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三木秀夫法律事務所
このページは最近話題になったニュースを題材にして、そこに関係する各種法令もしくは
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ニュース六法目次
元・光GENJIの赤坂被告に即決で有罪判決(2007年11月21日)  即決裁
○覚せい剤を所持していたとして、覚せい剤取締法違反の罪に問われた人気アイドルグループ「光GENJI」(解散)の元メンバー、赤坂晃被告(34)の初公判が21日、東京地裁で開かれた。赤坂被告が起訴事実を認めた後、佐々木直人裁判官が即決裁判の適用を決定。佐々木裁判官は「私生活上の悩みを紛らわすため、安易に違法な薬物の作用を求めた。刑事責任は軽くない」と述べ、懲役1年6月、執行猶予3年(求刑・懲役1年6月)の判決を言い渡した。

判決に先立ち、検察側は冒頭陳述で、赤坂被告が今年4月ごろから覚せい剤を使用するようになり、これまでに少なくとも7、8回購入していたことを明らかにした。一方、赤坂被告は被告人質問で、「今年3月に離婚し、子どもに会えないつらさから逃げるために覚せい剤を使用してしまった」と述べた。判決によると、赤坂被告は10月28日、東京都豊島区の路上で、約0・7グラムの覚せい剤を所持していた。
(2007年11月21日 読売新聞)

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○光GENJIの一人が覚せい剤所持の容疑で逮捕されたと聞いた際は、また芸能人の薬物事件か、という感想だった。この光GENJIがテレビに出始めたのは、今からどれくらい前か記憶にないが、一世を風靡していたのは大いに記憶がある。改めて聞いたところ1987年に結成とのことだから、今から20年前。SMAPの兄貴分グループとのことらしい。

最初、「光ゲンジ」というのを聞いて一人の歌手かと思っていたら、7人も踊っていたのを見たときは驚いた。すでにおじさん化していた私にしてみたら、誰がどういう名前か知らないままだった。

○そのうちの一人の赤坂氏が、今年の10月28日深夜に東池袋の路上にて覚醒剤を所持していたとして覚せい剤取締法違反で現行犯逮捕された。逮捕時点の姿を見て、当時のアイドルもすっかりおじさんになったな、て、自分のことを忘れて、つい思ってしまった。ジャニーズ事務所は翌日に解雇を発表。その後、今年の3月には離婚していた事も発覚したと女性誌が報じていた。この事件で懲役1年6ヶ月、執行猶予3年の有罪判決を受けたと報じたのが上記の記事である。今後は深く反省して、ぜひ、立ち直って欲しいものだ。

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○今回の赤坂被告の裁判は「即決裁判」で行われたと報じられていた。

即決裁判とは、司法制度改革の一環として、平成18年秋から始まった新しい手続である。殺人、放火等の重大な事件を除く、争いのない明白軽微な事件について、検察官が起訴と同時に申立てを行い、裁判所の決定によって開始される手続である。

この手続による場合、簡易かつ効率的な審理が行われ、原則として、その日のうちに判決が言い渡される。即決裁判が申し立てられた事件については、初公判をできる限り起訴後2週間以内に開くこととされており、原則として1日で審理から判決までが終了する。このため、争いのない明白軽微な事件審理の大幅なスピードアップとなっている。

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○この即決裁判について、ちょうど赤坂裁判の直前の11月19日付asahi.comに、その導入初年度の運用状況が載っていて、分かりやすいなと思うので、ここにその一部を下記に紹介する。

○以下2007年11月19日asahi.comより
刑事裁判の「即決裁判」手続きが昨年10月に導入されてから1年間で、全被告の5%にあたる4000人余がこの制度に基づいて判決を受けたことが、最高裁のまとめで分かった。比較的軽い罪で起訴された被告が罪を認めた時、初公判で一気に判決まで言い渡す仕組みの導入で、「時間がかかり過ぎる」と批判されがちだった刑事裁判のスピードアップが進んだ形だ。最高裁は、さらに運用が軌道に乗れば10%程度まで適用が拡大すると想定している。

