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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
世界遺産や新幹線の落書き問題(2008年07月04日)建造物損壊/器物損
○今週(6月29日〜7月4日)のニュースから(毎日新聞2008年07月04日)
@世界遺産などに落書き
イタリアから日本の天然記念物まで、各地の落書きが相次いで問題となった。イタリア・フィレンツェ市のサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂への落書きが発覚したのは岐阜市立女子短期大学の学生、京都産業大の学生、水戸市の私立常磐大高の硬式野球部監督。同高は30日、29日付で監督を解任したことを明らかにした。お笑いコンビの「おぎやはぎ」がベルリンの壁に落書きしていたことも3日分かった。鳥取県の平井伸治知事は同日、鳥取砂丘の落書きを禁止する罰則規定つきの条例を制定する方針を明らかにした。日本有数のカルスト台地、平尾台にある国指定天然記念物「千仏(せんぶつ)鍾乳洞」(北九州市小倉南区)、国の名勝・錦帯橋(山口県岩国市)にも落書きがあった。

A落書きで新幹線運休
落書き被害は文化財にとどまらない。1日午前5時ごろ、東京都北区東田端のJR東日本東京新幹線車両センターの屋外車庫に停車していた上越新幹線(200系)の車体側面に落書きがあるのを車両点検中の運転士が発見。警視庁滝野川署に届け出た。落書きを消すため、この車両を予定していた上越新幹線下り「たにがわ401号」が運休となり、約500人に影響が出た。新幹線が落書きで運休になったのは初めて。同署は器物損壊などの疑いで調べている。

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○今年の6月末から7月初めにかけて「落書き」が大きな話題となっている。イタリアの世界遺産から日本の名勝などのほか、新幹線でも落書きが発覚した。

落書きは立派な犯罪であるが、壁いっぱいに他の者もしているというある種の気安さも手伝ってか、罪の意識は薄いのかもしれない。サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂での落書きなどでは、学校名や自分の名前を書いてきたとのことであるが、そこまで書いたら身元がバレても当然だが、犯罪性の認識が無かったというのか、薄かったというのか。ここで問われるのはモラルという心の問題なのかもしれない。

○ただ、興味深い報道も入ってきた。07月02日の共同通信記事だが、「日本人の謝罪に『敬服』大聖堂落書きで修繕責任者」とある。これは、「サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂」の壁に日本人の落書きが見つかった問題で、大聖堂の修繕責任者パオロ・ビアンキーニ氏が、「落書きは許されないことだが、日本人が深い謝罪の意思を示したことに驚いた。敬服する」と述べた、という共同通信のインタビュー記事だ。そのインタビューによると、「落書きは日本語よりも英語やイタリア語によるものがはるかに多く、欧米では『文化財への落書きは当たり前のように見られている』だけに『(謝罪を通じて示された)日本人の良識』に尊敬の念を抱いた」とされている。

この共同通信記事は、ある意味で、興味深い日本人論議を呼ぶような気もする。
ルース・ベネディクトの有名な著作『菊と刀』(1948年)では、「日本文化は外部(世間体や外聞)に持つ『恥の文化』である」と既述され、その意味は「集団との和合を重んじる日本人は、みずからの行為の内容の善悪よりも、それが他人にどのように見られるかを気づかい、恥をかかないように行動する傾向がある(山川出版社「倫理用語集」より)」と解釈されていた。

今回のサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂での落書き騒動を私なりに考えると、@落書きを気楽にしたのは、あまりに多くの落書きを見て、落書き行為自体を他人から批判されることはないとの感覚になって、結果、自らの落書き行為自体の善悪の判断は働かず、それを恥と解せず行ってしまった。Aしかし、事が発覚した後の日本社会は、今回の落書き事件を「世界遺産に落書きした日本の恥さらし者」と見て、西欧人に恥を書かせた張本人に厳しい社会的批判と制裁を加えて外見を保とうとした、のではなかろうか。

本当は、落書き自体を「罪な行為」と考え、たとえ他人が落書きをしていようが、自分が行うことは「自身の恥」と考えられるような意識の醸成を、今回のことを教訓にして考えていくことが重要なのではなかろうか。厳罰のみを強調することは、何でも「世間を騒がせたこと」自体に極めて過剰な制裁を加えて終わりにする日本社会の図式をまた見たような気がしないでもない。

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○落書きの犯罪性
落書きは以下のような犯罪となる。

@建造物等損壊罪(建造物の場合)
刑法第260条
他人の建造物又は艦船を損壊した者は、5年以下の懲役に処する。(後段略)

