グランプリ・ファイナル/2008年12月第2週
韓国/ソウルでの開催。シングルで出場権を勝ちとった選手は以下のとおり。
キム・ヨナ(韓国)
ジョアニー・ロシェット(カナダ)
浅田真央(日本)
カロリーナ・コストネル(イタリア)
中野友加里(日本)
安藤美姫(日本)
パトリック・チャン(カナダ)
小塚崇彦(日本)
ジョニー・ウィアー(アメリカ)
ブライアン・ジュベール(フランス)
ジェレミー・アボット(アメリカ)
トマシュ・ベルネル(チェコ)
注目は、浅田真央選手とキム・ヨナ選手でしょうか。グランプリシリーズの2戦を見ると、浅田真央選手はプログラムをまだ自分のものにはできていないように見えますが、3アクセル、3回転のコンビネーション・ジャンプ、3サルコウを成功させるなど、調子を急速にあげてきています。キム・ヨナ選手は絶好調でジョアニー・ロシェット選手とともに2戦とも優勝していますが、攻めまくっている浅田真央選手と比べると、プログラム内容からは、無理をしないスタミナに考慮した守りの姿勢も見られます。キム・ヨナ選手の課題は、やはり、どうしてもスタミナ、あるいは、シーズンをとおして滑りきる体力作りとコンディションの運営ではないかと思われます。キム・ヨナ選手は、シニアとしては、シーズンをとおして好調を維持した経験がないように記憶しています。今回の地元開催のグランプリ・ファイナルは勝ちにくるかもしれませんので、フリー・スケーティングで苦手な3ループへ跳むのかや、精神的なプレッシャーも含めて、コンディションの作り方とスタミナの配分がかぎになるような気がします。昨シーズンまでは、ショート・プログラムとフリー・スケーティングの途中までは誰も寄せ付けないほどの完璧な演技をしていたキム・ヨナ選手がフリー・スケーティングの中盤から終盤へかけて急に崩れる場面が多く見られました。世界選手権の時にはけがで満身創痍だったようにも記憶しています。シーズンを一つの試合に例えると、すでにグランプリシリーズで2勝をしているキム・ヨナ選手はショート・プログラムを完璧にきめてトップを走っている状態でしょうか。しかし、世界選手権で終わるフリー・スケーティングが、このグランプリ・ファイナルでようやく始まるような気がします。キム・ヨナ選手がスタミナをどこまで維持できるのか、勝ちを意識して臨む試合へどのような戦略で挑んでくるのかに注目をしています。浅田真央選手は、逆境にうろたえずに最後まであきらめない冷静な判断力と経験を持っていますので、調子が悪くても、そう、あせることはないような気がします。今回のグランプリ・ファイナルは、的確な例えではないかもしれませんが、先行逃げ切りのキム・ヨナ選手と勝負どころで追い上げを見せる浅田真央選手の直接対決の第一弾だと思われます。
また、経験と実力があるジョアニー・ロシェット選手、ブライアン・ジュベール選手、ジョニー・ウィアー選手が勝ちにいくのかにも注目しています。テレビが放映してくれるかどうかはわかりませんが、グランプリシリーズの試合で4回転も成功させている川口悠子選手&アレクサンドル・スミルノフ選手のペアにも期待しています。
浅田真央/日本/総合1位
ショート・プログラム:今日の表情は、見た目では、なんとなく不安そうで、茨の道を進む求道者のような雰囲気も漂っている。ただ、今シーズンはアイシャドウを使って、そういった雰囲気をあえて出すようなメイクをしているようにも取れる。素顔の「真央ちゃん」から日本人形のようなかわいらしさを取りさって、あえて、ときに疲労がにじみ出てしまうリスクを冒してまでもイメージチェンジをはかっているのだろうか。などと、好き勝手なことを書いたが、そもそもに、個人の印象に依存したひとりよがりなことである。また、どういったメイクをすればどういった自分になれるという次元の現象とともに、ときにそれ以上に、どういったメイクをすれば自分の意志にはかかわりなく外部からどういったふうに見られるという現象について、あるいは、それをコントロールしたり、利用したり、あえてはずしたりというようなテクニックに関しては、男があれこれと言ってもとうてい太刀打ちすることができない深い世界があるような気がする。なので、あまり気にはしないでおいてください。
スピードにのって滑りだした。3フリップ+3ループはきめた。しかし、ループは、いい悪いは別にして現在の基準では、やや回転不足のような気がした。3ルッツは完璧にきめた。着氷してから片足にのったままでそのままスパイラルのポーズへもっていった。イーグルから体を反転させる2アクセルも成功。「月の光」は、今までの浅田真央選手のイメージからすると味が薄いようにも感じられるし、キム・ヨナ選手のプログラムと比べると出来栄えで見劣りするような印象も受けてきたが、細かく見ることができるようになってくると、ほんとうに細部にまで気を配った高度なプログラムだと思われてきた。タチアナ・タラソワコーチの信念なのか。例えが悪いかもしれないが、キム・ヨナ選手はフランス料理のような見栄えがする表現というベクトルの上に乗っているような気がするが、浅田真央選手は日本料理のような見栄えがする表現というベクトルの上に乗っているようにも思われる。キム・ヨナ選手は大味で、浅田真央選手は繊細。もちろん、どちらがえらいとか、正しいとかいう問題ではない。どちらも、どちらなりに味わいが深い。スコアは見ていないので、ルッツのエッジがどのように判定されているのかはわからない。テレビの中で、3ループがダウングレードされていたことは紹介された。ダウングレードされない3回転+3回転を安定的に跳べるようになるという課題には取り組んでいると思うが、まだ、実を結んでいない。しかし、浅田真央選手のチームは、コーチが変わっても伝統的に、常に攻める気持ち、難しいことへ自分から挑戦する意志を前面にだしたベクトルの上で運営されているような気がする。フリー・スケーティングでも、引きつづき、3アクセル2回や、3サルコウへ挑んでくるような気はする。この辺りの心理構造やカラクリは、正直に言うと、もう、一般人には理解できないと思う。
