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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
「適格消費者団体」による初の差止請求(2008年03月25日) 消費者団体訴訟
○賃貸住宅の入居契約に、退去後の補修費の一定額を賃借人負担とする条項を盛り込んだのは消費者契約法に違反するとして、NPO法人「京都消費者契約ネットワーク」(京都市)が25日、マンション賃貸管理会社「長栄」(同)に条項の使用差し止めを求める訴えを京都地裁に起こした。昨年6月導入の「消費者団体訴訟制度」(団体訴権)に基づく全国初の提訴。同NPOは、被害者に代わって業者に不当行為差し止めを請求できる「適格消費者団体」として訴訟に踏み切った。

訴状によると、長栄は賃貸物件の賃貸借契約で入居者に賃料の2〜3か月分を「定額補修分担金」名目で負担させる条項を設定。同NPOは判例が賃借人に負担させることを禁じた、通常使用による損耗の原状回復費まで負担させる隠れみのになっていると主張。長栄の長田修社長は「契約時にあらかじめ補修費の負担額を合意するもので一定の合理性があり、消費者に一方的に不利な条項ではない。昨年7月からは盛り込んでおらず請求には理由がない」と反論。代理人弁護士は「同法違反との原告の主張について争いたい」としている。一方、同NPO理事長の野々山宏弁護士は提訴後、記者会見し、「条項を復活させる可能性があり、長栄は再び使用しないと訴訟で約束すべきだ」と指摘。勝訴の場合、同社への個人の損害賠償請求訴訟で援用でき、他の業者の同様の契約を巡る訴訟にも有利な材料になる、と意義を強調した。

提訴のハードル高く、「適格」認定全国で5団体
「適格消費者団体」になるには首相の認定を受ける必要がある。消費者の利益保護を主な活動にしているNPO法人か公益法人で、メンバーに弁護士や消費生活の専門家がいるなどが条件で、現在は全国で5団体が認定されている。今回の提訴に関係者らは、効果を評価する一方、課題があるとする。「消費者機構日本」(東京都)は、予備校の授業料など6件について業者側に約款の改善を申し入れ、訴訟になる前に改善させた。磯辺浩一事務局長は「制度先進国のドイツでは9割が申し入れだけで問題が解決している。団体も訴訟が起こせるという事実が改善を促す」と分析する。制度では、ある事案について確定判決が一つ出れば、二度と訴えを起こせないことになっている。「消費者ネット広島」(広島市)の三村明理事は「情報収集などが不十分なまま敗訴する危険性を考えると、提訴には慎重にならざるを得ない」と指摘。坂東俊矢・京都産業大教授(消費者法)は「今回の訴訟が消費者の利益になる成果を出せば今後の追い風にもなるので、注目したい」と話している。
(2008年3月25日 読売新聞)

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○消費者団体訴訟:関連3法改正案を閣議決定
政府は4日、悪質商法の被害者に代わって消費者団体が業者の不当な行為を差し止め請求できる「消費者団体訴訟制度」の適用範囲を拡大するため、消費者契約法など消費者保護関連3法の改正案を閣議決定した。不当な勧誘や契約に加え、悪質な通信販売や不当表示なども対象にする。今国会での成立を目指し、来年4月に施行したい考え。

改正するのは、不当な勧誘や契約を禁じた消費者契約法、誇大広告や不当表示を規制する景品表示法、訪問販売などを規制する特定商取引法。消費者団体訴訟制度は消費者契約法で昨年6月から導入された。改正案では、消費者契約法に基づいて内閣府の認定を受けた消費者団体が、追加の手続きなしに、特商法や景表法で規制された不当な行為の差し止め請求ができるようにする。【瀬尾忠義】
(毎日新聞 2008年3月4日)

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○初の消費者団体訴訟
2008年3月25日に、適格消費者団体による初の消費者団体訴訟が提起された。私が関わっているNPO法人消費者支援機構関西(KC's)も適格消費者団体として他の事業者への訴訟提起を準備中であるが先を越されたものの、消費者運動の歴史の中での大きな一歩といえよう。この訴訟が今後の消費者保護制度の前進につながっていく事を祈りたい。

