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三木秀夫法律事務所
このページは最近話題になったニュースを題材にして、そこに関係する各種法令もしくは
判例などを解説したものです。事実関係は,報道された範囲を前提にしており、関係者の
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ニュース六法目次
裁判員制度と同時に重要2制度スタート(2009年05月21日)被疑者国選弁護
裁判員制度が始まる21日、刑事司法にかかわる二つの重要な制度も同時にスタートする。

一つは、起訴前の容疑者に国費で弁護士をつける被疑者国選弁護制度の大幅な拡大。2006年10月から始まった同制度は、殺人や傷害致死など重大事件だけが対象だったが、21日以降、窃盗や詐欺など法定刑の上限が懲役または禁固3年を超える罪の容疑者も利用できるようになる。2008年度の制度利用は7411件だったが、制度改正で約10倍に増える見込みだ。国選弁護人は各地の日本司法支援センター(法テラス)が契約を結んでいる弁護士の中から指名する仕組みで、法テラス東京では、現在は1日平均約3件を指名しているが、21日からは1日当たり弁護士48人分の名簿を用意する。

もう一つは、検察審査会の権限の強化だ。検察審査会は有権者の中からくじで選ばれた11人の審査員が、検察の不起訴処分が妥当かどうかを審査する機関。6人以上が不起訴を不適当だと判断すれば不起訴不当、8人以上なら起訴相当の議決になる。 これまでは議決に拘束力はなく、兵庫県明石市で2001年に起きた歩道橋事故では、業務上過失致死傷容疑が不起訴となった当時の署長らに、2回の「起訴相当」が出たが、検察は不起訴を覆さなかった。21日以降に起訴相当の議決があった事件では、検察が再度不起訴にした場合には審査会がもう一度審査。再び起訴相当と議決されれば、裁判所が指定した弁護士が容疑者を起訴し、公判で立証活動をする。検察官がほぼ独占してきた起訴権の行使の一部に、民意が反映されることになる。 (2009年5月20日 読売新聞)

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○裁判員制度のスタート
09年5月21日に、裁判員制度が、ようやくスタートした。これは、市民から無作為で選ばれた「裁判員」が、刑事裁判に参加し、被告人が有罪かどうか、有罪の場合どのような刑にするかを裁判官と一緒に決める制度である。原則として職業裁判官3人と裁判員6人の合議で行われる。市民による司法参加という観点から、司法改革の最大の目玉として、制度設計され、「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」として、2004年5月21日に成立し、一部規定を除いて、ちょうど5年後の日に施行となったものである。今後は、この日以降に起訴された対象事件について適用され、予測では、7月下旬以降には、実際に裁判員が参加した公判が開始されるものと思われる。

○被疑者国選弁護の対象拡大
実は、この同じ21日に、「検察審査会の権限の強化」と「被疑者国選弁護制度」の適用対象が大幅に拡大されたことも、刑事弁護においては、極めて画期的なことである。このうち、後者については、これまでは起訴されて裁判に付された「被告人」には「国選弁護」があったが、起訴前の逮捕・勾留段階の「被疑者」には国選弁護制度がなかったのである。

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○被疑者国選弁護制度とは
これは、経済的に苦しい被疑者に国費で弁護士を付ける制度である。裁判員制度と同じく、2004年5月21日に成立した「刑事訴訟法の一部を改正する法律」が根拠法令となる。

起訴前の被疑者及び起訴後の被告人は、弁護人依頼権が、憲法上保障されている(34条、37条3項)。被告人については、さらに国選弁護人を付することも憲法で保障されている。このように、起訴後の国選弁護制度は、以前から存在していたが、起訴されるまでは国選制度がなかった。

このため、私選弁護人を選べない被疑者は、弁護人による弁護を受けることができない事態になる。日本国憲法34条は、抑留又は拘禁時における弁護人依頼権が明記されているものの、資力の点で依頼したくてもできない場合は、この権利も絵に描いた餅となる。被疑者は、法的知識がないために自分の権利を守ることが極めて困難である。一人で警察の取調べを受けると、刑事手続の内容や自分自身の権利を理解できないため、肉体的・精神的な疲れもあって、不本意な供述調書に署名押印をさせられたり、被害者との示談交渉を行うこともできないなど、様々な不利益が生じる。このような被疑者を擁護して、適正な刑事手続を確保するためには、被疑者段階での弁護活動が必要不可欠である。

