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三木秀夫法律事務所
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【お知らせ】
2009年12月から、このページは休止とさせていただきました。
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ニュース六法目次
損害賠償命令の初申立(2009年01月29日)被害者参加制度/損害賠償命令
犯罪被害者のための「損害賠償命令制度」の利用を、広島地裁で審理中の強制わいせつ事件の被害者側が申し立てていたことがわかった。東京地裁でも傷害事件の被害者が近く利用の申し立てをする方針。昨年12月に新たに導入された同制度で申し立てが判明したのは初めて。

制度は、被害者が法廷で被告に直接質問することなどができる「被害者参加制度」と同時に導入された。刑事裁判で被告に有罪判決が出た場合、引き続き同じ裁判官が4回以内の審理で、被害者に支払うべき損害賠償額を決定する仕組み。被害者が賠償を求めるための民事裁判を起こす負担を減らすのが狙いだ。対象は殺人や傷害、性犯罪などの被害者で、被害者参加の対象となる事件のうち強盗などの財産犯と自動車運転過失致死傷などの過失犯は除かれる。被告の起訴後、裁判所に利用を申し立てできる。
 
広島地裁で審理されている強制わいせつ事件は27日に初公判があり、被害女児の母親が参加制度を利用して被告に質問をした。被告側は500万円を支払う内容で示談を提案しているが、被害者側は受け取りを拒んでいることが、初公判で明らかにされた。被告の弁護人によると、初公判が始まる前に、被害者側から慰謝料など2300万円を被告へ請求する内容の申し立てがあったという。公判は3月に結審する見通しで、判決公判でもし有罪が言い渡されれば、その段階から、同じ裁判官が、賠償額を決める審理を始めることになる。

一方、近く東京地裁に利用の申し立てをするのは、路上で殴られてけがをした女性。初公判は2月9日で、被害者参加はすでに認められているが、これまで加害者側から被害に対する弁償を受けておらず、制度を利用して治療費と慰謝料を求めるという。

刑事裁判の記録で必要な部分をそのまま使えるため、これまで被害者側が裁判を起こすために刑事記録を調べてコピーする手間や時間が省ける。申立料は請求額にかかわらず一律2千円で、経済的な負担も少ないのが特徴だ。女性の代理人の佐藤文彦弁護士は「これまでは、刑事記録を閲覧、コピーして訴状をつくる時間と費用だけでもばかにならなかった。早く結論が出て、ダメージから回復する途中の被害者にとってメリットは大きい」という。裁判所の賠償額決定に不満な場合は、双方の当事者が異議申し立てすることができる。異議が認められた場合は、通常の民事裁判に移行して争われる仕組みだ。
(朝日新聞2009年1月29日) 

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○被害者参加制度に基づく損害賠償命令制度の利用実例が、いよいよ出てきた。

被害者の基本的人権と、被告人の憲法で保障された基本的人権とのぶつかり合う大きな問題点を抱えている。このために、制定までに賛否さまざまな議論がなされてきた経緯があったが、開始された以上は、私ども法曹関係者は、適切な運用に努めなければならない。そして、今後の運用を見ながら、修正すべき点があれば修正し、もし根本的に見直さなければならない点があれば変えるべきである。

○この被害者参加制度と損害賠償命令制度は、2007年(平成19年)6月20日に「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律」(権利保護法改正法)成立(同月27日公布)し、平成12年に制定された、いわゆる「被害者保護法」(犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律)の題名を「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律」と変えたうえで、第5章(9条から26条まで)において損害賠償命令の規定を設けた。

これが、2008年(平成20年)12月1日に施行され開始となったものである。施行日以後に起訴された事件から適用がある。

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○被害者参加制度
刑事裁判に被害者等が参加する制度。一定の重大な事件について申し入れることによって被害者参加人は刑事訴訟公判期日等に出席できるとともに、証人尋問や被告人質問、さらには論告までも行うことができる。自らの代理人として弁護士を選任して、同行して参加することも、または代理人弁護士のみが公判に参加することもできる。また、貧困のために被害者参加弁護士を選定できない被害者参加人に対しては、「国選被害者参加弁護士制度」も設けられた。

○損害賠償命令制度
刑事裁判において、その犯罪被害者が、自らの被害に関する損害について、被告人に損害賠償を命じるように求める制度である。請求を受ければ、その刑事裁判手続を担当した裁判所が、公判終了後に引き続いて民事の審理も行い、被告人にその賠償を命ずる。被害者にとっては、この制度を利用することによって、損害賠償請求のための民事訴訟提起の負担が軽減される。 

