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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
小嶋社長衆院証人喚問で証言拒絶が30回(2006年01月18日)議院証言法
○「その件に関しましては証言を控えさせていただきます」。耐震強度偽装事件をめぐる17日の衆院国土交通委員会で、証人として喚問されたヒューザーの小嶋進社長は繰り返し口にした。姉歯秀次元建築士の偽装を知ったのはいつで、社内ではどう対応したのか。偽装に気づきながらマンションを売ったのではないか。同社をめぐる疑問はさっぱり解明されず、傍聴した住民たちは怒りを新たにした。 
 
小嶋社長は昨年10月、偽装を知りながらそれを隠して売買契約を交わし、重要事項の告知を義務付けた宅地建物取引業法に違反した疑いがもたれている。この点について小嶋社長は喚問の冒頭に「違法性があったという認識はございません」と明言した。 
 
しかし、その後は訴追の恐れなどを理由に証言拒否を連発。質問に対して答えるのを拒んだ回数は30回近くに上り、質問した議員たちは「テレビではしゃべるのに、国会ではなぜしゃべれないのか」などといらだった。 
 
小嶋社長は後ろに控えた補佐人の鶴見俊男弁護士に助言を求め続ける。理事たちは林幹雄委員長のもとに何度も集まり、林委員長は小嶋社長と鶴見弁護士が話している間は質問の残り時間の計時を止めるよう指示した。 (2006年01月18日 asahi.com)

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○あのヒューザーの小嶋社長が、衆院国土交通委員会で、証人として喚問された。

○証人喚問は、日本国憲法第62条で衆参両院に認められた国政調査権を行使するため、強制力を持って証人の出頭や証言を要求できる制度である。

日本国憲法
第62条  両議院は、各々国政に関する調査を行ひ、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。

○参考人招致の場合は任意の出頭によるが、証人喚問は、議院証言法(議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律)7条1項により、正当な理由なく出頭や証言を拒否すれば1年以下の禁固または10万円以下の罰金となる。

議院証言法
第七条  正当の理由がなくて、証人が出頭せず、現在場所において証言すべきことの要求を拒み、若しくは要求された書類を提出しないとき、又は証人が宣誓若しくは証言を拒んだときは、一年以下の禁錮又は十万円以下の罰金に処する。

また、虚偽の証言をすれば偽証罪(刑法169条)で3月以上10年以下の懲役となる。なお、この罪は故意犯(虚偽と認識していて偽証すること)のみを罰するため、現在の記憶の通りに証言したが、結果としてその証言内容が事実と違っていても、その場合は罪には問えない。

刑法
(偽証)
第169条  法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは、3月以上10年以下の懲役に処する。

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○偽証罪のこともあってか、小嶋社長は、それまでのマスコミの前や参考人招致の際の冗舌な発言から一転して、偽装を知りながらそれを隠して売買契約を交わしたという宅地建物取引業法に違反(重要事項の不告知)の疑いに対しては、冒頭に「違法性があったという認識はございません」と明言したが、それ以外は、かなり慎重な言い回しを重ねた。

さらに後半からは、「訴追の恐れ」などを理由に「証言を拒否したい」との発言を連発し、その回数は30回近くに上った。

これに対して、国会議員やマスコミは、こぞってこれを批判している。なかには、補佐人の弁護士の対応批判も多く、補佐人不要論も出ている。確かに、この証言を固唾を呑んで聞いていた者にとっては、消化不良の感を抱いたと言ってもおかしくない。ましてや、偽装マンションを買わされた住民にとっては、疑問がさらに深まるばかり、怒りを新たにしたのではなかろうか。 

○ただ、この証言拒否権は、刑事事件における黙秘権や証言拒絶権に由来し、議院証言法4条1項により、証人に明確に認められた権利である。つまり、証人は、自己又は配偶者、三親等内の血族若しくは二親等内の姻族又は自己とこれらの親族関係があった者が、刑事訴追を受け、または有罪判決を受けるおそれのあるときは、宣誓、証言又は書類の提出を拒むことができる。

