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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
5%妥当と最高裁判決(2005年06月14日)  交通事故賠償の中間利息控
○「利息算定5%は妥当」 交通事故賠償金で最高裁判断
交通事故の遺族に支払われる賠償金からあらかじめ差し引かれる利息が高すぎないか――。超低金利時代を背景に、こんな問題が争われた訴訟の上告審判決が14日、言い渡された。最高裁第三小法廷(金谷利広裁判長=退官のため浜田邦夫裁判官が代読)は、日本の法体系全体について「利息を差し引く際、法的安定性や統一的処理が必要とされる場合は年5%と定められている」と指摘。「賠償額の算定でも5%とすべきだ」とする初めての判断を示した。「3%」で計算した二審判決を破棄し、審理を札幌高裁に差し戻した。(asahi.com 2005年06月14日)

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○交通賠償実務において、極めて影響の大きな最高裁判決が出た。

死亡損害に関する逸失利益の計算においてなされる「中間利息控除」の際の利率について、これまでは民法で遅延損害金の法定利率が年利5%とされていることなどから、実務的には5%が採用されてきたのを、最高裁判所としてこれを法的に認めたものである。 

特に、実務に影響がある点は、最近の低金利を反映して、4%や3%(今回の訴訟の一、二審など)、2%として賠償額を高くする判決が地・高裁で出始めていたため、最高裁の統一判断が注目されていたためである。

○もう少し分かりやすく解説すると、事故により死亡した場合の損害賠償としては、死亡慰謝料と並んで、生きていたら将来得られたはずの収入(逸失利益)が大きな費目となる。

その逸失利益は、通常、次の計算式で算出される。
・18歳以上の場合
基礎収入(年収)×(1−生活費控除率)×67歳までの中間利息控除係数  
・未就労年少者(18歳未満の者)の場合
基礎収入(年収)×(1−生活費控除率)×(67歳までの中間利息控除係数−18歳までの中間利息控除係数)  

逸失利益は通常、稼動可能年齢と言われる67歳まで働く想定で計算される。しかし、将来において発生する収入を、現在時点において先取り取得することになるため、その人が生きていたら生じていたであろう生活費を経費として控除し、さらに、遺族が預貯金などで運用したと仮定して得られる中間利息を、あらかじめ差し引いて額を計算することとなる。

この場合、差し引くべき中間利息の利率が高ければ控除額は大きくなり、結果的に賠償額は低くなる。すなわち、5%よりも、3%や2%のほうが賠償額が大きくなり、遺族にとっては有利になる。特に、銀行の定期預金に預けても金利は0.1%にも満たない今日では、どのような運用を図ろうとしても、年5%もの利息を得ることが困難な中で、これだけを5%として引かれることには抵抗を感じるのも一理ある話である。この低金利時代を反映して、4%や3%(今回の訴訟の一、二審など)、2%として賠償額を高くする判決が地・高裁で出始めていたのも、この感覚に沿ったものである。

○今回の事件の原審である札幌高裁も、実際の実質金利の動向と年利5%が著しく乖離していることが明らかで、少なくとも3%を超えることはないとして、3%が適当と判断し、これをもとに、逸失利益を約5530万円と算出した。

しかし、実務的に定着していた5%の利率で計算した場合は、この逸失利益は約3300万円となり、大きな開きが生じる。これでは、事案ごとや裁判官ごとに、中間利息の控除割合についての判断が区々に分かれることになったり、被害者相互間の公平の欠けたり、損害額の予測可能性による紛争の予防という観点から問題となる。

○その中で出された今回の最高裁判決は、「実際の金利が近時低い状況にあることや原審のいう実質金利の動向からすれば、被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合は民事法定利率である年5%より引き下げるべきであるとの主張も理解できないではない」と示しつつも、損害賠償額の算定に当たり、被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合は、民事法定利率(年5%)によらなければならない」とした。

今回の最高裁判決の理由を整理すると、次のとおりである。

@民法404条において民事法定利率が年5%と定められたのは、民法の制定に当たって参考とされたヨーロッパ諸国の一般的な貸付金利や法定利率、我が国の一般的な貸付金利を踏まえ、金銭は、通常の利用方法によれば年5%の利息を生ずべきものと考えられたからである。
Aそして,現行法は、将来の請求権を現在価額に換算するに際し、法的安定及び統一的処理が必要とされる場合には、法定利率により中間利息を控除する考え方を採用している。(例えば、民事執行法88条2項、破産法99条1項2号、民事再生法87条1項1号、2号、会社更生法136条1項1号、2号等は、いずれも将来の請求権を法定利率による中間利息の控除によって現在価額に換算することを規定している。)B損害賠償額の算定に当たり被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するについても、法的安定及び統一的処理が必要とされるのであるから、民法は、民事法定利率により中間利息を控除することを予定しているものと考えられる。
Cこのように考えることによって、事案ごとに、また、裁判官ごとに中間利息の控除割合についての判断が区々に分かれることを防ぎ、被害者相互間の公平の確保、損害額の予測可能性による紛争の予防も図ることができる。

