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三木秀夫法律事務所
このページは最近話題になったニュースを題材にして、そこに関係する各種法令もしくは
判例などを解説したものです。事実関係は,報道された範囲を前提にしており、関係者の
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2009年12月から、このページは休止とさせていただきました。
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ご関心のある方は、そちらをご覧ください。

ニュース六法目次
出会い系使い結婚すると嘘ついて6800万詐取(2006年12月08日)結婚詐
○出会い系使い結婚詐欺 女性から6800万円だまし取る
出会い系サイトで知り合った複数の女性に「結婚する」とうそをついて約6800万円をだまし取ったとして、石川県警大聖寺署は8日、住所不定、無職のO容疑者(48)=別件の詐欺罪で公判中=を詐欺の疑いで金沢地検小松支部に追送検した、と発表した。調べによると、O容疑者は設計会社の社長と偽って、出会い系サイトを通じて女性に近づき、04年3月から05年10月にかけ、滋賀県内のパート店員の女性(46)から3710万円、同様に05年6月から今年5月にかけ、奈良県内の無職女性(36)から3068万円をそれぞれだまし取った疑い。O容疑者は産高級車に乗り、女性を一流レストランに連れて行くなど紳士的に接して信用させたうえ、「従業員に会社の金を持ち逃げされた」「米国にいい投資の話がある」などと持ちかけたという。実際に婚姻届に名前を書いて渡すこともあったといい、女性らは預貯金を解約したり、消費者金融から借金をしたりして金を工面していたという。同署によると、ほかにほぼ同時期に三重、滋賀、奈良、福井のいずれも40代女性4人も同様の被害にあっており、被害総額は1億円にのぼる。O容疑者はだましとった金で遊興していたほか、女性たちにブランド品や高級車をプレゼントしていた。容疑を認め、「申し訳ないことをした」と供述しているという。 (報道では実名)(Asashi.com2006.12.08)

○2億円詐取:医師詐称、女性120人に結婚ほのめかし
国立大学病院の脳外科医と偽って結婚をほのめかし女性から金をだまし取ったとして、詐欺容疑で福岡県警前原署に逮捕された住所不定、無職、Y被告(49)=詐欺罪で起訴=が、7年間で約120人の女性から計約2億円を詐取したと供述した。同署はこのうち、裏付けが取れた4人への約6000万円分について福岡地検に詐欺容疑で追送検した。Y被告は昨年8月、インターネットで知り合った福岡県糸島郡内の女性(46)に結婚をほのめかし「手術で失敗した時に備える保険料が要る。後で返す」と言って現金380万円をだまし取ったとして4月に逮捕された。この女性からは計2800万円をだまし取っていた。Y被告がだまし取った女性は東京、大阪、宮崎など9都府県の30〜40代。詐取した金は飲食費や競艇などのほか、ホテル住まいのため宿泊費にも充てていた。Y被告は六つの偽名を使い、ネット上の結婚情報サイトに登録。知り合った女性とメールのやりとりの後、デートに誘い、白衣や聴診器を見せ信用させていた。調べに対し「丁寧な言葉遣いをし、5回会えばうまくいった」と豪語しているという。不審に思った女性が大学に問い合わせ、名簿に名前が記載されていないことが分かると、「派遣されているので載っていない」と言い逃れていたという。(報道では実名)(毎日新聞 2006年11月23日)

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○「世の中には三種類の詐欺師がいる。人を騙し金銭を持ち上げるシロサギ、異性を餌とし人の心をもて遊ぶアカサギ。そしてシロサギとアカサギだけを餌とする史上最強の詐欺師がいる。詐欺師を騙す詐欺師。その名前はクロサギ。」

2006年春にTBS金曜夜10時から放映していたテレビドラマ『クロサギ』のナレーションである。詐欺師をだます詐欺師、黒詐欺をサスペンスタッチで描く同名コミックをドラマ化であった。

第1話 財団融資詐欺、第2話 結婚詐欺、第3話 宝石詐欺師、第4話 大企業詐欺、第5話 ブランド詐欺、第6話 共済組合詐欺、第7話 霊感商法詐欺、第8話 欠陥住宅詐欺、第9話 なりすまし詐欺、第10話 通信販売詐欺、第11話(最終話) フランチャイズ・チェーン詐欺と、詐欺のオンパレード。
(番組公式ホームページhttp://www.tbs.co.jp/kuro-sagi/)

