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三木秀夫法律事務所
このページは最近話題になったニュースを題材にして、そこに関係する各種法令もしくは
判例などを解説したものです。事実関係は,報道された範囲を前提にしており、関係者の
いずれをも擁護したり非難する目的で記述したものではありません。もし、訂正その他の
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2009年12月から、このページは休止とさせていただきました。
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ニュース六法目次
内山信二が和解・交際相手との損害賠償訴訟(2007年07月18日)内縁破棄
○"デブキャラ"で人気のタレント、内山信二(25)が長らく交際していた一般女性(30)から500万円の損害賠償を求める訴訟を起こされていた問題で、内山は18日、所属事務所のHPで和解したことを発表した。

HPで内山は「この度、弁護士さんを通してお相手の方と和解することができました。お互いの考え方や認識の行き違いなども含めすべて解決として、これからはそれぞれの道を歩んでいくことになりました」と報告。女性に対しては「長い間、私の家族や会社のために尽くしてくれ心から感謝しています」とした。慰謝料や和解条件などについて所属事務所は「HPがすべてです」と説明を避けた。

2人は平成11年から都内で事実上の同棲生活を始めたが、今年に入って別居。女性は内縁関係の維持を求める権利を不当に侵害されたと主張し、500万円の賠償を求めて1月に東京地裁に提訴、今月5日に東京地裁で第1回口頭弁論が行われていた。
(サンケイスポーツ 2007年7月18日)

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○10日前の初期新聞報道:内山クンに慰謝料500万円請求〜元同棲相手が訴える
"デブキャラ"で人気のタレント、内山信二(25)が、長らく交際していた一般女性(30)から、500万円の損害賠償を求める訴訟を起こされていることが8日、分かった。内山は同日、所属事務所のHPで「長くお付き合いした方と裁判になっているのは事実」と明かし、「付き合いが終わることになってお金の話が出た。要求額が数千万円という高額なものだったので話し合いを続けていました」と、女性との関係がこじれていることを示唆している。関係者によると、2人は平成11年から都内で事実上の同棲生活を始めたが、今年に入って完全別居。女性は内縁関係の維持を求める権利を不当に侵害されたと主張し、500万円の賠償を求めて1月に東京地裁に提訴した。今月5日に東京地裁で第1回口頭弁論が行われたが、破局の時期や慰謝料などについて双方の言い分は食い違っており和解は困難な状況。内山は「お互いによい終わり方ができ新しい出発ができれば」と綴っているが、泥沼化は必至だ。(サンケイスポーツ 2007年7月8日)

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○テレビで時々見かけていた、あのデブキャラタレントが、内縁関係の解消問題で訴訟に発展したというニュースを見たのが、この7月8日。その後10日で、早くも和解が成立したというニュースが流れた。芸能誌では結構にぎやかな話題になっているものと推測するが、おそらく当事者、特に訴えを起こした女性は、さぞや真剣な戦いであったのではなかろうか。実際に内縁関係があったのかどうか、不当な内縁破棄があったのかどうかの事実関係は本人のみが知るところであろうが、互いが早期の和解をバネにして別の人生を歩んで行けたらいいように思う。

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○今回の問題は、内縁の不当破棄による慰謝料(損害賠償)であった。

内縁とは、法律的にいえば、「社会的事実としては夫婦としての実質を備えながらも、婚姻届出をしていないために法律上の婚姻とは認められない男女の関係」である。昔は、「家」の観念が強く女性の地位が低かった時代においては、「嫁」が夫の家風に合うかどうかとか、子どもを生むかどうかを見極めてから正式に婚姻届出をしていたような時代が長くあったことから、内縁関係がかなりの数にわたって存在していたようである。さすがに現代ではこういった女性の人権無視のようなことは少なくなってきたが、逆に、「同棲」関係のままで長年にわたって夫婦と同じような共同生活をし続けているようなケースが多くなっている。

いずれにせよ、正式な婚姻をした正式な夫婦において、相手方の有責事由によって離婚する場合は慰謝料などの請求などで他方が保護されるにもかかわらず、正式な婚姻届出をしていないままで分かれるような場合、籍に入っていないというだけで不当破棄された側に何らの保護もないのでは不都合である。