本来、訴訟制度は、民事事件と刑事事件とが区別して扱われている。裁判所でも民事裁判を扱う「民事部」と、刑事裁判を扱う「刑事部」とが別の部として構成されている。刑事部では、犯罪行為を国家として裁き、加害者(被告人)の有罪無罪と量刑を決める。民事部は、事件当事者間の問題を裁くところで、加害者と被害者の間の損害賠償請求についても、民事責任の有無と損害額を定めて判決を言い渡す。この2制度は、これまでは厳格に分離されてきており、制度の大枠は、今回の法改正以降も基本的には変わらない。今回導入されたのは、被害者の負担軽減という観点から、刑事事件の裁判所でも併せて民事事件の審理もできるようにした方がよいという意見が高まって立法化されたものである。

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○「附帯私訴」と「損害賠償命令制度」の違い
「附帯私訴」とは、検察官による公訴提起にあわせて、当該犯罪被害者が、被告人に対する民事上の損害賠償請求の訴えを、公訴を審理する刑事裁判所に附帯して提起する制度をいう。附帯私訴やそれに類似した制度は、大陸法系諸国(ドイツ、フランス、イタリアなど)でみられる。
今回の日本で導入された「損害賠償命令制度」は、この「附帯私訴」とよく似ているが違う。附帯私訴は、刑事事件の審理と民事上の損害賠償に関する審理が同じ法廷で並行しておこなわれ、有罪の場合には、有罪判決の言い渡しに続けて損害賠償の支払いを命じる判決も同時に言い渡される。一旦刑事判決がなされた後に審理が開始される「損害賠償命令制度」とは、この点で違っている。

○「附帯私訴」の制度は、実は、旧刑事訴訟法(大正11年法律第75号)にあったが、現行刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)になってからは置かれていない。廃止された理由については、公訴の仕組みの複雑化や、旧法下での利用があまりなかったためなどのほか、今の刑事訴訟法が附帯私訴のないアメリカ法の影響を受けていたことなどが言われている。

このため、長年にわたって、犯罪被害者が損害賠償訴訟をするにおいては、別に民事裁判所に訴訟提起しなければならなかった。

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【犯罪被害者等の刑事手続への関与制度への反対論】
この制度の導入にあたっては大きな反対もあった。特に刑事被告人の権利擁護の観点からである。

○日本弁護士連合会は「犯罪被害者等の刑事手続への関与についての意見」(2005年(平成17年)6月17日)において反対意見を示した。簡潔にいえば、被害者保護のための諸手続きの整備と被害者支援のための法律扶助の拡充は必要だが、自ら訴訟行為に参加する行為は導入すべきではなく、被害回復命令申立制度(附帯私訴及び損害賠償命令制度)の導入はすべきでないというものである。

このうち、被害回復命令申立制度への反対意見論は、多様にわたるが、@裁判官や裁判員に予断や偏見を与え、無罪推定の原則に反すること、A被告人及び弁護人に新たな負担を課し、被告人の防御権が実質的に保障されないおそれがあること、B裁判員制度を導入し、その審理の充実ために設けたとされている制度(公判前整理手続等)の意義を喪失させてしまうことにもなること、C刑事裁判の混乱と長期化ならびに刑事裁判手続に私的な感情的応酬を招くことになり、被害回復の労力を軽減し、簡易迅速な手段によって被害回復を実現するという目的からもかけ離れた事態を惹起するおそれが大きい、などであった。今回の損害賠償命令制度の設計においては、これらの問題点をできる限りクリアしながらまとめてきたものである。

○「被害者と司法を考える会」など一部犯罪被害者の側からの反対意見
この会を結成したのは、97年に交通事故で息子の隼君を亡くした片山徒有(ただあり)氏で、同会は(1)被害者の負担が大きい上に、法廷で被告から逆に落ち度を追及される恐れがあること、(2)参加しなかった場合に、処罰感情が薄いと受け取られかねないこと、(3)裁判終了後に被告から報復される危険があること、を指摘し、制度導入よりも前に、公費で被害者に弁護士を付ける仕組みを確立することや、被害者への捜査情報の説明を徹底すべきだと主張していた。 http://victimandlaw.org/

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○国選被害者参加弁護士制度
こういった様々な意見が出る中で、生まれてきたこの制度であるが、議論の成果として、被害者参加人のための国選被害者参加弁護士制度が生まれてきた。

