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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
在外投票制限違憲/最高裁大法廷判決(2005年09月14日)違憲立法審査権
○海外在住の日本人が衆院選の小選挙区と参院選の選挙区で投票できないのは選挙権を保障した憲法に違反するとして、在外邦人ら13人が国を相手に公選法の規定の違法確認と慰謝料などを求めた訴訟の上告審判決が14日、最高裁大法廷(裁判長・町田顕長官)で言い渡された。

大法廷は原告敗訴の2審東京高裁判決を変更、国政選挙で一切の投票を認めなかった1998年改正前の公選法はもちろん、比例代表しか認めていない現行の規定も憲法違反と判断。次の国政選挙では選挙区にも投票できることを確認し、原告1人あたり5000円の慰謝料支払いを国に命じた。違憲判断は、関与した判事14人のうち12人の多数意見。具体的な法律の規定に対する最高裁の違憲判断は、2002年の郵便法の規定をめぐる判決以来で、7回目。(共同通信 9月14日)
 
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○9月11日の総選挙で自民党が歴史的大勝利をした熱気が収まらないときに、選挙制度を巡る画期的な最高裁判決が出た。

在外邦人の選挙権制限に関する公職選挙法の規定について、最高裁大法廷が、違憲立法審査権を積極的に行使して、違憲判決を下した。選挙権の制限は原則として許されないという前提で、一切の投票を認めなかった1998年改正前と、比例代表のみの投票を認めた現行の二つの公選法の規定について、いずれも憲法違反と判断をしたのである。その上で、請求を退けた2審・東京高裁判決を破棄して原告の選挙権を確認するとともに、国に1人当たり5000円の賠償も命じた。これを受け、政府は、来年の通常国会までに公選法を改正する方針を固めた。

○外務省によると、在外邦人は約96万人(04年10月現在)で、うち約72万人が有権者と推定されている。今回上告していたのは、海外に住む日本人11人と帰国した2人である。

この問題では、96年(平成8年)5月に、日弁連が在外選挙早期実現を政府・国会に要望していたが、その年の11月に8カ国53人の在外邦人が東京地裁に提訴したものである。これを受けた政府・国会は、98年4月に公選法を改正して、比例代表に限り海外での投票を可能にしたが、いまだに完全なものではなかった。99年10月に東京地裁で原告敗訴、00年11月には東京高裁が控訴棄却。その後の上告審で最高裁第二小法廷が上告事件を大法廷に回付したのち、今回の最高裁大法廷判決になったものである。
 
○最高裁が法律の規定を違憲と判断したのは戦後7件目であるが、「立法不作為」について最高裁が国家賠償責任を認めたのは初めてである。
 
この判決は、憲法の国民主権の原理から導いた判断であり、ある意味で全うな判断であるが、これまでの最高裁判所の違憲審査権に対する消極的な姿勢を見てきたものからすれば、画期的である。特に、「国会の裁量行為」の範疇と言われてきた選挙制度に関しての突っ込んだ判決には、極めて目を見張るものがある。「通信手段は目覚ましい発達を遂げており在外国民に候補者の情報を伝達することが困難とはいえなくなった」とも述べており、現代の社会情勢も踏まえた点も素晴らしいと思う。

ただ、実際に国内での投票と同じレベルでの公平な投票環境を整えるのはかなり大変であることも推測しうる。各選挙区の選挙公報をどのようにして海外に配布するか、投票の手続きを具体的にどのようにし、開票方法をどうするかなど、かなりの複雑かつ煩雑さが解決できるのか、問題点は多いと思われる。最高裁は、こういった行政側の問題点を棚上げしたうえで、それよりも選挙権の重要性を重要視したものである。むしろ、これら多くの問題点も、インターネットを駆使するなどの工夫次第で十分に解決可能であるにもかかわらず、何もしないで放置していた怠慢を責めたといってもいいのではないか。その意味での評価は高いものとなるのではないかと思う。

さらに、この判決では、将来予想される権利侵害まで救済したり、立法不作為による賠償責任も認めている点がすごい。司法による救済措置がこれほどはっきり示された例は、これまで無いのではないかとも思うくらいである。
  
政府の司法制度改革審議会では、2001年の最終意見書で、司法が立法、行政のチェックをする新たな役割を期待すとした。今回の大法廷判決は、この流れに沿う姿勢でもある。特に与党が3分の2を超える衆議院分布図のもとにおいて、憲法の番人たる地位が重要となっている今、まさに時期にかなったし姿勢といえる。

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○何が争点で(あったのか。
今回の事案を概括的に言えば、国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民(在外国民)に国政選挙権行使の全部又は一部を認めないことの適否等が争われたものである。

今回の事案の事実関係を、判決理由から拾えば、概ね次のとおりである。

平成10年改正前の公職選挙法42条1項、2項は、「選挙人名簿に登録されていない者」及び「選挙人名簿に登録されることができない者」は投票をすることができないものと定めていた。

