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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
野球チケットのネット販売のダフ屋逮捕(2005年09月24日)  迷惑防止条
○愛知県警組織犯罪対策課と東署は24日までに、プロ野球の巨人戦チケットを転売目的で購入したとして県迷惑防止条例違反(ダフ屋行為など)の疑いで、巨人軍の元私設応援団幹部で自営業、I容疑者(66)と、元応援団メンバーで会社員のO容疑者(33)を逮捕、送検した。

調べでは、2人は7月30日、名古屋市中区のチケット売り場で、不特定の人に転売するため、9月23〜25日にナゴヤドームで開催の中日対巨人戦の外野指定席(1枚1800円)のチケット236枚を購入した疑い。

2人はインターネットオークションなどで1枚当たり2500〜5000円で転売し、約10万円の利益を得ていたという。同課などは、2人が常習的にダフ屋行為をしていたとみて余罪を追及する。(スポーツニッポン 2005.09.24)(氏名はイニシャル化)  

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○阪神タイガースは、24日の広島戦で6−3と逆転勝ちし3連勝、優勝へのマジックを4として、いよいよ優勝が目前に迫ってきた。8月はじめには、中日の追い上げで、ハラハラすることもあったが、こうなったら甲子園での巨人戦で優勝かと、気が気でならない。

○そのような時に飛び込んできたインターネットオークションでの巨人・中日戦チケットの「ダフ屋」事件。ニュースによれば、容疑者たちは、人気の高い試合の外野席券を大量に買い占めたうえで、インターネットオークションなどで高値転売し、常習的に稼いでいた疑いが持たれているようである。本当ならば、ゲームを楽しみたい純粋な野球ファンにとっては誠に許すべからず事件である。他の球団チケットにおいても同様のことが無かったのか、この際、野球界あげて徹底的に調べて欲しいものである。

○今回の二人の逮捕容疑は、報道された範囲では、今年の7月30日、名古屋市内のプレイガイドで、不特定の者に転売する目的で、9月23日から25日のナゴヤドームでの中日対巨人戦の外野指定席券236枚を購入した疑い。二人はインターネットオークションに出品するなどし、1枚1800円のチケットを約2500円から約5200円で転売していたとのことである。

○今年の7月30日といえば、中日が札幌ドームでの巨人戦からオールスターを挟んで、11連勝するなどして、独走すると思われた首位阪神に急接近し、ついに3ゲーム差まで追い詰めていたときで、阪神ファンは毎日ハラハラ、中日ファンは逆に急な盛り上がりをしていた時期である。この二人は、まさにこの背景の下で、「9月23日から25日ごろに中日が優勝するか、優勝争いの最中であろう」と見込んで、一攫千金を夢見て大量買いをしたのではなかろうか。残念ながら、その後中日は阪神タイガースに水を大きくあけられたため、ゴールドチケットにはならなかったものの、一枚あたり700円から3400円の利ざやを稼いだようである。

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○今回の逮捕罪名は、愛知県の「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(愛知県迷惑防止条例違反)第9条4項、第4条」の「常習ダフ屋行為罪」のようである。「常習として、同条例4条で禁止したダフ屋行為をした罪」で、6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金である。同じような条例は、全国の都道府県で制定されている。

(乗車券等の不当な売買行為(ダフヤ行為)の禁止)
第4条 
何人も、乗車券、急行券、指定券、寝台券その他の運送機関を利用することができる権利を証する物又は入場券、観覧券その他の公共の娯楽施設を利用することができる権利を証する物(以下「乗車券等」という。)を不特定の者に転売するた又は不特定の者に転売する目的を有する者に交付するため、乗車券等を、共の場所又は公共の乗物において、買い、又は人の身辺に立ちふさがり、若しくはつきまとい、人に呼び掛け、チラシその他これに類する物を配布し、若しくは公衆の列に加わつて買おうとしてはならない。

2 何人も、転売する目的で得た乗車券等を、公共の場所又は公共の乗物において、不特定の者に、売り、又は人の身辺に立ちふさがり、若しくはつきまとい、人に呼び掛け、チラシその他これに類する物を配布し、若しくは乗車券等を展示して売ろうとしてはならない。

(罰則)
第9条
(1項 省略)
2 次の各号のいずれかに該当する者は、50万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
一〜三(省略)
四 第4条の規定に違反した者
五〜八(省略)
4 常習として第2項の違反行為をした者は、6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

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○愛知県迷惑防止条例は、4条1項(購入)と2項(販売)という、二つの行為形態を違法なダフ屋行為と定めている。(他の条例もほぼ同じ)

○一つは、4条1項の「転売目的でのチケットなど」の「購入」である。
その構成要件は、次のとおりで、不特定の者への転売目的と、公共の場所での購入が必要となる。
@チケット等を
A不特定の者に転売する目的で(又は不特定の者に転売する目的を有する者に交付する目的で)
B公共の場所において(又は公共の乗物において)
C買うこと(又は人の身辺に立ちふさがり、若しくはつきまとい、人に呼び掛け、チラシその他これに類する物を配布し、若しくは公衆の列に加わつて買おうとすること)


○二つは、4条2項の「公共の場所でのチケットなど」の「販売」である。
その構成要件は、次のとおりで、不特定の者への公共の場所での販売が必要となる。
@転売する目的で得たチケット等を
A公共の場所において(又は公共の乗物において)
B不特定の者に
C売ること(又は人の身辺に立ちふさがり、若しくはつきまとい、人に呼び掛け、チラシその他これに類する物を配布し、若しくは乗車券等を展示して売ろうとすること)

