ANPO
秋の3連休初日18日に、都心を離れ横浜へ向かった。「日本とアメリカの関係の問い直しを日本人に迫る」(パンフレットより)ドキュメンタリー映画「ANPO」(監督:リンダ・ホーグランド/出演:アーティストら多数/2010年/日本)が、横浜市中区にあるミニシアター「シネマ・ジャック&ベティ」で、18日から公開された。期間は、劇場係員によると、公開がいつまで続くのかというスケジュールは現在のところ未定。京浜急行黄金町駅改札口辺りの込み合った区域を出ると、秋晴れの空からふりそそぐ陽光が、付近を流れる大岡川に反射してまぶしかった。
映画「ANPO」は、「六十年安保」当時東京にいたと思われるアーティストらを中心に、その発言と、絵画や映像や写真などの作品を紹介する映画であった。当時の首相のイラストが表紙になっているミニコミ誌「週刊アンポ」や、”声なき声の会”の旗が揺れる映像や、沖縄にある米軍基地に関わる写真などがスクリーンに映し出された。併せて、”ネクタイの柄さえ変えれば採用すると言われた”、”彼女は前の方にいたらしい”、”『デモは終わった、さあ、就職だ』、これで特集をやれと言われた”などという内容の発言が紹介された。
映画「ANPO」を見終わって外に出ると、チラシを片手に町を歩く人や、周辺の建物を見上げているカップルらとすれ違った。同時に、チームで巡回する警察官たちの姿がやけに目立った。ある建物の軒先に椅子が出されていた。椅子に置かれていたパンフレットを手に取った。「黄金町バザール2010」が開催中であることを知った。主催は、NPO法人黄金町エリアマネジメントセンター、初黄・日ノ出町環境浄化推進協議会。期間は、9月10日から10月11日まで。今回のテーマは「観光とアート」。「黄金町バザール2010」は「アートとまちの共存の実験として」開催されているそうだ。
「黄金町バザール2010」が開催されている黄金町の高架下付近は、かつては特殊飲食店と呼ばれた違法な小規模店舗が密集していた。2005年1月、伊勢佐木警察署に「歓楽街総合対策推進本部」が設置され、県警機動隊らの応援、協力のもと、取締りが強化された。
パンフレットを読み、あらためて辺りを見回すと、高架下に、高さが大人の背丈ほどある絵が飾られていた。絵の右下にアーティストと小学6年生たちの共同制作作品であることが記されていた。角を曲がると、横浜市立大学学生による「地域ブランドショップ&カフェ」という看板が表に出ていた。また、100ポイントでオリジナルビーチサンダルと交換できるポイントカードなども発行されているようだ。路地に入って奥まった場所へ行くと、カラフルに壁を塗られた長屋形式の一室の中に人影が見えた。その人に、アート作品を展示しているのはこの辺りの人たちなのかを聞いてみた。”そういうわけではない”という内容の言葉が返ってきた。
さらに歩いて、高架下沿いの道に戻ると、かつては特殊飲食店だったと思われる建物があり、入ってみた。立ち飲み屋のような狭いカウンターの部屋があった。靴のまま奥へ進み、さらに狭い階段を登ると、二畳や三畳の部屋がいくつもあった。「コイコイ作戦」という名前のアート作品などが展示されていた。板張りの廊下がひどくきしみ、廊下から変色しきった畳に足を乗せると、思いのほか足の裏に弾力が伝わり、同時に、辺りが静まりかえった。アーティストたちが自分から応募したのか、それとも招待されたのかはわからないが、主催者から「黄金町バザール2010」の趣旨と経緯を説明され、この建物を下見したアーティストたちの中に、なんらかのインスピレーションが起こった結果の作品ではないかと感じた。
「黄金町バザール2010」が開催されている地域を抜け、しばらく歩いた先にあった飲食店に入った。店員に、にぎわっていた当時の様子を聞いた。”どこの国の人かはわからないが、みんなスタイルがよかった”という内容のことを話してくれた。特殊飲食店の人たちも食べに来たのかを聞いてみると、そういうことはなかったらしい。”みんな出前であった。彼女たちには、外に出るひまはなかった。それでも忙しくて『さめちゃったから、もう一つ作って』などと言われた”という内容のことを言った。いつごろから街の雰囲気が変わったのかを聞いてみた。”6年前。そういう店は一軒もなくなった”という内容を答えてくれた。
黄金町には、今、「六十年」のアートと、2010年のアートがある。
(2010年9月23日)
