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ニュース六法目次
我那覇ドーピングでの仲裁申立にJリーグ合意せず(2007年11月12日)AD
○J1川崎のFW我那覇和樹(27)がドーピング規定違反とされ、チームドクター(6日に辞職)が日本スポーツ仲裁機構(JSAA)に処分取り消しを求める仲裁を申し立てた問題で、Jリーグは12日、申し立てに合意しないことを決め、JSAAに文書で返答した。仲裁手続きにはJリーグの合意が必要なため、仲裁は成立しない。

鬼武健二チェアマンは合意しなかった理由を「当事者であるJリーグと我那覇選手、川崎との間で解決済みの問題」とし、処分を科していない前ドクターは当事者でないと主張。紛争解決を行うJSAAの仲裁対象にはあたらないとした上で「ドーピングか否かを問うのであれば、国際サッカー連盟(FIFA)に申し立てるのがふさわしい」と説明した。

ただ、調査を行うドーピングコントロール委員会と制裁などを行うアンチ・ドーピング特別委員会の委員に重複がある点や、点滴の際に事前申請が必要ではなかったことなどに対し「十分把握していなかったことは反省したい」と、組織上の不備は前ドクター側の指摘を認め、改善に取り組む考えを示した。これに対し前ドクターは「極めて残念。これがJリーグの掲げるフェアプレーの精神か」とのコメントを発表。今後は民事裁判、スポーツ仲裁裁判所(CAS)への提訴などの対応を検討する。また、Jリーグ側が提案したFIFAへの申し立てに代理人は「FIFAに直接申し立てできる機関はない」と語った。(2007.11.12 22:36 産経ニュース)

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○本年4月23日、風邪で体調を崩したJ1川崎のFW我那覇和樹選手が、医師から生理的食塩水とビタミンB1の点滴を受けたことについて、Jリーグのドーピングコントロール委員会が、ドーピング違反と認定し、我那覇に出場停止6試合、川崎に制裁金1000万円の処分を科したという事件があった。この問題で、治療をした後藤ドクターが、Jリーグの処分取り消しを求める仲裁申し立てを日本スポーツ仲裁機構(JSAA)に行ったところ、Jリーグ側が仲裁申し立てに合意しないことを返答したことから、仲裁ができないこととなったというニュースである。2003年に発足したJSAAの仲裁は、これまで7件あったようだが、プロススポーツでのドーピング関連での仲裁申立は初めてであった。正直なところ、このJリーグの対応にはがっかりした。

○申立を行った後藤ドクターの代理人弁護士によると、「Jリーグ側が処分は、世界反ドーピング機関の規定の解釈に誤りがある」と指摘している。

この主張には十分な理由があると思う。実際、日本アンチ・ドーピング機構(JADA;Japan Anti-Doping Agency)は、本年7月に、世界反ドーピング機関(WADA)の2007年版禁止リストに照らすと、@「正当な医療行為」としての静脈注射に申請は不要であること、A「正当な医療行為」かどうかは、治療現場の医師の判断に委ねられる、とし、今回のJリーグの判断に異なる見解を示した。JADA(は、日本オリンピック委員会(JOC)、日本体育協会(JASA)、日本プロスポーツ協会(JPSA)を中心にして2001年創立された機関で、日本国内のドーピング検査や啓発活動を行う中立的な機関である。

このJリーグはドーピングの定義をWADAおよび国際サッカー連盟(FIFA)と同一と規定していることからしても、JADAの見解を待つまでもなく、今回の件が違反とならないことは明白であると思われる。Jリーグの31クラブのドクターで構成するチームドクター連絡協議会が、Jリーグに今回の処分の撤回を求めたが、これも当然の行為であろう。

しかし、これに対するJリーグの姿勢は強硬であった。前述した日本アンチ・ドーピング機構(JADA)が「違反には当たらない」との見解を示しても、Jリーグの理事会では「既に決まったこと」と、頑固親父さながらに、全く受け付けなかった。このJリーグの姿勢は、私には理解がしにくい。

○その間のニュースを改めて調べてみると、川崎は、Jリーグからの処分が示された時点で、国際サッカー連盟(FIFA)に今回の処分の正当性を確認したとろ、FIFA側から「処分は妥当」との回答を受けていたようである。これを受けた川崎が、我那覇選手と後藤ドクターの3者と協議して、我那覇を一日も早く立ち直らせるために、川崎は処分を受け入れたという。このFIFAの回答も、なぜそうなったのか分からないが、Jリーグとしては、この時点でこの問題は解決したものとして、今回の仲裁申立には応じないとしたのであると思われる。