A器物損壊等(他人の物の場合)
刑法第261条
前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する。

B軽犯罪法違反
第1条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
(1〜32略)
33 みだりに他人の家屋その他の工作物にはり札をし、若しくは他人の看板、禁札その他の標示物を取り除き、又はこれらの工作物若しくは標示物を汚した者

C文化財保護法違反(重要文化財、史跡名勝天然記念物)
同法第195条1項 重要文化財を損壊し、き棄し、又は隠匿した者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は30万円以下の罰金に処する。 

同法196条1項 史跡名勝天然記念物の現状を変更し、又はその保存に影響を及ぼす行為をして、これを滅失し、き損し、又は衰亡するに至らしめた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は30万円以下の罰金に処する。 

D自然公園法違反
同法第70条  次の各号のいずれかに該当する者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。 
一  第13条第3項・・・

同法第13条 
3  特別地域(特別保護地区を除く。以下この条において同じ。)内においては、次の各号に掲げる行為は、国立公園にあつては環境大臣の、国定公園にあつては都道府県知事の許可を受けなければ、してはならない。・・・
六  広告物その他これに類する物を掲出し、若しくは設置し、又は広告その他これに類するものを工作物等に表示すること。 
九  土地を開墾しその他土地の形状を変更すること。 

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○今回の事例について
落書きをした場合の適用罰則は上記の通りであるが、今回のサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂への落書きのような行為が、日本国内でなされていたとしたら、どの罪になるだろうか。また、新幹線(200系)の車体側面への大きな落書きはどうだろうか。鳥取砂丘や鍾乳洞の落書きはどうか。

○文化財等の場合
日本では、対象物が、「重要文化財、史跡名勝天然記念物」の場合は、それへの落書きが、重要文化財については損壊と評価しうるとき、史跡名勝天然記念物の場合は滅失、き損、衰亡したと言えるときは、文化財保護法によって、5年以下の懲役若しくは禁錮又は30万円以下の罰金となる。

「重要文化財」とは、文部科学大臣が、有形文化財のうち重要なものとして指定したものをいう。重要文化財のうち世界文化の見地から価値の高いもので、たぐいない国民の宝たるものは国宝に指定される。ちなみに、「有形文化財」とは、建造物、絵画、彫刻、工芸品、書跡、典籍、古文書その他の有形の文化的所産で我が国にとつて歴史上又は芸術上価値の高いもの並びに考古資料及びその他の学術上価値の高い歴史資料をいう。

史跡名勝天然記念物とは、文部科学大臣が、記念物のうち重要なものとして指定したものをいう。指定された史跡名勝天然記念物のうち特に重要なものとして指定されたものを特別史跡、特別名勝又は特別天然記念物(以下「特別史跡名勝天然記念物」と総称される)という。 

若干、不思議な点は、こういった社会的に価値の高い建造物等への落書行為の罰則が、一般の建造物損壊罪の罰則と上限が一緒であることである。

○落書きと「建造物損壊罪」・「軽犯罪法違反」について
上記@の建造物等損壊罪については、判例として、平成18年1月17日最高裁判所第3小法廷決定(判例タイムズ1207号144頁、判例時報1927号161頁)【下記判例1】がある。(学説等の詳細は、上記判例タイムズの解説を参照)

これは、公園内の公衆便所の白色外壁に、ラッカースプレーで赤色及び黒色のペンキを吹き付け、「反戦」、「戦争反対」及び「スペクタクル社会」と大書し、その建物の外観ないし美観を著しく汚損し、原状回復に相当の困難を生じさせた行為が刑法260条前段にいう建造物損壊罪に問われた。

本件最高裁決定は、公衆便所であっても、公園の施設にふさわしいように外観、美観を備えている建物の外壁に、上記のように大書した行為は、建物の外観、美観を著しく汚損し、原状回復に相当の困難を生じさせており、建物の効用を減損させたものであって、刑法260条前段にいう「損壊」に当たるとして有罪とした。この最高裁決定は、建物に対する落書き行為が建造物損壊罪に当たる場合のあることを示したもので実務上重要な有意義なものである。

大阪のアメリカ村で「SANTA」という落書きが相次いだ事件で、自治会らが熱心な犯人検挙活動の末に、ようやく逮捕起訴された男(いわゆる『SANTA落書き事件』)に対し、2008年6月16日、建造物損壊罪などで、懲役2年(執行猶予付)の有罪判決が言い渡されたが、これなどは、この最高裁判例に沿ったものである。