議院証言法
第四条  証人は、自己又は次に掲げる者が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのあるときは、宣誓、証言又は書類の提出を拒むことができる。
一  自己の配偶者、三親等内の血族若しくは二親等内の姻族又は自己とこれらの親族関係があつた者

○また、小嶋証人の隣に位置して、アドバイスを求められ答える補佐人は、議院証言法1条の4で認められたもので、証人が招致した委員会の委員長の許可を得て、補佐人を弁護士のうちから選任することができる。その点でも、補佐人が付くこと自体に何ら問題はない。激怒する議員は、これらのことは十分に承知のはずで、その権利行使そのものを否定するような発言は本来はおかしいのである。

議院証言法
第一条の四  証人は、各議院の議長若しくは委員長又は両議院の合同審査会の会長の許可を得て、補佐人を選任することができる。
2  補佐人は、弁護士のうちから選任するようにするものとする。

○ただし、そういった観点から慎重に考えてみても、今回の証言拒絶には、いくつかの疑問はある。

証人が証言を拒絶する場合は、議院証言法4条3項により、拒否の事由を示さなければならない。

議院証言法4条3項
3 証人は、宣誓、証言又は書類の提出を拒むときは、その事由を示さなければならない。

証言拒絶の正当な理由がない場合には、議院証言法7条によって、正当の理由がなくて証言を拒んだものとして、1年以下の禁錮または10万円以下の罰金に処される。この点で、証言拒絶をした質問との関係で、果たしてこの正当な拒絶理由の説明があったと言えるのであろうか。

この点、補佐人となった鶴見弁護士は、喚問終了後の記者会見で、小嶋証人の証言拒否について、捜査機関が小嶋氏を偽証容疑で逮捕、起訴を準備しているという有力な情報が直前にあったことをあげ、偽証罪に問われることを恐れての証言拒否であると説明をした。偽証罪というのは「記憶に反すること」を証言することであり、「記憶に反すること」を言わなければ罪には問われないのである。記憶の範囲で答えながら「偽証罪での訴追を恐れる」という論理が通れば、どのような場合でも証言拒否が可能となってしまいかねない。

○また、補佐人の権限は、「証人の求めに応じ、宣誓及び証言の拒絶に関する事項に関し助言することができる」(議院証言法1条の4第3項)にすぎず、証言の内容そのもののアドバイスすることは許容されていない。

議院証言法4条3項
3  補佐人は、証人の求めに応じ、宣誓及び証言の拒絶に関する事項に関し、助言することができる。

この点、証言の様子を見ている限りにおいて、証言の拒絶に関する事項に関する範囲を超えて助言を求め、また助言をしている感がしたのは私だけではないのではなかろうか。

○この点は、さておくとしても、小嶋証人が証言を拒絶したのが、本当に良かったのか、分析が必要であろう。これによって、この証言拒絶の適切さが判断できるのではないか。その観点で拒絶部分を見ると、構造計算書の偽造を知った時期と場所、ヒューザーで開かれた緊急会議での内容、販売中のマンションが耐震偽造であるとの認識をいつ持ったのか、といった部分である。そうしてみれば、まさに事件の核心部分に他ならず、ここで、本当に疑惑がないと考えるならば、明確に事実を示し、否定すべき点は否定すべきではなかったであろうか。この質問に対して証言拒否をするということは、むしろ「否定ができなかった」と推測されてしまいかねない。その点で、補佐人のアドバイスが適切であったかというと、私自身はあまり肯定しかねる。

○ちなみに、ロッキード事件の際に、議院証言法7条1項に規定する証言拒絶罪の成立が認められ、有罪となった事件もある(末尾判例)

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議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律
(昭和二十二年十二月二十三日法律第二百二十五号)

第一条  各議院から、議案その他の審査又は国政に関する調査のため、証人として出頭及び証言又は書類の提出を求められたときは、この法律に別段の定めのある場合を除いて、何人でも、これに応じなければならない。

第一条の二 (略)
第一条の三 (略)