最高裁によると、今年9月までの1年間に全国の地裁・簡裁で一審判決を言い渡された被告は8万3863人(死亡による公訴棄却なども含む)。このうち検察側が即決裁判の適用を申し立てたのは4210人で、裁判所による適用を受けて判決を迎えたのは4179人だった。適用には、本人のほか弁護人の同意が必要だ。即決裁判の場合は懲役・禁固刑には必ず執行猶予が付くことから、裁判所が「実刑が相当」などの理由で認めなかったケースもあるという。

判決を迎えた被告の主な罪名をみると、(1)出入国管理法違反1536人(2)覚せい剤取締法違反1126人(3)窃盗744人。不法残留や薬物犯罪(初犯)、万引きなどで起訴された被告が多い。最も多かったのは東京の地裁・簡裁で、同地裁・簡裁で判決を受けた被告の15.6%にあたる1910人。大阪340人(4.6%)、名古屋269人(6.4%)と続く。東京が圧倒的に多いのは、出入国管理法違反事件が多いのが理由。札幌は54人(2.3%)、福岡は47人(1.3%)で被告数の割に少なく、福井、松山、宮崎、鹿児島は各1人と、地域によってばらつきがあった。

「起訴から14日以内に判決」が即決裁判の原則だが、実際に14日以内に判決を迎えたのは31.6%。時間が長くかかったのは、弁護人や通訳人の日程的な都合などが影響している。

裁判が早く終わるため、被告の勾留(こうりゅう)をいたずらに長引かせない効果もある。手続きを経験した弁護士は「接見回数も少なくて済み、弁護活動は楽。これまでだと2〜3カ月勾留されていたのが、3週間程度で出られる」と変化を指摘する。ただ、ある刑事裁判官は「被告の更生に影響を与える判決の『感銘力』がなくなってしまわないか」と懸念する。別の裁判官は「真相が解明されず、本来は執行猶予でないような事件が紛れ込んではまずいので、慎重な判断が必要だ」と指摘する。(以上2007年11月19日asahi.comより)

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○手続きのポイント

(1)検察官は、公訴を提起しようとする事件について、事案が明白であり、かつ、軽微であること、証拠調べが速やかに終わると見込まれることその他の事情を考慮し、相当と認めるときは、公訴の提起と同時に、書面により即決裁判手続の申立てをすることができる。ただし、死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる事件については、できない。この申立ては、即決裁判手続によることについての被疑者の同意がなければ、これをすることができない(刑事訴訟法第350条の2)。

(2)検察官は、被疑者に対して、即決裁判について、分かりやすく説明し、その同意を得なくては、即決裁判を申し立てることはできない。また、被疑者に弁護人がある場合には、被疑者の同意に加えて、弁護人が同意をし、又はその意見を留保しているときに限り、即決裁判の申立てを行うことができる。

(3)被疑者が同意するかどうかを明らかにしようとする場合に、貧困その他の理由により弁護人を選任することができないときは、被疑者の請求により裁判官が弁護人を付けることになっていて、被疑者は、その弁護人から助言を得て、同意するかどうかを決めることができる。ちなみに、即決裁判開始後も、判決の言渡しがあるまでは、被告人又は弁護人はその同意を撤回し、通常の手続の裁判を受けることができる。

(4)その後、裁判所は、即決裁判手続の申立てがあつた事件の公判の冒頭手続きにおいて、被告人が起訴状に記載された訴因について自ら有罪である旨の陳述をしたときは、一定の場合を除き、即決裁判手続によって審判をすることを決定をしなければならない(同法第350条の8)。

(5)この即決裁判手続を行う公判については、弁護人がないときは、これを開くことができない(同法第350条の9)。検察官側の恣意的な即決手続移行申立やその後の訴訟追行における恣意を防止するため、必要的弁護事件としたものである。

