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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
グレーゾーン金利を最高裁が実質的否定(2006年01月13日)貸金業法43条
○ローンの分割返済が遅れた場合、貸し手が残額の一括払いを請求できる融資特約をめぐる訴訟の上告審判決で、最高裁第二小法廷(中川了滋(なかがわ・りょうじ)裁判長)は13日、「特約は事実上の強制で、利息制限法の上限を超える金利分は無効」と、借り手の支払い義務を否定する初判断を示した。 
 
また支払いを受けた際に交付される書類の法定記載事項を内閣府が府令で簡略化したことにも言及し「貸金業法は内閣府に事項の追加しか委ねておらず、府令は違法」と認定した。 
 
消費者金融など利息制限法と貸金業法の特例との中間に当たる「グレーゾーン金利」の融資で利益を上げている貸金業者のほとんどは、分割払い契約に同様の特約を盛り込んでおり、根本的な見直しを迫られそうだ。 

訴訟は鳥取県の自営業者に年利29%で300万円を融資した事業ローンのシティズ(京都市)が、分割払いの遅れを理由に残額の一括返済を求めて起こした。一審鳥取地裁倉吉支部判決と二審広島高裁松江支部判決はシティズ側の請求を認めたが、中川裁判長は二審判決を破棄。超過金利分の支払いが例外的に認められる「特段の事情」の有無を検討するため、審理を広島高裁に差し戻した。

判決理由で中川裁判長は「特約は、支払いが遅れれば超過金利分も含めた全額を一括返済させられるとの誤解を与える」と指摘。制限利息を超える融資の要件となる「任意の支払い」には当たらないと判断した。
 
貸金業法は書面交付などの要件を満たし、借り手が任意で支払った場合のみ、利息制限法の上限(15―20%)を超える利息を受け取れる「みなし弁済」の規定を設けている。最高裁は2004年2月の判決で、みなし弁済の適用について「厳格に解釈すべきだ」との姿勢を示していた。 
(共同通信2006年1月13日) 

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○最高裁が、画期的な判決を出した。この判決で、ついに消費者金融や商工ローンの業者は、その業務の抜本的改善を迫られるのは必至であろう。

○日本には、まことに奇妙な法律がある。「グレーゾーン金利」を巡る規定がそうである。

貸金業法と利息制限法で定めた上限金利が異なるのである。利息制限法1条1では、10万円未満の貸付については年率20%、100万円未満の貸付については年率18%、100万円以上の貸付については年率15%を超える利息の約定は超過部分について無効であると定めている。一方で、出資法5条2項では29・2%を超える場合を禁止し、違反に刑事罰を課している。

○その間が「グレーゾーン金利」で、消費者金融や商工ローンは、この法のすき間を利用して、刑事罰ぎりぎりの高金利を取ってきた。このため、多くの金融業者から借りて返済不可能となった「多重債務者」は全国で200万人ともいわれ、自己破産、自殺をはじめ、時には犯罪の動機ともなっている。このように、暴利行為は健全な社会を著しく害することは言うまでもない。一定の高利は規制して、違反には厳しく当たるべきことは当然である。しかし、生活や仕事に追われる借り手の切迫した状況に乗じて、圧倒的に力の強い貸手が、借り主の「任意の支払い」の形をとって、利息制限法を有名無実化してきた実態がある。

○しかし、たとえ出資法が許容する範囲内利率で契約した債権であっても、裁判上は、利息制限法1条1項に基いてで計算しなおさなくてはならず、計算した結果、元本は既に消滅したあとにも、業者が弁済金を受け取っていた場合には、過払金として返さなくてはならない。

ところが、これに対して、貸金業法(貸金業規制法)43条で定める「みなし弁済規定」では、貸金業登録をしている貸金業者において、種々の規制を講じる一方、出資法に違反しない金銭消費貸借契約で貸金業法で定められた17条書面、18条書面といった書面の交付がされていれば利息制限法1条1項をこえる任意の弁済も有効な利息の弁済としてみなした。つまり、@債務者が自分の意思で契約した場合で、A債務者に十分な情報が提供された場合、など一定の要件を満たせば、これを「みなし弁済」として例外的に超過利息の徴収を認めている。つまり、「任意の返済なら受け取っても無効とはされない」のである。

○この貸金業法43条の要件はかなり厳しいため、これを活用する貸金業者はそれほど多くはないが、シティズなどの業者はこれを活用してかなり厳しい取立てをしているため、批判が強かった。

この中で、最高裁平成16年2月20日第二小法廷判決において、「法43条1項は、・・・・貸金業者の業務の適正な運営を確保し、資金需要者等の利益の保護を図ること等を目的として貸金業に対する必要な規制等を定める法の趣旨、目的(法1条)等にかんがみると、法43条1項の規定の適用要件については、これを厳格に解釈すべきである」という判断が示された。

