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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
NEWS18歳に菊間アナ同席で飲酒(2005年07月16日) 未成年者飲酒禁止
○人気グループ「NEWS」のメンバー(18)が仙台市内で酒に酔って騒ぎ、宮城県警仙台中央署に補導された騒動で、飲食店にフジテレビ社員数人が同席して飲酒を容認していたことが16日、分かった。少年を酒の席に呼び出したのは、菊間千乃アナウンサー(33)だった。「女子バレーボールワールドグランプリ」の中継先で起きた不祥事にフジテレビは、菊間アナを含む社員らの処分を検討。NEWSが所属するジャニーズ事務所は、少年を無期謹慎とした。 高視聴率が続く女子バレー中継の裏で、番組スタッフらがとんだ不祥事を起こしていた。

NEWSは中継番組などのスペシャルサポーターを務めている。仙台で試合があった14日、メンバー8人全員が現地にいた。試合後、スケジュールの都合で6人は帰京、補導された少年ら2人は残った。"仙台班"の2人は、午後9時ごろからフジのスポーツ局社員らと食事会へ。この席でまず飲酒を容認していた。さらに少年は15日午前1時ごろから市内の別の飲食店でも数人と飲酒。"1次会"が終わり、いったんホテルに戻った少年を、再び大人の酒席に引き込んだのは菊間アナ。フジも「そのように聞いています」(広報部)と認めている。携帯電話かメールで直接少年を呼び出したとの情報もある。NEWSのもう1人のメンバーは同席しなかった。少年が補導されたのは"2次会"から単独で戻る途中。市内中心部の公園で「少年が暴れている」と通報があり、1人で大声を出していたところを仙台中央署員が任意同行を求めた。かなり酔っていたため一時署内で事情を聴き、注意した上で宿泊先のホテルに帰した。

同局は「弊社社員が未成年の飲酒を容認し、こうした事態を招いた原因になったのは事実。監督をする立場の社員が的確な判断が出来なかった事は誠に遺憾」(広報部)と謝罪のコメントを発表した。(2005.07.17スポーツニッポン)

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○菊間千乃(ゆきの)アナウンサーが大変な失態をやらかしてしまった。「発掘!あるある大事典」で司会を担当し、「めざましテレビ」の生放送リポート中にビル5階から落下して重傷を負ったり、話題に事欠かないユニークな女性アナである。ただ、今度ばかりは事実だとしたら、未成年者と知って飲酒を許容していたわけで、大人としての社会的責任が問われることとなろう。アルコールには寛容な日本社会においては、誰でも犯しそうな出来事であるが。

○菊間アナは、この2005年春から大宮法科大学院大学の夜間コースに通学し、法曹を目指しているとも聞いた。ガッツのある人である。今回のことにめげず、ぜひ、我らの業界に来てほしいものだ。

○なお、一部では、菊間アナが「未成年者飲酒禁止法」違反を犯したと誤解している旨があるが、少し違う。どういう場合が処罰の対象となるのだろうか。

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○未成年者飲酒禁止法とは
未成年者の飲酒は成年してからの飲酒より害が大きく、日本では「未成年者飲酒禁止法」により、20歳未満の者の飲酒は禁止されている。この法律は、かなり古く、大正11年(1922年)に、茨城県選出の根本代議士という議員による議員立法により成立した法律である。立法時の趣旨説明によれば、未成年者を保護するために酒の害を取り除く趣旨で提案されている。

ちなみに、これに先立つ明治33年に、たばこの「未成年者喫煙禁止法」が、これも根本代議士の提案により成立をし、その翌年やはり同代議士の提案でこの未成年者飲酒禁止法が提案されたが、実に19回にわたって廃案などとなり、ようやく大正11年になって成立したようである。たばこと酒に対する社会や産業などでの違いがこの対応の差になったのであろうか。

平成12年(2000年)に議員立法で改正され、未成年者の飲酒を禁止するとともに、親権者などには「未成年者の飲酒を止める義務」、酒類を扱う販売業者には「未成年が自ら飲む酒を販売してはならない義務」を定めた。

これに違反した場合、飲酒した未成年者本人には罰則はなく、「親権者」や「親権者に代わって未成年者を監督する者」、未成年者が自ら飲酒することを知りながら酒を提供した販売業者等に対して課されることになっている。

その後、売る側の罰則が引き上げられたものの、販売する側が未成年者と思われる人に年齢確認を求めても、どうして身分証明書を見せなければいけないのかとすごまれる事態もあったため、年齢確認をする法律上の根拠を明確にするため、平成13年(2001年)12月に、これも議員立法によって、年齢確認その他の必要な措置をとるものとするという項が加えられた(ただしこれの違反には罰則は無い)。

○「未成年者飲酒禁止法」の概要
(1)20歳未満の者(未成年者)は酒を飲んではならない。
(2)「親権者」や「親権者に代わって未成年者を監督する者」は、未成年者の飲酒を知ったときは制止しなければならない。
(3)酒類を扱う販売業者や飲食業者は、未成年者が自分で飲むことが分かっている場合には販売してはならない。
(4)酒類を扱う販売業者や飲食業者は、未成年者の飲酒防止のために年齢確認その他の必要な措置を講ずるものとする。
(5)(2)に違反した者は科料に、(3)に違反した者は50万円以下の罰金に処する。

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○このように、未成年者が飲酒をしているのを制止する法的義務を負うのは、@親権者、A親権者に代わって未成年者を監督する者であり、その違反者は科料が科される。

また、B酒類を扱う販売業者や飲食業者は、未成年者が自分で飲むことが分かっている場合には販売してはならないという法的義務があり、違反した者は50万円以下の罰金に処される。