フリー・スケーティング:「仮面舞踏会」。落ち着いた顔をしていた。最初の3アクセル+2トゥループをきめる。トゥループには手のふりつけがついていた。次に単独の3アクセルをきめる。伊藤みどりさんが思わず、跳んで、よっしゃー、すごい、とコメントしていた。いつもとは声のトーンが違う。今回の2回の3アクセルは、回転数が完璧に見えた。高くて、空中で回り終えた感じ。伊藤みどりさんが、前回に回転不足と判定されてからしっかりと修正してくるところがすごい、という内容のコメントをしていた。3フリップ+2ループ+2ループをきめた。最後のループには手のふりつけも。スパイラルの時に表情が見えたが、落ち着いている。冷静だなと思った。
3サルコウをきめて、3フリップでは転倒してしまったが、3トゥループ、2アクセルをきめた。浅田真央選手が最後から2番目のジャンプに単独3トゥループを入れているのは、将来的に、4トゥループを組み込んでくることへの布石なのだろうか。構成的には3ループでもいいような気がするが、最後に3トゥループ、2アクセルという崩れるリスクが低いジャンプをもってきてプログラム自体をまとめるという戦略かもしれない。ジャンプで一つ転倒してしまったがあとの要素をやりきった。コンビネーション・ジャンプが2回になってしまったが、ショート・プログラムでルッツ、フリー・スケーティングでは3アクセル2回と3サルコウという課題にしている要素へすべて挑んでそれを成功させた。スコアを見ていないので、エッジや回転不足はわからないが、逃げずに、戦いきったと思う。やはり、浅田真央選手はすごい。テレビが「進化する1●歳」とか、「進化する世界女王」とかなんとかさかんにあおっているが、あながち言いすぎではないところがすごい。最後にポーズをきめたあとには、かがむように小さくガッツポーズを作った。あとは、けっこう、冷静さを維持していてポーカーフェイスというか、感情は出さずに顧客向けの笑顔を作っていた。会場はみんなキム・ヨナ選手の味方と言えなくもない。いわゆるアウェー状態。それなりに気を使ったのかもしれない。今回、驚いたのは、キス&クライでタチアナ・タラソワコーチが興奮していたことだ。タチアナ・タラソワコーチが投げキッスをカメラへ送っていた。別に、やってはいけないとか、やってほしくないとか言っているのではなくて、NHK杯の時もそうだったが、今回もタチアナ・タラソワコーチが相当に興奮していることが伝わってきた。なんだか、だんだんと浅田真央選手と一体化していく感じ。コーチという立場からすれば、これだけ課題をすぐに克服していく選手は、やりがいがあるのだろうか。タチアナ・タラソワコーチも、浅田真央選手が明らかにほかの選手とは違うことを体で感じてきたのかもしれない。ほかに指導している選手はたくさんいるのだろうが、浅田真央選手が出場する時にはつきっきりという印象も受ける。ゲスト席と浅田真央選手のマイクがつながった時には、荒川静香さんが、タラソワコーチと通じ合ってきたように見えますよ、という質問を投げかけて、浅田真央選手は、うれしそうに肯定の意味の返答をしていた。浅田真央選手とタチアナ・タラソワコーチはいい関係を築きつつあるような気がする。ともに、一般人ではなくて、いわゆる、天才、芸術家と呼ばれる部類の人間だと思うので、2人の力が一つのベクトルの上にミックスされたら、すごいことになりそうな予感がする。
3アクセルは、今回は、2回とも、認定されたようだ。史上初。また新しい歴史が作られた。ただ、浅田真央選手を見ていると、もう、驚かない。勝手な想像だが、浅田真央選手もタチアナ・タラソワコーチも3アクセル2回ではもはや満足できない人間になってしまっているような気がする。新たな歴史、おそらくは4回転だとは思うが、それへどの段階で挑むのか、注目したい。
最後に採点について。スケートカナダのジョアニー・ロシェット選手のフリー・スケーティングの得点が124.15で、総合得点が188.89。どちらも今回の浅田真央選手よりも高い。技の基礎点は浅田真央選手のほうが圧倒的に高いとは思われる。ジョアニー・ロシェット選手にけちをつけるつもりはないが、試合ごとに、むらがありすぎる採点はどうかと思う。
ショート・プログラム/技術点:35.7、演技構成点:29.68、合計:65.38(2)
フリー・スケーティング/技術点:64.57、演技構成点:59.6、減点:-1、合計:123.17(1)
総合得点/188.55
キム・ヨナ/韓国/総合2位
ショート・プログラム:すごい拍手だった。観客席のほとんどでキム・ヨナ選手の旗が提示されている。いい悪いは別にして、韓国パワーは、やはり、すごい。スペシャルコメンテイターの荒川静香さんは、ただ、キム・ヨナ選手は、地元で開催される国際大会に出場するのがはじめてですから、それがパワーとなるか、逆になってしまうか、という内容のコメントをしていた。韓国で開催された四大陸選手権に出場できなかったのが惜しまれるのかもしれない。四大陸選手権のほうがグランプリファイナルよりも、ISUでの格という意味では上だが、日韓のメディアでは盛んに、キム・ヨナ選手VS浅田真央選手という宣伝がされているらしいので、グランプリファイナルへの注目度のほうが高いのかもしれない。
今日も冒頭からスピードにのっていた。3フリップ+3トゥループは完璧にきめた。たぶん、ダウングレードはないと思う。しかし、そのあとのフリップがぬけてシングルジャンプになってしまった。今シーズンに新たに設定されたと思われる”3回転を跳ばなければ『ならない』”という規定に反してしまったわけだが、点数へどういうふうに反映するのかは、これまでの大会のあとに公開されてきたスコアを見るかぎりではまったくにわからない。スパイラルでは、表情に不安がよぎってしまっていて、表現ができていなかった。相当の重圧を感じているような気がする。2アクセルはきれいにきめた。
