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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
尾鷲熊野灘でタンカー同士の衝突事件(2005年07月15日) 海上衝突予防
○15日午前4時10分ごろ、三重県尾鷲市の三木埼灯台沖南東約30キロの熊野灘で、南洋海運(東京都世田谷区)所有のタンカー「旭洋丸」697トンと、光洋汽船(大阪市北区)所有のケミカルタンカー「日光丸」499トンが衝突した。旭洋丸は海上で炎上、日光丸は船体が破損して浸水している。旭洋丸の乗組員7人のうち1人が死亡、1人が衰弱して重傷。残り5人の行方が分からなくなっている。日光丸の乗組員5人は全員救助された。現場の海上では、旭洋丸から大量の油が流出しているという。

調べでは、旭洋丸の船体右中央部分に穴があり、日光丸の船首がつぶれていることから、日光丸の船首が旭洋丸の胴体に衝突したとみられる。旭洋丸は三重県四日市港でガソリン原料の粗ベンゼン2000キロリットルを搭載し、熊野灘を南進していたとみられる。日光丸は化学薬品のクレオソート1000トンを積んでいた。現場付近は小型船を中心に東西交通の要衝となっており、航行する船舶は多い。南北に進む船が東西に方向を変える「変針点」と呼ばれる地点で、以前から事故が多かった。事故当時、海上濃霧警報と雷注意報が出ており、海上の視界は30メートル以下と極めて悪かった。(毎日新聞・影山哲也【一部カット】2005.07.15)

○尾鷲海上保安部は同日夜、業務上過失往来妨害と業務上過失致死の疑いで日光丸の一等航海士Uを逮捕した。調べでは、U容疑者はレーダーで接近してくる旭洋丸をとらえながら、十分な見張りをするなどの注意を怠り、事故を引き起こした疑い。同容疑者は容疑を認めており、ほかの乗組員からも事情を聴いている。事故は日光丸の船首が旭洋丸の右舷中央部に衝突。旭洋丸から積み荷のベンゼンが流出して引火、日光丸にも燃え移った。旭洋丸は十六日未明になっても燃え続けた。

海上衝突予防法では、船舶同士が正面から近づいた場合、互いに右に曲がって避けなければならない。また、濃霧時には見張りを増員することや警笛を鳴らすことなども義務付けている。日光丸の吉本船長によると衝突前、レーダーで約七キロ先の旭洋丸に気付き、回避のため右にかじを切った。しかし旭洋丸が同じ方向に曲がってきたため、慌てて逆の左に急旋回したが、避けきれなかった。濃霧で視界は約三十メートルだったという。(産経新聞【記事中実名の逮捕者氏名をイニシャルに変更】2005.07.16)

○三重県尾鷲市沖の熊野灘でタンカー同士が衝突した事故で、尾鷲海上保安部は十七日、二人が死傷、五人が行方不明となった旭洋丸(六九七トン、南洋海運所属)の船内で五人の遺体を発見した。(中国新聞2005.07.17)
 
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○大変な事故である。テレビの映像に映る破損船舶を見ると、衝突の激しさが窺い知れる。亡くなった方の冥福を祈るとともに、負傷された方の早期回復を祈るのみである。

○事故の原因は、これからの捜査等で詳しく判明されていくのであろうが、報道を見る限りでは、日光丸側がレーダーで接近してくる旭洋丸をとらえながら、十分な見張りをするなどの注意を怠ったとの疑いがあるとのことである。

他方で、日光丸の船長によると、衝突前にレーダーで約七キロ先の旭洋丸に気付き、回避のため右にかじを切ったが、旭洋丸が同じ方向に曲がってきたため、慌てて逆の左に急旋回したが避けきれずに衝突したと述べたとも報道されている。

また、濃霧で視界が悪かったにもかかわらず、双方とも汽笛を鳴らしたり速度を落としたりするなどの安全措置を取らなかった疑いや可能性のあることが、浮かび上がっているらしい。海上衝突予防法は、レーダーでしか他の船が確認できないほど視界が悪い場合、衝突の恐れがなくなるまで速度を落とさなければならないとしており、また、少なくとも二分おきに長い汽笛を鳴らすよう定めている。日光丸は、このような濃霧であったにもかかわらず、旭洋丸の動きを注視せず、減速や汽笛で衝突を避ける措置を怠ったとの可能性が言われている。一方、旭洋丸側も汽笛を鳴らしていなかった可能性があるようで、これらの状況も捜査の焦点となろう。