○適用範囲を拡大
これに先立ち、政府は3月4日に「消費者団体訴訟制度」の適用範囲を拡大して、景品表示法及び特定商取引法に消費者団体訴訟制度を導入するため、「消費者契約法等の一部を改正する法律案」を閣議決定し、第169回国会に提出された。

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○消費者団体訴訟制度とは
悪質商法の被害者に代わって消費者団体が業者の不当な行為を差し止め請求できる制度である。この制度によって、消費者契約法に違反した勧誘や契約行為の差止請求が可能となり、悪徳商法の被害の拡大が防止できる。改正消費者契約法として2006年5月31日に成立し、翌年6月7日から施行されている。(ちなみに、消費者契約法とは、消費者と事業者の情報力・交渉力の格差を前提とし、消費者の利益擁護を図ることを目的として、2000年4月制定、2001年4月に施行された。)

これまでの日本の民事訴訟制度の下では、何らかの消費者被害を被った当事者本人しか訴訟当事者になれないし、また、当該当事者の個別損害の賠償請求しか道が無かった。しかし訪問販売や業者側に一方的に有利な契約等のトラブルなどの悪徳商法では、一般に個別の被害額が少ないため、個別の被害当事者自身が自ら訴訟を起こすことが困難で、どうしても泣き寝入りとなってしまうケースが多かった。しかし放置しておけばさらに被害が拡大するため、加害業者の行為差止請求等の何らかの制度的対応が必要であった。

例えば、かつて世の中を震撼させた豊田商事事件や、近年話題となった悪質なリフォーム業者が認知症の高齢者姉妹を狙って次々と不要なリフォーム工事を契約させた事件、解約を巡る英会話教室での不当約款問題など、消費者団体や消費生活センターなどで以前から各種の被害情報が寄せられているにもかかわらず、消費者団体にその事業活動を差し止める手段がなかったことから、結果的に被害が拡大してしまうことが多々あった。

このため、長年にわたる消費者団体の運動のもとで作り出されたのが、この消費者団体訴訟制度である。直接の被害当事者ではないものの、一定の資格要件を満たした消費者団体が、消費者全体の利益を守るために裁判を起こすことを可能とするものである。ドイツをはじめヨーロッパにおいて発展してきた制度で、日本の民事訴訟制度の中では始めての導入となる。

○これにより、消費者契約法上「適格消費者団体」に当たる団体は、一定の事業活動につき差止めをなすよう訴えることが可能となった。ただし、適格消費者団体は、損害賠償請求をすることはできない。また、他の団体による消費者団体訴訟によって確定判決が出た場合は、原則として差し止め請求を行うことができない。

○適格消費者団体の差し止め請求権行使にあたっては、不特定かつ多数の消費者の利益のために、差止請求権を適切に行使しなければならないことや、差止請求権を濫用してはならないことが規定されている。また、事案の性質に応じて他の適格消費者団体と共同して差止請求権を行使するほか、差止請求関係業務について相互に連携を図りながら協力するように努めなければならないともされ、差止請求の訴えその他の行為について、他の適格消費者団体に通知するとともに、内閣総理大臣に報告しなければならないとされている。 

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○現時点の適格消費者団体

名称 住所 業務所在地 認定日
特定非営利活動法人
消費者機構日本
東京都千代田区六番町15
番地 主婦会館プラザエフ
6階
同左 平成19年8月23日
特定非営利活動法人
消費者支援機構関西
大阪市中央区大手前1丁
目7番31号 大阪マーチャ
ンダイズ・マートビル1階大
阪府消費生活センター内
同左 平成19年8月23日
社団法人全国消費生
活相談員協会
東京都港区高輪3丁目13
番地22号国民生活センタ
ー内
@左同じ
A大阪府大阪市中
央区北浜2丁目6番
26号大阪グリーンビ
ルディング内
平成19年11月9日
特定非営利活動法人
京都消費者契約ネッ
トワーク
京都市中京区烏丸通二条
下ル秋野々町529番地ヒロ
セビル5階
同左 平成19年12月25日
特定非営利活動法人
消費者ネット広島
広島市中区上八丁堀7番1
号ハイオス広島312号
同左 平成20年1月29日