そして、選挙人名簿への登録は、当該市町村の区域内に住所を有する年齢満20年以上の日本国民で、その者に係る当該市町村の住民票が作成された日から引き続き3か月以上当該市町村の住民基本台帳に記録されている者について行うこととされている(同法21条1項、住民基本台帳法15条1項)。

このために、在外国民は、日本国内のいずれの市町村においても住民基本台帳に記録されないため、選挙人名簿には登録されなかった。その結果、在外国民は、衆議院議員の選挙又は参議院議員の選挙において投票をすることができなかった。

このことから、在外国民の選挙権の行使が不可能なことに対して、かねてから批判が強かったものであることから、平成10年法律第47号によって、ようやく公職選挙法が一部改正され、「在外選挙制度」が創設され、新たに「在外選挙人名簿」が作られることとなった(公職選挙法第4章の2 第30条の2から15)。

また、「選挙人名簿に登録されていない者は、投票をすることができない。」と定めていた改正前の公職選挙法42条1項本文は、「選挙人名簿又は在外選挙人名簿に登録されていない者は、投票をすることができない。」と改められた。

ただ、平成10年改正によって在外選挙制度の対象となる選挙は、衆議院議員の選挙及び参議院議員の選挙であるが、附則においては、当分の間は、「衆議院比例代表選出議員選挙」と「参議院比例代表選出議員選挙」に限ることとされた。このため、その間は、衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙はその対象とならないものであった(平成10年改正後の公職選挙法附則8項)。

○本件は、在外国民である原告(上告人)らが、在外国民であることを理由として選挙権の行使の機会を保障しないことは、憲法14条1項、15条1項及び3項、43条並びに44条並びに市民的及び政治的権利に関する国際規約25条に違反すると主張した上で、次の請求をしたものである。

(1)主位的請求
@平成10年改正前の公職選挙法は、上告人らに衆議院議員の選挙及び参議院議員の選挙における選挙権の行使を認めていない点において違法(憲法違反・条約違反)であることの確認。(最高裁判決では却下)

A平成10年改正後の公職選挙法は、上告人らに衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙における選挙権の行使を認めていない点において違法(憲法違反・条約違反)であることの確認。(最高裁判決では却下)

(2)予備的請求
B上告人らが衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙において選挙権を行使する権利を有することの確認。(最高裁判決では認容)


(3)国家賠償請求
C立法府である国会が在外国民が国政選挙において選挙権を行使することができるように公職選挙法を改正することを怠ったために、上告人らが、平成8年10月20日に実施された衆議院議員の総選挙において投票をすることができず損害を被ったとして、1人当たり5万円の損害賠償の請求。(最高裁判決では5000円の範囲で認容)

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○今回の最高裁判決の要旨は次のとおり。

@平成10年改正前の公職選挙法が、平成8年10月20日に実施された衆議院議員の総選挙当時、在外国民(国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民)の投票を全く認めていなかったことは、憲法15条1項、3項、43条1項、44条ただし書に違反する。

A平成10年改正後の公職選挙法附則8項の規定のうち、在外国民に国政選挙における選挙権の行使を認める制度の対象となる選挙を、当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分は、遅くとも、「この判決言渡し後に初めて行われる」衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の時点においては、憲法15条1項、3項、43条1項、44条ただし書に違反する。(いわゆる絶対的将来効判決)

B在外国民である上告人らが次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において、在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあることの確認を求める訴えは、適法な訴えである

C在外国民である上告人らは、次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において、在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にある。(上告人の予備的請求の認容)

D平成8年10月20日に実施された衆議院議員の総選挙までに在外国民に国政選挙における選挙権の行使を認めるための立法措置が執られなかったことについて、84年に提案された在外選挙制度を創設する公選法改正案が廃案になった後98年の改正まで、国会が10年以上の長きにわたって在外選挙制度を何ら創設しないまま放置し、在外国民が投票することを全く認めなかったことは、やむを得ない事由があったとは到底言えず、国家賠償として、上告人(原告)らに一人あたり5000円の慰謝料支払いを命じる。(上告人の国家賠償請求の認容)

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○今回の最高裁大法廷判決(最高裁判所ホームページより)
 
在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件 (最高裁判所 平成13年(行ツ)第82号、平成13年(行ヒ)第76号、平成13年(行ツ)第83号、平成13年(行ヒ)第77号 平成17年09月14日 大法廷判決 一部棄却、一部破棄自判)  原審 東京高等裁判所 (平成11年(行コ)第253号) 
 
主 文
1 原判決を次のとおり変更する。
第1審判決を次のとおり変更する。
(1)本件各確認請求に係る訴えのうち、違法確認請求に係る各訴えをいずれも却下する。
(2)別紙当事者目録1記載の上告人らが、次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において、在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあることを確認する。
(3)被上告人は、上告人らに対し、各金5000円及びこれに対する平成8年10月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)上告人らのその余の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟の総費用は、これを5分し、その1を上告人らの、その余を被上告人の各負担とする。
         
