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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
離婚危機堀越陽子さんが怒りの会見(2005年10月25日)婚姻費用分担請求
俳優、横内正(64)と別居し離婚危機にある夫人で元女優の堀越陽子さん(54)が24日、東京・京橋の中央公論新社で会見した。2人は結婚24年。陽子さんは横内の個人事務所の役員だったが、今年7月に横内は陽子さんに無断で新会社を設立、同時に自宅を飛び出した。9月に、離婚を前提とした自宅(ローン残)以外の財産の提出を請求し、生活費やひとり娘(23)の学費などのストップを通達してきたという。横内の浮気について陽子さんは「確実なのは2人」と話したが、離婚を求める理由はわからないといい、「きちんと生活費を入れていただきたい。結果的に離婚になるにしても、このような兵糧攻めのようなやり方は許せない。話し合いの場を持って欲しい」と訴えた。

堀越さんは、横内に生活費を求める「婚姻費用分担請求」の第一回調停が11月17日に開かれることも明らかにした。一方、横内の新しい所属事務所はサンケイスポーツに「家庭生活の問題。調停の場で話すので現時点で会見やコメントを出す予定はない」とした。(2005.10.25 サンケイスポーツ)

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○ドラマ「水戸黄門」の初代格さん役で知られる俳優の横内正の妻で、元女優の堀越陽子さんが、「婦人公論」で別居と離婚危機を語っているとの報道があったが、今度は怒りの会見を開いたというニュース。双方の別居・離婚騒動は、これから続くであろうが、「婚姻費用分担請求」という言葉がテレビニュースなどで飛び交っている。

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○婚姻費用分担とは
結婚して夫婦が生活を送っていく上で、いろいろな費用がかかるが、これを婚姻費用という。

○民法の規定により、夫婦は相手の生活を自分と同じレベルで維持し、夫婦の資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する義務がある。この婚姻費用分担義務は、夫婦の婚姻が継続している限り、離婚の協議中、別居中、離婚調停、離婚訴訟中でも存在する。経済的余裕のある夫が、「別居した妻は親元にいるのだから」と言って生活費を支払わないのは許されない。

○民法752条(同居・協力・扶助義務)
夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
○民法760条(婚姻費用の分担)
夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。

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○婚姻費用分担金の請求の仕方
婚姻費用の分担は、話し合いで決めることが基本である。しかし、相手方が支払いに応じない場合は、家庭裁判所に婚姻費用分担請求の調停の申し立てを行い、相手方に請求することができる。調停の場では、裁判官と二人の調停委員で構成する調停委員会が間に入って話し合いを行い、双方の合意が導かれる。そこで、合意が成立しなければ審判手続きに移行して、審判により決定してもらうこともできる。

○請求可能時期と期間
婚姻費用の請求は過去にさかのぼって可能である。ただし、いつまでさかのぼれるかに関しては、別居時点、請求時点、申立時点、審判言い渡し時点、審判確定時点と判断例が分かれている。ただ請求時点か申立時点と解されることが多い。請求ができる期間は、婚姻が解消した時点までか、別居が解消されたとき(同居の再開)までが一般的である。

○婚姻費用の内容と額
婚姻費用には、日常の生活費、衣食住の費用、医療費、交際費などの夫婦の生活費のみならず、子供の養育費、教育費をも含む。子供とは、未成年かどうかではなく未成熟子(経済的に独立せず、未だ社会的に独立人として期待されていない年齢の子女)であるかどうかを基準とする裁判例が多い。当事者の収入などによっても異なってくる。

婚姻費用のうち、子どもに対する養育費部分については、生活保持程度を支払わなければならない。他方、対配偶者分については、破綻の程度や別居・破綻に至った原因(有責性)の程度に応じて減額されることもある。例えば、不貞行為をして別居した妻が、夫に生活費の請求をするような、請求者に一方的な有責性がある場合には、請求は認められない場合が多い。

○算定基準表について
東京や大阪の裁判官らで構成された「東京・大阪養育費等研究会」が、養育費・婚姻費用等の算定の簡易化・迅速化を目指し、従前の家庭裁判所における実務について再検討を加える研究を行い、家庭裁判所における実務の基本的な考え方は維持しつつも、簡易迅速な算定が可能になるような新たな養育費算定方式とこれに基づく算定表を提案し、婚姻費用についても提案した。判例タイムズ1111号(2003年4月1日号)で、その提案の基本的な考え方や内容についての説明が公表されている。同会のこの提案に係る算定方式ないし算定表は、実務に定着してきている。

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○審判前の保全処分
婚姻費用分担の審判申し立ての後、当面の生活費に困るというような場合には、応急処置として、審判前の保全処分を申し立てる方法がある。家庭裁判所が、申立人からの一応の立証で、早急な事前の審判として、仮に支払えとの命令をを出す。

○履行勧告・履行命令
婚姻費用分担の調停合意や、審判がでたのに、相手方が支払うべき婚姻費用の支払いをしないとか滞納したという場合には、申し立てによって、家庭裁判所が支払い義務者に対して履行勧告や履行命令を出す。

○差し押さえ
婚姻費用分担金の不払いの場合において、調停調書、審判書、公正証書があると、相手方の財産の差押え強制執行ができる。これにより、相手方の給与等に差し押さえをして強制的に取り立てることもできる。 

○婚姻費用分担金・養育費等に関する強制執行の特例
調停などによって取り決めた婚姻費用分担金や離婚時に決めた養育費等の支払いが滞った場合に、かつてはその滞納部分しか強制執行ができなかったが、民事執行法の改正により、「将来の支払い部分」に関しても同時に強制執行の申立ができる特例が設けられることとなった。(民事執行法151条の2)(2003年8月1日公布 2004年4月1日施行)

これまでは、仮に婚姻費用等の3ヶ月分が滞納していたとすると、その滞納した分のみしか強制執行が許されず、その後に再び滞納が発生した場合は、またその滞納部分を強制執行し直す必要があり面倒であった。民事執行法改正により、滞納が発生した場合は、その滞納部分の差し押さえと同時に、未だ弁済期がきていない将来の婚姻費用等についても差し押さえができるようになった。

【この特例の適用要件】
(1)強制執行の特例を受ける請求権は以下の範囲
@夫婦間の協力および扶助の義務に関する請求権(民法752条)
A婚姻から生ずる費用の分担の義務に関する請求権(民法760条)
B子の監護に関する義務に関する請求権(民法766条、民法771条および民法788条において準用する場合を含む)
C扶養の義務に関する請求権(民法877条から880条)
(2)債務の一部不履行があること
(3)差し押さえることができる財産
給料その他継続的給付に係わる債権のみ。
                                            弁護士 三木秀夫

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