ニュース六法(倉庫)
2009年11月までの保管庫
ニュースから見る法律
三木秀夫法律事務所
このページは最近話題になったニュースを題材にして、そこに関係する各種法令もしくは
判例などを解説したものです。事実関係は,報道された範囲を前提にしており、関係者の
いずれをも擁護したり非難する目的で記述したものではありません。もし、訂正その他の
ご意見感想をお持ちの方は、メールにてご一報くだされば幸いです。
なお、内容についての法的責任は負いかねます。引用は自由にして頂いても構いません
が必ず。当サイトの表示をお願いいたします。引用表示なき無断転載はお断りいたします。

【お知らせ】
2009年12月から、このページは休止とさせていただきました。
同名での記事を、当事務所メールマガジンにて毎月発刊しています。
ご関心のある方は、そちらをご覧ください。

ニュース六法目次
JR福知山線脱線事故(2005年4月25日)     航空・鉄道事故調査委員
○尼崎脱線事故死者106人
兵庫県尼崎市のJR福知山線で快速電車が脱線した事故は28日、106人(男性59人、女性47人)の死亡が確認された。高見隆二郎運転士(23)も先頭車両の運転席付近で遺体で見つかった。尼崎市消防局は同日午後7時半、取り残された乗客の救助活動を終了した。「これ以上の生存者はいない」としている。県警尼崎東署捜査本部は遺体の有無を確認のうえ、29日から現場検証を行うとともに、高見運転士の遺体を司法解剖し、死因や運転時の健康状態などを調べる。(毎日新聞2005.04.29)

○左傾し脱線した可能性 国交省事故調委の見方
尼崎JR脱線事故で国土交通省航空・鉄道事故調査委員会は28日までに、右側の車輪で左側のレールを傷つけたとみられる大きな損傷はみられないことから、車両は右側が浮き上がり左側に傾き、横転に近い状態で脱線したとの見方を強めた。マンション1階に突っ込んだ1両目の状態なども確認し、脱線時の状況を詳しく調べることにしている。
事故調委の調べでは、左車輪が脱線した時についた「脱線痕」とみられる傷が、現場の左側レールの外側のコンクリート枕木上などに確認できた。しかし、右車輪が左レールを乗り越えた際にできるはずの損壊や傷などは確認できなかった。(2005.04.28共同通信) 

@@@@@@@@@@

2005年4月25日に発生した兵庫県尼崎市・JR福知山線の脱線事故は、あまりの悲惨さで目を覆うばかりである。私自身も、伊丹の裁判所との往復で、伊丹駅〜北新地駅間をときどき利用していたし、被害にあわれた方々の多くは、当事務所の近隣で働いていた方々が多く、他人事とは思えない。犠牲になられた方々のご冥福を祈るとともに、その後遺族の方々の心痛を思うばかりである。また、負傷した約460人の方々の早期の回復をお祈りしたい。そして、連日の救助作業に携わってこられた関係者の方々に深く敬意を表したい。

○事故が起きたのは尼崎〜塚口間の踏切付近のカーブである。宝塚発同志社前行きの七両編成の上り快速電車が何らかの原因で脱線し、線路脇の駐車場に突っ込んで乗用車と衝突、さらに先頭車両などが線路から6メートル離れたマンションに激突した。日本の鉄道事故としては、死者42人、負傷者628人を出した1991年の信楽高原鉄道以来の大事故である。なぜ今回、電車が脱線したのか。JR西日本、鉄道事故調査委員会、兵庫県警など関係機関は徹底して事故原因を究明し、安全対策を練り直すとともに、遺族、被害者への対応に全力を挙げなければならない。すべての輸送交通機関は、あらためて「効率より安全」を肝に銘じてほしい。

@@@@@@@@@@

○航空・鉄道事故調査委員会とは(http://www.mlit.go.jp/araic/)
今回、国土交通省航空・鉄道事故調査委員会の委員が現場に駆けつけ、詳細な調査を開始している。この委員会とはどのような組織であろうか。

○2001年4月18日、従来からの航空事故調査委員会設置法を改正し、鉄道事故のための専門的な調査機関を設置するための法律が成立した。これが「航空・鉄道事故調査委員会設置法」である。同法によって、それまであった航空事故調査委員会を改組し、2001年10月1日から「航空・鉄道事故調査委員会」が常設されることになり、調査活動に法的保護が与えられた。この委員会は、航空事故及び鉄道事故の原因を究明するための調査、事故の兆候についての調査を行うことで事故防止に寄与することを目的としている。

○このような組織変更がなされた背景には次のような事情があった。それまでは、事故が発生しても、警察側の刑事捜査が優先してしまい、証拠物などが先に押収されるなどする結果、事故原因の調査活動に支障をきたしていた。しかし、警察は鉄道の専門家とはいえず、捜査の目的も「刑事責任」を明らかにすることにあり、事故原因の究明自体を目的とはしていない。このため、今後の事故防止という視点での原因究明は、事故を起こした鉄道事業者自身に委ねられてきたが、その結果は、公開されないことが多く、安全への視点を共通することができにくい状況にあった。