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○差止の対象となる行為
現時点で、適格消費者団体が差止請求をできるのは、以下の消費者契約法に違反する行為に対してだけとされている。(労働契約については適用がない。)
(1)事業者等が不特定かつ多数の消費者に対して、消費者契約法第4条に規定する勧誘行為(重要事項について事実と異なることを告げる行為、重要事項について消費者の不利益となる事実を故意に告げない行為等)
(2)同法第8条から同法第10条までに規定する契約条項(事業者の損害賠償の責任を免除する条項、消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項、消費者の利益を一方的に害する条項)を含む契約の締結の意思表示を現に行い又は行うおそれがあるとき

○しかし、誇大・虚偽広告や通信販売も、対象とする方向で検討が行われてきた結果、前述の通り、この適用範囲を拡大して消費者契約法など消費者保護関連3法の改正案が今国会で審議されており、可決を経て来年4月に施行される予定である。

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○対象範囲について
景品表示法及び特定商取引法等の他にも、以前に弁護士会などからも提案されているように、民法96条(詐欺・強迫)、90条(公序良俗違反)、借地借家法の強行規定に反する行為などについても含める方向で検討されるべきであろう。

○損害賠償請求
また、個々の消費者の被害を救済するためにも、また、事業者が不当に得た利益を吐き出させるためにも、消費者団体が事業者に対して損害賠償を求めることも可能となるような制度にしていくことも必要である。すでにドイツ・フランスなどでは損害賠償請求も含めて訴権行使が行われている。

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○適格消費者団体の認定
認定は、NPO法人、公益法人が対象となる。下記のように、多くの認定要件のチェックのもとで内閣総理大臣の認定を受ける。窓口は内閣府で、3年の更新制で、認定を受けると内閣総理大臣によって報告徴収・立入検査、適合命令・改善命令・認定の取消し等の監督を受ける。また、財務諸表等の備置き、内閣府及び国民生活センターによる判決及び和解等の概要の公表義務がある。

○認定要件(消費者契約法13条4項)
@特定非営利活動法人又は民法の社団・財団法人であること。 
A消費生活に関する情報の収集及び提供並びに消費者の被害の防止及び救済のための活動その他の不特定かつ多数の消費者の利益の擁護を図るための活動を行うことを主たる目的とし、現にその活動を相当期間にわたり継続して適正に行っていると認められること。 
B差止請求関係業務の実施に係る組織、差止請求関係業務の実施の方法、差止請求関係業務に関して知り得た情報の管理及び秘密の保持の方法その他の差止請求関係業務を適正に遂行するための体制及び業務規程が適切に整備されていること。 
C差止請求関係業務の執行を決定する機関として理事をもって構成する理事会が置かれており、かつ、定款又は寄附行為で定めるその決定の方法が次に掲げる要件に適合していると認められること。
(1)当該理事会の決議が理事の過半数又はこれを上回る割合以上の多数決により行われるものとされていること。
(2)差止請求、差止請求に係る訴えの提起その他の差止請求関係業務の執行に係る重要な事項の決定が理事その他の者に委任されていないこと。
D理事の構成が次の(1)又は(2)のいずれかに該当するものでないこと。この場合において、第二号に掲げる要件に適合する者は、次の(1)又は(2)に規定する事業者に該当しないものとみなす。
(1)理事の数のうちに占める特定の事業者の関係者の数の割合が三分の一を超えていること。
(2)理事の数のうちに占める同一の業種に属する事業を行う事業者の関係者の数の割合が二分の一を超えていること。
E差止請求の要否及びその内容についての検討を行う部門において次のイ及びロに掲げる専門委員が共にその専門的な知識経験に基づいて必要な助言を行い又は意見を述べる体制が整備されていることその他差止請求関係業務を遂行するための人的体制に照らして、差止請求関係業務を適正に遂行することができる専門的な知識経験を有すると認められること。 
イ 消費生活に関する消費者と事業者との間に生じた苦情に係る相談その他の消費生活に関する事項について専門的な知識経験を有する者として内閣府令で定める条件に適合する者
ロ 弁護士、司法書士その他の法律に関する専門的な知識経験を有する者として内閣府令で定める条件に適合する者
F差止請求関係業務を適正に遂行するに足りる経理的基礎を有すること。 
G差止請求関係業務以外の業務を行う場合には、その業務を行うことによって差止請求関係業務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがないこと。 

