市橋容疑者逮捕と捜査特別報奨金制度(2009年11月10日) 懸賞広告 |
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○千葉県市川市で2007年、英国籍の英会話講師リンゼイ・アン・ホーカーさん(当時22)の遺体が見つかった事件で、大阪府警は10日、死体遺棄容疑で指名手配されていた市橋達也容疑者(30)を大阪市内で確保、同容疑で逮捕した。フェリーで那覇に向かおうとしていたとみられる。千葉県警行徳署捜査本部は同日夜、新幹線で市橋容疑者を千葉に移送、リンゼイさん殺害についても事情を知っているとみて調べを進める。捜査本部によると、市橋容疑者は「弁解することは何もありません。何も話したくありません」と供述しているという。
捜査関係者によると、「市橋容疑者によく似た男がいる」と同日夕、110番通報があった。大阪市住之江区のフェリー乗り場に大阪府警の警察官が駆けつけ、職務質問したところ「市橋です」と認めたという。住之江署で指紋照合し、市橋容疑者と断定した。(NIKKEI NETT 09年11月10日)
○2年7カ月間の逃走劇の末に逮捕された市橋達也容疑者(30)は、逮捕に結び付いた情報に1000万円の懸賞金が掛けられた"大物"指名手配者だ。警察庁が2007年4月から「捜査特別報奨金」の名で始めた懸賞金の支払制度で、今年6月に懸賞金額が100万円から過去最高の1000万円に引き上げられた。市橋容疑者の場合「事件への社会的関心が高く、引き上げに効果がある」と判断された。同制度に基づきこれまで36事件が指定されたが、懸賞金が実際に支払われたケースはない。今回、指名手配した千葉県警が寄せられた情報について「支払いに値する」と判断すれば、警察庁に申請。同庁が支払いの是非や対象者、金額を審査した上で県警を通じて情報提供者に懸賞金が支払われることになる。(サンケイスポーツ09年11月10日)
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○英国人女性リンゼイ・アン・ホーカーさん(当時22歳)の死体遺棄の容疑者が逮捕された。指名手配を受けて逃走中に整形手術をうけていたことなどから、大きな話題となったが、この事件でかけられていた懸賞金も関心を呼んでいる。懸賞金は、正式には「捜査特別報奨金」というが、民法の懸賞広告規定によって支払いがなされる。
○捜査特別報奨金とは
都道府県警察が捜査中の事件のうち、警察庁が特に指定するものに関し、その事件の検挙に結び付く有力な情報を提供した者に対して金員を支払う旨を広告した場合において、有力な情報を提供した者のうちの「優等者」に対して、民法の規定に従って支払うものをいう。
懸賞金は100万円または300万円で、特に必要がある場合には、1,000万円を超えない範囲内で増額できます。匿名者や警察職員やその親族、共犯者などには支給されない。
この制度は、松山ホステス殺害事件やマブチモーター社長宅殺人放火事件において、遺族らが情報提供を懸賞金つきで募集して、事件解決に結びついたことが導入のきっかけとなって、平成19年4月にスタートした。当初は、警察がすべきことを、懸賞金をかけて市民に通報を促すことに躊躇の面もあったが、他人とのかかわりを持たない現代社会においては、警察への情報提供に消極的な傾向がみられ、犯罪解決に役立つ情報が得られにくくなっていることなども、制度創設の背景となった。
○これまで55の事件が対象となり、16の事件で懸賞が継続している。今回の事件は、指名手配容疑者に関する初のケースとして、制度の対象になった。懸賞金の金額は、指名手配者のうち、「警察庁指定被疑者特別手配要綱」に基づく警察庁特別手配その他警察庁が重要なものとして指定する手配がなされている者に係る事件について100万円、その中でも社会的反響の大きい特異又は重要な事件の場合は300万円が上限額であるが、リンゼイさん事件は「特に必要がある」として最高額の1000万円まで引き上げられていた。
○懸賞広告(民法529条)
この懸賞金は、民法529条と532条の規定で運用されている。
(懸賞広告)
第529条 ある行為をした者に一定の報酬を与える旨を広告した者(以下この款において「懸賞広告者」という。)は、その行為をした者に対してその報酬を与える義務を負う。
(懸賞広告の撤回)