つまり、権利保護法改正法第10条の規定などによって、被害者参加人が日本司法支援センター(法テラス)に請求し、法テラスが契約弁護士名簿から指名、通知して、裁判所が選定する、被害者参加人のための国選被害者参加弁護士制度が構想され、改正総合法律支援法が2008年4月16日に可決成立した。これによって、被害者らが国選弁護士をつけられることになった(資力が一定の基準額に満たないことが条件となる)。

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【損害賠償命令制度の概要】
○損害賠償命令の申立て
(1)対象犯罪
故意の犯罪行為により人を死傷させた罪
強制わいせつ、強姦、準強制わいせつ及び準強姦の罪
逮捕及び監禁の罪
未成年者略取及び誘拐、営利目的等略取及び誘拐、身の代金目的略取等、所在国外移送目的略取及び誘拐、人身売買、被略取者等所在国外移送、被略取者引渡し等の罪
上記に掲げる罪の犯罪行為を含む罪
以上の罪の未遂罪

なお、被害者参加の対象となる犯罪とほぼ同じだが(刑訴法316条の33)、業務上過失致死傷罪及び重過失致死傷罪(刑法211条1項)は、被害者参加の対象とはなるが、損害賠償命令の対象とはなっていない。

(2)申し立て当事者
申立てをすることができるのは、対象となる犯罪の刑事被告事件の「被害者又はその一般承継人(相続人)」

(3)申立期限
刑事被告事件の弁論終結までに、当事者及び法定代理人、請求の趣旨及び請求を特定するに足りる事実を記載した書面を、当該被告事件の係属する裁判所(地方裁判所に限る)に提出して行う。
(4)申立書記載事項
民事の通常の訴訟提起の場合に訴状に記載すべき事項とほぼ同一。ただし、予断排除のために「余事記載」はできない。
(5)申立手数料 
2000円(請求額にかかわらず一律)
 
○審理及び裁判
(1)審理開始
刑事被告事件について終局裁判の告知があるまでは行わない。
有罪の言渡しがなされると、原則として、直ちに損害賠償命令の申立てについての審理期日が開かれる。
(2)審理方法
口頭弁論によらなくてもよく、簡易柔軟な審尋手続によることもできる(口頭弁論によらなくてもよいため審理の長期化のおそれが減り、また審尋ならば被害者と被告人が顔を合わせる必要がなくなるというメリットがある)。
(3)審理期日
特別の事情がある場合を除き、4回以内でなければならない。
(4)最初の審理期日内容
最初の審理期日では、刑事被告事件の訴訟記録の取調べをする(これによって、刑事手続の成果が利用されることになり、被害事実の立証が容易になる)。
(5)裁判
原則として「主文」、「請求の趣旨」、「当事者の主張の要旨」、「理由の要旨」等を記載した決定書を作成して行い、この決定書は、当事者に送達される。
(6)裁判の確定と効果
適法な異議の申立てがないときは確定判決と同一の効力をもつ。
(7)仮執行宣言
裁判所は、必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、担保を立てて、又は立てないで仮執行宣言をすることができる。(多くの事案では、仮執行宣言が無担保で付けられるのではないかと解され、簡易かつ迅速な執行が期待できる)。

○不服申立
(1)異議
当事者(被告人または申立被害者)は、損害賠償命令の裁判の送達を受けた日から2週間以内に、裁判所に異議の申立てをすることができる。
異議申立があったときは、損害賠償命令の裁判は、仮執行の宣言を付したものを除き、その効力を失う。
(2)民事訴訟への移行
異議があった場合は、地方裁判所又は簡易裁判所に通常の訴えの提起があったものとみなされる。
(3)仮執行宣言の効力
異議があった場合でも、仮執行宣言の効力は失わない。
(4)手数料
異議が出ると通常の民事訴訟と同じ計算による手数料を納めなければならない。
(5)刑事訴訟記録の取扱い
異議によって訴えの提起があったものとみなされたときは、刑事裁判所は民事裁判所に送付することが相当でないと特定したものを除いた刑事事件記録が、民事訴訟が提起されたとみなされる地方裁判所又は簡易裁判所に送付される。

