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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
コムスン介護事業所1600カ所指定の打切(2007年06月06日)事業所連座制
○訪問介護大手のコムスン(東京・港)が介護報酬を不正請求していた問題で、厚生労働省は6日、同社の指定訪問介護事業所約1600カ所について来年4月以降、指定の更新をしないよう、都道府県に通知した。事業所の新規指定もできなくなるため、同社の事業所では来年4月から順次、介護サービスを提供できなくなる。

厚労省が指定訪問介護事業所の指定を受け付けないのは、2006年の介護保険法の改正以降初めて。コムスンは現在、全国に約2000カ所の事業所を展開しているが、2011年12月まで事業所の指定更新や新規指定を受けることができないため、介護サービス事業の大幅な縮小を余儀なくされることになる。利用者は約6万人いるとみられるという。

厚労省は「現在、既存の事業所でサービスを利用している人は、更新の時期までは同じ事務所でサービスを利用できる」としている。今回の措置で、コムスンの役員はほかの介護サービス事業者の役員などにも就任できなくなる。

コムスンを巡っては、全国の8事業所で不正請求が発覚。厚労省は「不正内容が取り消し処分相当」と判断したが、コムスンは8事業所の廃止届を提出。そこで厚労省は八事業所のうち、改正介護保険法の施行後の06年4月以降に指定申請があった2事業所の不正について、今回の通知を出すことを決めた。
(日経新聞07.06.06)

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○今回のコムスン問題には驚いた。しかし、それまでに東京、青森などの8事業所が指定を取り消される直前に廃止届を出して処分を免れることがあり、「本社が組織的に関与していた」との厚生労働省の見解を聞き及ぶと、それが真実ならば、処分やむなしという感がする。ただ、なぜ、今なのか。厚生労働省管轄の社会保険庁の年金問題が世の指弾をうけている最中のこのタイミングに、何か意図的はことも考えてしまうのは、考えすぎであろうか。

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○報道によると、厚生労働省は、コムスンの一連の行動は「本社が組織的に関与していた」と指摘し、介護保険法に基づく「不正または著しい不当」があったとして、同じ業者が複数の事業所を経営している場合、不正行為から5年間、系列のほかの事業所でも新規の指定や指定の更新を認めない「連座制」を適用して、兵庫の不正があった平成18年12月8日から5年間、同社のすべての事業所を対象に、指定更新と新規指定を認めない処分を決め、全国の都道府県に順次対応するよう通知したとのことである。この連座制は、全国に事業展開している業者への適用は初めてとのことである。

○介護事業所の指定は6年ごとの更新制となっている。コムスンの事業所は、08年度中に657か所で指定の有効期限が切れ、さらに09年度から11年度にかけての指定切れで、計1655カ所が営業できなくなる見通しとのことであるから、壊滅状態になると言っていいだろう。

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○事業所連座制とは
介護保険制度は、業者の数やサービスの量を確保するため、公的な団体のほかにNPOや民間企業などの参入条件を緩和して、事業者間に競争を促すことで、質の向上をさせようとしていた。ところが、かつては一度指定を受けると更新制度でなく、不正を理由に指定取消を受けても、再申請では指定拒否ができないなど、事後規制面での不備があった。

そこで、2006年(平成18年)の介護保険法改正で、事後規制ルールが改正された。指定を取り消された事業所の再指定を5年間は認めず、また、同じ業者が複数の事業所を経営している場合に系列の他の事業所でも新規の指定や指定の更新を認めない「事業所連座制」が取り入れられたのである。

具体的には、指定等の欠格事由の対象者に法人役員等を追加し、また、下記の要件を追加した。そして、指定や更新の際に、これらに該当する者がいる場合は、新たな指定は受けられず、また、更新がされないため、指定の有効期間の満了とともに介護保険上の介護サービス事業を存続できなくなした。
・禁錮以上の刑を受けて、その執行を終わるまでの者
・介護保険法その他保健医療福祉に関する法律により罰金刑を受けて、その執行を終わるまでの者
・指定取消から5年を経過しない者
・指定取消処分の通知日から処分の日等までの間に事業廃止の届出を行い、その届出日から5年を経過しない者
・5年以内に介護保険サービスに関し、不当又は著しく不正な行為をした者

詳細は厚労省老健局振興課の解説参照

○そこでは、厚生労働省が示していた事後規制が適用される代表例として、以下の具体例が示されていた。今回のコムスンの事例は、まさにこれの具体的適用場面である。
(具体例)
A株式会社が経営するB訪問介護事業所に不正の事実が発覚し、立入検査の結果、指定の取消処分を受けた場合、A株式会社は「指定取消から5年を経過しない者であるとき」という指定の欠格事由に該当するため、A株式会社は新たにC訪問介護事業所の指定を受けることができない。また、同様に、「指定取消から5年を経過しない者であるとき」という指定の更新の欠格事由にも該当するため、A株式会社が経営する同一の指定の類型であるD通所介護事業所、E訪問入浴介護事業所及びF訪問介護事業所もB訪問介護事業所の指定の取消処分から5年以内に指定の有効期間の満了を迎える場合、指定の更新を受けられず、事業の継続ができなくなる。

