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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
「賭けゴルフ」報道、民主・横峯議員が新潮社提訴(2007年08月29日)賭博罪
○民主党の横峯良郎参院議員は28日、「週刊新潮」の記事で名誉を傷つけられたなどとして、発行元の新潮社などを相手取り、5500万円の損害賠償と謝罪文掲載を求める訴えを東京地裁に起こした。

週刊新潮は、横峯氏が賭けゴルフをしたなどと報じた。横峯氏は記者会見で「10年か20年前に5000円ぐらいの賭けゴルフをしたことはある。しかし、報道はほとんどが事実ではない」と述べた。同誌が報じた女性と一時交際していたことは認め、「お騒がせしたことについておわびします」と謝罪した。
(2007年8月29日 読売新聞)

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○あの「さくらパパ」にスキャンダルが出た。今年の7月の参院選比例代表で初当選した横峯良郎参院議員である。

8月22日発売の週刊新潮が、横峯氏には、かつて六本木の元ホステスで現在は飲食店を経営する40代女性と半同棲状態であったという。その女性が横峯氏との不倫の実態と賭けゴルフを暴露した。掲載された良郎氏の反論コメントも、女性と関係があったことを認め、賭けゴルフについても「議員になってからはやっていない」としたものの過去については否定していなかった。直後の8月22日のスポーツ報知で、「週刊誌に報じられた過去の軽率な行動については、反省するところもあり、家族からも叱責を受けました。今後は投票していただいた方の期待をしっかりと胸に刻み、襟を正していく所存です。お騒がせして申し訳ありませんでした」と、反省の意思を見せてはいた。週刊新潮の記事自体は、いつものとおり「売れたら何ぼ」型の下劣な暴露物で、信憑性も気をつけて読まないといけないものの、民主党も窮地に立たざるを得ないだろう。同党は10日間の自宅謹慎を言い渡したが、どうなることか。

と、思っていたら、突然の今回の新潮社への損害賠償と謝罪文掲載を求める提訴である。訴訟での真実は、そのうち双方の主張や証拠調べ等で分かってはくるだろうし、当事者でない者はこれを静観するのが筋であろう。特に賭けゴルフの事実の有無は、本人の刑事訴追にも関わることだし。 

○ただ、今回の話の中で、よく聞こえてきたのが、「賭けゴルフってみんなしてるよ」とか、「マージャンでもしてるよ」の声。チョコレートとか言って1枚1万円のチョコを賭けていたり。また、馬券と称して、ゴルフコンペ参加者の優勝を馬券化して楽しむことも。そういう意味で、一方では横峯議員を気の毒に思う向きもあろうが、日本では、賭けゴルフ(プレーするもの同士が自分の勝敗を賭けあって行うものと、プレーには参加しない者もかけに参加するものがある)は違法と解され、立派な賭博罪に問われている。

ただ、考えようによっては、ゴルフは実力が勝負を左右するもので、偶然によって勝負が決まるものではないことから、「偶然性の要素が含まれる勝負の結果によって行う」のを対象とする賭博罪には該当しないのではないか、という考え方もありうる。実は、後述するように、韓国で最近、賭けゴルフで賭博罪に問われた被告に裁判所が相次いで正反対の判決を下して話題になっている。一度、法律的な議論をしてもいい気がするが。

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○刑法
(賭博)
第185条  賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。
(常習賭博及び賭博場開張等図利)
第186条  常習として賭博をした者は、3年以下の懲役に処する。
2  賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、3月以上5年以下の懲役に処する。

○これが賭博罪の条文である。
この刑罰は何を守ろうとしているのかについて(保護法益)の判例・通説は「公序良俗の保護」にあるとされ、「健全な経済活動及び勤労と、副次的犯罪の防止である」としている(最大判昭和25年11月22日刑集4巻11号2380頁)。

○ただ、刑法の条文には「賭博」とは何かの定義規定がない。
賭博(ギャンブル)とは、金銭や品物などの財物を賭けて偶然性の要素が含まれる勝負を行い、その勝負の結果によって賭けた財物のやりとりをおこなう行為をいう、と言われている。賭けた当事者双方が共に損をするリスクを負うものであることを要する。この点で、例えば福引とかビンゴゲームのような、当事者の一方が景品を用意するだけで参加者は仮に負けても損をしない場合には、賭博とは言えない。判例によれば、勝敗が一方当事者によって全面的に支配されている詐欺賭博は詐欺罪を構成し、賭博罪は成立しない(最判昭和26年5月8日刑集5巻6号1004頁)。

