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三木秀夫法律事務所
このページは最近話題になったニュースを題材にして、そこに関係する各種法令もしくは
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2009年12月から、このページは休止とさせていただきました。
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ご関心のある方は、そちらをご覧ください。

ニュース六法目次
特別国会召集は9月16日鳩山首相誕生へ(2009年09月1日)「召集」と「招集」
○政府は1日、新首相を選ぶ特別国会を16日に召集することを決めた。首相指名は16日に行われ、衆院の3分の2近い議席を占める民主党の推す鳩山代表が第93代首相に選出される。会期は16〜19日の4日間で、衆院の正副議長のほか、常任委員長なども選ぶ。自民党の大島理森国会対策委員長が1日の記者会見で発表した。

特別国会では16日に正副議長を選出した後、首相指名選挙を実施。17日に常任委員長を選ぶ。鳩山氏は首相就任後直ちに組閣に着手する。鳩山氏が今月下旬に米国で開かれる国連総会やG20首脳会合(金融サミット)に出席する意欲を示しているため、政府・与党は「新首相が行くのが、当然のことだ」(大島氏)との理由から16日召集を決めた。民主党の山岡賢次国会対策委員長は1日午前、国会内で大島氏と会談し、9月中旬召集を要請していた。また、民主党は1日、社民、国民新両党との連立協議を2日に始めることを決めた。 (2009年9月1日asahi.com)

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○歴史的な選挙となった。2009年8月31日に投開票された第45回総選挙は、自民党が衆院で初めて第2党に転落し、民主党が政権を奪取し、自民党主導政治を終焉させるという歴史的な転換点となった。ある意味、小選挙区制による政権交代を可能にする二大政党制が、ようやく機能した意味は大きいように思われる。

ただ、選挙前から言われていた、「自民への不満、民主への不安」は、これからの政治過程でどう変化していくのか。気になるところである。

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○衆議院解散の日から40日以内に総選挙が行われ、選挙の日から30日以内に特別国会が召集される。この、新首相を選ぶ特別国会が、9月16日に召集されることが決まった。

国会の召集と衆院の解散は、内閣の助言と承認により天皇が行う(日本国憲法第7条)。実質的な決定権は内閣にあり、天皇は形式的な行為のみをなされる。特別国会では、正副議長を選出した後、衆参で首相指名選挙が実施され、新首相が決まる。

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○「召集」と「招集」
仕事柄、よくいろいろな法律文書のチェックをするが、そこで必ずと言っていいほど誤字使用として目につくのが、このふたつの用語である。いずれも「しょうしゅう」とよむが、誤字として非常に目につくのが、「総会の召集」、「理事会の召集」、「クラス会の召集」などである。いずれも「招集」に修正をしている。ただ、今回の特別国会で用いられるのは「召集」である。

○法律学小事典(有斐閣)によると、以下のように記載されている。
「招集」については、「合議体を成立させるために、その構成員に集合を求める行為は、法令上、一般に招集と呼ばれている。例えば、地方公共団体の議会、皇室会議、社団法人の総会、株式会社の株主総会(以下略)。」としている。これに対して、「召集」については、「期日及び場所を指定して国会議員に集会を命ずる行為」と示している。つまり、法律用語としては、国会だけで「召集」と使われ、これ以外は、閣議も含めて一般の会議では「招集」が用いられる。 

○法律用語としては、前述のように区分がされるが、この用語使用の差異は、呼び集める主体の違いによっている。

つまり、国会の場合は、天皇が国会議員に対し、国会へと集まるように命じる。国会召集は詔書により行われる。「召」の字は「お召しになる」、すなわち命令の主体が天皇の場合にのみ用いる。戦前の「召集令状」も、そのことから「召」の字が当てられていた。

これに対して、内閣総理大臣が集める会議・審議会では、天皇が主体で呼ぶわけではないので「招集」、地方議会も「招集」を用いる。法律条文での表記は、そのように統一されている。

閣議も、皇室会議も、株主総会も、地方議会も、そういった意味で、全て「招集」の字を当てている。このため、公的な場面での「召集」を用いるのは、基本的に国会以外にはないこととなる。これ以外の公的な意味合いで「しょうしゅう」に「召集」の字を用いられているならば、それらは「招集」の誤記ということになる。

