジ株の議決権という最大の資産を長期間外部に「避難」させたもので、ライブドアの買収効果を実質的に大きく低下させる一種の「焦土作戦」と言えよう。また、この直前には、フジテレビが株価の引き上げを狙って年間配当を1株当たり1200円から5000円に大幅増配したばかりであるが、これ自体も防衛策の一つと言える。このように、今回のライブドアのニッポン放送・フジテレビ連合軍との攻防が始まってから、多くの敵対的企業買収を巡る対抗策が話題になった。その中には、ポイズンビルとか、白馬の騎士とか、パックマン・ディフェンス、ゴールデン・パラシュート などなど、アメリカなどで生まれてきた多くの名称で呼ばれる買収防衛策も話題になった。これら買収対抗策には、法律的な方法のほかに、その結果から生まれる効果から「あだ名」として定着したものまで色々とあるが、一まとめに並べてみたい。

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○主な買収に対する事前防止策について
敵対的買収に対して、事前に対抗策を盛り込んでおくのは、比較的容易である。ただしその時点では危機感がないので、事前準備のないままに敵対的買収にさらされてしまうこととなる。一旦敵対的買収が始まった場合に行う事後の対抗策は難しい。敵対的買収を避けるためには、まずはその対象とされにくい経営環境の構築が要請される。特に会社の実財産に対して株式の時価総額が低い状態があれば解消しなければならない。具体的には、会社の経営状況、資産状況を外部に公開し、透明性を高めることや、株主配当を厚く行い、株価を向上させることが必要とされる。適正な高額配当は、株主価値を高め、株価の適正化に資する。また、敵対的買収のターゲットとなりやすい流動資産を減少させ、買収のインセンティブを減殺させる効果がある。

上記のような本質的な対抗策のほかに、法律的な観点からの事前防止策は次のようなものが考えられよう。

安定株主工作
友好的な企業同士での株式の相互保有を行うことで敵対的な買収から守るもの。これは従来からよくなされてきた方式であったが、金融機関等での株式持合の解消が進み、それだけに頼れない時代になってきている。そのために重要となってきているのが昔からある従業員持ち株会による株式保有の方式などである。

自己株式の取得(バイ・バックアウト)
これによって浮動株を減少させ敵対者による買収を困難にさせるとともに、株価が上がることによって買収が困難になる効果もある。平成13年、15年の商法改正により、保有目的が自由となり期間の制限もなく保有可能となったため、買収に対する対抗措置としての自己株式取得が重要な対抗策として浮上した。

定款の変更による授権株式数の増大・取締役の国籍等の資格制限規定など

ゴールデン・パラシュート(Golden Parachute) 
会社が万一敵対者に買収されたとき、被買収企業の経営陣や役員が解任されたり退任する場合に、巨額の退職金や一定期間の高額報酬がもらえるような雇用契約をあらかじめ会社と結んでおく方法。黄金の落下傘で舞い降りることからこの名がついている。これにより、買収した企業の価値が著しく低下することを見せつけて、事前に買収を思いとどまらせるやり方。買収される側の企業価値を大きく下げるという意味では、ポイズンピルと同じ効果がある。いずれも事前に整備しておく対抗策で、買収を仕掛けられた後に行うことは困難である。この方法は報酬を取締役会が決定できる米国で普及したものであるが、日本では商法269条で総会の決議事項となっているため、導入するためには、事前に「敵対的買収が進行するなどの一定の事由が発生したときには退職金を増額する」といったような内容を定款に盛り込んでおくことが必要となる。

ティン・パラシュート(Tin Parachute)
経営陣や役員を対象とするゴールデン・パラシュートに似ているが、これは被買収企業の従業員が、買収された後に人員整理などで従業員が解雇されることが多いことから、これら従業員の退職金の額を非常に高く設定しておき、買収してもその後の出費が極めて多くかかるということを見せつけておいて、事前に買収を思いとどまらせるやり方。黄金ほどではないがブリキの落下傘で舞い降りることからこの名がついている。

ポイズン・ピル(毒薬条項)の設定(新株予約権、優先株式の付与など)
敵対的買収が仕掛けられた場合に時価より安い値段で株を買う権利を株主に与える手法。米国で早くからある方法で、主要企業の六割が導入しているとされている。日本では2002年4月の商法改正によって新株予約権を社債につけず単独で発行できるようになったことから、可能となった。

