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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
エキスポランド・コースター事故で女性死亡(2007年05月05日) 建築基準法
○5日午後0時50分ごろ、大阪府吹田市千里万博公園の遊園地「エキスポランド」で、ジェットコースター風神雷神(ふうじんらいじん)2」(6両編成)が脱線し、2両目にいた女性客が車両とレール左側の手すりに挟まれて死亡、他の乗客19人が重軽傷を負った。大阪府警は、車軸の一部が折れて車輪が脱落し、車両が左側に傾いたとみて、業務上過失致死傷の疑いで吹田署に捜査本部を設置し、6日にもエキスポランド社(山田三郎社長)など数カ所を家宅捜索する方針。国土交通省によると、運行中のジェットコースターの乗客死亡事故は国内初とみられるという。エキスポランドは、6日の全面営業停止を決めた。(2007年05月05日asahi.com)

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○大変な事故である。亡くなった女性会社員(19)は、2両目の左前列に乗車し、傾いた車両と点検用通路の手すりの間に頭部を挟まれ、即死状態だったという。

その後に続々と入る報道を見ていると、エキスポランド側の点検整備の不備が明らかになってきているが、その背景として、ジェットコースターを巡る法的体制の問題点が浮き彫りになってきた。

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○ジェットコースターは、乗客を乗せて突っ走る。したがって、その危険性極めて大きい。このために、自動車や列車(列車では現在「鉄道に関する技術上の基準を定める省令の施行及びこれに伴う国土交通省関係省令の整備等に関する省令」)を技術上の基準としている)と同じような安全基準があっても当然と思われるが、実は全く異なっていた。複雑な法律規定となっているが、ゆっくりと解読していくと疑問が多く出てくる。

ジェットコースターは家やビルと同じ「建築基準法」で、「工作物」という範ちゅうに入る。乗車場所と降車場所が同位置のジェットコースターは、乗客を別の場所に運送する電車と違い、建物内の設備たる遊戯器具という考え方からと思われる。その構造や設計は、建築基準法施行令にあるエレベーターに関する基準が準用され、この基準での構造計算書を、自治体か民間の指定確認検査機関に提出し、「建築確認」を受ける制度となっている。しかし、自治体にはそういった専門判定能力があるとは思えない。民間の指定確認検査機関たる「財団法人日本建築設備・昇降機センター」は、建築物はともかく、ジェットコースターのような遊戯施設の検査に有効なソフトがないという話も報道されている。

また、遊戯施設には「定期検査報告制度」は一応ある。所有者は定期的に検査し、結果を自治体に報告することが義務付けられ、違反すれば50万円以下の罰金となる。

建築基準法施行規則によれば、定期検査報告の間隔は「おおむね6カ月から1年」とあいまいである。

そもそも、その際の検査内容たる基準自体が建築基準法とその下位法令には明確に規定されていない。現場では、財団法人日本建築設備・昇降機センターの「業務基準書」や、JIS基準(日本工業規格)の検査基準などに基づいて実施されていたようであるが、これらは法令上の義務ではないので、単なる努力目標でしかない。制度上は、報告義務さえ遵守する限り、基準に従わなくとも、それ自体の罰則が無い。

○今回の事故を教訓として、遅まきながらでも、建築基準法に鉄道のような乗り物の安全確保規定を入れるか、いっそのこと新法令を作っていく必要があるのではなかろうか。(その後、今回の事故を受けて、国土交通省は、遊戯施設などの定期検査(法定点検)について、建築基準法施行規則に検査項目や判定基準を明記する方針を固めたようである)


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○参考:国土交通省・安富事務次官会見要旨(平成19年5月7日)
Q:エキスポランドの事故なのですけれども、報道等によると、今年2月にエキスポランド社が実施した定期検査報告では、すべて指摘無しとか良好とかいう評価だったということです。とすれば、この定期検査に何か手落ちがあったか、あるいは、定期検査の項目自体で発見できないことがあったということが考えられると思うのですが、先にあった六本木ヒルズのエレベーターの火災も含めて、定期検査のあり方というのが今後課題になってくるのではないかと思うのですが、その点お考えはいかがでしょうか。
安富事務次官:今仰った建築基準法上の定期検査につきましては、遊戯施設につきましてもそうですが、日本工業規格の検査標準に基づいて行うことを指導しているところです。この中では、定期検査の際に、解体検査、オーバーホール、これまでは義務付けていませんけれども、車輪とか軸受け、台車及びそれらの取付部のさび、腐食、摩耗をチェックするということにしています。また、車輪軸につきましては、定期検査の時期等に、年に1回以上と具体的に書いてありますが、探傷試験による金属疲労等の有無の確認を行うこととされています。このエキスポの関係で、本年の1月末に実施された定期検査の状況については、まだ具体的な詳細を国土交通省として確認できていませんけれども、報道等によりますと、目視で確認したということで、探傷試験による金属疲労等の有無の確認をしていなかったというように聞いています。この点が事実であるとするならば、日本工業規格の検査標準に基づき検査が行われていなかったというように考えています。したがいまして、今回のこの点を踏まえて、先程言いましたが、全国の特定行政庁に対して指導する際には、この検査標準に基づいて定期検査を行うよう指導を徹底していきたいというように考えています。また、今後の定期検査のあり方、エレベーター等も含めてどうかという話ですが、定期検査における探傷試験の建築基準法上の位置付け等も含めてどのようにしていったらいいのか、探傷試験の実施を含めた遊戯施設に関わる定期検査の方法、あるいは内容等のあり方につきまして、今後事故分析等を通じて検討していきたいと思っています。具体的には、社会資本整備審議会の建築分科会の中に建築物等事故・災害対策部会というのがありますので、その中で、今回の事故を踏まえた上で、具体的な定期検査の方法や内容のあり方ということについて、いろいろな意見を踏まえて検討していきたいと考えています。

