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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
不二家問題の拡大(2007年01月11日)  危機管理/消費期限と賞味期限
<不二家>消費期限切れの牛乳使い、製品出荷
菓子メーカー「不二家」(東京都中央区)の埼玉工場で昨年11月、消費期限切れの牛乳を原料としたシュークリーム約2000個を製造、出荷していたことが分かった。出荷前の検査では問題はなく担当者は社内調査に「捨てるともったいない。2年前にも同じようなことがあったかもしれない」と話したという。(2007年1月11日 毎日新聞)

○大手菓子メーカー「不二家」(本社・東京)が消費期限切れの牛乳をシュークリーム製造に使っていた問題で、同社は11日、埼玉工場など洋菓子を製造する5工場の操業をやめ、チェーン店での洋菓子販売を休止すると発表した。製造されたシュークリームは計約1万5000個に上り、昨年10月から12月に出荷されていた。藤井林太郎社長らは「態勢、対応が不十分だった」と陳謝した。飯田橋神楽坂店(東京都新宿区)では、普段は洋菓子であふれる商品棚もほとんど空。和服姿の人気キャラクター「ペコちゃん」も店内に引っ込められ、客らは困惑した表情で謝罪文を読んでいた。(1月12日産経新聞)

○シュークリームに消費期限切れの牛乳を使用していた問題で11日、会見した菓子メーカー大手、不二家の藤井林太郎社長は、食品衛生法の規定の10倍、社内基準の100倍の細菌が検出された洋菓子「シューロール」を出荷していたことを明らかにした。同社は「発覚すれば(解体的出直しを迫られた)雪印乳業の二の舞いは避けられない」との内部文書を作成しており、問題を隠し続けようとした形跡もある。不二家によると、昨年6月8日に埼玉工場(埼玉県新座市)で製造したシューロールで、基準を超える細菌が検出されたが、そのまま113本を出荷した。消費期限を社内基準より1日長くしたプリンの出荷も判明した。また、同工場では04年に1カ月で50匹のネズミを捕獲、06年夏以降も2匹捕獲しており、衛生上も問題があった。一方、内部文書は社内の調査チームが作った報告書に添付されていた。藤井社長は、自身の責任について「社会的に信頼回復を図ることを一義に考えたい」と述べるにとどまった。(1月12日毎日新聞)

○大手菓子メーカー「不二家」(本社・東京)の埼玉工場が昨年10月から11月にかけて消費期限が切れた牛乳を使ってシュークリーム約1万6000個を製造、出荷していた問題にからみ、同社は11日に開いた記者会見で、昨年6月に同工場で作った洋菓子「シューロール」から基準を超える細菌を検出しながら、そのまま出荷していたことを明らかにした。同社によると、昨年6月8日に製造したシューロールの細菌検査で、食品衛生法が定める基準の約10倍、同社の自主基準の約100倍にあたる細菌数を検出した。本来は再検査のあと廃棄しなければならなかったが、検査結果の社内での連絡が不徹底だったため、113本が出荷されたという。同社はほかにも、アップルパイ製造の際に賞味期限が過ぎた材料を使ったことなども明らかにした。シュークリームについては、定年後にパート社員として再雇用された元菓子職人が原料の仕込みを担当していた。社内調査に対して「期限切れの牛乳でも自分で色やにおい、味によって品質を確認できると思っていた」と話しているという。関口宏記生産部長は会見で「ベテランの甘さがあった」と説明した。 シュークリームの製造ラインは牛乳を大量に使用することから、別の菓子製造ラインから余った牛乳が回ってくることもあったという。同工場は環境保護を理由に牛乳を排水溝に流すことを禁じる半面、具体的な廃棄方法は定めていなかった。

同社は昨年11月には事実を把握しており、社内の対策会議では「マスコミに発覚すれば(集団食中毒事件を起こした)雪印乳業の二の舞いとなる」という文書が配られていた。藤井林太郎社長は「ことの重大さを伝えるための表現で、隠蔽(いんぺい)するつもりはなかった」と釈明した。同社はこの記者会見で全国約890の直営店・フランチャイズ店などで洋菓子販売を当面休止することなどを発表した。レストラン、カフェは通常通り営業を続ける。 (2007年01月12日 ashi.com)

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○これを書いている1月14日現在、不二家(本社・東京)の埼玉工場で浮上してきた、消費期限切れの原材料を使った洋菓子を製造・出荷していた問題は、波紋が拡大し続けている。そして、全国のスーパーなどで不二家製品撤去の動きが広がっている。たぶん、この調子であれば、これからもっと多くの事実が浮上してくるのではないか。あの雪印乳業事件での教訓が全く生かされていないどころか、食品メーカーとしての資格を疑うような企業体質は、抜本的な改善が必要な事態になってきた。

○12日現在までの報道で出てきた事実は、@消費期限切れの牛乳を原料としたシュークリーム、Aりんご加工品の賞味期限切れを使用したアップルパイ、B消費期限を社内基準より1日長くしたプリン、C食品衛生法規定の10倍(社内基準の100倍)の細菌が検出された洋菓子「シューロール」、D2004年埼玉工場でねずみ大量捕獲の事実など。これからもまだまだ出てきそうな気配ではある。

