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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
橋梁工事の入札談合事件(2005年05月26日)     談合と不当な取引制
○公正取引委員会が刑事告発
官公庁発注の鋼鉄製橋梁(きょうりょう)建設工事の談合事件で、東京高検は23日、独占禁止法違反(不当な取引制限)容疑で、談合に参加していた橋梁メーカーなど関係先の家宅捜索を一斉に開始した。これに先立つ同日午前、公正取引委員会は談合組織の幹事社8社を同容疑で検事総長に刑事告発した。

独禁法違反容疑の刑事告発は東京都発注の水道メーター談合事件以来、2年ぶりで、1974年以降で9件目。鋼鉄製橋梁の発注高は年約3500億円で、過去最大規模の談合事件に発展した。告発対象は、談合組織「K会」の幹事社だった横河ブリッジ、石川島播磨重工業、JFEエンジニアリング、宮地鉄工所、東京鉄骨橋梁、「A会」の川田工業、高田機工、栗本鉄工所の計8社。東京高検は8社の担当者10人を事情聴取する方針で、公取委は追加告発に向けて審査を継続する。 (日経新聞2005.05.23) 

○橋梁談合、11社14人逮捕
鋼鉄製橋梁工事の入札談合事件で、東京高検は26日午後、横河ブリッジ理事Y(59)、三菱重工業橋梁部次長T(54)の両容疑者を含むメーカー11社の営業担当幹部ら計14容疑者を独占禁止法違反(不当な取引制限)容疑で逮捕した。逮捕されたのは、公正取引委員会が刑事告発した横河ブリッジ、石川島播磨重工業など談合組織の幹事社8社10人に、組織の主要メンバーだった三菱重工業、川崎重工業、松尾橋梁の3社4人を加えた計11社の営業担当幹部ら。 (各紙2005.05.26) 

○国交省が8社に指名停止処分
国発注の鋼鉄製橋梁工事の入札談合事件で、国土交通省は26日、独禁法違反容疑で公正取引委員会に告発され、幹部らが逮捕された横河ブリッジなど8社を8―5カ月の指名停止処分とした。ほかに指名停止となったのは川田工業、JFEエンジニアリング、東京鉄骨橋梁、高田機工、栗本鉄工所、石川島播磨重工業、宮地鉄工所。告発された工事の発注者である東北、関東、北陸の各整備局が27日から8カ月、ほかの整備局や本省などが5カ月。 8カ月の指名停止は独禁法違反では過去最長。国交省は「多数の業者が関与し、300億円を超える大規模な工事だったことを考慮して厳しく処分した」としている。(日経新聞2005年05月26日)  

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○悪質な談合が摘発に至った。国発注の橋梁工事入札で、2003年度(平成15年)には今回の被告発者8社のほかに41社が、2004年度(平成16年)には今回の被告発者8社のほかに39社とともに談合をしていたとして、公正取引委員会が2005年5月23日に検事総長へ刑事告発をした。

○刑事告発の内容は公正取引委員会のホームページに掲載されている。これを見ると、法的根拠は独占禁止法89条1項1号(罰則規定)、95条1項1号(両罰規定)、第3条(私的独占と不当な取引制限の禁止)、刑法第60条(共同正犯)を掲げている。これを受けて、東京高検が強制捜査に入った。

○今回の談合事件は、地方自治体での談合ではなく、国発注の大規模な入札におけるものであり、しかも長年にわたって継続されていたと見られている。悪質・重大事案であり、しかも過去に刑事判決や公取委の排除命令を受けたことのある会社も含まれていることも、問題の深さをうかがい知るものである。昨年10月には、公正取引委員会がこの件に関して立ち入り調査をしているが、その後も業界組織で談合が行われているとのことである。このような談合は、危機的状況にある国・地方公共団体の財政を圧迫するもので、企業のみが不当利益をあげる一方で、一般市民・消費者がその分の負担を被ることになり、一市民としては誠に許しがたいことである。公正取引委員会及び東京高検は、この際、真相究明を行い、しかるべき責任追及を果たし、談合を根絶すべきである。

