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三木秀夫法律事務所
このページは最近話題になったニュースを題材にして、そこに関係する各種法令もしくは
判例などを解説したものです。事実関係は,報道された範囲を前提にしており、関係者の
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ニュース六法目次
のりピー謝罪会見、女のケジメ(2009年09月17日) 覚せい剤取締法違反
○のりピー謝罪会見(17日)
覚せい剤取締法違反(使用、所持)の罪で起訴された女優の酒井法子被告(38)が17日、逮捕から40日ぶりに保釈され、拘置先の警視庁東京湾岸署を出た。午後4時半、玄関前で「これまで酒井法子を応援してくれた皆さま、本当にこのたびは申し訳ありませんでした」と深々と7秒間頭を下げ、迎えの車に乗り込んだ。都内で涙を流しながらの謝罪会見を終えると、メンタル面の治療のため東京・新宿区内の病院に入院した。【スポーツ報知2009年9月18日】

○酒井法子被告の追起訴完了(11日)
東京地検は11日、女優の酒井法子(本名・高相(たかそう)法子)被告(38)をせい剤取締法違反(使用)で追起訴した。捜査関係者によると、起訴内容を認め反省しているという。地検は夫で自称プロサーファー、高相祐一容疑者(41)も同法違反(所持)で追起訴。一連の捜査は終結した。酒井被告の初公判は10月26日、高相被告は同21日。
起訴状などによると、酒井被告は7月30日ごろ、皆既日食を見るため訪れた鹿児島県奄美大島のホテルで、覚せい剤若干量を火であぶって吸引したとされる。高相被告は8月9日、千葉県勝浦市の別荘で覚せい剤約0・097グラムを所持したとされる。
警視庁は、酒井被告が7月5日に自宅で使用したとする容疑でも送検したが、地検は起訴猶予とする。警視庁によると、酒井被告は「3〜4年前に初めてやった。昨夏から月1、2回やった。疲れが取れ気分がすっきりした」と供述。奄美大島では「楽しい家族旅行にするため絶対吸わないと約束したが、夫がパーティーで拾ってきて使った」と話しているという。また、高相被告の逮捕後に5日間行方不明になったのは「覚せい剤を抜くため」と供述。【毎日新聞2009年9月12日】

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○"のりぴー"こと酒井法子被告が、保釈された。逮捕状が出て以来、過激な報道が続く事件で、安藤隆春警察庁長官までが事件に言及するなど、通常の芸能人の犯罪としては異例の注目を集めてきた。保釈前から勾留先の東京湾岸署前には連日、大勢のマスコミが詰めかけ、動静が報道され続けた。過熱すぎる報道に対しては、マスコミ側の反応は、いつも通りの「誰もが知りたがっている情報なので」。しかし、本当に必要な報道は何なのか、バランスのとれた報道が何故できないのか、今回も思わずにおれなかった。結局は、視聴率競争からくる安易な報道姿勢しか見えなかった。

○今回、気になったのは、逮捕容疑となった「所持」は、酒井被告の自宅マンションから覚せい剤が押収されたことによるが、その量は0.008gであったということである。これは、覚せい剤の平均的使用量と言われている約0.03gと比べると、全くの微量である。そもそも、このときの「所持」は、使用を立件するための別件逮捕みたいな感じもあった。

このためか、法曹関係者の多くは、おそらく「これぐらいの量では、起訴はせず、不起訴になるのではないか」と思っていたのではないか。そもそも所持罪の適用には、何らかの意思があり持っていたという事実が必要なところ、あまりに微量だと使用目的ではなかったという見方もできるからである。実際にも、微量な所持のみの場合は、不起訴になってきたのも、弁護士としての経験値である。しかし、過去には使用した残りの約0.001gの微量の所持で有罪とした大阪地裁判決もあることから、証拠さえあれば有罪となる。使用目的で所持していたと本人も認めていることもあり、覚せい剤の撲滅が叫ばれているなか、世間から大注目を浴びているこの事件を不起訴にはできなかったものと思う。

○また、今回追送検された「使用」の起訴事実は、7月30日ごろに奄美大島のホテルで、覚せい剤若干量を火であぶって吸引したこととのことである。つまり、起訴事実による限り、夫が所持で逮捕後失踪した8月3日時点は、使用から4日しかたっていなかったことになる。覚せい剤使用後30分程度から、初心者では4日後まで、乱用者の場合は1週間から10日間後までが、尿検査で一般的に検出可能な期間とされている。これからして、出頭までの6日間は、まさに"ヤク抜き逃亡"となったことになる。