第530条 前条の場合において、懸賞広告者は、その指定した行為を完了する者がない間は、前の広告と同一の方法によってその広告を撤回することができる。ただし、その広告中に撤回をしない旨を表示したときは、この限りでない。
2 前項本文に規定する方法によって撤回をすることができない場合には、他の方法によって撤回をすることができる。この場合において、その撤回は、これを知った者に対してのみ、その効力を有する。
3 懸賞広告者がその指定した行為をする期間を定めたときは、その撤回をする権利を放棄したものと推定する。
(懸賞広告の報酬を受ける権利)
第531条 広告に定めた行為をした者が数人あるときは、最初にその行為をした者のみが報酬を受ける権利を有する。
2 数人が同時に前項の行為をした場合には、各自が等しい割合で報酬を受ける権利を有する。ただし、報酬がその性質上分割に適しないとき、又は広告において一人のみがこれを受けるものとしたときは、抽選でこれを受ける者を定める。
3 前二項の規定は、広告中にこれと異なる意思を表示したときは、適用しない。
(優等懸賞広告)
第532条 広告に定めた行為をした者が数人ある場合において、その優等者のみに報酬を与えるべきときは、その広告は、応募の期間を定めたときに限り、その効力を有する。
2 前項の場合において、応募者中いずれの者の行為が優等であるかは、広告中に定めた者が判定し、広告中に判定をする者を定めなかったときは懸賞広告者が判定する。
3 応募者は、前項の判定に対して異議を述べることができない。
4 前条第二項の規定は、数人の行為が同等と判定された場合について準用する。
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○懸賞広告
ある一定の行為をなした者に一定の報酬を与える広告をいい、法律効果に関して、民法529条以下に規定がある。広告をした者は「懸賞広告者」という。
(1)報酬の支払
懸賞広告者は、その行為をした者に対して、その報酬を与える義務を負う(民法529条)。
(2)数人いる場合
広告に定めた行為をした者が数人あるときは、最初にその行為をした者のみが報酬を受ける権利を有し (民法531条1項)、数人が同時に前項の行為をした場合には、各自が等しい割合で報酬を受ける権利を有する(民法531条2項本文)。
ただし、報酬がその性質上分割に適しないとき、又は広告において一人のみがこれを受けるものとしたときは、抽選でこれを受ける者を定める(民法531条2項但書)。
なお、この報酬の支払の扱いについて、懸賞広告者が懸賞広告の中で民法規定と異なる方法によることと定めることができ、その場合はその方法が優先し、民法規定は適用されない(民法531条3項)。
(3)懸賞広告の撤回
懸賞広告者は、その指定した行為を完了する者がない間は、前の広告と同一の方法によってその広告を撤回することができる(民法530条1項本文)。
同一の方法によって撤回をすることができない場合には、他の方法によって撤回をすることができるが、この場合において、その撤回は、これを知った者に対してのみ、その効力を有する(民法530条2項)。
ただし、その広告中に撤回をしない旨を表示したときは、できない(民法530条1項但書)。
また、懸賞広告者がその指定した行為をする期間を定めたときは、その撤回をする権利を放棄したものと推定される(民法530条3項)。
(4)優等懸賞広告
これは、広告に定めた行為をした者が数人ある場合において、その優等者のみに報酬を与えるとした場合をいう。この場合は、その広告は、応募の期間を定めたときに限り、有効となる(民法532条1項)。
この場合において、応募者中いずれの者の行為が優等であるかは、広告中に定めた者が判定し、広告中に判定をする者を定めなかったときは懸賞広告者が判定する(民法532条2項)。 応募者は、この判定に対して異議を述べることができない(民法532条3項)。数人の行為が同等と判定された場合には民法531条2項の規定が準用されるため(民法532条3項)、数人が同等の行為をした場合には、各自が等しい割合で報酬を受ける権利を有し、報酬がその性質上分割に適しないとき、又は広告において一人のみがこれを受けるものとしたときは、抽選でこれを受ける者を定めることになる。
