ニュース六法(倉庫)
2009年11月までの保管庫
ニュースから見る法律
三木秀夫法律事務所
このページは最近話題になったニュースを題材にして、そこに関係する各種法令もしくは
判例などを解説したものです。事実関係は,報道された範囲を前提にしており、関係者の
いずれをも擁護したり非難する目的で記述したものではありません。もし、訂正その他の
ご意見感想をお持ちの方は、メールにてご一報くだされば幸いです。
なお、内容についての法的責任は負いかねます。引用は自由にして頂いても構いません
が必ず。当サイトの表示をお願いいたします。引用表示なき無断転載はお断りいたします。

【お知らせ】
2009年12月から、このページは休止とさせていただきました。
同名での記事を、当事務所メールマガジンにて毎月発刊しています。
ご関心のある方は、そちらをご覧ください。

ニュース六法目次
アイフル全店に業務停止命令(2006年04月14日)貸金業規制法/取立規 
○金融庁は14日、消費者金融大手のアイフル(京都市)に対し、強引な取り立てなど違法行為が相次いだとして、約1900の全店舗(無人店舗を含む)で新規貸し出しなどの全業務を停止するよう命令を出した。消費者金融大手に全店の業務停止を命じるのは初めて。同庁は違法行為を未然に防げなかったのは、内部管理体制の不備が原因と判断。抜本的な改善を促すため、異例に重い処分に踏み切った。金融庁の検査で違法行為が見つかった北海道函館市や長崎県諌早市などの5店が5月8日から20〜25日間、その他の全店が3日間の業務停止処分。顧客からの返済などの一部業務を除く全業務が対象となる。 
 
5店では契約者の勤務先や実家に繰り返し電話をかけて債務の返済を迫ったほか、契約者に無断で委任状を作成し戸籍謄本や所得証明を入手したり、家庭裁判所が選任した補助人が契約取り消しを伝えたのに支店長らが債務者に取り立てをしたりしていたという。本社の積極的な関与はなかったが、金融庁は全社的な管理体制に重大な不備があったと判断した。 

消費者金融をめぐっては、社会問題化している多重債務を防ぐため、金融庁の有識者懇談会が貸金業者に対する規制を強化する方向で検討している。来年の貸金業規制法改正を目指し、6月にも提言をまとめる方針。(04月14日 産経新聞)

@@@@@@@@@@

○金融庁・近畿財務局理財部金融監督第3課は06年4月14日、消費者金融大手のアイフル株式会社(代表者代表取締役社長福田吉孝、近畿財務局長(8)第00218号、本店 京都市下京区烏丸通五条上る高砂町381−1、登録年月日 平成17年3月30日(当初 昭和59年3月30日))に対し、5月8日から3〜25日間、全店舗(約1900店)を対象にした業務停止命令を出したと発表した。

平成18年4月14日に近畿財務局が公表した「アイフル株式会社(貸金業登録業者)の業務停止について」によると、以下のとおりである。

○アイフル株式会社(貸金業登録業者)の業務停止について
(平成18年4月14日近畿財務局)

1.当局登録貸金業者であるアイフル株式会社については、貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業規制法」という。)に基づく立入検査及び報告徴収を行った結果、貸金業規制法に違反する事実が下記2のとおり認められたので、下表のとおり業務を停止することを平成18年4月14日付で命じた。

営業所 業務停止期間 停止対象業務 
諫早店 H18.5.8〜5.27 業務の全部(弁済の受領に関する
業務及び債権の保全行為に関す
る業務を除く) 
五稜郭店
西日本管理センター3係 
新居浜店
 H18.5.8〜6.1 
業務の全部(弁済の受領に関する
業務及び債権の保全行為に関す
る業務を除く) 
コンタクトセンター福岡 H18.5.8〜5.27 H18.5.8 〜5.10: 業務の全部(弁済
の受領に関する業務及び債権の
保全行為に関する業務を除く) 
H18.5.11 〜5.27:カウンセリングセ
ンター九州の業務の全部(弁済の
受領に関する業務及び債権の保
全行為に関する業務を除く) 
その他の全店 H18.5.8〜5.10 業務の全部(弁済の受領に関する
業務及び債権の保全行為に関す
る業務を除く)

2.違反事実
(1)諫早店の事案
平成17年2月25日、諫早店において、貸付けの業務を行うに当たり、資金需要者である顧客から委任を受けていないにもかかわらず、貸金業務取扱主任者が当該顧客の名義を用いて委任状を作成し、当該委任状を行使して当該顧客の公的証明書類を取得した。当該行為は、貸金業規制法第13条第2項の規定に違反する。