このため、当然に尿検査では反応が出なかったはずである。しかし、報道で知る限りでは、毛髪鑑定で覚せい剤成分が検出されたということであるので、これが今回の追起訴につながったものと思う。使用罪として立件するには、通常は採尿した上での検査が採られる。毛髪検査が例外的なのは、サンプルとなる毛髪は、通常50本以上の量が必要とのことなので、採取自体に抵抗が強いからということのほかに、検査時間もかかるからだそうである。また、検査結果も尿検査のほうが正確性の面で優れているという。その中で、毛髪検査を進めていったのは、警察、検察庁の並々ならぬ「国家的捜査」の方針からであろう。

ただ、これも本来は、かなり苦しい捜査でもあったように思う。本来、起訴するためには「犯行の日時、場所」をある程度特定しなければいけないが、報道で知る「日時」は「7月30日ごろ」とあるだけである。尿からではなく毛髪鑑定から出ているために使用期間の客観的判定が曖昧なことから、本来は客観的に日時を特定するのは困難なことであるが、これも、本人が全てを供述していることから裏付けを取って行った結果からの起訴と思われる。このように見ていくと「国家的捜査」とは言うものの、結局は本人の自白を出発点にした危うい捜査でもある。

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○事件の経緯
【2009年7月30日ごろ】奄美大島のホテルで、覚せい剤若干量を火であぶって吸引した疑い(追起訴事実)。
【8月3日】夫が覚せい剤取締法違反(所持)容疑で現行犯逮捕。逮捕現場に駆けつけた酒井法子は渋谷警察署への任意同行を求められたが拒否し、その後失踪。
【8月4日】所属事務所のサンミュージックが記者会見し、親族が警視庁に捜索願を提出したことを発表。長男と共に行方不明となり、大きく報道。
【8月6日】長男は当初から知人宅に預けられていたことが判明。
【8月7日】夫の容疑の関係捜査先として酒井の自宅を家宅捜索した際に、微量 (0.008グラム)の覚せい剤と酒井の唾液が付着した吸引具が見つかったことから、この日、酒井にも覚せい剤取締法違反(所持)容疑で逮捕状が出された。
【8月8日】酒井が警視庁富坂分庁舎にある組織犯罪対策5課に出頭逮捕。
【8月28日】覚せい剤取締法違反(所持)の罪で起訴。起訴を受けて、サンミュージックは酒井を同日付で解雇。所属するレコード会社のビクターエンタテインメントも同日、契約を解除。
【9月11日】09年7月下旬に奄美大島を訪れた際に、ホテルで覚せい剤を吸引したとして、覚せい剤取締法違反(使用)の罪で追起訴。
【9月17日】保釈金500万円の納付により、同日午後4時29分、拘留されていた東京湾岸警察署から出て、同日、謝罪会見。10月26日初公判予定。

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○覚せい剤取締法
同法は、覚せい剤の濫用による保健衛生上の危害を防止するため、覚せい剤及び原料の輸入、輸出、所持、製造、譲渡、譲受及び使用に関して必要な取締りを行うことを目的とする法律である(同法1条)。

○規制対象
覚せい剤取締法にいう覚せい剤とは、フェニルアミノプロパン(アンフェタミン)、フェニルメチルアミノプロパン(メタンフェタミン)及びその各塩類、これらの物と同種の覚せい作用を有する物であって政令で指定するもの並びにこれらの物のいずれかを含有する物をいう(同法2条1項各号)。

日本における薬物犯罪の多くの部分がこの覚せい剤事犯であることから、「覚せい剤取締法」として「麻薬及び向精神薬取締法」とは別個の単行法として制定された。覚せい剤の濫用事犯は、麻薬及び向精神薬の濫用事犯よりも重い刑罰をもって規制している。

○法定刑
使用=10年以下の懲役(第41条の3) 
所持、譲渡、譲受=10年以下の懲役(第41条の2) 
輸入、輸出、製造=1年以上の有期懲役(第41条) 
原料の輸入、輸出、製造=10年以下の懲役(第41条の3) 
使用、所持、譲渡、譲受=7年以下の懲役(第41条の4) 
没収規定(第41条の8) 

○有罪判決の場合の量刑傾向
所持罪の場合は、「自己使用目的」と「売買目的」(営利目的)とで区別され、後者の場合は量刑が重く、一般的には、前科前歴がなくても初犯で実刑になることが多く、罰金が併科されることもある。
営利目的でない所持の場合は、所持量、前科の有無、量や常習性、今後の監督者の有無などが検討される。
使用罪については、使用量や使用回数、使用期間、使用方法などが判断要素となるが、自己使用で起訴された場合、初犯は執行猶予で2回目が実刑、3回目以降は刑が徐々に重くなるというのが、おおまかな傾向である。(所持も使用も、初犯者は、懲役1年6ヶ月から2年、執行猶予3年程度の判決が多い。)

