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三木秀夫法律事務所
このページは最近話題になったニュースを題材にして、そこに関係する各種法令もしくは
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【お知らせ】
2009年12月から、このページは休止とさせていただきました。
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ご関心のある方は、そちらをご覧ください。

ニュース六法目次
建築設計事務所の構造計算書偽造問題(2005年11月17日) 瑕疵担保責
○国道交通省住宅局建築指導課は、平成17年11月17日、姉歯建築設計事務所(千葉県知事登録第1-0505-3121号(千葉県市川市))が、元請けの建築設計事務所若しくは下請けとして構造計算を行った、既に竣工済のものを含む20件の建築物について、当該事務所が構造計算書を偽造していた可能性があることについて、建築確認検査を行ったイーホームズ(株)(指定確認検査機関:国土交通大臣指定第10号(東京都新宿区))から、国土交通省及び特定行政庁に報告があったこと、また、(株)東日本住宅評価センター(指定確認検査機関:国土交通大臣指定第8号(横浜市鶴見区))が建築確認を行った別の1件(工事中)についても、建築主から情報提供を受け、機関に報告を求めたところ11日までに同様の偽造の疑いがあることを確認したことを公表した。

同省によると、これらの21件のうち14件については、偽造された構造計算が、設計者等によるチェック、指定確認検査機関の確認検査段階、施工段階に是正されず、そのまま竣工している懸念があるとした。(国土交通省ホームページより)

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○天地を揺るがす大事件である。耐震強度が偽装されたこの問題は、大きな広がりを示しつつある。偽造をした建築設計事務所はもちろん、建築主、施工会社その他関係会社は、宅地建物取引業法、建築士法、建設業法に基づく行政処分はもちろん、民事・刑事での責任追及が行われるのは必至であろう。また、国行政は、居住者・近隣住民の生命身体の安全を確保すべき立場にある。費用を立て替えてでも、入居者などの安全を確保し、引越先の確保などを行ったうえで、建物の補修、解体を早急に行うべきであろう。

○そもそも、このような偽造問題の根幹には、過当競争のマンション業界の構造的な問題があるであろう。いずれにせよ、危険マンションの居住者にとっては、ローンと移転先の確保において命がけの戦いとなる。報道される限りでの物件数から考えても、もはや第一次の責任者たる民間事業者だけでは、明らかに補償しきれる問題ではないであろう。破産してしまえば、もはや居住者の民事的救済は頓挫する。今後は、建築確認システムの不備などの面での行政責任が問題になってくるのではないか。

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○購入者はどのように救済されるのか。住宅ローンも抱えた購入者の救済には非常に厳しい現実が現れるであろうが、基本は、売買契約という契約関係にある販売主に対しては、瑕疵担保責任を根拠とする契約解除や損害賠償を求めることができる。

これとは別に、契約関係がないが、耐震強度の書類を偽造した建築士はもちろん、施工業者、設計業者、場合によっては民間検査会社などの関係業者に対しても、書類偽造へのチェックの不十分などの過失が立証できれば、民法の共同不法行為(民法709条、第719条第1項前段)を理由に損害賠償を求めることも可能である。 

購入者への救済とは言えないが、民事上の責任とは別に、建築基準法違反の刑事責任、建築士法、宅建業法、建設業法に基づく行政処分もある。

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○瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん) 
この事件では、大量の法律問題が発生するであろうが、まず基本的に問題となるのは、マンション販売者と購入者、施主と請負業者との法律関係であろう。本件では、売主には売買契約における瑕疵担保責任が、請負業者には請負契約における瑕疵担保責任が生じる。

○売買契約の瑕疵担保責任
これは、分かりやすくいえば、売った物に隠れた欠陥(隠れたる瑕疵(かし))がある場合に、買主は売主に対して契約の解除や損害賠償の請求ができることをいい、民法570条に根拠がある。

民法
(売主の瑕疵担保責任)
第570条 売買ノ目的物ニ隠レタル瑕疵アリタルトキハ第566条ノ規定ヲ準用ス但強制競売ノ場合ハ此限ニ在ラス
(用益的権利による制限がある場合の売主の担保責任)
第566条 売買ノ目的物カ地上権、永小作権、地役権、留置権又ハ質権ノ目的タル場合ニ於テ買主カ之ヲ知ラサリシトキハ之カ為ニ契約ヲ為シタル目的ヲ達スルコト能ハサル場合ニ限リ買主ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得其他ノ場合ニ於テハ損害賠償ノ請求ノミヲ為スコトヲ得
2 前項ノ規定ハ売買ノ目的タル不動産ノ為メニ存セリト称セシ地役権カ存セサリシトキ及ヒ其不動産ニ付キ登記シタル賃貸借アリタル場合ニ之ヲ準用ス
3 前二項ノ場合ニ於テ契約ノ解除又ハ損害賠償ノ請求ハ買主カ事実ヲ知リタル時ヨリ一年以内ニ之ヲ為スコトヲ要ス