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○日本語としての用法
以上の法律上の扱いは、あくまでも法律用語としての公的な場合であり、純粋な日本語として用いる場合はどうかについては、やや不明確な部分もあり、必ずしも絶対だめとまでは言い切れるかは、私は分からない。スポーツ紙などで、プロスポーツのカリスマ的監督が「選手を召集!」など、偉い人が集める場合の誇張表現もある。

日本語的に言えば、「召集」の「召」の字は、「召(め)される」=「集める」とか「招く」の尊敬語で使う漢字ゆえに、同じ「集まって下さい」でも、普通の場合は「招集」でも、特に偉い人が求める場合は「召集」という区分ということになる。

○この点、大辞林(三省堂)によると、
「招集」招き集めること。「理事会を招集する」
「召集」大勢の人を呼び出して集めること。自分と同等以下の者に用いる。
としている。

これからして、日本語的用法上では、必ずしも国会のみで用いなければならないとはされていないことが読み取れるが、法律用語としては、天皇の「国会召集」についてのみこの漢字を当てることにしたのであろう。

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○漢検では
以上の点に関して、"まあち"さんという方が書かれている「漢検のご案内」というブログに興味深い話が書かれている(2005年06月25日(土)「召集と招集」)。http://blog.zaq.ne.jp/kanken/article/21/

それによると、平成16年度第3回漢検(平成17年1月30日実施)の準1級に出題された誤字訂正問題で、「次の文にまちがって使われている同じ音訓の漢字が一字ある。正しい漢字を記せ」という問題があり、その際の文が、「勤務先から深夜に非常召集の連絡を受け息咳切って駆け付けた。」というものだったそうである。そして、その漢検側の出した正解は、「咳」→「急」であったそうだが、"まあち"さんは、「召集」を「招集」の間違いと考えて、間違ったと述べ、その上で、「『召集』は国会の場合に限られ、それ以外は『招集』を用いるのが普通でしょう。もし、受験していたら、「招集」がなぜ正解にならないか、抗議していたところです。」と述べている。

以下、"まあち"「漢検のご案内」ブログ「召集と招集」によると、以下のように分析がなされている。非常に興味部会ので、引用させていただく。

文化庁の『言葉に関する問答集』(大蔵省印刷局)では、このことについて次のように解説していま
す。 まず、「召集」と「招集」とは、次のような意味の違いがあるとしています。

 「召集」は、多くの人を呼び出して集めること。
 「招集」は、多くの人をまねき集めること。集まってもらうこと。
 そして、「召集」の用法については、次のように述べています。
 かつては、軍隊に集めたことを「召集」と言い、「召集令状」「教育召集」などと使った。
 現在では、国会の場合に限って「召集」が用いられている。
 ○「国会を召集すること」(憲法第7条)
 ○「国会を召集しなければならない」(憲法第54条)
 ○「国会の召集があったとき」(憲法第70条)
 これに対し「招集」は、一般に人を呼び集めることを言う…中略

以上、要するに、国会の場合に限っては「召集」と書き、一般に、人を呼び集める場合には、「休日
に生徒たちを招集する」「同窓会の役員に招集をかけて相談する」のように、「招集」を使うのが慣用
である。

武部良明著「漢字用法辞典 三訂版」(角川書店)では、次のように説明しています。
 「召集」…地位の高い人が低い人に、特定のところへ集まるように言うこと。
 (例)国会を召集する 召集令状
 「招集」…特定のところへ集まるように言うこと。
 (例)総会を招集する 県会を招集する 休日招集

(注意)法令用語としては、二つのショウシュウを「招集」に統一することになっている。しかし、「国
会」の場合には、「憲法」「国会法」に「召集」と書かれているため、「召集」が用いられている。
 
2002年、用法の的確な情報を織り込むことを特色にして発刊された北原保雄編「明鏡国語辞典」
(大修館書店)では、次のように説明しています。
「召集」…
1 上位の者が下位の人々を呼び集めること。*強制的・高圧的な感じを伴うので現在では多く「招
集」を使う。
2 国会議員に対して、一定の期日に各議院に集まるように命じること。天皇の国事行為として内閣
の助言と承認のもとで行われる。
3 戦時・事変などに際し、軍隊に編入するために在郷軍人や国民兵を召し集めること。「召集令状」
「招集」…人々を招き集めること。会や催しなどに必要な構成員に集合を求めること。「会員に招集
をかける」

