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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
迷惑メール男を逮捕(2008年02月16日)特定電子メール法/特定商取引法
○出会い系サイトの広告など迷惑メールを大量に送信していたとして、警視庁ハイテク犯罪対策総合センターは15日、江東区大島6、居酒屋従業員S容疑者(25)を特定電子メール送信適正化法違反の疑いで逮捕したと発表した。S容疑者は2006年5月からの約1年半に、約22億通の迷惑メールを送り続けていたという。

調べによると、S容疑者は昨年11月13日、送信元を突き止められないよう、架空のメールアドレスが表示されるソフトウエアを使って、出会い系サイトや競馬情報サイトの宣伝メールを9回にわたって大量に送信した疑い。S容疑者は06年1月ごろ、インターネット上で売買されている約30万件のメールアドレスを5万円で購入。自宅近くに借りたアパートの部屋で、1日約400万通の迷惑メールを送信し、複数の広告主から約2000万円を受け取っていたという。
(2008年2月16日 読売新聞)

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○「こいつだったのか」と、思わず口に出してしまった。
毎日、毎日たくさんの迷惑メール(スパムメールといい、送信者をスパマーというらしい)が押し寄せてきている。内容が不快なものばかりであるうえに、重要なメールがこれですっかり埋もれてしまい、迷惑メールを一つ一つ消していくだけで大変な時間をロスしてしまっていた。ましてや迷惑メールに対しても受信料がかかる場合もあるほか、受信容量の多くが奪われ他の必要なメールの送受信に支障をきたす場合もあって、害悪以外の何ものでもない。おまけに、その中には接続しただけで「架空請求メール」や「フィッシングメール」につながっていくものもあるということで、怖さもある。現在はプロバイダーの迷惑メールブロックサービスを受けているので、かなり助かっているが、いずれにせよ迷惑さは限りなく大きく、まさに社会の大敵である。自分で犯人を探せるものなら、捕まえてやりたい気持ちだったので、嬉しいニュースである。こういった犯人はバシバシ検挙してもりたいが、さらには、この男に金を払っていた風俗業者なども摘発していくべきである。

○ただ、これで迷惑メールが無くなるわけではないという現実にはうんざりする限りである。特に日本国内の防御対策が及ばない中国などを中心とする海外発のメールが9割以上を占めているとのことで、国際的な協力関係での摘発が必要であろう。

○今年の1月18日の毎日新聞の報道によると、総務省は現在は事実上野放しになっている海外発の迷惑メールを規制する方針を固め、海外発メールも特定電子メール法の対象とする改正案を国会に提出するようである。日本国内への迷惑メール送信が確認された海外の各国政府に対し、送信者の個人情報を提供、取り締まりを要請するようである。また、改正法案ではこのほか、迷惑メール送信者に対する罰金額の上限を現行の「100万円」から10倍以上に引き上げ、上限額を1000万〜3000万円とする方向で調整中とのこと。さらに、ウイルス感染させた第三者のパソコンを外部から不正操作してメールを大量送信したり、金融機関などからのメールを装いカード番号などを詐取する「フィッシング」など悪質な迷惑メールは、ネット接続業者が送信を拒否できる規定も新設するようである。

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○今回の摘発根拠となったのは、「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」(略称:特定電子メール法)における「送信者情報の虚偽」の疑いである。同法は2002年に施行され、2005年の改正で、送信者情報を偽った迷惑メールの発信者に対し、行政処分を経ずに直接刑事罰を科せるようになった。警視庁によると、これによる摘発は全国で今回の件が4件目とのこと。

こうした迷惑メールを規制する法律としては、この特定電子メール法の他に、「定商取引に関する法律」(略称:特定商取引法)があり、前者は総務省が、後者は経済産業省がそれぞれ所管している。こ2法をあわせて「迷惑メール防止二法」ともいう。