理 由
上告代理人喜田村洋一ほかの上告理由及び上告受理申立て理由について
第1 事案の概要等
1 本件は、国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民(以下「在外国民」という。)に国政選挙における選挙権行使の全部又は一部を認めないことの適否等が争われている事案である(以下、在外国民に国政選挙における選挙権の行使を認める制度を「在外選挙制度」という。)。
 
2 在外国民の選挙権の行使に関する制度の概要
(1) 在外国民の選挙権の行使については、平成10年法律第47号によって公職選挙法が一部改正され(以下、この改正を「本件改正」という。)、在外選挙制度が創設された。しかし、その対象となる選挙について、当分の間は、衆議院比例代表選出議員の選挙及び参議院比例代表選出議員の選挙に限ることとされた(本件改正後の公職選挙法附則8項)。本件改正前及び本件改正後の在外国民の選挙権の行使に関する制度の概要は、それぞれ以下のとおりである。
(2) 本件改正前の制度の概要
本件改正前の公職選挙法42条1項、2項は、選挙人名簿に登録されていない者及び選挙人名簿に登録されることができない者は投票をすることができないものと定めていた。そして、選挙人名簿への登録は、当該市町村の区域内に住所を有する年齢満20年以上の日本国民で、その者に係る当該市町村の住民票が作成された日から引き続き3か月以上当該市町村の住民基本台帳に記録されている者について行うこととされているところ(同法21条1項、住民基本台帳法15条1項)、在外国民は、我が国のいずれの市町村においても住民基本台帳に記録されないため、選挙人名簿には登録されなかった。その結果、在外国民は、衆議院議員の選挙又は参議院議員の選挙において投票をすることができなかった。
(3) 本件改正後の制度の概要
本件改正により、新たに在外選挙人名簿が調製されることとなり(公職選挙法第4章の2参照)、「選挙人名簿に登録されていない者は、投票をすることができない。」と定めていた本件改正前の公職選挙法42条1項本文は、「選挙人名簿又は在外選挙人名簿に登録されていない者は、投票をすることができない。」と改められた。本件改正によって在外選挙制度の対象となる選挙は、衆議院議員の選挙及び参議院議員の選挙であるが、当分の間は、衆議院比例代表選出議員の選挙及び参議院比例代表選出議員の選挙に限ることとされたため、その間は、衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙はその対象とならない(本件改正後の公職選挙法附則8項)。
 
3 本件において、在外国民である別紙当事者目録1記載の上告人らは、被上告人に対し、在外国民であることを理由として選挙権の行使の機会を保障しないことは、憲法14条1項、15条1項及び3項、43条並びに44条並びに市民的及び政治的権利に関する国際規約(昭和54年条約第7号)25条に違反すると主張して、主位的に、@本件改正前の公職選挙法は、同上告人らに衆議院議員の選挙及び参議院議員の選挙における選挙権の行使を認めていない点において、違法(上記の憲法の規定及び条約違反)であることの確認、並びにA本件改正後の公職選挙法は、同上告人らに衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙における選挙権の行使を認めていない点において、違法(上記の憲法の規定及び条約違反)であることの確認を求めるとともに、予備的に、B同上告人らが衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙において選挙権を行使する権利を有することの確認を請求している。また、別紙当事者目録1記載の上告人ら及び平成8年10月20日当時は在外国民であったがその後帰国した同目録2記載の上告人らは、被上告人に対し、立法府である国会が在外国民が国政選挙において選挙権を行使することができるように公職選挙法を改正することを怠ったために、上告人らは同日に実施された衆議院議員の総選挙(以下「本件選挙」という。)において投票をすることができず損害を被ったと主張して、1人当たり5万円の損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を請求している。
 
4 原判決は、本件の各確認請求に係る訴えはいずれも法律上の争訟に当たらず不適法であるとして却下すべきものとし、また、本件の国家賠償請求はいずれも棄却すべきものとした。所論は、要するに、在外国民の国政選挙における選挙権の行使を制限する公職選挙法の規定は、憲法14条、15条1項及び3項、22条2項、43条、44条等に違反すると主張するとともに、確認の訴えをいずれも不適法とし、国家賠償請求を認めなかった原判決の違法をいうものである。
 