具体的には、定款に記載したうえで、トリガー事由(敵対的買収者による一定比率異常の買い付け)が発生した場合には既存の株主に株式を有利な価格(市場価格より安い価格)で取得できる権利(新株予約権)をあらかじめ与えておく。敵対的買収者はこの権利を行使できない。買収者が株を買い進めてきたら、この方法で株数を増やし、買収者の議決権割合と、持っている株の価値を下げる一方、買収に伴う総コストを増加させることとなる。

予防的手段の代表的な方法で、通常、敵対的買収が目前に迫った時点で発動されるために、別名で「トリガー(引き金)条項」ともよばれる。有名なところでは、UFJ銀行が東京三菱銀行との合併問題において、三井住友銀行からの「求愛」から逃れるために、この方法での新株を発行したことがある。

この手法は一見かなり有効な方法に見えるが、『毒薬』と言われるだけあって、買収者に著しく不利な仕組みの場合、訴訟を起こされる覚悟が必要。新規株式発行のため。その資金使途が明確でなければならず、買収者の株式シェア低下を主とした目的での新株発行は不公正発行として認められない。今回のライブドアとニッポン放送での事件でも、3月22日にニッポン放送がフジテレビに対して総額500億円の新株予約権を発行しようとしたが、ライブドアから差し止め仮処分申し立てがなされ、地裁で差し止め決定がなされ、異議審、抗告審(高裁)のいずれにおいてもこの決定が維持された。

2005年3月9日、敵対的な買収に対する対抗策の充実や有限会社制度廃止などを盛り込んだ会社法案の全文が明らかになったとの報道がなされた。買収対抗策としては、ポイズン・ピル制度などが柱で、政府は同法案を今国会に提出する方針とのことである。ポイズン・ピルに関しては、法案では、買収者が一定割合以上の株式を買い占めた場合、株主の判断にかかわらず、自動的に株式が発行される新株予約権を発行できるようにするというものである。

会社合併の承認要件の厳格化
2005年3月9日に報道された会社法改正案で、議決権の過半数の株主の出席で3分の2以上の賛成が必要とされている会社合併の承認要件について、あらかじめ定款で厳格化することができるとの条文が新設されるとのことである。これが導入されるならば、定款を予めそのように変更しておくのが有効な買収防衛策となろう。

スーパー・マジョリティ条項(絶対的多数条項)
買収・合併など特別決議を要する決定を行う際に、本来必要な三分の二の決議からさらにこれを高めて、例えば90%以上の株を持つ大株主の賛同が必要であるとするように、定款で決議要件を厳しくすることをいう。取締役解任などの特別決議を80%や90%などに上げておくなどもこれに入る。

取締役任期の分散化(スタッガード・ボード)
敵対的買収の防止策として、取締役の任期が一度に来るような方式をやめ、毎年一部を入れ替える方式に切り替える方法である。任期が一度に来るような方式であれば、その時点で一斉に被買収企業の役員を切り替えることができることとなる。この防止策を導入すれば、買収側が取締役会を完全支配するようになるまでの期間を延長でき、企業買収を躊躇させることにつながる。 

ピープル・ピル(People Pill)
これはもし敵対的買収が成立した場合、現在の取締役などの経営陣が直ちに一斉に退任してしまい、当該企業のビジネスを熟知し維持できる人間が全ていなくなるようにする方法。毒薬条項のひとつとされる。

セーフ・ハーバー(安全港) 
買収される可能性のある企業が、敢えて厳しい行政規制を受ける事業を買収し、そのことで買収対象としての魅力を減じさせる方策。安全な港を買収される可能性のある企業に提供することから、この名前がついている。ただ、ニッポン放送やフジテレビのような放送事業は放送法で厳しい行政規制を受ける事業であるが、逆にこういった放送事業であるがゆえに買収ターゲットになったものであり、安全な港が逆に危険な港になりかねない場合もあるかもしれない。 

マカロニ・ディフェンス(Macaroni defense)
敵対的買収が発生するとより高い償還価格で強制償還する債券を、大量に発行しておくこと。企業買収が行われると、債券の償還価格がゆでたマカロニのように大きく膨らむことからこのように命名されている。敵対的買収が発生すると、債券保有者に額面で償還を受ける権利を付与する条項を毒薬償還条項(ポイズン・プット)という。この場合、買収者は多額の償還資金が必要となるため、買収を躊躇させる効果が期待される。

上場廃止(ゴーイング・プライベート)
究極の方策としてはそもそも株式を非公開化する方法がある。公開市場での株式買い付けを阻止するために意図的に上場を廃止する。ゴーイング・プライベートという。最初から非上場にしていれば買収の恐れはぐっと減少する。買収されかけてから上場廃止する場合もあるが、その場合は、買収者にしてみれば、株価下落によるダメージも受ける。しかしこの方法は、株主利益を大きく害する、上場会社としての会社の信用性も大きく失われる。今回のニッポン放送のケースのように、買占めと自己株式取得が進んだ結果、浮動株が少なくなり、上場廃止基準(上位10名の株主の持ち株比率80%以上)になってしまうこともある。