ルッツでミスをした以外では、要素としては、そこそこの出来栄えであった。しかし、キム・ヨナ選手の一番の魅力である表現という意味では、まったくに冴えなかった。最後のポーズをきめた時も、死を呼ぶ怪鳥のような表情を作ろうという意志は見えたが、胸で大きく息をしていて、肩もゆれていて、姿勢を維持するのすらつらそうだった。最後の顔は、演技半分と、残りの半分は、体力的にきつくて自然とくるしげな顔が出ていたようにも見えた。緊張したり、重圧を背に受けたりすると、いつもはなんでもないところで急に大粒の汗が出てきてしまったり、体力や筋力のバランスが崩れて思いきった演技ができなかったり、自分でもわけがわからないうちに自分を包む空気が重く感じられてしまったりするのかもしれない。プログラムは体力の消耗度合いを計算に入れて、思いきって跳ぶところ、呼吸を整えるところ、足の筋肉を休めるところ、血液の循環を促進させるところ、体力的に一番にきついところなど、あらかじめに自分で理解していてすべてを計算しながら滑っている、あるいは、コーチが選手の代わりにそれを行っておいて選手はコーチを信頼して自分のやるべきことに徹するかのどちらかだと思われるが、今日のキム・ヨナ選手は、そういった事前の計算が全部、狂ってしまっていたようにも見えた。
ショート・プログラムでこれだけ消耗してしまうキム・ヨナ選手を見たのは、シニアデビューのプログラムなどの特別の理由がある試合を抜かすと、初めてかもしれない。フリー・スケーティングは、これは、もう、気力の勝負になるような気がする。キム・ヨナ選手のチームは、キム・ヨナ選手の意志が尊重されているのか、コーチが指令を出して選手はそれに従うのか、もしくは、協会や、資本家や、大衆の(外部的な)意志を基準にせざるをえないのかはわからないが、これまでのところは、たぶん、横についている欧米人のコーチの功績だとは思うが、合理的なシーズン戦略で冷静に戦えているように見える。しかし、今回のショート・プログラムでのこの消耗はキム・ヨナ選手にとっては想定外、というか、はじめての経験かもしれない。キム・ヨナ選手の状態を見た欧米人のコーチがフリー・スケーティングにおいてどのような戦術をたててくるのかにも注目している。
個人的には、フリー・スケーティングでは、スタミナの消耗を最小限度に控えた守りのプログラムへ徹したほうが、責任を果たせるような気がする。3ループは回避して、要所に2アクセルを組みこんだプログラムだと、キム・ヨナ選手は、ミスを犯すリスクや、スタミナを激しく消耗する要素や、重圧を激しく感じてしまう要素を、あらかじめに、プログラムから排除して滑ることができる。ループを跳ばなくてもキム・ヨナ選手のプログラムの価値は変わらない。浅田真央選手や中野友加里選手が3アクセルを、安藤美姫選手が4サルコウを回避するのとはわけが違う。
また、試合という意味でも、浅田真央選手は攻めてくるとは思われるが、ここで守りに徹してもキム・ヨナ選手の実力ならば勝負はできると思う。中野友加里選手が大技に挑んでくる可能性はあるが、3アクセルをきめてそのうえですべての3回転でダウングレードを回避できる確率は、残念ながら、相当に低いだろうと思う。ほかの3人は、調子を落としているように見られる。勝ち負けがすべてではないのだが、キム・ヨナ選手は責任を持って試合へ臨まなければならないし、何よりも、キム・ヨナ選手自身が地元の期待に答えたいと思っているだろうから(あえて背を向ける理由もないだろうし)、ある程度は勝負へこだわってくると思う。キム・ヨナ選手自身が、勝ち負けという現象についてどのように考えているのかはわからないが、試練のフリー・スケーティングへ、合理的で冷静な戦略で臨んでほしいと思う。これまでのキム・ヨナ選手の戦い方を見る限りでは、たぶん、横についている欧米人のコーチは、外部(の雑音)からキム・ヨナ選手を守り、的確な判断をして、冷静な指示を出す能力と経験を充分に持っているように思われるので、キム・ヨナ選手を合理的にサポートしてあげてほしいと思った。
フリー・スケーティング:今回の韓国の会場はすごい熱気。会場だけではなくて、マスコミも、町も、なにもかもが、キム・ヨナ選手一色に染まっているという印象を受けた。キム・ヨナ選手がそれをパワーに変えることができるのかどうかがポイントだと思う。昨日のショート・プログラムでは、相当に消耗していたので、この会場の熱気とグランプリファイナル連覇への期待は、重圧となってキム・ヨナ選手にのしかかっているような気がした。そんな状態で、今回は、スタミナ的にも、精神的にも、どこまで崩れずに持ちこたえることができるのか。技術的に言うと、現在崩れているジャンプは、ループとルッツだと思う。ループは昨シーズンから失敗をすることが多くてもともとに、単独ジャンプとして跳ぶループは苦手なのかもしれない。ルッツもショート・プログラムでも失敗をしており、去年の世界選手権では、ショート・プログラムで転倒、フリー・スケーティングではふかしてシングルにしてしまっていた。その時のショート・プログラムのあとのインタビューでは、3ルッツで痛みを感じた、という内容のコメントをキム・ヨナ選手自身がしていたので、けがの影響でどこかをかばっていたり、ルッツを跳ぶ場合には足首や、ひざや、股関節や、その他の体の部位などの使い方に制約が発生するのかもしれないと思う。印象としては、単独3ルッツはここ数年、ずっと崩れているイメージがある。しかし、コンビネーション・ジャンプの初回に跳ぶ3ルッツでは単独ほどには崩れていないようにも思える。プログラムが始まってすぐにコンビネーション・ジャンプを跳ぶことが多いような気がするので、そこのルッツへは最大の集中力を傾けているのか。崩れている直接の原因がどこにあるのかはわからないが、3ルッツもキム・ヨナ選手にとっては失敗をするリスクが高くて、たとえ成功しても、体力の消耗や精神力の減退へとつながる負担の大きいジャンプだと思われる。
キム・ヨナ選手は早い時間にコンビネーション・ジャンプを終えてしまって、プログラムの後半から終盤のジャンプはすべて単独にしてスタミナへの負担を最大限に軽減するプログラム構成。そこに3ルッツがあるわけだが、そこでの3ルッツも回避するという戦術も、個人的には、ありかもしれないと思っている。この緊張感と重圧の中では、課題というか、不安を残したジャンプをプログラムへ組みこんでも、ミスにつながってしまう確率は高いと思う。キム・ヨナ選手の表現力と個々の技への加点のレベルであれば、3ループに加えて3ルッツを回避しても、ミスさえしなければ、浅田真央選手と勝負ができると思う。ただ、キム・ヨナ選手のプログラムの特徴はGOEの高さにあることはまちがいなくて、基礎点を稼ぐという意味合いよりも多くのウェイトが、美しいルッツを跳ぶという点にかかっているとも言えるのかもしれない。キム・ヨナ選手とコーチがどう判断をするのかに注目をしている。浅田真央選手の演技のあとに異様な興奮に包まれていたリンクへ立った。