○陸上の自動車交通においては、道路交通法がある。海上でも大小様々な船舶が行き来しており、危険な浅瀬や暗礁も多い狭水道や湾内では一定のルールを守ることで初めて安全な航海が保たれる。このため、日本の海の交通においては、いわゆる「海上交通三法」というのがある。「海上衝突予防法」「港則法」「海上交通安全法」の3つの法律である。特に、航行の基本的ルールを定めたものが海上衝突予防法である。

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海上衝突予防法とは
この法律は、国際海事機関(IMO)による国際条約である「国際海上衝突予防規則」に基づき国内法として定められた海上交通の基本法である。他の国もこの国際規則に基づいてそれぞれの国で「海上衝突予防法」を定めている。こういったことから、海上交通の世界共通法規となっていて、同じルールで衝突事故が防止されることになっている。同法は、あらゆる視界の状態における船舶の航法、互いに他の船舶の視野の内にある船舶の航法、視界制限状態における船舶の航法、音響信号及び発光信号見張りの要領の規定から構成されている。

海上交通安全法・港則法とは
「海上交通安全法」とは、東京湾、伊勢湾、大阪湾を含む瀬戸内海の船舶交通について、特別の交通方法を定めたものである。海上衝突予防法の特則となり、その海域においては海上衝突予防法に優先して適用されることになる。

「港則法」とは、港内という特殊な水域における船舶交通の安全と港内の整頓を図ることを目的として制定された法律であり、これも海上衝突予防法の特則となり、港内においては海上衝突予防法に優先して適用されることになる。

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【視界制限時における航法について】
○今回の事件は、濃霧などでレーダーでしか他の船が確認できないほどの「視界が制限された状態」において発生している。この場合、海上衝突予防法では、第2章航法、第1節(あらゆる視界の状態における船舶の航法)の各規定(特に5〜8条)と、第3節第19条が、その場合の適用条文となる。

第5条(見張り)においては、「船舶は、周囲の状況及び他の船舶との衝突のおそれについて十分に判断することができるように、視覚、聴覚及びその時の状況に適した他のすべての手段により、常時適切な見張りをしなければならない。」としている。

第6条(安全な速力)では、「船舶は、他の船舶との衝突を避けるための適切かつ有効な動作をとること又はその時の状況に適した距離で停止することができるように、常時安全な速力で航行しなければならない。」と定め、この場合において、その速力の決定に当たつては、視界の状態、船舶交通のふくそうの状況 、自船の停止距離、旋回性能その他の操縦性能などの、考慮しなければならない事項を列挙している。

○第7条(衝突のおそれ)では、衝突の恐れの判断に関して次の5点を細かく定めている。
@船舶は、他の船舶と衝突するおそれがあるかどうかを判断するため、その時の状況に適したすべての手段を用いなければならない。
Aレーダーを使用している船舶は、他の船舶と衝突するおそれがあることを早期に知るための長距離レーダーレンジによる走査、探知した物件のレーダープロッティングその他の系統的な観察等を行うことにより、当該レーダーを適切に用いなければならない。
B船舶は、不十分なレーダー情報その他の不十分な情報に基づいて他の船舶と衝突するおそれがあるかどうかを判断してはならない。
C船舶は、接近してくる他の船舶のコンパス方位に明確な変化が認められない場合は、これと衝突するおそれがあると判断しなければならず、また、接近してくる他の船舶のコンパス方位に明確な変化が認められる場合においても、大型船舶若しくはえい航作業に従事している船舶に接近し、又は近距離で他の船舶に接近するときは、これと衝突するおそれがあり得ることを考慮しなければならない。
D船舶は、他の船舶と衝突するおそれがあるかどうかを確かめることができない場合は、これと衝突するおそれがあると判断しなければならない。

