花と蛇2


 「花と蛇2パリ/静子」(監督:石井隆、2005年/日本、主演:杉本彩、遠藤憲一、不二子、荒井美恵子、宍戸錠)はエロい映画でした。「花と蛇2パリ/静子」のヒロインは、高名な美術評論家の後妻です。歳若く、抜群のいい女でした。美術評論家は、ヒロインをパリに派遣します。パリには、才能を持ちながらも、それを表現することができない青年がくすぶっていました。美術評論家は、青年には画家としての見込みがあるのかをヒロインに確かめさせます。しかし、それは罠でした。パリでは、ヒロインを貶める仕掛けが何重にもめぐらされていました。

 「花と蛇2パリ/静子」では、印象に残っている場面があります。パリのアトリエでは、青年の妹がモデルをしていました。妹は、アトリエで青年とヒロインが裸でむつまじくしている所を見かけます。

「お兄ちゃん、私をかいてよ」

 妹は、全裸になりました。兄の背中に回ります。ベッドの上から下にたたずむ兄を見つめます。兄に肩車をされるように、両足を、兄の首に回しました。兄に、女を押し付けました。

 「花と蛇2パリ/静子」はエロい映画ではありました。しかし、それぞれにドラマを持つ登場人物たちがストーリーの中で、エロさを演じます。アダルトヴィデオのエロさではなくて、うまく言えませんが、哀愁のあるエロさでした。それゆえに、「花と蛇2パリ/静子」の登場人物たちは、美しいと思いました。


花と蛇2 パリ静子/杉本彩を見て心に浮かんだ場面


『毛玉とり機』

 平日の夜だった。突然、押し入れの整理をしたくなった。体を乗り入れるようにして、奥まで手を伸ばした。わかのわからないものがたくさん出てきた。みんな捨てた。文庫本は200冊くらいひもで縛った。

 毛玉とり機が出てきた。洋服にあてると毛玉がとれる機械だ。網の内側で換気扇のような刃が回る仕組みだった。歯磨き粉のチューブくらいの大きさだった。プラスチックの粗末なものだった。

 E子と別れたのは、もう、何年も前だった。知的で控え目な人だった。親しくなると、「もう、だらしないんだから」と言って、私の首に手をまわして、襟のシワを伸ばしてくれた。毛玉とり機は、「これ、使いなさい」と言って、E子が買ってくれたものだった。E子は、さみしがり屋で、私が「じゃあ、そろそろ」と言って帰ろうとすると、私のシャツの裾を小さく掴んで、「帰りたくない、もっと、いっしょにいたい」と言った。会えば必ず、夜をいっしょに過ごすような関係だった。

 E子には、何度か叱られたことある。事を終えてベッドの中でいちゃいちゃしているときに、「みちくん、ほんとにスケベよね。でも、つめ、痛いよ」と言われた。叱るといっても、さりげなくつぶやくだけだった。それゆえに、翌日からは、ちゃんとつめを切るようになっていた。

 その日は、ちょっと、気持ちが変になっていた。「ねえ、ちょこっとだけ、縛ってもいい?」とE子にお願いをしてみた。前の晩に、団鬼六の官能小説を一気に読み終えたせいかもしれない。E子は嫌がったが、拝み倒すと、縛らせてくれた。縛るといってもたいしたことはなくて、E子の両腕を背中にまわして、脱ぎ捨ててあったストッキングで縛りあげただけだった。飛行機で外国に行ったときに使った目隠しをE子にあてた。E子は、とても怖がった。特に、目隠しをはずしてくれとせがんだ。

「お願い、やめて。ほんとうに嫌なの。前に話したでしょ。わたし、子どものころにああいうことあったから。ほんとうに怖いの」 

 そのときの私は、団鬼六だった。「E子は悪い子だ。悪いことしたんでしょ。悪いことしたんなら、悪いことしましたって、自分で言いなよ」などと、拉致した社長夫人をいたぶる官能小説のダメ男と同じセリフをはいていた。E子は、最後まで、「悪い子じゃない」と言い続けた。

 事が終って、いつものように、ベッドの中で、こちょこちょしていた。ストッキングも目隠しも、もう、はずしてあった。二人とも脱力していた。

「わたし、悪い子じゃないけど、身の丈にあった生活しなさいって、母親から言われ続けて育ったの。でも、実家に帰るとあれこれ言うくせに、こないだのこと電話で話したら、「それで、結局、大丈夫だったんでしょ」って何も心配してくれないの。あの人、おかしいのよ」

「あれは大変だったね。でも、お父さんは来てくれたんでしょ。お父さんは、優しい?」

「うん、パパは優しいの。でも、どうしていいかわからなかったみたい。ただ、おろおろしてた」

 そんなことを話しているうちに、いつの間にか、ねむっていた。

 朝方に目を覚ますと、E子は、あお向けの奇麗な姿勢を保ったまま、静かな寝息を立てていた。

 また、やりたくなってしまった。

 もぞもぞと、布団の中にもぐり込んだ。

「うん、みちくん、まだやるの?」

 E子の背中に両腕を回して、E子のお腹に顔をうずめた。

「うん、やる。でも、E子は、寝てていいよ」

 E子の体をなでなでしたあとに中に進んだ。そのままの姿勢でいるだけで、気持ちがよかった。E子の胸元に顔をうずめた。

 E子の背中に回した両腕に力を入れた。E子をぎゅっと抱きしめた。

 E子は、夢の中にいたようだった。

「ごめんなさい、お母さん、E子は……、悪い子……」

 私も、夢の中に誘われた。

 目を覚ますと、電気を消した部屋の中に、明かりが差し込んでいた。E子にのしかかったまま寝てしまったようだ。E子は、すでに目を覚ましていた。

「なんだ、起こしてくれてよかったのに」

 さぞかし重かったろうにと思った。

「ううん、いいの。気持ちよかったから」

 カーテンを開けると、お日様は、見上げる場所にまで上っていた。

 毛玉とり機をいじりながら、そんなことを思い出した。毛玉とり機のスイッチを入れてみた。モーターは回らなかった。毛玉とり機を裏返した。電池が入っていなかった。新しい電池を入れてみた。それでも、モーターは回らなかった。

 毛玉とり機から指を離した。毛玉とり機は、垂直に落下した。毛玉とり機の上に雑誌を置いた。雑誌の上に足を置いた。かかとに思いっきり力を入れた。毛玉とり機を踏み潰した。

 粉々になったプラスチックを引き剥がした。モーター部分から刃を取り出した。刃は、清掃局のパンフレットに書いてあったとおりに梱包した。「危険」という札を付けて、危険物の廃棄ボックスの底に、そっと置いた。

 毛玉とり機の残骸は、燃えないゴミに放り投げた。

 刃をつまみ出すときに、指先をはじいた。

 つめが伸びたままになって久しい。


花と蛇/杉本彩の感想とエッセイ

花と蛇3/小向美奈子のあらすじと感想

壇蜜−映画「私の奴隷になりなさい」のあらすじと感想


花と蛇2

花と蛇2 パリ静子/杉本彩 Amazonへ

ミニシアター通信