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○特定電子メールの送信の適正化等に関する法律
(通称:「特定電子メール法」、「特定電子メール送信適正化法」、「特電法」、「迷惑メール防止法」など)

○規制対象
同法の規制対象者は営利団体や個人事業者が自己又は他人の営業につき広告又は宣伝するメールで、個人(事業のためにメールを受信する場合を除く)に送信されたメールが規制対象である。 

○規制内容
送信者は、特定電子メールの送信に当たっては、総務省令で定めるところにより、その受信をする者が使用する通信端末機器の映像面に次の事項が正しく表示されるようにしなければならない(同法第3条)。
一  特定電子メールである旨(未承諾広告※の表示) 
二  当該送信者の氏名又は名称及び住所
三  受信拒否の通知を受け取るための当該送信者の電子メールアドレス
四  その他総務省令で定める事項

○拒否者に対する送信禁止
送信者は、その送信をした特定電子メールの受信をした者であって、総務省令で定めるところにより特定電子メールの送信をしないように求める旨(一定の事項に係る特定電子メールの送信をしないように求める場合にあっては、その旨)を当該送信者に対して通知したものに対し、これに反して、特定電子メールの送信をしてはならない(同法4条)。

○架空電子メールでの送信禁止
送信者は、自己又は他人の営業のために多数の電子メールの送信をする目的で、架空電子メールアドレスをそのあて先とする電子メールの送信をしてはならない(同法5条)。
この「架空電子メール」とは、「多数の電子メールアドレスを自動的に作成する機能を有するプログラムを用いて作成したものであること」、つまりはコンピューターを使って自動作成した架空アドレスのみが対象で、人の手で作るような場合は、これに当たらず抜け道となる。

これらの規定に違反した行為を行った場合は、直ちに罰則の適用はなく、これに関して後述の措置命令(同法7条)が出たにもかかわらずなお違反した場合は「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」となる(同法32条2号)。ほとんどの迷惑メールがこの表示義務に違反していることを考えると、実効性に疑問がないではない。

○行政処分と罰則 
総務大臣は、規制内容を遵守していないと認められる場合、是正を求める措置命令を行うことができる。
罰則: 1年以下の懲役又は100万円以下の罰金

○送信者情報を偽った送信の禁止(同法6条)
送信者は、自己又は他人の営業につき広告又は宣伝を行うための手段として、電子メールの送受信のために用いられる情報のうち送信者に関するものであって次に掲げるもの(以下「送信者情報」という。)を偽って電子メールの送信をしてはならない。
一  当該電子メールの送信に用いた電子メールアドレス
二  当該電子メールの送信に用いた電気通信設備(電気通信事業法第二条第二号に規定する電気通信設備をいう。)を識別するための文字、番号、記号その他の符号

この違反は、措置命令を経由せずとも、直接に罰せられる(同法32条1号)。このため、警察が直接捜査でき、今回の警視庁ハイテク犯罪対策総合センターによる摘発はこの罰則規定によったものである。 


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○特定商取引に関する法律(略称:特定商取引法)
この法律は、本来は、訪問販売や通信販売、継続的役務提供に係る取引等を規制する法律で、取引の公正と購入者等の損害の防止を目的としている。

○同法の最大の特徴は「指定商品・役務制」を採用していることにあり、これに指定されていないと規制対象とならないため、特定電子メール法よりは規制対象が狭く、全ての迷惑メールが規制の対象となるわけではない点が弱点でもある。ただ、多くの迷惑メールが「出会い系サイトの紹介」や「アダルト情報」に関するもので、いずれも下記の通りの「指定役務」(特定商取引に関する法律施行令で指定)に当たると解されているので、通信販売の広告規制の適用を受けることになる。

出会い系サイトの紹介
「結婚又は交際を希望する者への異性の紹介」(同法施行令別表3第11号)
アダルト情報
「映画、演劇、音楽、スポーツ、写真又は絵画、彫刻その他美術工芸品を鑑賞させ、観覧させること」(同法施行令別表3第13号)