しかし、その川崎の処分受け入れ判断や今回のJリーグの対応は、極めて不条理であり、もはや法の正義などみられない。Jリーグの発想は、没個性的で自己主張がなくことを美風としてきた古色蒼然とした発想である。ドクター側の代理人弁護士が、「ドクターは、チームが我那覇選手を救わないなら自分が救わなければという思い」と説明したが、共感するところは多い。

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○今回、担当ドクターが仲裁申立を行った「日本スポーツ仲裁機構(JSAA)」とは、国際スポーツ界の紛争仲裁を行うスポーツ仲裁機構(CAS)の国内版である。競泳のシドニー五輪代表を漏れた千葉すず選手のCAS提訴で国内機関の必要性が高まり、2003年4月に発足した。スポーツのビジネスや事故などについての仲裁も取り扱う。2006年からは、話し合いで和解あっせんする調停業務も開始した。

スポーツ仲裁機構のホームページの仲裁判断集を見ると、過去にウェイトリフティング、テコンドー、身体障害者水泳、馬術、身体障害者陸上競技、ローラースケート、セーリングの7件がある。

スポーツ仲裁機構(CAS: Court of Arbitration for Sport)とは、国際オリンピック委員会 (IOC) によって1984年設立され、ドーピング裁定や、競技結果の判定、出場資格の認定などスポーツで起きたトラブルを、裁判所ではなく解決をめざすことを目的とした裁判外紛争処理機関である。本部はローザンヌ(スイス)にある。日本人としては、千葉すず選手が、日本水泳連盟のシドニーオリンピック代表の選考基準が不明瞭であるとして提訴した事例がある。この申立では、「代表選考方法に公平性を欠く事実はなかった」として千葉選手の訴えを退ける裁定をした一方で、「日本水連は選考基準の公開を徹底していれば,今回の訴えは避けられた」とも判断し、日本水連に対し、千葉選手への補償金として1万スイスフラン(約65万円)を支払うよう求め、「痛み分け」で決着している。

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○今回の日本スポーツ仲裁機構(JSAA)のような裁判外紛争解決手続は、一般に「ADR(Alternative Dispute Resolution)」と呼ばれる。

ADRには、仲裁・調停・あっせんなど、裁判によらない紛争解決方法を広く指す。広くは、裁判所での民事調停や家事調停もこれに含まれるし、建設工事紛争審査会や公害等調整委員会などの行政機関が行う仲裁・調停・あっせんや、弁護士会、その他の民間団体が行う紛争解決手続も、すべて「裁判外紛争解決手続ADR」に含まれる。

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○ADRといえば、ジュリア・ロバーツが主演した2000年のアメリカ映画Erin Brockovich(エリン・ブロコビッチ)が面白い。

この映画は、正式な法律教育を受けていないにも関わらず、1993年にカリフォルニア州の大手企業PG&Eを相手取って訴訟と仲裁・調停を経て、全米史上最高額の和解金3億3千3百万ドルを勝ち取った一人の女性エリン・ブロコビッチの実話物語である。

離婚して3人の子供を食べさせようにも仕事が見つからないエリン(ジュリア・ロバーツ)が残金16ドルという窮地におちいった際に、交通事故の賠償金訴訟で知り合った弁護士のエド・マスリー(アルバート・フィニー)の法律事務所に強引に働き始める。そんなある日、彼女はふとしたことから大企業の公害汚染隠しの事実に行き当たり、苦労の末に全米史上最高額の和解金獲得に至ったという話しである。女性の情熱と不屈の精神、そして他人を助けることによって結果的に自分自身が救われたという感動ものである。

この映画では、本物のエリン・ブロコビッチとエド・マスリーも端役で出演している。

○この映画の題材となった、カリフォルニア州の水質汚濁汚染(六価クロム汚染)事件で活用されたのが、ADRである。この事件は、300名を超える大型の公害環境紛争であるところ、一旦は裁判所に提訴されたものの、その後に、当事者間で仲裁合意ができ、ジャムスのロサンゼルス支部で仲裁と調停の組み合わせで処理され、解決に至った。