なお、「飲酒を制止しない」とは、文理上は、未成年者が自発的に飲酒することを知りながら、これを止めさせないという不作為を意味することは明らかであるが、より積極的に未成年者に酒類を提供して飲酒させた場合が不処罰となるのは不合理であるから、当然これに含まれるものと解される。

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○今回の菊間アナやフジテレビ社員らは、どうか。
今回の菊間アナをはじめフジテレビの社員は、罰則の適用を受けるのであろうか。これは、これらの者が、親権者に代わって未成年者を監督する者であるかどうかで決まる。結論から言えば、これらの者は親権者でも、親権者に代わって未成年者を監督する者でないであろうし、酒類を扱う販売業者や飲食業者でもないので、法律上の違反をしたものでないことにはなる。あとは、大人としての社会的常識の問題ということになる。

○「親権者に代わって未成年者を監督する者」とは何か。
これについて、末尾に記載の宇都宮家庭裁判所栃木支部平成16年9月30日判は、未成年者の雇い主が未成年者に飲酒をさせた事案での無罪判決の中で、「親権者に代りてこれを監督する者」に関して次のような解釈を示している。

@法律上の親権代行者(親権者が子の親権を代行する場合(民法833条)、未成年後見人(民法857条等)、未成年後見人が未成年被後見人の親権を代行する場合(民法867条)、児童福祉施設の長(児童福祉法47条)等)が含まれることは明白

A「親権者に代りてこれを監督する者」という文言は、他の規定で親権代行者を示す場合に用いられている「……に代わって親権を行う」という文言(民法833条、867条1項等参照)とは異なっているから親権代行者のみに限定する趣旨ではない。

B親権者と同等か、あるいは、少なくともこれに準ずる程度に一般的、包括的に未成年者を監督することが期待されるような特別な関係ないしは立場にある者を意味している。

C親権者がいないか、いたとしても何らかの理由によって、親権者が当該未成年者を監督できないような場合に、これに代わって未成年者を監督する者を意味する。(「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」の「代リテ」との文言は、本来の監督権者である親権者が監督できない場合であることを当然の前提としている。)
   
D「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」とは、親権者や親権代行者のように、未成年者に対する監督権限や義務が法定されていなくても、親権者らが欠けたり、親権者らがいても何らかの理由で未成年者を監督できないときに、親権者に準じて一般的、包括的に未成年者を監督すべき立場にある者が、これに当たると解するべきであり、その監督権限の由来は、必ずしも法律上の義務である必要はなく、親権者や親権代行者から契約等によって依頼されたり、あるいはそのような依頼がなくても、事実上親権者らに代わって未成年者を手元に引き取り、同居させるなどして、日常一般的、包括的にこれを監督する者などが、これに当たると解するのが相当である。

E親に代って実弟を監督している同居の兄等は、親権者が遠隔地等にいて、当該未成年者を事実上監督できず、親権者からその監督を託されている場合と考えられるから、これに該当する典型的な場合の1つである。

F寄宿舎の舎監、住込店員の雇主、内弟子を指導する各種の師匠、地方から出てきた親類、知人等の子を預かって都会の家に同居させ、面倒を見ている者、親権者が欠けて未成年後見人が選任されるまでの間、事実上未成年者を同居させて面倒を見ている親族等、家出中の未成年者や孤児を事実上同居させて世話をしている者等も、場合にもよるが、これに含まれ得る。

Gここで問題とされている監督の内容は、あくまでも未成年者の飲酒を制止するという、未成年者の生活面に関する一般的、包括的なものでなければならないから、監督内容としてそれを含まないような場合は、法1条2項の「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」には該当しないというべきである。学習塾や書道塾の教師、趣味のサークルの指導者や先輩、町内会の役員や隣人等は、通常親権者等から未成年者の飲酒の制止等をも含めた生活面全般についての監督を依頼されているとは考えられないから、この意味で、「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」には含まれない。

H未成年者の「単なる雇主」は、上記の住込店員等の場合とは違って、通常は、職務上の監督権限及び義務を有するのみで、日常的な生活面についての監督権限及び義務は有さないから、これに含まれない。
   
I学校等の教師については、これに含まるべきかどうか疑問がないではない。学校等の教師は、通常学校内という限られた場面でのみ学生、生徒の指導、監督をするもので、朝夕、休日等においては、親権者が当該未成年者を監護、教育をしているのであって、上記の多くの例にあるような未成年者が親許にいない場合などとは違って、親権者が日常一般的、包括的に未成年者たる学生、生徒を監護教育している場合であること、監督される学生、生徒にも、小学校から、中学校、高校、専門学校、大学までと各種あり、しかも飲酒をする恐れが高いと思われる高校生以上の生徒等にあっては、教師の学習指導内容も次第に高度化、専門化してきて、教師の役割も知識の教授面に重きが置かれるようになり、生活面の指導という役割は相対的に減少していくと考えられること、また、高校生以上にもなると、教師が生活面の指導をしようと思っても、非常な困難が伴うと思われることなどから、そのような教師に一律に法1条2項の義務を課するのはやや酷な感じを受ける。

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○未成年者飲酒禁止法
(大正十一年三月三十日法律第二十号)
最終改正:平成一三年一二月一二日法律第一五二号