また、最近では、「43条違憲論」(茆原正道・消費者法ニュース別冊)という論文も出た。この論文は森泉章・青山学院大学名誉教授などからも支持を得つつある(「消費者法ニュース」No.61(2004年10月号))。 

○これに対しての今回の最高裁判所平成18年01月13日第二小法廷判決は、消費者金融大手「アイフル」傘下の商工ローン会社「シティズ」が、鳥取県内の債務者と連帯保証人に、年利29%で貸し付けた残額の約190万円の支払いを請求した事案に対して、シティズが、契約の際に約定金利の支払いを怠った際には一括返済を義務づける特約を付していたことについて、「一括返済を避けたい債務者に対し、超過利息での分割返済を事実上強制していることになる」と指摘し、この場合は「任意」とは認められないから、徴収は違法と結論づけたのである。利息制限法こそが原則であることを最高裁が示した判決で、大いに評価される。

○ちなみに、この訴訟では、1、2審はシティズの請求を認めて全額の支払いを命じていた。最高裁は、最近、こういう原判決破棄判決が目立っている。

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○利息制限法
(利息の最高限)
第1条  金銭を目的とする消費貸借上の利息の契約は、その利息が左の利率により計算した金額をこえるときは、その超過部分につき無効とする。
元本が10万円未満の場合          年2割
元本が10万円以上100万円未満の場合  年1割8分
元本が100万円以上の場合         年1割5分

○出資法(出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律)
(高金利の処罰)
第5条  
2 前項の規定にかかわらず、金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、年29.2パーセント(2月29日を含む1年については年29.28パーセントとし、1日当たりについては0.08パーセントとする。)を超える割合による利息の契約をしたときは、5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

○貸金業法(貸金業の規制等に関する法律)
(任意に支払つた場合のみなし弁済)
第43条  貸金業者が業として行う金銭を目的とする消費貸借上の利息(利息制限法(昭和二十九年法律第百号)第3条の規定により利息とみなされるものを含む。)の契約に基づき、債務者が利息として任意に支払つた金銭の額が、同法第1条第1項 に定める利息の制限額を超える場合において、その支払が次の各号に該当するときは、当該超過部分の支払は、同項の規定にかかわらず、有効な利息の債務の弁済とみなす。(以下略)


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○この最高裁判決では、支払いを受けた際に交付される書類の法定記載事項についても、重要な判断をした。

返済の度に債務者に渡さなければならない受領証について、貸金業法が、債務者がどの借金を返しているのか分かるように、契約日や金額を書くことを求めているのに対し、内閣府令(貸金業法施行規則)で契約番号だけでいいとして簡略化したことにも触れ、その内閣府令について「貸金業法は内閣府に事項の追加しか委ねておらず違法」として、この内閣府令の規定を無効とした。

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○最高裁判所平成18年01月13日第二小法廷判決
平成16年(受)第1518号貸金請求事件
(最高裁判所ホームページ判決速報より)

主 文
原判決を破棄する。
本件を広島高等裁判所に差し戻す。
         
理 由

第1 事案の概要
1 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
(1) 被上告人は、貸金業の規制等に関する法律(以下「法」という。)3条所定の登録を受けた貸金業者である。
(2) 被上告人は、平成12年7月6日、上告人Y1に対し、300万円を、次の約定で貸し付け(以下「本件貸付け」という。)、上告人Y2は、同日、被上告人に対し、上告人Y1の本件貸付けに係る債務について連帯保証をした。
ア 利息 年29%(年365日の日割計算)
イ 遅延損害金 年29.2%(年365日の日割計算)
ウ 返済方法 平成12年8月から平成17年7月まで毎月20日に60回にわたって元金5万円ずつを経過利息と共に支払う。
エ 特約 上告人Y1は、元金又は利息の支払を遅滞したときには、当然に期限の利益を失い、被上告人に対して直ちに元利金を一時に支払う(以下「本件期限の利益喪失特約」という。)。
(3) 被上告人は、本件貸付けに係る契約を締結した際に、上告人Y1に対し、「貸付及び保証契約説明書」及び「償還表」と題する書面を交付した。
貸付及び保証契約説明書には、利息の利率を利息制限法1条1項所定の制限利率を超える年29%とする約定が記載された後に、本件期限の利益喪失特約につき、「元金又は利息の支払いを遅滞したとき(中略)は催告の手続きを要せずして期限の利益を失い直ちに元利金を一時に支払います。」と記載され、期限後に支払うべき遅延損害金の利率を同法4条1項所定の制限利率を超える年29.2%とする約定が記載されていた。
(4) 上告人Y1は、被上告人に対し、本件貸付けに係る債務の弁済として、第1審判決別紙元利金計算書の「入金日」欄記載の各年月日に「入金額」欄記載の各金額を支払った(以下、これらの各支払を「本件各弁済」と総称する。)。
被上告人は、上告人Y1に対し、本件各弁済の都度、直ちに「領収書兼利用明細書」と題する書面(以下「本件各受取証書」という。)を交付した。
本件各受取証書には、貸金業の規制等に関する法律施行規則(昭和58年大蔵省令第40号。以下「施行規則」という。)15条2項に基づき、法18条1項2号所定の契約年月日の記載に代えて、契約番号が記載されていた。
2 本件は、被上告人が、本件各弁済には法43条1項又は3項の規定が適用されるから、利息制限法1条1項又は4条1項に定める利息又は賠償額の予定の制限額を超える部分の支払も有効な債務の弁済とみなされるなどと主張して、上告人らに対し、本件貸付けの残元本189万4369円及び遅延損害金の支払を求める事案である。

