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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
800万円入りのリュックを釣り上げ(2006年12月24日)漂流物と水難救護法
○23日午前7時ごろ、石川県白山市美川永代町の手取川河口で、ルアーでスズキ釣りをしていた白山市内の男性がリュックサックを釣り上げた。中を確かめたところ1万円札で約800万円が入っており、男性は松任署に届け出た。松任署などによると、男性は防波堤で釣りをしていて、手応えを感じたためリールを巻き上げたところ、ルアーの針にリュックサックが引っかかっていた。中には現金のほか防腐剤と紙類が入っていた。海で見つかったため、水難救護法に基づき「漂流物」として白山市が保管し、6か月以内に持ち主が分からない場合、釣り上げた男性に引き渡される。(2006年12月24日 読売新聞)

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○すごいものが釣れたようだ。魚を釣らずしてお金が釣れるとは、驚き以外の何ものでもなかったろう。現場は石川県の手取川右岸にある日本海に延びた突堤の先端付近の川側とのこと。海から漂着してきたのか、それとも川の上流から流されてきたかは分かっていないらしい。このポイントは、ヤンキースの松井秀喜選手の出身地である能美市根上町から近いところ。
  
この記事にあるように、男性は地元の警察署に届け出たが、警察は陸上で見つかった拾得物は管理するが、「漂流物」は水難救護法に基づき市町村が引き継ぎ管理することになっている。

○現金とリュックは市が半年間保管し、所有者が特定できなければ、発見者のものとなる。

問題は、こういった大金拾得の場合にありがちなのが、所有者として複数の人が名乗り出た場合である。通常は、新聞等で公開された特徴以外の情報(色や形など)を、その名乗り出た人が説明できるかどうかであり、それが落とし主特定の決め手になる。このため、拾われた物の特徴や発見時の詳しい状況は、マスコミには明らかにしないのが通常である。市町村で半年間保管した後、所有者が特定できなければ、発見者のものとなる。

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○遺失物の拾得については、民法に基本的な規定がある。

(遺失物の拾得)
民法第240条 
遺失物は、遺失物法(明治三十二年法律第八十七号)の定めるところに従い公告をした後6箇月以内にその所有者が判明しないときは、これを拾得した者がその所有権を取得する。

ここでいう「遺失物法」の特別法として、漂流物や沈没船の場合は「水難救護法」(明治32法律95号)第24条以下の規定が適用される。

○なお、今回のような漂流物も、通常の落し物(遺失物)と同じく、届出をせずにネコババしたら、刑法の遺失物横領罪となる。

刑法(遺失物等横領)
第254条 遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する。

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○水難救護法(明治三十二年三月二十九日法律第九十五号)

第二章 漂流物及沈没品
第二十四条  漂流物又ハ沈没品ヲ拾得シタル者ハ遅滞ナク之ヲ市町村長ニ引渡スヘシ但シ其ノ物件ノ所有者分明ナル場合ニ於テハ拾得ノ日ヨリ七日以内ニ限リ直ニ其ノ所有者ニ引渡スコトヲ得
2 前項但書ノ場合ニ於テハ拾得者ハ所有者ヨリ河川ニ漂流スル材木ニ在リテハ其ノ価格ノ十五分ノ一、其ノ他ノ漂流物ニ在リテハ其ノ物件ノ価格ノ十分ノ一、沈没品ニ在リテハ其ノ物件ノ価格ノ三分ノ一ニ相当スル金額以内ノ報酬ヲ受クルコトヲ得

第二十五条  市町村長ハ引渡ヲ受ケタル物件ヲ保管スヘシ
2 市町村長ハ前項ノ物件ヲ所有者ニ引渡スヘキコトヲ公告スヘシ但シ其ノ所有者知レタルトキハ公告スヘキ事項ヲ直ニ其ノ所有者ニ告知スヘシ此ノ場合ニ於テハ公告ヲ須ヰサルコトヲ得

第二十六条  第十一条第一項ノ規定ハ漂流物及沈没品ニ之ヲ準用ス

第二十七条  市町村長ニ於テ第二十五条ノ公告又ハ告知ヲ為シタル日ヨリ六箇(沈没品中政令ヲ以テ定ムルモノニ在リテハ一箇年)以内ニ限リ所有者ハ河川ニ漂流スル材木ニ在リテハ其ノ価格ノ十五分ノ一、其ノ他ノ漂流物ニ在リテハ其ノ物件ノ価格ノ十分ノ一、沈没品ニ在リテハ其ノ物件ノ価格ノ三分ノ一ニ相当スル金額並公告、保管、公売又ハ評価ニ要シタル費用ヲ市町村長ニ納付シテ物件ノ引渡ヲ受クルコトヲ得
2 前項ノ場合ニ於テハ市町村長ハ拾得者ニ河川ニ漂流スル材木ニ在リテハ其ノ価格ノ十五分ノ一、其ノ他ノ漂流物ニ在リテハ其ノ物件ノ価格ノ十分ノ一、沈没品ニ在リテハ其ノ物件ノ価格ノ三分ノ一ニ相当スル金額ヲ支給ス
3 物件ノ価格ハ市町村長之ヲ定ム但シ鑑定人ヲシテ之ヲ評価セシムルコトヲ得