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○捜査特別報奨金制度は、この民法532条の「優等懸賞広告」であることを明示しているため、原則としては、「優等者」のみが賞金を受け取ることになる。しかし、情報提供者は複数現れることが通常で、そこに明確な優劣が付けにくい場合もある。このように、数人の行為が「同等」と判定された場合は、民法532条4項では、前条の規定が準用されるため、各自が等しい割合で報酬を受ける権利を有するとされている。準用であり、同等といっても多少の優劣はあることから、貢献度合に応じて、上限額の範囲内において分割して支払われることになろう。
○世の中の関心は、誰に支払われるかであろう。
支払については、都道府県警察の長からの申請に基づき、警察庁刑事局長が、警察庁長官官房審議官を委員長とする「捜査特別報奨金審査委員会」に諮問されて決定される。
○支払先予想では、大阪市内のフェリー乗り場で「似た男がいる」と通報した人、容疑者が1年2カ月間潜伏していた大阪府茨木市の土木会社の人、整形手術を通報した名古屋市のクリニックなどが可能性として語られている。ただ、フェリー会社や茨木市の会社でも、複数の人々が関わっていることから、警察庁としては、今後のよい先例となるよう、慎重に審査していただきたいものである。
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○捜査特別報奨金の制度概要(警察庁ホームページから引用)
http://www.npa.go.jp/reward/index.html
1 捜査特別報奨金の趣旨
捜査特別報奨金は、都道府県警察が捜査中の事件のうち警察庁が特に指定するものに関し、当該事件の検挙に結び付く有力な情報をあらかじめ定める当該都道府県警察の情報の受付部署に提供した者に対して金員を支払う旨を広告した場合において、有力な情報を提供した者のうちの優等者に対して民法第529条及び第532条の規定に従って支払うもの。
2 広告の実施
(1)要件(対象事件)
@警察庁指定特別手配被疑者、警察庁指定重要指名手配被疑者に係る事件
A社会的反響の大きい特異又は重要な事件であって、次の要件をいずれも満たすもの。
ア 殺人、強盗、放火、強姦、略取誘拐その他被害者の生命・身体に重大な損害を及ぼ した犯罪であること。
イ 原則として、事件発生後6か月を経過していること。
ウ 犯罪捜査規範第22条に基づく捜査本部開設事件であること。
エ 当該事案の内容、捜査の状況等に照らし、広告を実施して情報提供を促進することが有効・適切と認められること。
(2)上限額 原則として@の事件:100万円、Aの事件:300万円
(3)応募期間 原則として1年以内
(4)警察庁刑事局長が、対象事件、捜査特別報奨金の支払の対象として指定する行為、上限額、支払要件、応募期間、支払除外事由及び都道府県警察の情報の受付部署を官報に掲載することにより広告。
3 捜査特別報奨金の支払
(1)情報提供者に対し、被疑者の検挙又は事件の解決への寄与の度合に応じて上限額の範囲内で支払。情報提供者が複数ある場合には、その度合に応じて、上限額の範囲内において分割して支払。
(2)匿名者、警察職員及びその親族、共犯者、情報入手の過程で犯罪等を行った者等は支払対象から除外。
4 手続
広告の実施及び捜査特別報奨金の支払については、都道府県警察の長からの申請に基づき、警察庁刑事局長が、警察庁長官官房審議官(刑事局担当)を委員長とする捜査特別報奨金審査委員会に諮問の上、決定。
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○捜査特別報奨金取扱要綱
第1 目的
この要綱は、報償費により支払う捜査特別報奨金の取扱いについて必要な事項を定めることを目的とする。
第2 捜査特別報奨金の趣旨
捜査特別報奨金は、都道府県警察が捜査を行っている事件のうち警察庁が特に指定するものに関して当該事件の検挙に結び付く有力な情報をあらかじめ定める当該都道府県警察の情報の受付を行う部署に提供した者に対して金員を支払う旨を広告した場合において、有力な情報を提供した者のうちの優等者に対して民法(明治29年法律第89号)第529条及び第532条の規定に従って支払うものとする。
第3 広告の実施
1 要件
広告は、次のいずれかに該当するもののうち、警察庁刑事局長(以下「刑事局長」という。)が必要と認めるものについて実施できるものとする。