このため、こういった内縁の場合も一定の保護が判例において認められてきた。
まず、戦前は、大審院(いまでいう最高裁)は、いわゆる内縁を「将来において適法なる婚姻を為すべきことを目的とする契約」すなわち婚姻の予約であるとし、当事者の一方が正当の理由なく、予約に違反して婚姻をすることを拒絶した場合には、その一方は相手方に対し、婚姻予約不履行による損害賠償の義務を負う旨判示した(大審院大正4年1月26日民事連合部判決)。つまり、内縁の不当破棄は「婚約不履行(結婚予約の債務不履行)」として構成したのである。それ以降、長く裁判所は、内縁の不当破棄者の責任を婚姻予約不履行の理論によって処理されてきた。

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○最高裁昭和33年判決(後記判例T)
しかし、昭和33年の最高裁判決(後記判例T)以降、内縁関係を「事実上の婚姻」ととらえて、相続関係を除いては正式な婚姻から生じるのと変わらない効果を認めるのが裁判例として定着していった。共同生活の有無、家計の同一性、子供の共同養育の有無が、婚姻関係と同じものとみなされる内縁関係判断の要素と考えることができる。

こういった内縁関係事件は、よく法律事務所には持ち込まれるが、必ずしも単純なものばかりではなく、およそ人間関係の複雑さを垣間見ることができるものばかりである。内縁関係があったこと自体に争いがなく条件だけが問題になるケースもあれば、内縁関係そのものがあったか否かが問題になるケースもあり、事件内容は様々である。

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○重婚的内縁における不当破棄(後記判例U)
中には、男性に妻のあることを知りながら情交を結び内縁関係(こういうのは「重婚的内縁」という)に入った女性から、男性に対する内縁関係の不当破棄を理由とする損害賠償請求ができるかどうか問題になるケースもある。このような場合は、原則として、善良の風俗に反するものとして保護の対象とはならず、男性側の違法性が著しく大きいと評価できる特殊で例外的な場合に限って男性に対して慰藉料請求が許されるものとされている(最高裁第2小法廷判決昭和44年9月26日民集23巻9号1727頁)。下記で紹介の判例Uは、この最高裁判例に従いつつ、男性の違法性が強いものとして慰謝料を認めつつ、女性の過失も考慮して慰謝料額を300万円としたものである。

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○第三者による重婚的内縁に対する破壊行為(後記判例V)
また、こういった重婚的内縁関係(女性Xと妻あるY)に、さらに男性Xが別の第三者の女性Cと不倫関係に入って、二人の内縁関係を破壊されたとして、その第三者の女性Cに対して慰藉料を請求できるか、なんていう問題もある。こういった重婚的内縁関係は法の保護すべきでないとの考えもあるが、下記紹介の判例Vは、YがXに対し妻とは離婚することになっていると説明していたことや、Xもその言を信じて関係を継続したことなどの事情から、YとXの内縁関係は、少なくともXとYとの間、対第三者(XとC)との間においては、これを法律上有効なものと認めるのが相当であるとして、内縁関係に不当な干渉をすることは許されないものとして200万円の慰謝料請求を認めている。

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○パートナーシップ関係解消事件(後記判例W)
また、下記紹介の判例Wは最近の最高裁判所の判例であるが、婚姻届を出さずに別居しながら子供2人をもうけ、約16年間にわたり婚姻外の男女関係(「パートナーシップ関係」)を続けた女性(X)が相手の男性(Y)から突然かつ一方的に関係解消を通告された上、Yが別の女性と婚姻したことによって精神的損害を受けたとして慰謝料を求めた事案で、裁判所がその請求を棄却したものである。この二人の「パートナーシップ関係」は16年と長いものの、結婚直前に婚約を解消していることや、別居して同居をしていなかった、共有財産を持っていなかったこと、子どもが生まれたときだけ婚姻届を出して育児は男性が担当していること、この関係を継続する合意はなかった等があったようで、実質的な婚姻関係と考える要素が少なかったものである。

この判決当時、新聞各紙は「結婚しないパートナー関係、一方的破棄でも慰謝料認めず」(朝日新聞)、「パートナー解消訴訟:解消は賠償義務無し 最高裁が初判断」(毎日新聞)、「男性側の賠償義務認めず パートナー解消訴訟で最高裁」(産経新聞)、「2人出産・別居16年、関係一方的破棄でも賠償認めず」(読売新聞)と、大きく騒がれたものである。朝日新聞の記事によると、「子供はもうけたが、互いに束縛しないよう法律上の結婚はせず、住まいも生計も別にして好きなときに行き来する――。こんな関係にあった男女の片方が一方的に別れを告げた場合、もう一方は慰謝料を請求できるかが争われた訴訟の上告審判決が18日あった。最高裁第一小法廷(横尾和子裁判長)は『婚姻やこれに準じるもの(内縁)と同じように法的に保護する必要は認められない』と指摘。一方の意思で関係が解消されたとしても当事者に法的義務は発生しない、との初判断を示した。」とある。