第一条  満二十年ニ至ラサル者ハ酒類ヲ飲用スルコトヲ得ス
2 未成年者ニ対シテ親権ヲ行フ者若ハ親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者未成年者ノ飲酒ヲ知リタルトキハ之ヲ制止スヘシ
営業者ニシテ其ノ業態上酒類ヲ販売又ハ供与スル者ハ満二十年ニ至ラサル者ノ飲用ニ供スルコトヲ知リテ酒類ヲ販売又ハ供与スルコトヲ得ス
4 営業者ニシテ其ノ業態上酒類ヲ販売又ハ供与スル者ハ満二十年ニ至ラザル者ノ飲酒ノ防止ニ資スル為年齢ノ確認其ノ他ノ必要ナル措置ヲ講ズルモノトス

第二条  満二十年ニ至ラサル者カ其ノ飲用ニ供スル目的ヲ以テ所有又ハ所持スル酒類及其ノ器具ハ行政ノ処分ヲ以テ之ヲ没収シ又ハ廃棄其ノ他ノ必要ナル処置ヲ為サシムルコトヲ得

第三条  第一条第三項ノ規定ニ違反シタル者ハ五十万円以下ノ罰金ニ処ス
2  第一条第二項ノ規定ニ違反シタル者ハ科料ニ処ス

第四条  法人ノ代表者又ハ法人若ハ人ノ代理人、使用人其ノ他ノ従業者ガ其ノ法人又ハ人ノ業務ニ関シ前条第一項ノ違反行為ヲ為シタルトキハ行為者ヲ罰スルノ外其ノ法人又ハ人ニ対シ同項ノ刑ヲ科ス

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○成年者飲酒禁止法違反被告事件
宇都宮家庭裁判所栃木支部平成16年9月30日判決(LLI登載)

主 文
被告人は無罪
 
理 由
 
第1 本件公訴事実
本件は、未成年者飲酒禁止法(大正11年法律第20号、以下単に「法」という場合はこの法律を指す。)1条2項の「未成年者ニ対シテ親権ヲ行フ者若ハ親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者未成年者ノ飲酒ヲ知リタルトキハ之ヲ制止スヘシ」(罰則は法3条2項)に係る罪に関する事案で、その訴因変更後の公訴事実は、要旨、「被告人は、A塗装の経営者として未成年者である同店従業員のB(当時17歳)及び同C(当時16歳)を親権者に代わって監督する者であるが、平成15年2月9日午後6時過ぎころから同日午後10時30分過ぎころまでの間、栃木県下都賀郡a町所在の被告人方及び同町内所在のスナック店舗内において、上記Bら2名に対し、同人らが未成年者であることを知りながら、酒類であるビール、焼酎等を提供して飲酒させ、これを制止しなかった。」というのである。

第2 証拠によって明らかに認められる前提事実
1 そこで検討すると、(証拠‐略)によれば、以下の事実が認められる。
「被告人は、平成7年ころからA塗装の名称で建築塗装業を経営しているものであるが、平成13年夏ころからB(本件当時17歳)を、平成15年1月28日ころからC(本件当時16歳)を、いずれもA塗装の従業員として雇用していた。被告人は、B及びCが未成年者であることを知りながら、平成15年2月9日午後6時ころから同日午後8時30分ころまでの間、仕事を終えて戻ってきたB及びC並びに同従業員D及び同Eに対し、栃木県下都賀郡a町大字bc番地d・e号室の被告人方において、日本酒、ビール等を振る舞って飲酒させ、その後場所を代えて、同日午後9時ころから同日午後10時30分ころまでの間、被告人の実父が経営するスナックであり、その日は定休日であった同町大字fg番地hの「F」店舗内において、上記4名らに対し、さらに焼酎等を振る舞って飲酒させた。」
2 上記認定事実によれば、被告人がB及びCに対し、同人らが未成年者であることを知りながら、酒類を提供して、飲酒させたことは明らかである。
なお、法1条2項にいう「飲酒を制止しない」とは、文理上は、未成年者が自発的に飲酒することを知りながら、これを止めさせないという不作為を意味することは明らかであるが(大阪家庭裁判所昭和39年12月23日判決(家裁月報17巻7号181頁)、福岡家庭裁判所久留米支部昭和43年5月6日判決(家裁月報20巻11号217頁)等参照)、本件のように、より積極的に未成年者に酒類を提供して飲酒させた場合が不処罰となるのは不合理であるから、当然これに含まれるものと解する(水戸家庭裁判所昭和33年9月20日判決(家裁月報10巻9号130頁)も同旨)。
そして、法1条2項の「未成年者ニ対シテ親権ヲ行フ者」とは、通常は父母らの親権者(民法818条)を指し、また、「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」の中に、法律上の親権代行者(親権者が子の親権を代行する場合(民法833条)、未成年後見人(民法857条等)、未成年後見人が未成年被後見人の親権を代行する場合(民法867条)、児童福祉施設の長(児童福祉法47条)等)が含まれることは、その文言等から見ても明白であると言えるが、被告人は、B及びCの親権者でも法律上の親権代行者でもない。

第3 争点及び当事者の主張
1 争点
そこで、本件犯罪の成否は、法1条2項の「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」の中に、法律上の親権代行者以外にどのような者が含まれるのか、そして、被告人がB及びCとの関係でこれに該当するか否かによることになる。
2 検察官の主張
(中略)
このように、法1条2項の「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」とは、親権者の依頼等により、未成年者に対し、事実上親権者に準
ずる監護教育をなすべき地位にある者も含まれると解され、本件において、被告人は、これに該当する。
3 弁護人の主張
(中略)
したがって、被告人は、B及びCの単なる雇主であって、親権者に準ずる地位にはなく、「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」には該
当しない。