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○司法制度改革審議会の意見書では、このADRについて、「社会で生起する紛争には、、その大小、種類などにおいて様々なものがあるが、事案の性格や当事者の事情に応じた多様な紛争を解決方法を整備することは、司法を国民に近いものとし、紛争の深刻化を防止する上で、大きな意義を有する。裁判外の紛争解決手段(ADR)は、厳格な裁判手続と異なり、利用者の自主性を生かした解決、プライバシーや営業秘密を保持した非公開での解決、簡易・迅速で、廉価な解決、多様な分野の専門家の知見を生かしたきめ細かい解決、法律上の権利義務の存否にとどまらない実情に沿った解決を図ることなど柔軟な対応も可能である。」と、その拡充が提言された。

○このADR手続は、裁判に比べて、迅速・簡易・安価が特徴(まるで牛丼のようである)と言われ、紛争分野に関する第三者の専門的な知見を反映して紛争の実情に即した迅速な解決を図れ、また手続きも簡易で、費用も比較的安く、何をおいても柔軟な対応が可能であるという特長がある。

○このため、裁判外紛争解決手続の機能の充実の要請を受けて、第161回国会で、「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」(いわゆるADR法)が可決成立し、平成16年12月1日に公布され(平成16年法律第151号)、平成19年4月1日から施行された。

このADR法は、「裁判外紛争解決手続の機能を充実することにより、紛争の当事者が解決を図るのにふさわしい手続を選択することを容易にし、国民の権利利益の適切な実現に資することを目的」とする。

そして、同法では、裁判外紛争解決手続のうち、民間事業者の行う和解の仲介(調停,あっせん)の業務について、その業務の適正さを確保するための一定の要件に適合していることを法務大臣が認証する制度となっている。この認証を受けた民間事業者の和解の仲介の業務については、時効の中断、訴訟手続の中止などの効果が与えられることに特徴がある。

仲裁の業務は認証の対象とはされていない。仲裁については仲裁法により時効の中断等の法的効果が与えられているためで、認証により法的効果を与える必要がないためである。

ちなみに、認証を受けない民間事業者も、時効の中断、訴訟手続の中止などの効果はないものの、引き続き、これまでと同様のかたちで裁判外紛争解決手続を行うことができる。

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○現在の認証紛争解決事業者(認証番号順)
0001 日本スポーツ仲裁機構(スポーツに関する紛争)東京都 (03)5465-1415
0002 大阪弁護士会民事紛争処理センター(民事紛争)大阪市 (06)6364-1802
0003 財団法人家電製品協会(家電製品の事故に関する民事上紛争)東京都 (03)3433-8081
0004 財団法人自動車製造物責任相談センター(自動車等の製造物責任紛争)東京都 0120-028-222

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裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律
(平成十六年十二月一日法律第百五十一号)
 第一章 総則(第一条―第四条)
 第二章 認証紛争解決手続の業務
  第一節 民間紛争解決手続の業務の認証(第五条―第十三条)
  第二節 認証紛争解決事業者の業務(第十四条―第十九条)
  第三節 報告等(第二十条―第二十四条)
 第三章 認証紛争解決手続の利用に係る特例(第二十五条―第二十七条)
 第四章 雑則(第二十八条―第三十一条)
 第五章 罰則(第三十二条―第三十四条)
 附則

