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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
住宅瑕疵担保責任保険法人が指定(2008年05月12日)住宅瑕疵担保履行
○国土交通省は5月12日、「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法」に基づき、2つの住宅瑕疵担保責任保険法人を指定した。 

指定されたのは、(1)財団法人住宅保証機構(東京都港区赤坂二丁目17番22号)。業務開始日は、08年6月2日。(2)株式会社住宅あんしん保証(東京都中央区日本橋三丁目8番2号)。業務開始日は08年7月1日。

「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律」は、09年10月1日以降に引き渡される新築住宅について、建設業者及び宅地建物取引業者に瑕疵担保責任保険への加入又は保証金の供託の方法による資力確保を義務づけたもの。今回の「住宅瑕疵担保責任保険法人」の指定は、同法に基づく最初の保険法人の指定となる。 (2008年05月12日朝日新聞)

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○住宅の購入は、高い買い物である。したがって、購入者は真剣に取り組むが、いかんせん、建築知識は専門家とはほど遠く、どうしても欠陥を見抜くことは著しく困難ないしは不可能である。そのために、過去いくたの紛争が勃発し、われわれ弁護士のところに舞い込んできても、長期の建築紛争に及ぶこととなって、およそ購入者も業者も泥沼の紛争に不要な時間労力を費やしていた。

○こういった問題を少しでも避けるために、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」ができ、新築住宅の売主等は、住宅の主要構造部分の瑕疵について10年間の瑕疵担保責任を負うこととされた。しかし、瑕疵担保責任保険への加入は任意であった。

○ところが、2005年に、元1級建築士が構造計算書を改ざんして耐震強度が不足したマンションや物件が建築されたことが発覚した。この建築士がけしからんのは勿論だが、強度不足を知りながら販売したとする開発会社の元社長らの刑事責任も問われた。国は、これを受けて2007年6月に、建築確認審査を厳格化した改正建築基準法が施行した。しかし、欠陥建物を購入した側がいくら損害賠償を売主に求めても、売主が倒産などで瑕疵担保責任を十分に果たすことができない場合、住宅購入者は極めて気の毒な事態になってしまうことが改めて浮き彫りになった。

このために、欠陥住宅購入者の救済策として、新たに「住宅瑕疵担保履行法」の制定へと続き、第166回通常国会において、「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律(平成19年法律第66号)(住宅瑕疵担保履行法)」が成立・公布された。

○また、住宅瑕疵担保責任保険法人の指定や特別紛争処理体制の整備については2008年4月1日に施行され、今回のニュースは、これに基づいて住宅瑕疵担保責任保険法人が初めて指定されたというものである。今回は2法人の指定だが最終的に6社程度が指定される見通しとのことである。各保険法人は、損害保険会社などに再保険するとみられている。

○今後、新築住宅の売主等に対しての瑕疵担保責任を履行するための資力確保の義務付けについて、2009年10月1日に施行される。つまり、これ以降、完成から一年以内の新築住宅の売り主すべてに保険加入か、保証金供託が義務付けられる。対象事業者は注文・賃貸住宅の請負人(建設業者)、分譲住宅の売主(住宅業者)である。なお、本格施行前に売買を契約した場合でも、引き渡しが施行後であれば、この法律の対象に含まれる。

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○供託
供託金は過去10年間に供給した戸数に応じて違うが、1戸あたりでも最低2000万円と算定されている。法務局などの供託所に10年間預け、売主、請負人が倒産して補修などが出来ない場合は、買主が供託所に必要な補修費用を請求する。

○住宅瑕疵担保責任保険
保険は売主、請負人が国土交通省の指定する保険法人と契約を結び、保険が掛けられた住宅に瑕疵が判明して補修する場合などに保険金が支払われることになる。保険の場合は着工前に保険に加入し、工事中に検査を受けなければならない。保険料は保険会社によって違いはあるが、国交省によると、建設費1600万円の一戸建てで8万円程度、4億円の20戸のマンションで80万円程度の見通しという。掛け捨てで売り主側が支払うが、これは販売価格に上乗せされるものと思っていい。

