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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
堀江社長・証取法違反容疑で逮捕(2006年01月23日)偽計取引・風説の流
○ライブドア(東京都港区)グループによる証券取引法違反事件で、東京地検特捜部は23日、同社社長の堀江貴文容疑者(33)ら4人を同法違反(偽計、風説の流布)容疑で逮捕した。関連会社の株価をつり上げる目的で、会社買収発表などで虚偽事実を公表した疑い。特捜部は同日、堀江社長から初めて事情聴取し、虚偽事実の公表が堀江社長らの主導で行われたと判断。今後、グループの粉飾決算疑惑も追及する。株価や東京証券取引所のシステムに大きな影響を与えた事件を受け、堀江社長の辞任は避けられない情勢だ。(毎日新聞 1月24日)

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○堀江貴文社長逮捕の報は、電撃的な家宅捜索以来予想されていたとはいえ、やはり衝撃的であった。堀江社長は、これまで「IT時代の寵児」「改革の体現者」と持ち上げてきた社会において、晴天の霹靂である。まだ、あくまでも逮捕容疑は「容疑」でしかなく、これからの裁判などでの真相究明が必要である。もし容疑が事実であれば、自由経済の根幹を揺るがしかねない重大な事件といえる。ただ、彼がこの2年間に日本中の人を巻き込んで行ってきた行動は、様々な問題を浮き彫りにしてきたもので、良くも悪くも現代社会に必要な存在となっていた点で、少し残念でもある。

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○報道によるかぎりの堀江社長の逮捕容疑は、以下の事実のようである。特捜部は、関連会社の株価をつり上げる目的で、会社買収などの際に虚偽の事実を公表したこれら行為が証券取引法の禁ずる「偽計取引」「風説の流布」に当たると判断したとみられる。
【報道による逮捕容疑】
@「偽計取引」の疑い
・04年10月に
・堀江社長と、財務担当取締役の宮内亮治、ライブドアマーケティング(LDM)社長を兼ねる取締役の岡本文人、ライブドアファイナンス(LDF)社長を兼ねる執行役の中村長也の4人が共謀して
・ライブドアが支配する「VLMA2号投資事業組合」が既に買収済みの情報誌出版会社「マネーライフ社」を、LDM(当時バリュークリックジャパン)が株式交換で子会社化すると04年10月25日に公表した際に
・こうした事情をすべて隠し、(1)バリュー社のインターネット事業に大きな相乗効果が見込めるため子会社化を決めた、(2)1対1の株式交換比率は第三者機関の算出結果を踏まえて決めた、(3)両者間に資本や人的な関係はない、などという虚偽の事実を公表した
A「風説の流布」の疑い
・上記の4人は共謀して
・04年11月に出したLDMの第3四半期の決算短信で
・本当は赤字だったのに、架空売り上げを計上して経常利益7200万円(黒字)などと公表して株価を上げるために市場を欺いた

○ライブドア支配の投資事業組合が持つマネーライフ株と交換するために発行された100分割して発行したLDMの新株16万株(100分割前は1600株)は、このような容疑事実の行為の後、上述の虚偽の黒字決算と、株の100分割の公表により高騰した。そして、同組合が海外のファンドに約8億円で売り抜け、このうち約6億6000万円がスイスの銀行などを通じてライブドアに還流したことが判明したとも報道されている。

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○「風説の流布」 「偽計取引」とは
風説の流布とは、株券等の相場の変動を図る目的をもって、虚偽の情報等(風説)を流布することをいう。
偽計取引とは、虚偽の説明をして、顧客や投資家らを欺くことをいう。

これらは、証券発行市場・流通市場における不公正な行為で、相場操縦的行為に該当し、違法性が高く、投資者を害することになるため、いずれも証券取引法158条で、相場の変動を目的とする不正行為として、暴行や脅迫などとともに禁じられている。

「風説」は証取法では虚偽の情報とは限定されておらず、事実の裏付けのない情報も処罰の対象となる。したがって証券取引や会社情報に関し、事実と異なる情報を流すことはもちろんのこと、合理的な根拠のない情報を流すことも、これの違反となる。最近では、インターネット上で様々な株式情報が流れているが、うっかりと噂だけの情報を流せば、この「風説の流布罪」に抵触するおそれがあるので、注意が必要である。

○犯罪の構成要件
@主体:何人も
A目的:「取引のため」または「有価証券等の相場の変動を図る目的」という目的の存在が必要(目的犯)
B行為:「風説の流布」(虚偽あるいは根拠のないことを広めること)、「偽計取引」行為