第4 当裁判所の判断
1 法1条2項の「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」の意義について
(1)一般に、成文法の解釈は、条文上の用語、字句に密着してその意味を考え(文理解釈)、また、論理上の整合性や法の目的に適合した規定の意味を追求しなければならない(論理解釈、目的論的解釈)。しかし、刑罰法規の解釈の場合は、罪刑法定主義(憲法31条)の要請に従う必要があり、国民の予測を超えて適用範囲を不当に拡げることがないようにするため、刑罰法規の解釈はできるだけ厳格であるべきで、成文法規の文言の可能な意味の範囲を超える解釈は許されないとされる(類推解釈の禁止)。
したがって、法1条2項の「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」の意義を解明するにあたっても、まず、その法規の文理解釈を基本としなければならない。しかし、この「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」の字句のみからは、必ずしもその意味ないし範囲が明確とは言い難い。そこで、さらに、法の制定趣旨、目的、立法の沿革、立法当時の社会的実態とその後の変化、法改正の有無、関連法規との関係等を十分に考察して、その法規の持つ可能な意味の範囲が明確になるように解釈していかなければならない(明確性の理論)。

(2)そこで、まず、法1条2項の文理を見ていくと、法1条2項の「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」という文言は、他の規定で親権代行者を示す場合に用いられている「……に代わって親権を行う」という文言(民法833条、867条1項等参照)とは明らかに異なっており、その文言自体から、親権代行者のみに限定する趣旨ではないと解される。

そして、次に、親権代行者以外のどのような者が「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」に該当するかについて検討するに、法1条2項は「未成年者ニ対シテ親権ヲ行フ者若ハ親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」というように、親権者の次にこれと並べて「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」に未成年者の飲酒を制止すべきことを規定しており、「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」にも、親権者と同じ刑罰を科している(法3条2項)。したがって、この規定の構造自体からみても、「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」とは、親権者と同等か、あるいは、少なくともこれに準ずる程度に一般的、包括的に未成年者を監督することが期待されるような特別な関係ないしは立場にある者を意味していると解すべきである。

また、「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」とは、親権者がいないか、いたとしても何らかの理由によって、親権者が当該未成年者を監督できないような場合に、これに代わって未成年者を監督する者を意味すると解すべきである。「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」の「代リテ」との文言は、本来の監督権者である親権者が監督できない場合であることを当然の前提としていると解されるのである。
   
また、論理的に考えてみても、本来未成年者を監護教育する権限及び義務を一般的、包括的に有しているのは親権者であるから(民法818条ないし820条参照)、未成年者が飲酒をしようとしている現場に親権者がいる場合には、その未成年者の飲酒を制止するという作為義務を負うのは親権者のみであって、他の者は、たとえその未成年者の親族、知人等親しい関係にあったとしても、親権者に監督を任せておけばよく、倫理的、道徳的な義務は別として、法律上はそのような作為義務を一切負わないことは明らかである。
それにもかかわらず、例えば、その場に親権者がいなくなると、それだけで直ちに親族らが未成年者の飲酒を制止すべき作為義務を負うに至るというのはあまりにも不合理であるし、その作為義務を負う者の範囲をどこまでにするかなど、基準が非常に不明確になる。

したがって、その親権者以外の者が、親権者と同様の作為義務を負い、かつ違反した場合に同じ刑罰を科されるのは、単に親族等であるというだけではなく、その者が親権者と同等か、あるいは、少なくともこれに準ずる程度に一般的、包括的に未成年者を監督すべき権限及び義務を有するという特殊な関係ないし立場にある場合に限られると考えられるのである。
   
前記の親権代行者は、正に、親権者がいないか、あるいは、親権者がいても親権を行使できない場合で、かつ、法律上親権者と同等の監督義務を持つとされた者であるから、親権者と同等の責任を負うのである。

(3)ところで、弁護人は、この親権者以外の者が、法1条2項の「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」に当たるための監督権限、義務は、何らかの法律上の権限、義務でなければならない旨主張するが、法1条2項の文理解釈上、弁護人の主張するような法律上の権限、義務でなければならないという限定は認められないし、実質的にもそのような限定をすべき理由は見当たらず、親権者との間の契約(依頼)により監督している場合や、契約もなくて単に事実上、民法の事務管理者(民法697条)等として監督しているような場合であっても妨げないと解する。要は、前記のとおり、親権者と同等か、あるいはこれに準ずる程度に一般的、包括的に未成年者を監督することが期待される立場にあるか否かによるべきであり、その監督権限の由来や根拠は問わないのである。
   
このことは、法1条2項と類似した規定を持つ民法714条(責任無能力者の監督者の責任)の文言からも明らかであると言える。すなわち、同法同条1項は、無能力者を監督すべき法定の義務ある者(親権者及び未成年後見人等)の責任を規定し、これと区別して同法同条2項では、法1条2項の「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」と類似した文言を用いて、「監督義務者ニ代ハリテ無能力者ヲ監督スベキ者」(代理監督者)の責任を規定しており、この2項の「監督義務者ニ代ハリテ無能力者ヲ監督スベキ者」とは、法定の義務者以外の者を意味することが明らかなのである。