○日本国憲法
第34条 何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
第37条 
3 刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。
被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。

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○導入に向けた弁護士会の活動
資力の乏しい人が弁護人を選任することができるよう、日本弁護士連合会(日弁連)は、各弁護士会が行う「当番弁護士」制度の財政を支える基金を創って起訴前弁護活動を積極的にすすめる一方で、被疑者国選弁護人制度の導入を求めてきた。

全国の弁護士会では、1990年以降順次「当番弁護士制度」を発足させた。当番弁護士は身柄を拘束された被疑者であれば、初回の接見(面会)は無料で行う制度で、引き続き(私選)弁護を依頼することもできた。私選弁護人を経済的に選べないときは、法律扶助協会による刑事被疑者弁護援助制度(費用負担なし)の利用も可能とした。こういった弁護士会の長年の努力が、今般の被疑者国選弁護制度として、導入に至ったものである。

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○被疑者国選弁護制度の段階的実施
(1)第1段階(2006年10月2日から)
死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁固にあたる事件(殺人、傷害致死、強姦のような、3人の合議体で審理することとされている事件や強盗などの重大な事件)を対象として、国選弁護制度が始まった。
(2)第2段階(2009年5月21日から)
対象事件を、必要的弁護事件(長期三年を超える法定刑のもの)すべてに適用されることになった。ようやく、被疑者・被告人を通じた一貫した国選弁護制度となったものである。

2006年10月1日まで 被疑者国選弁護制
度なし
2006年10月2日から2009年5月20日まで 被疑者国選弁護の
一部実施
死刑または無期若しくは短期1年以
上の懲役若しくは禁錮にあたる事
件について被疑者に対して勾留状
が発せられている場合
2009年5月21日以降 被疑者国選弁護の
拡大
死刑または無期若しくは長期3年
を超える懲役若しくは禁錮にあたる
事件について被疑者に対して勾留
状が発せられている場合


○ちなみに、刑事訴訟法289条1項で「死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮にあたる事件」を審理する場合には、弁護人がなければ開廷することはできないことを規定している。ここに規定されている事件を必要的弁護事件と呼び、今回の被疑者国選の対象と一致している。

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○取り残された部分の問題
被疑者国選制度は始まったが、なお、以下の部分は、国選の対象外であり、その取り残し部分にも国選弁護の範囲を拡大することが課題となろう。
(1)必要的弁護の対象外の事件での起訴前弁護活動
(2)必要的弁護の対象事件に対する逮捕段階の弁護活動
(3)国選少年付添人制度の対象外の事件に対する少年保護事件付添活動

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○被疑者国選弁護人の選任手続き
被疑者・被告人段階の国選弁護に関連する業務は、「日本司法支援センター」(法テラス)が担っている。

法定刑が死刑又は無期若しくは長期3年を越える懲役若しくは禁錮に当たる事件について、被疑者に対して勾留状が発せられている場合で、被疑者が貧困その他の事由により私選弁護人を選任することができないときは、裁判官に対し、国選弁護人の選任の請求をすることができる(刑事訴訟法37条の2)。このように、被疑者・被告人からの国選弁護の請求は、まず裁判所に対して行われる。

裁判所が国選弁護人をつける必要があると判断すると、裁判所から法テラスに、国選弁護人の候補を指名して通知するよう求める(総合法律支援法38条1項)。

同センターは、この求めがあったときは、遅滞なく、国選弁護人契約弁護士の中から、国選弁護人の候補を指名して裁判所に通知する(総合法律支援法38条2項)。裁判所は、この指名された候補者を国選弁護人に選任する。候補者の弁護士が選任されると、同センターは、契約に基づき、その弁護士に国選弁護人の事務を取り扱わせる(同条3項)。

被疑者が国選弁護人の選任を請求するためには、資力申告書を提出しなければならない。資力が基準額(50万円)以上の場合には、弁護士会に対し私選弁護人選任申出の手続をしなければならない(刑事訴訟法37条の3)。

被疑者に対して勾留状が発せられ、かつ、これに弁護人がない場合において、精神上の障害その他の事由により弁護人の必要性を判断することが困難である疑いがある被疑者について、必要があると認めるときは、裁判官は、職権で国選弁護人を付することができる(刑事訴訟法37条の4)。