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○判例T 昭和33年4月11日最高裁判所第2小法廷判決
(内縁を不当に破棄された者は、相手方に対し不法行為を理由として損害の賠償を求めることができること、民法第760条の規定は、内縁に準用されるものと解すべきであるとした判例)

「主文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。
理由(抄)
いわゆる内縁は、婚姻の届出を欠くがゆえに、法律上の婚姻ということはできないが、男女が相協力して夫婦としての生活を営む結合であるという点においては、婚姻関係と異るものではなく、これを婚姻に準ずる関係というを妨げない。そして民法709条にいう「権利」は、厳密な意味で権利と云えなくても、法律上保護せらるべき利益があれば足りるとされるのであり、内縁も保護せられるべき生活関係に外ならないのであるから、内縁が正当の理由なく破棄された場合には、故意又は過失により権利が侵害されたものとして、不法行為の責任を肯定することができるのである。されば、内縁を不当に破棄された者は、相手方に対し婚姻予約の不履行を理由として損害賠償を求めることができるとともに、不法行為を理由として損害賠償を求めることもできるものといわなければならない。
(中略)
本件当事者間の内縁関係は昭和28年3月21日上告人の一方的意思によつて破棄されたこと、被上告人は上告人と別居するにいたつた昭和27年6月2日から昭和28年3月31日までの間に、自己の医療費として合計214,130円を支出したことは、いずれも原審の確定したところである。そして、内縁が法律上の婚姻に準ずる関係と認むべきであること前記説明の如くである以上、民法760条の規定は、内縁に準用されるものと解すべきであり、従つて、前記被上告人の支出した医療費は、別居中に生じたものであるけれども、なお、婚姻から生ずる費用に準じ、同条の趣旨に従い、上告人においてこれを分担すべきものといわなければならない。そして、原判文の全趣旨に照らすと、原審は、本件当事者間における一切の事情を考慮した上、本件内縁関係が破棄せられるまでの間に、被上告人の支出した医療費のうち金200,000円を上告人において分担すべきものと判断したことを肯認することができるのであつて、原判決には所論の如き理由そごの違法はなく、所論は採るをえない。
(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官藤田八郎 裁判官河村大助 裁判官奥野健一)」

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○判例U 平成4年10月27日京都地方裁判所判決
(男性に妻のあることを知りながら情交を結び内縁関係に入った女性から、男性に対する内縁関係の不当破棄を理由とする損害賠償請求がなされ、330万円の支払いが認容された事例)

判決で認められたこの事案は以下のとおりだった。
栄養専門学校の学生であった原告X(女性)が、妻子ある被告Y(男性)と知り合い、Yからの「妻と別れて結婚する」との言葉を信じて男女関係を持った結果、Yの子を懐胎・出産し、内縁生活を始めた。ところがYから突然に内縁関係を破棄され別居するに至ったことから、XがYに対し、内縁関係を不当に破棄したことを理由に約2200万円の慰藉料を請求した。Yは「妻と別れてXと結婚するというような約束はしていないし、内縁関係に入ったこともない」といって争った。

判決では、XY双方の知人の送別会の二次会で、YがXに対し、「妻とは仲が悪く別居状態にあり、離婚することを考えている」ことを話した上、Xに好意を持っている旨述べたこと、XはYに妻子がいることを知りながら右のYの言葉を信じて交際を始め約一か月後には肉体関係を持ったこと、二人は北海道や宮崎に旅行するなど親しく交際し、その間、YはXに対し「妻と別れて結婚する」旨述べていたこと、その後Xがの子を懐胎したたためYに相談したら「どうせ妻とは離婚するのだから産んでもよい」と出産することを承諾したためにXも出産することにしたこと、そのころから二人は一緒に住むマンションを探したり、内縁生活のための家財道具を揃え始めたこと、Xの父がこれら事実を知ってYを呼んで説明を求めたところYは「現在妻と離婚の話し合いをしている最中で、Xとは結婚する」と述ベたこと、その後にYは、Xとの生活の場としてマンションを借り、敷金等を支払ったこと、その契約書の入居者の欄に婚約者としてXの名も記載していたこと、そのマンションに、布団や電化製品等を持ち込んで二人が一緒に生活を始めたこと、その家賃はYが支払い、Xに生活費として月10万円を渡し、その後にXが長男を出産したこと、その直後のXがまだ入院中に、突然YがXに「別れてくれ」と言い出したことなどが認定された。