○損害賠償命令審理中の民事訴訟手続への移行
(1)裁量的移行
損害賠償命令の申立てを受けた刑事裁判所は、最初の審理期日を開いた後に、審理に日時を要するため4回以内で審理を終結することが困難であると認めるときは、申立て又は職権で、損害賠償命令事件を終了させる旨の決定をし、通常の民事訴訟に移行させることができる。
(2)被害者の移行権行使による必要的移行
刑事裁判の告知があるまでは、申立人(被害者)は、自由に通常の民事訴訟へ移行させることが認められている。
(3)当事者の移行権行使による必要的移行
損害賠償命令の裁判の告知があるまでに、一方当事者から、民事訴訟への移行の求めがあり、これについて相手方の同意があったときは、通常の民事訴訟に移行する。

○課題
通常の民事訴訟に移行した場合の手数料の問題や、資力の乏しい被害者の弁護士費用の問題など、解決しなければならない問題が多く残っている。被害者にとってより使いやすい制度となるような制度運用や改善が今後の課題となっている。

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○犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律
(平成十二年五月十九日法律第七十五号)
最終改正:平成二〇年四月二三日法律第一九号

第一章 総則
(目的)
第一条  この法律は、犯罪により害を被った者(以下「被害者」という。)及びその遺族がその被害に係る刑事事件の審理の状況及び内容について深い関心を有するとともに、これらの者の受けた身体的、財産的被害その他の被害の回復には困難を伴う場合があることにかんがみ、刑事手続に付随するものとして、被害者及びその遺族の心情を尊重し、かつその被害の回復に資するための措置を定め、並びにこれらの者による損害賠償請求に係る紛争を簡易かつ迅速に解決することに資するための裁判手続の特例を定め、もってその権利利益の保護を図ることを目的とする。

第六章 刑事訴訟手続に伴う犯罪被害者等の損害賠償請求に係る裁判手続の特例

第一節 損害賠償命令の申立て等
(損害賠償命令の申立て)
第十七条  次に掲げる罪に係る刑事被告事件(刑事訴訟法第四百五十一条第一項 の規定により更に審判をすることとされたものを除く。)の被害者又はその一般承継人は、当該被告事件の係属する裁判所(地方裁判所に限る。)に対し、の弁論の終結までに、損害賠償命令(当該被告事件に係る訴因として特定された事実を原因とする不法行為に基づく損害賠償の請求(これに附帯する損害賠償の請求を含む。)について、その賠償を被告人に命ずることをいう。以下同じ。)の申立てをすることができる。
一  故意の犯罪行為により人を死傷させた罪又はその未遂罪
二  次に掲げる罪又はその未遂罪
イ 刑法 (明治四十年法律第四十五号)第百七十六条 から第百七十八条 まで強制わいせつ、強姦、準強制わいせつ及び準強姦)の罪
ロ 刑法第二百二十条 (逮捕及び監禁)の罪
ハ 刑法第二百二十四条 から第二百二十七条 まで(未成年者略取及び誘拐、営利目的等略取及び誘拐、身の代金目的略取等、所在国外移送目的略取及び誘拐、人身売買、被略取者等所在国外移送、被略取者引渡し等)の罪
ニ イからハまでに掲げる罪のほか、その犯罪行為にこれらの罪の犯罪行為を含む罪(前号に掲げる罪を除く。)
2  損害賠償命令の申立ては、次に掲げる事項を記載した書面を提出してしなければならない。
一  当事者及び法定代理人
二  請求の趣旨及び刑事被告事件に係る訴因として特定された事実その他請求を特定するに足りる事実
3  前項の書面には、同項各号に掲げる事項その他最高裁判所規則で定める事項以外の事項を記載してはならない。


(終局裁判の告知があるまでの取扱い)
第二十条  損害賠償命令の申立てについての審理(請求の放棄及び認諾並びに和解(第十三条の規定による民事上の争いについての刑事訴訟手続における和解を除く。)のための手続を含む。)及び裁判(次条第一項第一号又は第二号の規定によるものを除く。)は、刑事被告事件について終局裁判の告知があるまでは、これを行わない。
2  裁判所は、前項に規定する終局裁判の告知があるまでの間、申立人に、当該刑事被告事件の公判期日を通知しなければならない。

第二節 審理及び裁判等
(任意的口頭弁論)
第二十三条  損害賠償命令の申立てについての裁判は、口頭弁論を経ないですることができる。
2  前項の規定により口頭弁論をしない場合には、裁判所は、当事者を審尋することができる。

