全日本フィギュアスケート選手権/2007年12月最終週
多くの選手が最大の目標にしていると思われる全日本フィギュアスケート選手権。世界フィギュアスケート選手権への出場枠は、男女シングル3枠、アイスダンス1枠、四大陸選手権への出場枠も同じ。今年は、浅田真央選手、安藤美姫選手、高橋大輔選手とスター選手がいるせいか、男女シングルのショート・プログラム、フリー・スケーティングと、時間帯を4回にわけて、それぞれにたっぷりと民放が放映してくれた。男子シングルは、高橋大輔選手が貫禄の圧勝。小塚崇彦選手、南里康晴選手、中庭健介選手の争いは見ごたえがあった。女子は、1位争いは、安藤美姫選手と浅田真央選手の、3位争いは中野友加里選手と村主章枝選手のそれぞれ一騎打ちとなった。鈴木明子選手、太田由希奈選手、武田奈也選手、澤田亜紀選手、浅田舞選手らは当日の出来栄えしだいで順位が入れ替わるように思えた。世界フィギュアスケート選手権の代表には1位〜3位が、四大陸選手権の代表には4位〜6位が選ばれると思っていたので、安藤美姫選手、浅田真央選手、中野友加里選手、村主章枝選手が1位〜4位を占めて、残りの四大陸選手権の2枠を巡る争いになると思っていた。太田由希奈選手、武田奈也選手などはインタビューで、四大陸選手権を目差して頑張りたいとコメントしていたし、鈴木明子選手も大きな大会で表彰台に上りたいとコメントしていた。全日本フィギュアスケート選手権の結果を受けて発表された代表選手は以下のとおり。
世界フィギュアスケート選手権
男子シングル:高橋大輔、小塚崇彦、南里康晴、(補欠)中庭健介、無良崇人
女子シングル:浅田真央、安藤美姫、中野友加里、(補欠)村主章枝、鈴木明子
アイスダンス:キャシー・リード&クリス・リード
四大陸選手権
男子シングル:高橋大輔、小塚崇彦、中庭健介、(補欠)梅谷英生、柴田嶺
女子シングル:浅田真央、安藤美姫、村主章枝、(補欠)鈴木明子、武田奈也
アイスダンス:キャシー・リード&クリス・リード
世界フィギュアスケート選手権のシングルへは、1位〜3位、四大陸選手権は、1位、2位、4位が選ばれた。高橋大輔選手、浅田真央選手、安藤美姫選手、中野友加里選手に経験を積ませて、世界フィギュアスケート選手権で金を含むメダルを取らせたいということか。あるいは、小塚崇彦選手に経験を積ませて、世界フィギュアスケート選手権での男子シングル3枠を確保できる順位を取らせたいということか。たしか、その国で1番目と2番目の選手の合計順位が13位以内で次回の世界フィギュアスケート選手権への出場が最大の3枠になると思う。高橋大輔選手が3位以内、小塚崇彦選手か南里康晴選手のどちらかが10位以内あたりか。中庭健介選手、村主章枝選手の四大陸選手権への出場は決めたが、5位、6位の選手にとってはつらい決定となったような気がする。去年の四大陸選手権には、アメリカとカナダが最高クラスの選手たちを送り込んでいた。エバン・ライサチェク選手とキミー・マイズナー選手が優勝していたと記憶している。しかし、全日本フィギュアスケート選手権6位で四大陸選手権代表に選出されたの澤田亜紀選手が4位入賞という快挙もなしとげている。ISUにおいては、四大陸選手権は欧州選手権と同等の扱いで、オリンピック、世界フィギュアスケート選手権に継いで重きを置かれている。グランプリ・ファイナルよりも、ランキングの算出などにおいては、価値が高いようだ。それだけの大会であることは分かるが、去年までは、世界フィギュアスケート選手権出場選手を除いた全日本フィギュアスケート選手権の上位選手が選ばれていたような気がする。2番手集団の選手、これから伸びようとしているジュニアの選手たちにとっては、四大陸選手権を目標に頑張っている選手が多くいるような気がするだけに、なんとも厳しい選考に思えた。
浅田真央/総合1位
ショート・プログラム:藤色にブルーのアクセントの入ったドレスだった。荒川静香さんが今シーズンのショート・プログラムでの衣装から変えていることを指摘する。3フリップ+3ループをきめる。ループの着地がやや両足のようにも見えたが、そのほかは完璧に見えた。3ルッツをきめる。八木沼純子さんが「ふみきりがインでした」と指摘。今シーズンの浅田真央選手は、ルッツの踏切がインになってしまうことに対しては、矯正をしない方針でいるのだろうか。インタビューなどを聞いても不正エッジについてはコメントをしていないような気がする。2アクセルを完璧にきめる。なかなか思い通りに跳べなかったショート・プログラムでのジャンプだが、今回は、思い通りに跳べたのかもしれないと思った。
スピンでは、ビールマンの姿勢になった後に足を肩の位置にまでさげて次のポーズをとっていた。スパイラルの時に顔が映ったが気合いが入っている。スピンは速くて、ステップはよく動けていた。一つひとつの動きにすばやさがあり、手で空を切るような動作をいれて抑揚をつけていた。力強さと情熱を感じた。ポーズを終えた後には、笑顔を見せていた。演技が終わった瞬間のラファエルコーチの様子もテレビに映されたが、大きなガッツポーズを作った後にうしろを向いて歩き回っていた。
カーテンをくぐってバックヤードに入ってくると、待ち構えていた女性に促されて、白いジャンパーから、(たぶんインタビュー用の)スポンサーのロゴマークが入った黒いジャンパーに着替えて、インタビュースペースに歩いてきた。「衣装を変えたのがよかったです」、(ショート・プログラムでのコンビネーション・ジャンプが崩れていたことに対しては)「やっと克服することができてよかったです」と笑顔でコメントしていた。
フリー・スケーティング:3アクセルに挑むも、ふかして、1アクセルになってしまった。3フリップ+3トゥループはきめたがトゥループの着地のあとに足がつっかえていた。八木沼純子さんが「ここから気持ちをリセットすることも大切です」とコメントする。スパイラルをきめた後に、3ループ、3フリップ+3ループ、2アクセル+2ループ+2ループをきめる。スピン、ステップ、2アクセルときめて演技をしめた。ポーズの後には、苦笑いという印象だった。今シーズンの浅田真央選手は、ほんとうに、一つひとつの技がきれいで見ていてうっとりとしてしまう。なんだか、もう別世界という感じがする。クラシックの曲を使って、さらに表現が立ち込めるようだ。ブログラムとしては完成されているような気がするので、あとは、本番で3アクセルをきめられるかと、どこまでミスを抑えることができるのかが、世界フィギュアスケート選手権での順位を左右するような気がする。荒川静香さんが「最初の失敗を引きずりませんでした。昨シーズンですと、最初の失敗を引きずることがありました。成長ですね」と感慨深そうにコメントする。インタビューでは、「アクセル失敗してしまったんですけど、ほかの部分でがんばろうと思いました」、「今日は1番滑走だったので、考えたりするひまもなく行けたのがよかったです」とコメントしていた。
ショート・プログラム/技術点:41.40、演技構成点:31.52、合計:72.92(1)
フリー・スケーティング/技術点:70.25、演技構成点:62.16、合計:132.41(2)
総合得点/205.33
安藤美姫/総合2位
ショート・プログラム:20歳になったばかりだそうだ。世界チャンピオンとしてのぞむ全日本。リンクをゆっくりと滑っている時には落ち着いているように見えた。NHK杯の時にはモチベーションのコントロールができなくなってしまったという印象を受けた。グランプリ・ファイナルには出場できなかったが、あの状態であれば、結果として出場はせずに全日本フィギュアスケート選手権に焦点をしぼって調整をしたほうが良かったと思う。優勝した世界フィギュアスケート選手権の時には、見ているほうが不安に押しつぶされそうになってしまうくらいに心配だったが、その心配をあざ笑うかのように、淡々と、ほんとうに淡々とした顔で、パーフェクトな演技をやり遂げてしまった。あの時にリンクの上に立っていた安藤美姫選手は、心をどこかに置き忘れてしまったぬけがらでしかなくて、安藤美姫選手の心は別の世界に行ってしまっていたような感じがした。リンクの上に残されてしまった安藤美姫選手のぬけがらは、どこかに行ってしまった心へ戻ってきて欲しいという祈りを静かに込めて、淡々と、粛々と演技をしていたように思えた。オーラは感じなかったが、あちら側の世界だけを見つめてしまった人間に独特の雰囲気を感じた。集中力では説明することができない現象のようにも思える。あえて言うならば、使命を帯びた求道者か、はたまた、天命を受けた芸術家か。
ポーズをきめて音楽を待つ安藤美姫選手の表情が映った。NHK杯の時とは比べ物にならないくらいに、いい顔つきをしていた。すこし安心した。曲は、サムソンとデリラから「バッカナール」。3ルッツ+3ループをきめる。今シーズンは難航していたコンビネーション・ジャンプをきめたので、さらに安心した。安定感を戻すための調整はうまくいっていたようだ。3フリップをゆったりと余裕できめる。安藤美姫選手は、浅田真央選手とは逆で、フリップがルッツの踏み切りになってしまうようだが、今シーズンはフリップの矯正に取り組んでいることを本人の口からもインタビューから聞けているし、荒川静香さんや佐野稔さんもフリップをしっかりとフリップとして跳んでいるというコメントをどこかの大会の時にしていた。スコアを見たら安藤美姫選手は全日本フィギュアスケート選手権ではエッジの不正はなかったようだ。やるべきことはやっているということか。スピンではレイバックの姿勢でよく回っていた。2アクセルは速くて流れのあるジャンプだった。スパイラルは腕から指の先までをていねいに使ってしっとりとまとめていた。ストレートライン・ステップに入る時に、すこし笑顔を見せたような気がする。演技がうまくいって気持ちが落ち着いたのか。ストレートライン・ステップの途中では、低くかがんだときに、体をなめるようにして手を動かしていた。昨シーズンの「シェヘラザード」(千夜一夜物語)からの印象で、安藤美姫選手のショート・プログラムはどこか中東のお姫様のような雰囲気を出している。しかし、ストレートライン・ステップのなめるようにして屈んでいた姿からは、お姫様と言うよりは、魔性の女という雰囲気すら感じた。フリー・プログラム「カルメン」への伏線か。スピンでは高速で回っていたが姿勢を崩した。しかし、最後まであきらめずに、片足を横にあげてかかえる最後の姿勢までしっかりともっていった。ポーズの後は、苦笑いをしていた。最後の最後で姿勢を崩してしまったことを受けたのか。しかし、笑顔からは気持ちの余裕を感じた。インタビューでは「やっと3回転+3回転も入って、自分らしく滑れたので、よかったです」、「スピンで最後に魅せることができなくて残念です。明日はしっかり魅せたいです」、「やっと緊張がいい緊張のままで滑れるようになったのでよかったです」と答えていた。気持ちの面も含めて、いい状態に仕上がっていると感じた。
フリー・スケーティング:一番滑走で演技を終えた浅田真央選手とのショート・プログラムでの差は4.24。浅田真央選手は、フリー・スケーティングで得点を伸ばして、総合では、205.33という驚異的な数字を出していた。最終滑走者の安藤美姫選手が浅田真央選手の結果をどこまで知っていたのかは分からない。しかし、どうしても浅田真央選手に勝ちたい、全日本フィギュアスケート選手権に優勝したいという気持ちよりは、自分の演技をしっかりとやるだけという心境でいるような気がした。すでに世界フィギュアスケート選手権で優勝しているので、そういった意味では余裕もあると思う。
演技の前にインタビューと6分間練習の様子が放映された。インタビューでは、何度も見てすでにお馴染みになってしまったが、「自分が目標(世界フィギュアスケート選手権での優勝)としてきたことをやってしまったので、今シーズンは春から自分の中で何かが足りなかった」、「自分は安藤美姫という一人の選手なので自分らしく滑ることを目標にした」と答えていた。全日本フィギュアスケート選手権に対しては、「毎年、毎年、全日本が一番大事な試合だと思ってます」と意気込みを語っていた。6分間練習では、単独ジャンプも、3ルッツ+3ループのコンビネーション・ジャンプもきまっていた。今日も調子は良さそうだった。最終滑走は世界フィギュアスケート選手権でも経験しているので、気持ちと集中力のコントロールはうまくやってくれると思う。今日は、順位とかよりも、安藤美姫選手の演技、そして、今シーズンにはまだ一度もちゃんとしたものを魅せてくれてはいない、安藤美姫選手の「カルメン」を見たいと思った。