第2 在外国民の選挙権の行使を制限することの憲法適合性について
1 国民の代表者である議員を選挙によって選定する国民の権利は、国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利として、議会制民主主義の根幹を成すものであり、民主国家においては、一定の年齢に達した国民のすべてに平等に与えられるべきものである。
 憲法は、前文及び1条において、主権が国民に存することを宣言し、国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動すると定めるとともに、43条1項において、国会の両議院は全国民を代表する選挙された議員でこれを組織すると定め、15条1項において、公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利であると定めて、国民に対し、主権者として、両議院の議員の選挙において投票をすることによって国の政治に参加することができる権利を保障している。そして、憲法は、同条3項において、公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障すると定め、さらに、44条ただし書において、両議院の議員の選挙人の資格については、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によって差別してはならないと定めている。以上によれば、憲法は、国民主権の原理に基づき、両議院の議員の選挙において投票をすることによって国の政治に参加することができる権利を国民に対して固有の権利として保障しており、その趣旨を確たるものとするため、国民に対して投票をする機会を平等に保障しているものと解するのが相当である。
 憲法の以上の趣旨にかんがみれば、自ら選挙の公正を害する行為をした者等の選挙権について一定の制限をすることは別として、国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず、国民の選挙権又はその行使を制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならないというべきである。そして、そのような制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合でない限り、上記のやむを得ない事由があるとはいえず、このような事由なしに国民の選挙権の行使を制限することは、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するといわざるを得ない。また、このことは、国が国民の選挙権の行使を可能にするための所要の措置を執らないという不作為によって国民が選挙権を行使することができない場合についても、同様である。
 在外国民は、選挙人名簿の登録について国内に居住する国民と同様の被登録資格を有しないために、そのままでは選挙権を行使することができないが、憲法によって選挙権を保障されていることに変わりはなく、国には、選挙の公正の確保に留意しつつ、その行使を現実的に可能にするために所要の措置を執るべき責務があるのであって、選挙の公正を確保しつつそのような措置を執ることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合に限り、当該措置を執らないことについて上記のやむを得ない事由があるというべきである。
 
2 本件改正前の公職選挙法の憲法適合性について
 前記第1の2(2)のとおり、本件改正前の公職選挙法の下においては、在外国民は、選挙人名簿に登録されず、その結果、投票をすることができないものとされていた。これは、在外国民が実際に投票をすることを可能にするためには、我が国の在外公館の人的、物的態勢を整えるなどの所要の措置を執る必要があったが、その実現には克服しなければならない障害が少なくなかったためであると考えられる。
 記録によれば、内閣は、昭和59年4月27日、「我が国の国際関係の緊密化に伴い、国外に居住する国民が増加しつつあることにかんがみ、これらの者について選挙権行使の機会を保障する必要がある」として、衆議院議員の選挙及び参議院議員の選挙全般についての在外選挙制度の創設を内容とする「公職選挙法の一部を改正する法律案」を第101回国会に提出したが、同法律案は、その後第105回国会まで継続審査とされていたものの実質的な審議は行われず、同61年6月2日に衆議院が解散されたことにより廃案となったこと、その後、本件選挙が実施された平成8年10月20日までに、在外国民の選挙権の行使を可能にするための法律改正はされなかったことが明らかである。世界各地に散在する多数の在外国民に選挙権の行使を認めるに当たり、公正な選挙の実施や候補者に関する情報の適正な伝達等に関して解決されるべき問題があったとしても、既に昭和59年の時点で、選挙の執行について責任を負う内閣がその解決が可能であることを前提に上記の法律案を国会に提出していることを考慮すると、同法律案が廃案となった後、国会が、10年以上の長きにわたって在外選挙制度を何ら創設しないまま放置し、本件選挙において在外国民が投票をすることを認めなかったことについては、やむを得ない事由があったとは到底いうことができない。そうすると、本件改正前の公職選挙法が、本件選挙当時、在外国民であった上告人らの投票を全く認めていなかったことは、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するものであったというべきである。
 
3 本件改正後の公職選挙法の憲法適合性について
 本件改正は、在外国民に国政選挙で投票をすることを認める在外選挙制度を設けたものの、当分の間、衆議院比例代表選出議員の選挙及び参議院比例代表選出議員の選挙についてだけ投票をすることを認め、衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙については投票をすることを認めないというものである。この点に関しては、投票日前に選挙公報を在外国民に届けるのは実際上困難であり、在外国民に候補者個人に関する情報を適正に伝達するのが困難であるという状況の下で、候補者の氏名を自書させて投票をさせる必要のある衆議院小選挙区選出議員の選挙又は参議院選挙区選出議員の選挙について在外国民に投票をすることを認めることには検討を要する問題があるという見解もないではなかったことなどを考慮すると、初めて在外選挙制度を設けるに当たり、まず問題の比較的少ない比例代表選出議員の選挙についてだけ在外国民の投票を認めることとしたことが、全く理由のないものであったとまでいうことはできない。
 しかしながら、本件改正後に在外選挙が繰り返し実施されてきていること、通信手段が地球規模で目覚ましい発達を遂げていることなどによれば、在外国民に候補者個人に関する情報を適正に伝達することが著しく困難であるとはいえなくなったものというべきである。また、参議院比例代表選出議員の選挙制度を非拘束名簿式に改めることなどを内容とする公職選挙法の一部を改正する法律(平成12年法律第118号)が平成12年11月1日に公布され、同月21日に施行されているが、この改正後は、参議院比例代表選出議員の選挙の投票については、公職選挙法86条の3第1項の参議院名簿登載者の氏名を自書することが原則とされ、既に平成13年及び同16年に、在外国民についてもこの制度に基づく選挙権の行使がされていることなども併せて考えると、遅くとも、本判決言渡し後に初めて行われる衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の時点においては、衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙について在外国民に投票をすることを認めないことについて、やむを得ない事由があるということはできず、公職選挙法附則8項の規定のうち、在外選挙制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分は、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するものといわざるを得ない。
 