そのような中で、鉄道に関して、運輸省内で、大規模事故の際に個別に事故調査検討会が設置されることとなったが、警察捜査が刑事訴訟法という法的な根拠を持って行われるのに対して、こういった調査機関には法的な調査権限はないままであった。

その改善のきっかけとなったのが、2000年3月に発生した営団地下鉄中目黒駅付近での列車脱線衝突事故であった。このときも、警察が事故原因究明の前にレールを押収するといったことが生じ、的確な調査の実施には法的権限が必要であるなどの声が高まったのである。これが、航空事故調査委員会を改組して、事故原因調査を目的とした調査・対策検討といった法的権限のある機能を持った「航空・鉄道事故調査委員会」が設置されることになったのである。

@@@@@@@@@@

○「委員会の委員長及び委員は、独立してその職権を行う」とされ、運輸省からも独立した調査活動を行えるようになっている。委員会も、従来の5人から10人へとされ、陣容が強化された。

○委員は衆参両院の同意を得て任命され、通常は航空部会と鉄道部会に分かれて作業する。事務局は、事故調査を含む多くの援助業務を担当し、鉄道部会では、地方運輸局の応援を得て事故調査に当たる。

○従来の航空事故調査委員会設置法では、事故調査に際して、関係者からの報告の徴取、、事故現場に立ち入り関係物件を検査すること、関係者に出頭を求めること、関係物件の所有者に対して物件の移動禁止を命ずること、現場保存などの権限が定められていたが、鉄道事故調査にもこれらの権限が適用されることとなった。 

○そして、事故の調査・分析、報告書の公表、関係大臣および関係諸機関に対する勧告や建議などを行う事ができる。また、当委員会が行う口述聴取に対し、虚偽を述べた場合は、罰則が科せられる。以前の法律では、報告書の作成期限は明確になっていなかったが、事故調査の終了前であっても事故が発生した日から1年以内に事故調査を終えることが困難であると見込まれる等の必要があると認められる場合には、事故調査の経過の報告及び公表(中間報告)を行うべきことが定められた。

○この報告はすべて公開され、関係者だけでなく、同委員会のホームページ(http://www.mlit.go.jp/araic/)では誰でも閲覧できるようになっている。

@@@@@@@@@@

航空・鉄道事故調査委員会設置法(抄)
(昭和四十八年十月十二日法律第百十三号)
最終改正:平成一五年七月一六日法律第一一九号

(目的)
第一条  この法律は、航空事故及び鉄道事故の原因を究明するための調査を適確に行わせるとともに、これらの事故の兆候について必要な調査を行わせるため航空・鉄道事故調査委員会を設置し、もつて航空事故及び鉄道事故の防止に寄与することを目的とする。

(設置)
第二条  国土交通省に、航空・鉄道事故調査委員会(以下「委員会」という。)を置く。

(所掌事務)
第三条  委員会の所掌事務は、次のとおりとする。
一  航空事故の原因を究明するための調査を行うこと。
二  航空事故の兆候について航空事故を防止する観点から必要な調査を行うこと。
三  鉄道事故の原因を究明するための調査を行うこと。
四  鉄道事故の兆候について鉄道事故を防止する観点から必要な調査を行うこと。
五  前各号の調査の結果に基づき、航空事故及び鉄道事故の防止のため講ずべき施策について勧告すること。
六  航空事故及び鉄道事故の防止のため講ずべき施策について建議すること。
七  前各号に掲げる事務を行うため必要な調査及び研究を行うこと。

(職権の行使)
第四条  委員会の委員長及び委員は、独立してその職権を行なう。

(組織)
第五条  委員会は、委員長及び委員九人をもつて組織する。
2  委員のうち四人は、非常勤とする。
3  委員長は、会務を総理し、委員会を代表する。
4  委員長に事故があるときは、あらかじめその指名する常勤の委員が、その職務を代理する。

(委員長及び委員の任命)
第六条  委員長及び委員は、委員会の所掌事務の遂行につき科学的かつ公正な判断を行うことができると認められる者のうちから、両議院の同意を得て、国土交通大臣が任命する。
2  委員長又は委員につき任期が満了し、又は欠員を生じた場合において、国会の閉会又は衆議院の解散のために両議院の同意を得ることができないときは、国土交通大臣は、前項の規定にかかわらず、同項に定める資格を有する者のうちから、委員長又は委員を任命することができる。
3  前項の場合においては、任命後最初の国会において両議院の事後の承認を得なければならない。この場合において、両議院の事後の承認を得られないときは、国土交通大臣は、直ちにその委員長又は委員を罷免しなければならない。