今回は、けっきょく、ジャンプは以下のようになった。
○:3フリップ+3トゥループ
○:2アクセル(3ループを回避)
○:3ルッツ+2トゥループ
○:2アクセル+3トゥループ
×:1ルッツ(ぬけてしまった)
×:3サルコウ(転倒)
○:2アクセル
ちなみに、浅田真央選手のジャンプの構成は以下のとおり。
○:3アクセル+2トゥループ
○:3アクセル
○:3フリップ+2ループ+2ループ
○:3サルコウ
×:3フリップ(転倒)
○:3トゥループ
○:2アクセル
調子のあがらないルッツをシングルにしてしまって、次のジャンプで転倒をするという2つのミスを犯してしまったキム・ヨナ選手は、転倒一回にミスを抑えた浅田真央選手には届かなかった。今回は転倒した浅田真央選手の3フリップは、NHK杯でも崩れていてコンビネーション・ジャンプへいけなかったので、同じミスが2大会連続でつづいてしまった。それはおいておいて、結果論になってしまうが、キム・ヨナ選手が、3ルッツを3トゥループ、あるいは、2アクセルへ変更して成功させていたら、数字の上では、キム・ヨナ選手が勝っていた。統計をとったわけではないので印象ベースになってしまうが、ジャンプでのミスというものはつづけて起こるような気がする。言葉を替えれば、失敗したジャンプのあとに跳ぶジャンプでは失敗する確率が高いということだ。不安要素があるルッツで失敗したために、ほんらいは跳べる3サルコウで転倒してしまったという見方が可能になる。素人の勝手な言い分だが、今のキム・ヨナ選手の状態や会場の興奮、国内の異様な期待度合いやそれを一身に背負わなければならない小さなキム・ヨナ選手の体を考えると、ループに加えて、ルッツも回避させてあげたかったが、こればかりは、ここでどうこう言ってもどうにもならない。
ポーズを解いたあとには、リンクの中央で下を向きながら、しばらくは動けない状態であった。あまりにも気落ちしているので、見ているほうが痛々しくなってしまった。しかし、昨シーズンのキム・ヨナ選手は、シーズンが佳境に入ったこの段階ではもっと(スタミナ的に)崩れていた。それを考えると、キム・ヨナ選手もしっかりと進化していると思う。今回の経験をプラスへ変えて、四大陸選手権、世界選手権で、シーズンをとおして活躍できるキム・ヨナ選手を見たいと思った。勝手な考えだが、キム・ヨナ選手は世界女王になるべき選手、ならなければならない選手だと思う。浅田真央選手と白黒をつけたいのであれば、それは、オリンピックでつければいいわけで、来年の世界選手権では、個人的には勝ってほしいと思っている。
ショート・プログラム/技術点:35.5、演技構成点:30.44、合計:65.94(1)
フリー・スケーティング/技術点:60.69、演技構成点:60.72、減点:-1、合計:120.41(2)
総合得点/186.35
カロリーナ・コストネル/イタリア/総合3位
ショート・プログラム:赤い今シーズンのドレスだった。曲は「ムヘール・ソラほか」。ムヘール・ソラとはイタリア語で孤独な女というような意味らしい。
3フリップで転倒してコンビネーション・ジャンプへいけなかった。3ルッツをきめて2アクセルもきめた。曲は、カロリーナ・コストネル選手に似合っているという表現もおかしいかもしれないが、独特のリズムがあってけれんみの帯びたものだった。最後のポーズを粋にきめた。カロリーナ・コストネル選手は踊り心のある選手だと思う。ただ、このところ、勢いにのった演技を見ていない。なかなかに難しいことだとは思うが、試合で爆発するカロリーナ・コストネル選手を一度でいいから見てみたいと思う。
フリー・スケーティング:前の試合からプログラムを昨シーズンの「ドゥムキー」に戻している。ジャンプは以下のとおりだった。
○:3フリップ+2トゥループ
○:3ルッツ+2トゥループ+2ループ
○:3フリップ
×:3ループ(転倒)
○:2アクセル+3トゥループ
△:3サルコウ(手をついた)
○:2アクセル
ジャンプはそれなりに乗り越えて、プログラムをまとめた。ダウングレードがなければ、ねばりが功を奏して得点を伸ばせると思った。崩れそうになりながらも、ぶんばって、ぶみとどまるのがカロリーナ・コストネル選手の特徴なので、その特徴がよくでた演技だったと思う。転倒のあとに立て直して、2アクセル+3トゥループを成功させたのが大きかったと思う。
ショート・プログラム/技術点:28.8、演技構成点:28.08、減点:-1、合計:55.88(4)
フリー・スケーティング/技術点:55.45、演技構成点:57.68、減点:-1、合計:112.13(4)
総合得点/168.01
ジョアニー・ロシェット/カナダ/総合4位
ショート・プログラム:いつものようにコーチと手をたたきあってリンク中央へ向かった。サラ・マイアー選手のチームもそうだが、ジョアニー・ロシェット選手のチームは、コーチと選手が、先生と生徒という関係よりも、対等の戦友というような感じに見られる。日本だとあまり見られないチームのような気がする。今日はジャンプが崩れてしまった。2アクセル、2フリップ+2トゥループ、1ルッツという構成。ポーズを解いたあとには、手をほほにそっと添えた。自分で自分のほほをはったようにも見えた。ショート・プログラムで崩れてフリー・スケーティングでものすごい力を発揮して追い上げるというパターンは、あまりいいものではないことは確かだが、過去に何回か見られた。ただ、今シーズンの安定感からすると、ショート・プログラムでここまで崩れたのには、なにか原因があるような気がした。
フリー・スケーティング:気持ちをどこまで切りかえることができているかが勝負だと思った。「アランフェス協奏曲」がはじまってから、ポーズを維持したままで、ふっと、一つ息をはいた。ジャンプは以下のとおりとなった。
△:3ルッツ(成功するもオーバーターンをして、+2+2へいけなかった)
○:3フリップ
○:3ループ
△:2ルッツ(2回転になった)
○:3トゥループ〜3サルコウ