○第8条(衝突を避けるための動作)では、次の5点を細かく定めている。
@船舶は、他の船舶との衝突を避けるための動作をとる場合は、できる限り、十分に余裕のある時期に、船舶の運用上の適切な慣行に従つてためらわずにその動作をとらなければならない。
A船舶は、他の船舶との衝突を避けるための針路又は速力の変更を行う場合は、できる限り、その変更を他の船舶が容易に認めることができるように大幅に行わなければならない。
B船舶は、広い水域において針路の変更を行う場合においては、それにより新たに他の船舶に著しく接近することとならず、かつ、それが適切な時期に大幅に行われる限り、針路のみの変更が他の船舶に著しく接近することを避けるための最も有効な動作となる場合があることを考慮しなければならない。
C船舶は、他の船舶との衝突を避けるための動作をとる場合は、他の船舶との間に安全な距離を保つて通過することができるようにその動作をとらなければならない。この場合において、船舶は、その動作の効果を当該他の船舶が通過して十分に遠ざかるまで慎重に確かめなければならない。
D船舶は、周囲の状況を判断するため、又は他の船舶との衝突を避けるために必要な場合は、速力を減じ、又は機関の運転を止め、若しくは機関を後進にかけることにより停止しなければならない。

○第三節(視界制限状態における船舶の航法)の第19条では、視界制限状態にある水域又はその付近を航行している船舶(互いに他の船舶の視野の内にあるものは除外)について、次の5点(同条2項から6項)を定めている。
@動力船は、視界制限状態においては、機関を直ちに操作することができるようにしておかなければならない。(19条2項)
A船舶は、第一節の規定による措置を講ずる場合は、その時の状況及び視界制限状態を十分に考慮しなければならない。 (19条3項)
B他の船舶の存在をレーダーのみにより探知した船舶は、当該他の船舶に著しく接近することとなるかどうか又は当該他の船舶と衝突するおそれがあるかどうかを判断しなければならず、また、他の船舶に著しく接近することとなり、又は他の船舶と衝突するおそれがあると判断した場合は、十分に余裕のある時期にこれらの事態を避けるための動作をとらなければならない。 (19条4項)
C前項の規定による動作をとる船舶は、やむを得ない場合を除き、次に掲げる針路の変更を行つてはならない。 (19条5項)
一  他の船舶が自船の正横より前方にある場合(当該他の船舶が自船に追い越される船舶である場合を除く。)において、針路を左に転じること。
二  自船の正横又は正横より後方にある他の船舶の方向に針路を転じること。
D船舶は、他の船舶と衝突するおそれがないと判断した場合を除き、他の船舶が行う第35条(視界制限状態における音響信号) の規定による音響による信号を自船の正横より前方に聞いた場合又は自船の正横より前方にある他の船舶と著しく接近することを避けることができない場合は、その速力を針路を保つことができる最小限度の速力に減じなければならず、また、必要に応じて停止しなければならない。この場合において、船舶は、衝突の危険がなくなるまでは、十分に注意して航行しなければならない。 (19条6項)

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○今回の事件に関しては、濃霧で視界が悪かったにもかかわらず、双方とも汽笛を鳴らしたり速度を落としたりするなどの安全措置を取らなかった疑いや可能性のあることが、浮かび上がっている。

このうち、速度を落とせという点に関しては、海上衝突予防法19条3項にある「船舶は、第一節の規定による措置を講ずる場合は、その時の状況及び視界制限状態を十分に考慮しなければならない。」から、第6条の「安全な速度」に導かれるのであろうが、この19条3項は非常に抽象的で、この法律を読む船舶関係者にして分かりづらいものとなっている。この点、海上衝突予防法の元である国際海上衝突予防規則第19規則b項では、明確に、視界制限時には「安全な速力で走れ」と規定している。日本では法律条文の作成手法において、条文内容の重複を避ける傾向が強く、このためにこのような抽象的規定になっているのであろうが、やや不親切な感じもする。

