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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
日教組集会拒否問題でプリンスホテル敗訴(2009年07月28日) 旅館業法
グランドプリンスホテル新高輪(東京都港区)が昨年2月に予定されていた日教組の教育研究全国集会の会場使用などを拒否した問題で、日教組や組合員がプリンス側に慰謝料など計約3億円の損害賠償と謝罪広告の掲載を求めた訴訟の判決が28日、東京地裁であった。河野清孝裁判長はプリンス側に請求通り約億円の支払いと全国紙5紙への謝罪広告掲載を命じた

判決によると、日教組は平成19年5月、グランドプリンスホテル新高輪と使用申し込み契約を結んだが、プリンス側は同年11月に契約を解除した。日教組は会場の使用を求めて仮処分申請し昨年1月に東京高裁が会場使用を認める決定を出したがプリンス側は従わなかった。

問題をめぐっては、教研集会参加者の宿泊予約を合法な理由もなく取り消したとして、警視庁が旅館業法違反の疑いで、プリンスホテルの社長や総支配人計4人を書類送検している。(2009.7.28 MSN産経ニュース)

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○ホテルは、いずれもコンプライアンス(法令遵守)に取り組んでいるが、プリンスホテルにはこういった精神が欠如しているのであろうか。

○宿泊させる義務
旅館業者等は、下記の場合を除いては、宿泊を拒んではならない(旅館業法5条)。これに違反した場合は2万円以下の罰金が科せられる。
(1)宿泊しようとする者が伝染性の疾病にかかつていると明らかに認められるとき 
(2)宿泊しようとする者がとばく、その他の違法行為又は風紀を乱す行為をする虞があると認められるとき 
(3)宿泊施設に余裕がないときその他都道府県が条例で定める事由があるとき 

○今回のような全国から関係者が集まる会議のために、参加者がホテルの宿泊を予約していたのに関わらず、これを合法な理由もなく取り消したことから、宿泊させる義務違反が問題となった。

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○旅館業の種別(旅館業法2条)
プリンスホテルは、そもそも旅館業法の対象なのだろうか。
同法の対象にはホテル営業、旅館営業、簡易宿所営業及び下宿営業の4種があり、今回のプリンスホテルも旅館業法の適用がある。

(1)ホテル営業
洋式の構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業(簡易宿所営業及び下宿営業以外のもの)。 

(2)旅館営業
和式の構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業(簡易宿所営業及び下宿営業以外のもの)。いわゆる温泉旅館、観光旅館の他、割烹旅館や民宿も該当することがある。

(3)簡易宿所営業
宿泊する場所を多数人で共用する構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業(下宿営業以外のもの)。ベッドハウス、山小屋、スキー小屋、ユースホステル、カプセルホテルがこれになる。

(4)下宿営業
施設を設け、一月以上の期間を単位とする宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業をいう。

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○改善命令、許可取消又は停止
都道府県知事(保健所設置市又は特別区にあっては、市長又は区長)は構造設備基準又は衛生基準に反するときは改善命令、許可の取消又は営業の停止を命ずることができる。

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○グランドプリンスホテル新高輪が、07年5月頃に日教組との間で、08年2月に予定されていた日教組の教育研究全国集会の会場使用会場の使用契約が成立したにもかかわらず、半年後、ホテル側は一方的に解約を通告した。理由は「例年、右翼団体の街宣車などで騒音にさらされる実態を確認した」というものであった。

日教組は会場の使用を求めて仮処分を申し立てたところ、東京地裁、東京高裁はいずれもこれを認め、プリンスホテル側に使用を命じた。それにも関わらずホテル側がこれに応じず、08年2月の集会は中止になった。

日教組及び組合員が起こした損害賠償訴訟で、東京地裁が、プリンスホテル側に対し、組合と組合員に対して約3億円の支払いと全国紙5紙への謝罪広告掲載を命じたのが、今回のニュースである。このホテルは、使用させるよう命じた裁判所の仮処分決定に従っておらず、「司法制度を否定するもの」と判決で厳しく非難されたが、この批判は至極当然である。仮処分裁判も、法の認めた重要な司法手続きであり、その結論に従わなくてよいという論理は、法治国家の否定である。ちなみに、プリンスホテル側はこの判決を不服として控訴している。

○舛添要一厚生労働大臣は同ホテルが集会参加者の約190室分の予約を取り消したことについて、旅館業法に違反している疑いが濃厚だとの見解を示し、2月以降、港区が旅館業法違反の疑いでホテル側から事情聴取を行い、4月に港区は「宿泊拒否」が旅館業法違反にあたるとして、口頭で厳重注意した。

