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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
楽天がTBSに経営統合申し入れ(2005年10月13日)      共同持株会
○電子商取引最大手の楽天は13日、在京民放キー局TBSの発行済み株式の15・46%を取得して筆頭株主になり、TBSに対して、共同持ち株会社の設立による経営統合を申し入れたと発表した。
 
同日夕、記者会見した楽天の三木谷浩史社長は、「経営統合により、日本初の世界に通用するメディアグループを目指す」と語った。これに対しTBSの井上弘社長は同日夜、記者会見し、「唐突な印象を受ける。慎重に対応を検討していくが、協議を始めたわけではない」と述べ、経営統合には消極的な姿勢を示した。TBS株については、村上世彰氏が率いる村上ファンドも7%程度を取得していると見られる。
 
楽天が提案した経営統合は、両社が共同で持ち株会社を設立、楽天グループとTBSグループがそれぞれぶら下がる内容だ。持ち株会社への出資比率や、トップ人事は今後、協議するとしている。TBSのブランドや経営陣、人事制度などは統合後も引き継ぐほか、統合後も放送の中立性、公共性を保つため、第三者による諮問委員会を設立する。
 
三木谷社長は、「TBSは技術力、コンテンツ(番組)制作の能力が高く、報道も強い」と述べ、経営統合で、インターネットとテレビの連動による広告料収入の拡大、TBS番組のブロードバンド(高速大容量通信)配信など、双方にメリットが生まれると強調した。プロ野球球団の東北楽天ゴールデンイーグルスを所有する楽天と、横浜ベイスターズの株式の過半数を持つTBSとの経営統合が、野球協約に抵触する恐れがあるとの指摘には、「コミッショナーとも相談して検討していきたい」と述べた。また、楽天の国重惇史副社長は、村上ファンドとの間では「TBS株については話はしていない」とした。(2005.10.13 読売新聞)
 
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○ライブドアとフジテレビの問題が一段楽したところで、またもや、新たにTBSと楽天の経営統合問題が急浮上してきた。IT業界によるテレビ界の買収騒動は、テレビ朝日とソフトバンクに始まって、ライブドアとフジテレビ騒動を経て、これで3度目である。IT業界の勢いはとどまる所を知らないかの勢いである。過去2回は不成功に終わった。2度あることは3度ある、と古人は言ったが、本当になった。過去の2回はうまく行かなかったが、今度はどうなるのであろうか。

○ただ、ライブドアとフジテレビとの騒動の教訓であろうか、楽天は、敵対的買収としての印象をできる限り払拭しようとしてか、「共同持ち株会社」という方式を提案してきた。その構想では、共同持ち株会社の下に楽天グループとTBSグループがそれぞれぶら下がる内容であり、露骨な買収形式を取ってはいない。しかし、フジテレビの時と同じく、IT業界側の働きかけを、TBSはあまり快く思っていないようである。
 
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「持株会社」とは
今回、楽天が提案したのは「共同持株会社」という方式であった。TBSと共同で「持株会社」を設立して、両方のグループぶら下がるというものである。この「持株会社」とは、経営権を握る目的で、他社の株式を所有する会社のことをいう。持株会社のことを親会社、株式を保有される他社のことを子会社という。

持株会社には、事業持株会社と純粋持株会社がある。

事業持株会社(Operating Holding company)とは、本業を行うかたわら、他社の事業活動を支配する会社のことをいう。

純粋持株会社(Pure Holding company)とは、本業を持たずに他社の事業活動を支配する会社のことをいう。

「持株会社」は、ホールディングカンパニーとも呼び、最近よく見かける「株式会社○○ホールディング」というのはそういった会社であることが多い。

○持株会社は、平成11年以降の商法改正によって、株式交換・株式移転制度、会社分割制度が導入されたことを受けて、企業が機動的な組織再編を行うことが可能になったことを受けて、大手都市銀行の再編や地方銀行の統合等において多く見られるようになったほか、緩やかな企業統合として活用されるケースが急増した。