Q:年に1回以上探傷試験をするようJISの検査標準で求めており、今のところ検査が1年以上行われていないということですが、そうすると、法令違反、あるいは不適切、その辺の具体的な認識としては、どういうことになるのでしょうか。
安富事務次官:建築基準法上の定期検査については、具体的にJISの検査標準に基づいて行うことと指導している訳ですから、法令違反かどうかはもう少し検討してみなければいけないと思いますが、少なくとも検査標準に従っていなかったという意味では不適切ではなかったかと考えています。

○参考新聞記事(毎日新聞 2007年5月6日)
「遊園地やテーマパークの遊具の事故原因は、主に(1)製造ミス(2)点検ミス(3)審査ミス(4)従業員のマニュアル違反−−の4パターンがある。
製造・点検・審査の「複合的なミス」が原因だったのは98年8月、北九州市の「スペースワールド」で、垂直落下型遊具のワイヤが切れ、乗客12人が重軽傷を負った事故だ。福岡県警は、保守管理責任者、米国の遊具メーカーの設計責任者、安全性を審査した財団法人・日本建築センターの担当者ら5人を、業務上過失傷害容疑で書類送検。福岡地検小倉支部は「複合過失」を認めたものの起訴猶予処分にした。
三重県長島町(現・桑名市)の遊園地「ナガシマスパーランド」で03年8月、ジェットコースターの車輪が脱落した事故は、点検ミスが原因。車輪のボルトが折れているとの報告を受けながら、調査をしなかったなどとして、運行管理者らが書類送検された(起訴猶予処分)。
05年4月、東京・台場の「東京ジョイポリス」で、当時30歳だった男性が、遊具「ビバ! スカイダイビング」から転落死した事故は、マニュアルで定められたシートベルトを装着させなかったことが原因。当時の施設館長ら3人が業務上過失致死容疑で東京地検に書類送検されたが、事故は偶発性が高く予見できなかったなどとして、起訴猶予処分となった。」

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○建築基準法
(目的) 
第一条  この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。 
(用語の定義) 
第二条  この法律において次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。 
一  建築物 土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱若しくは壁を有するもの(これに類する構造のものを含む。)、これに附属する門若しくは塀、観覧のための工作物又は地下若しくは高架の工作物内に設ける事務所、店舗、興行場、倉庫その他これらに類する施設(鉄道及び軌道の線路敷地内の運転保安に関する施設並びに跨線橋、プラットホームの上家、貯蔵槽その他これらに類する施設を除く。)をいい、建築設備を含むものとする。 

(報告、検査等) 
第十二条 
第3項  昇降機及び第六条第一項第一号に掲げる建築物その他第一項の政令で定める建築物の昇降機以外の建築設備(国、都道府県及び建築主事を置く市町村の建築物に設けるものを除く。)で特定行政庁が指定するものの所有者は、当該建築設備について、国土交通省令で定めるところにより、定期に、一級建築士若しくは二級建築士又は国土交通大臣が定める資格を有する者に検査(当該建築設備についての損傷、腐食その他の劣化の状況の点検を含む。)をさせて、その結果を特定行政庁に報告しなければならない。

