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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
堀江貴文被告の保釈請求を却下・東京地裁(2006年02月18日)  保釈請
○ライブドアグループの証券取引法違反事件で、東京地裁は17日、同法違反(偽計、風説の流布)の罪で起訴され、拘置中の同社前社長・堀江貴文被告(33)の弁護人から出ていた保釈請求を却下する決定をした。(読売新聞2006年02月18日) 

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○堀江被告(被疑者は起訴以降は「被告」と呼ばれる)は、起訴後に保釈請求をしたが、却下されたようである。さぞ本人は悔しい思いをしていることであろう。特に、今回の保釈請求却下の原因に、堀江被告が全面否認を貫いていることと大きな関係があると思われる。

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○保釈とは、保証金納付等を条件として、勾留の効力を残しながら、その執行を停止し、被告人の身柄を解く刑事訴訟法88条以下の規定にもとづく制度である。日本では、起訴後保釈のみが認められており、起訴前保釈の制度はない。

同法第89条には、保釈の請求があつたときは左の場合を除いては、これを許さなければならないとあり、条文上は一部の例外を除いて、原則として保釈を認めなければならないこととなっている。これからすれば、保釈請求があれば、保釈するのが本来の姿である。

ところが、例外の一つに「被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」というのがあり、公判で検察官の証拠申請の全てに被告弁護側が同意するまでは、罪証隠滅の可能性があるとされてしまうため、原則と例外がひっくり返っていて、保釈を認めないのが原則化しているのが現実である。すでに捜査段階で自白していて、証拠も明確な場合で、どう考えても罪証隠滅などできそうも無い事件でも、検察官が反対したら「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある」として保釈が認められない場合が多い。

このことは、冤罪の温床になっている。仮に冤罪であっても、早く家に帰らないと仕事や家族を失う恐怖に駆られて、虚偽の自白をしてしまう動機になるのが、この実務慣行である。自白しなければ保釈が認められる可能性はほとんどなくなるためで、軽微な事案なら早く出たいがために意に反した自白をしたと語る被疑者に出会った弁護士は数え切れないくらいあると思う。

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○保釈の種類
保釈には大きく分けて三つの種類がある。
@必要的保釈(請求保釈、必要的保釈):起訴において保釈不許可事由がないとき
A職権保釈(裁量保釈):裁判所は、請求がなくても、裁量で保釈を許すことができる。
B義務的保釈:勾留による拘禁が不当に長くなった場合、保釈を許さなければならない。

@必要的保釈(88条〜89条)
勾留されている被告人又はその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族もしくは兄弟姉妹(以上「保釈請求権者」)は、保釈の請求をすることができ、保釈の請求があつたときは、被告人が次に当たる場合を除いては、これを許さなければならない。 
(1)死刑、無期または1年以上の懲役・禁固にあたる罪を犯した場合 
(2)過去に、死刑、無期または10年を超える懲役・禁錮にあたる罪について有罪判決を受けていた場合 
(3)常習として、3年以上の懲役・禁錮にあたる罪を犯した場合 
(4)罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき 
(5)被害者・証人、その親族に対し危害等を加えると疑うに足る相当な理由がある場合 
(6)氏名または住所が明らかでない場合 

A職権保釈(90条)
裁判所は、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。 

B義務的保釈(91条)
勾留による拘禁が不当に長くなったときは、裁判所は、第88条に規定する者(保釈請求権者)の請求により、又は職権で、決定を以て勾留を取り消し、又は保釈を許さなければならない。 

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○保釈の決定手続き
(1)裁判所は、保釈を許す決定又は保釈の請求を却下する決定をする前に、検察官の意見を聴かなければならない(92条1項)。
(2)保釈を許す場合には、裁判所は保証金額を定めなければならない(93条1項)。 
(3)保証金額は、犯罪の性質及び情状、証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して、被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければならない(93条2項)。 
(4)保釈を許す場合には、被告人の住居を制限しその他適当と認める条件を附することができる(93条3項)。 
(5)保釈決定は、保証金の納付があつた後に執行される。(94条1項) 
(6)裁判所は、保釈請求者でない者に保証金を納めることを許すことができ(94条2項)、有価証券又は裁判所の適当と認める被告人以外の者の差し出した保証書を以て保証金に代えることを許すこともできる(94条3項)。 