最初の位置に向かう時には気合いが入ったいい顔つきをしていた。ポーズに入った時に、さらに、表現者の顔つき、「カルメン」を演じる顔つきに変わった。音楽が流れ始める。くねらせた腰に手をあてて、何度か姿勢を変える。淡々とはしていたが、真剣な、集中した顔つきで、どこかを見つめている。表情を変えずに、片手を腰にあてたままで、もう片方の手を唇にもっていく。氷の表情のままで投げキッスを飛ばす。演技に心が入っていた。
3ルッツ+3ループを完璧にきめる。3サルコウも余裕できめた。プログラム構成で言うと、昨シーズンのメンデルスゾーン「ヴァイオリン協奏曲」と同様に、最初のコンビネーション・ジャンプの後の単独サルコウで4回転を入れることができるプログラムになっている。今回は、誰も4回転、4回転と騒いではいないので、最初から入れる予定はなかったのだろう。3フリップを完璧にきめた。ジャンプの調子が良さそうだ。それ以上に、昨日のショート・プログラムの時から、体が軽くてスムーズに動いているのを感じる。きびきびとした動作でつなぎの時間を滑る。その時に、小刻みな動作の一瞬をとらえて、下向き加減の顔からすごい目つきをカメラに向けた。ジャンプもきまり、体も軽くて、気持ちものってきて、「カルメン」を演じることに集中し始めたのを感じた。安藤美姫選手の一瞬の視線で、心が釘付けになってしまった。「カルメン」は、しばらくおあずけと言うようにスパイラルに入る。ていねいに姿勢を保持して、依然として高い集中力を保っていることが分かる。演技が後半に入る。
3ループは高くて完璧にきめた。ほんとうになめらかに跳んできれいに着地していた。3ルッツも流れがあってきれいだった。3トゥループ+2ループ+2ループの時には、トゥループから着地した後にオーバーターンをしてしまったが、すぐに体勢を立て直して、ループを連続で跳んだ。気持ちが入っているのを感じた。けがなどで調整や練習ができずに体が思うように動かない時期が長いからだろうが、NHK杯の時には、すこしの失敗で集中力が切れてしまって、うまくいかないとそこですぐにあきらめてしまっていった。オーバーターンした後に、すぐにループを跳んだ姿を見て、安藤美姫選手は完全に持ち直して全日本フィギュアスケート選手権にのぞんでいることが分かった。2アクセル+2ループも成功させた。ジャンプも終えたので、ここからは、「カルメン」である。
ストレートライン・ステップの最初の位置では、じっくりと時間をとっていた。頭の後ろで組んだ手のひらを波うたせて気持ちを、そして、会場を盛り上げていく。暗闇の中で軍団が進軍するような「カルメン」の主題が静かに響いてくる。安藤美姫選手の気迫の表情が画面に映った。ホセの人生を狂わせた魔性の女になりきっていた。安藤美姫選手には、お姫様というよりも、魔性の女が似合うとすら思えるほどに、板に付いていた。トリノ・オリンピックでの辛い経験が安藤美姫選手の体には染み付いているようにすら感じた。ステップの途中でも、一瞬の動作をとらえて何度もポーズをとり、そのたびに、口をうっすらと開けながら、うつむき加減の顔の奥で瞳を輝かせていた。安藤美姫選手にとっては、それが幸せなのかどうかは分からないが、普通の人生を幸せに歩んでいる女性には「カルメン」を演じることができない、そんなふうに断言したくなるほどの「カルメン」のステップ。
最後はコンビネーション・スピンだった。最初のスピンを終えた後に、次のスピンを回る位置に行くために、足を動かしてリンクを少し横に滑る。その時に、安藤美姫選手は、両手で逆さまに持った短刀を自分のお腹に刺した。刺した瞬間に、前かがみになって、首をはねさせる。魔性の女の最後だと思った。しかし、魔性の女は死んではいなかった。コンビネーション・スピンでは、安藤美姫選手は、足が水平にならなかったり、じゃっかんぐらついたりとしていた。しかし、そんなテクニカルなミスすらも、短刀で自分を刺した「カルメン」の演出に変えてしまっていた。最後のスピンを終えた後には、伸び上がって、上げた両腕の先では手首を返して、暗闇から襲いかかってくる化け猫みたいに目を輝かせて、口からは白い歯をのぞかせて、最後のポーズをきめた。「カルメン」を完璧に演じきったと思った。場内は騒然としていた。今日一番の演技に誰もが見入ってしまっていたとすら思えた。ポーズを崩した後の安藤美姫選手は、うれしそうな顔をしていた。ようやく自分の演技を見てもらうことができてほっとしたのか。しかし、会場は、魔性の女から、一瞬にして、うれしそうに笑う女の子に変身してしまった安藤美姫選手に、さらに圧倒されていた。しばし、呆然とした後に、スタンディングオベーション。もの凄い拍手だった。世界女王の貫禄。今回の全日本フィギュアスケート選手権では、安藤美姫選手が主役だったのだなと思った。
キス&クライでは、ほんとうにうれしそうな顔で、しっとりと笑っていた。インタビューでは、「すごい、練習からうまくいってリラックスして楽しむだけだなと思って、よかったです。やっと自分らしく滑れました」と笑顔でコメントしていた。あの「カルメン」を、安藤美姫選手本人は楽しみながら演じていたようだ。脱帽。
ショート・プログラム/技術点:38.24、演技構成点:30.44、合計:68.68(2)
フリー・スケーティング/技術点:72.70、演技構成点:62.80、合計:135.50(1)
総合得点/204.18
中野友加里/総合3位
ショート・プログラム:リンクサイドにいたコーチのもとからまっすぐに最初の位置に向かった。迷いは無いという印象を受ける。いい顔つきをしていた。3フリップ+2トゥループは完璧にきめた。速くてきれいだった。次のルッツは、3回転の予定が2回転になってしまったようだ。ジャンプ自体は成功したが、どのような採点になるのかは分からない。スピンは、速くて、ほんとうによく回っていた。気合い十分という感じ。3位に食い込んで、世界フィギュアスケート選手権への切符が欲しいという意気込みを感じる。大きな拍手が起こっていた。次のスピンではビールマンまでもっていっていた。八木沼純子さんが「ちょっとビールマンの足が高いでしょうか」とコメントする。「高い」と聞こえたが、「硬い」かもしれない。いずれにせよ、素人のレベルでは、コメントの内容を画面から判読することができなかった。スパイラルをていねいにこなす。イーグルからの2アクセルをきめる。最後のスピンも速かった。ポーズを崩した後には真剣な顔をしていた。帰ってくる時には小さく首をふっていた。ルッツの失敗に納得がいっていなかったのか。荒川静香さんが「今シーズンは、ルッツで失敗してるんですね。もしかしたら踏み切りを考えてしまったのかもしれません」とコメントする。失敗とは不正エッジの判定を指していると思われる。キス&クライの様子も映された。肩で大きく息をする中野友加里選手はソファの真ん中に自然に座った。横に座った佐藤久美子コーチが、さりげなく、中野友加里選手の太ももを、ぴしゃりとたたく。中野友加里選手も、さりげなく、自然に座っていたので開いたままになっていた両足を、ささっと閉じる。フィギュアスケートの世界というものは、それなりに狭いようにも思える。多くの選手が同じコーチのもとについて、関係者の人たちには連帯感のようなものがあるのだろうか。佐藤久美子コーチは、たしなみに対するコーチング能力も高いのかもしれないと思った。得点が発表された時には、中野友加里選手は、ひきつっているとも思えるほどに呆然とした表情をしていた。2ルッツは、全てのジャッジが3.0の減点をつけていた。基礎点1.9から1.0の減点で、0.9ポイントしか獲得できていなかった。インタビューの時には、目に涙をためていたようにも見えたが、きりっとした顔でしっかりと答えていた。戦う姿勢を崩してはいないという感じがした。
フリー・スケーティング:ショート・プログラム3位の村主章枝選手との差は無いに等しいレベルだった。今日の結果で、世界フィギュアスケート選手権にどちらが行くのかが決まる。今日もいい顔つきをしている。迷いはないという感じ。
3アクセルは成功させた。しかし、着地の後に足が弧を描いて大きく流れてしまった。減点がされてしまうレベルに見えた。スコアを見ると、ダウングレードで2アクセルの判定だった。基礎点3.5からさらに1.6減点されて、1.9ポイントしか獲得できていなかった。3アクセルに挑んで転倒を免れても、回転不足だと2アクセルの基礎点しかもらえずにさらに減点をされてしまうようだ。なかなかに難しい。後で知ることになる判定はおいておいて、最初の3アクセルを成功させていたので、中野友加里選手はのっていた。その後は、全てを完璧にきめたように見えた。特に、前半のスピンでは、白鳥のようなポーズをとる時に、うしろにあげた足を背中ですぐに手で掴んだ。足を探すような様子がなくて、まるで背中に目が付いているような感じだった。体が覚えてしまっているほどに練習を重ねているということか。3フリップの後には、腰に手をあててポーズをとっていたようにも見えた。最後のドーナツは速かった。気迫を感じた。ポーズの時にはうれしそうに笑顔を作っていたが、ポーズを崩した時には、顔も崩れて涙を流した。両手で顔を覆う様子からは、感極まったという印象を受けた。中野友加里選手は、それでも取り乱すのを必死に抑えて、涙も必死に抑えて、冷静さを取り戻そうとしていた。性格としては、負けず嫌いなのか。
キス&クライではコールを待つまでに大きな拍手が起こる。総合得点が発表された時には涙を浮かべていた。荒川静香さんは「中野友加里選手の感極まった涙というものは、ほとんど見たことがありません。どれだけ抱えてきたものがあったか、伝わってきますね」とやさしいお姉さんの声でコメントしていた。インタビューでは、ポーズの後の涙について聞かれて、「今の段階で出来ることを全てやり遂げることができました。そういった意味で、感極まったのだと思います」と涙を浮かべながらも自分を冷静に分析していた。全日本フィギュアスケート選手権は、国際大会と比べると、得点が出過ぎるようにも感じられるが、世界フィギュアスケート選手権でも180点代の得点が出せれば、2年連続してとっている5位を上回る順位が狙えるかもしれないと思う。世界フィギュアスケート選手権では、3アクセルを成功させてほしい。
ショート・プログラム/技術点:32.40、演技構成点:28.76、合計:61.16(4)
フリー・スケーティング/技術点:65.39、演技構成点:57.76、合計:123.15(3)
総合得点/184.31
村主章枝/総合4位
ショート・プログラム:昨年は世界フィギュアスケート選手権への出場を逃して、四大陸選手権も棄権しているだけに、今年は、世界フィギュアスケート選手権への出場権を獲得したいと強く思っているような気がする。インタビューでは、技の判定が厳しくなったことについて質問されて、「ルールの中で自分がどう自由を作っていくかですよね」、「やっぱりチャレンジです」とコメントしていた。ジャンプに弱い村主章枝選手が技術的な判定が厳しくなったことでさらに厳しい状況に立たされているというニュアンスをこめたテレビの編集であった。
今シーズンのショート・プログラムの曲は、ジャズの「テイク・ファイブ」。赤紫の衣装に黒いベルトと手袋を合わせていた。3ルッツ+2トゥループはきれいにきめた。3フリップも完璧に跳ぶ。スパイラルの時には表情が映ったが、口で数を数えていたようにも見えた。表現をすることよりも、一つひとつの技をていねいにこなすことに重点を置いているのか。2アクセルも成功させる。ストレートライン・ステップでは、八木沼純子さんが「スムーズにきめたんじゃないでしょうか」とコメントする。コンビネーション・スピンもきれいにきめた。最後のポーズは、両手をぱっと上げて華やかな表情を作っていた。おじぎのあとには、今シーズンのポーズであろうか、肩をすこし動かしてポーズをとっていた。村主章枝選手はこういった芸が細かい。ファンを大切にする姿勢は、見ているほうにはうれしい限りである。スローヴィデオの時には、八木沼純子さんが、「(ルッツの踏切が)インに傾いてしまっています」とコメントした。減点があるようだ。今シーズンは、元アイスダンス選手で昨シーズンのフリー・プログラム「魂の歌」の振り付けを担当した外国人のコーチがついていた。村主章枝選手のできがよくないので、コーチもさえない顔をしていることが多いようにも思えるが、今日は、コーチの男性は笑顔で村主章枝選手を迎えていた。