(2)五稜郭店の事案
平成16年3月から9月にかけ、五稜郭店において、家庭裁判所から補助開始の審判を受けた債務者に対する貸付けの契約について、債務者の補助人から当該契約を取り消す旨の意思表示書面を受領したにもかかわらず、支店長等が債務者に対し当該債権の取立てを行った。当該行為は、貸金業規制法第13条第2項の規定に違反する。また、当該書面を受領した事実を帳簿に記載しなかった。当該事実は、貸金業規制法第19条の規定に違反する。 

(3)カウンセリングセンター九州の事案
平成16年6月、カウンセリングセンター九州において、正当な理由なく債務者の勤務先へ架電を行い、さらに債務者から勤務先への架電を止めるよう改めて申し出を受けたにもかかわらず、執拗に勤務先へ架電を行い、債務者を困惑させた。当該行為は、貸金業規制法第21条第1項の規定に違反する。

(4)西日本管理センター3係の事案
平成17年5月、西日本管理センター3係において、債務者の母親の居住する実家へ連続して督促書面を発送するとともに、数回にわたり架電し、母親に弁済をなさしめるよう不安をあおり、母親を困惑させた。当該行為は、貸金業規制法第21条第1項の規定に違反する。また、これらの交渉を行った事実の多くについて帳簿に記載しなかった。当該事実は、貸金業規制法第19条の規定に違反する。

(5)新居浜店の事案
平成16年11月下旬から12月初めにかけ、新居浜店において、債務者に対する債権の取立ての交渉に当たり、第三者から弁済資金を調達するよう執拗に求めるとともに、妻や母親を交渉に参加させるよう執拗に迫り、債務者を困惑させた。当該行為は、貸金業規制法第21条第1項の規定に違反する。また、これらの交渉を行った事実について帳簿に記載しなかった。当該事実は、貸金業規制法第19条の規定に違反する。

なお、違反事実の発生に関しては、社内規定等の不備や取立行為に関する指導の不徹底等、本社において違反行為を未然に防止するための適切な対応が講じられていなかったことが認められ、これらの違反事実がいずれも平成16年1月施行の改正貸金業規制法において拡充された規定に違反するものであることを踏まえれば、改正貸金業規制法の趣旨を踏まえた内部管理態勢の再構築や法令遵守意識の浸透・徹底が十分に図られていなかったものと認められる。 

@@@@@@@@@@

○アイフルと言えば、チワワを登場させるテレビCMで親近感を出し、多くの顧客を誘引しながら、その裏で資金業規制法の取立規制に違反する強引な取り立てを行っていた。多重債務問題に取り組む弁護士は、かなり前から同社の姿勢を問題視し、「アイフル被害対策全国会議」も設立して集団訴訟も起こしている。

今回の処分でその違法な商法が大々的に明るみに出たと言ってよい。全店の業務停止命令は大手消費者金融では初めてのケースである。金融庁は強引な取り立ての事実を把握して、この処分に踏み切ったものであるが、これを単なる支店の暴走とはとらえず、全社的な体制の問題として全店への処分に至ったものである。

アイフルがその違法体質を改めるのは当然であるが、政府も、問題の背景にある金利規制のあり方を緊急に見直す必要がある。

また、今回のアイフル急成長の背景にある過剰広告にも問題がある。貸金業規制法は誇大広告は禁止しているが、その基準はあいまいであり、これがテレビを巻き込んだ被害拡大につながったと言える。明確な基準での広告規制の強化も急ぐべきである。

@@@@@@@@@@

○貸金業規制法
金融業者の行為を規制する法律として「貸金業の規制等に関する法律」(貸金業規制法)がある。そして、同法の解釈運用基準を、金融庁の事務ガイドラインが詳細に定めている。

○諫早店で違法とされた事案は、無断で委任状を偽造行使して顧客の公的証明書類を取得したもので、五稜郭店の事案は、補助開始の審判を受けた債務者について、補助人から借入契約を取り消す旨の意思表示書面を受けたにもかかわらず、債務者に対し当該債権の取立てを行った行為で、いずれも貸金業規制法第13条第2項違反とされた。

この貸金業規制法第13条第2項とは、過剰貸付け等の禁止を定めた同条1項に続いて定められたもので、貸金業者は、取立て等の業務を行うに当たって偽りその他不正又は著しく不当な手段を用いてはならないというものである。 

○貸金業規制法第13条
貸金業者は、資金需要者である顧客又は保証人となろうとする者の資力又は信用、借入れの状況、返済計画等について調査し、その者の返済能力を超えると認められる貸付けの契約を締結してはならない。
貸金業者は、貸付け又は貸付けの契約に係る債権の管理若しくは取立ての業務を行うに当たり、偽りその他不正又は著しく不当な手段を用いてはならない。