(6)検察官による冒頭陳述を省略するなど、証拠調べの方式について裁判所による裁量の幅が広い(第350条の10)。

(7)証拠の特例として、伝聞法則は原則として適用されないが、検察官、被告人又は弁護人が証拠とすることに異議を述べたものについてはこの限りでない(第350条の12)。伝聞法則とは、伝聞証拠の証拠能力を否定する訴訟法上の原則を言い、公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできないことをいい、本来は弁護人が同意した場合などの例外のみ証拠として採用される。即決裁判でこの伝聞法則が原則として適用されないというのは、弁護人などが異議を述べない限りは証拠として採用できるいうことで、原則と例外が逆転されたものである。

(8)即決裁判では、できる限り、即日判決の言渡しをしなければならない(第350条の13)。 

(9)即決裁判において懲役又は禁錮の言渡しをする場合には、必ずその刑の執行猶予の言渡しをしなければならない(第350条の14)。

((10)この場合は、事実誤認を理由とする上訴はできな(控訴につき第403条の2、上告につき第413条の2)。

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○問題点
即決裁判は、長い身柄拘束を受けている刑事被告人が、迅速な裁判を渇望する場合においては、ありがたい面はある。しかし、この場合、本当は、保釈をさせずに長期間拘束を続ける「人質司法」そのものに問題がある。被疑者を外界から遮断させているなかで、早く出たいがために争いたい部分を、即決裁判に応じてしてしまうケースがあるならば、大問題である。

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○刑事訴訟法
(昭和二十三年七月十日法律第百三十一号)

第四章 即決裁判手続
第一節 即決裁判手続の申立て
第三百五十条の二  検察官は、公訴を提起しようとする事件について、事案が明白であり、かつ、軽微であること、証拠調べが速やかに終わると見込まれることその他の事情を考慮し、相当と認めるときは、公訴の提起と同時に、書面により即決裁判手続の申立てをすることができる。ただし、死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる事件については、この限りでない。
2  前項の申立ては、即決裁判手続によることについての被疑者の同意がなければ、これをすることができない。
3  検察官は、被疑者に対し、前項の同意をするかどうかの確認を求めるときは、これを書面でしなければならない。この場合において、検察官は、被疑者に対し、即決裁判手続を理解させるために必要な事項(被疑者に弁護人がないときは、次条の規定により弁護人を選任することができる旨を含む。)を説明し、通常の規定に従い審判を受けることができる旨を告げなければならない。
4  被疑者に弁護人がある場合には、第一項の申立ては、被疑者が第二項の同意をするほか、弁護人が即決裁判手続によることについて同意をし又はその意見を留保しているときに限り、これをすることができる。
5  被疑者が第二項の同意をし、及び弁護人が前項の同意をし又はその意見を留保するときは、書面でその旨を明らかにしなければならない。
6  第一項の書面には、前項の書面を添付しなければならない。

第三百五十条の三  前条第三項の確認を求められた被疑者が即決裁判手続によることについて同意をするかどうかを明らかにしようとする場合において、被疑者が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは、裁判官は、その請求により、被疑者のため弁護人を付さなければならない。ただし、被疑者以外の者が選任した弁護人がある場合は、この限りでない。
2  第三十七条の三の規定は、前項の請求をする場合についてこれを準用する。

第二節 公判準備及び公判手続の特例
第三百五十条の四  即決裁判手続の申立てがあつた場合において、被告人に弁護人がないときは、裁判長は、できる限り速やかに、職権で弁護人を付さなければならない。

第三百五十条の五  検察官は、即決裁判手続の申立てをした事件について、被告人又は弁護人に対し、第二百九十九条第一項の規定により証拠書類を閲覧する機会その他の同項に規定する機会を与えるべき場合には、できる限り速やかに、その機会を与えなければならない。