○補修費が支払われる期間は、引き渡しから10年以内の物件が対象になる。柱や壁、床、基礎など主要部分の強度不足や、図面通りに工事されていないなどの瑕疵が判明すれば、購入者は販売業者に、その業者が倒産していた場合は保険法人に補修費を請求できる。

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○指定住宅紛争処理機関
もし、売主や請負人と買主の間で瑕疵をめぐって紛争が起きた場合、保険制度では全国の指定住宅紛争処理機関(弁護士会が予定されている)による調停などが受けられる。全国の弁護士会は、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」が制定された際に同法に基づく「指定住宅紛争処理機関」としてその指定を受けたが、今回の住宅瑕疵担保履行法による紛争処理についても受けることになった。大阪弁護士会でも紛争処理に当たる。

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○中小工務店の悲哀
今回のシステムは、消費者保護の観点からは、大きな進展である。大手ハウスメーカーは当然に対応を始めている。一方で、まちの小さな工務店からは、施工を前にため息が聞こえてきている。保険に加入していないと、多額の供託金を積まなければならない。しかもこの供託金は10年間は戻ってこない。このように多額の供託金を積むのは町の工務店では大変なため、保険加入を選択する場合が多くなると予想されている。ただ、保険会社の委託を受けた検査機構が細かい基準を設けることなり、その基準も機構によって差異があるとなると、しばらくは混乱するものと予想される。

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○特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律
(平成十九年五月三十日法律第六十六号)

(目的)
第一条  この法律は、国民の健康で文化的な生活にとって不可欠な基盤である住宅の備えるべき安全性その他の品質又は性能を確保するためには、住宅の瑕疵の発生の防止が図られるとともに、住宅に瑕疵があった場合においてはその瑕疵担保責任が履行されることが重要であることにかんがみ、建設業者による住宅建設瑕疵担保保証金の供託、宅地建物取引業者による住宅販売瑕疵担保保証金の供託、住宅瑕疵担保責任保険法人の指定及び住宅瑕疵担保責任保険契約に係る新築住宅に関する紛争の処理体制等について定めることにより、住宅の品質確保の促進等に関する法律 (平成十一年法律第八十一号。以下「住宅品質確保法」という。)と相まって、住宅を新築する建設工事の発注者及び新築住宅の買主の利益の保護並びに円滑な住宅の供給を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

(住宅建設瑕疵担保保証金の供託等)
第三条  建設業者は、各基準日(毎年三月三十一日及び九月三十日をいう。以下同じ。)において、当該基準日前十年間に住宅を新築する建設工事の請負契約に基づき発注者に引き渡した新築住宅について、当該発注者に対する特定住宅建設瑕疵担保責任の履行を確保するため、住宅建設瑕疵担保保証金の供託をしていなければならない。

(住宅建設瑕疵担保保証金の供託等の届出等)
第四条  前条第一項の新築住宅を引き渡した建設業者は、基準日ごとに、当該基準日に係る住宅建設瑕疵担保保証金の供託及び同条第二項に規定する住宅建設瑕疵担保責任保険契約の締結の状況について、国土交通省令で定めるところにより、その建設業法第三条第一項 の許可を受けた国土交通大臣又は都道府県知事に届け出なければならない。
2  前項の建設業者が新たに住宅建設瑕疵担保保証金の供託をし、又は新たに住宅瑕疵担保責任保険法人と住宅建設瑕疵担保責任保険契約を締結して同項の規定による届出をする場合においては、住宅建設瑕疵担保保証金の供託又は住宅建設瑕疵担保責任保険契約の締結に関する書類で国土交通省令で定めるものを添付しなければならない。
(住宅を新築する建設工事の請負契約の新たな締結の制限)
第五条  第三条第一項の新築住宅を引き渡した建設業者は、同項の規定による供託をし、かつ、前条第一項の規定による届出をしなければ、当該基準日の翌日から起算して五十日を経過した日以後においては、新たに住宅を新築する建設工事の請負契約を締結してはならない。ただし、当該基準日後に当該基準日に係る住宅建設瑕疵担保保証金の基準額に不足する額の供託をし、かつ、その供託について、国土交通省令で定めるところにより、その建設業法第三条第一項 の許可を受けた国土交通大臣又は都道府県知事の確認を受けたときは、その確認を受けた日以後においては、この限りでない。