第一条の四  証人は、各議院の議長若しくは委員長又は両議院の合同審査会の会長の許可を得て、補佐人を選任することができる。
2  補佐人は、弁護士のうちから選任するようにするものとする。
3  補佐人は、証人の求めに応じ、宣誓及び証言の拒絶に関する事項に関し、助言することができる。

第一条の五  証人には、宣誓前に、次に掲げる事項を告げなければならない。
一  第四条第一項に規定する者が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのあるときは、宣誓又は証言を拒むことができること。
二  第四条第二項本文に規定する者が業務上委託を受けたため知り得た事実で他人の秘密に関するものについては、宣誓又は証言を拒むことができること。
三  正当の理由がなくて宣誓又は証言を拒んだときは刑罰に処せられること。
四  虚偽の陳述をしたときは刑罰に処せられること。

第二条  各議院若しくは委員会又は両議院の合同審査会が証人に証言を求めるとき(派遣議員等を派遣して証言を求めるときを含む。)は、この法律に別段の定めのある場合を除いて、その前に宣誓をさせなければならない。

第三条  宣誓を行う場合は、証人に宣誓書を朗読させ、且つこれに署名捺印させるものとする。
2  宣誓書には、良心に従つて、真実を述べ、何事もかくさず、又、何事もつけ加えないことを誓う旨が記載されていなければならない。

第四条  証人は、自己又は次に掲げる者が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのあるときは、宣誓、証言又は書類の提出を拒むことができる。
一  自己の配偶者、三親等内の血族若しくは二親等内の姻族又は自己とこれらの親族関係があつた者
二  自己の後見人、後見監督人又は保佐人
三  自己を後見人、後見監督人又は保佐人とする者
2  医師、歯科医師、薬剤師、助産師、看護師、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、公証人、宗教の職にある者又はこれらの職にあつた者は、業務上委託を受けたため知り得た事実で他人の秘密に関するものについては、宣誓、証言又は書類の提出を拒むことができる。ただし、本人が承諾した場合は、この限りでない。
3  証人は、宣誓、証言又は書類の提出を拒むときは、その事由を示さなければならない。

(中略)

第六条  この法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは、三月以上十年以下の懲役に処する。
2  前項の罪を犯した者が当該議院若しくは委員会又は両議院の合同審査会の審査又は調査の終る前であつて、且つ犯罪の発覚する前に自白したときは、その刑を減軽又は免除することができる。

第七条  正当の理由がなくて、証人が出頭せず、現在場所において証言すべきことの要求を拒み、若しくは要求された書類を提出しないとき、又は証人が宣誓若しくは証言を拒んだときは、一年以下の禁錮又は十万円以下の罰金に処する。
2  前項の罪を犯した者には、情状により、禁錮及び罰金を併科することができる。

第八条  各議院若しくは委員会又は両議院の合同審査会は、証人が前二条の罪を犯したものと認めたときは、告発しなければならない。但し、虚偽の証言をした者が当該議院若しくは委員会又は合同審査会の審査又は調査の終る前であつて、且つ犯罪の発覚する前に自白したときは、当該議院は、告発しないことを議決することができる。合同審査会における事件は、両議院の議決を要する。
2  委員会又は両議院の合同審査会が前項の規定により告発するには、出席委員の三分の二以上の多数による議決を要する。

第九条  証人又はその親族に対し、当該証人の出頭、証言又は書類の提出に関し、正当の理由がなくて、面会を強要し、又は威迫する言動をした者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

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昭和54年12月14日東京地方裁判所判決
(昭和54年特(わ)第1218号:判例時報969号136頁)
議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律違反被告事件