その後、怒り心頭の日教組は、この件を刑事告訴し、09年3月には、警視庁は旅館業法違反で、プリンスホテル社長ら4人と、法人としての同社を書類送検している。

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○ホテルの宿泊拒否問題
この問題は、過去にも大きく報道されたものがいくつかある。

(1)アイレディース宮殿黒川温泉ホテル問題
熊本県南小国町の同ホテル(現在廃業)が、ハンセン病療養所入所者の宿泊を拒んだとして、04年3月に経営会社「アイスター」(東京都港区)の元社長ら幹部3人が旅館業法違反で略式起訴され、罰金2万円の略式命令を受けた。

(2)盲ろう者の大会宿泊拒否事件
岡山市の温泉旅館が、岡山県の盲ろう者団体から中国、四国地方の盲ろう者の大会会場として宿泊予約を申し込まれたのに、「旅館は丘陵地にあり、建物内には段差も多く危険だ」などと断った問題で、岡山市が同旅館に立ち入り指導し、「旅館業法で、正当な理由がない限り宿泊拒否をしてはならない」と説明した。その後、旅館側は宿泊を受け入れることを決めたが、「万が一事故が発生した場合、当旅館は責任を持てない」などとして、一筆を求めた。

(3)「ダブルに男性同士」宿泊拒否事件
ダブルの部屋に男性2人で宿泊するのを拒否したのは旅館業法(宿泊させる義務)違反にあたるとして、大阪市保健所が同市内のホテルに対し、営業改善を指導していたことが18日、わかった。宿泊を拒まれたのは22日に同市の御堂筋で開かれる同性愛など性的少数者らによる「関西レインボーパレード2006」に参加予定だった東京都内の教員の男性(26)で、「イベント開催地での宿泊拒否は納得いかない」と話している。男性らの話によると、16日にインターネットの宿泊予約サイトを通じ、ホテルのダブルの部屋に、21日から1泊の予定で予約を入れた。しかし同日夜、ホテル側は「男性同士でダブルは利用できない」と電話で宿泊を拒否。17日、ホテルに再度連絡したが、同様に断られたため、保健所に通知したという。 旅館業法などでは、宿泊業者が客を拒否できるのは、感染症の患者や賭博などの行為をする恐れがある場合などに限られている。ホテル側は「お客様が間違って予約されたものと判断し、ツイン部屋の利用を勧めただけだ。男性同士だから拒否したわけではない」と話している。(朝日新聞)

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○旅館業法(昭和二十三年七月十二日法律第百三十八号)
第一条  この法律は、旅館業の業務の適正な運営を確保すること等により、旅館業の健全な発達を図るとともに、旅館業の分野における利用者の需要の高度化及び多様化に対応したサービスの提供を促進し、もつて公衆衛生及び国民生活の向上に寄与することを目的とする。
第二条  この法律で「旅館業」とは、ホテル営業、旅館営業、簡易宿所営業及び下宿営業をいう。
2  この法律で「ホテル営業」とは、洋式の構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業で、簡易宿所営業及び下宿営業以外のものをいう。
3  この法律で「旅館営業」とは、和式の構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業で、簡易宿所営業及び下宿営業以外のものをいう。
4  この法律で「簡易宿所営業」とは、宿泊する場所を多数人で共用する構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業で、下宿営業以外のものをいう。
5  この法律で「下宿営業」とは、施設を設け、一月以上の期間を単位とする宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業をいう。
6  この法律で「宿泊」とは、寝具を使用して前各項の施設を利用することをいう。

第五条  営業者は、左の各号の一に該当する場合を除いては、宿泊を拒んではならない。
一  宿泊しようとする者が伝染性の疾病にかかつていると明らかに認められるとき。
二  宿泊しようとする者がとばく、その他の違法行為又は風紀を乱す行為をする虞があると認められるとき。
三  宿泊施設に余裕がないときその他都道府県が条例で定める事由があるとき。

第十一条  左の各号の一に該当する者は、これを五千円以下の罰金に処する。
一  第五条又は第六条第一項の規定に違反した者
二  第七条第一項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は当該職員の検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者

(参考)罰金等臨時措置法(昭和二十三年十二月十八日法律第二百五十一号)
第二条  刑法(明治四十年法律第四十五号)、暴力行為等処罰に関する法律(大正十五年法律第六十号)及び経済関係罰則の整備に関する法律(昭和十九年法律第四号)の罪以外の罪(条例の罪を除く。)につき定めた罰金については、その多額が二万円に満たないときはこれを二万円とし、その寡額が一万円に満たないときはこれを一万円とする。ただし、罰金の額が一定の金額に倍数を乗じて定められる場合は、この限りでない。
(以下略)
                                            弁護士 三木秀夫

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