第三百五十条の六  裁判所は、即決裁判手続の申立てがあつた事件について、弁護人が即決裁判手続によることについてその意見を留保しているとき、又は即決裁判手続の申立てがあつた後に弁護人が選任されたときは、弁護人に対し、できる限り速やかに、即決裁判手続によることについて同意をするかどうかの確認を求めなければならない。
2  弁護人は、前項の同意をするときは、書面でその旨を明らかにしなければならない。

第三百五十条の七  裁判長は、即決裁判手続の申立てがあつたときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴いた上で、その申立て後(前条第一項に規定する場合においては、同項の同意があつた後)、できる限り早い時期の公判期日を定めなければならない。

第三百五十条の八  裁判所は、即決裁判手続の申立てがあつた事件について、第二百九十一条第二項の手続に際し、被告人が起訴状に記載された訴因について有罪である旨の陳述をしたときは、次に掲げる場合を除き、即決裁判手続によつて審判をする旨の決定をしなければならない。
一  第三百五十条の二第二項又は第四項の同意が撤回されたとき。
二  第三百五十条の六第一項に規定する場合において、同項の同意がされなかつたとき、又はその同意が撤回されたとき。
三  前二号に掲げるもののほか、当該事件が即決裁判手続によることができないものであると認めるとき。
四  当該事件が即決裁判手続によることが相当でないものであると認めるとき。

第三百五十条の九  前条の手続を行う公判期日及び即決裁判手続による公判期日については、弁護人がないときは、これを開くことができない。

第三百五十条の十  第三百五十条の八の決定のための審理及び即決裁判手続による審判については、第二百八十四条、第二百八十五条、第二百九十六条、第二百九十七条、第三百条から第三百二条まで及び第三百四条から第三百七条までの規定は、これを適用しない。
2  即決裁判手続による証拠調べは、公判期日において、適当と認める方法でこれを行うことができる。

第三百五十条の十一  裁判所は、第三百五十条の八の決定があつた事件について、次の各号のいずれかに該当することとなつた場合には、当該決定を取り消さなければならない。
一  判決の言渡し前に、被告人又は弁護人が即決裁判手続によることについての同意を撤回したとき。
二  判決の言渡し前に、被告人が起訴状に記載された訴因について有罪である旨の陳述を撤回したとき。
三  前二号に掲げるもののほか、当該事件が即決裁判手続によることができないものであると認めるとき。
四  当該事件が即決裁判手続によることが相当でないものであると認めるとき。
2  前項の規定により第三百五十条の八の決定が取り消されたときは、公判手続を更新しなければならない。ただし、検察官及び被告人又は弁護人に異議がないときは、この限りでない。

第三節 証拠の特例
第三百五十条の十二  第三百五十条の八の決定があつた事件の証拠については、第三百二十条第一項の規定は、これを適用しない。ただし、検察官、被告人又は弁護人が証拠とすることに異議を述べたものについては、この限りでない。

第四節 公判の裁判の特例
第三百五十条の十三  裁判所は、第三百五十条の八の決定があつた事件については、できる限り、即日判決の言渡しをしなければならない。

第三百五十条の十四  即決裁判手続において懲役又は禁錮の言渡しをする場合には、その刑の執行猶予の言渡しをしなければならない。

第四百三条の二  即決裁判手続においてされた判決に対する控訴の申立ては、第三百八十四条の規定にかかわらず、当該判決の言渡しにおいて示された罪となるべき事実について第三百八十二条に規定する事由があることを理由としては、これをすることができない。
2  原裁判所が即決裁判手続によつて判決をした事件については、第三百九十七条第一項の規定にかかわらず、控訴裁判所は、当該判決の言渡しにおいて示された罪となるべき事実について第三百八十二条に規定する事由があることを理由としては、原判決を破棄することができない。

第四百十三条の二  第一審裁判所が即決裁判手続によつて判決をした事件については、第四百十一条の規定にかかわらず、上告裁判所は、当該判決の言渡しにおいて示された罪となるべき事実について同条第三号に規定する事由があることを理由としては、原判決を破棄することができない。
                                            弁護士 三木秀夫

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