第3 確認の訴えについて
1 本件の主位的確認請求に係る訴えのうち、本件改正前の公職選挙法が別紙当事者目録1記載の上告人らに衆議院議員の選挙及び参議院議員の選挙における選挙権の行使を認めていない点において違法であることの確認を求める訴えは、過去の法律関係の確認を求めるものであり、この確認を求めることが現に存する法律上の紛争の直接かつ抜本的な解決のために適切かつ必要な場合であるとはいえないから、確認の利益が認められず、不適法である。
 
2 また、本件の主位的確認請求に係る訴えのうち、本件改正後の公職選挙法が別紙当事者目録1記載の上告人らに衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙における選挙権の行使を認めていない点において違法であることの確認を求める訴えについては、他により適切な訴えによってその目的を達成することができる場合には、確認の利益を欠き不適法であるというべきところ、本件においては、後記3のとおり、予備的確認請求に係る訴えの方がより適切な訴えであるということができるから、上記の主位的確認請求に係る訴えは不適法であるといわざるを得ない。
 
3 本件の予備的確認請求に係る訴えは、公法上の当事者訴訟のうち公法上の法律関係に関する確認の訴えと解することができるところ、その内容をみると、公職選挙法附則8項につき所要の改正がされないと、在外国民である別紙当事者目録1記載の上告人らが、今後直近に実施されることになる衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において投票をすることができず、選挙権を行使する権利を侵害されることになるので、そのような事態になることを防止するために、同上告人らが、同項が違憲無効であるとして、当該各選挙につき選挙権を行使する権利を有することの確認をあらかじめ求める訴えであると解することができる。
 選挙権は、これを行使することができなければ意味がないものといわざるを得ず、侵害を受けた後に争うことによっては権利行使の実質を回復することができない性質のものであるから、その権利の重要性にかんがみると、具体的な選挙につき選挙権を行使する権利の有無につき争いがある場合にこれを有することの確認を求める訴えについては、それが有効適切な手段であると認められる限り、確認の利益を肯定すべきものである。そして、本件の予備的確認請求に係る訴えは、公法上の法律関係に関する確認の訴えとして、上記の内容に照らし、確認の利益を肯定することができるものに当たるというべきである。なお、この訴えが法律上の争訟に当たることは論をまたない。
 そうすると、本件の予備的確認請求に係る訴えについては、引き続き在外国民である同上告人らが、次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において、在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあることの確認を請求する趣旨のものとして適法な訴えということができる。
 
4 そこで、本件の予備的確認請求の当否について検討するに、前記のとおり、公職選挙法附則8項の規定のうち、在外選挙制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分は、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するもので無効であって、別紙当事者目録1記載の上告人らは、次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において、在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあるというべきであるから、本件の予備的確認請求は理由があり、更に弁論をするまでもなく、これを認容すべきものである。
 
第4 国家賠償請求について
 国家賠償法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものである。したがって、国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって、当該立法の内容又は立法不作為の違憲性の問題とは区別されるべきであり、仮に当該立法の内容又は立法不作為が憲法の規定に違反するものであるとしても、そのゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに違法の評価を受けるものではない。しかしながら、立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、例外的に、国会議員の立法行為又は立法不作為は、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けるものというべきである。最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁は、以上と異なる趣旨をいうものではない。
 在外国民であった上告人らも国政選挙において投票をする機会を与えられることを憲法上保障されていたのであり、この権利行使の機会を確保するためには、在外選挙制度を設けるなどの立法措置を執ることが必要不可欠であったにもかかわらず、前記事実関係によれば、昭和59年に在外国民の投票を可能にするための法律案が閣議決定されて国会に提出されたものの、同法律案が廃案となった後本件選挙の実施に至るまで10年以上の長きにわたって何らの立法措置も執られなかったのであるから、このような著しい不作為は上記の例外的な場合に当たり、このような場合においては、過失の存在を否定することはできない。このような立法不作為の結果、上告人らは本件選挙において投票をすることができず、これによる精神的苦痛を被ったものというべきである。したがって、本件においては、上記の違法な立法不作為を理由とする国家賠償請求はこれを認容すべきである。
 そこで、上告人らの被った精神的損害の程度について検討すると、本件訴訟において在外国民の選挙権の行使を制限することが違憲であると判断され、それによって、本件選挙において投票をすることができなかったことによって上告人らが被った精神的損害は相当程度回復されるものと考えられることなどの事情を総合勘案すると、損害賠償として各人に対し慰謝料5000円の支払を命ずるのが相当である。そうであるとすれば、本件を原審に差し戻して改めて個々の上告人の損害額について審理させる必要はなく、当審において上記金額の賠償を命ずることができるものというべきである。そこで、上告人らの本件請求中、損害賠償を求める部分は、上告人らに対し各5000円及びこれに対する平成8年10月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余は棄却することとする。
 
