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三木秀夫法律事務所
このページは最近話題になったニュースを題材にして、そこに関係する各種法令もしくは
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2009年12月から、このページは休止とさせていただきました。
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ご関心のある方は、そちらをご覧ください。

ニュース六法目次
メール覗き見500回女性を書類送検(2006年07月10日)不正アクセス禁止法
○夫の携帯電話を操作して、着信したメールが自分のパソコンに転送されるよう設定することで、夫や知人のメールを盗み見ていた妻不正アクセス禁止法違反などの疑いで宮城県警に摘発され、10日書類送検された。 
 
送検されたのは、仙台市青葉区の女性会社員(37)。調べでは、女性会社員は昨年4〜7月、夫の知人女性(35)が使用していた電子メールのIDやパスワードを盗み、この女性になりすまし、友人らとやりとりしていたメール内容を見るなどした疑い

調べによると、女性会社員は夫の携帯からメールを自分のパソコンに転送。その内容から、夫のメール相手のアドレスやパスワードなどを割り出していた。その上で、3カ月の間に約500回、自分のパソコンや携帯から、知人の女性のメールアドレスに不正にアクセスしていたという。自分が読んでいないのにメールが「開封済み」になっているのを不審に思った女性が県警に相談して発覚した。(Sankei Web 2006.07.10)

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○最近は、夫の女性問題などで妻側の相談を受けていると、夫と相手女性の携帯メールの内容が話題になることが多い。不用意な夫は、妻に全てのメールを見られていたり、場合によっては妻のパソコンに転送して保存までされていたりして、しっかりと証拠を握られていることを多く見かける。(妻のメールを見つけた夫側からの相談もあるが。)

○ただ、今回の事件は、少し、それと内容が違う。
この女性も、夫の携帯に入ったメールを自分のパソコンに転送していた。ここまではよくある話である。ところが、この女性は、転送した夫宛のメールから、夫の知人女性のフリーメールのメールアドレスを見つけて、さらにその女性のメールから推測したパスワードを適当に入力したらアクセスできてしまったのではなかろうか。その上で、3カ月の間に約500回、自分のパソコンや携帯から、その女性のメールアドレスに不正にアクセスしていたという。

○いつの時代にもある夫の浮気を疑う妻という一見お粗末な事件という側面と、情報化社会を生きている現代ならではの事件という両側面を持った、ある意味で興味深い事件でもある。不正アクセス禁止法違反で書類送検された妻と、その夫の今後はどんな展開をするのであろうか。

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不正アクセス禁止法とは、正式名称を「不正アクセス行為の禁止等に関する法」という。平成12年(2000年)2月13日に施行された。

昭和62年(1987年)の刑法改正において、「電算機損壊等業務妨害罪」などが新設され、コンピュータ犯罪に対する刑法規定が設けられたが、これらはデータの改ざんや消去等を伴うものであり、これらを伴わない「単なる不正アクセス」の行為については、何ら立法的手当がされていなかった。

○この法律では、禁止される不正アクセス行為を定めて、その違反に罰則を設けるとともに、不正アクセスを受けた被害者の申し出を受けた都道府県公安委員会による援助措置を定めている。

電気通信回線を通じて行われる電子計算機にかかわる犯罪の防止と、アクセス制御機能により実現される電気通信に関する秩序の維持を図り、もって高度情報通信社会の健全な発展に寄与することが目的とされている。

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○同法で規制される行為は、以下の3点である。今回の仙台市青葉区の女性会社員の事案は、ニュースを読む限りでは、下記の@に該当すると解される。

@なりすまし行為(同法3条2項1号)
簡単に言えば、他人のID・パスワードなどを無断で使用する行為である。罰則は1年以下の懲役または50万円以下の罰金。

もう少し詳しく言えば、アクセス制御機能を持つ電気通信回線に接続しているコンピュータに、電気通信回線を通じて他人のIDやバスワード等を盗用入力して、そのコンピュータを作動させ不正に利用する行為である。対象となるコンピュータは、アクセス制御がかけられていることが必要となる。

分かりやすく例えて言うならば、他人の家の玄関から合鍵を使って堂々と侵入するようなものである。

Aセキュリティ・ホールを攻撃してコンピュータに侵入する行為(同法3条2項2号、3号)
セキュリティホールとは、アクセス制御機能のプログラムの欠陥やアクセス管理者の設定上のミス等のコンピュータ・システムにおける安全対策上の不備を指す。クセス制御が施されているコンピュータに対して、こういったセキュリティホールからコンピュータに侵入する行為である。罰則は1年以下の懲役または50万円以下の罰金。