第二十八条  前条ノ期間内ニ所有者物件ノ引渡ヲ請求セサルトキ又ハ物件ノ引渡ヲ請求セサル意思ヲ表示シタルトキハ市町村長ハ期間ヲ定メ其ノ期間内ニ物件ノ引渡ヲ受クヘキコトヲ拾得者ニ告知スヘシ
2 拾得者ハ前項ノ期間内ニ公告、保管、公売又ハ評価ニ要シタル費用ヲ市町村長ニ納付シ物件ノ引渡ヲ受クルニ因リテ其ノ所有権ヲ取得ス
3 拾得者ニ於テ前項ノ期間内ニ物件ノ引渡ヲ受ケサルトキハ市町村長ハ其ノ物件ヲ公売シ其ノ代金ヨリ前項ノ費用ヲ控除スヘシ此ノ場合ニ於テ残余アルトキハ市町村ノ取得トス

第二十九条  警察官吏ニ於テ航路、錨地又ハ建造物ニ障害ヲ為スト認メタル漂流物又ハ沈没品ヲ取除キタル場合ニ於テハ警察官吏ハ其ノ物件ヲ市町村長ニ引渡スヘシ
2 前項ニ依リ市町村長ニ於テ引渡ヲ受ケタル物件ニ付テハ第十一条第一項及第二十五条第二項ノ規定ヲ適用ス

第三十条  前条ニ依リ公告若ハ告知ヲ為シタル日ヨリ六箇月以内ニ所有者物件ノ引渡ヲ請求シタルトキハ市町村長ハ所有者ヲシテ取除、保管及公告ニ要シタル費用ヲ納付セシメ之ニ其ノ物件ヲ引渡スヘシ
2 前項ノ期間内ニ物件ノ引渡ヲ請求スル者ナキトキハ市町村長ハ其ノ物件ヲ公売シ其ノ代金ヲ以テ取除、保管、公告及公売ニ要シタル費用ヲ支弁スヘシ此ノ場合ニ於テ残余アルトキハ市町村ノ取得トス

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○参考:遺失物法の改正
ちなみに、通常の遺失物に関する現行の遺失物法は、明治32年に制定されたものであるが、昭和初期に改正されたものの、約半世紀もそのまま使われてきた。このため、もはや時代に合わない部分が多く、また年間 1000 万点を超える落とし物の取り扱いを大幅に見直して発見や返還を効率化させ保管の負担も軽減するため、2006年(平成18年)6月、旧遺失物法(明治32年法律第87号)を全面改正する形で新しい「遺失物法」が成立し(平成18年法律第73号)、同年6月15日に公布された。施行期日は公布の日から起算して、1年6月を超えない範囲内において政令で定める日からとされていて、現時点では未施行である。改正法では、以下のような時代に沿った見直しが行われている。
@落し物のデータベース化
従来の警察署ごとの扱いを改め都道府県単位で落し物情報をデータベース化し、警察同士で情報交換できるようにした。将来的にはインターネットで落とし物情報を検索できる全国システムの整備する予定とのこと。
A個人情報の問い合わせ
携帯電話やキャッシュカードなどの落し物については警察が落とし主の住所などの情報を電話会社や銀行に照会できるようにした。
B拾得者の所有権取得制限
携帯電話やカード類、パソコンなど個人情報の入った落し物については、落とし主が現れなかった場合でも拾得者が所有権を取得できないとした。
C保管期間の短縮
拾得物の保管期間を6ヶ月間から3ヶ月に短縮した。

○ただ、この改正では、迷い犬や猫などペットの殺処分が増加するではないかと心配されている。というのは、この改正法では、犬や猫が同法上の遺失物でなくしたからである。そのために、いままで、警察署で扱っていたが遺失物法の適用外となり、犬や猫動物愛護法に基づいて各都道府県などに預けるようになる。その他の動物についても、拾得から2週間経過後に、売却や動物園への譲渡ができるよう政令で定める予定とのことである。つまりこれからは、行方不明になったペットを探すにも、迷っているペットをひろった時も、窓口はすべて地方自治体が管理する保健所になる。拾得物が将来インターネットを通じて拾得情報を誰でも閲覧できるようになっても、犬や猫はそのネットワーク情報の中に入らない。その上に、受け入れ窓口が保健所になると、殺処分につながることとなる。この点の心配を改善する必要があると思われる。
                                            弁護士 三木秀夫

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