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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
公取委のソフトバンク調査が他社波及(2006年11月18日)景表法・不当表示
○携帯電話の料金広告表現、全社を公取委が調査2006.11.18) 
ソフトバンクモバイルの広告に景品表示法違反の疑いがあるとして公正取引委員会が調査を始めたことがきっかけで、携帯電話の広告表現問題が業界全体に広がる可能性も出てきた。NTTドコモ、KDDI(au)、ウィルコムは17日までに、自社の広告について公取委の調査を受けていることを明らかにした。携帯電話の料金体系が複雑さを増すなか、消費者に誤解を与えない表示が求められている。

公取委はソフトバンクの「通話0円、メール0円」などの広告内容が景品表示法に違反する可能性があるとして調査に着手。ソフトバンクは広告を変更するとともに同業他社の広告と比較して大きく変わらないと主張し、公取委に他社に対する調査を要請した。 (日経NETT 2006.11.18) 

○公取委がソフトバンク調査・「通話0円、メール0円」景表法違反か(2006.10.31)
公正取引委員会が、ソフトバンクモバイルの携帯電話の広告内容が景品表示法などに違反している疑いがあるとして、調査を始めたことが31日、分かった。公取委は30日、ソフトバンクモバイルの担当者を呼んで説明を受けた。ソフトバンクモバイルが顧客同士の通信料金を「通話0円、メール0円」と強調しているのが景品表示法の「有利誤認」に当たる可能性があると、KDDI(au)とNTTドコモが指摘。KDDIが公取委に相談を持ち掛けていた。ドコモとKDDIは、午後9時から翌日午前零時台までの無料通話時間に制限があることなど条件の表示が小さく、顧客に誤解を与える恐れがあると主張している。また「通話0円、メール0円」を利用する際に新たに契約が必要となり、この契約に基づく基本使用料について「定価9600円」を2880円へと大幅に割り引くとしている点に対し「そもそも定価の意味が不明」などと指摘、「不当表示」に当たるとしていた。ソフトバンクモバイルは「公取委に説明をしたのは事実だが、法律を守っていると考えている」(広報部)と反論している。 (共同通信 2006.10.31)

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○10月に始まった番号ポータビリティ制度を受けてのソフトバンクの新戦略「予想外割」の新聞テレビのCMで、「0円」という文字を巨大にた広告が嫌目を引いた。まさかという思いで見たが、どう考えても0円ではソフトバンクの収益はどこから生まれるのか、不思議に感じ、絶対に何か大きな裏があると感じた。新聞広告の欄外に小さな文字で何かが書かれているのには気がついたが。

そのうちに、0円とは言うものの、基本料金は別で、しかも無料通話・メールの条件が「ソフトバンク携帯同士の通話等に限定される」ことや、「無料通話時間には制限がある」こと、「端末の割賦販売利用がゴールドプランの加入条件になっていること」などの条件があると聞こえてきた。広告の欄外の小さなく表記は、そういったことを書いていたようであった。

しかし、これでは、私のようなドコモ携帯の者にとっては、周りにソフトバンク携帯の者が多くなければ、むしろ通話料が高くなってしまいかねないが、0円の表示に釣られてソフトバンクが一番安いと簡単に誤解してしまいかねない。これは、まさに一種の消費者問題に他ならないと直感した。

○やはりとは言え、この広告をKDDIが公正取引委員会に調査を依頼した。そして公正取引委員会は直ちにこの広告に景品表示法第4条「不当な表示の禁止」(有利誤認)に違反する疑いがあるとして調査を開始したのは当然であろう。ソフトバンクも、その後は「0円」の文字を小さく、欄外にあった記載を大きくしたが、遅きに失したであろう。

○ちなみに、ソフトバンクの基本料70%OFFの扱いについても問題が指摘されている。特定期間の契約者のみを、長期に渡って優遇し続けるのは、電気通信事業法第19条にて禁止されている「特定の者に対し不当な差別的取扱い」に該当する可能性がある。

ソフトバンクにとっては、同法違反を避けるためにキャンペーン期間終了時の2007年1月16日以降も70%割引を継続すると、今度は景品表示法第4条「不当な表示の禁止」(不当な二重価格表示)に違反してしまう。孫社長はどうするのであろうか。 