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【互いに他の船舶の視野の内にある船舶の衝突回避法について】
○今回の事案とは異なるが、互いに他の船舶の視野の内にある(つまり互いの船が見える)2隻の船が衝突しそうな場合についても、海上衝突予防法では、それぞれの船が取るべき行動が規定されている。海上は「右側航行」が原則であるため、避け方もそれを基本において定められている。衝突しそうもないときは何の行動も起こす必要はなく、そのままの針路で進んでよい。東京湾、伊勢湾、大阪湾を含む瀬戸内海は、非常に混雑した海であるので、さらに特別な交通ルールが定められ工夫されている。

○「行き会い船」航法
2隻の動力船が真向かい、またはほとんど真向かいに行き会う場合において衝突するおそれがあるときに取るべき航法。

この場合は、各動力船は、互いに他の動力船の左舷側を通過することができるように、「それぞれが」針路を「右」に転じなければならない。行会いの関係になった場合には、両方の船に避航義務がある。

他の動力船を、船首方向またはほとんど船首方向に見る場合においては、夜間にはその動力船のマスト灯2個を垂直線上もしくはほとんど垂直線上に見るとき、または両側の舷灯を見るとき、昼間にあってはその動力船をこれに相当する状態に見るときは、行き会い船航法を取るべき状況にあると判断しなければならない。また、自船がかかる状況にあるかどうかを確かめることができない場合は、その状況にあると判断しなければならない。 

○「横切り船」航法
2隻の動力船が互いに進路を横切る場合(針路の交差)において衝突するおそれがあるときに取るべき航法。

この場合は、相手の動力船を「右舷側に見る動力船」に避航義務があり、相手の動力船の進路を避けなければならない。この場合において、進路を避けなければならない動力船は、やむを得ない場合を除き、相手の動力船の船首方向を横切ってはならない。ここで他船を右に見ない船は針路速力を保持して航行しなければならない。

○「追い越し船」航法
ある船が他の船を追い越そうとして衝突しそうな場合の追越する側の船を「追い越し船」という。「追い越し船」には避航義務があり、追い越される船舶を確実に追い越し、かつ、その船舶から十分に遠ざかるまでその船舶の進路を避けなければならない。

追い越し船かどうかについて、船舶の正横後22度30分を超える後方の位置(夜間にあっては、その船舶の舷灯のいずれをも見ることができない位置)からその船舶を追い越す船舶は、追越し船とされる。自船が追越し船であるかどうかを確かめることができない場合は、追越し船であると判断しなければならない。 この場合、追い越される船は針路速力を保持して航行しなければならない。

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○この「海上衝突予防法」の項は、元船員と語られる方からの示唆に富むご教示を受けて、2005年8月9日に文章に手を加えました。ご教示を頂いた方に、この場を借りて厚くお礼を申し上げます。

この方は、今回の熊野灘事故に関して、「本来この事件は内航船業界の奥にある厳しい条件、例えばこの視界制限時にも関わらず「1人で当直していた」、あるいは「十分に安全な速力に出来なかった」、を解決しないと同様の事件は再発するでしょう」と言うご意見を述べておられたが、もっとものご意見であると思います。

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○海上衝突予防法(昭和五十二年六月一日法律第六十二号)
(目的)
第一条  この法律は、千九百七十二年の海上における衝突の予防のための国際規則に関する条約に添付されている千九百七十二年の海上における衝突の予防のための国際規則の規定に準拠して、船舶の遵守すべき航法、表示すべき灯火及び形象物並びに行うべき信号に関し必要な事項を定めることにより、海上における船舶の衝突を予防し、もつて船舶交通の安全を図ることを目的とする。
(適用船舶)
第二条  この法律は、海洋及びこれに接続する航洋船が航行することができる水域の水上にある次条第一項に規定する船舶について適用する。


第二章 航法
第一節 あらゆる視界の状態における船舶の航法

(適用船舶)
第四条  この節の規定は、あらゆる視界の状態における船舶について適用する。

(見張り)
第五条  船舶は、周囲の状況及び他の船舶との衝突のおそれについて十分に判断することができるように、視覚、聴覚及びその時の状況に適した他のすべての手段により、常時適切な見張りをしなければならない。

