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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
ライブドア堀江被告らを粉飾決算容疑で再逮捕(2006年02月22日)粉飾決 
○ライブドアグループの証券取引法違反事件で、東京地検特捜部は22日午後、ライブドア本体の2004年9月期決算で約50億円を粉飾したとして、前社長、堀江貴文(33)ら4被告=証取法違反(偽計など)罪で起訴=を同法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで再逮捕するとともに、代表取締役、熊谷史人容疑者(28)を新たに同容疑で逮捕した。ライブドア関連会社の企業買収などを巡る虚偽公表に端を発した事件は、ライブドア本体の不正経理事件に発展。同社株の上場廃止が濃厚となるなど事態は重大局面を迎えた。(NIKKEI NET 2006.02.22)

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○ライブドア事件は、より深みに進んでいった。東京地検は前社長の堀江貴文容疑者ら4人を再逮捕し、さらに代表取締役に就いたばかりの熊谷容疑者も新たに逮捕した。前の逮捕容疑罪名は証券取引法違反のうち「風説流布と偽計取引」の容疑であったが、今回はライブドアが2004年9月期連結決算で53億4699万円の粉飾を行ったもので、容疑罪名は証券取引法の「有価証券報告書の虚偽記載」の疑い。

報道された範囲で知るところでの逮捕事実は、堀江前社長ら5被疑者が共謀の上、東証マザーズ市場に上場していたライブドアの業務に関して、03年10月1日から04年9月30日までの連結会計年度について、04年9月期に経常損失が3億1278万円発生していたにもかかわらず、売り上げ計上の認められないライブドア株式の売却益37億6699万円を売上高に含め、ロイヤル信販およびキューズ・ネットに対する架空売り上げ15億8000万円を計上するなどして、経常利益を50億3421万円と記載した連結損益計算書を掲載した虚偽の有価証券報告書を04年12月27日に関東財務局長に提出したこと。

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○企業会計基準では、自社株の売却益は資本剰余金に計上すべきであり、売上高に含めてはならない。しかしながら、04年9月期連結決算は3億円余の損失だったのに、自社株の売却益を実質的にライブドアが支配していた投資事業組合からの投資収益の分配という形で売り上げに計上したのは粉飾となるというものである。粉飾決算額は連結ベースで53億4699万円となる。

○今回の逮捕に際して会見した伊藤鉄男東京地検次席検事は、「ライブドアは株式交換で企業の買収・合併を進めてきた企業で、株価が上昇していなければならなかった。そのためには、経常利益の業績予想の修正を繰り返し、株価のつり上げを図った。こうした時価総額主義の中で粉飾決算が起こってくる」と指摘し、さらに「初めは自社株の売却益で売り上げの増加を図ったが、足りなかったので架空売り上げの計上を行ったのではないか」との見方を示した。(ロイター22日)

○これら容疑事実の確定は、これからの公判に委ねられるが、これが真実であれば、これまで世代を超えてヒーローであり続けたホリエモンの成功物語は、ますます幻惑だけのもので、実態は虚飾であり続けたこととなる。歴史に残るであろう特異な事件だけに、徹底して全容を解明してもらいたい。

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○粉飾決算とは何か

会社の決算において、決算利益を過大に表示するように人為的操作を加えた決算をいう。通常は利益の過大表示を指すが、これと逆に、脱税などのために利益の過小表示をするする「逆粉飾」も含めて言う場合もある。

粉飾決算の手法は様々あると言われ、よくあるのは「売上げの水増し」、「架空資産の計上」、「資産の過大評価」、「子会社を利用した帳簿上の売上操作」、「コストの圧縮計上」、「負債の過小表示」、「負債の計上繰り延べ」などが多い。

○一般的に粉飾決算が問題とされる理由は、経営者側が経営の悪化を隠すために行う結果、架空の利益のもとで株主に利益配当として会社資産の流出(違法配当:蛸配当ともいう)がなされる。いずれにせよ、損益の先送りに過ぎないので、粉飾決算を繰り返すと経営状態の悪化を招くことが多く、虚偽の決算書を信用して投資する株主や取引する債権者の利益を著しく害する危険が生じる。