(4)そして、より具体的に、親権代行者以外のどのような者が、法1条2項の「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」に該当するかという問題についても、刑罰法規と民事法規との相違、監督の対象の年齢層、監督内容及び目的等の相違はあるが、上記民法714条2項の解釈が一応参考になる。同法同条2項の「監督義務者ニ代ハリテ無能力者ヲ監督スベキ者」(代理監督者)の意義については、一般に、法律によって無能力者を託された公立小学校等の教員、少年院の職員等のほか、1項の親権者、未成年後見人等との契約(依頼)によって無能力者を預かる託児所の保母、幼稚園の教員等がこれに当たると解されているのである(加藤一郎「不法行為」増補版161頁以下(法律学全集22−U有斐閣)、山本進一「注釈民法(19)」261頁(有斐閣)、同「民法(7)」166頁(有斐閣双書)等参照)。
また、未成年者飲酒禁止法制定に当たっての立法府での議論の状況もこれを解釈するに当たっての参考資料とされなければならないが、同法は、未成年者喫煙禁止法(明治33年3月7日制定)の法案提出者でもある根本正衆議院議員によって、明治33年に初めて帝国議会に提出された法案が、毎年否決・再提出を繰り返して、大正11年3月30日に至ってようやく成立したものであるが、成立時の大正11年の第44回ないし第45回帝国議会衆議院、貴族院議事録においては、法1条2項の意義については、ほとんど議論された形跡がない。そこで、それ以前の議事録等の資料を見ていくと、明治34年2月18日の第15回帝国議会衆議院「未成年者飲酒禁止法案委員会会議録(速記)第2回」によると、当時の同法案では、「未成年者ニ対シテ親権ヲ行フ者」のみが未成年者の飲酒を制止すべき者とされていたが、その「親権ヲ行フ者」の解釈につき、提案者である前記根本正委員長が、「両親トカ、兄トカ、後見人トカ云フモノデアリ」云々と答弁しており、また、明治37年12月23日の第21回帝国議会衆議院「未成年者飲酒禁止法案委員会会議録(速記筆記)第2回」によると、現行の法文と同旨の「親権者ニ代リテ未成年者ヲ監督スル者」が加わり、その解釈につき、同じく根本正委員が、「之ハ主ニ学校ニ居ルトコロノ教官デアルトカ、後見者デアルトカ、父兄デアルトカ云フ者ヲ、指シタ積モリデアリマス」と答弁しており、ここに父兄を入れているのはやや疑問であるが、ここでは学校の教師も含まれるとしている。なお、明治33年に成立した上記未成年者喫煙禁止法の審議においては、明治32年12月15日の第14回帝国議会衆議院「幼者喫煙禁止法案審査特別委員会速記録第2号」によると、法1条2項と全く同義である同法案3条2項の「親権ヲ行フ者ニ代リテ未成年者ヲ監督スル者」の意義に関し、「本案ノ責任ヲ負フモノト云フモノハ父、父ガゴザイマセヌケレバ母、詰リ父母トモアラザルトキハ、後見人等ニ於テ是等ノ人ヨリ依頼ヲ受ケテ未成年者ヲ監督スルモ(ノ)」が責任を負うことになり、(中略)「学校教員ノ如キモノハ、茲ニ含ミマセヌ」、(中略)「雇主ト云フモノハ受ケナイ」などと答弁しており、学校教員は、一般監督者と被監督者との関係とは違って、徳義上の責任を負わせるべきではなく、生徒の悪行に対して責任を負わせるのは不穏当であるとし、また、雇主も同様であるとして、かなり限定的に解釈していたことが窺われるのである。

(5)なお、検察官は、前記のとおり、近時、少年犯罪の増加、凶悪化が著しく、重大な非行へとつながる飲酒を社会全体で防止する必要性が高まっており、未成年者飲酒禁止法の改正がなされ、営業者による酒類の販売禁止違反の罰則が引き上げられたという社会情勢に照らし、飲酒による未成年者の心身への悪影響から未成年者を保護するという、法の制定趣旨を実現するためには、法1条2項を限定的に解すべきではない旨主張しており、確かに、時代の推移によって、少年を取り巻く環境は著しく変化し、その中で少年非行は増減を繰り返し、現在は、少子化の進む中で、少年非行の絶対数はそれほど多いとは言えないが、凶悪化、低年齢化等の傾向が顕著であるとされている。しかし、未成年者を飲酒の害悪から保護すべきであるとする法の制定趣旨、目的自体は、現在も、何ら変化していないと認められ、その目的を社会全体の努力で実現していかなければならないということも、成立当時から現在まで共通して言えることであり、未成年者の飲酒を制止しなかった者をどの範囲まで処罰し、どの範囲までは倫理、道徳等に任せて処罰まではしないかという問題に関しては、立法当時も現在も、その社会情勢、すなわち、立法事実に大きな変化があるとは認められないのである。このことは、未成年者飲酒禁止法の近時の改正は、酒類の販売業者の関係に限られており、法1条2項の監督者の範囲については、立法当時から現在まで一度も改正されていないことからも言えることである。したがって、法1条2項の監督者の範囲を、立法当時よりも安易に拡大して解釈することは許されないと解する。

(6)小結
したがって、以上を総合して考察すると、法1条2項の「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」とは、親権者や親権代行者のように、未成年者に対する監督権限や義務が法定されていなくても、親権者らが欠けたり、親権者らがいても何らかの理由で未成年者を監督できないときに、親権者に準じて一般的、包括的に未成年者を監督すべき立場にある者が、これに当たると解するべきであり、その監督権限の由来は、必ずしも法律上の義務である必要はなく、親権者や親権代行者から契約等によって依頼されたり、あるいはそのような依頼がなくても、事実上親権者らに代わって未成年者を手元に引き取り、同居させるなどして、日常一般的、包括的にこれを監督する者などが、これに当たると解するのが相当である。