(安全な速力)
第六条  船舶は、他の船舶との衝突を避けるための適切かつ有効な動作をとること又はその時の状況に適した距離で停止することができるように、常時安全な速力で航行しなければならない。この場合において、その速力の決定に当たつては、特に次に掲げる事項(レーダーを使用していない船舶にあつては、第一号から第六号までに掲げる事項)を考慮しなければならない。
一  視界の状態
二  船舶交通のふくそうの状況
三  自船の停止距離、旋回性能その他の操縦性能
四  夜間における陸岸の灯火、自船の灯火の反射等による灯光の存在
五  風、海面及び海潮流の状態並びに航路障害物に接近した状態
六  自船の喫水と水深との関係
七  自船のレーダーの特性、性能及び探知能力の限界
八  使用しているレーダーレンジによる制約
九  海象、気象その他の干渉原因がレーダーによる探知に与える影響
十  適切なレーダーレンジでレーダーを使用する場合においても小型船舶及び氷塊その他の漂流物を探知することができないときがあること。
十一  レーダーにより探知した船舶の数、位置及び動向
十二  自船と付近にある船舶その他の物件との距離をレーダーで測定することにより視界の状態を正確に把握することができる場合があること。

(衝突のおそれ)
第七条  船舶は、他の船舶と衝突するおそれがあるかどうかを判断するため、その時の状況に適したすべての手段を用いなければならない。
2  レーダーを使用している船舶は、他の船舶と衝突するおそれがあることを早期に知るための長距離レーダーレンジによる走査、探知した物件のレーダープロッティングその他の系統的な観察等を行うことにより、当該レーダーを適切に用いなければならない。
3  船舶は、不十分なレーダー情報その他の不十分な情報に基づいて他の船舶と衝突するおそれがあるかどうかを判断してはならない。
4  船舶は、接近してくる他の船舶のコンパス方位に明確な変化が認められない場合は、これと衝突するおそれがあると判断しなければならず、また、接近してくる他の船舶のコンパス方位に明確な変化が認められる場合においても、大型船舶若しくはえい航作業に従事している船舶に接近し、又は近距離で他の船舶に接近するときは、これと衝突するおそれがあり得ることを考慮しなければならない。
5  船舶は、他の船舶と衝突するおそれがあるかどうかを確かめることができない場合は、これと衝突するおそれがあると判断しなければならない。

(衝突を避けるための動作)
第八条  船舶は、他の船舶との衝突を避けるための動作をとる場合は、できる限り、十分に余裕のある時期に、船舶の運用上の適切な慣行に従つてためらわずにその動作をとらなければならない。
2  船舶は、他の船舶との衝突を避けるための針路又は速力の変更を行う場合は、できる限り、その変更を他の船舶が容易に認めることができるように大幅に行わなければならない。
3  船舶は、広い水域において針路の変更を行う場合においては、それにより新たに他の船舶に著しく接近することとならず、かつ、それが適切な時期に大幅に行われる限り、針路のみの変更が他の船舶に著しく接近することを避けるための最も有効な動作となる場合があることを考慮しなければならない。
4  船舶は、他の船舶との衝突を避けるための動作をとる場合は、他の船舶との間に安全な距離を保つて通過することができるようにその動作をとらなければならない。この場合において、船舶は、その動作の効果を当該他の船舶が通過して十分に遠ざかるまで慎重に確かめなければならない。
5  船舶は、周囲の状況を判断するため、又は他の船舶との衝突を避けるために必要な場合は、速力を減じ、又は機関の運転を止め、若しくは機関を後進にかけることにより停止しなければならない。