第一章 総則
(目的)
第一条  この法律は、内外の社会経済情勢の変化に伴い、裁判外紛争解決手続(訴訟手続によらずに民事上の紛争の解決をしようとする紛争の当事者のため、公正な第三者が関与して、その解決を図る手続をいう。以下同じ。)が、第三者の専門的な知見を反映して紛争の実情に即した迅速な解決を図る手続として重要なものとなっていることにかんがみ、裁判外紛争解決手続についての基本理念及び国等の責務を定めるとともに、民間紛争解決手続の業務に関し、認証の制度を設け、併せて時効の中断等に係る特例を定めてその利便の向上を図ること等により、紛争の当事者がその解決を図るのにふさわしい手続を選択することを容易にし、もって国民の権利利益の適切な実現に資することを目的とする。
(定義)
第二条  この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一  民間紛争解決手続 民間事業者が、紛争の当事者が和解をすることができる民事上の紛争について、紛争の当事者双方からの依頼を受け、当該紛争の当事者との間の契約に基づき、和解の仲介を行う裁判外紛争解決手続をいう。ただし、法律の規定により指定を受けた者が当該法律の規定による紛争の解決の業務として行う裁判外紛争解決手続で政令で定めるものを除く。
二  手続実施者 民間紛争解決手続において和解の仲介を実施する者をいう。
三  認証紛争解決手続 第五条の認証を受けた業務として行う民間紛争解決手続をいう。
四  認証紛争解決事業者 第五条の認証を受け、認証紛争解決手続の業務を行う者をいう。
(基本理念等)
第三条  裁判外紛争解決手続は、法による紛争の解決のための手続として、紛争の当事者の自主的な紛争解決の努力を尊重しつつ、公正かつ適正に実施され、かつ、専門的な知見を反映して紛争の実情に即した迅速な解決を図るものでなければならない。
2  裁判外紛争解決手続を行う者は、前項の基本理念にのっとり、相互に連携を図りながら協力するように努めなければならない。
(国等の責務)
第四条  国は、裁判外紛争解決手続の利用の促進を図るため、裁判外紛争解決手続に関する内外の動向、その利用の状況その他の事項についての調査及び分析並びに情報の提供その他の必要な措置を講じ、裁判外紛争解決手続についての国民の理解を増進させるように努めなければならない。
2  地方公共団体は、裁判外紛争解決手続の普及が住民福祉の向上に寄与することにかんがみ、国との適切な役割分担を踏まえつつ、裁判外紛争解決手続に関する情報の提供その他の必要な措置を講ずるように努めなければならない。
   