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○事業者にとってのこの制度の意義
こういった団体訴権制度に対して、事業者や事業者団体の一部において、やや拒否感とも思えるような姿勢が見受けられたが、大きな誤解と言える。

本制度の導入は、決して公正な競争に努めようとする企業においては、決して負担を加重するものではない。この制度の本旨は、消費者の信頼と健全な市場を確保するものである。すでにEUでは本格的に導入されているのも、この本旨からであり、公正競争をしようとする企業にとっては、不公正競争企業を市場から排除する機能の一つとなるものである。「悪貨は良貨を駆逐する」という言葉があるが、悪貨たる不公正事業者を野放しにしていれば、良貨たる他の健全な事業者の正当な事業活動の支障となることは明らかである。むしろ、多くの健全なる事業者からの積極的な支援こそが、求められるべきものと思う。また、仮に導入されても、実際の訴訟よりも、訴訟前交渉における解決が圧倒的であることはEUでの例が示しており、EUにおいては企業側からも大きな評価されていることも伝わってきている。

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○消費者契約法(消費者団体訴訟関連・抄)(2008年3月当時)

第三章 差止請求
第一節 差止請求権 
第十二条  適格消費者団体は、事業者、受託者等又は事業者の代理人若しくは受託者等の代理人(以下「事業者等」と総称する。)が、消費者契約の締結について勧誘をするに際し、不特定かつ多数の消費者に対して第四条第一項から第三項までに規定する行為(同条第二項に規定する行為にあっては、同項ただし書の場合に該当するものを除く。次項において同じ。)を現に行い又は行うおそれがあるときは、その事業者等に対し、当該行為の停止若しくは予防又は当該行為に供した物の廃棄若しくは除去その他の当該行為の停止若しくは予防に必要な措置をとることを請求することができる。ただし、民法 及び商法 以外の他の法律の規定によれば当該行為を理由として当該消費者契約を取り消すことができないときは、この限りでない。
2  適格消費者団体は、次の各号に掲げる者が、消費者契約の締結について勧誘をするに際し、不特定かつ多数の消費者に対して第四条第一項から第三項までに規定する行為を現に行い又は行うおそれがあるときは、当該各号に定める者に対し、当該各号に掲げる者に対する是正の指示又は教唆の停止その他の当該行為の停止又は予防に必要な措置をとることを請求することができる。この場合においては、前項ただし書の規定を準用する。
一  受託者等 当該受託者等に対して委託(二以上の段階にわたる委託を含む。)をした事業者又は他の受託者等
二  事業者の代理人又は受託者等の代理人 当該代理人を自己の代理人とする事業者若しくは受託者等又はこれらの他の代理人
3  適格消費者団体は、事業者又はその代理人が、消費者契約を締結するに際し、不特定かつ多数の消費者との間で第八条から第十条までに規定する消費者契約の条項(第八条第一項第五号に掲げる消費者契約の条項にあっては、同条第二項各号に掲げる場合に該当するものを除く。次項において同じ。)を含む消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を現に行い又は行うおそれがあるときは、その事業者又はその代理人に対し、当該行為の停止若しくは予防又は当該行為に供した物の廃棄若しくは除去その他の当該行為の停止若しくは予防に必要な措置をとることを請求することができる。ただし、民法 及び商法 以外の他の法律の規定によれば当該消費者契約の条項が無効とされないときは、この限りでない。
4  適格消費者団体は、事業者の代理人が、消費者契約を締結するに際し、不特定かつ多数の消費者との間で第八条から第十条までに規定する消費者契約の条項を含む消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を現に行い又は行うおそれがあるときは、当該代理人を自己の代理人とする事業者又は他の代理人に対し、当該代理人に対する是正の指示又は教唆の停止その他の当該行為の停止又は予防に必要な措置をとることを請求することができる。この場合においては、前項ただし書の規定を準用する。
5  前各項の規定による請求(以下「差止請求」という。)は、次に掲げる場合には、することができない。
一  当該適格消費者団体若しくは第三者の不正な利益を図り又は当該事業者等に損害を加えることを目的とする場合
二  他の適格消費者団体を当事者とする差止請求に係る訴訟等(訴訟並びに和解の申立てに係る手続、調停及び仲裁をいう。以下同じ。)につき既に確定判決等(確定判決及びこれと同一の効力を有するものをいい、次のイからハまでに掲げるものを除く。以下同じ。)が存する場合において、請求の内容及び相手方である事業者等が同一である場合。ただし、当該他の適格消費者団体について、当該確定判決等に係る訴訟等の手続に関し、次条第一項の認定が第三十四条第一項第四号に掲げる事由により取り消され、又は同条第三項の規定により同条第一項第四号に掲げる事由があった旨の認定がされたときは、この限りでない。
イ 訴えを却下した確定判決
ロ 前号に掲げる場合に該当することのみを理由として差止請求を棄却した確定判決及び仲裁判断
ハ 差止請求をする権利(以下「差止請求権」という。)の不存在又は差止請求権に係る債務の不存在の確認の請求(第二十四条において「差止請求権不存在等確認請求」という。)を棄却した確定判決及びこれと同一の効力を有するもの
6  前項第二号本文の規定は、当該確定判決に係る訴訟の口頭弁論の終結後又は当該確定判決と同一の効力を有するものの成立後に生じた事由に基づいて同号本文に掲げる場合の当該差止請求をすることを妨げない。