フリー・スケーティング:曲は、「オブリヴィオン/カランブレ」。途中で曲調ががらっと変わるタンゴの曲の組み合わせだった。最初に、かくっ、かくっとポーズを変えたあとに、足を滑らせ始める。3ルッツはきれいにきめた。3フリップ+2回転の時には、最初のフリップのあとに姿勢を崩してオーバーターンをしていた。その後もジャンプの調子が上がらずに、転倒こそ免れたが、3回転の予定が2回転になったり、両足着氷になったりと、減点を重ねてしまっていた。プログラムとしては、途中で曲調が大きく変わることが特徴だが、これといった華のない、何を表現することが意図なのかが分からないプログラムになってしまっているように思える。村主章枝選手ならではの持ち味で、何かを表現したプログラムを見たいと思った。競技者として考えた場合には、ジャンプでの大技を持たないので、ジャンプが崩れてしまうと低く抑えられた基礎点からさらに減点をされてしまう。スピンやステップやスパイラルで加点を稼いでも苦しい。ポーズを終えた後には、腰に手をあてて、ゆっくりと、ポーカーフェイスを維持したままで気持ちをコントロールしていた。
荒川静香さんが「演技をここまで長くやるということは、それだけ自分を追い込んでいるはずなんです。若い選手は尊敬していいと思いますよ」とコメントする。八木沼純子さんは「今シーズンは単身でロシアに渡りました。ロシアでは自分で生活も全部やっているようです。日本にいた時にいかに自分が恵まれいたのかが分かったとコメントしたとも聞いています」と紹介した。
ショート・プログラム/技術点:34.70、演技構成点:28.80、合計:(3)
フリー・スケーティング/技術点:44.05、演技構成点:54.24、合計:98.24(6)
総合得点/161.79
鈴木明子/総合5位
ショート・プログラム:22歳の選手。今シーズンは調子があがっているようだ。西日本選手権では優勝。ゴールデンスピンという外国で開かれた大会でも、ヨーロッパ選手権3位のキーラ・コルピ選手を抑えて優勝していた。テレビ中継は全日本フィギュアスケート選手権が初めて。こういった選手にとっては、全日本フィギュアスケート選手権が勝負をかけた晴れ舞台なのかもしれないと思う。ワインレッドにシルバーの飾りを付けたドレスだった。曲は、「ファイアー・ダンス」。ギターのしっとりとしたパートから始まる。
優雅に動き始めた。表現力が豊かな選手らしい。表現をする人間の顔つきもしていた。3ルッツ+2トゥループをきめる。トゥループの時には足を大きく振り回して踏み切っていた。3フリップではステップアウトしてしまった。スパイラルでは、腕から指先までを使って優雅さを出していた。表情も豊か。スピンではレイバックの姿勢を維持したままで速く多く回っていた。どうした時に自分が美しく見えるのかを心得て滑っているような気がする。曲調が変わり、カスタネットのような小刻みなリズムが流れはじめた。2アクセルを成功させて、スピンをこなす。ストレートライン・ステップでは、抑揚を利かせて、上半身で上下の、両腕で左右の動きをつけて、大きくのびのびと滑っていた。表情でもアピールをすることをおろそかにはしていなかった。最後のスピンでは、低く屈んでからレイバックの姿勢にもっていっていた。ポーズを終えた後には、うれしそうな顔は見せずに、演技の時と同じで表現をしている人間の顔を維持していた。落ち着いているという印象を受けた。インタビューでは、「フリップでステップアウトしてしまって、あって、動揺しちゃったんですけど、あとはうまくできました」、「滑れることを幸せに思って氷に上がったので、お客さんの拍手がうれしかったです」と落ち着いた様子で答えていた。
フリー・スケーティング:ブルーのドレスでリンクに立った。曲は、「タイタニック」。おなじみのやさしく包み込むようなメロディー。ジャンプでは、バランスを崩したり、3フリップでステップアウトをしたり、回転数が足らなかったりと崩れていたが、転倒やお手つきは無かった。崩れそうになっても持ちこたえたり、失敗をしても集中力を維持したりするだけの強い気持ちを感じた。鈴木明子選手は、スパイラルではていねいに、しっとりと、時にはねっとりとも思えるほどに、一秒もおろそかにはせずに演じていた。ストレートライン・ステップではスピードにのって体もしなやかに動いていた。最初のスピンでは回転が終わってからつなぎの滑りに入る時が滑らかだった。2回目のスピンでは、スピンの後にしっかりと余韻を作りだしていた。最後のスピンでは手を振りあげて演技のクライマックスを盛り上げていた。ジャンプは安定していないようだが、最後まであきらめない心でていねいに滑りきり、ジャンプを除く個々の技はどれもレベルも高くて、これといって苦手としている技は見受けられなかった。スケートも滑らかで、表現をしようとする気持ちもしっかりと出している。なかなかにレベルの高い選手に見えた。荒川静香さんは「彼女はこのグループ(最終組)で唯一、かろやかな顔で最初から滑っていました」とコメントしていた。鈴木明子選手としては、四大陸選手権には出場したかったのではないかと思う。
ショート・プログラム/技術点:32.90、演技構成点:25.76、合計:58.66(5)
フリー・スケーティング/技術点:50.07、演技構成点:51.20、合計:101.27(5)
総合得点/159.93
武田奈也/総合6位
ショート・プログラム:曲は、「タンゲーラ」。黒にワインレッドとオレンジの今シーズンの衣装で登場。じっくりと時間をとって、ゆっくりと滑りながら、さかんにポーズを確認していた。
「タンゲーラ」が始まり、きびきびとした動作で演技に入る。なかなかに気持ちが入っている。最初の3トゥループはきれいにきめた。トゥループは安定しているように見える。2ループ+2トゥループをきめる。ループは踏み切りの時にすでに斜めになっていた。もちろん予定は3回転だろうと思う。結果は2ループになったが、あれだけ軸がぶれていてよく2回転して転倒しなかったと思った。2トゥループは根性で跳んだ感じ。武田奈也選手は、ループが得意で、エッジの矯正も加わって苦手なフリップとルッツは今シーズンはなかなかきまらない、アクセル、サルコウ、トゥループの安定感は高い、という印象を受ける。NHK杯の時には3ループはきめていたが、3フリップで転倒していた。演技を終えた後に武田奈也選手本人は満足そうだった。荒川静香さんが本来に苦手としているフリップでは転倒したが、本来に得意としているループをきめたことを指摘していた。苦手なジャンプがうまく跳べないことは仕方がないと割り切ることができるが、同時に、得意なジャンプで失敗をしてしまうとダメージが大きいのかもしれない。NHK杯で満足そうにしていたので、武田奈也選手は、苦手は苦手と自覚をして、得意なこと、できることをしっかりとやることを、今の段階では目標にしているようにも見える。ループ、アクセル、サルコウ、トゥループが中心で、フリップとルッツは極力避ける構成が、現在の武田奈也選手には滑りやすくて、演技に集中できるのかもしれない。しかし、今回は、ミスが痛いショート・プログラムで得意の3ループで失敗がでてしまった。2アクセルは成功させた。
スパイラル、レイバックスピンはしっとりと、きれいにきめた。少しずつ、スピードもついてきたように見える。ストレートライン・ステップの時には、八木沼純子さんが思わず「ちょっとスピードがありません。がんばれ」と実況席から声援を送っていた。最後のレイバックからビールマンまでもっていくスピンは、きれいにきめた。武田奈也選手は長身ということもあり、ビールマンの姿勢が細長くてとてもきれいに見える。スピンとスパイラルでは加点が稼げるという印象を受ける。ポーズをきめた後には、気持ちがもろに顔にでて暗い表情をしていた。荒川静香さんが「今シーズンは自分が出たことがない舞台に立ちました。奈也を知って欲しいという気持ちで滑ってきました。でもこの全日本は守りに入ったかなと思います」とコメントする。八木沼純子さんは「演技に入る前に時間をとっていました。普段、武田選手がこんなに時間をとることはありません。そこで考えすぎてしまったのかもしれません」とコメントする。
キス&クライでは、辛そうな顔をしていた。武田奈也選手といえば笑顔がトレードマークだが、辛い時にはものすごく辛そうな顔をする。いずれにせよ、喜怒哀楽の表現が豊かなのかもしれない。得点が発表された時には、顔をくしゃくしゃにして涙をためていた。インタビューでは、「落ち着いてたんですけど、ジャンプが1つぬけてもったいなかったです」、「得意なジャンプだったのでくやしいです」とコメントしていた。苦手はことは苦手と割り切る反面に、得意なことでは失敗できないという気持ちが空回りをして余計な力が入ってしまったのか。
フリー・スケーティング:ショート・プログラムは9位での折り返しとなった。実力と経験で飛び抜けている上位4選手のほかにも、太田由希奈選手、鈴木明子選手、ジュニアの水津瑠美選手、石川翔子選手、調子を落としているとは言え澤田亜紀選手、浅田舞選手などライバルは手ごわい。NHK杯でのインタビューの時には、「四大陸選手権めざしてがんばりたい」と答えていた。上位の4人のうちの1人が四大陸選手権に来ると考えると、残りの2枠を、実力が拮抗しているライバルたちと争うことになる。武田奈也選手としては、ひとりでも抜き去り6位以内に入りたいところか。
曲は、「秋によせて」。優雅なドレスで登場。今日もゆっくりと時間をとって、両手を横に広げていた。両手を横に広げるのは、武田奈也選手はいつもやっているように見えるので、習慣になっている動作か。
最初のループが2回転になってしまった。八木沼純子さんが「跳び急ぎました。昨日のショートと同じ失敗です」とコメントする。武田奈也選手としては、きめなくちゃ、失敗は許されないという気持ちが強かったと思う。しかし、結果は失敗してしまった。ショート・プログラムを見る限りでは、3ループが2ループになってしまうというミスは、武田奈也選手にとっては涙を流してくやしがるほどの失敗であるようだ。苦手なジャンプである3フリップが2フリップになってしまっても精神的なダメージは少ないのかもしれない。3サルコウは無難に成功させる。
次は3フリップの予定だったが、武田奈也選手は、3ループを跳んで、見事に成功させた。八木沼純子さんが「もう一度きました。きれいにきまりました」とコメントする。最初が単独2ループになったので、単独3ループを跳ぶことは可能な状況になった。苦手な3フリップを捨てて、3ループを根性できめた感じ。今回の3ループは、最初のループに失敗をした時に跳ぶことにしたのだろうか、あるいは、当初から、最初のループが3回転にならなかった時にはここのフリップはループに変更する予定でいたのだろうか。そのあたりはよく分からない。最初の3ループは、いろいろと考えて緊張を積み重ねながら跳んだ結果として失敗をしてしまったようだが、今回の3ループは、最終的に跳ぶことになったのは、最初のループが2回転になった後である。考える時間はほとんど無かったような気がする。そういった状況で跳んだ3ループは成功したという現象は、なかなかに興味深い。考えすぎると余計な力がはいって、普段にはできることができなくなってしまうということか。
その後の演技は、きれいにまとめた。スパイラル、ステップ、そして一番の見せ場であるビールマンまでもっていく最後のスピンはしっかりときめていた。コンビネーション、シークエンスも交えてジャンプはすべてきれいに跳んだ。ただ、跳んだジャンは、アクセル、ループ、トゥループの3種類だった。ポーズの時には、入りながら、すでに、満面の笑顔を浮かべていた。キス&クライでは、得点が表示された瞬間に、「見て、凄いよ」とびっくりした顔で、横に座っているコーチと思われる男性の腕をゆすっていた。総合得点が発表された後には、涙の後に笑顔を浮かべていた。最初に失敗はあったが最後まで集中を切らさずに、最初の失敗以外では、本来出来ることをすべてきちんとやれたことがうれしかったのか。