○また、国土交通省自身の責任も大きいのではなかろうか。同省は2001年から入札改革に取組んでいたようであるが、今回、公正取引委員会の告発内容をみると、2003年度(平成15年)には今回の被告発者8社のほかに41社が、2004年度(平成16年)には今回の被告発者8社のほかに39社とともに談合をしていたとのことである。このような大掛かりな談合に国土交通省はなぜ気づかなかったのか、不思議である。

○談合は、日本ではなかなか根絶できないとの声もある。和を重視する日本においては、米国流の独占禁止規定は馴染まないとの声もある。しかし、和を重視して得られる企業の利益と、その結果において失う国民の損害とを比較したとき、救うべきは後者であることは自明である。独禁法違反によって生じるペナルティとしての刑罰、課徴金、損害賠償、さらには指名停止という強いダメージが待っている。また、消費者による厳しい企業選別も待っている。企業を守るのならば、コンプライアンスを守り、良き企業市民として活動することが最も大事であることは言うまでもない。
 
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【談合入札とは】
○国、地方公共団体、特殊法人等が行う公共事業の発注や、物品等の調達先についての入札に際し、競争に加わろうとする者同士が事前に相談をし、その中の一者が落札するように約束することをいう。この約束に基づいて受注予定者に落札させるため、受注予定者以外の者はこの受注予定者の入札価格よりも高い価格での入札を行なう。

この行為は、入札の目的である「競争」を消滅させる行為であるから、独占禁止法における「不当な取引制限」(第2条第6項)に該当する。「不当な取引制限」の典型例は「価格カルテル」と「入札談合」である。

また、刑法第96条の3第2項の「談合罪」(公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的で談合した者)の要件に該当するときは、刑法上の処罰(2年以下の懲役又は250万円以下の罰金)の対象となる。

○独占禁止法
第2条第6項(不当な取引制限)
この法律において「不当な取引制限」とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。

第3条  
事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。

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【談合に関するポイント】
○予定価格の積算が非常に厳しいために実損が出る公共工事などでは、指名業者間の話し合いで割り振って公共工事の実施に協力している場合など、不正利益を目的としていない場合は独占禁止法違反とならないのではないかとの質問を受けることがある。しかし、独禁法は、公正で自由な競争を制限する行為を規制しているために、たとえ不正な利益を得る目的がないからといっても、このような行為が正当化されることはない。 

また、談合行為が行われた理由で正当化されることはないため、仮に「工事の質の確保」や「受注先の均等化」などを理由にする場合であっても、受注予定者やその選定方法を決定すること自体が独占禁止法違反となる。

○入札談合に参加したが落札しなかった者も、独禁法違反に問われる。落札の有無に関わらず、入札談合の行為をしてるため、独禁法上のペナルティは受けることになる。ただし、全く落札しなかった場合は、不当な利得を得ていないことになるので、不当利得を徴収する課徴金は課せられない。 

○いわゆる「天の声」で受注予定者が決まる場合があるとも聞く。この場合に、事業者同士で決めるわけではないので独禁法違反にならないという見解を聞いたことがあるが、全くの間違い。「天の声」があっても、事業者間でその声に従うという決定やそういう暗黙の了解や共通の意思形成があれば、それは入札談合に他ならず、独禁法違反となる。

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【談合のペナルティ】

○入札談合をした企業に対するペナルティには次のものがある。

(1)排除措置(独禁法7条)
公正取引委員会は、差止め等の排除措置を命ずることができる。具体的には、協定等の破棄、周知徹底、手段等の破棄、報告、予防措置(価格、数量等の報告)等である。

独禁法第7条  
第三条又は前条の規定に違反する行為があるときは、公正取引委員会は、第8章第2節に規定する手続に従い、事業者に対し、当該行為の差止め、営業の一部の譲渡その他これらの規定に違反する行為を排除するために必要な措置を命ずることができる。 (2項略)
 
(2)課徴金(独禁法7条の2)
これにより得た不当な利得を徴収する制度として課徴金が課される。
課徴金は、カルテルの実行期間の売上に対して一定割合(6%、3%)で課される。