この最高裁決定から読み取れるのは、建物の外壁に対する落書き行為が「著しい汚損」で、かつ、「原状回復に相当の困難」を生じさせた場合に「損壊」に当たるということである。したがって、このような観点から損壊に当たらない場合は、建造物損壊罪とまではならない。ただし、建造物を「汚した」ものと認められれば、軽犯罪法1条33号の罪が成立すると考えられる。

今回のサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂への落書きのような行為は、何百人という落書き行為全体を見ると、「著しい汚損」で、かつ、「原状回復に相当の困難」を生じさせていると解されるが、一人だけの単独の落書き行為だけを見ると、それ自体は建造物を「汚した」ものとして、軽犯罪法1条33号違反罪のみとなるのであろう。

○落書きと「器物損壊罪」
器物損壊罪について、今回の2008年7月1日に発生した上越新幹線(200系)の車体側面落書き事件と、ある意味酷似した事件で、「器物損壊・威力業務妨害」として実刑判決が下された判例として、平成14年7月8日和歌山地方裁判所判決【下記判例2】がある。

これは、2回にわたって、和歌山県内で、列車(2両編成電車)の一方の側面のほぼ全体に塗料を吹き付けるなどしてその列車を損壊するとともにその列車の運行を著しく困難にしたという事件であった。

今回の上越新幹線(200系)の車体側面落書き事件は、まさに同じことであり、「器物損壊罪・威力業務妨害罪」としてかなり厳しい罪となる。

○鳥取砂丘や鍾乳洞などの自然物は?
こういった自然物に対する落書きは、建造物でも器物でもない。構成要件を見る限り軽犯罪法1条33号でもない。

国立公園の鳥取砂丘への落書に関して言えば、自然公園法で、国立公園内の砂丘斜面の落書きが「広告」とみなされる場合にのみ罰則(6月以下の懲役か50万円以下の罰金)の対象となりうるが、落書きについては明確に定義していないため、広告と言えないような落書きは対応ができない。このため、記事にもあるように自治体の条例での罰則制定で対処するしかないのが現状である。県条例は自然公園法に上乗せして落書きを規制することになる。ただ、砂丘の落書などに罰則を定める場合は、「落書き」をどのように定義するのかは興味あるところである。伝わるところでの条例案は、「人が50メートル離れた場所から確認でき、10分間消えない図形や文字」などと定義するらしい。違反者には30万円、原状回復の指示・命令に従わない場合は50万円の罰金を科すようである。

富士山山頂で石を並べて字や絵を書く石文字は自然公園法でいうところの「土地の形状変更」とみなされ、処罰の対象とはなる。

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○【判例1】建造物損壊事件
平成18年1月17日最高裁判所第3小法廷決定(最高裁判所刑事判例集60巻1号29頁、判例タイムズ1207号144頁、判例時報1927号161頁)

主  文
本件上告を棄却する。
理  由
弁護人西村正治の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、事案を異にする判例を引用するものであって、本件に適切でなく、その余は、憲法違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であって、適法な上告理由に当たらない。被告人本人の上告趣意は、憲法違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であって、適法な上告理由に当たらない。
所論にかんがみ、建造物損壊罪の成否につき、職権で判断する。
1 原判決の是認する第1審判決の認定によれば、本件の事実関係は以下のとおりである。
(1)本件建物は、区立公園内に設置された公衆便所であるが、公園の施設にふさわしいようにその外観、美観には相応の工夫が凝らされていた。被告人は、本件建物の白色外壁に、所携のラッカースプレー2本を用いて赤色及び黒色のペンキを吹き付け、その南東側及び北東側の白色外壁部分のうち、既に落書きがされていた一部の箇所を除いてほとんどを埋め尽くすような形で、「反戦」、「戦争反対」及び「スペクタクル社会」と大書した。
(2)その大書された文字の大きさ、形状、色彩等に照らせば、本件建物は、従前と比べて不体裁かつ異様な外観となり、美観が著しく損なわれ、その利用についても抵抗感ないし不快感を与えかねない状態となり、管理者としても、そのままの状態で一般の利用に供し続けるのは困難と判断せざるを得なかった。ところが、本件落書きは、水道水や液性洗剤では消去することが不可能であり、ラッカーシンナーによっても完全に消去することはできず、壁面の再塗装により完全に消去するためには約7万円の費用を要するものであった。
2 以上の事実関係の下では、本件落書き行為は、本件建物の外観ないし美観を著しく汚損し、原状回復に相当の困難を生じさせたものであって、その効用を減損させたものというべきであるから、刑法260条前段にいう「損壊」に当たると解するのが相当であり、これと同旨の原判断は正当である。
よって、刑訴法414条、386条1項3号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官・濱田□夫、裁判官・上田豊三、裁判官・藤田宙靖、裁判官・堀籠幸男)