○売買契約における570条の瑕疵担保責任は、用益的権利による制限がある場合の売主の担保責任を定めた566条を準用する。これを読み替えると、次のようになる。
@契約解除
売買の目的物に隠れたる瑕疵ありたるときは、そのために契約をなしたる目的を達することができない場合に限り買主は契約の解除をなすことができる。
A損害賠償
上記@の場合は、契約の解除とともに損害賠償ができる。@以外の場合(契約をなしたる目的を達することができない場合以外)においては、損害賠償請求のみができる。
B権利行使期間(除斥期間) 
この場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時より1年以内にこれをなすことを要する。

○「隠れたる瑕疵」とは
隠れたる瑕疵とは、買主が瑕疵を知らず又は知り得なかった瑕疵をいう。売主より告げられていた瑕疵や、自身が知っている瑕疵、さらに普通の注意をしていれば知り得た瑕疵は、ここでいう「隠れたる瑕疵」にはあたらない。また、この「瑕疵」は売買契約締結時に存在していたことが必要となる。したがって、売買目的物の引渡し後に生じたような瑕疵や、耐用年数が切れたことによる瑕疵については、瑕疵担保責任は問えない。この売主の責任は無過失責任である。

○消滅時効
瑕疵担保責任の時効について、最高裁判所は、平成13年11月27日損害賠償請求事件判決で、瑕疵担保による損害賠償請求権は引渡しの日から10年で消滅時効にかかるとした。これは、買主が事実を知った時より1年以内とした権利行使期間は、「買主が事実を知った時」を権利行使開始時期としたもので、事実を知らないままで長期を経過した場合でもこの1年の権利行使期限は過ぎないが、引渡しの日から10年すれば、消滅時効にかかるとしたものである。


○瑕疵担保責任とアフターサービスの違い
瑕疵担保責任は、民法などの法律によって売主が当然にう法定の責任で、売買契約締結当時の目的物に隠れた瑕疵があった場合に限り、特約がない限り原則として買主が瑕疵を発見してから1年間負う責任である。
これに対して、アフターサービスとは、売買契約の際にアフターサービスを行う旨の約定をしたことによってはじめて売主が負う約定の責任で、契約で定めた期間内に生じた瑕疵に限って、約定の期間内において責任を負うものである。通常は、隠れた瑕疵に限定せずに、部位別に期間を定めるのが一般的である。

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○宅地建物取引業者が売主の場合の特約
宅地建物取引業者が売主の場合については、宅地建物取引業法第40条で、権利行使期間に関する特約についての規定がある。宅地建物取引業者が売主の場合、その目的物の瑕疵担保責任の期間について、引渡しの日から2年以上となる特約をする場合を除き、民法に規定するものより買主に不利となる特約をすることはできないこととなっている。例えば、瑕疵担保責任の期間を引渡しの日から1年とする特約をつけた場合、この特約は無効となる。 

宅地建物取引業法
(瑕疵担保責任についての特約の制限)
第40条
宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又建物の売買契約において、その目的物の瑕疵を担保すべき責任に関し、民法第570条において準用する同法第566条第3項に規定する期間についてその目的物の引渡しの日から2年以上となる特約をする場合を除き、同条に規定するものより買主に不利となる特約をしてはならない。
2 前項の規定に違反する特約は、無効とする。

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○住宅の品質確保と促進等に関する法律
良質な住宅を安心して取得できる住宅市場の条件整備と活性化を目指して、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(平成11年法律第81号)(略称「住宅品質確保法」「品確法」)が平成12年4月1日から施行された。

同法の柱は、@新築住宅の契約に関する瑕疵保証制度の充実、A住宅性能表示制度の創設の2本である。

新築住宅の瑕疵担保責任に関する特例(品確法)
品確法では、新築住宅の取得における瑕疵担保責任に特例を設け、新築住宅の取得契約(請負及び売買で平成12年4月1日以降の契約分)において、基本構造部分(基礎、柱、梁、床、屋根等柱の住宅の構造耐力上主要な部分、雨水の浸入を防止する部分)について10年間の瑕疵担保責任(修補請求権等)が義務づけられた。新築住宅の取得契約(請負・売買)において、基本構造部分以外も含めた瑕疵担保責任が、特約を結べば20年まで伸長可能になる。