第二節 適格消費者団体
第一款 適格消費者団体の認定等
(適格消費者団体の認定)
第十三条  差止請求関係業務(不特定かつ多数の消費者の利益のために差止請求権を行使する業務並びに当該業務の遂行に必要な消費者の被害に関する情報の収集並びに消費者の被害の防止及び救済に資する差止請求権の行使の結果に関する情報の提供に係る業務をいう。以下同じ。)を行おうとする者は、内閣総理大臣の認定を受けなければならない。
2  前項の認定を受けようとする者は、内閣総理大臣に認定の申請をしなければならない。
3  内閣総理大臣は、前項の申請をした者が次に掲げる要件のすべてに適合しているときに限り、第一項の認定をすることができる。
(略)
4  前項第三号の業務規程には、差止請求関係業務の実施の方法、差止請求関係業務に関して知り得た情報の管理及び秘密の保持の方法その他の内閣府令で定める事項が定められていなければならない。この場合において、業務規程に定める差止請求関係業務の実施の方法には、同項第五号の検討を行う部門における専門委員からの助言又は意見の聴取に関する措置及び役員、職員又は専門委員が差止請求に係る相手方である事業者等と特別の利害関係を有する場合の措置その他業務の公正な実施の確保に関する措置が含まれていなければならない。
5  次のいずれかに該当する者は、第一項の認定を受けることができない。
(略)