(工作物への準用)
第八十八条
煙突、広告塔、高架水槽、擁壁その他これらに類する工作物で政令で指定するもの及び昇降機、ウォーターシュート、飛行塔その他これらに類する工作物で政令で指定するもの(以下この項において「昇降機等」という。)については、第三条、第六条(第三項を除くものとし、第一項及び第四項は、昇降機等については第一項第一号から第三号までの建築物に係る部分、その他のものについては同項第四号の建築物に係る部分に限る。)、第六条の二、第六条の三(第一項第一号及び第二号の建築物に係る部分に限る。)、第七条、第七条の二、第七条の三、第七条の四、第七条の五(第六条の三第一項第一号及び第二号の建築物に係る部分に限る。)、第八条から第十一条まで、第十二条第五項から第八項まで、第十三条、第十八条(第十三項を除く。)、第二十条、第二十八条の二(同条各号に掲げる基準のうち政令で定めるものに係る部分に限る。)、第三十二条、第三十三条、第三十四条第一項、第三十六条(避雷設備及び昇降機に係る部分に限る。)、第三十七条、第四十条、第三章の二(第六十八条の二十第二項については、同項に規定する建築物以外の認証型式部材等に係る部分に限る。)、第八十六条の七第一項(第二十八条の二(第八十六条の七第一項の政令で定める基準に係る部分に限る。)に係る部分に限る。)、第八十六条の七第二項(第二十条に係る部分に限る。)、第八十六条の七第三項(第三十二条、第三十四条第一項及び第三十六条(昇降機に係る部分に限る。)に係る部分に限る。)、前条、次条及び第九十条の規定を、昇降機等については、第七条の六、第十二条第一項から第四項まで及び第十八条第十三項の規定を準用する。

第百一条
次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。
五 第十二条第一項又は第三項(第八十八条第一項又は第三項においてこれらの規定を準用する場合を含む。)の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者



○建築基準法施行令
(昭和二十五年十一月十六日政令第三百三十八号)
第九章 工作物
(工作物の指定)
第百三十八条
2 昇降機、ウオーターシユート、飛行塔その他これらに類する工作物で法第八十八条第一項の規定により政令で指定するものは、次の各号に掲げるものとする。
一 乗用エレベーター又はエスカレーターで観光のためのもの(一般交通の用に供するものを除く。)
二 ウオーターシユート、コースターその他これらに類する高架の遊戯施設
三 メリーゴーラウンド、観覧車、オクトパス、飛行塔その他これらに類する回転運動をする遊戯施設で原動機を使用するもの

(工作物に関する確認の特例)
第百三十八条の二
法第八十八条第一項において準用する法第六条の三第一項の規定により読み替えて適用される法第六条第一項の政令で定める規定は、第百四十四条の二の表の工作物の部分の欄の各項に掲げる工作物の部分の区分に応じ、それぞれ同表の一連の規定の欄の当該各項に掲げる規定(これらの規定中工作物の部分の構造に係る部分が、法第八十八条第一項において準用する法第六十八条の十第一項の認定を受けた工作物の部分に適用される場合に限る。)とする。

(型式適合認定の対象とする工作物の部分及び一連の規定)
第百四十四条の二
法第八十八条第一項において準用する法第六十八条の十第一項に規定する政令で定める工作物の部分は、次の表の工作物の部分の欄の各項に掲げる工作物の部分とし、法第八十八条第一項において準用する法第六十八条の十第一項に規定する政令で定める一連の規定は、同表の一連の規定の欄の当該各項に掲げる規定(これらの規定中工作物の部分の構造に係る部分に限る。)とする。

工作物の部分 一連の規定
(V) ウォーターシュート、コースターその他こ
れらに類する高架の遊戯施設又はメリ
ーゴーラウンド、観覧車、オクトパス、飛
行塔その他これらに類する回転運動を
する遊戯施設で原動機を使用するもの
の部分のうち、かご、車両その他人を乗
せる部分及びこれを支え、又はつる構造
上主要な部分並びに非常止め装置の部

イ 法第八十八条第一項において準用する第二
十八条の二(第三号を除く。)及び法第三十七
条の規定
ロ 前条(第七章の八の規定の準用に関する部
分を除き、同条第一号イ及び第七号にあつては
国土交通大臣が定めた構造方法のうちその指
定する構造方法に係る部分に限る。)の規定

○建築基準法施行規則
(昭和二十五年十一月十六日建設省令第四十号)
(工作物に関する確認申請書及び確認済証等の様式)

(建築設備等の定期報告)
第六条
法第十二条第三項(法第八十八条第一項又は第三項において準用する場合を含む。以下この条において同じ。)の規定による報告の時期は、建築設備、法第六十六条に規定する工作物(高さ四メートルを超えるものに限る。)又は法第八十八条第一項に規定する昇降機等(以下この条において「建築設備等」という。)の種類、用途、構造等に応じて、おおむね六月から一年までの間隔をおいて特定行政庁が定める時期(法第十二条第三項の規定による指定があつた日以後の設置又は築造に係る建築設備等について、設置者又は築造主が法第七条第五項又は法第七条の二第五項の規定による検査済証の交付を受けた場合においては、その直後の時期を除く。)とする。
                                            弁護士 三木秀夫

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