○構成要件上の問題点(共謀)
堀江社長が、この罪で有罪となるのは、上記のAの目的を持って、Bの点で実行犯と共謀し認識していたことが必要である。なお、この場合、堀江社長が「違法性の認識は否定」との報道を見聞きするが、犯罪の成立においては、この取引が違法であることの認識は必要でない。

○構成要件上の問題点(実行内容)
今回の偽計取引とは、何を偽計したかである。今回の容疑事実で挙げられているLDM(当時バリュークリックジャパン)が株式交換で子会社化すると04年10月25日に公表したときの発表文は下記のものを指すと解される。

バリュークリックジャパン株式会社代表取締役小宮徳明(04年10月25日)
「株式交換によるか株式会社マネーライフ社の完全子会社化に関するお知らせ」
(http://ldm.livedoor.jp/ir_info/ir_pdf_2004/VCJ20041025release.pdf)

ここの当事会社欄のところの「大株主及び持株比率」で、バリュークリックジャパンは「ライブドア(75.06%)」、マネーライフ社のところは「VLMA2 号投資事業組合(100%)」とあり、この当事会社の関係のところでは、「資本関係・人的関係・取引関係」ともに「該当事項はありません」となっている。ところが、この「VLMA2 号投資事業組合」というのが、実際はライブドア社が実質支配していたのであるから、この関係のところにはその旨を本来記載すべきであるところを、これを「該当事項なし」としたのが、虚偽の情報等を提供したものと解したのであろうか。この点は、今のところの報道では詳しくは説明されていないように思う。

ただ、もしそうだとすれば、これを問責された場合において、計画的に目的を持ってこの記載をしていた者はともかく、外形的にこれをチェックする立場であれば「問題なし」としていた可能性が強いような気がする。投資事業組合(投資ファンド)といえど、法形式的には独立した組織であり、その意味でそこだけを明示するのは一応法定開示上の要件を充足したことになるのであろうからである。そして、「資本関係・人的関係・取引関係」のところで、どこまで踏み込んで判断するのか不明なところで、今回のような「実質支配」を入れるとなると、その解釈要件まで明確にしておく必要があるのではないだろうか。

○「風説の流布・偽計取引」に対する罰則は、以下のように極めて重い。
・当該行為を行なった者は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金。又はその併科(証券取引法197条1項7号)
・財産上の利益を得る目的で、当該行為により有価証券等の相場を変動又は固定させ、当該相場を利用した者は5年以下の懲役及び3000万円以下の罰金(証券取引法197条2項)
・当該行為により得た財産は没収(証券取引法198条2)
・当該行為を行なった法人に対しては5億円以下の罰金(証券取引法207条1項1号)

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○証券取引法(昭和二十三年四月十三日法律第二十五号)
第158条  何人も、有価証券の募集、売出し若しくは売買その他の取引若しくは有価証券指数等先物取引等、有価証券オプション取引等、外国市場証券先物取引等若しくは有価証券店頭デリバティブ取引等のため、又は有価証券等の相場の変動を図る目的をもつて、風説を流布し、偽計を用い、又は暴行若しくは脅迫をしてはならない。

第197条  次の各号のいずれかに該当する者は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
(中略)
  第157条、第158条、第159条第1項若しくは第2項(これらの規定を同条第4項及び第5項において準用する場合を含む。)又は同条第3項(同条第4項において準用する場合を含む。)の規定に違反した者 
2  財産上の利益を得る目的で、前項第7号の罪を犯して有価証券等の相場を変動させ、又はくぎ付けし、固定し、若しくは安定させ、当該変動させ、又はくぎ付けし、固定し、若しくは安定させた相場により当該有価証券等に係る有価証券の売買その他の取引又は有価証券指数等先物取引等、有価証券オプション取引等、外国市場証券先物取引等若しくは有価証券店頭デリバティブ取引等を行つた者は、5年以下の懲役及び3000万円以下の罰金に処する。

第198条の2  次に掲げる財産は、没収する。ただし、その取得の状況、損害賠償の履行の状況その他の事情に照らし、当該財産の全部又は一部を没収することが相当でないときは、これを没収しないことができる。
一  第197条第1項第7号若しくは第2項又は前条第19号の罪の犯罪行為により得た財産
二  前号に掲げる財産の対価として得た財産又は同号に掲げる財産がオプションその他の権利である場合における当該権利の行使により得た財産
2  前項の規定により財産を没収すべき場合において、これを没収することができないときは、その価額を犯人から追徴する。

第207条  法人(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものを含む。以下この項及び次項において同じ。)の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務又は財産に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号に定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。
一  第197条(第1項第5号及び第6号を除く。) 5億円以下の罰金刑
(以下略)
                                            弁護士 三木秀夫

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