阪神優勝グッズ減額で勧告 (2009年02月25日) 下請代金支払遅延等防止法 |
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○阪急百貨店と阪神百貨店を運営する「阪急阪神百貨店」(大阪市)が昨年、プロ野球阪神タイガースの優勝を見込んで下請け業者に発注した記念グッズの代金を減額していた問題で、公正取引委員会は25日、下請法違反を認定し、再発防止などを勧告した。
公取委や同社によると、同社は阪神タイガースが首位だった昨年7―8月、下請け業者11社に優勝記念グッズの製作を計約1億5000万円で発注。納品後に阪神が優勝を逃すと、下請け業者に計約4000万円しか払わなかった。公取委の調査開始直後の同12月、減額分の計約1億1000万円を支払ったという。
阪急阪神百貨店の持ち株会社「エイチ・ツー・オーリテイリング」の話:処分を厳粛に受け止め、再発防止に努める。(2009年02月25日 NIKKEI NET)
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○2008年のセ・リーグペナントレースは、阪神ファンにとっては天国から地獄であった。阪神タイガースは、序盤から首位を独走し、最大13ゲーム差もあって、はやくも6月から7月ころにかけては「優勝決定の時期がいつか」を話題にしていた。それにもかかわらず、突然に失速しはじめ、しかもあろうことか、あの宿敵巨人に優勝を許してしまったのである。さらには、その後のクライマックスシリーズでも敗退・・・。その際の、落胆というか、ショックというか、呆れるというか、まあ、言葉にならない雰囲気が漂った。
○それはそうと、その後遺症が、このようなところにあったとは。上記のような状況のもと、阪神百貨店が、はやくも7月ごろから、タイガースの優勝を見越して、優勝記念グッズを下請け業者11社に計約1億5000万円で発注していたところ、あの大失態敗戦。このために、優勝グッズ販売が不可能となってしまったのである。たぶん、あの時期の阪神間の雰囲気から言うと、この見込み違いの結果は、まあ、誰もが予測しにくかったともいえる。阪神百貨店は、この見込み違いグッズをどう処分するのだろうかと、皆が思っていたものである。
○しかし、どうも、阪神百貨店は、この見込み違い損を、自社で全部かぶるのではなくて、下請け業者に計約4000万円しか払わなかった。下請け業者いじめを防止する下請代金支払遅延等防止法(下請法)は下請け業者に責任がない理由で、いったん契約した代金を減額することを禁止している(下請代金の減額の禁止)。この規定に違反している疑いがあるとして、公正取引委員会が事情聴取などの調査を開始したら、同社はあわてて減額分全額を支払ったという。その後、こういった押し付け減額の違法性が認定されて、公正取引委員会から勧告されてしまったのである。
○阪神百貨店サイドは、「下請け業者とは、優勝しなければグッズは回収・廃棄し、経費は業者が負担するとの誓約書を交わして製造したが、経済危機という社会情勢も考えて、半額は(阪神側が)負担すると決定した」と述べ、むしろ下請業者の負担軽減に配慮したもとの弁明をしていたようである。
しかし下請法は、そこで定める形式的要件に該当するかどうかで規制対象行為を判断する。(逆に言えば、その形式的要件に該当しなければ下請法の適用はない。ただし、優越的地位の濫用行為等として独占禁止法で保護される場合はある)。このように、あくまで、その形式的適用という意味からして、下請事業者が承諾していたとしても、違反にあたる書面を交わすこと自体、親事業者にとって下請法違反となりえる。現実社会の取引では、双方の合意があるという大義名分のもとで処理している場合があるが、下請法違反として問題となるので、注意が必要である。
○こういった点からして、親事業者たる百貨店が下請業者との間で「優勝しなければグッズは回収・廃棄し、経費は業者が負担するとの誓約書」を交わすこと自体が違反となる。親事業者の要請に対し嫌々承諾しているというケースも多く存在している中で、下請事業者の承諾があれば良いという結論にはならず、公正取引員会がこの弁明を認めなかったのも当然である。
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○公正取引委員会の勧告内容
公正取引委員会は,株式会社阪急阪神百貨店(以下「阪急阪神百貨店」という。)
に対し調査を行ってきたところ,下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」という。)第4条第1項第3号(下請代金の減額の禁止)の規定に違反する事実が認められたので,本日,下請法第7条第2項の規定に基づき,同社に対して勧告を行った。(中略)
2 勧告の概要等
(1) 違反事実の概要
阪急阪神百貨店は,業として行う販売の目的物たる阪神百貨店オリジナル阪神タイガース2008年度セントラル・リーグ公式戦優勝記念グッズ(以下「阪神優勝記念グッズ」という。)の製造を下請事業者に委託していたところ,同社は,阪神優勝記念グッズの販売を取りやめたことから,平成20年11月,下請事業者に支払うべき下請代金の額のうち一部のみを支払うことにより,下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに,当該下請事業者に支払うべき下請代金の額を減じていた(減額した金額は,下請事業者11社に対し,総額1億1172万4032円である。)。なお,阪急阪神百貨店は,平成20年12月26日,当該下請事業者に対し,減額分を返還している。
(2) 勧告の概要
ア 前記(1)の減額行為が下請法の規定に違反するものである旨及び今後,下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに下請代金の額を減じない旨を取締役会の決議により確認すること。