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○自治体の損害賠償問題
今回のマンションの耐震性偽造問題では、自治体の損害賠償問題も議論されるであろう。

この点について、最高裁判所は、平成17年06月24日決定において、「指定確認検査機関の確認に係る建築物について確認をする権限を有する建築主事が置かれた地方公共団体は、指定確認検査機関の当該確認につき行政事件訴訟法21条1項所定の『当該処分又は裁決に係る事務の帰属する国又は公共団体』に当たる」とした。つまり、民間の指定確認検査機関が行った建築確認は、自治体が行ったものとみなすとの決定を出したのである。今回の事態においては、自治体も賠償を求められたら、責任を負わされる可能性がある。 (判例は下記に引用)

建築確認の民間代行は、1998年の建築基準法改正で認められた制度である。国土交通相が認定した検査機関が99年から構造計算書の検査などを代行し、確認済み証を発行する。自治体は、この検査機関から建築主名などを記載した建築計画概要書を受け取る仕組みになっている。

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○瑕疵担保による損害賠償請求権には消滅時効の規定の適用があるとした最高裁判所判決
(民法167条1項,民法566条3項,民法570条)

平成13年11月27日最高裁判所第三小法廷判決
(平成10(オ)773 )損害賠償請求事件

主 文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理 由
上告代理人秋山昭一の上告理由第二,一について
1 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 昭和48年2月18日,被上告人は,上告人から,第1審判決添付物件目録一記載の土地(以下「本件宅地」という。)及びその地上建物等を買い受け,その代金を支払った。同年5月9日,本件宅地につき上告人から被上告人への所有権移転登記がされ,そのころ,被上告人は上告人からその引渡しを受けた。
(2) 本件宅地の一部には,柏市昭和47年10月27日第157号をもって道路位置指定がされている。このため,本件宅地上の建物の改築に当たり床面積を大幅に縮小しなければならないなどの支障が生ずるので,道路位置指定がされていることは,民法570条にいう「隠レタル瑕疵」に当たる。
 (3) 被上告人は,平成6年2月ないし3月ころ,上記道路位置指定の存在を初めて知り,同年7月ころ,上告人に対し,道路位置指定を解除するための措置を講ずるよう求め,それができないときは損害賠償を請求する旨を通知した。

2 本件は,被上告人が上告人に対して瑕疵担保による損害賠償を求めた事案である。上告人は,被上告人の損害賠償請求権は時効により消滅したと主張し,本訴において消滅時効を援用した。原審は,次のとおり判示して上告人の消滅時効の抗弁を排斥し,被上告人の損害賠償請求を一部認容した。
売主の瑕疵担保責任は,法律が買主の信頼保護の見地から特に売主に課した法定責任であって,売買契約上の債務とは異なるから,これにつき民法167条1項の適用はない。また,同法570条,566条3項が除斥期間を定めているのは,責任の追及を早期にさせて権利関係を安定させる趣旨を含むものであるが,他方で,その期間の起算点を「買主カ事実ヲ知リタル時」とのみ定めていることは,その趣旨が権利関係の早期安定だけでないことを示しているから,瑕疵担保による損害賠償請求権に同法167条1項を準用することも相当でない。このように解さないと,買主が瑕疵の存在を知っているか否かを問わずに損害賠償請求権の時効消滅を認めることとなり,買主に対し売買の目的物を自ら検査して瑕疵を発見すべき義務を負わせるに等しく,必ずしも公平といえない。

3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 買主の売主に対する瑕疵担保による損害賠償請求権は,売買契約に基づき法律上生ずる金銭支払請求権であって,これが民法167条1項にいう「債権」に当たることは明らかである。この損害賠償請求権については,買主が事実を知った日から1年という除斥期間の定めがあるが(同法570条,566条3項),これは法律関係の早期安定のために買主が権利を行使すべき期間を特に限定したものであるから,この除斥期間の定めがあることをもって,瑕疵担保による損害賠償請求権につき同法167条1項の適用が排除されると解することはできない。さらに,買主が売買の目的物の引渡しを受けた後であれば,遅くとも通常の消滅時効期間の満了までの間に瑕疵を発見して損害賠償請求権を行使することを買主に期待しても不合理でないと解されるのに対し,瑕疵担保による損害賠償請求権に消滅時効の規定の適用がないとすると,買主が瑕疵に気付かない限り,買主の権利が永久に存続することになるが,これは売主に過大な負担を課するものであって,適当といえない。
したがって,瑕疵担保による損害賠償請求権には消滅時効の規定の適用があり,この消滅時効は,買主が売買の目的物の引渡しを受けた時から進行すると解するのが相当である。
(2) 本件においては,被上告人が上告人に対し瑕疵担保による損害賠償を請求したのが本件宅地の引渡しを受けた日から21年余りを経過した後であったというのであるから,被上告人の損害賠償請求権については消滅時効期間が経過しているというべきである。