○このため、こういったメールを送信する者は以下の規制の通りにしなければならない。
@相手方の承諾を得ていない広告メールの表題部冒頭への「未承諾広告※」の表示 
A相手方の承諾を得ていない広告メールの本文最前部への「事業者情報(氏名又は名称、連絡先メールアドレス)」等の表示 
B受信を拒否する旨及び受信者のメールアドレスを通知すれば広告メールの提供が停止されることの表示

○そして広告メールの受信拒否をした者に対する再送信が禁止され(オプトアウト規制)、また広告(電子メール本文及びWebサイト)の中で、サービスの効果やサービスの対価などについて虚偽・誇大な広告をすることの禁止、自らの意思に反して消費者に契約の申込みをさせようとする行為の禁止がある。これに違反した場合には主務大臣の指示や業務停止命令といった行政処分の対象となる。

○具体的な禁止事例
@ワンクリック詐欺(接続後いきなり入会)
リンク先サイトに接続したら、いきなり有料サイトに入会したとして入会金や利用料の支払い請求を受けるケースなどがある。これは、特定商取引法14条(意に反して契約の申込みをさせようとする行為の禁止)違反となる。
Aワンクリック詐欺(クリック後いきなり入会)
サイト中のあるボタンや画像をクリックしただけで、いきなり有料サイトに入会したとして入会金や利用料の支払い請求を受けるケースなどがある。これは、特定商取引法14条(意に反して契約の申込みをさせようとする行為の禁止)違反となる。
B虚偽誇大広告(無料誘引)
サイトのトップページ付近には「無料」とあったのに、利用規約ページには有料と記載されていて入会金や利用料の支払い請求を受けるケースなどがある。これは、特定商取引法12条(誇大広告等の禁止)違反となる。
C提携有料サイト(自動的入会)
あるサイトに入会申込みをしたら、自動的に他の有料サイトにも入会したとして入会金や利用料の支払い請求を受けるケースなどがある。これは、特定商取引法14条(意に反して契約の申込みをさせようとする行為の禁止)違反となる。

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○特定電子メールの送信の適正化等に関する法律
(平成十四年四月十七日法律第二十六号)
第一章 総則

(目的)
第一条  この法律は、一時に多数の者に対してされる特定電子メールの送信等による電子メールの送受信上の支障を防止する必要性が生じていることにかんがみ、特定電子メールの送信の適正化のための措置等を定めることにより、電子メールの利用についての良好な環境の整備を図り、もって高度情報通信社会の健全な発展に寄与することを目的とする。

(定義)
第二条  この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一  電子メール 特定の者に対し通信文その他の情報をその使用する通信端末機器(入出力装置を含む。次条において同じ。)の映像面に表示されるようにすることにより伝達するための電気通信(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第一号に規定する電気通信をいう。)であって、総務省令で定める通信方式を用いるものをいう。
二  特定電子メール 次に掲げる者以外の者に対し、電子メールの送信をする者(営利を目的とする団体及び営業を営む場合における個人に限る。以下「送信者」という。)が自己又は他人の営業につき広告又は宣伝を行うための手段として送信をする電子メールをいう。
イ あらかじめ、その送信をするように求める旨又は送信をすることに同意する旨をその送信者に対し通知した者(当該通知の後、その送信をしないように求める旨を当該送信者に対し通知した者を除く。)
ロ その広告又は宣伝に係る営業を営む者と取引関係にある者
ハ その他政令で定める者
三  電子メールアドレス 電子メールの利用者を識別するための文字、番号、記号その他の符号をいう。
四  架空電子メールアドレス 次のいずれにも該当する電子メールアドレスをいう。
イ 多数の電子メールアドレスを自動的に作成する機能を有するプログラム(電子計算機に対する指令であって、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。)を用いて作成したものであること。
ロ 現に電子メールアドレスとして利用する者がないものであること。
五  電子メール通信役務 電子メールに係る電気通信事業法第二条第三号に規定する電気通信役務をいう。