○刑法は「一時の娯楽に供する物」を賭けたにとどまるときは例外としている。これについての判例・通説は、関係者が一時娯楽のために消費する物をいうとしている(大審院判決昭和4年2月18日)。例えば、宴会などの娯楽の一環として、その場にあるような飲み物やお菓子などが挙げられる。これらの物の費用を負担させるために参加費などを支出させた場合は賭博罪とならない(大審院判決大正2年11月19日)が、金銭そのものを賭けるのは、一時の娯楽に供するものとは言えず賭博となる(最判昭和23年10月7日)。

○特別法で賭博罪の適用が一部除外されている。公営競技公営くじの2つがある。
前者は競馬・競輪・競艇・オートレースがそれで、それぞれに適用される法律が異なる。それぞれ監督官庁があり、税収の一部となっている。
公営くじは大別して宝くじとスポーツ振興くじの2つがある。宝くじ(ナンバーズ、ミニロト、ロト6などを含む)は当せん金付証票法により、都道府県知事や指定都市によって行われる。2001年よりJリーグを対象としたスポーツ振興くじ(toto)も始まり、独立行政法人の日本スポーツ振興センターによって運営されている。なお、日本国内で外国の宝くじを購入すると賭博罪となる可能性がある。最近は、財源難に苦しむ地方自治体などから、特別法の制定による公営カジノの設置を求める動きがある。

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○この「賭博罪」は、イメージ的に暴力団などが開催する賭場での賭け事での摘発というイメージがあるが、そればかりではなく、身近なところでの摘発も多い。ゴルフ賭博に関してだけでも、最近のケースで報道されたのに以下のようなものがある。

@ゴルフ賭博 医師ら4人書類送検(2007年08月02 西日本新聞夕刊)
福岡県警行橋署は2日、同県京都郡の総合病院で賭けゴルフが行われていたとして、賭博容疑で医師ら4人を福岡地検小倉支部に書類送検した。参加した4人の元プロ野球選手は関与が軽微などとして送検を見送った。送検されたのは、賭博を指示した同県行橋市の医師男性(61)▽北九州市小倉南区の医師男性(59)▽同、医師男性(61)▽同、事務員男性(35)。調べでは、4人は2006年9月3日に同県前原市で開いた病院主催のゴルフコンペで、優勝者などを当てる賭博を行った疑い。コンペには医師や公認会計士、元プロ野球選手ら57人が参加。コンペに参加していない人も含め計67人から、1口500円で計約20万円を集め、的中者4人に約5万円ずつ配当したという。

ANEC社員ら賭けゴルフで61人書類送検(2006年11月7日スポーツ報知)
社内のゴルフ大会で1口200円で成績優秀者を予想させたとして、警視庁保安課は7日、賭博の疑いでNEC(東京都港区)の文教ソリューション事業部の部長(54)を含む社員43人と関連会社の社員18人の計61人を書類送検した。部長は「軽い気持ちでやっていたが、今思うと大変なことをしてしまった」と話している。賭けは数年前から行っていたという。調べでは、社員らは昨年10―12月に3回開かれたゴルフ大会で、プレーヤーを1―4人1組の枠に分け、スコア合計が少ない枠を予想させる方式で、的中者に配当金を渡す約束で1口200円の賭博をした疑い。合計537口集まり、的中者には2000―3000円の配当金が渡された。業務用の電子メールで「馬券」と称する申込書を配布し、実際にゴルフをプレーした40人のほか、21人が投票だけ参加していた。NEC広報部は「真摯(しんし)に反省するとともに社員の倫理意識を高めていきたい」としている。

Bウィニーで賭けゴルフ発覚 近鉄、社員35人処分へ(2006年3月17日共同通信)
近畿日本鉄道は17日、社員35人が2年前、職場のゴルフコンペで現金1000−2000円を賭けていたと発表した。賭けの結果一覧が参加者のパソコンからファイル交換ソフト「ウィニー」を通じインターネットに流出して発覚した。同社は「賭博を禁じた法律に触れる」として全員を処分する方針。近鉄によると、35人は奈良県香芝市の5位堂検修車庫に勤務。2004年9月、三重県のゴルフ場で開いたコンペで、プレーした20人を8組に分け優勝者と準優勝者のいる組を当てる方式で現金を賭け、35人全員が参加した。的中させた社員は最高で1万6200円もうけた。

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○賭けゴルフの賭博性
以上のように、日本では「賭けゴルフ」は違法と解されている。
ただ、前述したとおり、ゴルフは実力が勝負を左右するもので、偶然によって勝負が決まるものではないことから、「偶然性の要素が含まれる勝負の結果によって行う」のを対象とする賭博罪には該当しないのではないか、という考え方もありうる。