○:2アクセル〜2アクセル
○:3サルコウ
なにげに、終盤の2つのシークエンスの大技をここまでクリーンにきめたのは、(日本の地上派のテレビ局が中継をする大会では)初めてかもしれないと思った。アジアの選手たちと互角に戦うために、2年ごしで取りくんできた大技だと思われるが、ようやくに完成させることができたという印象を持った。ルッツとフリップでのエッジを正しく使えて、特に目だった苦手なジャンプもなくて、ダウングレードされない5種類の3回転ジャンプを正確に跳べる選手だと思うので、プログラム構成を練ることに集中できるのかもしれない。3回転+3回転を入れるのかという問題はあるが、それも含めて、四大陸選手権、世界選手権、そして、来シーズンの地元カナダで開催されるバンクーバーオリンピックへ向けて、ジョアニー・ロシェット選手がどうプログラムを仕上げていくのかに注目をしていきたい。
ショート・プログラム/技術点:23.0、演技構成点:27.48、合計:50.48(6)
フリー・スケーティング/技術点:57.48、演技構成点:58.40、合計:115.88(3)
総合得点/166.36
中野友加里/日本/総合5位
ショート・プログラム:依然として不安そうな顔をしていた。笑顔がひきつっている。現在の状態の悪さを思いつめてしまっているような気がする。お国柄という意味では、日本とロシアの選手は、いつも思いつめてしまっていて、人生の四六時中にてんぱっているような顔をして試合にのぞむタイプが多いような気がする。ロシアは旧ソ連時代からの伝統かもしれないし、それだけ、選手が肩に背負わされているものが大きいのかもしれない。国の威信とか名誉とかいうものは、あまり関係ないとは思うが、そうは思わない人たちも多いのだろう。
今日はすべての要素をきめたと思う。3フリップ+2トゥループ、3ルッツ、2アクセルでは、コンビネーション・ジャンプは最初から3+2に抑えたクリーンなジャンプだった。ルッツではくずれそうにもなっていたがなんとかまとめることができた。スピンも、ステップも、スパイラルも、表現は捨てていて、技をしっかりとこなすレベルではあったが、現在の中野友加里選手の状態で、できることに徹したという印象を受けた。インタビューではいい顔をしていて、しっかりと返答をしていた。戦う顔だと思った。まずは、3+3を回避したショート・プログラムをノーミスで終えて、フリー・スケーティングで勝負をかけるのかもしれない。勝負というのは、もちろん、中野友加里選手にとっては3アクセルとなるのだが、全日本選手権の前に一度、本番の試合で挑んでおきたいところなのかもしれない。
フリー・スケーティング:リンクへあがった中野友加里選手はいい顔をしていた。迷いがない。戦う人間の顔。3アクセルをやるのだろうと思った。
3アクセルはオーバーターンをしてしまったが成功させた。ルッツがシングルになってしまって、ステップの時につまずいたが、そのほかの要素はすべてきめたと思う。3回転+3回転は最初から予定していなかったようだ。スパイラルの時にも、険がとれていて、ひきつったような表情もなかった。気持ちを切りかえて演技に集中できていたと思う。しかし、ポーズを解いたあとには、下を向いて、ゲートへ戻っている時も首をふっていた。こまかなミスが多くて、イメージしていたとおりの演技ができていなかったのかもしれない。伊藤みどりさんがアナウンサーの回転不足に対する話に答えて、滑っている本人は回転が足りているのか足りていないのか、体で感じていますから、絶対、わかっていると思います、という内容のコメントをしていた。伊藤みどりさんにそう言われてしまうと誰も反論できなくなってしまうのは事実だが、足りているのか足りていないのかというその基準そのものがよくわからないという状況だと判断の仕様もないのも事実でもあるような気がする。ただ、選手というものは、感覚的に、今のジャンプはダウングレードだとわかるものだということは初めて知った。スローヴィデオでよく見かけるが、着氷をしてから、エッジがもう半回転ないし4分の1回転、氷の上で回って、ポーズへ入るジャンプがある。こういったのは回転不足になるのか。スコアをちらっと見たら、3アクセルは回転不足で、そのほかにもダウングレードされていた。3アクセルは3アクセルとして挑んで、それとはほかに、ダウングレードされない3回転ジャンプを跳べるようになることが火急の課題だと思う。3+3はそれからにしたほうがいいような気がする。全日本までに時間がないので、追いこみをがんばってほしい。
ショート・プログラム/技術点:34.2、演技構成点:27.88、合計:62.08(3)
フリー・スケーティング/技術点:44.17、演技構成点:55.68、合計:99.85(6)
総合得点/161.93
安藤美姫/日本/総合6位
ショート・プログラム:6分間練習では抑えていて、リンク際でほかの選手の様子を見ている時間が長かったように感じられた。一番滑走なので、体力の消耗を抑えるとともに、集中力を高めるために時間を使っていたのか。荒川静香さんは、どこかの試合の時に、一番滑走のときは5分間だけ練習して最後の1分は休むと言っていたような気がする。一番滑走にもかかわらず、6分間練習で(不安要素があるために)何度もジャンプを跳んだりするような状態よりは、今の安藤美姫選手の状態は、精神的なものも含めて、良好なのかもしれないと思った。
しっとりとしたいい顔をしていた。思いつめた様子もなく、りきんでいる雰囲気もない。無心というか、初心にかえっているような気がした。3ルッツ+3ループは、最初の3ルッツで転倒してしまった。すっと入って、力なくそのまま転倒してしまったというふうに見えた。気負いもないが、意志も感じられない転倒だった。迷いというものとは違うと思うが、どこか心がここにあらずというふうにも見えた。トップアスリートでも、ふと気がぬけたり、気持ちがどこかへいってしまったり、魔がさしてしまったりすることがあるのだろうか。しかし、起きあがった安藤美姫選手を見て、迷いも動揺もないと思った。安藤美姫選手が転倒をしてしまうと、見ているほうとしては、やはり心臓が止まってしまうのだが、今回は、観客の心臓もへいきだったようで、会場は、特になにごともなかったかのように見守っている。不思議な雰囲気だった。3フリップと2アクセルは成功させる。ステップは、おおぎょうなアクションこそしていないが、誰かがきっとわかってくれると信じて、情熱を能面の内側に秘めて、淡々と舞っていたように感じられた。安藤美姫選手の中で、心の持ち方が変わったのだろうか。