荒川静香さんは「最初に失敗した後に、フリップをループにとっさに変えました」と講評した。八木沼純子さんは「最初の失敗を引きずらないで、自分で立て直してコントロールできました。成長です」とコメントしていた。今回の全日本フィギュアスケート選手権では、武田奈也選手は、結果として、フリップとルッツは跳ばずに、アクセル、ループ、サルコウ、トゥループの4種類のジャンプだけを跳んだ。フリップをループに変えたという戦術的な対応は1つあったが、今回の6位入賞は、出来ることをしっかりとやるという方針で臨んだ結果が生み出した戦略的な勝利のような気がする。今後としては、3ループから2アクセルのシークエンスに加えて、基礎点が3ループ(5.0)よりも高い、3フリップ(5.5)、3ルッツ(6.0)の習得と、3回転+3回転の大技への対応をどうするのか、が課題となるのか。ジャンプだけがフィギュアスケートではないが、ジャンプの影響は、いまだに、大きいように思える。
ショート・プログラム/技術点:25.62、演技構成点:23.72、合計:49.34(9)
フリー・スケーティング/技術点:59.19、演技構成点:49.44、合計:108.63(4)
総合得点/157.97
太田由希奈
ショート・プログラム:インタビューが放映されたが「上位に入って四大陸選手権に行きたい」とコメントしていた。ブルーに黒いアクセントの入ったまぶしいくらいに鮮やかなドレス。抑えをきかせた大人の女性の華やかさを演出している。今大会で、衣装を含めて、選手が一番きれいに見えたファッションだった。もともと、太田由希奈選手がきれいということもあるが。
曲は、「マダム・バタフライ」。しっとりと、首の位置に水平にあげた腕の上でほおづえをつきながら、滑り始める。雰囲気がとても優雅。幸せを夢見る女の子という感じがした。
2アクセルをきめる。3トゥループ+2トゥループをゆったりときめる。ジャンプとジャンプの間にはしっかりとためが作られて、姿勢がきれいだった。ドーナツまでもっていくスピンをきめる。つなぎで滑っている時は、ほほ笑みを浮かべたやわらかい顔をしていた。眠そうにも見える独特の表情に、思わず見とれてしまった。ステップの後のサルコウが、シングルになってしまった。
スピンでレイバックの姿勢にもっていって、ステップではしっとりと優雅にポーズをきめていた。太田由希奈選手は、うまく言えないが、胸もとで優雅さを表現するような気がする。胸の前にあるものをやさしく抱きかかえるような雰囲気。大人の滑りだと思う。スパイラルは安定してきれいだった。コンビネーション・スピンで演技をしめる。ポーズの後には、しばし、天を見上げていた。サルコウの失敗があったので、こみ上げてくるものがあったのか。
荒川静香さんは「ショートですとどうしても、ジャンプとジャンプの間、スピンとステップの間で、気が抜けてしまうんですけど、この選手はそれがまったくありませんね」とコメントしていた。演技後のインタビューでは「朝から調子が上がらなくて、明日のフリーはショートと違った雰囲気なので、ショートよりは練習してきたので、自信を持ってがんばりたいです」と静かにコメントしていた。
フリー・スケーティング:曲は、「アランフェス協奏曲」。しっとりと、優雅に悲しみを奏でるパートだった。そんな曲調に合わせて、太田由希奈選手は、静かに演技を始める。
2アクセルは高くてきれいにきめた。加点がもらえると思う。3トゥループは着地の後にバランスを崩していた。3サルコウ+2トゥループはきれいにきめた。スピンは曲調をとらえて、しっとりとしていた。サーキュラー・ステップは、険しい表情を作って、情熱を込めて踏んでいた。「アランフェス協奏曲」のギターのメロディーが太田由希奈選手にのり移った感じ。見とれた。2ルッツをきめる。
「アランフェス協奏曲」のメロディーにのせて、両手を天にあげて背中をそってポーズを作っていた。遠くへ行ってしまった人を思うような静かな情熱を発散していた。3トゥループでは転倒してしまった。斜めに跳びあがってしまった印象を受けた。再び、3サルコウ+2トゥループのコンビネーション・ジャンプをきめる。スパイラルには準備動作がなくてつなぎで滑っている時からいつの間にか移行していた印象を受ける。滑らかでしっとりとしていた。レイバック、横斜めにきゅっと体を縮める姿勢、最後に逆回転と、スピンは優雅できれいだった。「アランフェス協奏曲」のメロディーが太田由希奈選手の内に秘めた情熱を呼び起こしているようだった。
イナヴァウワーからの2ルッツ+2トゥループ+2ループをきめた。ドーナツまでもっていくスピンをていねいに滑ってから、胸の前で交差した両手で肩を抱きながら滑る。思いを内に秘めた太田由希奈選手の姿と「アランフェス協奏曲」のメロディーが重なった。スピンをきめて、しっとりと、演技を終えた。
ポーズをきめた後には、太田由希奈選手は、少しうれしそうな顔をしていた。荒川静香さんが「もともとジャンプとジャンプの間のつなぎの滑りに定評がありました、されにレベルアップしています」、「ジャンプがきまっても失敗しても見ていたいと思う選手です」とコメントする。太田由希奈選手は法政大学の学生で、練習の拠点は関西から関東に移しているようだ。インタビューでは、「緊張していたんですけど、滑っている時は無意識になって、曲を感じることができました」、「最後のほうでパッションが出せたかなと思います」、「技術を取り戻して、長い目で見ればオリンピックを目差してもいいんじゃないかと思います」、「まずは大きな大会でタイトルが欲しいです」とコメントしていた。
技術を取り戻すとコメントしていたが、今回の大会では、ショート・プログラムのコンビネーション・ジャンプが3トゥループ+2トゥループで、フリー・スケーティングでは3サルコウ+2トゥループを2回跳んでいた。トゥループとサルコウを中心にして組んだプログラムを滑っていたという印象を受ける。3回転もトゥループとサルコウの2種類だった。スコアを見ると、フリー・スケーティングの2ルッツ+2トゥループ+2ループが評価対象外になっていた。3サルコウ+2トゥループという同じコンビネーションを2回跳んでしまうと、その時点で、コンビネーション・ジャンプはできなくなってしまうのか。
澤田亜紀
ショート・プログラム:曲は、「アルメニアン・ラプソディ」。田村岳斗コーチがリンクサイドから声をかける。澤田亜紀選手は、「行ってきます」と、どこかまじめな中学生みたいな雰囲気で一声だしてからリンク中央に向かった。前シーズンには、女性のコーチからおでこをぽんとたたいてもらっていたが、大学生になり新しい環境で臨む今シーズンは、もう、それはしてもらわないことにしたのだろうか。昨シーズンはうしろにまとめていたような気がする前髪を、今日は、おでこにたらしていた。あどけなさを残す顔立ちは、大正時代の女学生のような清楚で清潔な印象を作りだしていた。澤田亜紀選手は、エリック・ボンパール杯で思うような結果が出ずに、NHK杯は出場しなかった。今シーズンの澤田亜紀選手を見るのは、2回目。思うような調整ができていないようだ。
「アルメニアン・ラプソディ」はしっとりとしたムードのある曲だった。本気で表現に取り組めば、ぐっといいプログラムになるような気がする。しかし、現段階の澤田亜紀選手にとっては、一つひとつの技に集中することが目標のようだ。それはそれで、合理的な戦略だと思う。トップの4人を除くと、武田奈也選手を筆頭にして、第2集団の選手たちは、できることをしっかりとやることに集中して全日本フィギュアスケート選手権に臨んできているような気がする。
3サルコウ+2トゥループ、3トゥループ、2アクセルとジャンプはどれもきめた。スピンでは、ドーナツ、ビールマンと難しい姿勢もこなしていた。ストレートライン・ステップは、腕をふっているだけのようにも見えたが、気持ちを切らさずに、見ている人にはどう映ろうとも、審判からはどのように評価されようとも、それとは別に自分はできることを一所懸命やるだけだというひたむきさを感じた。最後まで気持ちを切らさずに、ていねいにプログラムを演じきった。スコアを見ると、減点は無くて、技術点では基礎点にじゃっかんの加点をもらっていた。コンポーネンツでは、一人の審判がスケーティング・スキルで6.0をつけていたが、それを除くと、ほかはすべてがきれい5点代だった。調子が上がらない状態で全日本フィギュアスケート選手権をむかえるにあたって、基本をしっかりとていねいに演じることに集中していたように見えた。
荒川静香さんは「今ジースンは、あまりうまくいっていないかなっと思うんですけど、今日はうまくいきました」と、八木沼純子さんは「1つ1つ気持ちをもって、6分間練習ではサルコウジャンプが斜めでしたが、本番では集中してしっかりきめてきました」とコメントした。
フリー・スケーティング:曲は、「レ・ミゼラブル」。荘厳な雰囲気で始まり、後半にはマーチのリズムも入り、クライマックスに向けて盛り上がっていく音楽。ただ、ショート・プログラムに引き続き、表現までは考えずに、1つ1つの技をていねいに集中してこなすことを目標にしていた。田村岳斗コーチがリンクサイドから「だいじょぶだよ」とやさしく声をかける。澤田亜紀選手は、すっとリンクに入っていった。
3トゥループ+2トゥループ+2トゥループはきれいにきめた。集中力が高くて、気持ちものっていると思った。迷いはなくて、やるべきことをやるだけというモチベーションができているという印象をうける。調子が上がらなくとも、全日本フィギュアスケート選手権に参加するだけの準備はしっかりとやってきているようだ。全日本フィギュアスケート選手権で滑るスケート選手としての責任は果たす、というまじめさも感じた。2アクセル+2トゥループもしっかりときめた。3サルコウ+2トゥループもきれいにきめる。
後半の、単独3トゥループと単独3サルコウで崩れそうになっていたが、ジャンプに勢いがあったことも手伝って、手を付かずに最後の最後でバランスを立て直すことに成功していた。ジャンプはここまでなんとか成功させていた。最後の2アクセルを成功させた時には、不安そうにしていた女の子がやっと安心した時のような笑顔を見せていた。スピンをこなして、最後のポーズをきめたが、ポーズをきめてから数秒たってから曲が終わった。気持ちが入っていた分、演技が早く終わってしまったのか。荒川静香さんが「難易度の高い3回転ジャンプは入っていないんですけど、ミスをしないプログラムになっています。判断はよかったと思います」とコメントする。
キス&クライでは、得点が発表された時には、呆然とした表情で見上げていた。しかし、取り乱すことなく、落ち着いた表情からは、現実を受けとめて、しっかりと前を向いて行こうという謙虚さを感じた。澤田亜紀選手は、どんな性格の人なのかは分からないが、いろいろなことがありながらも、最後まであきらめずに粘り強く目標に向かって進み続ける選手のように見える。インタビューでは、「後半のトゥループで少しがたっと来たんですけど、フリーをすべってジャンプをきめれることが今までなかったのでうれしいです」とまっすぐに答えていた。
スコアを見る限りでは、技術点では、GOEでショートでじゃっかんの加点、フリーでじゃっかんの減点があったが、ほぼ、基礎点のとおりの結果となった。ミスをする要素をあらかじめに排除しておいて、結果として組んだプログラムは1つひとつの技をていねいにきめることに集中するという、アクセル、トゥループ、サルコウの3種類のジャンプだけで構成したプログラムを滑った目的は達成したように思える。調子が上がらない状態で臨んだ全日本フィギュアスケート選手権だが、しっかりと責任は果たしたように思える。尊敬に値する。
西野友毬
ショート・プログラム:14歳の選手。2週間前のジュニアグランプリファイナルで3位に入賞したそうだ。中1週間開けての全日本フィギュアスケート選手権ということで、体調的にはきついと思う。演技の前の西野友毬選手のインタビューが放映された。「今は緊張してない」、「楽しみです」と答えていた。
オレンジとピンクの衣装で登場。インタビューの時とはうって変わって真剣な顔つきをしていた。一瞬、別人かと思ってしまったほど。ギターの情緒にあふれる曲だった。3ルッツ+2トゥループをきめた。緊張で体が硬かったようにも見えたがなんとか成功させたという感じ。ステップからの3ループをきめた。2アクセルは斜めに入って回り終えてそのまま転倒してしまった。