この認定事実をもとに、X及びその子の今後の生活等も考えると、YがXに与えた精神的苦痛は大きいものがあるとし、一方で、XもYに妻子があるのを知りながら同人と交際したものであって、Yの離婚する旨の言葉を信じていたとはいえ、このような結果になったことについてXにも幾分か責任があることは否定できないことも考慮しながら、慰藉料としては300万円をもって相当であるとし、弁護士費用をも含め、Yに対し、330万円の支払いを命じた。

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○判例V 昭和62年3月25日東京地方裁判所判決
(重婚的内縁関係を破壊した者に対して不法行為責任が認められた事例)

「被告ら(Y・C)は、被告Yには前認定の如く法律上の妻があり、Xもこれを知つていたのであるから、被告YとXの内縁関係は、重婚的内縁関係であつて法の保護しないものである旨主張するが、被告Yは当初からXに対し、妻とは離婚することになつている旨説明し、Xもその言を信じて関係を継続していたものであること、その後も両者は、互いに被告Yとその妻が離婚した場合のことを考えて行動していること、被告Yは、その妻と別居して後もXらと一緒に住むべき住宅を探し、これを購入していること、被告Cとの関係が判明するまで、両者の関係は従前どおり営まれていたことはいずれも前記認定のとおりであるから、かかる事情のもとにおける被告YとXの内縁関係は、少なくともXと被告Y間、対第三者間においてはこれを法律上有効なものと認めるのが相当である。したがつて、被告らの右主張も採用できない。そうだとすると、本件被告YとXとの内縁関係につき、その当事者である被告Yは勿論、第三者も右内縁関係に不当な干渉をすること許されないものといわなければならない。」

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○判例W 平成16年11月18日最高裁判所第1小法廷判決
(婚姻外の男女のパートナーシップ関係を一方的に解消したことにつき不法行為責任が否定された事例)

「主文
原判決のうち上告人敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
理由
(中略)
前記の事実関係によれば、@上告人(男性)と被上告人(女性)との関係は、昭和60年から平成13年に至るまでの約16年間にわたるものであり、両者の間には2人の子供が生まれ、時には、仕事の面で相互に協力をしたり、一緒に旅行をすることもあったこと、しかしながら、A上記の期間中、両者は、その住居を異にしており、共同生活をしたことは全くなく、それぞれが自己の生計を維持管理しており、共有する財産もなかったこと、B被上告人は上告人との間に2人の子供を出産したが、子供の養育の負担を免れたいとの被上告人の要望に基づく両者の事前の取決め等に従い、被上告人は2人の子供の養育には一切かかわりを持っていないこと、そして、被上告人は,出産の際には、上告人側から出産費用等として相当額の金員をその都度受領していること、C上告人と被上告人は,出産の際に婚姻の届出をし、出産後に協議離婚の届出をすることを繰り返しているが、これは、生まれてくる子供が法律上不利益を受けることがないようにとの配慮等によるものであって,昭和61年3月に両者が婚約を解消して以降,両者の間に民法所定の婚姻をする旨の意思の合致が存したことはなく、かえって、両者は意図的に婚姻を回避していること、D上告人と被上告人との間において、上記の関係に関し、その一方が相手方に無断で相手方以外の者と婚姻をするなどして上記の関係から離脱してはならない旨の関係存続に関する合意がされた形跡はないことが明らかである。
以上の諸点に照らすと、上告人と被上告人との間の上記関係については、婚姻及びこれに準ずるものと同様の存続の保障を認める余地がないことはもとより、上記関係の存続に関し、上告人が被上告人に対して何らかの法的な義務を負うものと解することはできず、被上告人が上記関係の存続に関する法的な権利ないし利益を有するものとはいえない。そうすると、上告人が長年続いた被上告人との上記関係を前記のような方法で突然かつ一方的に解消し、他の女性と婚姻するに至ったことについて被上告人が不満を抱くことは理解し得ないではないが、上告人の上記行為をもって、慰謝料請求権の発生を肯認し得る不法行為と評価することはできないものというべきである。(以下略)
(裁判長裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉 コ治 裁判官 島田仁郎 裁判官 才口千晴)」
                                            弁護士 三木秀夫

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