第5 結論
 以上のとおりであるから、本件の主位的確認請求に係る各訴えをいずれも却下すべきものとした原審の判断は正当として是認することができるが、予備的確認請求に係る訴えを却下すべきものとし、国家賠償請求を棄却すべきものとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。そして、以上に説示したところによれば、本件につき更に弁論をするまでもなく、上告人らの予備的確認請求は理由があるから認容すべきであり、国家賠償請求は上告人らに対し各5000円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は棄却すべきである。論旨は上記の限度で理由があり、条約違反の論旨について判断するまでもなく、原判決を主文第1項のとおり変更すべきである。
 
よって、裁判官横尾和子、同上田豊三の反対意見、判示第4についての裁判官泉コ治の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。なお、裁判官福田博の補足意見がある。
(裁判長裁判官 町田 顯 裁判官 福田 博 裁判官 濱田邦夫 裁判官 横尾和子 裁判官 上田豊三 裁判官 滝井繁男 裁判官 藤田宙靖 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉 コ治 裁判官 島田仁郎 裁判官 才口千晴 裁判官 今井 功 裁判官 中川了滋 裁判官 堀籠幸男)
 
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【福田博裁判官の補足意見要旨】
在外国民の選挙権の剥奪又は制限が憲法に違反するという判決で被益するのは、現在も国外に居住し、又は滞在する人々であり,選挙後帰国してしまった人々に対しては、心情的満足感を除けば,金銭賠償しか救済の途がないという事実である。上告人の中には、このような人が現に存在するのであり,やはりそのような人々のことも考えて金銭賠償による救済を行わざるを得ない。
国会又は国会議員が作為又は不作為により国民の選挙権の行使を妨げたことについて支払われる賠償金は、結局のところ,国民の税金から支払われるという事実である。代表民主制の根幹を成す選挙権の行使が国会又は国会議員の行為によって妨げられると、その償いに国民の税金が使われるということを国民に広く知らしめる点で,賠償金の支払は,額の多寡にかかわらず,大きな意味を持つというべきである。

【横尾和子、上田豊三両裁判官の反対意見要旨】
国会が両議院の議員の各選挙制度の仕組みを具体的に決定するに当たっては、選挙人である国民の自由に表明する意思により選挙が混乱なく、公明かつ適正に行われるよう、すなわち公正,公平な選挙が混乱なく実現されるために必要とされる事項を考慮しなければならないのである。我が国の主権の及ばない国や地域に居住していて、在外国民も、国民である限り選挙権を有していることはいうまでもないが、そのような在外国民が選挙権を行使する、すなわち投票をするに当たっては、国内に居住する国民の場合に比べて、様々な社会的、技術的な制約が伴うので、在外国民にどのような投票制度を用意すれば選挙の公正さ、公平さを確保し,混乱のない選挙を実現することができるのかということも国会において正当に考慮しなければならない事項であり、国会の裁量判断にゆだねられていると解すべきである。 

我が国においては、従来,在外国民には両議院議員の選挙に関し投票の機会が与えられていなかったところ、平成10年の改正により,両議院の比例代表選出議員の選挙について投票の機会を与えることにし、衆議院小選挙区選出議員及び参議院選挙区選出議員の選挙については、在外国民への候補者個人に関する情報を伝達することが極めて困難であること等を勘案して、当分の間、投票の機会を与えないこととしたというのである。
国会のこれらの選択は,選挙制度の仕組みとの関連において在外国民にどのような投票制度を用意すれば選挙の公正さ、公平さを確保し、混乱のない選挙を実現することができるのかという、国会において正当に考慮することのできる事項を考慮した上での選択ということができ、正確な候補者情報の伝達、選挙人の自由意思による投票環境の確保、不正の防止等に関し様々な社会的、技術的な制約の伴う中でそれなりの合理性を持ち、国会に与えられた裁量判断を濫用ないし逸脱するものではなく、平成10年に至って新たに在外選挙人名簿の制度を創設し、それまではこのような制度を設けていなかったことをも含めて、いまだ上告人らの主張する憲法の各規定や条約に違反するものではなく、違憲とはいえないと解するのが相当である。