(1) 指名手配被疑者のうち、「警察庁指定被疑者特別手配要綱」(昭和47年1月21日付け警察庁乙刑発第2号ほか)に基づく警察庁特別手配その他警察庁が重要なものとして指定する手配がなされている者に係る事件(2) 社会的反響の大きい特異又は重要な事件であって、次の要件をいずれも満たすもの(前号の要件に該当する事件を除く。)
ア殺人、強盗、放火、強姦、略取誘拐その他被害者の生命・身体に重大な損害を及ぼした犯罪であること。
イ原則として、事件発生後6か月を経過していること。
ウ犯罪捜査規範(昭和32年国家公安委員会規則第2号)第22条に基づき、捜査本部を開設している事件であること。
エ当該事件捜査に関連する情報資料を総合的に判断し、事案の内容、捜査の状況等に照らして、広告を実施して情報提供を促進することが有効かつ適切であると認められるものであること。
2 手続
(1) 都道府県警察の長(以下「本部長」という。)は、捜査を行っている事件のうち前項に定める要件を満たすものについて、刑事局長に対して、広告の実施を申請することができる。
(2) 前号の申請は、刑事局刑事企画課長及び警察庁において当該事件の捜査を主管する課長(相当する者を含む。以下同じ。)を経由して行うものとする。
(3) 刑事局長は、第1号の申請を受けた場合に、広告の実施の必要があると認めるときは、捜査特別報奨金審査委員会に諮問した上で、広告の実施を決定するものとする。
(4) 前号の捜査特別報奨金審査委員会は、長官官房審議官(刑事局担当)をもって充てる委員長及び次に掲げる委員をもって組織する。
ア長官官房総務課長
イ長官官房会計課長
ウ生活安全局生活安全企画課長
エ刑事局刑事企画課長
オ刑事局組織犯罪対策部企画分析課長
カ交通局交通企画課長
キ警備局警備企画課長
ク警備局外事情報部外事課長
ケ当該事件の捜査を主管する課長
3 上限額
捜査特別報奨金の上限額は、対象事件ごとに刑事局長が定めることとし、原則として、1(1)の事件については1,000,000円、1(2)の事件については3,000,000円とする。ただし、特に必要がある場合には、10,000,000円を超えない範囲内で増額して定めることができる。
4 応募の期間
応募の期間については、原則として1年以内において、刑事局長が定めるものとし、特に必要がある場合を除き更新を行わない。
5 広告の方法
広告は、次に掲げる事項を官報に掲載することにより行う。
(1) 対象事件
(2) 捜査特別報奨金の支払の対象として指定する行為
(3) 上限額及び提供情報が複数ある場合の取扱いなど支払の要件
(4) 応募の期間
(5) 支払の除外事由
(6) 都道府県警察において情報の受付を行う部署
第4 支払
1 要件
捜査特別報奨金は、当該事件に関する情報の提供者に対し、被疑者の検挙又は事件の解決(以下「検挙」という。)への寄与の度合に応じて上限額の範囲内で支払うものとし、検挙へ寄与した情報の提供者が複数ある場合には、その度合に応じて、上限額の範囲内において分割して支払う。
2 手続
(1) 本部長は、広告の対象となった事件の検挙をした場合には、当該事件の捜査経過について、遅滞なく、刑事局長に報告しなければならない。この場合において、本部長は、捜査特別報奨金の支払の適否について検討した結果を併せて報告するものとし、捜査特別報奨金の支払を適当と認めるときは、捜査特別報奨金の支払を申請するものとする。
(2) 前号の報告及び申請は、刑事局刑事企画課長及び警察庁において当該事件の捜査を主管する課長を経由して行うものとする。
(3) 刑事局長は、捜査特別報奨金の支払の申請を受理したときは、捜査特別報奨金審査委員会に諮問した上で、捜査特別報奨金の支払の適否並びに支払う場合における対象者及び金額を決定するものとする。
(4) その他捜査特別報奨金の支払に関する事務手続については、長官官房会計課長及び刑事局刑事企画課長が協議して定める。
3 支払の除外事由
次に掲げる者に対しては、捜査特別報奨金の支払は行わない。
(1) 匿名であるなどのため特定できない者
(2) 警察職員及びその親族
(3) 共犯者、当該情報を入手する過程において犯罪行為その他公共の安全と秩序を害する行為を行ったと認められる者その他捜査特別報奨金を支払うことが不適当であると認められる者
第5 秘密の保持
広告に応じて情報提供を行った者に関する秘密は、厳守しなければならない。 |
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