インタビューにはさばさばと答えていて、ジャンプで失敗はありましたけど、いつも失敗したら、ああってなっちゃうんですけど、ジャンプ失敗してここからがんばろうと思いました、という内容のコメントをしていた。お約束の4回転の質問には、トップ6で何もなくすものがないので、トライさせてもらえたらいいなと思います、という内容の返答をしていた。4回転については、いい悪いとは別の次元の現象として、やる意志はあるがやらないという試合がつづいているし、安藤美姫選手の意志よりも上位の現象としてニコライ・モロゾフコーチの判断が存在することは充分に周知されているので、今回のトライさせてもらえたらというコメントは、いわゆるお約束だろうと思った。実際は、今の状態では、4回転をやるよりも、ダウングレードされないジャンプと、確実なコンビネーション・ジャンプを取りもどすほうが先決だと思う。、中野友加里選手の3アクセルと同じように、全日本選手権へ向けて、ここでたとえ転倒してもいいから4サルコウへ挑んでおきたいところであることも事実ではあるかもしれないが、今の状態を考えると、基礎技術を取りもどすことに徹したほうがいいような気がする。
フリー・スケーティング:いい顔をしている。ブルーのドレス。世界選手権に勝った時の「ヴァイオリン協奏曲」は赤いドレスだったが、それの青ヴァージョンのような雰囲気。アナウンサーの話を聞いているうちに、「ジゼル」から新しいプログラムへ変更していたことがわかった。曲は、サンサーンス「交響曲第3番、オルガン」。小刻みなリズムで荘厳な雰囲気が漂う。曲のイメージも、「ヴァイオリン協奏曲」と似ていた。「カルメン」のような明確な意図があるわけではないが、「ジゼル」にはあまりなじめていないような印象もあったので、「交響曲第3番、オルガン」のほうが安藤美姫選手の力を引き出せるような気がしないでもなかった。
最初に3サルコウをきめた。コンビネーション・ジャンプから入るのかと思っていたら、単独サルコウだった。関係者に配られる(のだと思う)演技構成予定表にも「3S」と記されていたそうだ。しかし、演技を終えた安藤美姫選手は、手をたたいて、ガッツポーズをして、両手で顔を押さえていた。それを見た伊藤みどりさんが、もしかして、簡単に3サルコウで言っちゃいましたけど、もしかして、4回転だったのでしょうか、という内容のコメントをしていた。ジャッジの判定は、4回転サルコウの回転不足だった。伊藤みどりさんがびっくりしていたくらいなので、大げさな言い方かもしれないが、4回転へ挑戦することは、安藤美姫選手とニコライ・モロゾフコーチしか知らなかったのかもしれないと思った。その瞬間のニコライ・モロゾフコーチの顔をテレビが映してくれはしないかとせつに願っていたが、けっきょく、映らなかった。非常に残念。まあ、そのことはいいとして、マスコミや関係者もみんな、いつの間にか、安藤美姫選手の4回転へは注意を向けなくなり、それ以上に今回の大会では、浅田真央選手の3アクセル2回と、浅田真央選手とキム・ヨナ選手の対決に注目が集まっている。そんな中で、安藤美姫選手は、虎視眈々と情熱を燃やしていたのかもしれない。ニコライ・モロゾフコーチは、狼少年ではないが、やらせる、やらせると言っておいてやらせない状況を何回かつづけてマスコミの注意をそいでおいたうえで、安藤美姫選手に4回転をやらせた結果となったわけだが、ニコライ・モロゾフコーチとしては、最初からやると言っているじゃないか、と言えばそれで済む。このあたりの機微は、計算してやっているのであれば、策士という言い方はおかしいかもしれないが、見事だと思った。そんな深読みをしなくても、ニコライ・モロゾフコーチはしっかりと安藤美姫選手の楯となって安藤美姫選手を守っていることがファンには伝わってくるので、多くのファンは、ニコライ・モロゾフコーチと安藤美姫選手の2人3脚がうまく回ってほしいと思っていると思う。
今回のジャンプの構成は以下のとおりとなった。
○:4サルコウ<(回転不足)
△:3フリップ(バランスを崩したが持ちこたえた)
○:2アクセル+3トゥループ
○:3ルッツ+2ループ+2ループ
○:3ルッツ
○:3ループ
○:2アクセル
ただ、スコアを見たら、4サルコウをはじめとして相当の数のジャンプでダウングレードをされていた。男子と同じで、4回転を入れるのと入れないのでは、プログラム自体が別物になるのだろうか。プログラムとしては、静寂の表現もあり、曲が静かに沸きたつ中でスパイラルへ入る解釈などは、とてもいいと思ったし、ステップでは顔が「カルメン」になっていた。3回転+3回転のコンビネーション・ジャンプはずっと崩れたままだが、代わりに、2アクセル+3トゥループを成功させたのは大きいと思う。また、今までの安藤美姫選手の構成だと、コンビネーション・ジャンプを跳んだあとに4サルコウを入れていたのだが、今回は、最初に4サルコウを入れてきた。コンビネーション・ジャンプが崩れているのも事実だが、なによりも、4サルコウへ集中するという意味では合理的な戦略だと思う。だめでもともとで跳ぶようなところもあるので、最初に入れて、失敗したら失敗したで、そのあとから気持ちを切りかえることができるような気がした。
今回は、結果として、意表をついた形で4回転を跳ばれてしまったが、全日本選手権が俄然として楽しみになってきた。グランプリシリーズの2つの試合では、ニコライ・モロゾフコーチの指示で守りに徹したわけだが、世界選手権とオリンピックへ向けて、そろそろ、エンジンがかかってくるのかもしれない。世界選手権で勝った時に見てしまったもの、それをもう一度、追い求めてほしいと思った。
ショート・プログラム/技術点:28.6、演技構成点:27.84、減点:-1、合計:55.44(5)
フリー・スケーティング/技術点:47.45、演技構成点:55.36、合計:102.81(5)
総合得点/158.25