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○主な買収に対する事後的防衛策について
買収企業が現れてからの事後対策にも、いろいろな作戦がある。

第三者割当増資
代表的な企業買収防衛策である。授権資本枠の範囲内であり、かつ有利発行でなければ取締役決議にて行うことができる。ただし、有利発行の場合は総会の特別決議が必要であるのと、不公正発行は認められない点に注意する必要がある。

焦土作戦(Scorched-earth policy)
敵対的企業買収にあった場合に、経営支配権を完全に取得される前に、被買収側企業が、その事業資産のほとんどを売却してしまい、焦土と化したような魅力のない会社だけを残すことをいう。ジョーンズタウン防衛作戦と同義。今回、ニッポン放送が保有するフジの株式をソフトバンクグループのソフトバンク・インベストメント(SBI)に貸し付けたのは、フジ株の議決権という最大の資産を長期間にわたって外部に「避難」させたことになるが、これはライブドアの買収効果を大きく低下させる「焦土作戦」と言える。

ジョーンズタウン作戦
焦土作戦とほぼ同じ意味で使われる。これは被買収企業が自殺行為に映るような過激な企業買収防衛策をとることをいう。例えば、メインの事業を売却したり、巨額な負債を負うことなどがある。この名称は、1980年代初めにジョーンズタウンで発生した集団自殺事件からきている。

クラウン・ジュエル(王冠の宝石)
企業の優良資産、ドル箱事業を指す。敵対的買収が発生した場合、このクラウン・ジュエルを処分してしまうという防衛策。対象会社を「王冠」にたとえ、「王冠の宝石」を外せば、「王冠」の価値が大きく減少することから命名されている。敵対的企業買収者は、対象会社の重要な資産や営業に目をつけて買収にかかる場合が多いことから、買収を断念させる方法として用いられる。

ニッポン放送の問題では、同社の持つポニーキャニオン、横浜ベイスターズ、フジテレビ、箱根彫刻の森、扶桑社などの株が該当し、ニッポン放送はこれを売却してしまう可能性が取りざたされている。これを実行しようとするならば、会社の営業の全部または一部の重要な営業の譲渡の場合には、商法上株主総会の特別決議が必要であるが、単に重要な財産の処分でしかない場合は取締役会決議のみで可能となる。ただし、このような財産譲渡をおこなうと、この決定をした取締役は、取締役としての善管注意義務、忠実義務違反を問われ、株主代表訴訟を提起されると巨額の損害賠償責任を負う可能性がある。

パックマン・ディフェンス(Pac-man defense)
買収を仕掛けられた企業が逆にその企業に買収を仕掛けること。ゲームのパックマンで敵に飲み込まれるイメージにちなんで命名された。敵対的買収において買収しようとする企業から仕掛けられたTOBに対抗して、被買収企業が逆にその会社にTOBを仕掛けることも含まれる(これを特にカウンター・テンダー(Counter Tender)ともいう)。

今回のライブドアの事件で、もしフジテレビ側が一挙逆転を考えるならば、この方法がありうる。また、フジテレビに友好的な企業において、その企業がライブドアを買収してしまう方法も、ある意味でこれに含まれる。

白馬の騎士(ホワイトナイト)
買収されかけた企業において、友好的な買収企業(白馬の騎士)に株式を購入してもらい、敵対的買収者に対抗することをいう。山之内製薬が、株買占めに苦しむアメリカのシャクリー社の要請を受けて、同社を買収した例が有名である。

今回、ニッポン放送が保有するフジの株式をソフトバンク・インベストメント(SBI)が借り受けたことについて、これがフジに協力する「ホワイトナイト」となるかが話題になった。

グリーンメール(Greenmail)
企業買収を計画している者に対する金銭供与をグリーンメールという。「グッバイ・キス」とか「さよならボーナス」と呼ぶ場合もある。ある程度の買収が進んだ時点で手を引いてもらうために、話し合いで一定の金銭を提供する場合がある。最初からこれを目当てに買収をかけるケースもあるが、そうでない場合であっても、買収がなかなかうまく完了しない場合に、名誉の撤退を図らせるために金銭解決がなされることもある。