(事務局)
第十四条  委員会の事務を処理させるため、委員会に事務局を置く。
2  事務局に、事務局長、事故調査官その他の職員を置く。
3  事務局長は、委員長の命を受けて、局務を掌理する。
4  事務局の内部組織は、国土交通省令で定める。

(事故等調査)
第十五条  委員会は、国際民間航空条約の規定並びに同条約の附属書として採択された標準、方式及び手続に準拠して、第三条第一号及び第二号に規定する調査を行うものとする。
2  委員会は、事故等調査を行うため必要があると認めるときは、次に掲げる処分をすることができる。
一  航空機の使用者、航空機に乗り組んでいた者、航空事故に際し人命又は航空機の救助に当たつた者その他の航空事故等の関係者(以下「航空事故等関係者」という。)から報告を徴すること。
二  鉄道事業者、軌道経営者、列車又は車両に乗務していた者、鉄道事故に際し人命の救助に当たつた者その他の鉄道事故等の関係者(以下「鉄道事故等関係者」という。)から報告を徴すること。
三  事故等の現場その他の必要と認める場所に立ち入つて、航空機、鉄道施設その他の航空事故に関係のある物件(以下「関係物件」という。)を検査し、又は航空事故等関係者若しくは鉄道事故等関係者(以下「関係者」という。)に質問すること。
四  関係者に出頭を求めて質問すること。
五  関係物件の所有者、所持者若しくは保管者に対し当該物件の提出を求め、又は提出物件を留め置くこと。
六  関係物件の所有者、所持者若しくは保管者に対し当該物件の保全を命じ、又はその移動を禁止すること。
七  事故等の現場に、公務により立ち入る者及び委員会が支障がないと認める者以外の者が立ち入ることを禁止すること。
3  委員会は、必要があると認めるときは、委員長、委員又は事務局の職員に前項各号に掲げる処分を、専門委員に同項第三号に掲げる処分をさせることができる。
4  前項の規定により第二項第三号に掲げる処分をする者は、その身分を示す証票を携帯し、かつ、関係者の請求があるときは、これを提示しなければならない。
5  第二項又は第三項の規定による処分の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。

(原因関係者等の意見の聴取)
第十九条  委員会は、事故等調査を終える前に、当該事故等の原因に関係があると認められる者に対し、意見を述べる機会を与えなければならない。
2  委員会は、必要があると認めるときは、事故等調査を終える前に、意見聴取会を開き、関係者又は学識経験のある者から、当該事故等に関して意見を聴くことができる。
3  旅客を運送する航空運送事業の用に供する航空機について発生した航空事故等又は旅客を運送する鉄道事業若しくは軌道事業の用に供する鉄道若しくは軌道において発生した鉄道事故等であつて一般的関心を有するものについては、前項の意見聴取会を開かなければならない。

(報告書等)
第二十条  委員会は、事故等調査を終えたときは、当該事故等に関する次の事項を記載した報告書を作成し、これを国土交通大臣に提出するとともに、公表しなければならない。
一  事故等調査の経過
二  認定した事実
三  事実を認定した理由
四  原因
2  前項の報告書には、少数意見を附記するものとする。
3  委員会は、事故等調査を終える前においても、事故等が発生した日から一年以内に事故等調査を終えることが困難であると見込まれる等の事由により必要があると認めるときは、事故等調査の経過について、国土交通大臣に報告するとともに、公表するものとする。

(勧告)
第二十一条  委員会は、事故等調査を終えた場合において、必要があると認めるときは、その結果に基づき、航空事故又は鉄道事故の防止のため講ずべき施策について国土交通大臣に勧告することができる。
2  国土交通大臣は、前項の規定による勧告に基づき講じた施策について委員会に通報しなければならない。

(建議)
第二十二条  委員会は、必要があると認めるときは、航空事故又は鉄道事故の防止のため講ずべき施策について国土交通大臣又は関係行政機関の長に建議することができる。

(不利益取扱いの禁止)
第二十四条  何人も、第十五条第二項若しくは第三項又は第十七条第二項若しくは第四項の規定による処分に応ずる行為をしたことを理由として、解雇その他の不利益な取扱いを受けない。

(罰則)
第二十五条  次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
一  第十五条第二項第一号若しくは第二号、同条第三項又は第十七条第四項の規定による報告の徴取に対し虚偽の報告をした者
二  第十五条第二項第三号、同条第三項若しくは第十七条第二項若しくは第四項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又はこれらの規定による質問に対し虚偽の陳述をした者
三  第十五条第二項第四号、同条第三項又は第十七条第四項の規定による質問に対し虚偽の陳述をした者
四  第十五条第二項第五号、同条第三項又は第十七条第四項の規定による処分に違反して物件を提出しない者
五  第十五条第二項第六号、同条第三項又は第十七条第四項の規定による処分に違反して物件を保全せず、又は移動した者
第二十六条  法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して、同条の刑を科する。
                                            弁護士 三木秀夫

ニュース六法目次