     
第二款 差止請求関係業務等
(差止請求権の行使等)
第二十三条  適格消費者団体は、不特定かつ多数の消費者の利益のために、差止請求権を適切に行使しなければならない。
2  適格消費者団体は、差止請求権を濫用してはならない
3  適格消費者団体は、事案の性質に応じて他の適格消費者団体と共同して差止請求権を行使するほか、差止請求関係業務について相互に連携を図りながら協力するように努めなければならない。
4  適格消費者団体は、次に掲げる場合には、内閣府令で定めるところにより、遅滞なく、その旨を他の適格消費者団体に通知するとともに、その旨及びその内容その他内閣府令で定める事項を内閣総理大臣に報告しなければならない。この場合において、当該適格消費者団体が、当該通知及び報告に代えて、すべての適格消費者団体及び内閣総理大臣が電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法をいう。以下同じ。)を利用して同一の情報を閲覧することができる状態に置く措置であって内閣府令で定めるものを講じたときは、当該通知及び報告をしたものとみなす。
一  第四十一条第一項(同条第三項において準用する場合を含む。)の規定による差止請求をしたとき。
二  前号に掲げる場合のほか、裁判外において事業者等に対し差止請求をしたとき。
三  差止請求に係る訴えの提起(和解の申立て、調停の申立て又は仲裁合意を含む。)又は仮処分命令の申立てがあったとき。
四  差止請求に係る判決の言渡し(調停の成立、調停に代わる決定の告知又は仲裁判断を含む。)又は差止請求に係る仮処分命令の申立てについての決定の告知があったとき。
五  前号の判決に対する上訴の提起(調停に代わる決定に対する異議の申立て又は仲裁判断の取消しの申立てを含む。)又は同号の決定に対する不服の申立てがあったとき。
六  第四号の判決(調停に代わる決定又は仲裁判断を含む。)又は同号の決定が確定したとき。
七  差止請求に係る裁判上の和解が成立したとき。
八  前二号に掲げる場合のほか、差止請求に係る訴訟(和解の申立てに係る手続、調停手続又は仲裁手続を含む。)又は差止請求に係る仮処分命令に関する手続が終了したとき。
九  差止請求に係る裁判外の和解が成立したときその他差止請求に関する事業者等との間の協議が調ったとき、又はこれが調わなかったとき。
十  差止請求に関し、請求の放棄、和解、上訴の取下げその他の内閣府令で定める手続に係る行為であって、それにより確定判決及びこれと同一の効力を有するものが存することとなるものをしようとするとき。
十一  その他差止請求に関し内閣府令で定める手続に係る行為がされたとき。
5  内閣総理大臣は、前項の規定による報告を受けたときは、すべての適格消費者団体及び内閣総理大臣が電磁的方法を利用して同一の情報を閲覧することができる状態に置く措置その他の内閣府令で定める方法により、他の適格消費者団体に当該報告の日時及び概要その他内閣府令で定める事項を伝達するものとする。
6  適格消費者団体について、第十二条第五項第二号本文の確定判決等で強制執行をすることができるものが存する場合には、当該適格消費者団体は、当該確定判決等に係る差止請求権を放棄することができない。
(消費者の被害に関する情報の取扱い)
第二十四条  適格消費者団体は、差止請求権の行使(差止請求権不存在等確認請求に係る訴訟を含む。第二十八条において同じ。)に関し、消費者から収集した消費者の被害に関する情報をその相手方その他の第三者が当該被害に係る消費者を識別することができる方法で利用するに当たっては、あらかじめ、当該消費者の同意を得なければならない。