スピンでは、いろいろな姿勢を披露した後に、ビールマンまでもっていっていた。スピンは、速くて、うまいと思った。スパイラルは安定していた。八木沼純子さんが「ちょっと落ち着いてきましたかね」とコメントする。ストレートライン・ステップの時には体が重そうで上半身は動いていなかったが、ストレートライン・ステップの前後のスピンではきれいでよく回っていた。ジャンプでは、ショート・プログラムで3回転のルッツとループを跳んでいるし、スピンとスパイラルも得意なように見えた。ポーズの後には、体力も消耗していたようで、体が重そうだった。インタビューでは「ルッツとループがはいった時にはびっくりしちゃって、アクセルはぶっとんじゃいました」とおどけていた。
フリー・スケーティング:曲は、「眠りの森の美女」。リズムと勢いのある曲。ジュニアやそれ以下の選手たちが勢いを借りて滑るための曲のような雰囲気があった。
3ルッツ+2トゥループをきめた。3フリップでは転倒。跳ぶ前から慎重になっていてうまく踏み切れなかったという印象がある。エッジを気にしたのか。3ループでは、さらに慎重になっていたが、助走に十分に時間をとって、しっかりと成功させた。冷静さと強い心を持っていると思った。
「眠りの森の美女」がゆったりとしたメロディーに変わる。ステップは、腕を水平にして腰を左右に振りながら技術的なことを自分で確認しながら踏んでいたような印象を受けた。スピンでは、ドーナツ、レイバック、サイドレンジ、ひざを伸ばしたままでつま先を持つ姿勢など、多彩なポジションをなめらかにこなしていた。スパイラルでは、後ろ足を真っ直ぐに高くあげていた。ほかの選手のスパイラルよりも、高い位置につま先が上がっているように見えた。すばやくびしっとポジションに入ったので、凛として見えた。レベルは高いような気がする。2アクセルはきめたが、3ルッツで手をついて、3サルコウでは転倒、3トゥループ+2トゥループはきめた。スピンが終わるのと曲が終わるのがぴったりだった。練習のとおりにしっかりと滑ったということか。ジュニアの課題とシニアの課題の違いは分からないが、5種類の3回転ジャンプで構成してきた本格的なプログラムだと思った。スコアを見たが、回転不足はあったが、エッジの不正はなかった。
インタビューでは、「楽しかったんですけど、はじめ出て行く時に、足、震えて、2回目のアクセルの時にまた震えて、ころんじゃいました」、次はどうしたいですかと聞かれて「ジャンプでミスしないように、疲れないようにしたい」とコメントしていた。疲れないようにしたいというほうに力がこもっていた。荒川静香さんが長野オリンピックに出場した時に、たしか、16歳くらいだったと思うが、フリー・スケーティングを終えて、にこりともしない顔で、とにかく疲れました、体力を付けたい、最後まで滑りきった人が勝つのだなと思いました、と16歳とは思えない冷静なコメントをしていたのを思いだした。まじめくさった顔つきをしていたが、顔立ちがいいので絵になっていた。
水津瑠美
ショート・プログラム:17歳の選手。ムードのある網掛けのようになったワインレッドのドレスに、鮮やかなオレンジのスカートを合わせていた。なかなか、おしゃれで、自分をよく見せる術を心得ているという印象がある。個性を表現するということに長けている選手か。世界ジュニア選手権5位、全日本ジュニアチャンピオン。
口をきゅっと結んで気合いの入った顔をしていた。「スパニッシュ・キャラバン」という曲にのって、しっとりと滑り始める。3トゥループ+3トゥループはジャンプとジャンプの間にしっかりとためを作って成功させた。ステップからの3ループもきめる。片手ビールマンでしめるスピンを終えて、2アクセルは、一瞬おいた後に、オーバーターンをしてしまった。勢いをこらえたままだったらつんのめって転倒していたようにも思えた。スピン、ステップ、スパイラルとなかなかのレベルにあるように見えた。ポーズを終えた後には、緊張感を持続させながらも、ややほほ笑みを浮かべていた。八木沼純子さんが「最初から最後まで落ち着いてスピードにのって滑っていました」とコメントする。キス&クライでは、発表された得点に満足そうにうなずいていた。2アクセルは失敗してしまったが、ループを含む3回転を3回きめて、最終組に食い込む6位の好位置につけた。
フリー・スケーティング:曲は、「ストレンジ・パラダイス」。3トゥループ+2トゥループ+2トゥループをきめる。しかし、3ループ、3サルコウと続けて転倒してしまった。どちらも回転不足だった。八木沼純子さんが「跳びあがる時、ジャンプが斜めになってしまいます」とコメントする。スピンを終えて、つなぎの滑りでは、踊り心を感じさせる振り付けをするが、顔は真剣そのもので、ジャンプの失敗で頭がいっぱいという印象だった。表現者としてではなく、100%競技者として滑っている感じ。
2ループをきめる。3回転の予定か。水津瑠美選手は、ループを跳ぶ前に、腕を水平に伸ばして、やじろべえのようにしてタイミングをとるように見える。今日は、針の先だけでバランスを取るような不安定さがあった。2アクセルをきめて、2アクセルから2アクセルのシークエンスをきめる。アクセルは安定していた。3トゥループを成功させる。
ポーズを終えた後には、顔をしかめていた。序盤のジャンプに転倒したために、演技全体が硬くなったような印象を受ける。順位のことを考えてフリー・スケーティングに臨んでしまったのか。インタビューでは、「普段、こういうグループで滑る経験が無いのでよかったです」、「最初に失敗しても次に引きずらずに跳べるようにしたいです」と冷静にコメントしていた。よく考えたら、安藤美姫選手、浅田真央選手、中野友加里選手、村主章枝選手は、世界的なトップ選手なわけで、大舞台でそういった選手と同じ最終組に入ることはすごい経験なのかもしれないと思った。
浅田舞
ショート・プログラム:インタビューでは、「全日本では一番の目標は、表彰台に上がりたい」、「やっぱり10代最後だから今年は一番の年にしたい」とコメントしていた。澤田亜紀選手の代替出場だと思われるNHK杯では、風邪を引いてしまい、ショート・プログラムの後にフリー・スケーティングは棄権していた。アナウンサーが右足首の疲労骨折を紹介していた。コンディションが整わなくて、今シーズンは苦戦しているようだ。
藤色のドレスで登場。緊張しまくった硬い表情。曲は、「ロミオとジュリエット」だった。3サルコウ+2トゥループはていねいにきめた。3フリップもきめるが、両足着氷のように見えた。スコアでは回転不足と判定されていた。2アクセルは流れもあってきれいにきめた。スピン、スパイラル、ステップと、どれも表情が硬くて、緊張しながら不安の中で滑っているという印象で、表現力はまったくに生かせていなかった。結局、滑り始める前から、滑り終わった後にまで、ずっと硬くなっていた。コンディションの調整が思うようにできずに、練習ができないままで本番に臨むというのは、選手にとっては、辛いのだなと思った。インタビューでは、「NHK杯の時に体調を崩しちゃって時間を無駄にしてしまった」とコメントしていた。
フリー・スケーティング:曲は、「白鳥の湖」だった。滑り慣れたプログラムに変えてきたようだ。3フリップは成功させたが、両足着氷で前につんのめってしまった。スコアではダウングレードをとられていた。3ループ、3サルコウから2アクセルのシークエンスはきれいにきめた。スパイラルでは、体勢を必死に整えようとしていた。その分だけちいさく震えていたようにも見えた。やはり、コンディションが万全ではないように思える。ステップの時には、八木沼純子さんが「ちょっと動きが硬いです」とコメントする。転倒こそなかったが、以降のジャンプも安定感に欠けていた。ポーズをきめた後には、緊張した表情が無くなることはなくて、呆然としたままの顔で、観客におじぎをしていた。笑顔を絶やさない浅田舞選手のこんな状態は初めて見たような気がする。しかし、プログラムは、最後まで、しっかりと滑りきり、昨日のショート・プログラムでは、ほとんどがレベル1と判定されていたスピン、ステップ、スパイラルで、レベル2、3、4を回復していた。満身創痍の状態ながらも、あきらめずに、最後までしっかりと演技に集中してやりとげたという印象を受けた。荒川静香さんは「最初から最後まで表情が硬かったです。回転不足があったり、3回転を3回しか跳びませんでした。5種類のジャンプが飛べるといいなと思います」と、八木沼純子さんは「跳べるプログラムにしてきましたので、跳びたかったんでしょうね」と感慨深そうにコメントしていた。
高橋大輔/総合1位
ショート・プログラム:6分間練習の場面が放映された。荒川静香さんが、アナウンサーから「荒川さんは高橋選手を小さいころから見てきましたが」とふられて、「実力はありながら、ここできめなければという時に、ミスをしてきたのが、昨シーズンからそれがなくなりました」とコメントした。高橋大輔選手は、ジャンプでの安定感がついたことが拍車をかけて、すべてが良くなったという印象がある。6分間練習で3アクセルをきめた。大きな拍手。ほかの選手もジャンプを跳んだりしているが、観客は高橋大輔選手しか見ていないという雰囲気。圧倒的な存在感。
ショート・プログラム:3フリップ+3トゥループをきれいにきめた。フリップは余裕すら感じさせるレベル、トゥループは高くて回転が速かった。3アクセルを完璧にきめる。高橋大輔選手のアクセルは流れがあって、最初から最後までスムーズ。余計な動作がないように見える分だけ、まとまって、きれいに見える。3ルッツも余裕できめた。
サーキュラー・ステップは、だいぶ滑り込んでいるので慣れてきたという感じだった。その分だけ余裕が出てきて、スタミナの配分を考えながら滑る余裕が出てきたのか、表情はどちらかというと澄ました顔で何かを考えながら滑っていたように見えた。最後のストレートライン・ステップでは、サーキュラー・ステップの時とは、うって変わって、うれしそうで楽しそうな顔をして滑っていた。ここが山場で、持っている力を出し切ればいいという段階にまでうまくたどり着けて、ペースの配分をしなくなった分だけ、演技に集中できたのか。気持ちものってきて、表情もどんどんやわらかくなっていく。お客さんものりのりだった。ポーズをきめた後には、にんまりとうれしそうな顔をした。自信がみなぎっている。スケート・アメリカの時には、後半でばててしまったり、そもそもにヒップポップのステップがファンにどのように受け止められるのか、審判からはどのような判定を受けるのかなど、一つひとつに迷いながら手探りで演技をしていた感じが見えた。その分だけ、気苦労が重なって体力の消耗が激しいのかもしれない。プログラムのペース配分は、NHK杯の時にもとまどっていた。大きな課題のようだが、今回は、うまく折り合いをつけて、最後まで滑りきることができたように見えた。迷いや課題は全てをあらかじめにクリアーしておいて、完璧に滑り込んで自分のものにしたプログラムを本番ではただ演じるだけという状態で世界フィギュアスケート選手権を迎えるためには、今回は、いい演技ができたと思う。
荒川静香さんが「非常に落ち着いていました。これまでは国際大会で滑ってきて、彼にとっては国内大会は今年初めて。国内大会に独特の緊張はあったはずですが、どんな時でも実力が出せるというのは、成長のあかしです」とコメントした。本田武史さんは、う〜んとうなってから、「彼自身がもっと動いているのを見たことがあるので、どうなんでしょうね」とコメントした。今回の演技も完璧には見えたが、練習の時には、もっと動けているということか。練習のとおりに本番でやることがいかに難しいのかが想像できる。なかなか、奥が深い。インタビューでは、「明日のフリーでは4回転を2回入れる予定です」と答えていた。目標は世界フィギュアスケート選手権であることが誰にでも分かる言葉だった。