ジェレミー・アボット/アメリカ/総合1位
大舞台でタイトルをかけて滑るのは初めてなのだろうか。経験はそれなりにある選手だと思うが、今回は、欲や野心というものと同居しての試合になると思う。結果はすばらしかった。ショート・プログラムはノーミス、フリー・スケーティングでは、3アクセル+2トゥループ、2アクセル+2トゥループと2回目のトゥループが2回転になってしまった場面はあったが、代わりに、3ルッツ+3トゥループ+2トゥループをきめてきた。ショート・プログラム、フリー・スケーティングをつうじて、ほぼノーミスで滑りきった。表情はとても落ち着いていて、ときおりに自信を持った笑みも浮かべている。今年のプログラムはどちらもジェレミー・アボット選手にあっているし、曲にのって迷うことなく滑ることができていた。4回転の大技は封印しているが、それがジェレミー・アボット選手に余裕を与えたのか。できることを予定通りにきっちりとやりきったという印象を受けた。ただ、今後、4回転を入れてプログラムをさらに高度なものにした時にどうなるのかは未知数。そういった意味では、常に上を見ている小塚崇彦選手と比べるわけにはいかないと思う。昨シーズンは4回転に挑戦していたようだが、今後の戦略に注目したい。
ショート・プログラム/技術点:42.46、演技構成点:35.8、合計:78.26(2)
フリー・スケーティング/技術点:82.56、演技構成点:76.9、合計:159.46(1)
総合得点/237.72
小塚崇彦/日本/総合2位
ショート・プログラムはノーミスでほぼイメージどおりに演技ができたと思う。ポーズのあとには唇をかんでうなずいていた。キス&クライではやや興奮気味。しかし、インタビューでは、調子にのらずに、という内容のコメントをしていた。佐藤信夫コーチから、さかんに調子にのらないことと、精神面のコントロールを叩きこまれているのかもしれないと思った。
フリー・スケーティングでは、プレッシャーが相当にあったとは思うが、いい顔をしていた。4トゥループは両足着氷のようにも見えてバランスを崩していたが、転倒はしなかった。スコアではダウングレードされていたが、グランプリシリーズの試合で2回、転倒をしたあとに初めて着地までもってくることができた。目先の試合を勝ちにいくのであれば4トゥループを回避するという戦術もありだとは思うが、そういったことはまったくに考えていないようだ。小塚崇彦選手のチームは常に上を見ている、そう強く思った。今回は、4トゥループのダウングレードは想定内ではあったが、3ループと、勝負どころの終盤の3アクセルで転倒してしまった。ジャンプの構成は以下のとおり。
○:4トゥループ(ダウングレード)
○:3アクセル+3トゥループ
○:3フリップ
○:3サルコウ+2トゥループ
○:3ルッツ+2トゥループ+2ループ
×:3ループ(転倒)
×:3アクセル(転倒)
○:3ルッツ
今回の試合を見ていて強く思ったが、やはり、よく言われるように、ミスをしたあとのジャンプではミスをする確率が高いのだなと思った。荒川静香さんがよく口にするが、ミスをしたあとにひきずらないで気持ちを切りかえることが大切ということか。そう考えると、ミスをしてもすぐに立ち直る浅田真央選手は、やはり、すごいのだなと思う。ポーズを解いたあとには苦笑いをしていたが、佐野稔さんは4回転について、今日のトライは大きく小塚君を成長させると思います、という内容のコメントをしていた。
エキシビジョン:「ラストダンスは私に」。ジーパンをはいて普段着のような格好で登場。ドリーム・オン・アイスの時にも見たが、その時は、まだ、というかぜんぜん様になっていなかった。しかし、今日の小塚崇彦選手は堂々としていて、にくいほどにきまっていた。荒川静香さんも、このナンバーはシーズン前には恥ずかしそうにやってたんですけど、今は堂々とやっています、という内容のコメントをしていた。自信というものは人間を変えるのだなと思った。グランプリシリーズとファイナルでの活躍は、ある意味では想定外の結果だったが、これからは、違った目で見られてくると思うし、世界に対しても、相当に名前を売ったはずだ。プレッシャーや、期待や、責任感との戦いが始まるのかもしれないが、さらに大きくなってほしいと思う。
ショート・プログラム/技術点:47.0、演技構成点:36.9、合計:83.9(1)
フリー・スケーティング/技術点:69.43、演技構成点:73.3、減点:-2、合計:140.73(3)
総合得点/224.63
ジョニー・ウィアー/アメリカ/総合3位
フリー・スケーティング:ショート・プログラムは放映がなかった。3アクセルで失敗したらしい。
初戦のスケート・アメリカでは4トゥループを成功させたが(判定はダウングレード)、NHK杯では4回転は回避していた。そのときどきの体調や試合の流れを見て、4回転を入れるのかどうかを判断しているという印象がある。今回は、試合の順位でポイントがついたりすることはないし、ある意味では失うものはないので、必要と思えば、大技へ挑むこともできると思う。しかし、この試合に確実に勝ちにいくのであれば、回避もありえると思う。そろそろ、全米選手権(=世界選手権の切符)へと照準をしぼり始めるころだと思うので、最終的に、ジョニー・ウィアー選手がスケートへ何を求めるのか、自分が今のフィギュアスケート競技の枠組みの中でどうあるべきなのかを見定めていく段階にあると思う。曲は「ノートルダム・ド・パリ」。
最初にアクセルの助走へ入った。4回転は回避したらしい。今回のジャンプ構成は以下のとおり。
○:3アクセル+2トゥループ
○:3アクセル
○:2アクセル
○:3サルコウ
△:2ループ(予定は3回転)
△:3ルッツ(着氷でバランスを崩した)
○:3ルッツ+2トゥループ+2トゥループ
○:3フリップ
前半のアクセルはどれも、迷いがなくて思いっきり跳んで成功させていた。ループが2回転になってしまい、3ルッツでバランスを崩して、今回もコンビネーション・ジャンプを2回しか跳ばなかったがそれ以外は思うようなジャンプが跳べていたと思う。あと、ジョニー・ウィアー選手に限ったことではないが、ジャンプでの失敗というものは、やはり、連続して起こる確率が高いのだなと思った。しかし、それでも、ミスを最小限度に抑えて乗りきって、立て直すのは、さすがジョニー・ウィアー選手だと思った。