○法テラス
法テラスでは、国選弁護人になろうとする弁護士との契約、国選弁護人候補の指名及び裁判所への通知、国選弁護人に対する報酬・費用の支払いなどの業務を行っている。また、少年事件での国選付添人についても、法テラスが、付添人になろうとする弁護士との契約、国選付添人候補の指名及び裁判所への通知、国選付添人に対する報酬・費用の支払いなどの業務を行っている。

国選弁護人・付添人の事務の取扱いについて締結する契約の内容(指名・通知に関する事項、報酬及び費用の算定基準とその支払いに関する事項並びに契約解除その他契約に違反した場合の措置に関する事項等)は、「国選弁護人の事務に関する契約約款」、「国選付添人の事務に関する契約約款」において定められている。ここでは、国選弁護人らが、独立して弁護活動ができるよう、十分に配慮された仕組みが作られている。

○報酬
国選弁護人の報酬は、法テラスにおいて、国選弁護人の事務に関する契約約款(含報酬基準)で定められている。

報酬については、裁判員制度の施行に備え、法務大臣の認可を受け、5月21日より改正約款が施行された。この改正は、裁判員裁判事件に対応する報酬基準を新設するとともに、これ以外の被疑者国選弁護事件及び被告人国選弁護事件について、これまで低廉であった報酬基準について、一定の見直しを図った。これは、弁護人の労力をより適切に反映させるものとすることを目的としているが、なお、極めて不十分である。

裁判員裁判事件については、ある程度の考慮はなされたともいえようが、なお、かける時間に見合っているかは疑問である。ましてや、裁判員対象外事件の国選報酬は、多少の増額があったといえど、なお全く、弁護人の労力に見合ったものとは言い難い。


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○刑事訴訟法
第30条  被告人又は被疑者は、何時でも弁護人を選任することができる。
2  被告人又は被疑者の法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族及び兄弟姉妹は、独立して弁護人を選任することができる。

第37条の2  死刑または無期若しくは長期三年を超える懲役若しくは禁錮にあたる事件について被疑者に対して勾留状が発せられている場合において、被疑者が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは、裁判官は、その請求により、被疑者のため弁護人を付さなければならない。ただし、被疑者以外の者が選任した弁護人がある場合又は被疑者が釈放された場合は、この限りでない。
2  前項の請求は、同項に規定する事件について勾留を請求された被疑者も、これをすることができる。 

第37条の3  前条第1項の請求をするには、資力申告書を提出しなければならない。
2  その資力が基準額以上である被疑者が前条第一項の請求をするには、あらかじめ、その勾留の請求を受けた裁判官の所属する裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内に在る弁護士会に第31条の2第1項の申出をしていなければならない。
3  前項の規定により第31条の2第1項の申出を受けた弁護士会は、同条第3項の規定による通知をしたときは、前項の地方裁判所に対し、その旨を通知しなければならない。

第31条の2  弁護人を選任しようとする被告人又は被疑者は、弁護士会に対し、弁護人の選任の申出をすることができる。
2  弁護士会は、前項の申出を受けた場合は、速やかに、所属する弁護士の中から弁護人となろうとする者を紹介しなければならない。
3  弁護士会は、前項の弁護人となろうとする者がないときは、当該申出をした者に対し、速やかに、その旨を通知しなければならない。同項の規定により紹介した弁護士が被告人又は被疑者がした弁護人の選任の申込みを拒んだときも、同様とする。

第38条  この法律の規定に基づいて裁判所若しくは裁判長又は裁判官が付すべき弁護人は、弁護士の中からこれを選任しなければならない。
2  前項の規定により選任された弁護人は、旅費、日当、宿泊料及び報酬を請求することができる。

第38条の4  裁判所又は裁判官の判断を誤らせる目的で、その資力について虚偽の記載のある資力申告書を提出した者は、十万円以下の過料に処する。


○総合法律支援法
(国選弁護人等の候補の指名及び通知等)
第38条  裁判所若しくは裁判長又は裁判官は、刑事訴訟法又は少年法の規定により国選弁護人等を付すべきときは、支援センターに対し、国選弁護人等の候補を指名して通知するよう求めるものとする。
2  支援センターは、前項の規定による求めがあったときは、遅滞なく、国選弁護人等契約弁護士の中から、国選弁護人等の候補を指名し、裁判所若しくは裁判長又は裁判官に通知しなければならない。
3  支援センターは、国選弁護人等契約弁護士が国選弁護人等に選任されたときは、その契約の定めるところにより、当該国選弁護人等契約弁護士に国選弁護人等の事務を取り扱わせるものとする。
                                            弁護士 三木秀夫

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