分かりやすく例えて言うならば、他人の家の玄関から侵入するのではなく、裏口などで破れた扉の隙間を見つけ出してこっそり侵入するようなものである。

B不正アクセスを助長する行為(同法4条)
他人のIDやパスワード等を第三者に提供するなど、不正アクセスを助長する行為である。人のIDやパスワードを無断で公開したり、販売した場合がこれに当たる。罰則は30万円以下の罰金。

分かりやすく例えて言うならば、他人の家の合鍵などをこっそりと作って、侵入したい人物に売りつけるようなものである。

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アクセス管理者の防御措置義務(同法5条)
不正アクセス禁止法は、予防的に不正アクセス行為が行なわれにくいように、アクセス管理者に不正アクセスからの防御措置を講じる責務を課した。このため、アクセス管理者は、IDやパスワードによるアセス管理とともに、アクセス防御措置の有効性の確認や防御措置の改善を行なわなければならない。

公安委員会による援助(同法6条)
不正アクセス禁止法は、さらに、不正アクセスを受けた被害者が、都道府県公安委員会と各方面公安委員会からの援助を受けられることを定めている。

この援助が行なわれるのは、次の@からBの要件を満たす必要がある。
@不正アクセスがあったと認められること 
A不正アクセスがあったコンピュータのアクセス管理者からの援助申出があること
Bその申出の内容が援助するに妥当であると判断されること 

@は、実際に不正アクセス行為がなされた後であることを要件とするもので、不正アクセスへの予防措置を講じたい場合は、この公安委員会からの援助を受けることはできない。

上記@からBの要件が満たされた場合に、公安委員会が援助を行ってくれる。援助を受けるときは、その行為の分析に必要な資料を全て公安委員会に提出する必要がある。公安委員会が行なう援助は、アクセス管理者が再発防止策の具体的な内容を検討する際の資料の提供、助言、指導等である。

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○不正アクセス行為の禁止等に関する法律
(平成十一年八月十三日法律第百二十八号)

(目的)
第一条  この法律は、不正アクセス行為を禁止するとともに、これについての罰則及びその再発防止のための都道府県公安委員会による援助措置等を定めることにより、電気通信回線を通じて行われる電子計算機に係る犯罪の防止及びアクセス制御機能により実現される電気通信に関する秩序の維持を図り、もって高度情報通信社会の健全な発展に寄与することを目的とする。

(定義)
第二条  この法律において「アクセス管理者」とは、電気通信回線に接続している電子計算機(以下「特定電子計算機」という。)の利用(当該電気通信回線を通じて行うものに限る。以下「特定利用」という。)につき当該特定電子計算機の動作を管理する者をいう。
2  この法律において「識別符号」とは、特定電子計算機の特定利用をすることについて当該特定利用に係るアクセス管理者の許諾を得た者(以下「利用権者」という。)及び当該アクセス管理者(以下この項において「利用権者等」という。)に、当該アクセス管理者において当該利用権者等を他の利用権者等と区別して識別することができるように付される符号であって、次のいずれかに該当するもの又は次のいずれかに該当する符号とその他の符号を組み合わせたものをいう。
一  当該アクセス管理者によってその内容をみだりに第三者に知らせてはならないものとされている符号
二  当該利用権者等の身体の全部若しくは一部の影像又は音声を用いて当該アクセス管理者が定める方法により作成される符号
三  当該利用権者等の署名を用いて当該アクセス管理者が定める方法により作成される符号
3  この法律において「アクセス制御機能」とは、特定電子計算機の特定利用を自動的に制御するために当該特定利用に係るアクセス管理者によって当該特定電子計算機又は当該特定電子計算機に電気通信回線を介して接続された他の特定電子計算機に付加されている機能であって、当該特定利用をしようとする者により当該機能を有する特定電子計算機に入力された符号が当該特定利用に係る識別符号(識別符号を用いて当該アクセス管理者の定める方法により作成される符号と当該識別符号の一部を組み合わせた符号を含む。次条第二項第一号及び第二号において同じ。)であることを確認して、当該特定利用の制限の全部又は一部を解除するものをいう。