(審理)
第二十四条  刑事被告事件について刑事訴訟法第三百三十五条第一項 に規定する有罪の言渡しがあった場合(当該言渡しに係る罪が第十七条第一項各号に掲げる罪に該当する場合に限る。)には、裁判所は、直ちに、損害賠償命令の申立てについての審理のための期日(以下「審理期日」という。)を開かなければならない。ただし、直ちに審理期日を開くことが相当でないと認めるときは、裁判長は、速やかに、最初の審理期日を定めなければならない。
2  審理期日には、当事者を呼び出さなければならない。
3  損害賠償命令の申立てについては、特別の事情がある場合を除き、四回以内の審理期日において、審理を終結しなければならない。
4  裁判所は、最初の審理期日において、刑事被告事件の訴訟記録のうち必要でないと認めるものを除き、その取調べをしなければならない。

(審理の終結)
第二十五条  裁判所は、審理を終結するときは、審理期日においてその旨を宣言しなければならない。

(損害賠償命令)
第二十六条  損害賠償命令の申立てについての裁判(第二十一条第一項の決定を除く。以下この条から第二十八条までにおいて同じ。)は、次に掲げる事項を記載した決定書を作成して行わなければならない。 
一  主文
二  請求の趣旨及び当事者の主張の要旨
三  理由の要旨
四  審理の終結の日
五  当事者及び法定代理人
六  裁判所
2  損害賠償命令については、裁判所は、必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、担保を立てて、又は立てないで仮執行をすることができることを宣言することができる。
3  第一項の決定書は、当事者に送達しなければならない。この場合においては、損害賠償命令の申立てについての裁判の効力は、当事者に送達された時に生ずる。
4  裁判所は、相当と認めるときは、第一項の規定にかかわらず、決定書の作成に代えて、当事者が出頭する審理期日において主文及び理由の要旨を口頭で告知する方法により、損害賠償命令の申立てについての裁判を行うことができる。この場合においては、当該裁判の効力は、その告知がされた時に生ずる。
5  裁判所は、前項の規定により損害賠償命令の申立てについての裁判を行った場合には、裁判所書記官に、第一項各号に掲げる事項を調書に記載させなければならない。
    
第三節 異議等
(異議の申立て等)
第二十七条  当事者は、損害賠償命令の申立てについての裁判に対し、前条第三項の規定による送達又は同条第四項の規定による告知を受けた日から二週間の不変期間内に、裁判所に異議の申立てをすることができる。
2  裁判所は、異議の申立てが不適法であると認めるときは、決定で、これを却下しなければならない。
3  前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。
4  適法な異議の申立てがあったときは、損害賠償命令の申立てについての裁判は、仮執行の宣言を付したものを除き、その効力を失う。
5  適法な異議の申立てがないときは、損害賠償命令の申立てについての裁判は、確定判決と同一の効力を有する。
6  民事訴訟法第三百五十八条 及び第三百六十条 の規定は、第一項の異議について準用する。

(訴え提起の擬制等)
第二十八条  損害賠償命令の申立てについての裁判に対し適法な異議の申立てがあったときは、損害賠償命令の申立てに係る請求については、その目的の価額に従い、当該申立ての時に、当該申立てをした者が指定した地(その指定がないときは、当該申立ての相手方である被告人の普通裁判籍の所在地)を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所に訴えの提起があったものとみなす。この場合においては、第十七条第二項の書面を訴状と、第十八条の規定による送達を訴状の送達とみなす。
2  前項の規定により訴えの提起があったものとみなされたときは、損害賠償命令の申立てに係る事件(以下「損害賠償命令事件」という。)に関する手続の費用は、訴訟費用の一部とする。
3  第一項の地方裁判所又は簡易裁判所は、その訴えに係る訴訟の全部又は一部がその管轄に属しないと認めるときは、申立てにより又は職権で、決定で、これを管轄裁判所に移送しなければならない。
4  前項の規定による移送の決定及び当該移送の申立てを却下する決定に対しては、即時抗告をすることができる。

(記録の送付等)
第二十九条  前条第一項の規定により訴えの提起があったものとみなされたときは、裁判所は、検察官及び被告人又は弁護人の意見(刑事被告事件に係る訴訟が終結した後においては、当該訴訟の記録を保管する検察官の意見)を聴き、第二十四条第四項の規定により取り調べた当該被告事件の訴訟記録(以下「刑事関係記録」という。)中、関係者の名誉又は生活の平穏を著しく害するおそれがあると認めるもの、捜査又は公判に支障を及ぼすおそれがあると認めるものその他前条第一項の地方裁判所又は簡易裁判所に送付することが相当でないと認めるものを特定しなければならない。
2  裁判所書記官は、前条第一項の地方裁判所又は簡易裁判所の裁判所書記官に対し、損害賠償命令事件の記録(前項の規定により裁判所が特定したものを除く。)を送付しなければならない。