(判決等に関する情報の提供)
第二十七条  適格消費者団体は、消費者の被害の防止及び救済に資するため、消費者に対し、差止請求に係る判決(確定判決と同一の効力を有するもの及び仮処分命令の申立てについての決定を含む。)又は裁判外の和解の内容その他必要な情報を提供するよう努めなければならない。
(財産上の利益の受領の禁止等)
第二十八条  適格消費者団体は、次に掲げる場合を除き、その差止請求に係る相手方から、その差止請求権の行使に関し、寄附金、賛助金その他名目のいかんを問わず、金銭その他の財産上の利益を受けてはならない。
一  差止請求に係る判決(確定判決と同一の効力を有するもの及び仮処分命令の申立てについての決定を含む。以下この項において同じ。)又は民事訴訟法 (平成八年法律第百九号)第七十三条第一項 の決定により訴訟費用(和解の費用、調停手続の費用及び仲裁手続の費用を含む。)を負担することとされた相手方から当該訴訟費用に相当する額の償還として財産上の利益を受けるとき。
二  差止請求に係る判決に基づいて民事執行法 (昭和五十四年法律第四号)第百七十二条第一項 の規定により命じられた金銭の支払として財産上の利益を受けるとき。
三  差止請求に係る判決に基づく強制執行の執行費用に相当する額の償還として財産上の利益を受けるとき。
四  差止請求に係る相手方の債務の履行を確保するために約定された違約金の支払として財産上の利益を受けるとき。
2  適格消費者団体の役員、職員又は専門委員は、適格消費者団体の差止請求に係る相手方から、その差止請求権の行使に関し、寄附金、賛助金その他名目のいかんを問わず、金銭その他の財産上の利益を受けてはならない。
3  適格消費者団体又はその役員、職員若しくは専門委員は、適格消費者団体の差止請求に係る相手方から、その差止請求権の行使に関し、寄附金、賛助金その他名目のいかんを問わず、金銭その他の財産上の利益を第三者に受けさせてはならない。
4  前三項に規定する差止請求に係る相手方からその差止請求権の行使に関して受け又は受けさせてはならない財産上の利益には、その相手方がその差止請求権の行使に関してした不法行為によって生じた損害の賠償として受け又は受けさせる財産上の利益は含まれない。
5  適格消費者団体は、第一項各号に規定する財産上の利益を受けたときは、これに相当する金額を積み立て、これを差止請求関係業務に要する費用に充てなければならない。
6  (略)

     
第三節 訴訟手続等の特例
(書面による事前の請求)
第四十一条  適格消費者団体は、差止請求に係る訴えを提起しようとするときは、その訴えの被告となるべき事業者等に対し、あらかじめ、請求の要旨及び紛争の要点その他の内閣府令で定める事項を記載した書面により差止請求をし、かつ、その到達した時から一週間を経過した後でなければ、その訴えを提起することができない。ただし、当該事業者等がその差止請求を拒んだときは、この限りでない。
2  前項の請求は、その請求が通常到達すべきであった時に、到達したものとみなす。
3  前二項の規定は、差止請求に係る仮処分命令の申立てについて準用する。
(訴訟の目的の価額)
第四十二条  差止請求に係る訴えは、訴訟の目的の価額の算定については、財産権上の請求でない請求に係る訴えとみなす。
(管轄)
第四十三条  差止請求に係る訴訟については、民事訴訟法第五条 (第五号に係る部分を除く。)の規定は、適用しない。
2  差止請求に係る訴えは、第十二条第一項から第四項までに規定する事業者等の行為があった地を管轄する裁判所にも提起することができる。
(移送)
第四十四条  裁判所は、差止請求に係る訴えが提起された場合であって、他の裁判所に同一又は同種の行為の差止請求に係る訴訟が係属している場合においては、当事者の住所又は所在地、尋問を受けるべき証人の住所、争点又は証拠の共通性その他の事情を考慮して、相当と認めるときは、申立てにより又は職権で、当該訴えに係る訴訟の全部又は一部について、当該他の裁判所又は他の管轄裁判所に移送することができる。
(弁論等の併合)
第四十五条  請求の内容及び相手方である事業者等が同一である差止請求に係る訴訟が同一の第一審裁判所又は控訴裁判所に数個同時に係属するときは、その弁論及び裁判は、併合してしなければならない。ただし、審理の状況その他の事情を考慮して、他の差止請求に係る訴訟と弁論及び裁判を併合してすることが著しく不相当であると認めるときは、この限りでない。
2  前項本文に規定する場合には、当事者は、その旨を裁判所に申し出なければならない。

(間接強制の支払額の算定)
第四十七条  差止請求権について民事執行法第百七十二条第一項 に規定する方法により強制執行を行う場合において、同項 又は同条第二項 の規定により債務者が債権者に支払うべき金銭の額を定めるに当たっては、執行裁判所は、債務不履行により不特定かつ多数の消費者が受けるべき不利益を特に考慮しなければならない。

第四章 雑則
(適用除外)
第四十八条  この法律の規定は、労働契約については、適用しない。
                                            弁護士 三木秀夫

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