第二章 特定電子メールの送信の適正化のための措置等
(表示義務)
第三条  送信者は、特定電子メールの送信に当たっては、総務省令で定めるところにより、その受信をする者が使用する通信端末機器の映像面に次の事項が正しく表示されるようにしなければならない。
一  特定電子メールである旨
二  当該送信者の氏名又は名称及び住所
三  次条の通知を受けるための当該送信者の電子メールアドレス
四  その他総務省令で定める事項

拒否者に対する送信の禁止
第四条  送信者は、その送信をした特定電子メールの受信をした者であって、総務省令で定めるところにより特定電子メールの送信をしないように求める旨(一定の事項に係る特定電子メールの送信をしないように求める場合にあっては、その旨)を当該送信者に対して通知したものに対し、これに反して、特定電子メールの送信をしてはならない。

架空電子メールアドレスによる送信の禁止
第五条  送信者は、自己又は他人の営業のために多数の電子メールの送信をする目的で、架空電子メールアドレスをそのあて先とする電子メールの送信をしてはならない。
(送信者情報を偽った送信の禁止)
第六条  送信者は、自己又は他人の営業につき広告又は宣伝を行うための手段として、電子メールの送受信のために用いられる情報のうち送信者に関するものであって次に掲げるもの(以下「送信者情報」という。)を偽って電子メールの送信をしてはならない。
一  当該電子メールの送信に用いた電子メールアドレス
二  当該電子メールの送信に用いた電気通信設備(電気通信事業法第二条第二号に規定する電気通信設備をいう。)を識別するための文字、番号、記号その他の符号

(措置命令)
第七条  総務大臣は、送信者が一時に多数の者に対してする特定電子メールの送信その他の電子メールの送信につき、第三条若しくは第四条の規定を遵守していないと認める場合又は架空電子メールアドレスをそのあて先とする電子メール若しくは送信者情報を偽った電子メールの送信をしたと認める場合において、電子メールの送受信上の支障を防止するため必要があると認めるときは、当該送信者に対し、電子メールの送信の方法の改善に関し必要な措置をとるべきことを命ずることができる。

(総務大臣に対する申出)
第八条  特定電子メール又は送信者情報を偽った電子メールの受信をした者は、第三条、第四条又は第六条の規定に違反して電子メールの送信がされたと認めるときは、総務大臣に対し、適当な措置をとるべきことを申し出ることができる。
2  電子メール通信役務を提供する者は、第五条の規定に違反して架空電子メールアドレスをそのあて先とする電子メールの送信がされたと認めるときは、総務大臣に対し、適当な措置をとるべきことを申し出ることができる。
3  総務大臣は、前二項の規定による申出があったときは、必要な調査を行い、その結果に基づき必要があると認めるときは、この法律に基づく措置その他適当な措置をとらなければならない。

(苦情等の処理)
第九条  特定電子メールの送信者は、その特定電子メールの送信についての苦情、問合せ等については、誠意をもって、これを処理しなければならない。

(中略)

第五章 罰則
第三十一条  第二十五条の規定による業務の停止の命令に違反した者は、一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

第三十二条  次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
一  第六条の規定に違反した者
二  第七条の規定による命令に違反した者

第三十三条  次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
一  第二十一条の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者
二  第二十六条の規定に違反して同条に規定する事項の記載をせず、若しくは虚偽の記載をし、又は帳簿を保存しなかった者
三  第二十八条第一項若しくは第二項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又はこれらの規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者

第三十四条  法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前三条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。

第三十五条  第二十二条第一項の規定に違反して財務諸表等を備えて置かず、財務諸表等に記載すべき事項を記載せず、若しくは虚偽の記載をし、又は正当な理由がないのに同条第二項各号の規定による請求を拒んだ者は、二十万円以下の過料に処する。
                                            弁護士 三木秀夫

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