(不正アクセス行為の禁止)
第三条  何人も、不正アクセス行為をしてはならない。
2  前項に規定する不正アクセス行為とは、次の各号の一に該当する行為をいう。
一  アクセス制御機能を有する特定電子計算機に電気通信回線を通じて当該アクセス制御機能に係る他人の識別符号を入力して当該特定電子計算機を作動させ、当該アクセス制御機能により制限されている特定利用をし得る状態にさせる行為(当該アクセス制御機能を付加したアクセス管理者がするもの及び当該アクセス管理者又は当該識別符号に係る利用権者の承諾を得てするものを除く。)
二  アクセス制御機能を有する特定電子計算機に電気通信回線を通じて当該アクセス制御機能による特定利用の制限を免れることができる情報(識別符号であるものを除く。)又は指令を入力して当該特定電子計算機を作動させ、その制限されている特定利用をし得る状態にさせる行為(当該アクセス制御機能を付加したアクセス管理者がするもの及び当該アクセス管理者の承諾を得てするものを除く。次号において同じ。)
三  電気通信回線を介して接続された他の特定電子計算機が有するアクセス制御機能によりその特定利用を制限されている特定電子計算機に電気通信回線を通じてその制限を免れることができる情報又は指令を入力して当該特定電子計算機を作動させ、その制限されている特定利用をし得る状態にさせる行為

(不正アクセス行為を助長する行為の禁止)
第四条  何人も、アクセス制御機能に係る他人の識別符号を、その識別符号がどの特定電子計算機の特定利用に係るものであるかを明らかにして、又はこれを知っている者の求めに応じて、当該アクセス制御機能に係るアクセス管理者及び当該識別符号に係る利用権者以外の者に提供してはならない。ただし、当該アクセス管理者がする場合又は当該アクセス管理者若しくは当該利用権者の承諾を得てする場合は、この限りでない。

(アクセス管理者による防御措置)
第五条  アクセス制御機能を特定電子計算機に付加したアクセス管理者は、当該アクセス制御機能に係る識別符号又はこれを当該アクセス制御機能により確認するために用いる符号の適正な管理に努めるとともに、常に当該アクセス制御機能の有効性を検証し、必要があると認めるときは速やかにその機能の高度化その他当該特定電子計算機を不正アクセス行為から防御するため必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

(都道府県公安委員会による援助等)
第六条  都道府県公安委員会(道警察本部の所在地を包括する方面(警察法 (昭和二十九年法律第百六十二号)第五十一条第一項 本文に規定する方面をいう。以下この項において同じ。)を除く方面にあっては、方面公安委員会。以下この条において同じ。)は、不正アクセス行為が行われたと認められる場合において、当該不正アクセス行為に係る特定電子計算機に係るアクセス管理者から、その再発を防止するため、当該不正アクセス行為が行われた際の当該特定電子計算機の作動状況及び管理状況その他の参考となるべき事項に関する書類その他の物件を添えて、援助を受けたい旨の申出があり、その申出を相当と認めるときは、当該アクセス管理者に対し、当該不正アクセス行為の手口又はこれが行われた原因に応じ当該特定電子計算機を不正アクセス行為から防御するため必要な応急の措置が的確に講じられるよう、必要な資料の提供、助言、指導その他の援助を行うものとする。
2  都道府県公安委員会は、前項の規定による援助を行うため必要な事例分析(当該援助に係る不正アクセス行為の手口、それが行われた原因等に関する技術的な調査及び分析を行うことをいう。次項において同じ。)の実施の事務の全部又は一部を国家公安委員会規則で定める者に委託することができる。
3  前項の規定により都道府県公安委員会が委託した事例分析の実施の事務に従事した者は、その実施に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。
4  前三項に定めるもののほか、第一項の規定による援助に関し必要な事項は、国家公安委員会規則で定める。
第七条  国家公安委員会、総務大臣及び経済産業大臣は、アクセス制御機能を有する特定電子計算機の不正アクセス行為からの防御に資するため、毎年少なくとも一回、不正アクセス行為の発生状況及びアクセス制御機能に関する技術の研究開発の状況を公表するものとする。
2  前項に定めるもののほか、国は、アクセス制御機能を有する特定電子計算機の不正アクセス行為からの防御に関する啓発及び知識の普及に努めなければならない。

(罰則)
第八条  次の各号の一に該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一  第三条第一項の規定に違反した者
二  第六条第三項の規定に違反した者
第九条  第四条の規定に違反した者は、三十万円以下の罰金に処する。

附 則
この法律は、公布の日から起算して六月を経過した日から施行する。ただし、第六条及び第八条第二号の規定は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
附 則 (平成一一年一二月二二日法律第一六〇号) 抄
(施行期日)
第一条  この法律(第二条及び第三条を除く。)は、平成十三年一月六日から施行する。
                                            弁護士 三木秀夫

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