主 文
被告人を禁錮五月に処する。
この裁判の確定した日から一年間右刑の執行を猶予する。

理   由
(犯行に至る経緯等)
被告人は、昭和三一年四月、総合商社である日商株式会社(昭和四三年一〇月一日、岩井産業株式会社と合併して「日商岩井株式会社」となる。以下「日商」という)に入社し、主として東京支店の航空機部に所属し、昭和四〇年一二月、同部のボーイング課課長代理となったが、昭和四二年八月一五日に退社し、電子工学製品の販売等を業とする会社に入ってその役員などをしたのち、自ら電機製品の輸出入等を業とする会社を設立してその経営に当っている者である。ところで、被告人は、日商在職中、昭和三九年一〇月ころから、当時同社が販売代理店をしていたマクダネル・ダグラス社製の戦闘機F四Eファントム(以下「F四E」という)を、わが国の第三次防衛力整備計画における戦闘機として売り込む活動に従事したのであるが、日商では右売込のため(当時の)機械第二本部長兼航空機部長海部八郎を中心として、有力政治家に陳情するなど、F四E採用に有利になるよう種々の政治工作を行っていた。こうしたさなかの昭和四〇年七月ころ、被告人は海部から「次期戦闘機について、岸前総理大臣と懇談し、F四Eの輸入、国産化等の確認を得、日商から岸氏にイニシエーションフィーとして二万ドルを支払った」ことなどを内容とする川崎重工業砂野社長あて海部作成名義の一九六五年七月二四日付書簡の投函を依頼されたことがあったが、投函前、仕事上の備忘資料として残すため複写機により右書簡の写しを作成して自らこれを保管し、さらに昭和四一年三月ころ、海部から「岸前総理大臣から松野、福田両氏に対する支払要請があったので、海外の二銀行口座へ合計一、二〇〇万円の送金を依頼する」旨の日商経理部長あて海部作成名義の同月一八日付書面を同部長に届けるよう指示され、これも前同様複写機で複写して写しを自ら保管していた。被告人は、やがて海部との間に感情の行き違いを生じ、海部に対して不信の念を抱くなどのことがあって前記のとおり日商を退社したのであるが、その経緯から海部に強い反感を持ち、日商のF四E売込活動を妨害し海部に打撃を与えようとの意図を生ずるに至り、前記海部の書簡等の内容を公けにしてやろうとの目的で、F四Eの競争機であるロッキード社製CL一〇一〇−二の売込に当っていたロッキード・エアクラフト・インターナショナル社長に右保管していた書簡及び依頼書各写しをさらに複写したものを渡し、さらに、求められるままに知人の雑誌編集者及び政界の黒幕といわれる人物にもこれらの書面写しを渡すなどしたため、これらが「海部メモ」と称されて巷間流布するに至った。また、被告人は、昭和五一年九月ころ、共同通信社記者の取材に応じ、F四Eの売込情況、海部ないし日商と政治家との関係、海部の事務処理の習慣等について話したことがあったが、昭和五四年二月一三日、その談話内容が新聞報道され、右海部メモとともに世間の関心を集めていた。折りから、衆議院予算委員会は、航空機購入予算問題に関し、F四E戦闘機売込情況等の調査に乗り出し、被告人を証人として喚問することに決定したが、当時は、前記F四Eの売込活動が行われてから長期間を経過していたため、当該活動に伴い想定されうる外国為替及び外国貿易管理法(以下「外為法」と略称する)違反等の犯罪行為についてはすでに公訴時効が完成していると考えられ、また、被告人自身、海部メモに記載されている事実の真否については知るところがなく、かつ、売込活動に関連して外為法違反その他の犯罪行為の謀議ないし実行に関与したこともなかったのであるから、被告人は尋問に応じてその知るところを証言しても、これにより自己が刑事上の訴追を受ける可能性はないということができ、なお、F四E売込活動への被告人の関与に関するその他の事情を勘案しても、結局、被告人が証言を拒む正当理由はない情況にあった。
しかるに被告人は、右証人として喚問されるに際し、先ず、前記「海部メモ」について尋問されることを予想するや、あれこれ証言拒絶の方策を検討したうえ、結局証言を拒む正当な理由がない情況にあることを了解し、さらに右共同通信社記者との会見内容についての報道を知りこれについても同様の理解に達したのであるが、もし尋問に応じて証言した場合には、政治的に大きな問題を惹起するのではないかと怖れると共に、自らがその火付け役になるのは何としても避けたいと思い、ついに、自己が外為法違反により刑事上の訴追を受ける可能性があると称して右予想される諸尋問に対し証言を拒絶しようと決意するに至った。