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景品表示法とは
正式には「不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年5月15日法律第134号)」という。

この法律は、商品及びサービス(役務)の取引に関連する不当景品や不当表示による顧客への誘引を防止して公正な競争を確保し、一般消費者の利益を保護することを目的として、独占禁止法の特例として定められた法律である(同法1条)。 

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不当表示
景表法によれば、商品や役務の表示が、「不当な表示」(景表法4条)に該当する場合は、公正取引委員会は排除命令(6条)を出すことができる。

「不当な表示」とされる場合は以下の3類型がある(景表法4条1項)。
   
@優良誤認表示(品質、規格、その他の内容についての不当表示)(1号)
【イ】商品などの内容について、実際のものよりも著しく優良であると示すもの
例:カシミヤが80%なのに「カシミヤ100%」とする表示など
【ロ】事実に相違して他の事業者のものよりも著しく優良であると示すこと
例:「合成保存料不使用は当社のみ」と表示しているが他社でも出されているなど

A有利誤認表示(価格その他の取引条件についての不当表示)(2号)
【イ】取引条件が実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示
例:当選者のみがその商品を買えると表示であるが、実際は応募者全員が当選となる場合
【ロ】他の事業者のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示
例:「他社のどの商品よりも随分お得」と表示だが実際は他社と一緒もしくはそれ以下 

Bその他の指定不当表示(3号)
前の二つのほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認めて公正取引委員会が指定した表示
現在指定されているものは以下の6つである。
(1)無果汁の清涼飲料水等についての表示
(2)商品の原産国に関する不当な表示
(3)消費者信用の融資費用に関する不当な表示
(4)不動産のおとり広告に関する表示
(5)おとり広告に関する表示
(6)有料老人ホーム等に関する不当な表示(平成16年10月1日施行)

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○景表法4条は、かつては第2項が無かったが、2003年5月16日に改正され(同年11月23日施行)、2項を設けて不当表示に対する規制を強化した。

これは、以前から、「この健康食品を飲めば食事制限なしで20キロ痩せる」と表示しながら、それを裏付けデータが全くないという優良誤認表示があり、公正取引委員会が表示通りの効果がないことを立証しなければ不当表示には該当しないと考えられ大きな労力を必要とするなどの不都合が指摘されていた。

このため2003年の改正で2項が新設され、公正取引委員会は、不当な表示か否かを判断するため必要があると認めるときは、当該表示をした事業者に対し、期間を定めて、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができ、この提出のない限り、当該表示は不当表示と認定できることになった。

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○今回のソフトバンク広告において問題となったのは、前記の景表法4条1項2号の「有利誤認」である。

つまり、ソフトバンク携帯の商品やサービスの価格や取引条件が、実際よりも著しくお得であるように思わせたり、競合するドコモやKDDよりも著しく有利であると誤認させたりしたのではないか、というものである。

○この「有利誤認」については、最近も問題となった例として「みずほ銀行チラシ事件」がある。
これは、みずほ銀行が2006年3月に店頭で配布した住宅ローンのチラシが、本来は3月31日までに借り入れを実行しなければ表示どおりの金利が適用されないのに、3月31日までに申し込んでも6月30日までに借り入れをすれば適用されると誤認されるような広告内容となっていたものであり、注意書きも離れた場所に小さく書かれていた。公正取引委員会は、平成18年8月に同銀行に警告を行った。 

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○不当景品類及び不当表示防止法
(昭和三十七年五月十五日法律第百三十四号)

(不当な表示の禁止)
第四条  事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号に掲げる表示をしてはならない。
一  商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と競争関係にある他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示すことにより、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示
二  商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と競争関係にある他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認されるため、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示
三  前二号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認めて公正取引委員会が指定するもの
2  公正取引委員会は、前項第一号に該当する表示か否かを判断するため必要があると認めるときは、当該表示をした事業者に対し、期間を定めて、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる。この場合において、当該事業者が当該資料を提出しないときは、第六条第一項及び第二項の規定の適用については、当該表示は同号に該当する表示とみなす。
                                            弁護士 三木秀夫

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