独禁法第7条の2
事業者が、不当な取引制限又は不当な取引制限に該当する事項を内容とする国際的協定若しくは国際的契約で、商品若しくは役務の対価に係るもの又は実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することによりその対価に影響があるものをしたときは、公正取引委員会は、第8章第2節に規定する手続に従い、事業者に対し、当該行為の実行としての事業活動を行つた日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間(当該期間が3年を超えるときは、当該行為の実行としての事業活動がなくなる日からさかのぼつて3年間とする。以下「実行期間」という。)における当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額に100分の6(小売業については100分の2、卸売業については100分の1とする。)を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。ただし、その額が50万円未満であるときは、その納付を命ずることができない。 (2項以下略)

(3)損害賠償請求
損害を被った被害者は、行為者たる事業者に対し民事上の損害賠償請求をすることができる(独禁法25条1項、民法709条)。事業者は、故意又は過失がなかつたことの抗弁を出すことはできない(独禁法25条2項)

独禁法第25条
第3条、第6条又は第19条の規定に違反する行為をした事業者(第六条の規定に違反する行為をした事業者にあつては、当該国際的協定又は国際的契約において、不当な取引制限をし、又は不公正な取引方法を自ら用いた事業者に限る。)及び第8条第1項の規定に違反する行為をした事業者団体は、被害者に対し、損害賠償の責めに任ずる。
2  事業者及び事業者団体は、故意又は過失がなかつたことを証明して、前項に規定する責任を免れることができない。

(4)刑事罰(独禁法・刑法) 
独禁法違反の場合には、行為者に刑事罰(3年以下の懲役又は500万円以下の罰金)が課される。また、法人への両罰規定(5億円以下の罰金)が定められている(独禁法89条1項1号、95条)。

また、刑法第96条の3第2項の「談合罪」(公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的で談合した者)の要件に該当するときは、刑法上の処罰(2年以下の懲役又は250万円以下の罰金)の対象となる。


独禁法第89条  
次の各号のいずれかに該当するものは、3年以下の懲役又は500万円以下の罰に処する。
一  第3条の規定に違反して私的独占又は不当な取引制限をした者 
二  第8条第1項第1号の規定に違反して一定の取引分野における競争を実質的に制限したもの
2  前項の未遂罪は、罰する。

独禁法第95条  
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務又は財産に関して、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、当該各号に定める罰金刑を科する。
一  第89条 5億円以下の罰金刑
(以下略)

実行者たる企業で実際に誰が刑事罰を受けるかであるが、基本的には違反行為の実行者で、多くは入札談合に参加した営業部長や参加を指示した上司などが懲役刑や罰金刑の対象になる。また当該企業の代表者(代表取締役)も入札談合を知っていながら(故意)、防止・是正に必要な措置をとらなかった場合には罰金刑の対象になりうる。 

☆独禁法と刑法談合罪との関係について
刑法上の談合罪は、構成要件として「公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的」が入っている。これに対して独禁法の場合は、このような主観的要件が不要とされている。この目的がある場合には、刑法の談合罪と独占禁止法上の罪とは、いわゆる観念的競合の関係に立つものと解される。

刑法(競売等妨害)
第96条の3  偽計又は威力を用いて、公の競売又は入札の公正を害すべき行為をした者は、2年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処する。
2  公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的で、談合した者も、前項と同様とする。

(5)地方自治体による損害賠償と住民訴訟(地方自治法242条の2)
地方自治体での談合の場合、入札談合によって公共事業を発注した地方自治体が、入札が適法に行なわれていたならば決まっていただろう公正な価格との差額につき損害を被った場合はこの地方自治体は談合を行なった事業者に対して損害賠償の請求をすることができる。

さらに、この地方自治体がこの損害賠償請求をしないときは、その住民が監査請求をした後に、その地方自治体に代って損害賠償の請求をすることができる。これを「住民訴訟」(地方自治法242条の2)と呼ぶ。

(6)指名停止措置
談合がなされた場合は、指名停止措置がなされる。今回の橋梁工事の入札談合事件でも、国土交通省は、幹部らが逮捕された横河ブリッジなど8社を8―5カ月の指名停止処分とした。