そこで、例えば、親に代って実弟を監督している同居の兄等は、親権者が遠隔地等にいて、当該未成年者を事実上監督できず、親権者からその監督を託されている場合と考えられるから、これに該当する典型的な場合の1つであると認められる(前掲福岡家庭裁判所久留米支部判決参照。ただし、同判決が、単なる甥をも監督すべき未成年者に含ませている(と読める)点は疑問である。)。また、寄宿舎の舎監(前掲・安西「改訂特別刑法4」155頁)、住込店員の雇主(3訂版「犯罪事実記載の実務『特別法犯T』85頁」近代警察社参照)、内弟子を指導する各種の師匠、地方から出てきた親類、知人等の子を預かって都会の家に同居させ、面倒を見ている者(前掲第14回帝国議会衆議院「幼者喫煙禁止法案審査特別委員会速記録第2号」における根本正委員の答弁参照)等も、親権者らが未成年者を日常監督できない場合であるから、同様と解される。さらには、親権者が欠けて未成年後見人が選任されるまでの間、事実上未成年者を同居させて面倒を見ている親族等(弁護人も例外的な場合としてこれを認めている。)、あるいは、家出中の未成年者や孤児を事実上同居させて世話をしている者等も、場合にもよるが、これに含まれ得ると解されるのである。

ただし、ここで問題とされている監督の内容は、あくまでも未成年者の飲酒を制止するという、未成年者の生活面に関する一般的、包括的なものでなければならないから、監督内容としてそれを含まないような場合は、法1条2項の「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」には該当しないというべきである。

弁護人が例示する学習塾や書道塾の教師、趣味のサークルの指導者や先輩、町内会の役員や隣人等は、通常親権者等から未成年者の飲酒の制止等をも含めた生活面全般についての監督を依頼されているとは考えられないから、この意味で、「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」には含まれないと解されるのである。

そして、同様に、本件の被告人のような、未成年者の雇主は、上記の住込店員等の場合とは違って、通常は、職務上の監督権限及び義務を有するのみで、日常的な生活面についての監督権限及び義務は有さないから、「単なる雇主」はこれに含まれないと解されるのである(上記・安西「改訂特別刑法4」155頁同旨)。
   
なお、因みに、上記の学校等の教師については、これに含まるべきかどうか疑問がないではない。学校等の教師は、通常学校内という限られた場面でのみ学生、生徒の指導、監督をするもので、朝夕、休日等においては、親権者が当該未成年者を監護、教育をしているのであって、上記の多くの例にあるような未成年者が親許にいない場合などとは違って、親権者が日常一般的、包括的に未成年者たる学生、生徒を監護教育している場合であること、監督される学生、生徒にも、小学校から、中学校、高校、専門学校、大学までと各種あり、しかも飲酒をする恐れが高いと思われる高校生以上の生徒等にあっては、教師の学習指導内容も次第に高度化、専門化してきて、教師の役割も知識の教授面に重きが置かれるようになり、生活面の指導という役割は相対的に減少していくと考えられること、また、高校生以上にもなると、教師が生活面の指導をしようと思っても、非常な困難が伴うと思われることなどから、そのような教師に一律に法1条2項の義務を課するのはやや酷な感じを受けるのである。上記のとおり、未成年者飲酒禁止法及び未成年者喫煙禁止法の発案者である根本正委員の学校教師の扱いに対する衆議院での説明も、一貫していないのである。