(住宅販売瑕疵担保保証金の供託等)
第十一条  宅地建物取引業者は、各基準日において、当該基準日前十年間に自ら売主となる売買契約に基づき買主に引き渡した新築住宅について、当該買主に対する特定住宅販売瑕疵担保責任の履行を確保するため、住宅販売瑕疵担保保証金の供託をしていなければならない。
(住宅販売瑕疵担保保証金の供託等の届出等)
第十二条  (略)
(自ら売主となる新築住宅の売買契約の新たな締結の制限)
第十三条  (略)

(指定)
第十七条  国土交通大臣は、特定住宅瑕疵担保責任その他住宅の建設工事の請負又は住宅の売買に係る民法 (明治二十九年法律第八十九号)第六百三十四条第一項 若しくは第二項 前段又は同法第五百七十条 において準用する同法第五百六十六条第一項 に規定する担保の責任の履行の確保を図る事業を行うことを目的とする一般社団法人、一般財団法人その他政令で定める法人であって、第十九条に規定する業務(以下「保険等の業務」という。)に関し、次に掲げる基準に適合すると認められるものを、その申請により、住宅瑕疵担保責任保険法(以下「保険法人」という。)として指定することができる。
一  保険等の業務を的確に実施するために必要と認められる国土交通省令で定める基準に適合する財産的基礎を有し、かつ、保険等の業務に係る収支の見込みが適正であること。
二  職員、業務の方法その他の事項についての保険等の業務の実施に関する計画が、保険等の業務を的確に実施するために適切なものであること。
三  役員又は構成員の構成が、保険等の業務の公正な実施に支障を及ぼすおそれがないものであること。
四  保険等の業務以外の業務を行っている場合には、その業務を行うことによって保険等の業務の公正な実施に支障を及ぼすおそれがないものであること。

(業務)
第十九条  保険法人は、次に掲げる業務を行うものとする。
一  住宅建設瑕疵担保責任保険契約及び住宅販売瑕疵担保責任保険契約(以下「住宅瑕疵担保責任保険契約」という。)の引受けを行うこと。
二  民法第六百三十四条第一項 若しくは第二項 前段又は同法第五百七十条 において準用する同法第五百六十六条第一項 に規定する担保の責任の履行によって生じた住宅の建設工事の請負人若しくは住宅の売主の損害又はこれらの規定に規定する瑕疵若しくは隠れた瑕疵によって生じた住宅の建設工事の注文者若しくは住宅の買主の損害をてん補することを約して保険料を収受する保険契約(住宅瑕疵担保責任保険契約を除く。)の引受けを行うこと。
三  他の保険法人が引き受けた住宅瑕疵担保責任保険契約又は前号の保険契約に係る再保険契約の引受けを行うこと。
四  住宅品質確保法第九十四条第一項 又は第九十五条第一項 に規定する瑕疵又は隠れた瑕疵(以下この条において「特定住宅瑕疵」という。)の発生の防止及び修補技術その他特定住宅瑕疵に関する情報又は資料を収集し、及び提供すること。
五  特定住宅瑕疵の発生の防止及び修補技術その他特定住宅瑕疵に関する調査研究を行うこと。
六  前各号の業務に附帯する業務を行うこと。

(指定住宅紛争処理機関の業務の特例)
第三十三条  住宅品質確保法第六十六条第二項 に規定する指定住宅紛争処理機関(以下単に「指定住宅紛争処理機関」という。)は、住宅品質確保法第六十七条第一項 に規定する業務のほか、住宅瑕疵担保責任保険契約に係る新築住(同項 に規定する評価住宅を除く。)の建設工事の請負契約又は売買契約に関する紛争の当事者の双方又は一方からの申請により、当該紛争のあっせん、調停及び仲裁の業務を行うことができる。
                                            弁護士 三木秀夫

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