(罪となるべき事実)
被告人は、昭和五四年二月一四日、東京都千代田区永田町所在衆議院予算委員会において、証人として法律により宣誓のうえ証言するに際し、前記のとおり、その証言をすることによって自己が外為法違反により刑事上の訴追を受ける虞がある等、証言を拒む正当な理由は存在しないのにもかかわらず、証言が被告人に対する外為法違反による刑事上の訴追を招く虞があるとして、海部メモと称され巷間出回っている前記川崎重工業社長あて書簡及び日商経理部長あて依頼書の各写しについて、同メモは海部八郎が作成した書面の写しであるかどうか、同メモについての被告人の認識、同メモに記載されている二万ドルの支払の有無及び方法、同メモに記載されている外国銀行への送金の実行者及び相手方の氏名についての各尋問、被告人が前記共同通信社記者の取材に応じて話した海部八郎の事務処理の習慣、同人の特定政治家への接近の経緯及びその政治家との関係、政治家への金の渡し方として海外銀行への送金という方法をとったことの有無、日商が航空機の売込に関して政治家に現金を渡した時期・金額、これを受け取った政治家の氏名及び銀行口座に振り込む方法により金を渡した政治家の氏名・金額・時期、被告人が直接持参して金を渡した政治家の氏名についての各尋問に対してそれぞれ証言を拒み、もって正当な理由がないのに証言を拒んだものである。

(証拠の標目)《略》

(法令の適用)
被告人の判示所為は議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律七条一項に該当するので、所定刑中禁錮刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人を禁錮五月に処し、刑法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から一年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の事情)
本件は、判示F四E戦闘機の売込に際し、日商から特定の政治家に対する金銭の支払やこれら政治家の暗躍があったのではないかとの疑惑の真相を究明するために、国会が予算審議に関する国政調査権発動の一環としてした被告人に対する証人喚問にかかるもので、その尋問事項は右疑惑の中核にも関連し重要である。これに対し被告人は、判示のとおり証言を拒む正当な理由がないのに、そのことを知りながら、単に政治的波紋を惹き起す火付け役になりたくないとの動機により、あえて、右疑惑の有無にかかる主要な各尋問に対する証言をすべて拒絶したものである。そして、判示の経緯に鑑みると、被告人は「海部メモ」流布の原因となる行為に出るなど自ら疑惑の種を蒔いたうえ、その意味で自ら招いたともいえる証人の立場に置かれるや、一転して証言を拒み、このことにより更に事態の混迷を深めたとみることができるのであって、国政調査権の行使を阻害した程度も低くなかったものというべく、しかも、被告人は、本件に至るまで相当期間、証言を避ける方策につき種々検討を重ねていたのである。以上の諸点を総合すればその犯情はかなり重いといわざるを得ず、証言当時、被告人が国民注視の中にあり、尋問に応じて証言すれば、なお次々ときびしい尋問追及の対象となることが予想されたこと、被告人が外国から帰ってその足で国会に赴いて証言に臨み精神的肉体的に疲労していたこと等、当時の被告人をめぐる諸情況を考慮してもなお本件証言拒絶の責任は大きく、これを軽微であると評価することは許されない。
しかし、他方、被告人は本件証人尋問にかかる諸事実につき捜査官にその知るところを供述し、反省の情を示していると認められること、証言拒絶を決意する過程において、証人尋問に対し偽証する事態は避けようと考えたふしがあること、証人喚問に際する前記の諸清況から被告人はかなり追い詰められた心境にあり、この点、或る程度酌むべきものがあること、被告人に前科前歴が全くないこと等の諸般の情状を考え合わせ、被告人に対しては禁錮刑を科することとするが、刑期を五月としたうえ、その執行を一年間猶予するのが相当であると判断した。よって主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岡田光了 裁判官 永山忠彦 木口信之)
                                            弁護士 三木秀夫

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