○非常に分かり易く表現をするならば、民事法定利率を年5%にしたのは民法制定時以来のもので、これで統一することがよく、3%とか2%とかにするなら、これら法律を変えないといけない、ということである。

【参考条文】
○民法404条
(法定利率)
第四百四条  利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年五分とする。

○民事執行法88条2項
(期限付債権の配当等)
第八十八条  確定期限の到来していない債権は、配当等については、弁済期が到来したものとみなす。
2  前項の債権が無利息であるときは、配当等の日から期限までの法定利率による利息との合算額がその債権の額となるべき元本額をその債権の額とみなして、配当等の額を計算しなければならない。

○破産法99条1項2号
(劣後的破産債権等)
第九十九条  次に掲げる債権(以下「劣後的破産債権」という。)は、他の破産債権(次項に規定する約定劣後破産債権を除く。)に後れる。
二  破産手続開始後に期限が到来すべき確定期限付債権で無利息のもののうち、破産手続開始の時から期限に至るまでの期間の年数(その期間に一年に満たない端数があるときは、これを切り捨てるものとする。)に応じた債権に対する法定利息の額に相当する部分

○民事再生法87条1項1号、2号
(再生債権者の議決権)
第八十七条  再生債権者は、次に掲げる債権の区分に従い、それぞれ当該各号に定める金額に応じて、議決権を有する。
一  再生手続開始後に期限が到来すべき確定期限付債権で無利息のもの
再生手続開始の時から期限に至るまでの期間の年数(その期間に一年に満たない端数があるときは、これを切り捨てるものとする。)に応じた債権に対する法定利息を債権額から控除した額
二  金額及び存続期間が確定している定期金債権
各定期金につき前号の規定に準じて算定される額の合計額(その額が法定利率によりその定期金に相当する利息を生ずべき元本額を超えるときは、その元本額)

○会社更生法136条1項1号、2号
(更生債権者等の議決権)
第百三十六条  更生債権者等は、その有する更生債権等につき、次の各号に掲げる債権の区分に従い、それぞれ当該各号に定める金額に応じて、議決権を有する。
一  更生手続開始後に期限が到来すべき確定期限付債権で無利息のもの
更生手続開始の時から期限に至るまでの期間の年数(その期間に一年に満たない端数があるときは、これを切り捨てるものとする。)に応じた債権に対する法定利息を債権額から控除した額
二  金額及び存続期間が確定している定期金債権
各定期金につき前号の規定に準じて算定される額の合計額(その額が法定利率によりその定期金に相当する利息を生ずべき元本額を超えるときは、その元本額)

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○「中間利息控除係数」とは何か
労働能力喪失(就労可能)期間に対応する「ライプニッツ係数」又は「ホフマン係数」(新ホフマン係数ともいう。)のことをいう。

サイト「交通事故110番」のライプニッツ係数表
http://www.jiko110.com/contents/beppyou/cofficie/

ホフマン係数も使い方はライプニッツ係数と同じであるが、ライプニッツ式が複利なのに対し、ホフマン式は単利での計算となっている。

以前の裁判実務では、ホフマン方式によるか、ライプニッツ方式によるか、必ずしも統一されていなかったが、ややホフマン式が主流の時期もあり、最高裁判例でも、このいずれの方式も是認されていた。しかし、平成11年に東京地裁・大阪地裁・名古屋地裁の交通事故集中部が「交通事故による逸失利益の算定方式についての共同提言」(判例タイムズ1014号62頁登載)において、中間利息控除を3地裁ともにライプニッツ係数を用いて算定する方向が示されてから、他の大多数の訴訟事例でもライプニッツ係数を用いて算定されている。

自賠責保険の保険金支払時の支払基準「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」(国土交通省・金融庁平成13年告示第1号)でも、逸失利益の算出はライプニッツ係数によることとされている。  

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○平成17年06月14日第三小法廷判決 平成16年(受)第1888号
損害賠償請求事件(破棄差戻し)
原審 札幌高等裁判所 (平成16年(ネ)第40号、157号)