フリー・スケーティング:無精ひげを残したままで登場。「ロミオとジュリエット」のプログラムの時には、ブルーとオレンジを貴重にした全身タイツのような衣装で登場する。飾りもついていて、華やかではあるが、どこか古風な雰囲気を出している。高橋大輔選手には、あまり似合わないような気もするが、存在感があるので、そんな違和感を吹き飛ばしている。無精ひげは、「ロミオとジュリエット」には似合わないが、高橋大輔選手自身には似合っている。ぱっと見ると無精ひげをはやした高橋大輔選手には違和感を持たないが、それで、この衣装を着けて「ロミオとジュリエット」を演じるという現象をよくよく考えてみると、やはり、ミスマッチのような気がする。勝手な感想を言えば、高橋大輔選手が滑るのであれば、「ロミオとジュリエット」でなくてもほかのプログラムであってもいいような気がしてくる。表現という観点から見ると、今シーズンの高橋大輔選手の「ロミオとジュリエット」からは、いまいち、伝わってくるものがない。難度の高い技を正確にきめたり、強い心を持って最後まで滑りきったり、得点を重ねて一つでも高い順位を得ること(だけ)が目的であれば、「ロミオとジュリエット」という手段を選択しなくても、「オペラ座の怪人」という手段でも十分であるような気がする。むしろ、表面的なインパクトや直接的に訴えかけるものという意味では、「オペラ座の怪人」のほうがプログラムとしては上だと思う。もちろん、「ロミオとジュリエット」からは、「オペラ座の怪人」のように山場を(適切な表現か否かは分からないが)これ見よと言わんばかりに演出するという意図ではなくて、抑えた情感の音楽をとらえて高橋大輔選手が自分自身で内面から情熱を発散してクライマックスを演出していくという意図を、勝手な感想ではあるのだか、感じることはまちがいない。ただ、それがいいのか悪いのかは分からないが、現在の高橋大輔選手は存在感が大きすぎるので、そのようなプログラムに込められた意図に取り組まなくても、一つひとつの技をきめていくだけで、プログラムがまとまってしまう。結果として、凄い演技をしてしまう。しかし、みんな高橋大輔選手の演技は良かったとは言うが、誰も高橋大輔選手の「ロミオとジュリエット」は良かったとは言わないような気がする。安藤美姫選手の「カルメン」を見てしまった人はみんな、安藤美姫選手の「カルメン」はすばらしかったと言うと思う。世界の頂点に立ってしまった人間と、頂点を目指す過程にいる人間の違いだろうか。今の高橋大輔選手は、競技者として世界の頂点に立つことを目標にしているので、今の段階ではかまわないとは思うが、将来的には、表現者として、高橋大輔選手の「ロミオとジュリエット」は良かったと言わせるような選手になってほしい。そして、そう言わせるための「ロミオとジュリエット」を、いつか、滑ってほしいと思う。
本題に入る。4トゥループをきめる。乱れることなく、きれいにきめた。2人の審判が2.0の加点、5人は1.0の加点をつけていた。4トゥループ+2トゥループを成功させた。4回転のあとに着地でやや流れたがすぐに立て直して(3回転から変更した)2回転をつけた。一つのプログラムの中で4回転を2回成功させたのは日本人選手では本田武史さん以来のようだ。3アクセルをきめる。審判の全員から2.0の加点。次のサーキュラー・ステップは動きが速かった。スタミナの配分を気にしている様子はない。気持ちものっていてひたすらに演技に集中していたように見えた。再び、審判全員から2.0の加点。5連続ジャンプ、ストレートライン・ステップ、体力の消耗の激しそうなスピンと、後半は体力勝負になるプログラムだけに、サーキュラー・ステップでとばしたのは、戦術的な意志を持ってやったことなのか、自然とそうなってしまったのかは気になるところ。
後半に入って5連続ジャンプ。3アクセル+2トゥループはなんとか成功させた。3フリップ+3トゥループはきめたが、トゥループはダウングレードのようだ。3サルコウではバランスを崩したがジャンプ自体は成功させる。3ループ、3ループもきめた。次のコンビネーション・スピンはつらそうだった。片足で支えたまま、お尻を地面に付きそうなくらいにかがむ姿勢がある。下半身に負担がかかりそうで、一気にスタミナが落ちそうな気がする。ストレートライン・ステップは高い技術を支えにして気力で乗り切ったという感じ。最後のスピンではぐらついて崩れそうになっていた。ポーズをきめても、何秒か曲が流れ続けていた。スピンでは、回転を抑えたり、姿勢を変えたり、跳ばしたりして、手短にまとめてしまったのだろうか。ポーズに入る前から苦しそうな顔をしていたが、曲が終わって、やっとポーズを崩した時には、うれしそうな顔をしていた。ジャンプで小さなミスがいくつかあって、最後の最後でばててしまったが、4回転を2回成功させて、プログラムとしては全ての要素を無難にきめたように見えた。もともと組み込んでいる内容のレベルが高いだけに、無難にきめるだけで、高い得点が出るような気がする。高橋大輔選手のフリー・スケーティングのプログラムは、昨年の「オペラ座の怪人」の時にも感じたが、構成が体力的な限界を上回る内容になっているような気がする。高橋大輔選手は、いつも終盤ではふらふらになりながらも精神力で最後まで滑りきっている印象がある。プログラムの構成のレベルを下げて無難なところでまとめるという戦略はとらないようだ。ニコライ・モロゾフコーチの方針か。頂点を目差すには、そのくらいでないとダメなのだろうか。昨シーズンのブライアン・ジュベール選手を見ると、体力の限界を超えた領域への挑戦をひたすらに続けて、最後まで、戦い抜いたという印象がある。限界を超える挑戦を続けることが世界のトップレベルの選手には求められるのか。荒川静香さんは「今日はコンスタントに実力をだしました。頼もしいです」と、本田武史さんは「4回転を2回入れるのは未知への戦いなんです。なんとも言いようのない緊張があります」と感慨のこもった声でコメントしていた。
キス&クライでは、モロゾフコーチが、手をたたいて観客に拍手を煽っていた。得点を待つ間に、テレビではスローヴィデオが流れる。そのスローヴィデオは、場内でも流れるようだ。ストレートライン・ステップの時には、スクリーンの左上に高橋大輔選手が、右下にはリンクサイドにいるモロゾフコーチの様子が映された。モロゾフコーチは、リンクの壁から乗り出さんばかりの勢いで、リンクに向けた目を血走らせて、ぶつぶつとずっと独り言を言っていた。言葉は悪いかもしれないが、精神的な範疇においては普通の人間の領域を踏み越えてしまった人間のように見えた。フィギュアスケートにおいては、語弊はあるのかもしれないが、もしかしたら、選手は道具でしかなくて、コーチこそが芸術家なのかもしれないと思った。そんなふうにすら思えるほどの、モロゾフコーチの異様な顔つきだった。そんな映像が流れた時には、場内には異様なざわめきが起こっていた。得点が発表される前に、バックヤードの様子も映されたが、小塚崇彦選手と無良崇人選手がこれは凄いぞという顔をして小さなモニターを見つめていた。演技後のインタビューでは、高橋大輔選手は、興奮はしていたように見えたが、「ステップとスケーティングですごくばてちゃったので不満です」と冷静にコメントしていた。
そもそものプログラム構成自体は、すでに世界の頂点を狙えるものに思えるので、あとは、本番でミスを侵さずに、時には観客の期待や拍手すらも無視して、どこまでも冷静になって、最後まで滑りきることができるかの勝負になると思う。世界フィギュアスケート選手権では金メダルをとってほしい。そのためには、まずは、競技者としてのスケートに徹してほしいと思った。
ショート・プログラム/技術点:45.38、演技構成点:40.05、合計:85.43(1)
フリー・スケーティング/技術点:86.65、演技構成点:82.50、合計:169.15(1)
総合得点/254.58
小塚崇彦/総合2位
ショート・プログラム:18歳。リンクサイドにいる佐藤信夫コーチが「いいですね。はい、回れ右。がんばって」と言って背中をぽんとたたいて送り出していた。今シーズンの小塚崇彦選手はいい顔つきをしている。昨シーズンは、どこかにおぼっちゃんふうの少年という印象があったが、今シーズンは、リンクの中では、目つきをするどくして、そういったあどけなさを消そうとしている。ただ、滑りのほうは調子があがらない。昨シーズンの成功を受けて、さらなる飛躍を目差しているとは思うが、ここまでにいい演技ができていないような気がする。しかし、ワイルドな表情からは、そんな不安や迷いは見えない。心の中で不安と戦ってはいるのだろうけれども、シーズンに入る前にきめたやり方を変えない姿は、立派だと思った。曲は、「キャラバン」。赤いシャツに、黒いずぼんという今シーズンの衣装だった。
3ルッツ+2トゥループをきめる。ルッツのあとにかがみこみそうになっていたがなんとかこらえてトゥループを跳んだ。3回転の予定だったが2トゥループに変更したようだ。3アクセルは速くてきれいにきめた。着地を成功させてから笑顔が見えたような気がした。気持ちがのってきたのか。スピン、ステップとていねいにこなしていく。ストレートライン・ステップでは軽快なリズムをとらえて最後のジャンプに向けてプログラムを盛り上げているように思えた。3フリップを成功させる。ストレートラインとは違うようにも見えるステップでは、片足にのってなめらかに流れるように滑っていた。スケーティング技術は高いのか。最後のスピンも回転速度があがって、気持ちが入っていた。ポーズをきめた後には、こぶしを握ってガッツポーズを作っていた。今シーズンがここまでうまく行っていなかっただけに、うれしかったのだろう。リンクから下りてくる時も、興奮気味だった。佐藤信夫コーチは冷静そのものだった。そういったキャラクターなのか。荒川静香さんが「世界選手権の枠が3つになり、織田選手がでないということで、もしかしたら出られるという時にこの滑りができるのは成長のあかしです」とコメントしていた。
フリー・スケーティング:佐藤信夫コーチが「笑顔、忘れないようにね」と言ってぽんと背中をたたいて送り出した。今日もいい顔つきをしていた。曲は、「ビートルズ・コンチェルト」。3ルッツ+3トゥループを無難にきめる。3アクセルは軸がななめになっていたがなんとかこらえてきめた。3アクセル+2トゥループはきれいにきめる。スピン、ステップとこなして、演技は後半に入る。
3フリップ+2トゥループ+2ループはバランスが悪いながらもこらえてなんとかきめていた。3ループがぬけて1ループになってしまった。3サルコウをきめて、3ルッツをきめた。今日はジャンプが不安定という印象を受けるが、最後の最後でくずれるのをなんとかふせいでいる。結果として、両足着氷や、オーバーターンや、バランスを大きく崩すことはなかった。加点はもらいにくいが減点はなんとか回避しているように見える。ストレートライン・ステップは、足がなめらかに動いていて、気持ちが入っていた。小塚崇彦選手はスタミナという点では問題がないようだ。緊張して演技が崩れる場面は何度も見ているが、スタミナが消耗して動きが鈍くなっている姿は見かけていないような気がする。ジュニアを卒業して、シニアにも慣れて、油がのりつつある状態か。2アクセルをきめた。最後のスピンも、難易度の高そうな姿勢を繰り返していた。ポーズをきめた後には、すごい顔をしてこぶしを握っていた。今までのイメージとはまったくに違う。総合で199.98を取り5位に入賞したロシア杯はテレビ中継がなかったが、8位に終わったスケート・アメリカではフリー・スケーティングの演技を終えたあとに目をつぶって天を仰いでいた。その印象が強かったので、今回の小塚崇彦選手は別人に見える。それだけ、全日本フィギュアスケート選手権にかけていたのか。今回は、気持ちを切らさずに、失敗をしても冷静さを失わずに、とにもかくにも、最後まで粘り強く諦めずに滑りきるという強い気持ちを感じた。小塚崇彦選手の場合は、そういった精神的な部分を支えるだけの高い基礎技術とスタミナを持っているから、いっそうに、不安に打ち勝って気持ちを高めていくことができるような気がする。それにしても、昨シーズンから今シーズンのスケート・アメリカまでは、どこか、借りてきた猫のようなお行儀の良さのほうが目立っていたが、今日の演技を終えた小塚崇彦選手からは、感情むき出しという印象を受けた。好青年からの脱皮をはかっているのだろうか。さらに上へ行きたいという欲が自然とにじみ出ているような気もする。なんとも頼もしい。強い心を持って、さらに上を目差して、そして、いつか、得点だけではなくて、自分が心から表現をしたいと思えるようなプログラムと出会って、それを、本番で成功させるような選手になってほしい。荒川静香さんは「緊張してたかなと思いました。佐藤先生も笑顔で言っていましたが、緊張を感じたのかもしれません。でも、いい緊張に変えられました」とコメントしていた。
ショート・プログラム/技術点:39.80、演技構成点:32.90、合計:72.70(2)
フリー・スケーティング/技術点:78.14、演技構成点:68.50、合計:146.64(2)
総合得点/219.34
南里康晴/総合3位
ショート・プログラム:22歳。昨年の全日本フィギュアスケート選手権では3位に入賞した。曲は、「月光」ソナタ。静かなメロディーが内面の情熱を表すような構成だった。