スピンも、ステップも、そのほかの表現も、気持ちを込めて情熱的に演じていた。ポーズをきめた時には、両手でほほを押さえるようにして苦悩の表情をつくって大きな息をはいていた。(日本にとどまったり、いったん、ロシアへ行って練習をしたりしたのかもしれないが)NHK杯から中一週間をおいて再びアジアでの試合に出場するのは相当につらいと思う。シーズンが佳境に入ったこの時期では、みんな、体調管理やけがとの戦いを強いられて、どこかに必ず不安を持って戦っているように見える。持てる力をすべて発揮できる選手のほうが少ないように思われるくらいだ。そんな中で、しっかりと演技をまとめて、試合をとりにきて、実際にメダルをとったのはさすが。しかし、同時に今回は、ジョニー・ウィアー選手の中で燃える何かが見えなかった。世界選手権でのジョニー・ウィアー選手のフリー・スケーティングではミッションを背負って滑る姿勢が感じられた。使命感(ミッション)なり、情熱(パッション)なり、衝動(エモーション)なりを持って困難に立ち向かう時に、ジョニー・ウィアー選手は静かな光をはなつと思う。全米選手権や、世界選手権でそんな姿を見せてほしいと思った。
ショート・プログラム/合計:72.40(4)
フリー・スケーティング/技術点:71.3、演技構成点:71.7、合計:143.00(2)
総合得点/215.50
トマシュ・ベルネル/チェコ/総合4位
フリー・スケーティング:黒を基調にした衣装。赤紫の飾りと白いラインが入っていた。曲は「タンゴ・メドレー」。4トゥループを成功させたが、両足着氷にも見えた。あとは、転倒こそなかったものの、3アクセルは2回ともふかしてシングルアクセルになってしまっていたし、ループも2回転にしてバランスを崩してしまっていた。ジャンプでこれだけ崩れてしまうとプログラムはどうにもならないという印象を受けた。
トマシュ・ベルネル選手はスピンもステップもレベルの高いものがあって、個々の技レベルではとても見栄えがする。フライングシットスピンなどは、ものすごい高さを跳んでいた。しかし、表現という視点で見てみると、今回の「タンゴ・メドレー」には、プログラムをとおしてのコンセプトが見られなかった。個々のパートでは、フィギュアスケートでよく見かけるイメージの曲を使っているのだが、いっぽうでは、目の肥えたファンにはお馴染みすぎるような印象も与えてしまう。もちろん、すばらしい回転のスピンや、粋なステップを見るのが楽しいというファンには申し分がないのだが、表現や芸術という点で選手の内面性も含めてなにかが成し遂げられた瞬間に立ち会いたいと思っているファンにはものたらない。
トマシュ・ベルネル選手は気持ちを込めてプログラムを演じるときに持ち味を発揮すると思う。昨年のNHK杯での「グリーン・ディスティニー」はよかった。拳法の達人になりきっていた。キャラクターになりきって、演技へ入りこめる選手なので、オーソドックスなプログラムよりは、奇抜だと言われたとしてもストーリー性を前面に出したプログラムを採用したほうが、持ち味が発揮されるような気がする。
ショート・プログラム/合計:69.34(5)
フリー・スケーティング/技術点:63.21、演技構成点:74.10、合計:137.31(4)
総合得点/206.65
パトリック・チャン/カナダ/総合5位
グランプリシリーズ2勝で波にのっているように見られたが、結果は、ジャンプで崩れてしまった。ショート・プログラムのためにリンクへ出てきたときには、いい顔つきをしていたが、下を向きすぎていたようにも感じられた。荒川静香さんがどこかで、下を見ても氷しかありませんので、下を見すぎると平衡感覚などを失ってしまいます、という内容のコメントをしていた記憶がある。
ショート・プログラムで2回、フリー・スケーティングで2回、転倒してしまった。4回のうちの3回は3アクセルだった。迷いなく踏みきって高くて幅のあるジャンプに見えたが、着地であっさりと転倒してしまっていた。崩れてしまった原因がどこにあるのかはわからない。魔物に食われてしまったというわけではないと思うが、ジャンプでは絶対にミスをしないと心に決めて調子を落としている中でも成功させてくるジョニー・ウィアー選手と比べてしまうと、経験の浅さが浮き彫りになってしまったような気がした。
ショート・プログラム/技術点:33.3、演技構成点:36.7、減点:-2、合計:68.00(6)
フリー・スケーティング/技術点:65.96、演技構成点:73.2、減点:-2、合計:137.16(5)
総合得点/205.16
ブライアン・ジュベール/フランス/途中棄権
ショート・プログラム:コールされてからもペットボトルの水を飲んで余裕を見せていた。実力的にも、役者としても、他の出場者よりも一枚上手。曲は「ライズ」。くすんだ茶色の衣装が渋くきまっている。
4トゥループ+2トゥループをきめた。4回転はきめたが、3回転をつけられなかったようだ。ショート・プログラムのコンビネーション・ジャンプでは”3回転(以上)+3回転(以上)を跳ばなければ『ならない』”という規定があるのであれば、”4回転+2回転を跳んでは『ならない』”ことになるわけだが、そのあたりの基準は、はっきりいってよくわからない。合計で6回転すればいいというわけではないと思うが、見えてこないものがある。3アクセルも成功させたが、3ルッツでは転倒してしまった。「ライズ」はリズムにのって、けれんみもたっぷりで、ステップでその場で走るようなしぐさをした時にはお客さんは大喜びだった。体は動いているし、体調もよさそう。しかし、ポーズを解いたあとには、下を向いて、ふっと息をこぼした。ルッツの失敗が気になるのか。今シーズンのブライアン・ジュベール選手は、ジャンプでどこか歯車がくるっているように見られる。4トゥループはけっこうきめているので、それ以外のところの3回転ジャンプに不安があるのだろうか。
ショート・プログラム/技術点:39.8、演技構成点:35.75、減点:-1、合計:74.55(3)
フリー・スケーティング/
総合得点/
(2008年12月11日−17日)