3 原審は、本件各弁済には法43条1項又は3項の規定が適用されるとして、被上告人の請求を全部認容すべきものとした。
 
第2 上告代理人山口利明の上告受理申立て理由二(1)について
後記第4の2(2)のとおり、本件期限の利益喪失特約のうち、上告人Y1が支払期日に利息制限法1条1項所定の利息の制限額(以下、単に「利息の制限額」という。)を超える部分(以下「制限超過部分」という。)の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は無効であり、上告人Y1は、支払期日に約定の元本及び利息の制限額を支払いさえすれば、期限の利益を喪失することはなく、支払期日に約定の元本又は利息の制限額の支払を怠った場合に限り、期限の利益を喪失するものと解するのが相当である。
しかしながら、法17条1項が、貸金業者につき、貸付けに係る契約を締結したときに、同項各号に掲げる事項についてその契約の内容を明らかにする書面をその相手方に対して交付すべき義務を定めた趣旨は、貸付けに係る合意の内容を相手方に正確に知らしめることによって、後日になって当事者間にその内容をめぐって紛争が発生するのを防止することにあると解される。したがって、法17条1項及びその委任に基づき定められた施行規則13条1項は、飽くまでも当事者が合意した内容を正確に記載することを要求しているものと解するのが相当であり、当該合意が法律の解釈適用によって無効又は一部無効となる場合についても同様と解される。
そうすると、上告人Y1と被上告人が合意した本件期限の利益喪失特約の内容を正確に記載している貸付及び保証契約説明書は、法17条1項8号(平成12年法律第112号による改正前のもの)、施行規則13条1項1号ヌ(平成12年総理府令第148号による改正前のもの)所定の「期限の利益の喪失の定めがあるときは、その旨及びその内容」の記載に欠けるところはないというべきである。
以上と同旨の原審の判断は正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

第3 同二(2)について
1 原審の判断は、次のとおりである。
施行規則15条2項は、貸金業者は、法18条1項の規定により交付すべき書面を作成するときは、当該弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもって、同項2号所定の契約年月日の記載に代えることができる旨規定しているのであり、契約年月日の記載がなくとも、契約番号の記載により、弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を特定するのに不足することはないから、契約年月日の記載に代えて契約番号が記載された本件各受取証書は、法18条1項所定の事項の記載に欠けるところはない。
2 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1) 法18条1項が、貸金業者は、貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときは、同項各号に掲げる事項を記載した書面を当該弁済をした者に交付しなければならない旨を定めているのは、貸金業者の業務の適正な運営を確保し、資金需要者等の利益の保護を図るためであるから、同項の解釈にあたっては、文理を離れて緩やかな解釈をすることは許されないというべきである。
同項柱書きは、「貸金業者は、貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときは、その都度、直ちに、内閣府令で定めるところにより、次の各号に掲げる事項を記載した書面を当該弁済をした者に交付しなければならない。」と規定している。そして、同項6号に、「前各号に掲げるもののほか、内閣府令で定める事項」が掲げられている。
同項は、その文理に照らすと、同項の規定に基づき貸金業者が貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときに当該弁済をした者に対して交付すべき書面(以下「18条書面」という。)の記載事項は、同項1号から5号までに掲げる事項(以下「法定事項」という。)及び法定事項に追加して内閣府令(法施行当時は大蔵省令。後に、総理府令・大蔵省令、総理府令、内閣府令と順次改められた。)で定める事項であることを規定するとともに、18条書面の交付方法の定めについて内閣府令に委任することを規定したものと解される。したがって、18条書面の記載事項について、内閣府令により他の事項の記載をもって法定事項の記載に代えることは許されないものというべきである。
(2) 上記内閣府令に該当する施行規則15条2項は、「貸金業者は、法第18条第1項の規定により交付すべき書面を作成するときは、当該弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもって、同項第1号から第3号まで並びに前項第2号及び第3号に掲げる事項の記載に代えることができる。」と規定している。この規定のうち、当該弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもって、法18条1項1号から3号までに掲げる事項の記載に代えることができる旨定めた部分は、他の事項の記載をもって法定事項の一部の記載に代えることを定めたものであるから、内閣府令に対する法の委任の範囲を逸脱した違法な規定として無効と解すべきである。
(3) 以上と異なる見解に立って、法18条1項2号所定の契約年月日の記載に代えて契約番号が記載された本件各受取証書は、同項所定の事項の記載に欠けるところはないとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。

