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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
雷門近くに人力車専用の駐車帯を設置(2008年01月30日)人力車/軽車両
○東京・浅草の雷門周辺で客待ちをする観光客向けの人力車が歩行者の通行を妨げているとして、警視庁は30日、人力車専用の駐車帯を設置、指定場所以外での駐車を禁止した。

名所を案内する人力車は京都や鎌倉など観光地で人気を集めているが、警察の規制で駐車帯を設置するのは例がないという。浅草は観光客、交通量ともに多く、地元住民からの苦情に対応した。

駐車帯が設けられたのは雷門近くの区道の2カ所(計約25メートル)。駐車禁止の道路標識に「人力車を除く」と明記され、計十数台分が確保できる。代わりに、この区間以外では駐車が禁止され、悪質な業者には警視庁が指導や警告をすることになる。

浅草の人力車は10年ほど前に登場、現在は約60台に上る。道路交通法の「軽車両」にあたり、歩道での駐車が禁じられているが、客待ちの人力車が雷門前の歩道に10台以上並ぶなど違法駐車も目立つようになったという。近くに住む主婦(41)は「歩道での駐車や強引な勧誘が目に余ることもあった」と話す。(2008.01.30 NIKKEI NET)

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○関西でも、京都や奈良でも多くあり、観光地の一つの風物詩という感じがする。よく行く道後温泉でも先日見かけた。浅草や鎌倉に行ったときにも、人力車がたくさん駐車していて、若くて生きのよさそうな若者が観光客に声をかけていたのを記憶している。乗ったことはないが、観光名所をコースで回り、車夫がガイドとして解説してくれるもののようである。

一方で、駐車位置が通行の邪魔に思うこともあった。以前は、雷門前では歩道上に多数駐車していたようで、歩行者にとっては厄介であったろう。場合によっては勧誘がしつこいな、と思うこともあり、こういった点は、地元と業者との間で調整をしてもらうとありがたいな、とは思っていた。

○今回のニュースは、このうち、客待ち駐車に関する一定のルール化である。日常生活と観光との共生という意味で、いい方向ではなかろうか。

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「人力車」は道路交通法では自転車などと同じ「軽車両」である。
このため、駐車禁止の指定のある地域の歩道での駐車はできず、観光客への観光案内時間中の駐輪場所や客待用の待機場所の整備が遅れている。

○東京新聞の同日の夕刊記事によると、現在、浅草の観光人力車は9業者計56台で、大手の「時代屋」の「しばらくは手探りの部分もあるが、懸案だった駐車の問題が解決したことは大きい」との声と、別業者の「公認駐車帯ができたことをプラスにとらえるしかない」との声も紹介している。まと、同紙は、今回の駐車帯は地下鉄の出入り口のそばの上、商店街の前のため、平日のこの日でさえ人の出入りが多く、業者の車などの出入りも激しいと指摘し、「今度は道路上の車の通行の妨げになって、危険な場面が生じなければいいが」との車夫の声も紹介していた。当面の運用を見ながら、改善していくこととなるのではないか。

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○軽車両とは
道路交通法第2条第1項第11号での定義によると、「自転車、荷車その他人若しくは動物の力により、又は他の車両に牽引され、かつ、レールによらないで運転する車(そり及び牛馬を含む。)」とされ、身体障害者用の車いす、歩行補助車等及び小児用の車は除外されている。括弧内に(そり及び牛馬を含む。)としている点が面白いが、荷車やそりが無くても「牛・馬」それ自体が軽車両だという意味であり、牛や馬でも道端につないであるだけで駐車になるし、騎乗していれば軽車両として道交法の規制を受ける。

軽車両は、自動車等とともに、道路交通法では「車両」に含まれ、軽車両は路側帯を通行することができ、道路の左側端に寄って通行しなければならず、また、自動車と同じく飲酒運転は禁止されている。(「牛馬」でいけば、道路上での「飲酒騎乗」は違反となる。)

人力車も、この軽車両として定義の中に含まれて解釈されている。ただし、自転車とはならないため、自転車道および道路標識によって自転車通行可とされた歩道の通行はできない。

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○道路交通法
(定義)
第2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
2 歩道 歩行者の通行の用に供するため縁石線又はさくその他これに類する工作物によつて区画された道路の部分をいう。
8 車両
自動車、原動機付自転車、軽車両及びトロリーバスをいう。
11 軽車両  
自転車、荷車その他人若しくは動物の力により、又は他の車両に牽引され、かつ、レールによらないで運転する車(そり及び牛馬を含む。)であつて、身体障害者用の車いす、歩行補助車等及び小児用の車以外のものをいう。
11の2 自転車
ペダル又はハンド・クランクを用い、かつ、人の力により運転する二輪以上の車(レールにより運転する車を除く。)であつて、身体障害者用の車いす、歩行補助車等及び小児用の車以外のもの(人の力を補うため原動機を用いるものであつて、内閣府令で定める基準に該当するものを含む。)をいう。

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○人力車の「駐車禁止」
道路交通法44条、45条では駐車禁止について書かれており、対象は「車両は...」となっていて、車両には同法2条1項8号で「軽車両」が含まれるため、よって人力車も駐車違反の対象となる。

しかし、同法46条で、「道路標識等により停車又は駐車をすることができることとされているときは、これらの規定にかかわらず、停車し、又は駐車することができる」とされており、一定の場を駐車禁止から解除できるようになっている。今回の浅草の駐車帯の設置はこれによるものと思われる。