国語辞典の最高峰「日本国語大辞典」(小学館)の説明は次のとおりです。
「召集」…
1 配下の人を呼び集めること。…以下略
2 兵役にある者を軍隊編制のために召し集めること。…以下略
3 国会議員に対し、一定の期日に各議院に集会することを命ずる行為。…以下略
「招集・招聚」…
1 人をまねき集めること。…以下略
2 法律で、株主総会や社員総会などの会議体を成立させるために、その構成員に集合を求める手
続き。…以下略
3 地方自治体で、議会開催のため、首長が議員に集合を求める行為。…以下略

これらを勘案すると、問題文の「召集」が不適切であることは明白です。「招集」としておくべきでし
た。これを誤字訂正問題として出題するのですから、不注意もいいところで、作問の質が問われま
す。


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○日本国憲法
第七条  天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
一  憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
二  国会を召集すること。
三  衆議院を解散すること。
四  国会議員の総選挙の施行を公示すること。
五  国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
六  大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
七  栄典を授与すること。
八  批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
九  外国の大使及び公使を接受すること。
十  儀式を行ふこと。

第五十二条
国会の常会は、毎年一回これを召集する。

第五十三条
内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。

第五十四条
衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行ひ、その選挙の日から三十日以内に、国会を召集しなければならない。
2 衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。
3 前項但書の緊急集会において採られた措置は、臨時のものであつて、次の国会開会の後十日以内に、衆議院の同意がない場合には、その効力を失ふ。

第七十条
内閣総理大臣が欠けたとき、又は衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があつたときは、内閣は、総辞職をしなければならない。

第百条
この憲法は、公布の日から起算して六箇月を経過した日から、これを施行する。
2 この憲法を施行するために必要な法律の制定、参議院議員の選挙及び国会召集の手続並びにこの憲法を施行するために必要な準備手続は、前項の期日よりも前に、これを行ふことができる。

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○備考
最後になったが、憲法および法律用語としては、「召集」と「招集」が区別されて使用されているように述べたが、念のために総務省の法令データ提供システムで「召集」での用語使用を検索してみると、意外にも、政令や省令のレベルでは、天皇の国会召集以外にも、結構多く「召集」の使用例が検出された(下記例)。これは、誤字ではなく、そのような字が当てられているのか。そうだとしたら、なぜ敢えてそういった表記を用いているのか、どなたかお教えいただくと幸いである。

著作権法施行令(昭和四十五年十二月十日政令第三百三十五号)
(委員長)
第六十二条 事件につき二人又は三人の委員が委嘱されたときは、当該委員は、委員長を互選しなければならない。
2 委員長は、委員の会議を主宰し、委員を代表する。
3 委員の会議は、委員長が◆召集◆する。

土地収用法施行令(昭和二十六年十月二十七日政令第三百四十二号)
(委員長)
第一条の五 あつせん委員は、委員長を互選しなければならない。
2 委員長は、あつせん委員の会議を主宰し、あつせん委員を代表する。
3 あつせん委員の会議は、委員長が◆召集◆する。

人事院規則二―一(人事院会議及びその手続)(昭和二十四年一月十五日人事院規則二―一)
1 定例の会議は、東京都内の人事院の庁舎において行う。但し、人事官の多数決により国内における他の場所において開くことができる。
2 臨時の会議は、総裁の◆召集◆又は人事官の過半数の要求に基き、前項に定める場所において開くことができる。

指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成十八年三月十四日厚生労働省令第三十四号)
(心身の状況等の把握)
第六十八条 指定小規模多機能型居宅介護事業者は、指定小規模多機能型居宅介護の提供に当たっては、介護支援専門員が開催するサービス担当者会議(介護支援専門員が居宅サービス計画の作成のために居宅サービス計画の原案に位置付けた指定居宅サービス等(法第八条第二十一項に規定する指定居宅サービス等をいう。以下同じ。)の担当者を◆召集◆して行う会議をいう。)等を通じて、利用者の心身の状況、その置かれている環境、他の保健医療サービス又は福祉サービスの利用状況等の把握に努めなければならない。
(厚生労働省令として定められた多くの施設基準で、同じような表記が多数ある)

計量法施行規則(平成五年十月二十五日通商産業省令第六十九号)
(議事)
第百十条 審議会は、委員及び議事に関係のある臨時委員の過半数が出席しなければ、会議を開き、議決することができない。
2 委員の三分の一以上の者から会議に付議すべき事項を示して会議の◆召集◆の請求があったときは、会長は、会議を◆召集◆しなければならない。
                                            弁護士 三木秀夫

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