○上のナレーションでいう三種の詐欺師(シロサギ・アカサギ・クロサギ)は、いずれもその業界での隠語である。

プロをだますのが「クロサギ」なら、素人をだますのが「シロサギ」という。2番目の「異性を餌とし人の心をもて遊ぶアカサギ」は結婚詐欺のことを指している。語源が何かはよく分からないが、人を罠にはめた後で、しめしめとばかりにペロリと赤い舌を出すことからきていると聞いたことはある。

さらに「アオサギ」というのもあって、会社や不動産関係の書類偽造などを行う詐欺を指すようである。

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結婚詐欺は、結婚の約束をして女性(逆もあるが)を信用させ、恋愛感情をうまく操りながら、故意に相手から金品を詐取することをいう。この詐欺は、単に金品を奪うだけではなく、精神面を著しく踏みにじる行為で絶対に許せる犯罪ではない。

今回の上記2件の事件の社長を装いながら「従業員に会社の金を持ち逃げされた」、医師を装いながら「手術で失敗した時に備える保険料が要る。後で返す」などは代表的な手口である。「借金があり結婚前に清算したい」とか「独立開業してから結婚したい」などもある。一般的に女性が被害者になることが多い。

○これらは、最初から結婚するつもりも無いのに、騙して金銭を奪うわけであるから詐欺罪ではあるが、刑事事件として立件するのがなかなか困難なのが実情である。

金銭授受の証拠があってもなくても、これは同じである。まず証拠になるような領収書などが無いケースは、金銭授受自体を否認された場合に立証が難しい場面がある。これが意外に多く、結婚約束をするほど相手を信用している場合に、借用書や領収証などの交付を求めることが無いからである。そんな要求をしても、「私が信用できないのですか」という顔をされたら、結婚を考える立場からは引いてしまうことが多い。

また、逆に借用証や領収書を書いていたとしても、後日もめてから、「あれはお金を借りただけ」と言われてしまえば、詐欺(故意に虚偽の事実を述べて騙して金銭を取ること)であることの立証が大変に難しくなるからである。借りた当事は返すつもりであって、騙す意図は無かったという理由が立ちうるからである。むしろ、より巧妙な相手ならば、むしろ借用書を持参する場合もある。

今回の両事件が、どのような証拠で立件までたどり着いたかは分からないが、騙されたと分かってからでは遅いことが多い。いくら親しくなっても、お金を渡してしまう場合は、領収書や銀行振り込み控えなどは必ず保存しておく必要はある。また、当然ではあるが、相手の氏名・生年月日・住所などは、免許証などの公的証明書で確認しておくことも必要。また、付き合いの際の状況などを日記などを付けていれば、それ自体がかなりの証拠能力を持つ。

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○結婚詐欺ということで相談を受けていると、実は「婚約破棄」と考えた方がいいようなケースが多い。

「婚約破棄」とは、結婚する意志の合致のもとで付き合いをしていたのに、何らかの事情で一方的に結婚することをやめることをいう。お金を渡していたようなケースでも、結婚詐欺とこの「婚約破棄」との区分が不明確な場面は多い。結婚詐欺というためには、相手方に「結婚する意志があったかのかどうか」がポイントになるが、内心の立証が非常に難しい。「結婚する予定でいた」と言われてしまえば、それ自体は本人の内心のために、違うという立証が難しく、結局、結婚するつもりがあったが破棄した(婚約破棄)に行きついてしまう。ただ、常習的に複数の相手から金品を取っていた場合は、詐欺性の大きな立証要素になると思われる。

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○刑事告訴が難しくても、民事事件として、渡したお金の返還を求めることは可能である。当然に相手が否認してくる可能性はあり、詐欺の立証は必要となるが、刑事事件ほどの厳格な立証までは求められない。少なくとも、借用証や領収書があれば、それを理由とした返還を求めることもできる。

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○詐欺罪は、人を欺いて財物を交付させた者、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者に成立し、法定刑は10年以下の懲役(刑法第246条)。未遂も罰せられる(同法第250条)。

○刑法
(詐欺)
第246条  人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
(未遂罪)
第250条  この章の罪の未遂は、罰する。

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○平成17年10月4日東京地方裁判所第13民事部判決
(婚姻する意思がないのに、その真意を秘して、経営する飲食店の開業準備・経営について資金援助をすれば婚姻するものであると誤信させて、総額2095万円の金員を交付したことに対して、不法行為を認めた判例)