なお、国土交通省は、2年前に「談合等の不正行為に対する指名停止措置の強化」の方針を公表している。「入札談合等関与行為の排除及び防止に関する法律」(官製談合防止法)の施行を踏まえ、国土交通省を事務局とする30の国、公団等の機関からなる中央公契連(中央公共工事契約制度運用連絡協議会)が、 指名停止措置強化について検討を行ってきたが、2003年(平成15年)5月29日の中央公契連総会にて、指名停止モデル及び運用申合せの改正が決定された。その後これに基づいて、国土交通省を含む各機関が、各々の指名停止基準等の改正を行っている。

その指名停止モデル及び運用申合せの改正では、
@不正行為の態様に応じ、企業の責任や体質が特に厳しく問われる場合の措置の強化(会社が組織として行った不正行為に対する措置の強化、談合情報が寄せられ調査が実施された案件において、誓約書を提出したにもかかわらず、談合等があった場合の指名停止期間の加重、官製談合に対する指名停止の強化)、
A独占禁止法違反に対する指名停止期間の長期(自発注、当該部局内)の12ヶ月への引き上げ、
B職員への贈賄において、使用人の逮捕等の場合も全国対応(当該部局以外1〜3ヶ月)することの実施、
C競売入札妨害の指名停止モデル上への明記、
D独占禁止法違反行為に関する指名停止のタイミングを早める改正、
E独占禁止法違反(他機関発注案件)に基づく刑事告発がなされ、告発対象者が、一般役員等以上の場合には指名停止区域を全国に拡大して運用、
F不正又は不誠実な行為として、業者自らの過失により入札手続を大幅に遅延させる場合を例示として追加し、落札決定後辞退等と同様に指名停止措置とすること、が盛り込まれた。

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【ガイドライン】
○公正取引委員会による入札ガイドライン
http://www.jftc.go.jp/dokusen/3/pbgl/
公正取引委員会は、1994年(平成6年)7月5日に、「公共的な入札に係る事業者及び事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」(公共入札ガイドライン)を公表している。この指針は、事業者や事実者団体による入札談合の独占禁止法違反事件が数多く生じている状況を踏まえ、入札に係る事業者及び事業者団体のどのような活動が独占禁止法上問題となるかについて具体例を挙げながら明らかにすることによって、入札談合の防止を図るとともに、事業者及び事業者団体の適正な活動に役立てようとするものである。

そこでは、これまでの公正取引委員会の法運用の経験に基づいて、主要な活動類型ごとに、「原則として違反となるもの」、「違反となるおそれがあるもの」、「原則として違反とならないもの」を参考例として示しているので、実務的に参考になる。 @「原則として違反となるもの」では、これまでの審決及び課徴金納付命令における違反行為の内容が整理され、原則として違反となると考えられる行為が挙げられている。また、「原則として違反となるもの」に挙げられた行為との関連では、入札談合防止の観点から特に留意すべき事項について記述している。 A「違反となるおそれがあるもの」では、違反行為に伴って行われるおそれがある、又は違反行為につながるおそれがある行為が挙げられている。 B「原則として違反とならないもの」では、それ自体では原則として違反とならないと考えられる行為が挙げられている。 

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【官製談合】
○「官製談合」と「官製談合防止法」について
入札談合に関して、発注者側である国や地方自治体等の職員が、入札談合等に関与するいわゆる官製談合も社会的問題となっている。

本来は、入札談合は、入札を実施する機関が直接的な被害者であるはずにも関わらず、そこに関連する公務員が関与したならば、もはや入札自体が意味を失うことは明らかである。ところが、独禁法は参加業者に対する規定しかないため、こういった官製談合に対処できなかった。このため、発注者側である公務員の談合にかかわる行為を規制する法律が必要となっていた。

社会からの強い要望のもとで、「入札談合等関与行為の排除及び防止に関する法律」(官製談合防止法)が2002年(平成14年)7月24日に成立し、2003年(平成15年)1月6日に施行された。
 
この官製談合防止法では、公正取引委員会における発注機関への必要な改善措置の要求、当該発注機関における調査、措置の検討、入札談合に関与した職員への賠償請求・懲戒事由の調査等が規定されている。
                                            弁護士 三木秀夫

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