ニュース六法(倉庫)
2009年11月までの保管庫
ニュースから見る法律
三木秀夫法律事務所
このページは最近話題になったニュースを題材にして、そこに関係する各種法令もしくは
判例などを解説したものです。事実関係は,報道された範囲を前提にしており、関係者の
いずれをも擁護したり非難する目的で記述したものではありません。もし、訂正その他の
ご意見感想をお持ちの方は、メールにてご一報くだされば幸いです。
なお、内容についての法的責任は負いかねます。引用は自由にして頂いても構いません
が必ず。当サイトの表示をお願いいたします。引用表示なき無断転載はお断りいたします。

【お知らせ】
2009年12月から、このページは休止とさせていただきました。
同名での記事を、当事務所メールマガジンにて毎月発刊しています。
ご関心のある方は、そちらをご覧ください。

ニュース六法目次
選択的夫婦別姓導入の民法改正へ(2009年10月09日)   選択的夫婦別
○千葉景子法相は9日午前の閣議後の記者会見で、選択的夫婦別姓導入のための民法改正に関し、別姓夫婦の家庭に複数の子供がいる場合は姓を統一させる方向で法案作成を進めたいとの考えを示した。民主党内には兄弟姉妹で姓が異なることを認める案が浮上しているが、法相は子の姓の統一を打ち出した1996年の法制審議会(法相の諮問機関)の答申案が「いろんな意見を集約した結論であり、(政府案の)ベースになる」と指摘した。(2009年10月09日時事通信)

○千葉景子法相は9月29日の報道各社のインタビューで、結婚後も希望すれば夫婦が互いの旧姓を名乗ることができる選択的夫婦別姓制度の導入に向け、来年の通常国会にも民法改正案を提出する意向を示した。「法制審議会でも答申が出ており、それが実現し得なかったことの方が異常だ。(法案提出は)早ければ通常国会を視野にしながら考えたい」と述べた。(2009年09月29日 NIKKEI NETT)

@@@@@@@@@@

○民主党は、8月の総選挙でのマニュフェストで「選択的夫婦別姓制度の早期導入」を明記していた。このため、民主党政権は、速ければ来年の通常国会で、制度導入に向けた民法改正案を提出する計画である。

○現行制度
現行の民法は結婚すれば夫婦の姓(民法上では「氏(うじ)」という)を夫か妻のどちらかの姓に統一するよう定めている。これを「夫婦同氏原則」(民法750条)という。これにより夫婦は婚姻届出の際に、どちらの氏(姓)にするかを決めて届け出をしないとならない(戸籍法74条1項)。これらの規定は夫婦ともに日本国籍を有する場合に適用される。

この結果、日本人夫婦の場合は、婚姻期間中は、公文書上では、夫婦が異なる姓となることはない。そのために、姓を変更する側(妻側が圧倒的に多い)が、仕事などで旧姓を使用し続けたい場合などは、婚姻届を提出せず改姓を回避する「事実婚」や、婚姻届を出した上で改姓したほうが旧姓を使う「通称使用」などの涙ぐましい努力で、事実上別姓を続けている。しかし、事実婚は相続問題では正式な婚姻とは違う扱いになるし、通称使用は、日常使用と公文書とが異なるため、いろいろな場面でややこしいことになっている。

@@@@@@@@@@

○改正の動き
このため、「夫婦同姓は、現実問題として女性のアイデンティティとキャリア維持などに障害となる」として、夫婦同氏の原則の緩和を求める声が高くなり、「選択的夫婦別氏制度」の導入など民法750条の改正が提案されてきた。法制審議会も、96年に、その方向での改正を答申した。その一方で「家族の一体感を損ない、家族崩壊につながる」などとして、現状制度の維持を望む人も多く実在するために、長く論争が続いてきた。

これまでも、民主党は他の野党と一緒に民法改正案を国会に提出してきたが、国会での廃案が続いてきた。そのうち、世論も変化してきたためか、01年に内閣府が行った世論調査では、夫婦別姓制度に賛成する意見が42.1%、反対が29.9%と、賛成意見が多くなった。