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○今回のような不正は、あってはならないことである。
しかし、事業者のみを悪としてつるし上げ、悪人排除だけで済んでは問題の本質が消えてしまう気もする。この事件の背景には、介護ビジネスが置かれている厳しい実情があるからである。特に、平成18年の介護保険制度の改正で、業績が極めて悪化した介護事業者は多く、私のところにも悲鳴が聞こえてくる。介護報酬額を低く抑える一方で、訪問介護サービスや生活支援サービスの介護報酬が1時間30分に相当する額で打ち切りになるなど、サービスの具体的提供をしても介護報酬が請求できなくなったことなどが大きい。事業者としての経営悪化が、現場で実際に働くスタッフの賃金にも跳ね返り、ハードな作業にもかかわらず低賃金であえいでいる。結局、そのために、その業界から去っていく人も極めて多い。
そういった構造的な人員不足の中で、厳しい人的要件の不備を指摘して処分をするというだけでは問題の根本解決にならないのではないか。

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○その後、コムスンは、親会社のグッドウィル・グループがコムスンの全事業をグループ内の別会社の日本シルバーサービスに譲渡すると発表した。この場合、コムスンが全事業所の廃止届を出して日本シルバーサービスが新たに指定申請を出せば、法律的に事業の継承は可能となる。法的には合法だが、単なる看板の掛替とのパッシングから、一旦は容認の方向だった厚労省も、あわてて事業譲渡の凍結を「行政指導」した。新聞等のマスコミの報道内容を見ていると、案の上、「合法だが許せない」と論調である。一方で「遵法」を声高に叫びながら、「遵法」の精神で法律の範囲内での方向を示すと、今度は法律的に問題はないが「脱法」であるとしてパッシングする日本人の法律に対する精神構造にも、全く問題がないかが気にはなる。ましてや、会長の人格をここぞとばかりに叩き始めている「世間」にも、またかという気がしないでもない。介護の問題の本質の議論こそ、いま、ここでしないとならないのに。

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○介護保険法(平成九年十二月十七日法律第百二十三号)

(居宅介護サービス費の支給)
第四十一条  市町村は、要介護認定を受けた被保険者(以下「要介護被保険者」という。)のうち居宅において介護を受けるもの(以下「居宅要介護被保険者」という。)が、都道府県知事が指定する者(以下「指定居宅サービス事業者」という。)から当該指定に係る居宅サービス事業を行う事業所により行われる居宅サービ(以下「指定居宅サービス」という。)を受けたときは、当該居宅要介護被保険者に対し、当該指定居宅サービスに要した費用(特定福祉用具の購入に要した費用を除き、通所介護、通所リハビリテーション、短期入所生活介護、短期入所療養介護及び特定施設入居者生活介護に要した費用については、食事の提供に要する費用、滞在に要する費用その他の日常生活に要する費用として厚生労働省令で定める費用を除く。以下この条において同じ。)について、居宅介護サービス費を支給する。ただし、当該居宅要介護被保険者が、第三十七条第一項の規定による指定を受けている場合において、当該指定に係る種類以外の居宅サービスを受けたときは、この限りでない。

(指定居宅サービス事業者の指定)
第七十条  第四十一条第一項本文の指定は、厚生労働省令で定めるところにより、居宅サービス事業を行う者の申請により、居宅サービスの種類及び当該居宅サービスの種類に係る居宅サービス事業を行う事業所(以下この節において単に「事業所」という。)ごとに行う。
2  都道府県知事は、前項の申請があった場合において、第一号から第三号まで、第五号から第七号まで、第九号又は第十号(病院等により行われる居宅療養管理指導又は病院若しくは診療所により行われる訪問看護、訪問リハビリテーション、通所リハビリテーション若しくは短期入所療養介護に係る指定の申請にあっては、第二号から第十一号まで)のいずれかに該当するときは、第四十一条第一項本文の指定をしてはならない。
一 〜五(略)
六  申請者が、第七十七条第一項又は第百十五条の二十九第六項の規定により指定を取り消され、その取消しの日から起算して五年を経過しない者(当該指定を取り消された者が法人である場合においては、当該取消しの処分に係る行政手続法第十五条 の規定による通知があった日前六十日以内に当該法人の役員(業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者をいい、相談役、顧問その他いかなる名称を有する者であるかを問わず、法人に対し業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者と同等以上の支配力を有するものと認められる者を含む。第五節において同じ。)又はその事業所を管理する者その他の政令で定める使用人(以下「役員等」という。)であった者で当該取消しの日から起算して五年を経過しないものを含み、当該指定を取り消された者が法人でない病院等である場合においては、当該通知があった日前六十日以内に当該病院等の管理者であった者で当該取消しの日から起算して五年を経過しないものを含む。)であるとき。
(以下略)

(指定の取消し等)
第七十七条  都道府県知事は、次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該指定居宅サービス事業者に係る第四十一条第一項本文の指定を取り消し、又は期間を定めてその指定の全部若しくは一部の効力を停止することができる。
一〜七 (略)
八  指定居宅サービス事業者が、不正の手段により第四十一条第一項本文の指定を受けたとき。
(以下略)

(介護サービス情報の報告及び公表)
第百十五条の二十九  
6  都道府県知事は、指定居宅サービス事業者、指定居宅介護支援事業者若しくは指定介護予防サービス事業者又は指定介護老人福祉施設、介護老人保健施設若しくは指定介護療養型医療施設の開設者が第四項の規定による命令に従わないときは、当該指定居宅サービス事業者、指定居宅介護支援事業者、指定介護予防サービス事業者、指定介護老人福祉施設若しくは指定介護療養型医療施設の指定若しくは介護老人保健施設の許可を取り消し、又は期間を定めてその指定若しくは許可の全部若しくは一部の効力を停止することができる。
                                            弁護士 三木秀夫

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