第二章 認証紛争解決手続の業務
第一節 民間紛争解決手続の業務の認証
(民間紛争解決手続の業務の認証)
第五条  民間紛争解決手続を業として行う者(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものを含む。)は、その業務について、法務大臣の認証を受けることができる。
(認証の基準)
第六条  法務大臣は、前条の認証の申請をした者(以下「申請者」という。)が行う当該申請に係る民間紛争解決手続の業務が次に掲げる基準に適合し、かつ、申請者が当該業務を行うのに必要な知識及び能力並びに経理的基礎を有するものであると認めるときは、当該業務について認証をするものとする。
一  その専門的な知見を活用して和解の仲介を行う紛争の範囲を定めていること。
二  前号の紛争の範囲に対応して、個々の民間紛争解決手続において和解の仲介を行うのにふさわしい者を手続実施者として選任することができること。
三  手続実施者の選任の方法及び手続実施者が紛争の当事者と利害関係を有することその他の民間紛争解決手続の公正な実施を妨げるおそれがある事由がある場合において、当該手続実施者を排除するための方法を定めていること。
四  申請者の実質的支配者等(申請者の株式の所有、申請者に対する融資その他の事由を通じて申請者の事業を実質的に支配し、又はその事業に重要な影響を与える関係にあるものとして法務省令で定める者をいう。以下この号において同じ。)又は申請者の子会社等(申請者が株式の所有その他の事由を通じてその事業を実質的に支配する関係にあるものとして法務省令で定める者をいう。)を紛争の当事者とする紛争について民間紛争解決手続の業務を行うこととしている申請者にあっては、当該実質的支配者等又は申請者が手続実施者に対して不当な影響を及ぼすことを排除するための措置が講じられていること。
五  手続実施者が弁護士でない場合(司法書士法 (昭和二十五年法律第百九十七号)第三条第一項第七号 に規定する紛争について行う民間紛争解決手続において、手続実施者が同条第二項 に規定する司法書士である場合を除く。)において、民間紛争解決手続の実施に当たり法令の解釈適用に関し専門的知識を必要とするときに、弁護士の助言を受けることができるようにするための措置を定めていること。
六  民間紛争解決手続の実施に際して行う通知について相当な方法を定めていること。
七  民間紛争解決手続の開始から終了に至るまでの標準的な手続の進行について定めていること。
八  紛争の当事者が申請者に対し民間紛争解決手続の実施の依頼をする場合の要件及び方式を定めていること。
九  申請者が紛争の一方の当事者から前号の依頼を受けた場合において、紛争の他方の当事者に対し、速やかにその旨を通知するとともに、当該紛争の他方の当事者がこれに応じて民間紛争解決手続の実施を依頼するか否かを確認するための手続を定めていること。
十  民間紛争解決手続において提出された資料の保管、返還その他の取扱いの方法を定めていること。
十一  民間紛争解決手続において陳述される意見又は提出され、若しくは提示される資料に含まれる紛争の当事者又は第三者の秘密について、当該秘密の性質に応じてこれを適切に保持するための取扱いの方法を定めていること。第十六条に規定する手続実施記録に記載されているこれらの秘密についても、同様とする。
十二  紛争の当事者が民間紛争解決手続を終了させるための要件及び方式を定めていること。
十三  手続実施者が民間紛争解決手続によっては紛争の当事者間に和解が成立する見込みがないと判断したときは、速やかに当該民間紛争解決手続を終了し、その旨を紛争の当事者に通知することを定めていること。
十四  申請者(法人にあってはその役員、法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものにあってはその代表者又は管理人)、その代理人、使用人その他の従業者及び手続実施者について、これらの者が民間紛争解決手続の業務に関し知り得た秘密を確実に保持するための措置を定めていること。
十五  申請者(手続実施者を含む。)が支払を受ける報酬又は費用がある場合には、その額又は算定方法、支払方法その他必要な事項を定めており、これが著しく不当なものでないこと。
十六  申請者が行う民間紛争解決手続の業務に関する苦情の取扱いについて定めていること。
(欠格事由)
第七条  前条の規定にかかわらず、次の各号のいずれかに該当する者は、第五条の認証を受けることができない。
一  成年被後見人又は被保佐人
二  民間紛争解決手続の業務に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年
三  破産者で復権を得ないもの
四  禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又は刑の執行を受けることがなくなった日から五年を経過しない者
五  この法律又は弁護士法 (昭和二十四年法律第二百五号)の規定に違反し、罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から五年を経過しない者
六  第二十三条第一項又は第二項の規定により認証を取り消され、その取消しの日から五年を経過しない者
七  認証紛争解決事業者で法人(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものを含む。第九号、次条第二項第一号、第十三条第一項第三号及び第十七条第三項において同じ。)であるものが第二十三条第一項又は第二項の規定により認証を取り消された場合において、その取消しの日前六十日以内にその役員(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものにあっては、その代表者又は管理人。第九号において同じ。)であった者でその取消しの日から五年を経過しないもの
八  暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律 (平成三年法律第七十七号)第二条第六号 に規定する暴力団員(以下この号において「暴力団員」という。)又は暴力団員でなくなった日から五年を経過しない者(以下「暴力団員等」という。)
九  法人でその役員又は政令で定める使用人のうちに前各号のいずれかに該当する者のあるもの
十  個人でその政令で定める使用人のうちに第一号から第八号までのいずれかに該当する者のあるもの
十一  暴力団員等をその民間紛争解決手続の業務に従事させ、又は当該業務の補助者として使用するおそれのある者
十二  暴力団員等がその事業活動を支配する者
(認証の申請)
第八条  第五条の認証の申請は、法務省令で定めるところにより、次に掲げる事項を記載した申請書を法務大臣に提出してしなければならない。
一  氏名又は名称及び住所並びに法人にあってはその代表者(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものにあっては、その代表者又は管理人)の氏名
二  民間紛争解決手続の業務を行う事務所の所在地
三  前二号に掲げるもののほか、法務省令で定める事項
2  前項の申請書には、次に掲げる書類を添付しなければならない。
一  法人にあっては、定款、寄付行為その他の基本約款を記載した書類
二  その申請に係る民間紛争解決手続の業務の内容及びその実施方法を記載した書類
三  その申請に係る民間紛争解決手続の業務に関する事業報告書又は事業計画書
四  申請者の財産目録、貸借対照表、収支計算書又は損益計算書その他の当該申請に係る民間紛争解決手続の業務を行うのに必要な経理的基礎を有することを明らかにする書類であって法務省令で定めるもの
五  前各号に掲げるもののほか、法務省令で定める書類
3  第五条の認証の申請をする者は、実費を勘案して政令で定める額の手数料を納付しなければならない。