○人力車を含む車両が、「歩道での駐車ができない」の法的根拠は、少しややこしい。
駐車禁止に関して定めた道路交通法の該当部分(44条〜46条)を普通にさっと見れば、歩道そのもを駐車禁止としては書いていない。しかし、歩道について、同法2条1項2号で、「歩行者の通行の用に供するため縁石線又はさくその他これに類する工作物によつて区画された道路の部分をいう。」と定義している。つまり、「歩道は道路の部分」であるため、駐車禁止に指定された「道路」に含まれることになる。今回問題になった浅草周辺は駐車禁止指定があるため、歩道も指定道路の一部として禁止の対象となる。

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○道路交通法
(停車及び駐車を禁止する場所)
第44条 車両は、道路標識等により停車及び駐車が禁止されている道路の部分及び次に掲げるその他の道路の部分においては、法令の規定若しくは警察官の命令により、又は危険を防止するため一時停止する場合のほか、停車し、又は駐車してはならない。ただし、乗合自動車又はトロリーバスが、その属する運行系統に係る停留所又は停留場において、乗客の乗降のため停車するとき、又は運行時間を調整するため駐車するときは、この限りでない。
一  交差点、横断歩道、自転車横断帯、踏切、軌道敷内、坂の頂上付近、勾配の急な坂又はトンネル
二  交差点の側端又は道路のまがりかどから五メートル以内の部分
三  横断歩道又は自転車横断帯の前後の側端からそれぞれ前後に五メートル以内の部分
四  安全地帯が設けられている道路の当該安全地帯の左側の部分及び当該部分の前後の側端からそれぞれ前後に十メートル以内の部分
五  乗合自動車の停留所又はトロリーバス若しくは路面電車の停留場を表示する標示柱又は標示板が設けられている位置から十メートル以内の部分(当該停留所又は停留場に係る運行系統に属する乗合自動車、トロリーバス又は路面電車の運行時間中に限る。)
六  踏切の前後の側端からそれぞれ前後に十メートル以内の部分

(駐車を禁止する場所)
第45条 車両は、道路標識等により駐車が禁止されている道路の部分及び次に掲げるその他の道路の部分においては、駐車してはならない。ただし、公安委員会の定めるところにより警察署長の許可を受けたときは、この限りでない。
一  人の乗降、貨物の積卸し、駐車又は自動車の格納若しくは修理のため道路外に設けられた施設又は場所の道路に接する自動車用の出入口から三メートル以内の部分
二  道路工事が行なわれている場合における当該工事区域の側端から五メートル以内の部分
三  消防用機械器具の置場若しくは消防用防火水槽の側端又はこれらの道路に接する出入口から五メートル以内の部分
四  消火栓、指定消防水利の標識が設けられている位置又は消防用防火水槽の吸水口若しくは吸管投入孔から五メートル以内の部分
五  火災報知機から一メートル以内の部分
2  車両は、第四十七条第二項又は第三項の規定により駐車する場合に当該車両の右側の道路上に三・五メートル(道路標識等により距離が指定されているときは、その距離)以上の余地がないこととなる場所においては、駐車してはならない。ただし、貨物の積卸しを行なう場合で運転者がその車両を離れないとき、若しくは運転者がその車両を離れたが直ちに運転に従事することができる状態にあるとき、又は傷病者の救護のためやむを得ないときは、この限りでない。
3  公安委員会が交通がひんぱんでないと認めて指定した区域においては、前項本文の規定は、適用しない。

(停車又は駐車を禁止する場所の特例)
第46条  車両は、第44条又は前条第1項の規定による停車及び駐車を禁止する道路の部分又は駐車を禁止する道路の部分の一部について、道路標識等により停車又は駐車をすることができることとされているときは、これらの規定にかかわらず、停車し、又は駐車することができる。

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○道路運送車両法での軽車両
同法での道路運送車両とは、自動車、原動機付自転車及び軽車両をいい、「軽車両」については2条4項で、「人力若しくは畜力により陸上を移動させることを目的として製作した用具で軌条若しくは架線を用いないもの又はこれにより牽引して陸上を移動させることを目的として製作した用具であつて、政令で定めるものをいう。」と定義されている。ここでいう政令とは、道路運送車両法施行令をいうが、同令第1条では、「馬車、牛車、馬そり、荷車、人力車、三輪自転車(側車付の二輪自転車を含む。)及びリヤカーをいう。」としている。

○道路運送車両法2条
4 この法律で「軽車両」とは、人力若しくは畜力により陸上を移動させることを目的として製作した用具で軌条若しくは架線を用いないもの又はこれにより牽引して陸上を移動させることを目的として製作した用具であつて、政令で定めるものをいう。

道路運送車両法施行令
(軽車両の定義)
第1条 道路運送車両法 (以下「法」という。)第2条第4項 の軽車両は、馬車、牛車、馬そり、荷車、人力車、三輪自転車(側車付の二輪自転車を含む。)及びリヤカーをいう。

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○リキシャー
アジアではリキシャーが多い。余談だが、私がネパールに行ったときに、リキシャーと呼ばれる乗り物の多いのに驚いたことがある。(当ホームページの「ネパール探訪記」参照。)リキシャーとは力車だという。戦前に日本から伝わったと聞いたことがある。自転車で漕ぐタイプがほとんどなので、正確にはサイクル・リキシャーであろう。ペダルを漕ぐ足は裸足だったように思う。
                                            弁護士 三木秀夫

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