2 被告人が、B及びCを「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」に該当するか否か。
(1)以上を前提に、被告人が、B及びCを「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」に該当するか否かにつき判断すると、前記認定のとおり、被告人は、A塗装の名称で建築塗装業を営み、B及びCを雇用する雇主であるが、単に雇主であるというだけでは、B及びCを「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」には該当しない。逆に、雇主であるからといって、「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」になり得ないわけでもない。要するに、被告人が単なる雇主という立場を超えて、B及びCを親権者に代わって監督するような特別な関係ないし立場にあったか否かが問題である。
(2)そこで、この点につき判断すると、(証拠‐略)によれば、以下の事実が認められる。
ア 被告人の未成年の従業員に対する監督状況等
「被告人が経営するA塗装では、従前から若年の従業員を多く雇い入れており、本件当時8人の従業員がいたが、そのうちB及びCを含む3名が未成年者で、4名が20歳代であった。そして、A塗装は、宇都宮市所在のG建築塗装工業等から下請けの仕事を受注していたが、同社の社長から、特に18歳以下の従業員は生活面も含めて指導、監督するように注意を受けていた。また、同社から東京都内等の現場の仕事を受注した場合には、同社の用意した埼玉県朝霞市内のアパートに従業員を宿泊させる必要があったが、そのような場合、被告人は、腰痛等もあってあまり現場へは行かず、専ら営業の仕事をしていたため、同行はしないが、年長の従業員を通じて、Bら未成年者を含む従業員に、同アパート内では飲酒しないように生活面の注意もしたり、Bその他の従業員に電話をして、その様子を確認したりしていた。その他、雇い入れた従業員が仕事を十分に覚えないうちに辞めてしまうと、採算がとれず、受注に必要な人員確保もできなくなるため、長く定着させる必要もあって、被告人は、日頃から仕事が終わった後、未成年者を含む従業員らを自宅兼事務所に呼んで、しばしば夕飯を食べさせながら、仕事の話をして従業員との親睦を図ったほか、従業員の個人的な悩み事の相談にも乗ったりしていた。また、夕飯を振る舞う際には、未成年者も含めて従業員に飲酒をさせることもしばしばあった。自宅以外でも、被告人の実父が経営する本件スナック「F」等へ従業員を連れて行って飲酒させたりして、従業員らとの関係を深めていき、若い従業員らからも慕われていた。なお、A塗装には従業員寮などはなく、基本的に従業員は全員通いであった。」
イ Bの生活状況及び被告人のBに対する監督状況等について
「Bは、中学校2年生のころから非行が現れ始め、タバコやシンナーを吸ったりし、中学3年生の冬ころから、両親に反発して、友人宅で無断外泊することなどを繰り返し、中学校にもあまり登校しなくなり、平成13年4月に高校に進学したが、すぐに登校しなくなって、暴走族にも加入し、自動二輪車の無免許運転等を頻繁に繰り返し、同年6月末ころには両親の反対を押し切って高校も退学してしまい、同年8月ころまで就職もせず、昼間寝て夜活動するといった荒れた生活を続けていた。そして、Bは、同月19日ころから、友人の紹介でA塗装で働くようになったが、その後1週間から2週間ほど経過したころ、被告人が仕事帰りにBを自動車で自宅まで送りがてら、B方へ赴き、在宅していたBの両親と玄関先で、Bの仕事振りや、今後の雇用のことなどについて、互いに、「ちょろちょろしていますけど、仕事は真面目にやっていますか。」「真面目にやっているので大丈夫です。」程度の簡単な挨拶を交わして帰って行った。その後、被告人は、Bの両親に、Bを通じ、Bが現場で勤務することの承諾書を書いて貰って提出を受けたことはあったが、それ以外は、本件時まで、Bの両親と一度も会っておらず、電話や手紙のやりとりなども一切したことはなかった。Bは、被告人の給料の支払いが遅れがちだったことなどもあって、平成14年6月ころから8月ころまでの2か月間ほどA塗装を辞めたこともあったが、その後またA塗装に復帰し、本件当日まで月に20日程度一応まじめに勤務し、その間、被告人は、Bを説得して、同年5月ころには暴走族を脱退させ、言葉使いや挨拶なども注意して良くなっていった。また、被告人は、Bが、暴走族に加入していたころに犯した自動二輪車の無免許運転等により、同年6月に家庭裁判所で保護観察処分を受けたことも聞かされており、Bに対し、無免許運転や女性との奔放な交際等について注意したり、悩み事の相談に乗ったりしていた。Bの誕生日には、スナックに連れて行き、Bの友達も呼んで誕生会を開いてやったりした。それらの結果、Bの問題行動がすべてなくなったわけではなく、特に職場の先輩から普通乗用自動車の運転を教えられてからは、無免許運転をしばしば繰り返し、本件で飲酒をした後、普通乗用自動車の無免許運転をして重大な死亡事故を惹起してしまったりしたが、本件当時の日常の生活態度はかなり改善されてきており、月に2、3回程度友人宅に泊まることはあったが、無断外泊はなくなり、普段は両親のいる家に戻り、家から仕事に出掛け、仕事のない日は家で過ごしていた。両親との関係も良くなり、家で食事をするようになり、仕事の話など会話もよくするようになっていた。なお、Bは、被告人方に宿泊したことは一度もなかった。」
ウ  Cの生活状況及び被告人のCに対する監督状況等について
「Cは、実父母の離婚等に伴い、平成9年ころから、実母、実母の内縁の夫、祖母らと生活していたが、平成13年夏ころ、Cが実母の内縁の夫所有のバイクを壊してしまった際に、実母の内縁の夫がCに辛く当ったことを契機として、以後Cと実母の内縁の夫との折り合いが極端に悪くなり、Cは、家に居づらくなって、しばしば友人宅に泊まりに行くようになった。Cは、平成14年春、中学校を卒業して定時制高校に通い始めたが、同年8月末ころ経済的事情から退学し、以後、レストランやガソリンスタンド等で働いたりしていたが、無職のときの方が多かった。Cの普段の素行は良くなく、オートバイの窃盗、無免許運転等を繰り返し、同年5月に家庭裁判所で保護観察処分を受けたりしていた。Cは、平成15年1月ころ、Bの紹介で被告人方に出入りするようになり、同月28日ころから、A塗装に雇用されたばかりで、本件当日まで延べ数日間働いただけであった。Cの実母は、平成14年10月21日覚せい剤取締法違反の罪で逮捕され、平成15年1月20日に釈放されるまで家にいなかった。被告人は、Cが自宅に帰りたがらず、友人宅に泊まり歩くことが多いことを知って、Cを不憫に思い、同年2月初旬ころにCを2、3日間被告人方に宿泊させたことがあった。また、仕事がない日でもCを食事に連れて行ったりし、Cに対しても無免許運転をしないように注意するなどしていた。ただし、Cとその実母や祖母らとの関係は比較的良く保たれており、Cは、実母らとは会話もしていた上、自宅に全く帰っていなかったわけではなく、特にA塗装に雇われて、仕事に出掛ける際には、母親の作る弁当を持って自宅から出掛け、帰りも先輩等に自宅まで送ってもらっていた。被告人は、Cの実母とは以前から面識があり、Cを雇用した後の同年1月下旬ころ、Cに連絡するため、C方に電話をかけた際、これを取り次いだCの実母と短い会話をし、互いに、「Cがいつもお世話になっております。息子をお願いします。」「大丈夫です。」程度の簡単な挨拶を交わした。Cの実母は、被告人がCの父親代わりになってくれればいいなどと一方的に期待していたが、それを口に出して被告人に依頼したわけではなかった。」