○設立方式について
持株会社は、抜殻方式、株式移転方式、株式交換方式などの方法でつくられる。

「抜殻方式」は、自ら行っている事業を子会社に移し、自らが持株会社となる方法である(NTTなど)。

「株式移転方式」は、持株会社となる完全親会社を株式移転によって新規に設立する方法である。従来の合併に代え、共同で純粋持株会社を設立し経営統合を行う(複数の会社による株式移転)方法もあり、その方式は「合併代替方式」と呼ばれている(みずほフィナンシャルグループ、JFEホールディングスの設立など)。

「株式交換方式」は、既存の会社を株式交換によって完全親会社に仕立て上げる方法である(みずほファイナンシャルグループなど)。

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○「持株会社」と「事業支配力の過度集中」について
この「持株会社」については、実は最近まで禁止されていたものである。

つまり、戦前の財閥本社が「純粋持株会社」の形態を採っていたものの、戦後、独占禁止法によって純粋持株会社の設立を禁止した。つまり、独占禁止法は、他の会社の株式を所有することで「事業活動を支配することを主たる事業とする会社」と定義した上で、その設立を禁止した(平成9年改正前の第9条)。

ところが、同法の平成9年改正により、「その子会社の株式の取得価額の合計額が、当該会社の総資産の50%を超える会社」と定義され、事業支配力が過度に集中することとなる持株会社の設立のみが禁止されることとなった。いわゆる「持株会社の原則解禁」である。

さらに、その後の経済実態の変化等を踏まえて、平成14年5月の独占禁止法の改正により、大規模会社の株式保有総額の制限(同法9条の2)が廃止されるとともに、持株会社以外の会社に対しても持株会社と同様の規制が課されることとなった。その結果、事業支配力が過度に集中することとなる会社を設立したり、既存の会社がそのような会社になることは禁止となった(同法9条)。(公正取引委員会は、「事業支配力が過度に集中することとなる会社の考え方」を公表している。)

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○私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)
(昭和二十二年四月十四日法律第五十四号)
第九条  他の国内の会社の株式(社員の持分を含む。以下同じ。)を所有することにより事業支配力が過度に集中することとなる会社は、これを設立してはならない。
2 会社(外国会社を含む。以下同じ。)は、他の国内の会社の株式を取得し、又は所有することにより国内において事業支配力が過度に集中することとなる会社となつてはならない。
3 前二項において「事業支配力が過度に集中すること」とは、会社及び子会社その他当該会社が株式の所有により事業活動を支配している他の国内の会社の総合的事業規模が相当数の事業分野にわたつて著しく大きいこと、これらの会社の資金に係る取引に起因する他の事業者に対する影響力が著しく大きいこと又はこれらの会社が相互に関連性のある相当数の事業分野においてそれぞれ有力な地位を占めていることにより、国民経済に大きな影響を及ぼし、公正かつ自由な競争の促進の妨げとなることをいう。

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○野球協約問題について
楽天がTBSの発行済み株式の15・46%を取得し、経営統合を申し入れたことで、球団の株式の持ち合いを禁じた野球協約に抵触する可能性も出てきている。野球協約は「公正な試合確保のための利害関係の禁止」の条項(第183条)で、球団オーナーらに対して他球団の支配権を有する会社の株式の所有を禁じている。
 
TBSは横浜ベイスターズのオーナーである。他方、楽天は、言うまでもなく東北楽天ゴールデンイーグルスのオーナー企業である。したがって、楽天がTBSの株式を取得することは、この条項に反することになる。

もし、楽天とTBSが経営統合するならば、東北楽天ゴールデンイーグルスか、横浜ベイスターズ球団のいずれかを売却するか、両球団が統合するしかない。 この点も興味深々である。
                                            弁護士 三木秀夫

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