球団側にプロ野球選手の肖像使用許諾権(2006年08月01日)パブリシティ権 |
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○プロ野球球団がゲームソフトや野球カードなどに使われる選手の肖像や名前を一元的に管理しているのは不合理として、選手34人が、球団に肖像の使用を認める権利がないことの確認を求めた訴訟の判決が1日、東京地裁であった。高部真規子裁判長は「肖像の一元管理はゲームメーカーなど利用者の便宜を図るもので合理性がある」とし、選手側の訴えを退けた。選手側は控訴する方針。
原告は高橋由伸選手や松坂大輔選手ら各チームの主力選手。訴えられたのは、楽天とソフトバンクを除く10球団。 野球選手は「選手の肖像権は球団にある」と規定する各球団統一の契約書で契約している。選手側は肖像権一元管理の不合理性とともに、「契約上、球団にある肖像権の使用は球団の宣伝目的に限られ、ゲームやカードのような商品に使う肖像権は選手に属する」と主張していた。高部裁判長は「肖像利用の目的を宣伝と商品化で区別することは困難。商品化利用も球団の知名度向上に役立ち、宣伝効果がある」と判断した。 (産経Web2006年08月01日)
○肖像権裁判は選手会敗訴…地裁「球団に帰属」
労組・日本プロ野球選手会(宮本慎也会長=ヤクルト)に属する選手らが、所属球団に対して肖像権使用許諾権が球団に属さないことの確認を求めていた民事訴訟の判決公判が1日、東京地裁(高部真規子裁判長)で行われ、選手ら原告側の請求が全面的に棄却された。02年8月から約4年間争われてきた裁判は、選手会側の敗訴で決着した。
きっかけになったのは、2000年に日本野球機構がゲームに関する選手の肖像などの利用をコナミ株式会社に独占させる認可を与えたことだった。機構側の「1社独占契約」に対し、選手会側は02年8月にコナミも含めて提訴。争点は、選手肖像権の帰属について明記された統一契約書16条をめぐる解釈に発展。機構とコナミの契約切れに伴い、原告が選手会に属する巨人・高橋由ら選手34人、被告は所属球団にそれぞれ変わって、係争されてきた。選手会側は、球団が選手の肖像権を独占的に使用するのは独占禁止法違反と主張。選手の肖像権は宣伝目的に限られるとし、商業的使用に関しては選手会側にも使用権利があると訴えてきた。しかし、判決では、統一契約書16条は「選手が球団に対してその氏名及び肖像の使用を独占的に許諾したもの」と認定。独禁法にも抵触しないとした。その一方で、同16条は1951年に起案されて以降変更されていない点も指摘。「時代に即して再検討する余地のあるもの」と付言し、肖像権使用の分配金も球団と選手との間で再協議するよう判決では促している。(2006年8月2日スポーツ報知)
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○プロ野球選手の肖像権の帰属を争った訴訟で、選手側が敗訴した。
宮本慎也日本プロ野球選手会会長(ヤクルト)、高橋由伸(巨人)ら10球団の34選手(多くは提訴時に選手会の幹部で、05年から参入したソフトバンクと楽天は外れている)が、それぞれの所属球団を相手に、プロ野球ゲームソフト及びプロ野球カードにつき、各被告らが第三者に対して各原告らの氏名及び肖像の使用許諾をする権限を有しないことの確認を請求していた。
これに対し、被告球団らは、野球選手契約に用いられる統一契約書16条により、原告らの氏名及び肖像の商業的利用権(パブリシティ権)が被告らに譲渡され、又は被告らに独占的に使用許諾されている旨を主張した。
これに対して、東京地裁知財部の高部真規子裁判長は、「許諾権限は球団側にある」と判断し、権限が球団側にないことの確認を求めた選手側の請求を棄却した。判決の決め手は、各球団の「統一契約書第16条」の解釈であったようだ。
○この事件のそもそもの始まりは、日本野球機構が2000年4月に、コナミとの間で、全球団の選手名のプロ野球ゲームソフトへの独占的使用許諾契約を締結し、ゲームソフトへの商品化権とそれに関わるサブ・ライセンスを与えたことにあった。この契約によって、コナミ以外のゲーム会社は、同じようなゲームが出せなくなり、ファンのすそ野を広げる阻害要因となり、選手にとっても大きな影響を与えるものであるにもかかわらず、機構は選手会には何の相談もなく一方的に行ったものであった。