イ 前記アに基づいて採った措置及び下請代金の額から減じていた額を下請事業者に対し支払った旨並びに今後,下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに下請代金の額を減じることがないよう,自社の発注担当者に対する下請法の研修を行うなど社内体制の整備のために必要な措置を講じるとともに,その内容等を自社の役員及び従業員に周知徹底すること。
ウ 前記ア及びイに基づいて採った措置並びに下請代金の額から減じていた額を当該下請事業者に対し支払った旨を取引先下請事業者に周知すること。
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○株式会社「阪急阪神百貨店」は、平成20年10月1日、持ち株会社「エイチ・ツー・オーリテイリング」のもとで、株式会社阪急百貨店が株式会社阪神百貨店を吸収合併し商号変更したもので、今回の阪神優勝記念グッズの製造委託は、合併前の阪神百貨店が行ったものであった。その後の合併によって、「阪急阪神百貨店」が当該製造委託の親事業者としての地位を承継したものであるため、今回の勧告対象者は「阪急阪神百貨店」となったものである。
その「阪急阪神百貨店」は、今回の勧告の前日(24日)にも、形態安定加工ワイシャツに、アイロン掛けが容易な「形態安定加工」などと表示しながら、実際は加工されていなかったとして、公正取引委員会から、「京王百貨店」及び「トミヤアパレル」(直後に民事再生申し立て)と一緒に、景品表示法違反(優良誤認)で再発防止を求める排除命令が出されたばかりであった。消費者と直面しコンプライアンスが最も求められている百貨店経営会社として、こういった排除命令や勧告になるような行為の再発防止に、ぜひ力を入れて欲しいものである。
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○下請けいじめの深刻化
経済情勢の悪化と競争行為の激化に伴い、下請け業者に負担を押し付ける下請けいじめは深刻化している。公正取引委員会は、把握し得た下請け業者への不当減額事案の総額を毎年度2回状況を公表しているが、平成19年度が総額10億8804万円だったのが、20年度は上半期(4〜9月)ですでに23億5446万円となっている。
○下請代金不払いへの武器
下請事業者からの法律相談で「元請けが下請代金を払わない」というものがある。こういった事案では、請負代金請求訴訟を提起する方法を基本的なアドバイスとなるが、公正取引委員会を通して解決をする方法もある。その際の武器が「下請代金支払遅延等防止法」(下請法)である。同法は親事業者による下請事業者に対する優越的地位の濫用行為を取り締まるために制定された独占禁止法関連の法律である。
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【下請法の概要】
○適用対象取引
同法適用される取引かどうかは、@対象となる取引か、A取引当事者の資本金の額、の2点によって判定する。
@下請法の対象となる取引としては「製造委託」、「修理委託」、「情報成果物作成委託」及び「役務提供委託」の4種類の委託取引が規定されている。今回の阪神グッズのケースは、この「製造委託」と思われる。
A 取引当事者の資本金の額は、取引当事者それぞれの資本金又は出資の総(資本金の額等)によって、下請法の適用対象となるかどうかが形式的に判断される。また、上述の@取引の種類によっても判断基準が異なる。(詳細はここをクリック)
また、親子会社の関係にある2つの企業間の取引きにおいても下請法が適用される。(ただし、親会社が子会社の議決権の50%超を所有するなど実質的に同一会社内での取引とみられる場合は適用外となる。)
○親事業者の「書面の交付義務」(第3条)
親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところによる下記の事項を記載した書面(3条書面)を下請事業者に交付しなければならない。
@親事業者及び下請事業者の名称
A製造委託,修理委託,情報成果物作成委託又は役務提供委託をした日
B下請事業者の給付の内容
C下請事業者の給付を受領する期日
D下請事業者の給付を受領する場所
E下請事業者の給付の内容について検査をする場合は,その検査を完了する期日
F下請代金の額(算定方法による記載可)
G下請代金の支払期日
H手形を交付する場合は,その手形の金額(支払比率でも可)と手形の満期
I一括決済方式で支払う場合は,金融機関名,貸付け又は支払可能額,親事業者が下請代金債権相当額又は下請代金債務相当額を金融機関へ支払う期日
J原材料等を有償支給する場合は,その品名,数量,対価,引渡しの期日,決済期日,決済方法
○親事業者の「支払期日を定める義務」(第2条の2)
下請代金の支払期日は、親事業者が下請事業者の給付の内容について検査をするかどうかを問わず、親事業者が下請事業者の給付を受領した日(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした日)から起算して、60日以内でできる限り短い期間内において定められなければならない。
もし、下請代金の支払期日が定められなかつたときは親事業者が下請事業者の給付を受領した日が、前項の規定に違反して下請代金の支払期日が定められたときは親事業者が下請事業者の給付を受領した日から起算して60日経過した日の前日が下請代金の支払期日と定められたものとみなされる。
○親事業者の「書類の作成・保存義務」(第5条)
親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、給付内容などの下記事項について記載した書類等(5条書類)を作成し、これを保存(2年間)しなければならない。
@下請事業者の名称
A製造委託,修理委託,情報成果物作成委託又は役務提供委託をした日
B下請事業者の給付の内容(役務提供委託の場合は役務の提供の内容)