4 以上によれば,消滅時効の抗弁を排斥した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,その余の論旨について判断するまでもなく,原判決は破棄を免れない。そして,上告人による消滅時効の援用が権利の濫用に当たるとの被上告人の再抗弁等について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 金谷利廣 裁判官 千種秀夫 裁判官 奥田昌道 裁判官 濱田邦夫)

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○指定確認検査機関の確認に係る建築物について確認をする権限を有する建築主事が置かれた地方公共団体は,指定確認検査機関の当該確認につき行政事件訴訟法21条1項所定の「当該処分又は裁決に係る事務の帰属する国又は公共団体」に当たるとした最高裁判例

最高裁判所平成17年06月24日第二小法廷決定
平成16年(行フ)第7号 訴えの変更許可決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件

主 文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
         
理 由

抗告代理人栗田誠之の抗告理由について
1 記録によれば,本件の経緯は次のとおりである。
株式会社東京建築検査機構(以下「本件会社」という。)は,建築基準法77条の18から77条の21までの規定の定めるところにより同法6条の2第1項所定の指定を受けた者(以下「指定確認検査機関」という。)である。本件会社は,横浜市内に建築することが計画されていた大規模分譲マンションである本件建築物の計画が建築基準関係規定に適合するものであること等につき同項所定の確認(以下「本件確認」という。)をした。
相手方らは,本件建築物の周辺に居住する者であるが,本件建築物が建築されることによって生命,身体の安全等が害されるなどと主張して,本件会社を被告とする本件確認の取消しを求める訴えを提起した。相手方らは,本件建築物に関する完了検査が終了し,上記訴えの利益が消滅したことから,行政事件訴訟法21条1項の規定に基づいて,上記訴えを,本件確認の違法を原因として抗告人に対する損害賠償を求める訴えに変更することの許可を申し立て,原々審は,これを許可した。
2 建築基準法6条1項の規定は,建築主が同項1号から3号までに掲げる建築物を建築しようとする場合においてはその計画が建築基準関係規定に適合するものであることについて建築主事の確認を受けなければならない旨定めているところ,この規定は,建築物の計画が建築基準関係規定に適合するものであることを確保することが,住民の生命,健康及び財産の保護等住民の福祉の増進を図る役割を広く担う地方公共団体の責務であることに由来するものであって,同項の規定に基づく建築主事による確認に関する事務は,地方公共団体の事務であり(同法4条,地方自治法2条8項),同事務の帰属する行政主体は,当該建築主事が置かれた地方公共団体である。そして,建築基準法は,建築物の計画が建築基準関係規定に適合するものであることについて,指定確認検査機関の確認を受け,確認済証の交付を受けたときは,当該確認は建築主事の確認と,当該確認済証は建築主事の確認済証とみなす旨定めている(6条の2第1項)。また,同法は,指定確認検査機関が確認済証の交付をしたときはその旨を特定行政庁(建築主事を置く市町村の区域については当該市町村の長をいう。2条32号)に報告しなければならない旨定めた(6条の2第3項)上で,特定行政庁は,この報告を受けた場合において,指定確認検査機関の確認済証の交付を受けた建築物の計画が建築基準関係規定に適合しないと認めるときは,当該建築物の建築主及び当該確認済証を交付した指定確認検査機関にその旨を通知しなければならず,この場合において,当該確認済証はその効力を失う旨定めて(同条4項),特定行政庁に対し,指定確認検査機関の確認を是正する権限を付与している。
以上の建築基準法の定めからすると,同法は,建築物の計画が建築基準関係規定に適合するものであることについての確認に関する事務を地方公共団体の事務とする前提に立った上で,指定確認検査機関をして,上記の確認に関する事務を特定行政庁の監督下において行わせることとしたということができる。そうすると,指定確認検査機関による確認に関する事務は,建築主事による確認に関する事務の場合と同様に,地方公共団体の事務であり,その事務の帰属する行政主体は,当該確認に係る建築物について確認をする権限を有する建築主事が置かれた地方公共団体であると解するのが相当である。
したがって,指定確認検査機関の確認に係る建築物について確認をする権限を有する建築主事が置かれた地方公共団体は,指定確認検査機関の当該確認につき行政事件訴訟法21条1項所定の「当該処分又は裁決に係る事務の帰属する国又は公共団体」に当たるというべきであって,抗告人は,本件確認に係る事務の帰属する公共団体に当たるということができる。
また,本件会社は本件確認を抗告人の長である特定行政庁の監督下において行ったものであること,その他本件の事情の下においては,本件確認の取消請求を抗告人に対する損害賠償請求に変更することが相当であると認めることができる。
3 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができ,原決定に所論の違法はない。論旨は採用することができない。よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 福田 博 裁判官 滝井繁男 裁判官 津野 修 裁判官 今井 功 裁判官 中川了滋)