○この改正案は、「夫婦別姓」を押し付けるものではなくて、あくまでも「選択肢」の一つとして加えるものであることと、現実的に別姓を強く求める者がいる以上は、その選択肢を制度的に奪うことに合理的理由はないように思われる。
世界的に見ても、氏と名の組み合わせで個人を特定する制度や習慣を持つ国々では、夫婦別氏あるいは旧姓の併用を認めている。日本のような制度を持っていたトルコやタイなどで、近年ともに法改正があり、氏統一の規定が無くなり、「夫婦別姓の選択の自由が全くないのは、世界広しといえども日本だけ」と言われるようになった。

○民法改正案の骨子
民主党と法務省がまとめている民法改正案の骨子は、次のようなもので、おおむね法制審議会答申に沿った内容となっている。
(1)結婚する際に夫婦が同姓にするか別姓にするかを決定できる。
(2)結婚可能年齢を男女とも18歳(現行では女性は16歳)にそろえる。

○子供の姓の問題
夫婦が別の姓を持つ場合の子どもの姓を決める方法については、民主党と法務省の立場が異なっていた。これまで民主党は「出生時に選択できるようにする」としていたが、法務省は「2人以上の子どもが生まれる場合には姓を統一する」とする方針であった。

これに関して、千葉景子法相は、10月9日の閣議後の記者会見で、別姓夫婦の家庭に複数の子供がいる場合は姓を統一させる方向で法案作成を進めたいとの考えを示した。法相によると、子の姓の統一を打ち出した96年の法制審議会(法相の諮問機関)の答申案が「いろんな意見を集約した結論であり、(政府案の)ベースになる」と指摘した。これで、この法案の提出は、加速されるものと思われる。

@@@@@@@@@@

○選択的夫婦別氏制度について(法務省ホームページ)
1.現在の民法のもとでは,結婚に際して,男性又は女性のいずれか一方が,必ず氏を改めなければなりません。そして,現実には,男性の氏を選び,女性が氏を改める例が圧倒的多数です。ところが,女性の社会進出等に伴い,改氏による社会的な不便・不利益を指摘されてきたことを背景に,いわゆる選択的夫婦別氏制度の導入を求める意見があります。
2.選択的夫婦別氏制度とは,夫婦が望む場合には,結婚後も夫婦がそれぞれ結婚前の氏を称することを認める制度です。
3.平成8年2月の法制審議会の答申は,「夫婦は,婚姻の際に定めるところに従い,夫若しくは妻の氏を称し,又は各自の婚姻前の氏を称するもの」とする選択的夫婦別氏制度の導入を提言しました。
4.平成17年12月の男女共同参画基本計画(第2次)でも,世論調査等により国民意識の動向を把握しつつ,選択的夫婦別氏制度について,国民の議論が深まるよう引き続き努めるものとされています。
5.世論調査の動向は次のとおりです。
 平成18年の世論調査の結果では,現行の夫婦別氏制度を改める必要はないと答えた者の割合が35.0%で,平成8年調査(39.8%)から平成13年調査(29.9%)に一たん低下した割合が上昇に転じています。
 一方,選択的夫婦別氏制度を導入してもかまわないと答えた者の割合は36.6%で,平成8年調査(32.5%)から平成13年調査(42.1%)に上昇した割合が低下に転じました。
6.このように,平成18年の世論調査結果は,現行の制度を改める必要はないと答えた者と,選択的夫婦別氏制度を導入してもかまわないと答えた者がほぼ同じ割合になっており,選択的夫婦別氏制度の導入の問題について,国民各層の意見が大きく分かれています。
7.法務省としては,選択的夫婦別氏制度の導入は,婚姻制度や家族のあり方と関連する重要な問題ですので,国民の理解のもとに検討されるべきものであると考えています。したがって,今回の調査結果の概要を国民一般に広く周知するとともに関係各方面に報告することにより,選択的夫婦別氏制度の導入に関する国民の議論が深まるよう引き続き努め,議論の様子を見守っていきたいと考えています。
                                            弁護士 三木秀夫

ニュース六法目次