○この問題の出発は、平成22年の創業100周年に向けた不二家のプロジェクトチームでの社外コンサルティングからの報告書の中で、工場でのヒアリングなどからこの問題が発見報告されたことにあった。報道では、その後の社内対策会議で、「マスコミに発覚すれば(集団食中毒事件を起こした)雪印乳業の二の舞いとなる」という文書が配られていたという。(その文章全体は報道されていないため、どういう流れでの表現かが不明なため、本来は正確な評価はできない)。これについて不二家は、この報告内容を昨年11月に知ったにもかかわらず、その後2ヶ月間は公表していなかった。

○上記報告書の段階で、仮に不二家が公表や厳格な対応をしていたならば、相応の非難はあったにしても、少なくとも今回のような企業の存亡を掛けるような重大な事態には至っていなかったと推測できる。事実を把握しながら、回収や公表の措置を取らず、また再発防止策も十分になされないままであったため、まさに最悪のシナリオを描き始めている。

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○企業の危機管理のイロハから言うと、問題が発生した場合の消費者に対する情報開示は、早期に行うべき最重要な対応行為である。今回の一連の報道姿勢は、「会社の姿勢に対する非難」に最大の重点が置かれているが、まさにそのイロハを怠ったことに起因する。雪印乳業も、クレーム隠しの三菱自動車も、ガス瞬間湯沸かし器事故のパロマ工業も、商品の欠陥以上に事態を悪化させたのは、事後の隠蔽工作であり、また、トップの責任回避の姿勢であった。一方で、松下電器産業の石油温風機事故では、初期の対応遅れが被害の拡大を生じたものの、その後は迅速に事実を公表し、製品を徹底的に自主回収することで、その後の評価を高めている。

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○消費期限と賞味期限について
今回の不二家の事件で、消費期限という言葉がキーとして使われている。どちらも食品衛生法とJAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)が定義する目安であるが、その期限自体は法律で決められているわけではなく、基本的に製造業者や加工業者が設定する。

○消費期限の定義
「定められた方法により保存した場合において、腐敗、変敗その他の品質の劣化に伴い安全性を欠くこととなるおそれがないと認められる期限を示す年月日」をいう。

食品の消費期限は、概ね5日以内に品質面で著しい品質低下が認められるなどの食品衛生面での安全性に問題の出やすい生鮮食品(精肉や刺身など)や加工食品(パン、生菓子、弁当、惣菜など) 等に対して設定される。これらは、かつては製造年月日表示であったが、改正でこの消費期限表記が義務付けられた。期限を過ぎると腐敗など衛生上の危害を生じる恐れがあるので、期限内に消費することが必要となる。

○賞味期限の定義
「定められた方法により保存した場合において、期待されるすべての品質の保持が十分に可能であると認められる期限を示す年月日」をいう。ただし、当該期限を超えた場合であっても、これらの品質が保持されていることがあるものとする。

一般に「おいしく食べられる期限」と言われていて、対象は、即席めんや缶詰といった比較的日持ちのする加工食品などである。

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○今回の不二家の場合、期限切れが発覚した埼玉工場のシュークリームの場合、原料は主に業務用の缶入り牛乳で、不二家が定めた社内基準での消費期限は4日であったということで、1週間から10日の賞味期限が一般的な市販の牛乳より、短めに設定していたとのことである。

そういった意味では、今回のシュークリームに消費期限切れの牛乳を使用していた問題における「消費期限切れ」での「消費期限」が、不二家社内での自主期限であり、それはかなり厳しく設定されていたという点はやや気になる。少なくとも、自主期限に反したという事実はあっても、食品衛生法やJIS法の違反には該当しないからである。社内規定を厳しくしたばかりに、それに少しでも反した場合に公表義務があるとしたら、社内規制を最初から緩くしている企業との比較でいうと、何か釈然としないものも残る。

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食品衛生法施行規則
(昭和二十三年七月十三日厚生省令第二十三号)
最終改正年月日:平成一八年九月一二日厚生労働省令第一五八号

第二十一条
別表第三に定める食品又は添加物であつて販売の用に供するものの表示の基準は、次のとおりとする。
一 次に掲げる事項を容器包装(容器包装が小売のために包装されている場合は、当該包装。第五項から第八項まで、第十六項及び第十九項において同じ。)を開かないでも容易に見ることができるように当該容器包装又は包装の見やすい場所に記載すること。
イ 名称(別表第一に掲げる添加物(別表第四に掲げるものを除く。)にあつては、別表第一に掲げる名称に限る。)
ロ 定められた方法により保存した場合において品質が急速に劣化しやすい食品又は添加物にあつては、消費期限(定められた方法により保存した場合において、腐敗、変敗その他の品質の劣化に伴い安全性を欠くこととなるおそれがないと認められる期限を示す年月日をいう。以下同じ。)である旨の文字を冠したその年月日及びその他の食品又は添加物にあつては、賞味期(定められた方法により保存した場合において、期待されるすべての品質の保持が十分に可能であると認められる期限を示す年月日をいう。ただし、当該期限を超えた場合であつても、これらの品質が保持されていることがあるものとする。以下同じ。)である旨の文字を冠したその年月日
(以下略)
                                            弁護士 三木秀夫

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