○今回の諫早店の行為は刑法の私文書偽造に当たる行為であり、また五稜郭店の行為は民法での成年後見規定を無視するもので、いずれも論外であるが、この第2項に関する金融庁事務ガイドライン3−2−2(貸付け又は貸付けの契約に係る債権の管理若しくは取立ての業務を行うに当り、偽りその他不正又は著しく不当な手段を用いることの禁止)では、次のような行為も禁止対象として例示されている。

@白紙委任状及びこれに類する書面を徴求すること
A白地手形及び白地小切手を徴求すること
B印鑑、預貯金通帳・証書、キャッシュカード、運転免許証、健康保険証、年金受給証等の債務者の社会生活上必要な証明書等を徴求すること
C貸付け金額に比し、過大な担保を徴求すること
Dクレジットカードを担保等として徴求すること

@@@@@@@@@@

○貸金業規制法・ガイドラインによる取立て行為の規制
アイフルのカウンセリングセンター九州の事案(正当な理由なき債務者の勤務先へ架電)、西日本管理センター3係の事案(債務者の母親への弁済要求行為)、新居浜店の事案(第三者から弁済資金を調達するよう執拗に求め、妻や母親を交渉に参加させるよう執拗に迫った行為)は、いずれも貸金業法21条(取立て行為の規制)違反とされた。

同法第21条(取立て行為の規制)には、「貸金業者および貸金業者より債権の取立てについて委託を受けた者は、取立てをするに当たって、人を威迫しまたはその私生活もしくは業務の平穏を害するような言動により、その者を困惑させてはならない」とある。

これを受けて、業者のどのような行為が「人を威迫し、私生活もしくは業務の平穏を害するような言動」にあたるのかを判断する基準として、金融庁の事務ガイドラインが詳細に定めている。

例えば、貸金業者が弁護士の通知・通告を無視して請求行為を止めない場合には、監督官庁(金融庁・財務局)から指導や営業停止等の厳しい処分がなされ得る。さらには、貸金業規制法第21条(取立行為の規制)違反により、2年以下の懲役、または300万円以下の罰金に処せられる可能性が生じる。弁護士等が自己破産や債務整理手続を受任して、その旨を債権者たる貸金業者に受任通知を出せば、その後は業者からの取立て行為が一切なくなるが、それはこの規定によるもので、かなり強力な武器となっている。

@@@@@@@@@@

○貸金業規制法第21条
(取立て行為の規制)
貸金業を営む者又は貸金業を営む者の貸付けの契約に基づく債権の取立てについて貸金業を営む者その他の者から委託を受けた者は、貸付けの契約に基づく債権の取立てをするに当たつて、人を威迫し又は次の各号に掲げる言動その他の人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動により、その者を困惑させてはならない。

一 正当な理由がないのに、社会通念に照らし不適当と認められる時間帯として内閣府令で定める時間帯(注:午後9時から午前8時)に、債務者等に電話をかけ、若しくはファクシミリ装置を用いて送信し、又は債務者等の居宅を訪問すること。

二 正当な理由がないのに、債務者等の勤務先その他の居宅以外の場所に電話をかけ、電報を送達し、若しくはファクシミリ装置を用いて送信し、又は債務者等の勤務先その他の居宅以外の場所を訪問すること。

三 はり紙、立看板その他何らの方法をもつてするを問わず、債務者の借入れに関する事実その他債務者等の私生活に関する事実を債務者等以外の者に明らかにすること。 

四 債務者等に対し、他の貸金業を営む者からの金銭の借入れその他これに類する方法により貸付けの契約に基づく債務の弁済資金を調達することをみだりに要求すること。

五 債務者等以外の者に対し、債務者等に代わつて債務を弁済することをみだりに要求すること。

六 債務者等が、貸付けの契約に基づく債権に係る債務の処理を弁護士若しくは弁護士法人若しくは司法書士若しくは司法書士法人(以下この号において「弁護士等」という。)に委託し、又はその処理のため必要な裁判所における民事事件に関する手続をとり、弁護士等又は裁判所から書面によりその旨の通知があつた場合において、正当な理由がないのに、債務者等に対し、電話をかけ、電報を送達し、若しくはファクシミリ装置を用いて送信し、又は訪問する方法により、当該債務を弁済することを要求し、これに対し債務者等から直接要求しないよう求められたにもかかわらず、更にこれらの方法で当該債務を弁済することを要求すること。