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○覚せい剤取締法(昭和二十六年六月三十日法律第二百五十二号)
(この法律の目的)
第一条  この法律は、覚せい剤の濫用による保健衛生上の危害を防止するため、覚せい剤及び覚せい剤原料の輸入、輸出、所持、製造、譲渡、譲受及び使用に関して必要な取締を行うことを目的とする。

(用語の意義)
第二条  この法律で「覚せい剤」とは、左に掲げる物をいう。
一  フエニルアミノプロパン、フエニルメチルアミノプロパン及び各その塩類
二  前号に掲げる物と同種の覚せい作用を有する物であつて政令で指定するも
三  前二号に掲げる物のいずれかを含有する物
(以下略)

(所持の禁止)
第十四条  覚せい剤製造業者、覚せい剤施用機関の開設者及び管理者、覚せい剤施用機関において診療に従事する医師、覚せい剤研究者並びに覚せい剤施用機関において診療に従事する医師又は覚せい剤研究者から施用のため交付を受けた者の外は、何人も、覚せい剤を所持してはならない。
(以下略)

(使用の禁止)
第十九条  左の各号に掲げる場合の外は、何人も、覚せい剤を使用してはならない。
一  覚せい剤製造業者が製造のため使用する場合
二  覚せい剤施用機関において診療に従事する医師又は覚せい剤研究者が施用する場合
三  覚せい剤研究者が研究のため使用する場合
四  覚せい剤施用機関において診療に従事する医師又は覚せい剤研究者から施用のため交付を受けた者が施用する場合
五  法令に基いてする行為につき使用する場合

(刑罰)
第四十一条  覚せい剤を、みだりに、本邦若しくは外国に輸入し、本邦若しくは外国から輸出し、又は製造した者(第四十一条の五第一項第二号に該当する者を除く。)は、一年以上の有期懲役に処する。
2  営利の目的で前項の罪を犯した者は、無期若しくは三年以上の懲役に処し、又は情状により無期若しくは三年以上の懲役及び一千万円以下の罰金に処する。
3  前二項の未遂罪は、罰する。

第四十一条の二  覚せい剤を、みだりに、所持し、譲り渡し、又は譲り受けた者(第四十二条第五号に該当する者を除く。)は、十年以下の懲役に処する。
2  営利の目的で前項の罪を犯した者は、一年以上の有期懲役に処し、又は情状により一年以上の有期懲役及び五百万円以下の罰金に処する。
3  前二項の未遂罪は、罰する。

第四十一条の三  次の各号の一に該当する者は、十年以下の懲役に処する。
一  第十九条(使用の禁止)の規定に違反した者
二  第二十条第二項又は第三項(他人の診療以外の目的でする施用等の制限又は中毒の緩和若しくは治療のための施用等の制限)の規定に違反した者
三  第三十条の六(輸入及び輸出の制限及び禁止)の規定に違反した者
四  第三十条の八(製造の禁止)の規定に違反した者
2  営利の目的で前項の違反行為をした者は、一年以上の有期懲役に処し、又は情状により一年以上の有期懲役及び五百万円以下の罰金に処する。
3  前二項の未遂罪は、罰する。

第四十一条の四  次の各号の一に該当する者は、七年以下の懲役に処する。
一  第二十条第一項(管理外覚せい剤の施用等の制限)の規定に違反した者
二  第二十条第五項(覚せい剤研究者についての施用等の制限)の規定に違反した者
三  第三十条の七(所持の禁止)の規定に違反した者
四  第三十条の九(譲渡及び譲受の制限及び禁止)の規定に違反した者
五  第三十条の十一(使用の禁止)の規定に違反した者
2  営利の目的で前項第二号から第五号までの違反行為をした者は、十年以下の懲役に処し、又は情状により十年以下の懲役及び三百万円以下の罰金に処する。
3  第一項第二号から第五号まで及び前項(第一項第二号から第五号までに係る部分に限る。)の未遂罪は、罰する。

第四十一条の八  第四十一条から前条までの罪に係る覚せい剤又は覚せい剤原料で、犯人が所有し、又は所持するものは、没収する。ただし、犯人以外の所有に係るときは、没収しないことができる。
2  前項に規定する罪(第四十一条の三から第四十一条の五まで及び前条の罪を除く。)の実行に関し、覚せい剤の運搬の用に供した艦船、航空機又は車両は、没収することができる。
                                            弁護士 三木秀夫

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