(異議後の民事訴訟手続における書証の申出の特例)
第三十条  第二十八条第一項の規定により訴えの提起があったものとみなされた場合における前条第二項の規定により送付された記録についての書証の申出は、民事訴訟法第二百十九条 の規定にかかわらず、書証とすべきものを特定することによりすることができる。

(異議後の判決)
第三十一条  仮執行の宣言を付した損害賠償命令に係る請求について第二十八条第一項の規定により訴えの提起があったものとみなされた場合において、当該訴えについてすべき判決が損害賠償命令と符合するときは、その判決において、損害賠償命令を認可しなければならない。ただし、損害賠償命令の手続が法律に違反したものであるときは、この限りでない。
2  前項の規定により損害賠償命令を認可する場合を除き、仮執行の宣言を付した損害賠償命令に係る請求について第二十八条第一項の規定により訴えの提起があったものとみなされた場合における当該訴えについてすべき判決においては、損害賠償命令を取り消さなければならない。
3  民事訴訟法第三百六十三条 の規定は、仮執行の宣言を付した損害賠償命令に係る請求について第二十八条第一項の規定により訴えの提起があったものとみなされた場合における訴訟費用について準用する。この場合において、同法第三百六十三条第一項 中「異議を却下し、又は手形訴訟」とあるのは、「損害賠償命令」と読み替えるものとする。

第四節 民事訴訟手続への移行
第三十二条  裁判所は、最初の審理期日を開いた後、審理に日時を要するため第二十四条第三項に規定するところにより審理を終結することが困難であると認めるときは、申立てにより又は職権で、損害賠償命令事件を終了させる旨の決定をすることができる。
2  次に掲げる場合には、裁判所は、損害賠償命令事件を終了させる旨の決定をしなければならない。
一  刑事被告事件について終局裁判の告知があるまでに、申立人から、損害賠償命令の申立てに係る請求についての審理及び裁判を民事訴訟手続で行うことを求める旨の申述があったとき。
二  損害賠償命令の申立てについての裁判の告知があるまでに、当事者から、当該申立てに係る請求についての審理及び裁判を民事訴訟手続で行うことを求める旨の申述があり、かつ、これについて相手方の同意があったとき。 
3  前二項の決定及び第一項の申立てを却下する決定に対しては、不服を申し立てることができない。
4  第二十八条から第三十条までの規定は、第一項又は第二項の規定により損害賠償命令事件が終了した場合について準用する。

第七章 雑則
(公判記録の閲覧及び謄写等の手数料)
第三十五条  第三条第一項又は第四条第一項の規定による訴訟記録の閲覧又は謄写の手数料については、その性質に反しない限り、民事訴訟費用等に関する法律 (昭和四十六年法律第四十号)第七条 から第十条 まで及び別表第二の一の項から三の項までの規定(同表一の項上欄中「(事件の係属中に当事者等が請求するものを除く。)」とある部分を除く。)を準用する。
2  第五章に規定する民事上の争いについての刑事訴訟手続における和解に関する手続の手数料については、その性質に反しない限り、民事訴訟費用等に関する法律第三条第一項 及び第七条 から第十条 まで並びに別表第一の九の項、一七の項及び一八の項(上欄(4)に係る部分に限る。)並びに別表第二の一の項から三の項までの規定(同表一の項上欄中「(事件の係属中に当事者等が請求するものを除く。)」とある部分を除く。)を準用する。

(損害賠償命令事件に関する手続の手数料等)
第三十六条  損害賠償命令の申立てをするには、二千円の手数料を納めなければならない。
2  民事訴訟費用等に関する法律第三条第一項 及び別表第一の一七の項の規定は、第二十七条第一項の規定による異議の申立ての手数料について準用する。
3  損害賠償命令の申立てをした者は、第二十八条第一項(第三十二条第四項において準用する場合を含む。)の規定により訴えの提起があったものとみなされたときは、速やかに、民事訴訟費用等に関する法律第三条第一項 及び別表第一の一の項の規定により納めるべき手数料の額から損害賠償命令の申立てについて納めた手数料の額を控除した額の手数料を納めなければならない。
4  前三項に規定するもののほか、損害賠償命令事件に関する手続の費用については、その性質に反しない限り、民事訴訟費用等に関する法律 の規定を準用する。
                                            弁護士 三木秀夫

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