【泉徳治裁判官の国家賠償請求の認容に係る部分の反対意見要旨】
国家賠償請求は棄却されるべきだと考える。本件で問題とされている選挙権の行使に関していえば、選挙権が基本的人権の一つである参政権の行使という意味において個人的権利であることは疑いないものの、両議院の議員という国家の機関を選定する公務に集団的に参加するという公務的性格も有しており、純粋な個人的権利とは異なった側面を持っている。しかも,立法の不備により本件選挙で投票をすることができなかった上告人らの精神的苦痛は,数十万人に及ぶ在外国民に共通のものであり、個別性の薄いものである。したがって、上告人らの精神的苦痛は、金銭で評価することが困難であり、なじまないものといわざるを得ない。
当裁判所は、投票価値の不平等是正については、つとに、公職選挙法204条の選挙の効力に関する訴訟で救済するという途を開き、本件で求められている在外国民に対する選挙権行使の保障についても、今回、上告人らの提起した予備的確認請求訴訟で取り上げることになった。このような裁判による救済の途が開かれている限り、あえて金銭賠償を認容する必要もない。

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【参考法令】

○日本国憲法
第十四条  すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

第十五条  公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
3 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。

第四十三条  両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。

第四十四条  両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。

○市民的及び政治的権利に関する国際規約(国連人権B規約)
第二十五条 すべての市民は、第二条に規定するいかなる差別もなく、かつ、不合理な制限なしに、次のことを行う権利及び機会を有する。
(a)直接に、又は自由に選んだ代表者を通じて、政治に参与すること。
(b)普通かつ平等の選挙権に基づき秘密投票により行われ、選挙人の意思の自由な表明を保障する真正な定期的選挙において、投票し及び選挙されること。
(c)一般的な平等条件の下で自国の公務に携わること。

○公職選挙法(平成10年法47号改正後)附則
 当分の間、この法律の適用については、第三十条の三第二項中「一以上の投票区」とあるのは「投票区」と、第三十条の六第二項、第三十条の七第一項、第四十九条の二及び附則第六項の規定により読み替えて適用される第三十条の七第一項中「衆議院議員又は参議院議員の選挙」とあるのは「衆議院(比例代表選出)議員又は参議院(比例代表選出)議員の選挙」と、第四十二条第一項中「登録されていない者」とあるのは「登録されていない者(衆議院比例代表選出議員又は参議院比例代表選出議員の選挙以外の選挙については、選挙人名簿に登録されていない者)」と、第四十九条の二第二項中「「在外選挙人名簿」とあるのは「「衆議院比例代表選出議員又は参議院比例代表選出議員の選挙については、在外選挙人名簿」と、第百九十四条第一項、第百九十五条及び第二百四十七条中「専ら在外選挙人名簿に登録されている選挙人(第四十九条の二第一項に規定する政令で定めるものを除く。)で衆議院議員又は参議院議員の選挙において投票をしようとするものの投票に関してする選挙運動で、」とあるのは「参議院比例代表選出議員の選挙にあつては、専ら在外選挙人名簿に登録されている選挙人(第四十九条の二第一項に規定する政令で定めるものを除く。)の投票に関してする選挙運動で」とする。 

○公職選挙法
(在外選挙人名簿)
第三十条の二  市町村の選挙管理委員会は、選挙人名簿のほか、在外選挙人名簿の調製及び保管を行う。
2 在外選挙人名簿は、永久に据え置くものとし、かつ、衆議院議員及び参議院議員の選挙を通じて一の名簿とする。
3 市町村の選挙管理委員会は、第三十条の五第一項の規定による申請に基づき、在外選挙人名簿の登録を行うものとする。

(在外選挙人名簿の記載事項等)
第三十条の三  在外選挙人名簿には、選挙人の氏名、最終住所(選挙人が国外へ住所を移す直前に住民票に記載されていた住所をいう。以下同じ。)又は申請の時(選挙人が第三十条の五第一項の規定による申請書を同条第二項に規定する領事官又は同項に規定する総務省令・外務省令で定める者に提出した時をいう。同条第一項及び第三項において同じ。)における本籍、性別及び生年月日等の記載(前条第四項の規定により磁気ディスクをもつて調製する在外選挙人名簿にあつては、記録)をしなければならない。
2  市町村の選挙管理委員会は、市町村の区域を分けて数投票区を設けた場合には、政令で定めるところにより、在外選挙人名簿を編製する一以上の投票区(以下「指定在外選挙投票区」という。)を指定しなければならない。
3  前二項に規定するもののほか、在外選挙人名簿の様式その他必要な事項は、政令で定める。
(在外選挙人名簿の被登録資格)
第三十条の四  在外選挙人名簿の登録は、在外選挙人名簿に登録されていない年齢満二十年以上の日本国民(第十一条第一項若しくは第二百五十二条又は政治資金規正法第二十八条 の規定により選挙権を有しない者を除く。)で、在外選挙人名簿の登録の申請に関しその者の住所を管轄する領事官(領事官の職務を行う大使館若しくは公使館の長又はその事務を代理する者を含む。以下同じ。)の管轄区域(在外選挙人名簿の登録の申請に関する領事官の管轄区域として総務省令・外務省令で定める区域をいう。)内に引き続き三箇月以上住所を有するものについて行う。