主  文
原判決中上告人の敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき,本件を札幌高等裁判所に差し戻す。

理  由
上告代理人田中登,同小黒芳朗の上告受理申立て理由(ただし,排除された部分を除く。)について

1 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 被上告人らの子であるA(平成4年1月29日生。当時9歳)は,平成13年8月18日,上告人の過失によって発生した交通事故(以下「本件事故」という。)により死亡した。
(2) 被上告人らは,本件事故によるAの上告人に対する損害賠償請求権を法定相続分である各2分の1の割合で相続により取得した。

2 被上告人らは,不法行為等による損害賠償請求権に基づき,上告人に対し,本件事故による損害賠償を請求している。

3 原審は,Aの将来の逸失利益の算定における中間利息の控除割合につき,次のとおり判示して,被上告人らの請求を一部認容した。
交通事故による逸失利益を現在価額に換算する上で中間利息を控除することが許されるのは,将来にわたる分割払と比べて不足を生じないだけの経済的利益が一般的に肯定されるからにほかならないのであるから,基礎収入を被害者の死亡又は症状固定の時点でのそれに固定した上で逸失利益を現在価額に換算する場合には,中間利息の控除割合は裁判時の実質金利(名目金利と賃金上昇率又は物価上昇率との差)とすべきである。民法404条は,利息を生ずべき債権の利率についての補充規定であり,実質金利とは異なる名目金利を定める規定であるので,これを実質金利の基準とすることの合理性を見いだすことはできない。また,旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの)46条5号ほかの倒産法の規定や民事執行法88条2項の規定が弁済期未到来の債権を現在価額に換算するに際して民事法定利率による中間利息の控除を認めていることについては,いずれも利息の定めがなく,かつ,弁済期の到来していない債権を対象としており,弁済期が到来し,かつ,不法行為時から遅延損害金が発生している逸失利益の賠償請求権とは,その対象とする債権の性質を異にしているのであって,中間利息の控除割合についてこれらの規定を類推又はその趣旨を援用する前提を欠くものというべきである。
我が国の昭和31年から平成14年までの47年間における定期預金(1年物)の金利(税引き後)と賃金上昇率との差がプラスとなった年は16年で,マイナスとなった年は31年であること,そのうちプラス2%を超えたのは3年(最大値はプラス2.3%)であり,マイナス5%を下回った年は16年(最小値はマイナス21.4%)であり,全期間の平均値はマイナス3.32%であり,平成8年から平成14年までの期間の平均値は0.25%であることによれば,Aの将来の逸失利益を現在価額に換算するための中間利息の控除割合としての実質金利は,多くとも年3%を超えることはなく,中間利息の控除割合を年3%とすることが将来における実質金利の変動を考慮しても十分に控え目なものというべきである。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
我が国では実際の金利が近時低い状況にあることや原審のいう実質金利の動向からすれば,被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合は民事法定利率である年5%より引き下げるべきであるとの主張も理解できないではない。
しかし,民法404条において民事法定利率が年5%と定められたのは,民法の制定に当たって参考とされたヨーロッパ諸国の一般的な貸付金利や法定利率,我が国の一般的な貸付金利を踏まえ,金銭は,通常の利用方法によれば年5%の利息を生ずべきものと考えられたからである。そして,現行法は,将来の請求権を現在価額に換算するに際し,法的安定及び統一的処理が必要とされる場合には,法定利率により中間利息を控除する考え方を採用している。例えば,民事執行法88条2項,破産法99条1項2号(旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの)46条5号も同様),民事再生法87条1項1号,2号,会社更生法136条1項1号,2号等は,いずれも将来の請求権を法定利率による中間利息の控除によって現在価額に換算することを規定している。損害賠償額の算定に当たり被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するについても,法的安定及び統一的処理が必要とされるのであるから,民法は,民事法定利率により中間利息を控除することを予定しているものと考えられる。このように考えることによって,事案ごとに,また,裁判官ごとに中間利息の控除割合についての判断が区々に分かれることを防ぎ,被害者相互間の公平の確保,損害額の予測可能性による紛争の予防も図ることができる。上記の諸点に照らすと,損害賠償額の算定に当たり,被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合は,民事法定利率によらなければならないというべきである。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由がある。
5 以上のとおりであるから,原判決中上告人の敗訴部分を破棄し,損害額等について更に審理を尽くさせるため,同部分につき,本件を原審に差し戻すことにする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 金谷利廣 裁判官 濱田邦夫 裁判官 上田豊三 裁判官 藤田宙靖)
                                            弁護士 三木秀夫

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