アメリカのエンロンの粉飾決算事件が世界的にも有名であるが、日本でも、企業の大小に関わらず起こり、場合によっては倒産した後に粉飾決算が判明するということも多い。粉飾決算が公になると企業は株価が下落し、実行者は証券取引法や商法違反で罪に問われる場合がある。

粉飾の動機には、「損失を出すと銀行融資を受けられなくなる」とか、「株主に配当金が出せないと経営責任を問われる」などが多い。こういった会社継続のための危機に面し、悩んだ末、誘惑に負けて粉飾決算をしてしまうのがよくあるパターンである。このため、「会社の信用維持のためにやむをえずした行為」などの弁解を聞くことがあるが、コンプライアンスの見地からは全く許されない行為である。

今回のライブドアの粉飾が「世界一の企業を目指す」といった目的から計画的に実行されたというのならば、珍しいパターンといえるのであろうが、株価の上昇を維持したいという動機から見たら、よくあるパターンとも言えるであろう。

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○粉飾決算の際の取締役の刑事責任

(1) 「会社財産を危うくする罪」「違法配当罪」(商法489の3号)
いわゆる「蛸配当(たこはいとう)」と言われるもので、株式会社が本来ならば配当するべき利益が存在していないにもかかわらず、粉飾決算などで見かけ上配当可能利益があるようにして、株主へ違法に配当をする行為をいう。蛸が、食べるものがないために、自分の足を食べるという状況になぞらえて俗に「蛸配当」と呼ばれている。商法は、これを「会社財産を危うくする罪」「違法配当罪」として厳しく規制している。有限責任社員しかいない株式会社おいては会社財産のみが会社債権者に対する責任財産となるため、資本流出を防ぐ必要性が高いためである。これを行った取締役は、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金となる。 

(2)特別背任罪(商法489)
取締役が、自己又は第三者の利益を図ってその任務に違背して会社に財産上の損害を加えたときは、商法489条に定める特別背任罪として、10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金となる。 

粉飾決算などで見かけ上配当可能利益があるようにして、株主へ違法に配当をしたならば、会社資産を違法に流出させたこととなり、会社に財産上の損害を与えたこととなる。

特別背任罪の成立要件は@任務違反行為、Aそれによって損害が発生したということ、B図利目的(自己又は第三者の利益を図ること)、である。このBの図利目的においては、これが会社の信用を維持するために行ったのであり、会社のためを思ってしたことであれば、これが否定され、特別背任罪とはならない。ただし、経営者たる自分の地位を守るために行ったなら、自己の利益を図ったこととなるので特別背任罪になる。 

(3) 有価証券報告書虚偽記載罪(証券取引法197条) 
上場企業の取締役が有価証券報告書の重要な事項に虚偽の記載をして提出したときは、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科となる。 

これが今回のライブドア事件で逮捕容疑となったものである。西武鉄道株の名義偽装事件で、堤義明コクド前会長が有罪となったのも、この証券取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載、インサイダー取引)の罪であった。

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○粉飾決算の際の取締役の民事責任

(1)違法配当額賠償(商法266条1号)
取締役が粉飾決算により違法に利益配当を行ったときは、取締役は会社に対して連帯して違法に配当した額を会社に賠償すべき責任を負う。 

(2)第三者への損害賠償責任(商法266ノ3第2項) 
取締役が計算書類等の重要事項に虚偽の記載をし、そのために第三者に損害を生じたときは、取締役はこの第三者に対して、連帯してその損害を賠償すべき責任を負う。粉飾決算での虚偽記載はこれに当たる。 

(3)有価証券取得者への賠償責任(証券取引法24の4)
上場会社の取締役が有価証券報告書の重要な事項に虚偽の記載等をし、これを知らないで有価証券を取得した者にこれにより損害を生じたときは、この損害を賠償すべき責任を生じる。 

これについては、
ニュース六法(2004年11月16日)
「西武鉄道上場廃止へ個人株主と証券取引法24条の4」
を参照のこと。

また、このライブドア事件においては、06年2月21日に、弁護士約50人が「ライブドア株主被害弁護団」を結成したと発表している。被害に遭った投資家を集め、堀江貴文前社長ら旧経営陣やライブドアなどを相手取り損害賠償訴訟を起こす方針とのことである。

