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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
草なぎ容疑者逮捕 泥酔・全裸事件(2009年04月23日)   公然わいせつ罪
○アイドルグループSMAPのメンバー草なぎ(なぎは弓へんに剪)剛容疑者(34)が23日未明、東京都港区の公園内で裸になったとして、公然わいせつ容疑で警視庁に現行犯逮捕された。当時、泥酔状態だったという。赤坂署によると、同日午前3時ごろ、同区赤坂9丁目の檜町公園の近くに住む男性から「酔っぱらいが騒いでいる」と110番通報があり、署員が急行。草なぎ容疑者が全裸で騒いでおり、署員が現行犯逮捕した。「なぜ裸になったか覚えていない。裸になったことを反省しています」と話しているという。同署による検査の結果、呼気から1リットルあたり0.8ミリグラムのアルコールが検出された。道交法が酒気帯びと定めた値の5倍以上にあたる。同署の調べに、「赤坂の居酒屋で知人2人と計3人で飲んでいた」「ビールと焼酎を飲んだ」と話したという。(2009年4月23日asahi.com)

○アイドルグループSMAPのメンバー草なぎ(なぎは弓へんに剪)剛容疑者(34)が23日未明、東京都港区の公園で裸になったとして公然わいせつ容疑で現行犯逮捕された事件で、警視庁は同日夕、同区内のマンションにある草なぎ容疑者の部屋を同容疑で家宅捜索した。押収物はなかったという。 赤坂署によると、草なぎ容疑者は同日午前3時ごろ、同区赤坂9丁目の檜町公園で、全裸で騒ぐなどし、通報で駆けつけた同署員に取り押さえられた。呼気から1リットルあたり0.8ミリグラムのアルコールが検出され、当時泥酔状態だったとみられる。自宅マンションは現場の公園のそば。同署によると、尿検査で薬物反応は出なかったという。同署は「動機や背景を解明するため捜索した」と説明している。(2009年4月23日asahi.com)

○東京区検は二十四日、東京都港区の公園で酒に酔って全裸で騒いだとして、公然わいせつの疑いで逮捕されたSMAPのメンバー草なぎ剛容疑者(34)を処分保留で釈放した。東京区検は「証拠隠滅や逃走の恐れがない」と釈放の理由を説明した。今後在宅のまま捜査し処分を決める方針。草なぎさんは同日午後、留置されていた警視庁原宿署を迎えの車で出た。草なぎさんは二十三日午前三時ごろ、港区赤坂の公園で全裸になったとして、赤坂署に現行犯逮捕された。逮捕時は泥酔状態だった。二十四日午前、東京区検に送検され取り調べを受け、同日午後に原宿署に戻った後、釈放された。 (中国新聞2009年4月24日)

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○大変な大騒ぎである。あのSMAPの中でも、一番真面目そうな彼が、何と公園で酒に酔って全裸で騒いだとして、公然わいせつの疑いで逮捕され、翌日釈放された。23日午前3時ころの事件で、釈放されたのが24日午後ということであるから、丸1日半は拘束されていたことになる。

○裸で暴れていたことと、それで逮捕されたこと自体は十分に驚いたが、驚くことは、さらに次々起こった。何と、自宅を家宅捜索したとか、鳩山総務大臣が「人格否定発言」までしたり(後に撤回)、マスコミは大騒ぎである。彼の出るテレビ番組やCM放送などの自粛が相次いだことに対しては、当然だとか過剰反応だとか、議論が百出である。ただ、24日夜の記者会見での彼の大人の謝罪が効いたのか、これ以上の批判的な見解は少なく、むしろ、「かわいそう」というような声も多く出ている。復帰は、そんなに遠くはないような感じがするが、どうだろうか。

○この件で、気になった点がいくつかある。その一つは、そもそも、現行犯で逮捕というが、完全な酔っぱらいへの対応として、そこまでする必要があったのだろうか。いわゆる泥酔者保護、つまりは「トラ箱」や「泥酔者保護所」での保護もあったのではないかという点であった。

「トラ箱」とは、警察の保護室のことで、「酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律」に基づき泥酔者を保護収容するために、警察署に置かれた「保護室」のことである。保護室は、花見や忘年会シーズンでは満員となることもあったというが、最近は「利用者」が減少しているとは聞く。大暴れしても、夜明けて酔いがさめ、頭を下げて帰っていくのが日常光景であったとは聞いた。

○酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律
(昭和三十六年六月一日法律第百三号)
(保護)
第三条  警察官は、酩酊者が、道路、公園、駅、興行場、飲食店その他の公共の場所又は汽車、電車、乗合自動車、船舶、航空機その他の公共の乗物(以下「公共の場所又は乗物」という。)において、粗野又は乱暴な言動をしている場合において、当該酩酊者の言動、その酔いの程度及び周囲の状況等に照らして、本人のため、応急の救護を要すると信ずるに足りる相当の理由があると認められるときは、とりあえず救護施設、警察署等の保護するのに適当な場所に、これを保護しなければならない。

○ちなみに、警視庁では警察署以外に「泥酔者保護所」を設置し、かつては都内4箇所に設置され、最盛期には年間一万人以上の泥酔者を保護したというが、利用数の減少で2007年末に全部廃止されたとのことであった。

今回の事件では、「トラ箱」での泥酔者保護ではなく、逮捕となったのは、公然わいせつが絡んでいたからであろうか。

○また、家宅捜索までする必要性があったのだろうか。いくらなんでも、今回のような現行犯事件で行うのは、不思議すぎる感がある。通常、自宅以外での公然わいせつ事件で、自宅の家宅捜索は行われない。自宅に公然わいせつと関係のある証拠があるとも思えないからである。家宅捜索には、当然に裁判所の令状が必要だが、何を根拠にしたのか。あまりに安易に認めすぎじゃなかろうかとも思う。警察の狙いは、覚せい剤か大麻を疑ったのではないかとの情報があるが、そうすると明らかに別件捜査ではないのか。報道によれば、この日の家宅捜索は約30分で終了し、押収品はなかったとのことである。逮捕後に尿検査も実施したが、薬物反応は出なかった。同署は家宅捜索について「動機や事件の背景を探るため」と説明してはいるが、何らかの勇み足があったのではないかと勘繰りたくはなる。

○また、そもそも犯罪が成立するのかどうかも気にはなる。法的に見て、深夜とはいえ、公園での行為に「公然性」があるという判断は分かるが、全く前後不覚で、自分のやっていることの自覚も全くなかった場合に、責任能力があったのかどうか、また、本件のような場合に「原因において自由な行為」を根拠にして公然わいせつ罪が成立するのだろうか。

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○公然わいせつ罪の「公然」とは
今回の件は、深夜午前3時の公園である。この場合にも「公然性」があると言えるだろうか。公然とは、「不特定又は多数の人が認識することのできる状態」をいうとされ(最高裁決定昭和32年5月22日)、現実に不特定又は多数の人が認識する必要はなく、その認識の可能性があれば足りる。例えば、不特定多数の人が通行する可能性のある場所でわいせつな行為に及んだ場合は、現実には通行人が全くいなかったとしても、公然性に欠けるところはないとされている(東京高裁判決昭和32年10月1日)。この通説・判例からして、たとえ深夜午前3時の公園であっても、誰が通りかかるかもしれないことからすると、公然性の要件には、何ら問題なく該当すると言える。深夜カップルも、やり過ぎると同じ罪に問われかねないのである。

○「わいせつ」について
公然わいせつ罪における「わいせつ」の概念は、「性欲を刺激、興奮又は満足させる行為であり、普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為をいうもの」と解されている。「わいせつ」の概念は、時代に応じて変化するものであるが、下半身丸出しで暴れることについては、たとえ草なぎ君であろうと、公然わいせつと言われても仕方がない。ちなみに、接吻や乳房を露出する行為自体は、それのみでは「わいせつ」といえないとされている。このことから一般的に「パンツを脱がなかったらOK、脱いだらNO」とも言われてはいる。

○刑法(公然わいせつ)
第174条  公然とわいせつな行為をした者は、6月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

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○酩酊状態下での行為について
釈放された晩の記者会見を聞くと、事件当時の記憶は、本人には全くないようである。このような場合において、心神喪失として責任能力を問えるかどうかが問題にはなる。心神喪失(責任無能力)とは、精神の障害により、@行為の是非を弁別する能力(是非分別能力)がなく、又は、Aこの弁別に従って行動する能力(行動制御能力)のない状態をいう。