(3)判断
ア  Bとの関係について
以上認定した事実により、まず、被告人とBとの関係についてみると、被告人は、Bを雇い入れて間もないころ、B方でその両親と会って一度挨拶を交わしているが、それは玄関先の立ち話程度で、その内容も、雇主と使用人の両親との間で交わされる通常の挨拶の範囲を超えてはおらず、特別に、Bの仕事面のみならず、日常生活面についても両親に代わって監督することを依頼されたりしたものとは認められず、その後、Bの両親からBが現場で働くことの承諾書を書いて貰ったことはあったが、それ以外には、本件までの約1年半の間、全く接触もしていなかった。確かに、被告人は、個人で建築塗装業を営んでおり、従業員も少ない零細企業の特殊性等から、Bとの関係は、一般の大企業の経営者と社員の関係などより濃密で、職務上必要な指導監督に止まらず、仕事が終わった後夕飯を食べさせたり、相談に乗ったり、その他日常生活面についても指導、助言等をしていたため、Bから、両親よりも頼られていた側面が認められ、Bの両親も、日常生活面も含めた指導を被告人に期待していたことが窺われる。しかし、被告人は、従業員とともに現場に出ていることは少なく、これらの被告人のBに対する指導等は、主に一日の仕事が終わった後以降に限られていたと見られ、このようなことは、程度の差はあっても、未成年者を雇用する個人営業の雇主であるならば、通常行う範囲のことであるとも考えられ、被告人の場合ややそれが濃密であったが、このような濃密な人間関係を形成していたとしても、それが、被告人とBの労使関係を質的に変化させて、被告人にBの私生活面についての監督権限や義務を発生させるものとは考えられない。そして、被告人がBを自宅に泊めたことは一度もなく、Bは、本件当時は、生活関係がかなり改善されてきていて、両親と同居し、家から仕事に通い、両親とよく話もするようになっていたのというであるから、現実的にもBは、親権者である両親の監督に服していたものと認められるのである。
なお、被告人の警察官に対する供述調書中には、「従業員にその保護者に代わり監督する立場にありながら、未成年者に酒を飲ませ……」「未成年者を雇用した以上は、私が経営者ですから、その間は、保護者に代わって、生活実態を監督していかなければならないことも充分に分かっていたのです。」「保護者に代わり監督する立場にありながら……」などと、被告人がBらの親権者に代わって指導監督すべき立場にあったことを認めるような内容の供述部分があるが、これらは、法律知識が十分でなく、本件の争点等を良く理解していない被告人に対し、捜査官が都合の良い見解を押しつけたことによって作成されたものに過ぎないと認められ、その証拠価値は乏しいと言わざるを得ない。
したがって、以上によれば、検察官が主張する、被告人がBの親権者から個別的にBの生活全般を含めた監督を強く依頼されていたというような事実は認められず、その他事実上にしても、被告人が、単なる雇主という立場を超えて、Bの親権者に代わってその生活面等についてまで指導監督すべき立場にあったとは認められないから、被告人は、Bとの関係において、未成年者飲酒禁止法1条2項の「親権者ニ代リ之ヲ監督する者」には該当しない。

イ Cとの関係について
次に、被告人とCとの関係についてみると、上記認定事実によれば、被告人がCを雇い入れる少し前から、Cは、被告人方等に出入りし始め、Cの家庭の事情等を聞いて、その境遇を不憫に思い、Cを雇い入れ、平成15年2月上旬ころには、Cを2、3日間自宅に泊めてやったり、食事や遊びに連れて行ったりしたこともあったが、CがA塗装の仕事に従事したのは、まだほんの数日間しかなく、他の従業員と同様に、仕事が終わった後に夕飯を一緒に食べさせたりしたことはあったが、それ以上特別に、Cに対し、雇主と使用人の立場を超えて、一般的、包括的に生活全般について指導していたというほどのことでもなかったと認められる。また、被告人は、Cの実母とは以前からの知り合いであったが、Cを雇い入れた後、本件までの間に、Cの実母とは会ったこともなく、Cへの電話を取り次いで貰った際に、一度だけCの実母と短い間電話で話したことはあったが、その内容は、Bの際と同様に、雇主と使用人の親権者との間で交わされる通常の挨拶程度のものに過ぎず、特別にCの日常生活面を親権者に代わって監督することを依頼されたりしたものでは全くなかった。確かに、Cの実母は、Cが実母の内縁の夫と折り合いが悪く、家にあまり寄り付かず、友人方に泊まり歩くような生活を続けていたことなどから、親権者としての指導が行き届かず、被告人に雇われた後は、被告人にCの父親代わりになって指導して貰えたならばよいなどと暗に期待していた面は窺われるが、それを被告人に口に出して伝えたわけではないから、被告人も、Cの実母から、そこまで依頼されたなどと考えてはいなかったものと認められる。逆に、Cは、実母や祖母との関係は比較的良く保たれており、自宅にも全く帰っていなかったわけではなく、本件当時は、実母や祖母らと一応同居して、家人らと会話もしていたのであるから、不十分ながら、親権者である実母の親権に服していたものと認められるのである。
したがって、以上によれば、被告人は、Cとの関係においても、検察官が主張する、被告人がCの親権者から個別的にCの生活全般を含めた監督を強く依頼されていたというような事実は認められず、一般の大企業の経営者と社員の関係などよりは濃密な関係にあったが、それは主に被告人の親切心や面倒見の良さ等から出たものに過ぎず、労使関係を質的に変化させるものとは認められないから、事実上にしても、被告人が、単なる雇主という立場を超えて、Cの親権者に代わってその生活面等についてまで指導監督すべき立場にあったとは認められず、被告人は、未成年者飲酒禁止法1条2項の「親権者ニ代リ之ヲ監督する者」には該当しない。

第5 結論
よって、以上によれば、本件公訴事実については、犯罪の証明がないことに帰するから、刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。(求刑・科料9000円)
  
平成16年9月30日
宇都宮家庭裁判所栃木支部
裁判官  山田敏彦
                                            弁護士 三木秀夫

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