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刑事罰関連条文

○商法第489条(「会社財産を危うくする罪」「違法配当罪」)
「第486条第1項ニ掲グル者又ハ検査役ハ左ノ場合ニ於テハ5年以下ノ懲役又ハ500万円以下ノ罰金ニ処ス
3.法令又ハ定款ノ規定ニ違反シテ利益若ハ利息ノ配当又ハ第293条ノ5第1項ノ金銭ノ分配ヲ為シタルトキ」

○商法486条(特別背任罪)
「発起人、取締役、監査役又ハ株式会社ノ第百八十八条第三項、第二百五十八条第二項若ハ第二百八十条第一項ノ職務代行者若ハ支配人其ノ他営業ニ関スル或種類若ハ特定ノ事項ノ委任ヲ受ケタル使用人自己若ハ第三者ヲ利シ又ハ会社ヲ害センコトヲ図リテ其ノ任務ニ背キ会社ニ財産上ノ損害ヲ加ヘタルトキ十年以下ノ懲役又ハ千万円以下ノ罰金ニ処ス 」

○証券取引法第197条(有価証券報告書虚偽記載罪)
次の各号のいずれかに該当する者は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
1.第5条(第27条において準用する場合を含む。)の規定による届出書類(第5条第4項の規定の適用を受ける届出書の場合には、当該届出書に係る参照書類を含む。)、第7条、第9条第1項若しくは第10条第1項(これらの規定を第27条において準用する場合を含む。)の規定による訂正届出書(当該訂正届出書に係る参照書類を含む。)、第23条の3第1項及び第2項(これらの規定を第27条において準用する場合を含む。)の規定による発行登録書(当該発行登録書に係る参照書類を含む。)及びその添付書類、第23条の4、第23条の9第1項若しくは第23条の10第1項の規定若しくは同条第5項において準用する同条第1項(これらの規定を第27条において準用する場合を含む。)の規定による訂正発行登録書(当該訂正発行登録書に係る参照書類を含む。)、第23条の8第1項及び第5項(これらの規定を第27条において準用する場合を含む。)の規定による発行登録追補書類(当該発行登録追補書類に係る参照書類を含む。)及びその添付書類又は第24条第1項若しくは第3項(これらの規定を同条第5項(第27条において準用する場合を含む。)及び第27条において準用する場合を含む。)若しくは第24条の2第1項(第27条において準用する場合を含む。)の規定による有価証券報告書若しくはその訂正報告書であつて、重要な事項につき虚偽の記載のあるものを提出した者

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民事関連条文

○商法第266条(違法配当額賠償)
左ノ場合ニ於テハ其ノ行為ヲ為シタル取締役ハ会社ニ対シ連帯シテ第1号ニ在リテハ違法ニ配当又ハ分配ノ為サレタル額、第2号ニ在リテハ供与シタル利益ノ価額、第3号ニ在リテハ未ダ弁済ナキ額、第4号及第5号ニ在リテハ会社ガ蒙リタル損害額ニ付弁済又ハ賠償ノ責ニ任ズ
1.第290条第1項ノ規定ニ違反スル利益ノ配当ニ関スル議案ヲ総会ニ提出シ又第293条ノ5第3項ノ規定ニ違反スル金銭ノ分配ヲ為シタルトキ

○商法第266条ノ3(第三者への損害賠償責任)
取締役ガ其ノ職務ヲ行フニ付悪意又ハ重大ナル過失アリタルトキハ其ノ取締役ハ第三者ニ対シテモ亦連帯シテ損害賠償ノ責ニ任ズ
2 取締役ガ株式申込証ノ用紙、新株引受権証書、新株予約権申込証、社債申込証若ハ新株予約権付社債申込証ノ用紙若ハ目論見書若ハ此等ノ書類ノ作成ニ代ヘテ電磁的記録ノ作成ガ為サレタル場合ニ於ケル其ノ電磁的記録若ハ第281条第1項ニ掲グルモノニ記載若ハ記録スベキ重要ナル事項ニ付虚偽ノ記載若ハ記録ヲ為シ又ハ虚偽ノ登記若ハ公告(第283条第7項前段ニ規定スル措置ヲ含ム以下此ノ項ニ於テ同ジ)ヲ為シタルトキ亦前項ニ同ジ 但シ取締役ガ其ノ記載若ハ記録、登記又ハ公告ヲ為スニ付注意ヲ怠ラザリシコトヲ証明シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
                                            弁護士 三木秀夫

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