選手会は、機構との話し合いの席で解決を図ろうとしたが進展せず、選手会は肖像権の管理をもはや機構側に任せておけないと判断して、00年11月に包括的な使用に限って選手会が肖像権を管理すると同機構に通告した。その後提訴。
○一方、03年4月22日、公正取引委員会はコナミに対し、プロ野球選手を実名で登場させるゲームの商品化許諾権を独占して他社の参入を不当に妨害した疑いがあるとして警告を行ったことを明らかにした。
公正取引委員会によると、この契約では特段の合理的理由がない限りコナミ以外のメーカーに対しても同商品化権・サブライセンスを再許諾するとしたにも関わらず、コナミは一部のソフトメーカーへの再許諾契約を遅延、または断念させたとした。コナミは、この警告に対し「コナミでは2000年4月からスポンサー料を野球機構に支払い、プロ野球選手の氏名・肖像等をプロ野球ゲームソフトの制作販売等に『独占的に』使用する権利の許諾を受けてきた。しかしできる限り他のゲームソフト・メーカーも同ゲームソフトを制作し販売することが、日本のプロ野球界とゲームソフト業界全体の発展に資することが重要であると考え、他のゲームソフト・メーカーに対してもサブ・ライセンスを行ってきた経緯がある。今回、このような方針が公正取引委員会に十分理解されなかったのは誠に遺憾」との声明を発表していた。現在は、日本野球機構とコナミとの独占的契約は延長されずに終了し、メーカーと個別に契約を結ぶ方式へと変更されている。
○このような、本件訴訟外での動きからして、球団とコナミの行ってきた選手の肖像権に関する扱いに多くの問題点があることは認識されてきた感があり、50年以上前に作られたこの統一契約書は、時代遅れの内容がかなり多いことは、球団側も認めていたところでもあった。その流れからして、今回の判決結果はやや意外な感じがする。
そもそも肖像権は「人格権」の一部であり、球団側に一方的に有利な統一契約書第16条は制限的に解釈されるべきだったのではないか、と思う。
○なお、この判決では、この統一契約書第16条に関して「時代に即して再検討する余地もある」とも付言した。
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○統一契約書第16条
球団が指示する場合、選手は写真、映画、テレビに撮影されることを承諾する。なお、選手はこのような写真出演等に関する肖像権、著作権等のすべてが球団に属し、また球団が宣伝目的のために、いかなる方法でそれらを利用しても、異議を申し立てないことを承認する。なおこれによって球団が金銭の利益を受ける時、選手は適当な分配金を受けることができる。さらに選手は球団の承諾なく、公衆の面前に出演し、ラジオ、テレビのプログラムに参加し、写真の撮影を認め、新聞雑誌の記事を書き、これを後援し、また商品の広告に関与しないことを承諾する。
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○東京地裁平成18年8月1日判決
(平成17年(ワ)第11826号肖像権に基づく使用許諾権不存在確認請求事件)
(高部判決)を要約したら次のとおりでないか。
原告・選手の主張
@選手の氏名・肖像に係る統一契約書第16条は、法律上選手個人に帰属する肖像権を一方的に奪う不公正・不合理な附合契約であり、民法90条違反で無効
A球団が選手の肖像権を奪う統一契約書第16条は独禁法の「優越的地位濫用行為」または「拘束条件付取引」であり無効
Bプロ野球選手契約は選手の交渉力が奪われた状態でなされたもので、球団の優越的地位を利用した契約であり、選手にとって不当に不利益な場合にこの契約の条項の効力を主張することは信義則に反し無効
被告球団側の主張
@原告選手の氏名・肖像の商業的利用権(パブリシティ権)は、統一契約書第16条により球団に譲渡または独占的に使用許諾されており、このことは長期にわたり原告選手も認識していて有効
Aプロ野球選手の肖像権の価値は、球団の莫大な投資とリスク負担の結果として生じたものであるから、球団がそれを管理することには合理性があり有効
Bプロ野球選手は球団から「適当な分配金」を受けるなど、公序良俗違反でない契約内容であるから有効
高部判決の判決理由
@統一契約書第16条では「球団が指示する場合、選手は写真、映画、テレビに撮影されることを承諾する。」とし、「また球団が宣伝目的のために、いかなる方法でそれらを利用しても、異議を申し立てない」とある。選手の肖像権に関する全ての権利が球団に属し、球団は「宣伝目的」のためにいかなる方法でも利用できる。