○施行規則
第19条(取立て行為の規制)
法第21条第1項第1号(中略)に規定する内閣府令で定める時間帯は、午後9時から午前8時までの間とする。

○金融庁事務ガイドライン
3−2−6(取立て行為の規制)
法第21条第1項(中略)の規定に係る監督に当たっては、次に掲げる事項に留意するものとする。
(1)法第21条第1項の「威迫」に該当するかどうかは、個別の事実関係に即して判断する必要があるが、例えば、貸金業を営む者又は債権の取立てについて貸金業を営む者その他の者から委託を受けた者等が、債務者、保証人等に対し次のような言動を行う場合、「威迫」に該当するおそれが大きいことに留意する必要がある。
@暴力的な態度をとること。
A大声をあげたり、乱暴な言葉を使ったりすること。
B多人数で債務者、保証人等の居宅等に押し掛けること。

(2)法第21条第1項各号の規定は、「人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動」の例示であり、取立て行為が同項に該当するかどうかは、当該規定に例示されているもの以外のものを含め、個別の事実関係に即して判断する必要がある。当該規定に定める事例のほか、例えば、次のような事例は、「人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動」に該当するおそれが大きい。
@反復継続して、電話をかけ、電報を送達し、電子メールを送信し、若しくはファクシミリ装置を用いて送信し、又は債務者、保証人等の居宅を訪問すること。
A債務者、保証人等の居宅を訪問し、債務者、保証人等から退去を求められたにも関わらず、長時間居座ること。
B債務者又は保証人(以下3−2−6において「債務者等」という。)以外の者に取立てへの協力を要求した際に、協力に応ずる意思のない旨の回答があったにも関わらず、更に当該債務者等以外の者に対し、取立てへの協力を要求すること。

(3)(略)

(4)法第21条第1項第4号及び第5号に規定する「みだりに要求すること」とは、個別の事実関係に即して判断すべきものであるが、例えば、以下のようなものが該当するおそれが大きい。
・法第21条第1項第4号
債務者等から法第21条第1項第4号に規定する方法により弁済資金を調達する意思がない旨の回答があったにも関わらず、当該債務者等に対し、更に同様の方法により弁済資金を調達することを要求すること。

・法第21条第1項第5号
債務者等以外の者から、債務の弁済に応ずる意思がない旨の回答があったにも関わらず、更に当該債務者等以外の者に対し、債務の弁済を要求すること。

(5)法第21条第1項第4号に規定する「その他これに類する方法」とは、クレジットカードの使用により弁済することを要求すること等が該当すると考えられる。

(6)法第21条第1項第6号に規定する「司法書士若しくは司法書士法人」に委託した場合とは、司法書士法第3条第1項第6号及び第7号に規定する業務(簡裁訴訟代理関係業務)に関する権限を同法第3条第2項に規定する司法書士に委任した場合をいう。

@@@@@@@@@@

○帳簿の備付け義務について
今回のアイフル五稜郭店は、債務者の補助人から当該契約を取り消す旨の意思表示書面を受領したにもかかわらず、その事実を帳簿に記載しなかった点、西日本管理センター3係は、債務者の母親の居住する実家へ連続して督促書面を発送するとともに、数回にわたり架電し、母親に弁済をなさしめるよう不安をあおり、母親を困惑させた行為について、これらの交渉を行った事実の多くについて帳簿に記載しなかった点、新居浜店は、第三者から弁済資金を調達するよう執拗に求めるとともに、妻や母親を交渉に参加させるよう執拗に迫った交渉事実について帳簿に記載しなかった点が、いずれも貸金業規制法第19条の規定に違反するとされた。

@@@@@@@@@@

○貸金業規制法第19条
貸金業者は、内閣府令で定めるところにより、その営業所又は事務所ごとに、その業務に関する帳簿を備え、債務者ごとに貸付けの契約について契約年月日、貸付けの金額、受領金額その他内閣府令で定める事項を記載し、これを保存しなければならない。

○施行規則
(帳簿の備付け)
第16条  法第19条 に規定する内閣府令で定める事項は、次に掲げる事項とする。
(中略)
六  貸付けの契約に基づく債権に関する債務者等(債務者又は保証人をいう。第十九条第二項において同じ。)その他の者との交渉の経過の記録
(以下略)

○金融庁事務ガイドライン
3−2−5(交渉の経過の記録)
(1) 規則第16条第1項第6号に規定する「交渉の経過の記録」とは、債権の回収に関する記録、貸付けの契約(保証契約を含む。以下3−2−5において同じ。)の条件の変更(当該条件の変更に至らなかったものを除く。)に関する記録等、貸付けの契約の締結以降における貸付けの契約に基づく債権に関する交渉の経過の記録とする。
(2) 規則第16条第1項第6号に規定する「交渉の経過の記録」の記載事項は、おおむね以下の事項とする。
@ 交渉の相手方(債務者、保証人等の別)
A 交渉日時、場所及び手法(電話、訪問、電子メール及び書面発送等の別)
B 交渉担当者(同席者等を含む。)
C 交渉内容(催告書等の書面の内容を含む。)
                                            弁護士 三木秀夫

ニュース六法目次