(認証の公示等)
第十一条  法務大臣は、第五条の認証をしたときは、認証紛争解決事業者の氏名又は名称及び住所を官報で公示しなければならない。
2  認証紛争解決事業者は、認証紛争解決手続を利用し、又は利用しようとする者に適正な情報を提供するため、法務省令で定めるところにより、認証紛争解決事業者である旨並びにその認証紛争解決手続の業務の内容及びその実施方法に係る事項であって法務省令で定めるものを、認証紛争解決手続の業務を行う事務所において見やすいように掲示しなければならない。
3  認証紛争解決事業者でない者は、その名称中に認証紛争解決事業者であると誤認されるおそれのある文字を用い、又はその業務に関し、認証紛争解決事業者であると誤認されるおそれのある表示をしてはならない。

第二節 認証紛争解決事業者の業務
(説明義務)
第十四条  認証紛争解決事業者は、認証紛争解決手続を実施する契約の締結に先立ち、紛争の当事者に対し、法務省令で定めるところにより、次に掲げる事項について、これを記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)提供して説明をしなければならない。
一  手続実施者の選任に関する事項
二  紛争の当事者が支払う報酬又は費用に関する事項
三  第六条第七号に規定する認証紛争解決手続の開始から終了に至るまでの標準的な手続の進行
四  前三号に掲げるもののほか、法務省令で定める事項
(暴力団員等の使用の禁止)
第十五条  認証紛争解決事業者は、暴力団員等を業務に従事させ、又は業務の補助者として使用してはならない。
(手続実施記録の作成及び保存)
第十六条  認証紛争解決事業者は、法務省令で定めるところにより、その実施した認証紛争解決手続に関し、次に掲げる事項を記載した手続実施記録を作成し、保存しなければならない。
一  紛争の当事者との間で認証紛争解決手続を実施する契約を締結した年月
二  紛争の当事者及びその代理人の氏名又は名称
三  手続実施者の氏名
四  認証紛争解決手続の実施の経緯
五  認証紛争解決手続の結果(認証紛争解決手続の終了の理由及びその年月日を含む。)
六  前各号に掲げるもののほか、実施した認証紛争解決手続の内容を明らかにするため必要な事項であって法務省令で定めるもの

第三節 報告等
(事業報告書等の提出)
第二十条  認証紛争解決事業者は、その認証紛争解決手続の業務に関し、毎事業年度の経過後三月以内に、法務省令で定めるところにより、その事業年度の事業報告書、財産目録、貸借対照表及び収支計算書又は損益計算書を作成し、これを法務大臣に提出しなければならない。
(報告及び検査)
第二十一条  法務大臣は、認証紛争解決事業者について、第二十三条第一項各号又は第二項各号のいずれかに該当する事由があると疑うに足りる相当な理由がある場合には、その認証紛争解決手続の業務の適正な運営を確保するために必要な限度において、法務省令で定めるところにより、認証紛争解決事業者に対し、当該業務の実施の状況に関し必要な報告を求め、又はその職員に、当該認証紛争解決事業者の事務所に立ち入り、当該業務の実施の状況若しくは帳簿、書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。
2  前項の規定により立入検査をする職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者の請求があったときは、これを提示しなければならない。
3  第一項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。

(認証の取消し)
第二十三条  法務大臣は、認証紛争解決事業者が次の各号のいずれかに該当するときは、その認証を取り消さなければならない。
一  第七条各号(第六号を除く。)のいずれかに該当するに至ったとき。
二  偽りその他不正の手段により第五条の認証又は第十二条第一項の変更の認証を受けたとき。
三  正当な理由がなく、前条第二項の規定による命令に従わないとき。
2  法務大臣は、認証紛争解決事業者が次の各号のいずれかに該当するときは、その認証を取り消すことができる。
一  その行う認証紛争解決手続の業務の内容及びその実施方法が第六条各号に掲げる基準のいずれかに適合しなくなったとき。
二  認証紛争解決手続の業務を行うのに必要な知識若しくは能力又は経理的基礎を有するものでなくなったとき。
三  この法律の規定に違反したとき。
3  法務大臣は、前二項の規定による認証の取消しをしようとするときは、第七条第八号から第十二号までに該当する事由(同条第九号及び第十号に該当する事由にあっては、同条第八号に係るものに限る。)又は第十五条の規定に違反する事実の有無について、警察庁長官の意見を聴くことができる。
4  法務大臣は、第一項又は第二項の規定により認証を取り消したときは、その旨を官報で公示しなければならない。
5  第一項又は第二項の規定により認証の取消しの処分を受けた者は、当該処分の日から二週間以内に、当該処分の日に認証紛争解決手続が実施されていた紛争の当事者に対し、当該処分があった旨を通知しなければならない。
6  第九条第一項及び第三項の規定は、第二項の規定により認証の取消しの処分をしようとする場合及び当該処分についての異議申立てに対する決定をしようとする場合について準用する。
(民間紛争解決手続の業務の特性への配慮)
第二十四条  法務大臣は、第二十一条第一項の規定により報告を求め、若しくはその職員に検査若しくは質問をさせ、又は第二十二条の規定により勧告をし、若しくは命令をするに当たっては、民間紛争解決手続が紛争の当事者と民間紛争解決手続の業務を行う者との間の信頼関係に基づいて成り立つものであり、かつ、紛争の当事者の自主的な紛争解決の努力が尊重されるべきものであることその他の民間紛争解決手続の業務の特性に配慮しなければならない。