第4 同二(3)について
1 原審の判断は、次のとおりである。
貸金業者において法43条1項の規定に基づき取得を容認され得る約定利息の支払を債務者が怠った場合に期限の利益を喪失する旨の合意は、何ら不合理なものとはいえず、また、債務者が、この合意により、約定利息の支払を強制されることになるということはできないから、上告人Y1のした利息の制限額を超える額の金銭の支払は、同項にいう「利息として任意に支払った」ものということができる。
2 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1) 法43条1項は、貸金業者が業として行う金銭消費貸借上の利息の契約に基づき、債務者が利息として支払った金銭の額が、利息の制限額を超える場合において、貸金業者が、貸金業に係る業務規制として定められた法17条1項及び18条1項所定の各要件を具備した各書面を交付する義務を遵守しているときには、その支払が任意に行われた場合に限って、例外的に、利息制限法1条1項の規定にかかわらず、制限超過部分の支払を有効な利息の債務の弁済とみなす旨を定めている。貸金業者の業務の適正な運営を確保し、資金需要者等の利益の保護を図ること等を目的として貸金業に対する必要な規制等を定める法の趣旨、目的(法1条)等にかんがみると、法43条1項の規定の適用要件については、これを厳格に解釈すべきである(最高裁平成14年(受)第912号同16年2月20日第二小法廷判決・民集58巻2号380頁、最高裁平成15年(オ)第386号、同年(受)第390号同16年2月20日第二小法廷判決・民集58巻2号475頁参照)。
そうすると、法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」とは、債務者が利息の契約に基づく利息の支払に充当されることを認識した上、自己の自由な意思によってこれを支払ったことをいい、債務者において、その支払った金銭の額が利息の制限額を超えていることあるいは当該超過部分の契約が無効であることまで認識していることを要しないと解される(最高裁昭和62年(オ)第1531号平成2年1月22日第二小法廷判決・民集44巻1号332頁参照)けれども、債務者が、事実上にせよ強制を受けて利息の制限額を超える額の金銭の支払をした場合には、制限超過部分を自己の自由な意思によって支払ったものということはできず、法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきである。
(2) 本件期限の利益喪失特約がその文言どおりの効力を有するとすると、上告人Y1は、支払期日に制限超過部分を含む約定利息の支払を怠った場合には、元本についての期限の利益を当然に喪失し、残元本全額及び経過利息を直ちに一括して支払う義務を負うことになる上、残元本全額に対して年29.2%の割合による遅延損害金を支払うべき義務も負うことになる。このような結果は、上告人Y1に対し、期限の利益を喪失する等の不利益を避けるため、本来は利息制限法1条1項によって支払義務を負わない制限超過部分の支払を強制することとなるから、同項の趣旨に反し容認することができず、本件期限の利益喪失特約のうち、上告人Y1が支払期日に制限超過部分の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は、同項の趣旨に反して無効であり、上告人Y1は、支払期日に約定の元本及び利息の制限額を支払いさえすれば、制限超過部分の支払を怠ったとしても、期限の利益を喪失することはなく、支払期日に約定の元本又は利息の制限額の支払を怠った場合に限り、期限の利益を喪失するものと解するのが相当である。
そして、本件期限の利益喪失特約は、法律上は、上記のように一部無効であって、制限超過部分の支払を怠ったとしても期限の利益を喪失することはないけれども、この特約の存在は、通常、債務者に対し、支払期日に約定の元本と共に制限超過部分を含む約定利息を支払わない限り、期限の利益を喪失し、残元本全額を直ちに一括して支払い、これに対する遅延損害金を支払うべき義務を負うことになるとの誤解を与え、その結果、このような不利益を回避するために、制限超過部分を支払うことを債務者に事実上強制することになるものというべきである。
したがって、本件期限の利益喪失特約の下で、債務者が、利息として、利息の制限額を超える額の金銭を支払った場合には、上記のような誤解が生じなかったといえるような特段の事情のない限り、債務者が自己の自由な意思によって制限超過部分を支払ったものということはできないと解するのが相当である。
そうすると、本件において上記特段の事情の存否につき審理判断することなく、上告人Y1が任意に制限超過部分を支払ったとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。

第5 結論
以上のとおりであるから、原判決を破棄し、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中川了滋 裁判官 滝井繁男 裁判官 津野 修 裁判官 今井 功 裁判官 古田佑紀)
                                            弁護士 三木秀夫

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