主 文
1 被告らは,原告に対し,各自1330万円及びこれに対する平成16年10月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを5分し,その3を被告らの,その余を原告の負担とする。
4 この判決の第1項は仮に執行することができる。
事 実
第1 当事者の求めた裁判
(中略)
(2)予備的請求(不法行為)
ア 平成10年秋ころ以降,被告A(以下「被告A」という。)は原告と婚姻する意思がないのに,被告らは,かかる被告Aの真意を秘し,原告が被告らが経営する飲食店「○○」(平成12年6月に開店)の開業準備・経営について,資金援助をすれば被告Aが原告と婚姻するものであると,原告を誤信させた。
イ 原告は,アの欺罔行為により錯誤に陥り,被告らに請求原因(1)アないしエ記載のとおり,総額2095万円の金員を交付した。
ウ 被告らは,上記金員の交付を受けた後,「○○」で原告とともに勤務する間,原告に,食器洗い,ゴミ捨てなどのつまらない仕事しか与えない,無視をするなどのいじめを日常的に繰り返し,平成12年8月ころ,「○○」から追い出した。
エ よって,原告は,被告らに対し,上記不法行為に基づく損害賠償債務のうち一部弁済後の残金2030万円及びこれに対する不法行為後の平成16年10月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(中略)
理 由
1 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。
(中略)
3 予備的請求(不法行為)について
(1)原告は,被告Aに当初から原告と結婚する意思がないのに,被告らが言葉巧みに,原告に被告Aと結婚できると思わせ,原告から店舗開業資金等を提供させ,いわゆる結婚詐欺により資金を騙し取った旨主張している。しかし,上記認定の経過に照らすと,被告Aは,平成11年12月頃,原告と婚約し,平成12年3月には,挙式の日取り及び場所を決めて,招待状を発送しており,破談になるまでは,原告と結婚する意思を有していたと認められる。被告Aが,店舗の契約を急いだことが,原告の父Cに不信感を抱かせ,破談に至ったことが窺われるが,被告Aの婚姻意思自体を疑う理由にはならない。
(2)しかしながら,婚約が破談になった後に,被告甲山が,原告が被告Aとの結婚をあきらめられず,結婚の希望を抱いていることを利用して,資金提供を促したことには,違法性があると認められる。
原告は,被告Aとの結婚を前提にそれまでも資金を被告Aに供与していたが,被告Aとの結婚の可能性がないとすれば,原告が更に資金を被告らに提供したとは思われない。
被告Aは,原告との結婚を白紙に戻す考えであったと認められるが,もともと原告との結婚に乗り気でなく,結婚を決意しても特に原告を好きであった訳ではなく,30歳前には結婚したいと考えていたこと及び原告との結婚で生活が安定し,店が持てるというのが主な動機であったのであるから,家を出て,Dを辞め,蓄えを供出した原告と結婚に至る可能性はなかったと考えられる。被告甲山は,被告Aが原告と結婚する可能性がないことを知りながら,原告からキャッシュカードなどを預かり,ほぼその全額を引き出し,被告らは,その資金を被告らが中心となって経営する本件店舗の開業資金に用いたものであると評価できる。そして,本件店舗の開店後間もなく,被告甲山は,原告に対し,被告Aには原告と結婚する意思がないことを告げ,原告が本件店舗を去るように仕向けたことからも被告らの悪意が裏付けられる。
なお,その後の経過をみても,被告らは,原告が本件店舗に戻るのを受け容れたものの,本件店舗の経営に実質的に関与させることなく,有限会社○○を設立し,被告Aがその出資者となっていることに照らすと,原告を正当な出資者として扱う姿勢があったとは認められない。
(3)以上によれば,被告らは原告と被告Aとの婚約が破談になった後,意思を通じて,本件店舗の開店のために,原告が被告Aとの結婚の可能性に期待を抱いていた状況を利用して,資金の提供をさせたのであり,不法行為が成立すると認められる。
原告の損害は,1395万円から,原告がその後に返済されたことを自認する65万円を除いた1330万円であると認められる。
4 よって,原告の主位的請求である貸金請求は理由がなく,予備的に請求する不法行為に基づく損害賠償請求は上記の限度で理由があるから,主文のとおり判決する。