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○【判例2】器物損壊,威力業務妨害事件
平成14年7月8日和歌山地方裁判所判決
出典:裁判所ホームページ「裁判例検索」システムhttp://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/B7BA0EDCDDE6BAE149256BF3000CE192.pdf

主 文
被告人を懲役1年6月に処する。
未決勾留日数中90日をその刑に算入する。
理 由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1 A及びBと共謀のうえ,平成13年8月17日午前2時ころから同日午前3時ころまでの間,和歌山県那賀郡a町b番地所在のC株式会社D線E駅2番線ホームにおいて,同社が所有し,同社D支社支社長Fが管理する同日午前5時同駅発G駅行き普通列車(2両編成電車)に,その側面に縦約2.3メートル,横約38.65メートルにわたって,そのフロントガラスに縦横約1.1メートルにわたって,銀色,黒色及び白色などの塗料を吹き付け,前記D支社運転士Hらが行う前記列車の運行を著しく困難にし,もって,前記列車を損壊(損害額143万1797円相当)するとともに,威力を用い前記D支社の業務を妨害し,
第2 Aと共謀のうえ,同年10月25日午前2時ころから同日午前3時ころまでの間,前記E駅2番線ホームにおいて,前同様の所有,管理にかかる同日午前5時同駅発G駅行き普通列車(2両編成電車)に,その側面に縦約2.3メートル,横約28.3メートルにわたって,銀色,緑色及び黒色などの塗料を吹き付け,前記D支社運転士Iらが行う前記列車の運行を著しく困難にし,もって,前記列車を損壊(損害額138万5460円相当)するとともに,威力を用い前記D支社の業務を妨害たものである。

(法令の適用等)【略】
(量刑の事情)
1 本件は,被告人が,2回にわたり,列車(2両編成電車)の一方の側面のほぼ全体に塗料を吹き付けるなどしてその列車を損壊するとともにその列車の運行を著しく困難にしたという器物損壊及び威力業務妨害の事案である。
2 被告人は,美術専門学校に通い出したころから,建造物等に落書きをするいわゆるグラフティライターに興味を持ち,スプレーで塗料を吹き付けて文字等を書く行為(以下「落書き行為」という)を繰り返すようになり,平成13年2月13日には,店舗の壁に落書き行為をした建造物損壊罪2件により懲役10月(執行猶予3年)に処せられた。しかしながら,被告人は,そのわずか1か月後には落書き行為を再開し,前記執行猶予期間中であるにもかかわらず,単独であるいは知人とともに,建造物や橋脚等への落書き行為を繰り返すようになり,これまでも列車の落書きに興味を持っていたが,雑誌で列車の側面全体にわたり落書きされている写真と記事を見たことなどから,列車に落書きすることを計画し,共犯者を誘い,判示第1の犯行に及び,それが満足のいく出来映えでなかったことから,共犯者とともにもう一度列車に落書きをすることとし,判示第2の犯行に及んだものである。被告人は,自己の落書き行為によって被害者等が迷惑を被ること,それが犯罪であることを十分承知のうえ,自己の欲望の赴くままに落書き行為を繰り返したものであり,その動機は極めて自己中心的であって酌量の余地はない。
本件は,予めスプレーなどを用意し,深夜に警備が厳重でない場所を物色するなど,計画的かつ大胆な犯行である。そして,被告人は,共犯者を誘うなど本件において主導的な役割を果たしている。
本件落書き行為は,公共性の高い列車を対象にし,しかも,2両編成電車の一方の側面のほぼ全体にわたって塗料を吹き付けるという悪質なものであり,容易に消去することができないことから,合計約281万円もの多額の損害を生じさせ,また,本件各列車の運行を中止せざるを得なかったことから,乗降客に対し多大な影響を与えたのであり,さらには,列車運行業務に対する信頼を失わせるなどの影響も否定できないところであって,本件による結果は重大である。
3 以上のような本件の動機,態様,結果等に照らせば,本件は単純な落書きというようなものではなく,悪質な犯罪行為であり,被告人の刑事責任は軽視できない。したがって,被告人が,本件を反省し,二度と同様の行為をしない旨誓っていること,本件による前記損害額については全額弁償されていることなど,被告人のために酌むべき事情を十分考慮しても,主文の刑はやむを得ないところである。
平成14年7月8日
和歌山地方裁判所
裁判官 小川育央
                                            弁護士 三木秀夫

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