最初の3アクセルを勢いをつけて跳んだ。かなり速かったが、ステップアウトしてしまった。気合いは相当に入っていることが分かったが、南里康晴選手は気合いを入れすぎて演技を崩してしまうことがあるので、ちょっと、心配だった。3フリップ+3トゥループは高くて速かった。でも、トゥループの後にややバランスを崩していた。荒川静香さんが、スローヴィデオの時に、「こういったちょっとの失敗が積み重なって、僅差の戦いになった時にどう影響するかですね」と心配声でコメントしていた。実力が拮抗している選手がボーダーラインに並んでいるので、細かいミスが明暗を分ける可能性があると予想しているのかもしれないと思った。3ルッツはきれいにきめる。
コンビネーション・スピンは回転速度が速かった。南里康晴選手は、ジャンプ以外の要素でも、確実に点数を稼げるようにレベルアプしているという印象を受ける。「月光」ソナタが静かに盛り上がっていく。ステップでは、「月光」ソナタの音にあわせて、情熱を発散させるような表現をしていた。表現力という意味では、昨シーズンから格段にレベルアップしていると思う。スピンをはさんで、最後のステップでは、アクションの最後に腕をもちあげるように差しだしてポーズをきめていたりして、動きの一つひとつが余韻を作りだしていた。そんな表現が、これまた、「月光」ソナタにはよく似合った。南里康晴選手の「月光」ソナタは、改めて、いいプログラムだと思った。ステップを終えて、そのままきめポーズに移行した。ポーズを終えた後には、真剣な表情のままで、舌をぺろっと出した。演技に納得できてないようだった。ジャンプでの細かなミスがあったにはあったが、技はどれもきめて、大きなミスは回避したと思う。
フリー・スケーティング:今シーズンのプログラムは昨年と同じ「カルメン」だった。昨年はこの「カルメン」で全日本フィギュアスケート選手権の3位をとった。滑走順は高橋大輔選手の次。場内は、高橋大輔選手の演技に興奮していた。南里康晴選手は、落ち着いているようには見えた。いい顔つきをしている。
3アクセルではステップアウトしてしまった。ショート・プログラムと同じように、気合いが入りすぎているように見えた。アクセルをうまく飛べなかった分だけ、次の3フリップでは余計な力がぬけたのか、きれいに成功させた。3人の審判から1.0の、3人からは2.0の加点をもらっていた。しかし、次の3ループでは転倒してしまった。最初のジャンプで力みすぎて、次のジャンプを力まずに跳んできれいにきめて、その次のジャンプは同じように力まずに跳んだはずが力なく転倒してしまったという状況に見えた。急に滑りからスピードが落ちていった。力が入りすぎてはいけない、自然に跳ばなくてはならない、でも、自然に跳んだはずが転倒してしまった、などと、頭の中で必死になって考えながら滑ってしまっているようにも見えた。
南里康晴選手の「カルメン」は前半にジャンプを5つ組み込んだ構成だった。依然として、迷いながら滑っている状態だったが、3ルッツをなんとか成功させた。3アクセル+3トゥループの最大の山場は、無難に成功させてのりきった。3サルコウもきめたが、着地の後に大きくバランスを崩していた。
サーキュラー・ステップでは、迷いながら滑っている分だけ、体に力が入らないようだった。でも、ステップを重ねていくうちに、なんとか冷静さを取り戻して、もう一度、演技に集中しようとする姿勢が感じられた。3ルッツ+2トゥループは根性できめたという感じだった。今シーズンは、演技が崩れているという印象を受けていたが、全日本フィギュアスケート選手権では、ジャンプを成功させるという強い心を感じる。それだけ、気合いが入っており、南里康晴選手にとっても引くに引けない戦いなのだろうと思う。スピンは、速度が上がらずに遅かった。どうしても体に力が入らないように見えた。しかし、2アクセル+2トゥループは成功させた。最後のストレートライン・ステップでは、迷いながら滑っていた時の表情を打ち消して、リンクにあがって最初の姿勢に入る前までのけわしい表情を取り戻していた。根性で最後まで滑りきる。スピンをきめて演技を締めた。
ポーズを崩した後には、腰に手をあてて、口で大きく深呼吸をしていた。高橋大輔選手が作りだした興奮に満ちた独特の雰囲気に飲み込まれてしまったようにも見えた。しかし、南里康晴選手なりに冷静さを必死になって取り戻して、きめるべき要所をしっかりと押さえて、最後まであきらめずに、プログラムを演じきったように見えた。本田武史さんは「1つの失敗で次のジャンプにあせりが出て、世界選手権に出たいということで、もっとあせりがでました」、「でも世界選手権では、もっとすごい雰囲気の中で滑らなければなりません。よくやりました」とコメントした。荒川静香さんは、心配そうな声で、「自分がもう少しで何かを得られることを緊張に変えてしまいました」と解説する。演技直後のインタビューでは、「大輔の後で体がガチガチだったんですよ」と興奮気味に答えていた。自分の演技を終えてこの後をどう見ますかという質問に対しては、「(世界フィギュアスケート選手権に)行きたいんですけど、みんなに失敗しろって祈るのやなんで、みんなで行けるように祈っていたいです」と真摯に答えていた。やるべきことはやったので後は結果を待つだけという気持ちを感じた。
ショート・プログラム/技術点:37.70、演技構成点:30.60、合計:68.30(4)
フリー・スケーティング/技術点:69.21、演技構成点:63.30、減点:-1.0、合計:131.51(3)
総合得点/199.81
中庭健介/総合4位
ショート・プログラム:「サラバンド」は2シーズン前のリメイクのようだ。アナウンサーがそう紹介していた。トップ選手たちは、毎年、新しいことに挑戦することを余儀なくされているようにすら思える。出場できる大会も限られているし、練習環境も難しいようなので、新しいことに取り組んでも、滑り込んで本番のプログラムの中でそれを完成させられる選手ははたして何人いるのかという疑問もわく。例えば、村主章枝選手の昨シーズンに使った、ショート・プログラムの「ボレロ」、フリー・スケーティングの「魂の歌」は、どちらも、いいプログラムだと思った。ただ、村主章枝選手が本番の演技でそのプログラムを滑りきったという印象はなかった。調子があがらなかったと言ってしまえばそれまでだが、個人的には、複数のシーズンで同じプログラムを滑ってでも、ひとつのプログラムをていねいに完成させて、完璧に自分のものにしたプログラムを本番で見せてほしいと思う。それだけにトップ選手は追いつめられているし、トップ選手が求められるレベルが高いのだろうけれど、2番手集団の選手の中には、同じプログラムで複数のシーズンを滑ったりする選手もいるような気がする。プログラムに集中して、同時に、自分のレベルを高めることに集中できるのかもしれない。そういった意味では、リメイクというのは、いい選択のような気がした。
3ルッツ+3トゥループを決める。ジャンプとジャンプの間に十分なためができていて2回目に跳んだトゥループは速くて高かった。完璧に決めたという感じ。3アクセルでは、着地の後に、オーバーターンしていた。それも、勢いが止まらずにオーバーで2連続で回転してしまったように見えた。スピンをはさんで、3フリップは余裕すらを感じさせるレベルで完璧に跳んだ。スコアを見ると「e」のマークが付いていて、基礎点5.5から1.0点減点されていた。errorの「e」で不正エッジということか。ステップ、スピンをていねいにこなす。ストレートライン・ステップは、けわしい顔つきでふんでいた。作っている顔なのかもしれないが、気迫と真剣さを感じた。腕を大きく何回も振りあげて、情熱を演じていた。スピンを終えて、演技をしめる。ジャンプでの失敗はあったが、転倒は免れて、その他の要素はていねいにすべりきったという感じだった。ポーズを終えた後には、たんたんとした顔で落ち着いていた。まだまだほんとうの勝負は始まったばかりだと感じているような印象を受けた。客席からは、大きな拍手が起こっていた。荒川静香さんが「世界選手権を狙っている選手の中では、今日、一番の気迫と情熱を感じました」と感想を述べた。
フリー・スケーティング:最終組の5番滑走。すでに高橋大輔選手と小塚崇彦選手と南里康晴選手は演技を終えている。中庭健介選手が小塚崇彦選手と南里康晴選手の結果をどこまで知っていたのかは分からないが、自分を信じて自分の演技をするだけという気持ちでいたと思う。そして、自分の演技を完璧にできれば、客観的に見ても南里康晴選手の順位を超えて3位にいけたような気がする。
リンクの中をゆっくりと回っている中庭健介選手はいい顔つきをしていた。ショート・プログラムを終えて、緊張感を持続させたまま冷静さを保っていたので、今日のフリー・スケーティングにはそうとうの意気込みで臨んでくると思っていた。こぶしを胸にあてて気持ちを高める。曲は、「ブレイブハート」。スコットランド独立のさきがけとなって散っていった英雄の生涯を映画化した物語である。アナウンサーが「19年間の競技人生をかけた4分30秒間が始まります」とコメントする。今シーズン限りでアマチュアでの競技を終える決意でいるということか。
4トゥループをきめるも、着地の後に、オーバーターンをしてしまった。3アクセルはきれいにきめた。片足が着氷してから、もう片方の足をゆっくりとおろすようなスムーズな着地に見えた。それだけ、高く上がって、空中で十分に回っているということか。ジャンプの調子は良さそうに見えた。3アクセルのあとに表情が映ったが、いい顔つきをしていた。集中力には問題ないように見える。3ルッツ+2トゥループを決めた。アナウンサーが「最初のジャンプは3アクセルの予定でしたが変更してきました」と解説する。
スピンをきめた後のつなぎのすべりでは、「ブレイブハート」のゆったりとした雰囲気に合わせて体を大きくのびやかに動かしていた。しかし、優雅さというよりは、決戦の朝に戦士が内面に炎をともしていくような情熱を感じた。心が入っている演技からは、緊張を力に変えて高い集中力を見せている中庭健介選手の決意のようなものが伝わってくる。演技が後半に入る。ステップの後に跳んだ3ルッツはオーバーターンをしてしまった。3サルコウ+2トゥループはきれいに成功させる。
「ブレイブハート」が朝もやが晴れていくような、すがすがしい曲調に変わる。依然として、中庭健介選手は集中力を保っている。両手を伸ばして上半身を背中から大きくそる表現をしていた。イーグルといわれる技が。一人で丘に登った戦士が、朝もやの中から差し込める太陽を全身に浴びてエネルギーを溜め込んでいくイメージが浮かんだ。中庭健介選手もエネルギーを吸収していくかのような顔つきをしていた。
アナウンサーが「長年に渡り、全日本男子をひっぱってきました。彼こそが全日本男子のブレイブハート」とコメントする。西岡さんというアナウンサーだったが、胸がきゅーんとなることを言ってくれる。観客のみんなが、そんな気持ちで、そして、もしかしたら南里康晴選手も同じ気持ちで、中庭健介選手が終盤の3つのジャンプをきめてくれることを願っていたのかもしれない。結果は、3トゥループで手をついてしまい、単独2アクセルを成功させる。スピンのあとには前かがみになってこぶしを振り気持ちを高めていた。単独3サルコウはきれいにきめる。結果として3つの単独ジャンプを跳んだ。どれか一つはコンビネーション・ジャンプにする予定だったのか。ストレートライン・ステップでは、入る前に、腕を大きく振り回して、「ブレイブハート」の曲から解き放たれた勇気を、体をいっぱいに使って表現していた。スピンで演技をしめた後には、ポーカーフェイスを維持したままで落ち着き払っていた。情熱の炎は、今だ、内に燃やし続けているという印象に映った。リンクから出る時は、いつものとおりに、リンクのほうを振り返って、大きく頭をさげる。中庭健介選手のそんな姿勢に場内は大きな拍手で答えていた。
キス&クライでも、依然として険しい表情を崩していなかった。両手をほほにあてた後に両腕をがっしりと組んで、深くシートに座り込んでいた。表情が時間がたつにつれて、険しくなっていく。誰をも寄せ付けない雰囲気を漂わせていた。コールが始まった。瞳が真剣さを増す。最終的な順位は、表示されるまで分からないほどの得点だった。最終順位が南里康晴選手を超えることができずに4位と発表された時には、場内には、悲鳴ともとれる静かな叫び声があちらこちらから静かに響いていた。中庭健介選手は、くちびるをかみしめて、前かがみになったままで、目を血走らせていた。礼儀正しくて、いつもカメラを意識して手を振ってくれていた中庭健介選手の面影はなかった。