○保釈請求の時期
保釈請求は,起訴があれば,公判が始まる前でも後でも,判決が確定するまではいつでもすることができる。

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○保釈手続きの実際
被疑者が検察官によって起訴された場合、実務において、この保釈手続きは、弁護人によって行われる。これを希望する被告人本人もしくは親族等は、身柄引受書を弁護人に渡して、弁護人を通じて裁判所に保釈請求を出してもらう。検察官の起訴は、現実には、勾留期間満期日の通常業務時間後に出されるため、結局保釈請求書の受付は翌日になることが多い。

その際、予想される保釈保証金(通称「保釈金」)を工面しなければならない。保釈保証金の額は、「犯罪の性質及び情状、証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して、被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額」とされている。通常の場合の最低額は150万円が相場になっているが、犯罪の性質・情状が悪い場合や、営利犯罪の場合、年収などが高い場合は、数百万から場合によっては億を超える高額となる。予想金額は弁護士からアドバイスが得られるが、用意することが可能な金額を裁判所と交渉してもらうことも必要となる。一般的には、保釈許可が出るのは難しい傾向にある(認容は請求の2割程度)。

保証金は現金で納めるのが原則。ただし、裁判所の許可があれば株券などの有価証券を代わりに納めることもでき、場合によっては保証金の一部の納付に代えて、雇用主や親族などの身元引受人が「保証書」を差し出すことも認められる場合がある。(保証書の場合は、保釈取消で保証金没取の場合に、保証書記載の金額を納付する義務を負うことになる)。

この保釈の保証金は、裁判が終了すれば、その結果が無罪でも有罪でも、納めた人に返還される。ただし、それ以前に被告人が逃亡したり、証拠隠滅したり、関係者を畏怖させる等の行為があったときには、保釈取消のほか、保証金の全部または一部が没取される。

裁判所は、保釈請求が出ると、担当検察官に意見を求める。この意見がすぐに出されればいいが、かなり遅れる場合もある(数日出ないこともあり弁護人から強く急かす場合もある)。検察官の意見は、「しかるべく」か「不相当」のどちらかである。前者は「裁判官の判断に任せます」と言う意味で、この場合はかなりの程度で保釈が認められやすいが、後者の場合、特に意見の中で猛反対されている場合は、ほとんど保釈が却下される傾向にある。

弁護人としては、裁判所には、面談や書面で、被告人は裁判には必ず出頭すること、証拠隠滅の恐れのないこと、被告人が被害者や証人等と直接面談や電話等で接触しないこと、住居や居所について裁判所の指定する制限に従うことなどを訴えることとなる。通常、配偶者や親族等が身元引受書を弁護人に預けて裁判所に提出する。

保釈決定がされると、すみやかに裁判所に保証金を現金で納めなければならない。それが済むと、勾留の執行は停止され、身柄が解かれ、拘置所(もしくは拘置所に移る前の警察署)から出てくるので、関係者が迎えに行くほうが望ましい。

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○保釈が取消される場合
被告人に以下のような事由が生じた場合は、裁判所は保釈を取り消すことができ、保証金の全部または一部を没収することができる(96条1項)。保釈が取り消されると、被告人は収監される。
(1)召喚を受け正当な理由がなく出頭しないとき 
(2)逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき 
(3)罪証を隠滅し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき 
(4)被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者もしくはその親族の身体もしくは財産に害を加えもしくは加えようとし、又はこれらの者を畏怖させる行為をしたとき 
(5)住居の制限その他裁判所の定めた条件に違反したとき 

○保釈保証金の没収
保釈を取り消す場合、裁判所は、決定で保証金の全部又は一部を没取することができる(96条2項)。 また、保釈された者が、刑の言渡を受けその判決が確定した後、執行のため呼出を受け正当な理由がなく出頭しないとき、又は逃亡したときは、検察官の請求により、決定で保証金の全部又は一部を没取される(96条3項)。

保釈の取消と保釈保証金没収で有名なケースとしては、91年のイトマン事件の被告人・許永中が特別背任罪に問われ際、6億円(現金3億円、弁護士保証3億円)の保釈金を積んで保釈されたが、韓国へ逃亡してしまい、全額没収となった例がある。

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○保釈金額について
前述のとおり、通常の場合の最低額は150万円が相場になっているが、犯罪の性質・情状が悪い場合や、営利犯罪の場合、年収などが高い場合は、数百万から数千万、場合によっては億を超える場合もある。

高額な例としては、歴史上の最高額として、国産牛肉買い上げ事業をめぐる牛肉偽装事件の「ハンナン」元会長・浅田満被告(詐欺・補助金適正化法違反で起訴)の20億円や、旧住専を巡る資産隠し事件の元末野興産社長(強制執行妨害罪などで起訴)の15億円などがある。
                                            弁護士 三木秀夫

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