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○この罪の法益に関して、東京都条例において、昭和62年12月18日東京地方裁判所判決(判例時報1275号141頁)では、「これによって運送機関や公共の娯楽施設の利用についての一般公衆の機会等の利益を保護することを主目的とし、併せてかかる行為者が公共の場所において一般公衆に直接接触し、善良な社会環境を侵害することを未然に防止することを目的としているものと解される。」としている。

また、2項の販売罪に関して、「同条二項は行為者が転売する目的を有することを主観的構成要件要素としており、転売には利益を得る目的のあることを概念上必要とするけれども、主観的に右目的をもつて現実に売る行為をした以上、これによって客観的には右目的が達成されなかつたとしても、右行為が同項に該当しなくなるものでないことはもちろん、本件条例の予定する一般公衆の機会均等の利益及び善良な社会環境という法益の侵害がなくなるものでもないことは明らかである。」として、野球入場券を定価で転売した場合であっても、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例2条2項のダフヤ行為にあたるとした。

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○今回の事件は、この第4条1項犯(購入)か、2項犯(販売)であろうか。
報道を読み解く限りでは、「2人は・・・チケット売り場で、不特定の人に転売するため、・・・・のチケット236枚を購入した」容疑ということであるから、第4条1項犯(購入)犯で逮捕したものと解される。

容疑者の2人が、@「中日対巨人戦の外野指定席のチケット」を、A「不特定の人に転売するため」、Bチケット売り場という「公共の場所」で、Cチケットを購入した、ことで、上記の第4条1項の構成要件に該当し、さらに、前から同じ事を繰り返していたということから、「常習犯」となったものである。

購入の場合、その購入窓口で検挙しようとしても難しい。というのは、その際の購入目的を「特定の人に頼まれて転売するため」と言われてしまうと、「不特定の者に転売する目的」の立証ができなくなるからである。しかし、今回の事件では、その後に容疑者がインターネットオークションへ出品したことから、「不特定の者への転売目的」も立証可能となったものであろう。おそらく、長期にわたって容疑者の行動を追い続けた粘り強い捜査が功を奏したのであろう。

○今回の事案に類似したケースとしては、2002年に「三鷹の森ジブリ美術館」の入場券をインターネットのオークションなどで販売して、都迷惑防止条例違反(ダフ屋行為)容疑で逮捕されたというものがある。これは「転売目的」での購入ということで検挙の対象になった。

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○今回の検挙の6日前には、愛知万博の人気施設「サツキとメイの家」の無料入館予約券を申込で大量入手した者が、インターネットオークションで、高いときには1枚4万円以上で販売していて問題化していた件で、警視庁が、この行為を東京都迷惑防止条例(ダフ屋行為禁止)の適用は不可能と結論したという報道がなされた。

この「サツキとメイの家」事件と、今回の「中日巨人戦チケット事件」の関係は一見分かりにくい。

その理由は、「サツキとメイの家」事件での「予約券」は「無料」であったため、有料を前提にした「購入」ではないことから、「購入罪」に該当しない。また、インターネット上での販売は、後述のとおり、「公共の場所」には当たらないと解されているため、「販売罪」にも当たらないから、検挙できないのであった。

○インターネット上でも、チケットなどが堂々と高値で販売されていることがある。その中にはダフ屋まがいのものも多数見かけるが、今のところ、ネット上での取引については、「公共の場所ではない」という解釈が何故か一般的であるため、条例違反たるダフ屋行為には当たらないと解されている。ただ、今後は取り締まりの対象にしていく動きが出る可能性はある。

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○街中の「金券ショップ」や「チケットショップ」で、なかなか入手しにくいチケットなどが堂々と高値で販売されていることがある。こういった金券ショップ等は、古物商の免許を持った業者が開設した営業所で、一旦買うなどしてから不要となったチケットなどを持ち込んだ売り顧客から買取り、買い希望者に売る古物売買という正当な営業行為であるため、違反とはならない。

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○ちなみに、友達と一緒に行くはずだった野球チケットなどの券を、その友達が来れなくなったため、その余ったチケットを会場近くで売ることがあるが、これは迷惑防止条例に当たらないのであろうか。心配の向きがあるかもしれないが、安心してよい。

まず「購入罪」にはあたらない。チケット等を購入したときに「転売目的」があったわけではないからである。また、「販売罪」にも当たらない。売ろうとしたチケットは、「転売する目的で得たチケット等」ではないからである。しかし、目を見張らしている警察官等は、外見からはどちらか分からないので、疑われて事情聴取されるかもしれないので、あまり会場周辺での販売は控えたほうが安全ではある。

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○物価統制令の適用について
ダフ屋行為に関しては、かつては「物価統制令」を適用した裁判例がいくつかあるが、昭和50年代に迷惑防止条例が各地にでき始めてからは、適用数が減ってきた(条例がない都道府県などで平成に入ってからの裁判例もある)。

この物価統制令というのは、戦後の物資不足の時代に、生活必需品の買占めとか、それらの暴利行為を禁じるために制定された法律である。

この物価統制令を、今回のような事案に適用する可能性もないではない。しかし、この法律は、「生活必需品」を対象としたものであるため、チケットのような趣味・嗜好に当たるようなものは含まれないとの解釈もあるため、実際の取締りには適用されない傾向にある。
                                            弁護士 三木秀夫

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