今回のライブドアも、もしかしたら、ソフトバンクグループの登場で、ホワイトナイトの説得などで、もしかしたら、グリーンメールで撤退することも可能性としてはあろうか。

ショー・ストッパー (Show stopper)
これは、買収をかけられた企業が、標的企業側で買収を阻止しうる法的な障害を見つけたり、作り出すことで、買収を阻止しようとする一連の行動をさす。

ジューイッシュ・デンティスト(Jewish Dentist)
PR戦術が中心となる防衛戦術で、敵対的買収者の社会的弱点をマスコミなどを使って広く宣伝していくことで、敵対企業のイメージダウンを図る手法をいう。これによって買収そのものの意義を失わせようとする。米国ユダヤ人歯科医ジューイッシュがアラブ資本からの乗っ取りに対抗したことから命名されたものである。

今回のライブドアに対抗するフジテレビの日枝会長をはじめ、ニッポン放送もやっている。

委任状集め
買収側の取得株数が過半数に達しない場合、経営権の争奪は、議決権の多数確保によることとなるが、その際に発生するのがこの委任状集めである。商法293条により、他人の議決権を代理行使することが可能であることから、買収者側も経営者側も過半数を有していないときは、株主総会における取締役選任・解任決議に際して、お互いが委任状を集め合う委任状合戦が繰り広げられることとなる。被買収企業側は株主名簿を有していることや、総会召集通知通知の際に併せて委任状を勧誘できる点などから有利である。

合併
被買収企業が合併を行うことで発行済み株式総数を増加させ、買収費用を増加させることで、買収を困難にする方法がある。昭和60年にミネベアがかねもりを吸収合併したケースが実例としてある。しかし、合併相手の選択が難しく、相手会社の合意が必要なため、緊急性に欠ける難点があるほか、資産・収益力が悪化したり、株価が下落する危険もある。合併には特別決議が必要であることから、買占めが進んだ段階では不可能となる。

従業員による意見表明
被買収企業の従業員などが敵対的買収に対して「NO!」の意思を表明して、もし買収されてしまった場合は退職する意思を示すこと。これを大半の従業員がした場合には、仮に企業を買収しても、乗り込んだ時点では誰もいなかったことになりかねず、買収意欲を失わせる余地がある。

今回のニッポン放送やフジテレビは、従業員や出演俳優などから、そのような表明が相次いだ。ただ、ホリエモンは、困惑した風はなかったけど。

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○敵対的買収に対する対抗策への留意事項
一般論としては、商法は敵対的企業買収を認容している。したがって、これが開始されたとしても、取締役などの経営側において対抗策をとることが直ちに認められるものではない。本来、取締役は株主のために行動するのであって、その取締役が株主を締め出すようなことが簡単に行われたのでは、本末転倒だからである。したがって、対抗措置が認められるのは、対抗措置が会社及び株主の利益を害し不当と認められ、それに対する防止手段として合理性が認められる場合に限られる。

このようにかかる措置は例外的であるから、取締役の業務執行に広い裁量権を認めるいわゆる経営判断の原則が、かかる場合にも妥当するのかが問題になる。この点、アメリカのUnocal(ユノカル社)事件で、デラウェア州最高裁判所は、「敵対的買収からの防衛は、経営者の支配権維持につながり、経営者が自己に利益のために行動する誘惑が存在するのであるから、経営者は対抗措置が合理的であることを自ら立証してはじめて経営判断の原則の適用がある」としたことが参考になる。

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【結末追加情報】
以下の記載は2005.04.18に追加記載

○2005.04.18〜フジ、ライブドアと和解・出資などで1473億円支払い(日経新聞)

○ニッポン放送の経営権を巡って争っていたフジテレビジョンとライブドアは18日午後、資本・業務提携などで合意したと発表した。フジがライブドアの保有するニッポン放送株全株を買い取るなどで同放送を完全子会社にするほか、第三者割当増資の引き受けでライブドアに12.75%出資する。フジ側からライブドアへの支払いは合計1473億円になる。産業界を揺るがせた買収合戦は、金銭面で歩み寄ることにより双方が妥協点を見いだした。 

○フジの日枝久会長、村上光一社長、ニッポン放送の亀渕昭信社長、ライブドアの堀江貴文社長は同日、都内で共同記者会見を開いて発表した。 

○フジはまず、ライブドアの子会社でニッポン放送株の32.4%を保有するライブドア・パートナーズを5月23日付で買収する。買収総額は670億円。 

○これによりニッポン放送に対するフジの出資比率は68.87%となり、ニッポン放送の子会社化を実現する。6月下旬のニッポン放送株主総会で、フジはニッポン放送の議決権の3分の2以上を握る。  
                                            弁護士 三木秀夫

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