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○この事件が公表される直前の11月11日、折りしも日本弁護士連合会人権擁護大会で、安全な住宅に居住する権利を確保するための法整備・施策を求める決議がなされている。

○日本弁護士連合会人権擁護大会決議(2005年11月11日)
安全な住宅に居住する権利を確保するための法整備・施策を求める決議

1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災においては、死者6400余名の8割近くが建物等の倒壊による圧死であった。しかも、その後の調査で、倒壊した建物の大半が「新耐震基準」が施行された1981年以前の建築物であり、また、築年数を問わず建物の構造安全性に問題がある住宅も少なからず存在したことが判明した。阪神・淡路大震災の後も、鳥取県西部地震(2000年10月)、新潟県中越地震(2004年10月)、福岡県西方沖地震(2005年3月)、宮城県沖地震(2005年8月)等の震度6以上の地震が多発し、さらなる大規模地震の発生も予測されている。
一方、この10年の間に、建築物の耐震改修の促進に関する法律の制定(1995年)、建築基準法の大改正(1998年)、住宅の品質確保の促進等に関する法律の制定(1999年)その他の諸改革がなされてきたことは事実である。しかし、現在も、建築基準法が定める最低限の安全基準にも達しない「欠陥住宅」が多数生み出されており、また、建築当時の建築基準法には適合していたが法改正によって現行の耐震基準には適合しなくなった「既存不適格住宅」が全体の約25%にあたる約1150万戸も存在すると推計されている。このような現状では、我が国において住宅の安全性が確立されたとは到底いえず、その意味で、この10年間の法整備や諸改革は、いまだ途上といわざるをえない。
 住宅は、地震等の外力から人間の生命・身体を守る器であり、生活の基盤となる。安全な住宅が確保されなければ、個人の尊厳や幸福追求の基盤が損なわれ、健康で文化的な最低限度の生活を営むこともできない。
地震大国である我が国においては、住宅の安全性は全国民の問題であり(被害の普遍性)、しかも地震による建物倒壊被害が高度の蓋然性をもって予測される以上(危険の切迫性)、地震による建物倒壊で生命・身体が侵害される危険は一日も早く除去されなければならない(被害回避の緊急性)。すなわち、国民にとって「安全な住宅に居住する権利」が確保されなければならない。これは、憲法13条、25条に基づく基本的人権であり、また、世界人権宣言3条、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約11条1項に関する一般的意見第4号からも裏付けられるものである。
そこで、当連合会は、既存不適格住宅を含むすべての欠陥住宅をなくして、安全な住宅に居住する権利を確保するため、国に対し、下記のような法整備・施策の実現を求め、ここに決議する。
 


安全な住宅に居住する権利が基本的人権であることを宣言し、関係者の責務や安全な住宅の確保のための基本的施策を定める「住宅安全基本法」(仮称)を制定すること。 

建築士の監理機能の回復のために、建築基準法、建築士法の改正を含め、建築士について、その資質向上を図り、かつ、施工者からの独立性を担保するための具体的措置を講ずること。 

建築確認、中間検査、完了検査制度の徹底及びその適正性確保のため、一層の制度改善を図ること。 
建築物の耐震改修の促進に関する法律を改正し、住宅を含め耐震基準を満たさない建物について、耐震改修促進のための施策を充実させること。 

2005年(平成17年)11月11日
日本弁護士連合会
                                            弁護士 三木秀夫

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