C下請事業者の給付を受領する期日
D下請事業者から受領した給付の内容及びその給付を受領した日
E下請事業者の給付の内容について検査をした場合は,その検査を完了した日,検査の結果及び検査に合格しなかった給付の取扱い
F下請事業者の給付の内容について,変更又はやり直しをさせた場合は,その内容及び理由
G下請代金の額(算定方法による記載可)
H下請代金の支払期日
I下請代金の額に変更があった場合は,増減額及びその理由
J支払った下請代金の額,支払った日及び支払手段
K下請代金の支払につき手形を交付した場合は,手形の金額,手形を交付した日及び手形の満期
L一括決済方式で支払うこととした場合は,金融機関から貸付け又は支払を受けることができることとした額及び期間の始期並びに親事業者が下請代金債権相当額又は下請代金債務相当額を金融機関へ支払った日
M原材料等を有償支給した場合は,その品名,数量,対価,引渡しの日,決済をした日及び決済方法
N下請代金の一部を支払い又は原材料等の対価を控除した場合は,その後の下請代金の残額
O遅延利息を支払った場合は,遅延利息の額及び遅延利息を支払った日
○親事業者の「遅延利息の支払義務」(第4条の2)
親事業者は、下請代金の支払期日までに下請代金を支払わなかつたときは、下請事業者に対し、下請事業者の給付を受領した日(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした日)から起算して60日を経過した日から支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該未払金額に公正取引委員会規則で定める率(14.6%)を乗じて得た金額を遅延利息として支払わなければならない。
○親事業者の「禁止行為」その1(第4条1項)
親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の行為をしてはならない。(役務提供委託をした場合は@Cを除く。)
@受領拒否の禁止(1号)
下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の受領を拒むこと。
A下請代金の支払遅延の禁止(2号)
下請代金をその支払期日の経過後なお支払わないこと。
B下請代金の減額(3号)
下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること。
C返品の禁止(4号)
下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付を受領した後、下請事業者にその給付に係る物を引き取らせること。
D買いたたきの禁止(5号)
下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること。
E購入・利用強制の禁止(6号)
下請事業者の給付の内容を均質にし又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させること。
F報復措置の禁止(7号)
下請事業者が公正取引委員会又は中小企業庁長官に対しその事実を知らせたことを理由として、取引の数量を減じ、取引を停止し、その他不利益な取扱いをすること。
○親事業者の「禁止行為」その2(第4条2項)
親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の行為をして下請事業者の利益を不当に害してはならない。 (役務提供委託をした場合は@を除く。)
@有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止(1号)
自己に対する給付に必要な半製品、部品、附属品又は原材料(「原材料等」)を自己から購入させた場合に、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、当該原材料等を用いる給付に対する下請代金の支払期日より早い時期に、支払うべき下請代金の額から当該原材料等の対価の全部若しくは一部を控除し、又は当該原材料等の対価の全部若しくは一部を支払わせること。
A割引困難な手形の交付の禁止(2号)
下請代金の支払につき、当該下請代金の支払期日までに一般の金融機関による割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること。
B不当な経済上の利益の提供要請の禁止(3号)
自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
C不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止(4号)
下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の内容を変更させ、又は下請事業者の給付を受領した後に(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした後に)給付をやり直させること。
○中小企業庁長官の請求(第6条)
中小企業庁長官は、親事業者が違反行為をしているかどうか調査し、その事実があると認めるときは、公正取引委員会に対し、この法律の規定に従い適当な措置をとるべきことを求めることができる。
○公正取引委員会の勧告(第7条)
公正取引委員会は、親事業者が違反行為をしていると認めるときは、その親事業者に対し、必要な措置をとるべきことを勧告するものとする。
○下請け関係にない契約の場合
下請関係が存在しない通常の業務委託契約、代理店販売契約(代理商契約)、地方自治体や公共団体による業務委託契約や、資本金にあまり差がない企業間契約、対等な立場での契約等は、この下請法の適用はない。 |
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