愛のコリーダ/松田英子のあらすじと感想


 「愛のコリーダ」という映画をご紹介します。監督:大島渚 (1976年/フランス= 日本)、主演:藤竜也、松田英子、中島葵、芹明香、阿部マリ子。

 「愛のコリーダ」は、阿部定事件を描いた映画です。時代は1936年です。東京は、冷害で全滅した東北の農村から売られてきた女の子たちで溢れかえっていました。憂国の情にかられた軍部の青年将校が、国家改造を訴えてクーデターを起こします。中国戦線はドロ沼です。不況を打開するには、新たな戦争を起こすしかありません。新聞が暗い記事ばかりに埋め尽くされていた、「愛のコリーダ」は、そんな時代の物語です。「愛のコリーダ」には複雑なストーリーはありません。旦那と女中がめぐり会います。離れられなくなります。まぐわいの果てに、この世の外へと向かいます。「愛のコリーダ」を見終わって、不思議な感じがしました。まぐわいの場面は直接的です。しかし、エロさは感じませんでした。映像には、第三者にエロさを見せる意図はないように思えました。ただもう、いとしい男に向けられた女の情念の描写に徹していると思いました。

 「愛のコリーダ」では印象に残っている場面があります。定と旅館にこもっていた旦那が、ふらりと外に出る場面がありました。旦那は、出征兵士たちとすれ違います。行進する新兵たちは、たくさんの日の丸に見送られています。旦那はうつむきます。両手を袖の下にもぐりこませます。足早に歩き去ります。旅館に戻る旦那には、定との世界が待っています。旦那は、「この体はおめえにやったよ。好きにしてくれ」とやさしく言います。定の情念は、どこまでも満たされません。定が、ひもで旦那の首を絞める場面がありました。

「締めて欲しいか」

 馬乗りになって詰め寄ります。ヒゲをはやした男前の旦那は、大の字になっています。全身の力を抜いて、されるがままにまかせています。

「欲しくないけど、おめえが好きなら、いいよ」

「締めて欲しいって、お言いよ」

「締めて欲しい」

 定は、首にひもを通します。

「きつく締めるなよ」

「こわいのか」

「こわいよ」

 浮世を捨てて定の全てを包み込む旦那は、うまく言えませんが、何とも”粋”でした。「愛のコリーダ」は、定の情念よりも、旦那の”粋”が印象的な映画でした。


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愛のコリーダ

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