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○昭和60年12月24日東京高等裁判所判決
(結婚詐欺の事案について、寸借詐欺として構成されている主位的訴因を認容した原判決を破棄した上、控訴審において追加した予備的訴因「結婚相手を装って接近し深く交際した上,同女をして被告人との結婚を前提に被告人の事業に協力させるという名目で,同女から金員を騙取した」という事実を認容して有罪とした事例)(高等裁判所刑事裁判速報集昭和60年261頁)

理   由
所論は,原判示第3の事実について,原判決は,被告人がA女に対し,金員を返済する意思も能力もないのにそれがあるように装って借用金名下に同女から現金800万円を騙取した旨認定しているが,被告人は,同女から,右の800万円を営業用の事業資金として借用したものであって,返済の意思があり,またその能力もあったものであるから,原判決には,判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認がある,というのである。
そこで,記録を精査し,当審における事実取調の結果を参酌して検討すると,関係証拠によれば,原判示第3の事実については,被告人は,A女と結婚する意思がないのに,自己の美術商としての活躍振り,更にはその経歴や家柄などについて種々虚言を弄して同女の関心を惹いた上,同女に対し結婚を求め,同女が被告人と結婚する気になり肉体関係にも応ずるようになったのに乗じ,当面美術品の買い付けの資金が足りないとして同女に対し手持金の拠出を求めたものであり,また右A女も,被告人に前記のような言動によってだまされて,被告人が同女の結婚相手としてふさわしい男性であると信じ込み,被告人と結婚する意思を固め,被告人に求められるままに,将来の伴侶たるべき被告人の営む事業に協力する目的で,自己の手持預金の大部分である本件800万円という大金を被告人に提供するに至ったものであることが認められるのであって,被告人が,「借用名下に金員を騙取しようとした」こと,「返済する意思や能力があるように装った」こと,「6月一杯に返すと申し向けた」こと,右A女が,「約定どおり返済されるものと誤信」して金員を交付したこと,以上のような事実は全く存在しないことが明白である。
以上の事実関係に徴すれば,被告人は,右A女に結婚相手を装って接近し深く交際した上,同女をして被告人との結婚を前提に被告人の事業に協力させるという名目で,同女から金員を騙取したものであって,返済の意思及び能力があるものと装い,期限を定めるなどして同女から金員を借用したものではなく,また,同女も,約定どおり返済されるものと誤信して本件金員を交付したものではないのであるから,原判決は,被告人のした欺罔行為の態様,被害者の誤信の内容及び金員交付の名目において一部事実を誤認したものであり,それが判決に影響を及ぼすことが明らかであるといわなければならない。論旨は右の限度において理由があり,原判決は破棄を免れない。よって,控訴趣意第2(量刑不当の論旨)に対する判断を省略し,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄し,同法400条但書により当裁判所において更に次のとおり判決する。
1 本件罪となるべき事実は,原判示第1の1及び同第1の2(B女に対する詐欺)並びに同第2(C女に対する詐欺)の各事実のほか,
第3 被告人は,A女(当時29年)が被告人のことを美術商として国際的に活躍している青年実業家であると誤信し,被告人に対し好意を寄せるようになるや,同女と結婚する意思がないのに,結婚すると偽って同女から金員を騙取しようと企て,同女に対し,昭和58年4月上旬ころ,電話などで「あなたには僕しかいない,平凡でもいいから2人で暖い家庭を作ろう。」などと申し向けるなどして被告人との結婚を決意するように促した上,同月10日ころ,都内中央区勝どき二丁目○番○号テイジン・レイメイ・スカイレジテル○○号室(当時の被告人の居室)において,「あなたはやはり僕についてくるべきだ,今絵の買い付けで忙しい,資金繰りが難しい,オークシヨンで絶対落としたい絵がある,僕のためにお金を出してくれないか,僕に尽くすと思って投資してくれないか,それがあなたのためだ。」などと言葉巧みに申し向けて同女の手持金の拠出を要請し,同女をして真実被告人と結婚することができるものと誤信させ,よって,同女から,将来の結婚相手たる被告人の事業に協力するという名目で,その資金として,同月18日ころ右同所において現金490万円の,同月30日ころ都内千代田区有楽町○丁目○番○号日比谷ビル内喫茶店アクトレスにおいて現金310万円の,各交付を受けてこれを騙取したものである。
                                            弁護士 三木秀夫

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