この点で、飲酒酩酊中の記憶の欠如は、行為の当時に全く事物の是非を弁別することができない無意識状態とは異なるため、必ずしも心神喪失状態にあったとはいえない。その後に記憶が飛んでしまっているとしても、行為の最中には何らかの判断が働いていたともいえるからである。この事件は、不起訴になるようには思うが、仮に略式罰金の処分をするような場合は、前提として、この観点から、犯行当時の責任能力は認められたうえでなされることとなろう。

○「原因において自由な行為」論
仮に、本当に行為当時、本当に心神喪失(責任無能力)であった場合はどうであろうか。ここで思い浮かぶのが、「原因において自由な行為」論である。これは、行為者自身の責任能力を欠いた状態を行為者自身が利用して犯罪が行われた場合をいう。たとえば、酔うと暴力をふるう性癖者が、性癖を利用してあえて飲酒泥酔して人を傷害したという場合を考えると、こういった行為に何らの責任が問えないとなると、いかにも不合理であり不正義である。そこで、これを「原因において自由な行為」ととらえて、例外的に39条1項を適用せず、完全な責任を問うべきである。つまり、「原因において自由な行為」とは、完全な責任能力を有さない結果行為によって構成要件該当事実を惹起した場合に、それが、完全な責任能力を有していた原因行為に起因することを根拠に、行為者の完全な責任を問うための法律構成である。

この法律構成をとる場合の根拠としては、通説は、間接正犯類似説で、間接正犯と同様に考えることで完全な責任を問おうとするものである。つまり、原因において自由な行為を、心神喪失状態の自己を道具として利用する行為ととらえ、そのような状態を作り出す原因行為たる飲酒行為自体を現実的危険のある実行行為とみるのである。これによれば、原因行為に実行行為性(正犯性)が認められるとして、実行行為と責任能力の同時存在が成り立ち、泥酔した状態での犯罪行為の時点では責任能力がなくとも、実行行為の時点で責任能力があるといえるので、39条1項の適用がなく処罰できるとなる。(これに対しては、行為と責任の同時存在の原則を修正して、必ずしも実行行為の時点で責任能力が存在している必要はなく、結果発生に向けた最終的意思決定の際に責任能力があれば、結果行為時に責任能力が失われていても完全な責任を問いうるとする説もある。)

このように、原因において自由な行為論を用いれば、酒酔い下での行為に対して責任能力を問うことができそうであるが、今回の事件のような場合に、これが適用しうるのであろうか。最も気になる点は、公然わいせつ犯は「故意」犯のみで過失犯を罰する規定がない点である。

そもそも、原因において自由な行為論での故意犯の場合には、原因行為について実行行為性が要求されるだけでなく、故意が認められるためには実行行為性を基礎づける事実の表象を要するため、「心神喪失状態の自己を用いて結果を惹起することの予見」(=「二重の故意」)を要するというのが多数説である。これからすると、故意の作為犯について、この理論を適用することのできる例は極めて珍しいこととなる。原因において自由な行為の理論は、本来故意犯・過失犯の双方に当てはまるものであるが、この理論を適用したと認められる判例は、過失犯に関するものが多く、故意犯の成立を認めたものはあまりないのは、こういったことが原因かと思われる。

わずかにある例としては、名古屋高裁判決昭和31年4月19日で、事案は、被告人が塩酸エフェドリン水溶液を身体に注射した結果、幻覚妄想を起こして厭世的になり、敬愛する姉を殺害して自殺しようと決意し、短刀で姉を突き刺して殺害したというものであった。この判決は、注射をするに先立ち、薬物注射をすれば精神異常を招来して幻覚妄想を起こし、あるいは他人に暴行を加えることがあるかも知れないことを予想しながら、あえてこれを容認して薬物注射をしたときは、暴行の未必の故意が成立するものと解されるとし、被告人に暴行の未必の故意があり、傷害致死の罪責を免れ得ないとした。

○今回の件を、この理論で責任能力をクリアできるかどうかであるが、草なぎ君が、飲酒の時点で公然わいせつをしようと企図していたとは到底思えないし、また、深酔いすれば常に公然わいせつ行為に及ぶといった性向がない場合は、この理論で公然わいせつ行為の故意を導くことは困難であると思う。場合によっては、不起訴処分も十分に可能性はある。ただ、世の中を騒がせたこともあるから、飲酒酩酊中の今回の行為については、早く終息させたいであろう本人の意向とも絡んで、略式罰金処分での終結も可能性はるかもしれない。

(注)後日、不起訴(起訴猶予)処分となった。その後、5月28日から復帰。
                                            弁護士 三木秀夫

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