最終演技者の梅谷英生選手の演技が終わった後に、その瞬間のバックヤードの様子が一瞬カメラに映された。立ち尽くす中庭健介選手を、コーチと思われる女性が力いっぱいに抱きしめていた。番組のエンドクレジットのバックでは、パイプ椅子に座って、前かがみになって、顔をタオルで隠していた中庭健介選手の様子が映った。泣いているのだと思った。
南里康晴選手と比べると、フリー・スケーティングで挑むことが(結果として)できた技の基礎点で開きが出たような気がする。3アクセルを一回しか跳ばなかったことと、コンビネーション・ジャンプを2回しか跳ばなかったことで、差が開いたような気がした。涙を流しながら「負けることがこんなにくやしいとは思いませんでした」とインタビューに答えていた。
中庭健介選手の技の(結果としての)基礎点:ショート・プログラム、38.70/フリー・スケーティング66.58
南里康晴選手の技の(結果としての)基礎点:ショート・プログラム、38.70/フリー・スケーティング71.01
ショート・プログラム/技術点:39.30、演技構成点:32.00、合計:71.30(3)
フリー・スケーティング/技術点:64.64、演技構成点:63.00、合計:127.64(4)
総合得点/198.94
無良崇人/総合5位
ショート・プログラム:16歳の選手。黒いずぼんで登場。なかなかに精かんな顔つきをしている。体形は、すこしがっちりめで、本格的にスポーツをやるための体にはまだなっていない分だけ、太めにも見える。曲は、「アート・オン・アイス」。
3ルッツ+3トゥループをきめた。次の3アクセルはきれいだった。ジャンプに自信を持っている選手か。スピンは速かったが回転数があまり多くはないポジションがあったように感じられた。規定をこなすためにスピンをしているだけという印象がある。ステップは大きく動けていた。3フリップも成功させた。最後のステップも、途中でスピンのように体を連続で何回も回転させたりして、のびのびとやっていた。ジャンプとステップが得意という印象を受ける。スピンで演技を締めた。ポーズを終えたあとは、口を開けて大きく息をしながら、呆然ともとれる表情をしていた。16歳にしては、なかなか、というか、ノーミスでそうとうの演技をしたようには思えたが、大きな舞台に立って、自分でそのことを分かっていない、というかここが全日本フィギュアスケート選手権の本番であることの実感がまだ湧いていないような顔つきだった。どこかに幼さも残していたような気がする。荒川静香さんが「実力はあるんですけど、ジャンプに安定感がありませんでした。今日は堂々としていました」とコメントする。
フリー・スケーティング:アナウンサーが、25年前に日本男子が世界フィギュアスケート選手権にシングルで3枠を持っていた時に無良崇人選手の父親が日本代表であったことを紹介した。父親の影響で幼いころからフィギュアスケートを始めたのだろうか。曲は、チャイコフスキー「ヴァイオリン協奏曲」。
3アクセル+3トゥループを完璧にきめた。スコアを見たら2.0の加点が付いて、13.5ポイントを獲得していた。男子シングルの単独の技では最高得点だった。次の3アクセルは成功させたが体勢を崩して手をついていた。3ルッツ+2トゥループは成功させる。無良崇人選手はジャンプが得意なのだろうか。最初の組み合わせでそうとうの得点を稼いだような気がした。無良崇人選手は、ジャンプを跳ぶ前に、片足のひざを曲げてぐっと重心を下げるように見える。上方向に勢いを付けるための準備動作だろうか。ダイナミックで見栄えはするのだが、スタミナの消耗が激しそうなジャンプだと思う。足が動かなくなってきた時に、ジャンプがどのようになるのだろうか。
無良崇人選手が使っていたチャイコフスキー「ヴァイオリン協奏曲」は、最初から始まってかなりの時間が経つまでカットをせずに原曲をそのまま使っていたように聞こえた。選手が滑りやすいような編集がされていない分だけ、盛り上がりというか、一つひとつの技のために曲が流れているという雰囲気はしなかったが、クラシックの曲をずたずたにされるよりは、途中までであっても原曲を尊重してそのまま使っていた姿勢には好感を持てた。無良崇人選手のチームは、音楽もあわせた表現を最終的な目標にすえて無良崇人選手に経験を積ませていくことを目差しているような環境にあるのかもしれないと思った。そうだとしたら、うれしい。最初のジャンプのパートを終えた後には、スピンとステップをこなした。「ヴァイオリン協奏曲」が前半の山場である主題に向かってゆっくりと盛り上がっていく。
2回目のジャンプのパートに入った。3サルコウはこらえてなんとかきめた。スピンをこなして、つなぎのすべりを入れて体勢を整える。しかし、つなぎの滑りは、ただ滑っているだけだった。足がどこか重そうに感じられる。3ルッツでスピンアウトしてしまった。スタミナが急激に落ちてきた。3フリップを跳ぶ。結果がどうだったかはメモをとるのを忘れていた。記憶では、転倒していたようにも思えた。スコアでは、3.0の減点で、不正エッジとの判定だった。足がふらふらで、体力的には限界に達しているように見えた。次ぎのスピンは、動かない体に鞭をうって回っているだけだった。
しかし、ここからが見ごたえがあった。重心をぐっと下げてから3ルッツを根性で成功させる。4人の審判から加点1.0をもらっていた。次のアクセルはふかしてシングルになってしまった。口を開けながら滑っている様子は、どうみても、つらそうだった。しかし、サーキュラー・ステップではよく動いていた。前のスピンを見た限りではどこにそんな体力が残っていたのだろうと思えるくらいに、真剣な表情をしながら、最後まで崩れることなくやり遂げた。最後のスピンもついてこれない体を気力で動かして最後まで回りきった。スピンが終わった時に、すでに、「ヴァイオリン協奏曲」は終わっていたが、ゆっくりと最後のきめポーズに入って、すこしもおろそかにはせずに、しっかりと、最後の最後までポーズをゆったりときめた。立派である。
中盤でスタミナが落ちてきた時には、演技が崩れる予感がしたが、無良崇人選手は最後まであきらめない心を持っていた。根性と冷静さで自分を見失わずに集中力を切らさなかった。「ヴァイオリン協奏曲」がすでに終わってしまっていても、取り乱すことなく、最後まで演じきった。演技を崩さずに最後までなし遂げることができた原因は何なのだろうと思った。ショート・プログラムが終わった時には、自分の出来栄えの良さが分かっていなかったような感じだったが、昨日の夜には、ショート・プログラムを5位で折り返すことが分かっていたはずである。6位以内に入れば、四大陸選手権に出られるという目標が見えてきたし、父親も世界フィギュアスケート選手権に出場したほどの選手だったので有益な助言をすることができたと思う。少しでも上位に行きたい、そして、さらに上の舞台に立ちたいという目標が、無良崇人選手とそのチームに強い心を持たせたのだろうか。キス&クライでは、隣に座っていた(コーチだと思われる)女性が「やることはやりました」と肩で息をする無良崇人選手にねぎらいの言葉をかけていた。無良崇人選手も満足そうな顔をしていた。無良崇人選手も、無良崇人選手のチームも、望ましいベクトルの上に乗れているように思えた。
ショート・プログラム/技術点:37.30、演技構成点:30.05、合計:67.35(5)
フリー・スケーティング/技術点:63.05、演技構成点:59.40、減点:-1.0、合計:121.45(6)
総合得点/188.80
梅谷英生/総合6位
フリー・スケーティング:最終滑走者だった。場内は一つ前に滑った中庭健介選手が南里康晴選手を超えることができずに(暫定)4位になったことにどよめいていた。異様な雰囲気の中で、リンクに立つ。曲は、「パイレーツ・オブ・カリビアン」。茶色の海賊をイメージした衣装で登場。顔は真剣そのものだが、どこか会場の空気からは超越したような落ち着きを見せていた。
最初に、3アクセル+3トゥループを完璧にきめる。3人の審判からは1.0の加点。4人からは2.0の加点をもらっていた。これで波に乗れた。スピンを交えてから、3アクセルを成功させる。3トゥループをきめて、3ルッツもきめるがステップアウトしてしまった。スコアを見るとダウングレードされていた。重厚な「パイレーツ・オブ・カリビアン」の音楽にのって、最初のジャンプのパートをやり遂げる。
ストレートライン・ステップにはいった。表情が映されたが、たんたんとしたとも思えるほどに、自分の演技に集中していた。雰囲気に飲み込まれずに、また最終滑走者という独特の順番に負けることなくして、ていねいに、「パイレーツ・オブ・カリビアン」のリズムをとらえながら表現を続けていた。3フリップをきめて、スピンに入った。依然として、ていねいな滑りを続けている。梅谷英生選手としても少しでも上位を目差しているとは思う。上位を目差すための戦い方として、他の競技者の結果や、暫定での順位や、会場の雰囲気を気にすることなく、自分の演技にだけ集中をするという戦術でフリー・スケーティングに臨んだような気がした。22歳の選手とのことだが、なかなかの経験を持っているのかもしれない。
3ループはジャンプの助走に入る前に転んでしまった。氷の状態が悪い、あるいは、バランスを崩したなど、何らかのアクシデントがあったように感じられた。しかし、スピンをはさんだあとに2アクセル+2トゥループ+2トゥループの3連続を成功させる。失敗に動揺することなくして、目の前の演技にだけ集中している姿勢を感じた。自分の戦い方を貫く強い心を持っている。サーキュラー・ステップではスピードにのれずに苦労をしていたようには見えたが、ていねいに技術を披露していたという印象を受けた。これも上位に行くための戦術かもしれない。3サルコウは着氷したが、バランスを崩してしまった。最後のスピンでは、さすがに、体力的につらそうな表情をしていたが根性で回りきったように見えた。最後まで、冷静さと強い心、そして、情熱を失わずに、クレバーに、競技を戦いきったという印象をうけた。荒川静香さんは「ジャンプの失敗はあったんですけど、そのあと、3連続に変えてきたりと、戦う姿勢を感じました。梅谷選手の成長のあかしです」とコメントしていた。ループを失敗したあとの3連続は、その場での変更であったようだ。荒川静香さんが言うとおりに、梅谷英生選手は最後まであきらめずに、戦っていたのだなと思った。
ショート・プログラム/技術点:32.44、演技構成点:25.55、合計:57.99(6)
フリー・スケーティング/技術点:63.77、演技構成点:60.60、減点:-1.0、合計:123.37(5)
総合得点/181.36
柴田嶺
ショート・プログラム:ビールマン貴公子ということでテレビ放映があった。曲は、サン・サーンスの交響詩「死の舞踏」だった。リズムもあり、重厚さと華やかさを兼ね備えたフィギュアスケート向きの曲だと思った。
2アクセルをきめる。3アクセルからの変更だったようだ。本田武史さんが「3回転から2回転への変更はいい判断だと思います」とコメントしていた。3フリップ+3トゥループでは、トゥループの後に転倒してしまった。跳ぶ前から軸がぶれているのが素人にも見て分かった。本田武史さんは「転倒の上に回転不足の判定になると思いますので大きな減点です」とコメント。スピンの後に、3ルッツをきめる。スコアでは不正エッジをとられていた。コンビネーション・スピンに入ったが、次のスピンに行く時にバランスを崩していた。2回目でビールマンまでもっていったが、どうも、しっくりいっていなかった。サーキュラー・ステップでは、手足は動いているが上半身はほとんど動いていなかった。ただ、手足を左右に動かしているだけのようにも見えた。最後のスピンは、なかなかに見ごたえがあって、スピンがうまい選手ということが分かるレベルだった。きめポーズの後には、下を向いて呆然としていた。
キス&クライでは、自分に対していらだっているとも思える表情でずっと下を向いていた。コールが始まっても顔をあげずに表示を見ていなかった。しかし、目は何かを感じとるかのように研ぎ澄ましていた。見たくはないとは言え、やはり、点数は気になるのか。耳に全神経を集中させているようにも見えた。ちり紙で顔をふく様子は、涙をぬぐっているようにも見えた。