○実は、韓国で最近、賭けゴルフで賭博罪に問われた被告に裁判所が相次いで正反対の判決を下して話題になっている。そこでは「賭博の概念」を問う議論まで起きている。以下は、2005年6月1日に報じた東奥日報の記事である。

【今年(注:2005年)二月、賭けゴルフは無罪との判決を下したのはソウル南部地。一ホールに最高一千万ウォン(約百万円)を賭けるようなゴルフを常習的に行ったとされる事件について「スポーツ競技は花札などのように偶然によって勝負が決まるものではなく、技術や肉体的、精神的条件などで決まる」として、刑法が「偶然により財物の得失を決定する行為」と規定する賭博に当たらないと判断した。
ところが五月二十三日、ソウル中央地裁が類似の事件の裁判で「ゴルフは、実力が、ある程度勝負を左右するが、ゲーム時のコンディションなど偶然の要素が作用する」として被告に罰金二千万ウォンの有罪判決を言い渡した。
韓国では最近、ゴルフ人気が高まっているが、プレーの際に金銭を賭けるのが一般化しているのが現実だ。しかし、両事件では一ホールに最高で一千万ウォン、一ゲームでは数億ウォンもの金銭がやりとりされたこともあったと報じられたため「道徳的に問題」「社会通念上も容認できない」とする声が圧倒的で、インターネット上での世論調査では九割近くの市民が無罪判決に批判的な立場だ。
一方で「賭けゴルフが有罪なら賞金を争うプロゴルフも賭博ではないか」との意見もあり、韓国メディアでは「国家の許容するカジノや宝くじでも賭博中毒などの問題が起きているのに、個人が金をやりとりする行為を取り締まるのは不公正」(通信社の聯合ニュース)との見方も紹介されている。
罰金刑が言い渡された事件は、被告が上告しなかったため有罪判決が確定したが、無罪事件では上級裁での審理が続いており「最終判断は大法院(最高裁)で下すしかない」(朝鮮日報)状況だ。(2005年6月1日東奥日報)】

○続報も出ている。
以下は、朝鮮日報2006年01月12日の記事であり、結局、一旦無罪となった事件も高裁で有罪となったようである。

【韓国の裁判所「賭けゴルフはスポーツではなく賭博」
昨年、無罪が言い渡されて論議を呼んだ数億ウォン単位の賭けゴルフ事件が、2審では有罪の判決を受けた。ソウル高等裁判所刑事6部(裁判長金龍均(キム・ヨンギュン))は今月11日、1打に最高100万ウォンを賭け、合わせて14億ウォン規模の賭けゴルフをした容疑で身柄を拘束されたA被告など4人に、原審を破棄し懲役6か月執行猶予1年などを言い渡した。原審のソウル南部地方裁判所の李政烈(イ・ジョンニョル)判事は昨年2月、「賭けゴルフは賭博ではない」として、無罪の判決を下していた。
A被告は2002年12月、済州島のあるゴルフ場で18ホールを9ホールずつに分けて、1打当たり50万ウォンから100万ウォンを賭けてストロークゲームを行い、前半9ホールの最小打をマークした優勝者に500万ウォン、後半戦優勝者に1000万ウォンを与える方式で賭けゴルフを行った。A被告が6億ウォン、残りの3人は合わせて8億ウォンもの金を賭けた。検察は被告らに賭博容疑で懲役2〜3年の刑を求めたが、1審の判事は無罪を言い渡して釈放した。
1審判事は、「花札、カード、カジノのように勝敗の決定的部分が偶然によって決まってこそ、賭博が成立するが、スポーツ競技は、プレーヤーの技能と技量が勝敗の全般を左右するため、ゴルフは賭博ではない」と判決した。そうでないとしたら、LPGAで活躍しているパク・セリ、パク・ジウン選手が、賞金が懸かったゴルフ大会に出場することも賭博罪の適用になるという論理だった。
しかし、2審裁判所は、「偶然が勝敗が分かれるからといって、すべて賭博とみなせるわけではなく、どれほどの金をかけて、どれくらい頻繁に行ったかを考慮し、社会が受け入れられるレベルを超える場合、賭博と判断する」と述べた。また、「被告人の場合、頻繁に行ったうえ、その金額も大きいため、有罪を言い渡す」と懲役刑を言い渡した。通常、少額の賭博罪には、罰金刑が言い渡される。(2006年01月12日朝鮮日報)】
                                            弁護士 三木秀夫

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