第三章 認証紛争解決手続の利用に係る特例
(時効の中断)
第二十五条  認証紛争解決手続によっては紛争の当事者間に和解が成立する見込みがないことを理由に手続実施者が当該認証紛争解決手続を終了した場合において、当該認証紛争解決手続の実施の依頼をした当該紛争の当事者がその旨の通知を受けた日から一月以内に当該認証紛争解決手続の目的となった請求について訴えを提起したときは、時効の中断に関しては、当該認証紛争解決手続における請求の時に、訴えの提起があったものとみなす。
2  第十九条の規定により第五条の認証がその効力を失い、かつ、当該認証がその効力を失った日に認証紛争解決手続が実施されていた紛争がある場合において、当該認証紛争解決手続の実施の依頼をした当該紛争の当事者が第十七条第三項若しくは第十八条第二項の規定による通知を受けた日又は第十九条各号に規定する事由があったことを知った日のいずれか早い日(認証紛争解決事業者の死亡により第五条の認証がその効力を失った場合にあっては、その死亡の事実を知った日)から一月以内に当該認証紛争解決手続の目的となった請求について訴えを提起したときも、前項と同様とする。
3  第五条の認証が第二十三条第一項又は第二項の規定により取り消され、かつ、その取消しの処分の日に認証紛争解決手続が実施されていた紛争がある場合において、当該認証紛争解決手続の実施の依頼をした当該紛争の当事者が同条第五項の規定による通知を受けた日又は当該処分を知った日のいずれか早い日から一月以内に当該認証紛争解決手続の目的となった請求について訴えを提起したときも、第一項と同様とする。
(訴訟手続の中止)
第二十六条  紛争の当事者が和解をすることができる民事上の紛争について当該紛争の当事者間に訴訟が係属する場合において、次の各号のいずれかに掲げる事由があり、かつ、当該紛争の当事者の共同の申立てがあるときは、受訴裁判所は、四月以内の期間を定めて訴訟手続を中止する旨の決定をすることができる。
一  当該紛争について、当該紛争の当事者間において認証紛争解決手続が実施されていること。
二  前号に規定する場合のほか、当該紛争の当事者間に認証紛争解決手続によって当該紛争の解決を図る旨の合意があること。
2  受訴裁判所は、いつでも前項の決定を取り消すことができる。
3  第一項の申立てを却下する決定及び前項の規定により第一項の決定を取り消す決定に対しては、不服を申し立てることができない。
(調停の前置に関する特則)
第二十七条  民事調停法 (昭和二十六年法律第二百二十二号)第二十四条の二第一項 の事件又は家事審判法 (昭和二十二年法律第百五十二号)第十八条第一項 の事件(同法第二十三条 の事件を除く。)について訴えを提起した当事者が当該訴えの提起前に当該事件について認証紛争解決手続の実施の依頼をし、かつ、当該依頼に基づいて実施された認証紛争解決手続によっては当事者間に和解が成立する見込みがないことを理由に当該認証紛争解決手続が終了した場合においては、民事調停法第二十四条の二 又は家事審判法第十八条 の規定は、適用しない。この場合において、受訴裁判所は、適当であると認めるときは、職権で、事件を調停に付することができる。
   第四章 雑則
(略)
附 則 抄
(施行期日)
第一条  この法律は、公布の日から起算して二年六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
(検討)
第二条  政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において、この法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。
(以下略)
                                            弁護士 三木秀夫

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