A「宣伝目的」とは、統一契約書がアメリカ大リーグを参考に作られた際に、「パブリシティ」(氏名や肖像が持つ経済的価値を独占的に支配する財産的権利)を「宣伝」と訳した経緯、それ以前にも巨人の別所毅彦選手のブロマイドや、阪神の藤村富美男選手らの氏名や肖像を使用した玩具などで、それぞれの球団などがこれを許諾していた事情から、この統一契約書もそうした慣行をもとに制定されたと考えられることから、「広く球団、プロ野球の知名度向上に役立てる目的」と定義でき、広告宣伝だけでなく、選手の氏名や肖像を商業的に使用する場合も、球団やプロ野球の知名度の向上に役立つ限りこれに含まれる。したがって、選手側の主張(「宣伝目的」とは「広告宣伝目的」だけであって「商品化目的」は含まないとの主張)は認められない。
Bゲームソフトなどへの選手肖像権の使用は、この目的にかない、選手も長期間にわたって許容してきた。
C現状として、球団が多大な投資を行って選手の商品価値を向上させている状況に適合し、球団や選手の商品価値が低下する事態を防止するために使用形態を管理するという必要性を満たしている。また、交渉窓口を一元化してライセンシーの便宜を図っているし、結果として選手の氏名や肖像使用の促進にもつながる。
Dただし長年にわたり変更されておらず、時代に即して再検討する余地はある。
○判決全文
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=07&hanreiNo=33398&hanreiKbn=06
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○「肖像権」(スポーツ報知が報じた今回の記事での説明文)
肖像(人の姿・形及びその画像など)が持ちうる人権を意味する。自分の肖像を他人にみだりに撮影されたり、使用されたりしない権利(人格権)と、著名人らが持つ肖像の財産的価値を保護する権利(財産権)があり、プライバシー権の一部として位置づけられる。有名人の場合は、その性質上個人のプライバシーが制限される反面、一般人には認められない財産的価値があると考えられ、アイドル歌手などの写真を勝手に販売したり、インターネットで配布するなどして問題となることが多い。
○「肖像権とスポーツ」(西日本新聞が報じた今回の記事での説明文)
肖像権には、自分の肖像を他人にみだりに撮影されたり、使用されたりしない権利(人格権)と、著名人らが持つ肖像の経済的権利を保護する権利(財産権)があるとされる。スポーツ選手の場合は、財産権を保護すると同時に、同権を利用してビジネス展開するケースが多い。Jリーグは選手の肖像権はリーグが管理。米大リーグでは選手会が管理。日本オリンピック委員会(JOC)加盟の競技団体では、かつてはJOCが一括管理し、選手の広告出演で強化費を集めていたが、選手の"プロ化"が進んだことで肖像権は個人や競技団体が管理するなど多様化している。
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○肖像権とパブリシティ権
肖像権は、法律には規定がなく、判例で認められてきた権利である。
肖像には、@人格的な利益と、A経済的な利益がある。
通常は前者@の人格的な利益を侵害する者に対する撮影拒絶権としての肖像権、及び公表拒絶権としての肖像権を指す。この権利が侵害された場合、損害賠償の対象になるほか、差止めも可能とされている。ただし、肖像の作成・公表が公共の利害に関し、「もっぱら公益目的」でなされ、その「公表内容が相当と考えられる場合」や、報道の自由の見地から記事と一緒に肖像写真が掲載され記事と一体のものと判断されて記事が名誉毀損に該当しない場合などは、肖像権侵害にならない。
後者Aの経済的利益面に着目して構成される権利を、特に「パブリシティ権」(right of publicity)という。パブリシティ権は、アメリカの判例で生まれ、日本では「マーク・レスター事件」(東京地判昭和51年6月29日判時817号23頁)、光GENJI事件(東京地判平成元年9月27日判時1326号137頁)、おニャン子クラブ事件(東京高判平成3年9月26日判時1400号3頁)などで認められるようになった。 |
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