第三節 視界制限状態における船舶の航法
第十九条  この条の規定は、視界制限状態にある水域又はその付近を航行している船舶(互いに他の船舶の視野の内にあるものを除く。)について適用する。
2  動力船は、視界制限状態においては、機関を直ちに操作することができるようにしておかなければならない。
3  船舶は、第一節の規定による措置を講ずる場合は、その時の状況及び視界制限状態を十分に考慮しなければならない。
4  他の船舶の存在をレーダーのみにより探知した船舶は、当該他の船舶に著しく接近することとなるかどうか又は当該他の船舶と衝突するおそれがあるかどうかを判断しなければならず、また、他の船舶に著しく接近することとなり、又は他の船舶と衝突するおそれがあると判断した場合は、十分に余裕のある時期にこれらの事態を避けるための動作をとらなければならない。
5  前項の規定による動作をとる船舶は、やむを得ない場合を除き、次に掲げる針路の変更を行つてはならない。
一  他の船舶が自船の正横より前方にある場合(当該他の船舶が自船に追い越される船舶である場合を除く。)において、針路を左に転じること。
二  自船の正横又は正横より後方にある他の船舶の方向に針路を転じること。
6  船舶は、他の船舶と衝突するおそれがないと判断した場合を除き、他の船舶が行う第三十五条の規定による音響による信号を自船の正横より前方に聞いた場合又は自船の正横より前方にある他の船舶と著しく接近することを避けることができない場合は、その速力を針路を保つことができる最小限度の速力に減じなければならず、また、必要に応じて停止しなければならない。この場合において、船舶は、衝突の危険がなくなるまでは、十分に注意して航行しなければならない。

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第二節 互いに他の船舶の視野の内にある船舶の航法
(適用船舶)
第十一条  この節の規定は、互いに他の船舶の視野の内にある船舶について適用する。

(追越し船)
第十三条  追越し船は、この法律の他の規定にかかわらず、追い越される船舶を確実に追い越し、かつ、その船舶から十分に遠ざかるまでその船舶の進路を避けなければならない。
2  船舶の正横後二十二度三十分を超える後方の位置(夜間にあつては、その船舶の第二十一条第二項に規定するげん燈のいずれをも見ることができない位置)からその船舶を追い越す船舶は、追越し船とする。
3  船舶は、自船が追越し船であるかどうかを確かめることができない場合は、追越し船であると判断しなければならない。
(行会い船)
第十四条  二隻の動力船が真向かい又はほとんど真向かいに行き会う場合において衝突するおそれがあるときは、各動力船は、互いに他の動力船の左げん側を通過することができるようにそれぞれ針路を右に転じなければならない。ただし、第九条第三項、第十条第七項又は第十八条第一項若しくは第三項の規定の適用がある場合は、この限りでない。
2  動力船は、他の動力船を船首方向又はほとんど船首方向に見る場合において、夜間にあつては当該他の動力船の第二十三条第一項第一号の規定によるマスト灯二個を垂直線上若しくはほとんど垂直線上に見るとき、又は両側の同項第二号の規定によるげん灯を見るとき、昼間にあつては当該他の動力船をこれに相当する状態に見るときは、自船が前項に規定する状況にあると判断しなければならない。
3  動力船は、自船が第一項に規定する状況にあるかどうかを確かめることができない場合は、その状況にあると判断しなければならない。
(横切り船)
第十五条  二隻の動力船が互いに進路を横切る場合において衝突するおそれがあるときは、他の動力船を右げん側に見る動力船は、当該他の動力船の進路を避けなければならない。この場合において、他の動力船の進路を避けなければならない動力船は、やむを得ない場合を除き、当該他の動力船の船首方向を横切つてはならない。
2  前条第一項ただし書の規定は、前項に規定する二隻の動力船が互いに進路を横切る場合について準用する。
(避航船)
第十六条  この法律の規定により他の船舶の進路を避けなければならない船舶(次条において「避航船」という。)は、当該他の船舶から十分に遠ざかるため、できる限り早期に、かつ、大幅に動作をとらなければならない。
(保持船)
第十七条  この法律の規定により二隻の船舶のうち一隻の船舶が他の船舶の進路を避けなければならない場合は、当該他の船舶は、その針路及び速力を保たなければならない。
2  前項の規定により針路及び速力を保たなければならない船舶(以下この条において「保持船」という。)は、避航船がこの法律の規定に基づく適切な動作をとつていないことが明らかになつた場合は、同項の規定にかかわらず、直ちに避航船との衝突を避けるための動作をとることができる。この場合において、これらの船舶について第十五条第一項の規定の適用があるときは、保持船は、やむを得ない場合を除き、針路を左に転じてはならない。
3  保持船は、避航船と間近に接近したため、当該避航船の動作のみでは避航船との衝突を避けることができないと認める場合は、第一項の規定にかかわらず、衝突を避けるための最善の協力動作をとらなければならない。
                                            弁護士 三木秀夫

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