(在外投票等)
第四十九条の二  在外選挙人名簿に登録されている選挙人(当該選挙人のうち選挙人名簿に登録されているもので政令で定めるものを除く。以下この条において同じ。)で、衆議院議員又は参議院議員の選挙において投票をしようとするものの投票については、第四十八条の二第一項及び前条第一項の規定によるほか、政令で定めるところにより、第四十四条、第四十五条第一項、第四十六条第一項から第三項まで、第四十八条及び次条の規定にかかわらず、次の各号に掲げるいずれかの方法により行わせることができる。
一  衆議院議員又は参議院議員の選挙の期日の公示又は告示の日の翌日から選挙の期日前五日(投票の送致に日数を要する地の在外公館であることその他特別の事情があると認められる場合は、あらかじめ総務大臣が外務大臣と協議して指定する日)までの間(あらかじめ総務大臣が外務大臣と協議して指定する日を除く。)に、自ら在外公館の長(総務大臣が外務大臣と協議して指定する在外公館の長を除く。以下この号において同じ。)の管理する投票を記載する場所に行き、在外選挙人証及び旅券その他の政令で定める文書を提示して、投票用紙に投票の記載をし、これを封筒に入れて在外公館の長に提出する方法
二  当該選挙人の現在する場所において投票用紙に投票の記載をし、これを郵便等により送付する方法
2  在外選挙人名簿に登録されている選挙人で、衆議院議員又は参議院議員の選挙において投票をしようとするものの国内における投票については、第四十二条第一項ただし書中「選挙人名簿」とあるのは「在外選挙人名簿」と、「投票所」とあるのは「指定在外選挙投票区の投票所」と、第四十四条第一項中「投票所」とあるのは「指定在外選挙投票区の投票所」と、同条第二項中「、選挙人名簿」とあるのは「、在外選挙人証を提示して、在外選挙人名簿」と、「当該選挙人名簿」とあるのは「当該在外選挙人名簿」と、「第十九条第三項」とあるのは「第三十条の二第四項」と、「書類。次項、第五十五条及び第五十六条において同じ。」とあるのは「書類」と、第四十八条の二第一項中「期日前投票所」とあるのは「市町村の選挙管理委員会の指定した期日前投票所」と、「投票区」とあるのは「指定在外選挙投票区」と、同条第二項の表第四十二条第一項の項中「第四十二条第一項」とあるのは「第四十九条の二第二項の規定により読み替えて適用される第四十二条第一項」と、「選挙の当日投票所」とあるのは「選挙の当日指定在外選挙投票区の投票所」と、「期日前投票所」とあるのは「市町村の選挙管理委員会の指定した期日前投票所」とする。
3  在外選挙人名簿に登録されている選挙人で、衆議院議員又は参議院議員の選挙において投票をしようとするものの投票については、前条第二項及び第三項の規定は、適用しない。

(被登録資格等)
第二十一条  選挙人名簿の登録は、当該市町村の区域内に住所を有する年齢満二十年以上の日本国民(第十一条第一項若しくは第二百五十二条又は政治資金規正法 (昭和二十三年法律第百九十四号)第二十八条 の規定により選挙権を有しない者を除く。)で、その者に係る登録市町村等(当該市町村及び消滅市町村(その区域の全部又は一部が廃置分合により当該市町村の区域の全部又は一部となつた市町村であつて、当該廃置分合により消滅した市町村をいう。次項において同じ。)をいう。以下この項において同じ。)の住民票が作成された日(他の市町村から登録市町村等の区域内に住所を移した者で住民基本台帳法 (昭和四十二年法律第八十一号)第二十二条 の規定により届出をしたものについては、当該届出をした日)から引き続き三箇月以上登録市町村等の住民基本台帳に記録されている者について行う。

○住民基本台帳法
(住民基本台帳の備付け)
第五条  市町村は、住民基本台帳を備え、その住民につき、第七条に規定する事項を記録するものとする。
(住民票の記載事項)
第七条  住民票には、次に掲げる事項について記載(前条第三項の規定により磁気ディスクをもつて調製する住民票にあつては、記録。以下同じ。)をする。
一  氏名
二  出生の年月日
・・・・・
八  新たに市町村の区域内に住所を定めた者については、その住所を定めた旨の届出の年月日(職権で住民票の記載をした者については、その年月日)及び従前の住所
九  選挙人名簿に登録された者については、その旨
・・・・・
十三  住民票コード(番号、記号その他の符号であつて総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)
十四  前各号に掲げる事項のほか、政令で定める事項

○地方自治法
第十条 市町村の区域内に住所を有する者は、当該市町村及びこれを包括する都道府県の住民とする。
2 住民は、法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し、その負担を分任する義務を負う。

○国家賠償法 
第一条  国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
                                            弁護士 三木秀夫

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